“斜陽産業”の製紙業界でも明暗が。「業界2位」は巨大工場建設が裏目に
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。 花粉症シーズンが到来し、多くの人がティッシュの欠かせない時期になりました。斜陽産業とも言われる製紙業界ですが、「ネピア」や「鼻セレブ」で知られる業界トップ・王子ホールディングスの業績は好調です。 ⇒「ネピア」「鼻セレブ」で知られる王子ホールディングスの売上高
エネルギー価格高騰の逆風が吹くも黒字を堅持
王子ホールディングスの2023年4-12月の売上高は前年同期間比0.3%減の1兆2923億円、営業利益は同5.3%減563億円でした。わずかな減収、営業増益ですが、本業で稼ぐ力を表す営業利益率は4.4%。日本製紙の1.1%、大王製紙の2.2%と比較をすると高水準にあります。 紙の原料となるパルプの製造は、木材チップや古紙から繊維を取り出す工程があります。高温、高圧で煮るため、大量の燃料と電気を欠かすことができません。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰した2022年は、多くの製紙会社が赤字に転落しました。日本製紙は2023年3月期に269億円、大王製紙は214億円の営業損失をそれぞれ計上しています。 しかし、王子ホールディングスは3割の営業減益に留めました。1兆7000億円の売上高のうち、生活産業資材が半分ほどを占めています。このカテゴリの中に、身近なティッシュやオムツなどが含まれていますが、主力となっているのが段ボールと板紙です。板紙とは、箱などに使われる厚手の紙、ボール紙です。
「個人向け段ボールの需要が伸びる」予想が的中
王子ホールディングスの2023年3月期における、板紙の販売金額は2351億円。前期比309億円のプラスでした。段ボールは2141億円で、167億円増加しています。 板紙は販売数量がわずかに減少しましたが、単価が15.2%も上がったことにより、大幅な増収となりました。段ボールの販売数量は2.0%、販売単価は6.4%と、それぞれ増加しています。 段ボールはコロナ禍で需要が増加しました。しかし、その反動で2023年は低迷し始めますが、製造原価が上がるタイミングで価格転嫁を進めることができました。強気の値上げができるのは、高シェアを獲得している企業の特徴です。 段ボールの業界トップといえばレンゴー。この領域に王子ホールディングスは勝負を仕掛けました。 2018年9月に段ボール工場の建設を決定。120億円を投じて、年間1億2000万平方メートルを生産するという、国内最大級の製造拠点でした。インターネット通販で、個人向けの需要が膨らむと読んだのです。この工場は2020年に稼働を開始しますが、コロナ禍による需要増というまさかの追い風を受けることになりました。
「業界2位の日本製紙」は巨大工場建設が裏目に
苦戦しているのが、業界2位の日本製紙。2023年4-12月の売上高は前年同期間比3.0%増の8745億円、93億円の営業利益(前年同期間は227億円の営業損失)でした。 同社は、第3四半期の決算と同時に通期業績の下方修正を発表しています。2024年3月期の売上高を1兆2300万円と予想していましたが、600万円マイナスの1兆1700万円に改めました。同時に営業利益を240億円から190億円へと引き下げています。 日本製紙は2021年に釧路工場の製紙事業から撤退しました。秋田工場の一部閉鎖も検討しています。王子ホールディングスとは反対に、エネルギー価格高騰の影響を跳ね返すことができず、採算が悪化しているのです。 2007年に630億円を投じて、洋紙を生産する工場を建設しました。デジタル化が浸透しきっていなかった当時、オフィスなどで使用される印刷用紙、チラシ、カタログ、書籍などの紙需要が旺盛でした。グループ最大となる巨大な生産拠点を構え、シェアの獲得に動きます。一時は好業績をたたき出すものの、リーマンショックによる景気の冷え込み、東日本大震災での工場の被災など、逆風が吹き荒れました。それに加え、デジタル化によって印刷用紙の需要が減退します。 2022年に石巻工場にある最大の生産設備を停止。トイレットペーパーやティッシュなどの家庭紙の製造への転換を進めました。なお、日本製紙の2023年3月期の印刷用紙の生産数量は、前期と比較して1割も減少しています。
段ボールの需要は早くも減退気味だが…
生産拠点には巨額の設備投資費が必要。工場の規模も大きく、数百人の従業員が働いています。製紙会社は、消費者や企業、時代の目まぐるしい変化を簡単に受け止められるわけではありません。生産拠点拡大の決断が当時は正しいものだったとしても、二十年ほどすると需要が大きく変化していることもあります。 印刷用紙はコロナ禍を境に、急速に出荷高が減少へと転じました。 ただし、段ボールの需要は決して急増しているわけではなく、ほぼ横ばいが続いています。足元では、段ボールの原紙の在庫量が過去最高水準を記録。過剰生産気味になっているため、原紙メーカーは生産調整を行っているといいます。 王子ホールディングスの段ボール生産強化が、中期的にプラスへと働くのか。需要が一巡したこれからの真価が問われます。 <TEXT/不破聡> 【不破聡】 フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
日刊SPA!
