参考書だと思っていた本は、 祖父母に前日買ってもらったばかりの日記帳だった。
鍵付きで革張りの、ちょっと高価なものがクラスで流行っていて、 私も例にもれず欲しくなり (今となっては、どうして欲しかったのかもわからないけど) それを買ってもらったのだ。
「あれ?」と思って中を開くと、 最初のページに「生きていることをただ感謝し、毎日を大事にせよ」 と僧侶だった祖父の達筆な言葉が書かれていた。
はっと我に返ったとき、母が血相を変えて私の部屋に来た。
机の下で丸まっている私を見て抱きかかえ、無事な姿に大泣きした。
その2時間後、祖父母が地震で亡くなったとの報せを伯父から受けた。
亡くなっていたのは布団の上ではなく、二人とも本堂の仏様の前だったそうだ。
後から聞いた話。祖父母は、受験前の私のために、 毎日朝5時半ごろから、仏様に読経をしてくれていたのだ。
あの日記帳を落としてくれたのは、 祖父母だったのだろうか。
…そうに違いないと今の私には思えてならない。
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