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名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:28)
別に新しい工場を作ることにより、固定費は増加するが、工場の効率がよくなり、生産能力が上がれば一単位あたりの生産コストは下がっていく。規模のメリットが生まれてくる。
しかしながら、これを需要が落ち込むときにやってしまうと、固定費の重みで利益が吹っ飛んでしまう。
経営、特に固定資産の投資は慎重になるべきであり、経営判断として一番難しいところである。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:28)
紙パルプ業界向けの分析装置を扱う商社で以前お世話になっていました。
この業界は優しい方が多く、ずっと居たかったです。
東日本大震災の数年前までお世話になっていたのですが、日本製紙さんの石巻工場は前回の震災からやっと立ち直ったと前向きな雰囲気でした。
東日本大震災での被害は計り知れなかったものの、社員の皆さんは高台に全員避難して無事だったとのこと。それだけでも救われた感です。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:29)
印刷用紙卸に勤める知人がいるが、リーマンショックまでの印刷用紙需要は好調で、在庫する前に売り先が決まっていたとのこと。その時代に石巻工場に大型投資した日本製紙は飛ぶ鳥を落とす勢いで、王子製紙のほうが将来性を不安視されていた。15年で大きく変わる時代だよね。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:29)
元某製紙会社、現場で洋紙担当社員でした。全国の製紙工場に出向して勉強しました。平成に入った頃は洋紙が全盛期で365日マシンを停める事は無かった。当時からペーパーレス時代は来ると言われでいたがどんどん何百億もする洋紙の工場が建てられていった。その時は毎年何百億円と営業利益が出ていて若かった私でもかなりの給料を貰っていた。上層部はエリート集団であらゆる試行錯誤していると思うがここまで衰退するとは誰も考えていなかったと思う
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:30)
製紙会社は原料パルプ確保のために社有林を大規模に持っていることが多く王子製紙は日本で一番の大地主と聞いたことがあります。
ウッドショックによる原木高騰の影響をそれによりどのくらい軽減したのか興味を持って見るのも良いのかも知れません
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:31)
年々新聞や雑誌の発行部数も減り、ペーパーレス化も進んでおり、製紙事業だけでは利益が出ない時代となっている。製紙メーカーも紙の原料であるセルロースを使った新規の製品開発の方にシフトしている印象がある。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:31)
ざっくり言うと、石炭への依存度が明暗を分けた、というのもある。
紙は、木を釜で煮て繊維にして、水といっしょに抄き、乾かすことで出来上がる。繊維は、よそから持ってくる(買う)場合もある。
釜で煮る、乾かす、ときに使う燃料や、効率が影響する。
石油を使ってると誤解されてきたが、現在は、釜で煮たあとの廃液がまた燃料になる。足りない分を石炭や重油などで補う。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:32)
鳥取県の日吉津村も
王子製紙の巨大工場があり(いまだにJR貨物の専用線利用している)
が米子市との合併に反対するモチベーションとなっている。
あと巨大イオンがあり、商圏が岡山県北部も入っているから鉄壁だよね。
当然子育てに関する補助も充実。
鳥取県で唯一人口増の市町村なのも判る。
反対に隣県島根県企業城下町安来市は、日立金属の米国買収にて、人員の配置転換やら何やらで、唯一の巨大税収頂ける環境を失いつつある。
飲食・夜のお店の経営者は如実にお客様が減ったと皆いいます。
田舎は仕方ないですよね。依存しないとやっていけませんから。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:32)
紙と言うと、本やコピー紙などの情報媒体を連想するが、梱包材に目を付けるところが面白い。
今後の紙のキーワードは「使い捨て」かな。
紙は使い捨てしても再利用できるし。
先の五輪で、紙(ダンボール)で出来たベットが話題になったが、もっとすごい物が、紙で使い捨てできるかもしれない。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:33)
売上高を1兆2300万円と予想していましたが、600万円マイナスの1兆1700万円に改めました。
この間違いに気づかずに記事をアップしてる時点です大したコンサルタントではないな。東1上場企業が売上高600万円の違いで業績予想の修正しないよ
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:34)
紙を生産するのに多くの電気を必要とし水も必要とする。
脱プラのために紙を使用するのが増えているけど自然への流出を管理できれば環境負荷は双方同じような物。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:35)
私は、薄給にあえぎつつ(結局、昨年お払い箱になった会社に入社した時点から、退社時点まで、1円の昇給もなかった)、節約して貯めた自己資金で、ささやかながら、もう、株式投資を17年近く続けてきました
この間、山あり谷ありの日々でした
今年になって、東京株が吹き上がり、私が保有する銘柄も、ほとんどが含み益の状態になりました
そんな中で、いまだに、含み損を抱え、対応に苦慮している銘柄が、4銘柄あります
日本航空、全日本空輸、日産自動車、そして、王子製紙です
この記事によれば、王子製紙は製紙業界での勝ち組ということなので、買値に戻るまで、忍耐強く、王子製紙の株を保有し続けるつもりです
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:35)
2007年の工場ってのがのちに停止、転換する石巻の最新設備のことかな、600億じゃ工場は立たないよね。
2007年っていうと王子が北越製紙(洋紙メイン)への敵対的買収を試みて日本製紙などが阻止したのもそのへんでしたよね。王子はその頃すでに段ボール系大手を買収するなど段ボール系への意識を見せていましたが、もしかしたらこの事件も関係するんでしょうね、皮肉なものです。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:36)
年賀状、新聞はもはや救いようのないくらいまで需要低迷、これから更に加速するだろう
いつまでもペーパーに拘っていたら先は見えてる
ティッシュ、トイレペーパーも人口減によって減少するだろう
海外展開は順調なんだろうか?
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:37)
基本、王子は海外投資に経営資源を集中してきた。
そのため、国内紙関係でも数少ない量が稼げる生活資材(主に段ボール原紙)の加工下流の関連会社においても設備投資をしてこなかった。
レンゴー及び子会社が次々に基幹工場や新設工場に最新鋭マシンを投入するとは対象的に既存機械の改修費の稟議さえ抑えてきたくらい。
ここに来て流石に最需要地の関東では工場移設や新設をしたが既に販売力においてはレンゴーグループに太刀打ちできない。
したがって広域ユーザーの量はあるが採算性に乏しい案件でたたき売りで原紙を消費するしかなくなっている。
最も、どう考えても国内より海外が重要なのは間違いないので長期的には間違ってはいないが。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:37)
タイトルに斜陽産業とありますが、斜陽産業でない産業ってないがあるのでしょうか?
銀行・保険・サービス・製造業・旅行・コンサルどこも斜陽産業として報じられいます。
最近は半導体バブルを聞きますが、1年前は斜陽産業として報じられていましたし、斜陽産業でない産業はどこなのでしょうか?
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:38)
井川意高さんが「もし大王製紙の社長に戻ったらまず何をしますか?」の質問に「王子製紙との合併」と答えていた。
正しい判断なのかもしれませんね。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:38)
将来を見ても、人口減による紙の需要が減るのは確実!しかも、ペーパーレスと言われて需要減!明るい未来は見えない!合併、縮小で生き延びる手立てしかないと思う。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:39)
全く斜陽じゃないよ。
紙がなければ、トイレも出来ない、鼻もかめない、字も書けない、プリントアウトも出来ない。
この記事書いた人間は紙があるのが当たり前過ぎて、紙の重要さに分かっていないだけ。
名無し (金曜日, 08 3月 2024 13:40)
王子製紙と日本製紙はもともと同じ会社、GHQの財閥解体によって分社化された