先生は、母から僕のことを色々聞いていたようです。
「お前、イジメられたのか?」と聞きました。
僕がうなずくと、
「俺もだ!ガッハッハッ!」と笑い飛ばしました。
「空手をやれば強くなれるから、 イジメられないぞ」
そう言われたのが今でも特に印象に残っています。
それから、僕はそこに強くなるべく通い始めたわけですが、 先生は、見かけによらず、とても優しい人でした。
怒ったところなんて、少しも見たことがありませんでした。
練習も面白く、当初の予想に反して楽しいものでした。
その空手教室には、同じくらいの子供が結構いましたが、 イジメなんてありませんでした。
当時、学校には友達がいませんでしたが、 空手教室には友達がいたので、結構救われました。
空手を始めて何ヵ月か経ったら、 だんだん、いじめっ子が怖くなくなってきました。
イジメられても走って逃げず、 無視して歩いて帰れるようになっていました。
ある日、最近リアクションの少ない僕のことが面白くないのか、 朝から、近所の同級生10人くらいに囲まれました。
最初は囲んで罵倒されてましたが、 何か気持が少し強くなっているので、 それほど応えませんでした。
やがていじめっ子の一人が、精神的に耐えられなくなったのか、 僕の足を思いっきり蹴ってきました。
この瞬間、なぜか恐怖を超えることができて、逆に 「こいつらを痛めつけてやろう」と決心しました。
というより、キレたという感じでした。
僕は、片っ端から突きと蹴りを入れていきました。
誰も向かってくる者はなく、 みんな散り散りに逃げていきました。
それでも、僕の1年間の思いは晴れず、 逃げるヤツを追いかけて捕まえ、殴りつけました。 足の速いヤツには石をぶつけました。
大変な状態になったのです。
団地内の出来事だったので、 すぐに近所の大人が出てきて僕を取り押さえました。
それでも、泣きながら暴れていたのを覚えています。
その日の夜、僕の家には同級生の親たち、 20人ほどが集まりました。
全員怪我をした同級生の親たちでした。
ひたすら母親は謝っていましたが、 親父は、同級生の親の前で僕を褒めました。
どの親もヒステリックに騒ぎ出しましたが、 親父は自分の半分ほどの年の親たちに対し、 説教を食らわせました。
その騒動は、階段から団地中に響き渡りました。
結局、親父の迫力勝ちなのか、説教に説得力があったのか、 ヒステリックな当初の勢いが治まり、 「お互いに悪かった」ということで話が落ち着きました。
それから学校ではイジメはなくなり、 少しは友達もできて平和な生活が訪れましたが、 あの10人とは立場が逆転していました。
気分がよかったので、 「また殴るぞ」などと脅したりもしました。
軽い冗談でも異常に怖がる奴らを見ると、 気分爽快になりました。
騒動の後、道場に行ったら先生が言いました。
「いじめっ子をやっつけたんだな」
続けて先生が聞きました。
「空手でそいつらやっつけて気持よかったか?」
僕がうなずくと、先生は 「でもな、もうケンカはするなよ」と言いました。
「お前はいじめられて辛かっただろ?痛かっただろ? でもここでは友達ができて、楽しかっただろ? …どっちがいい?」
僕は「友達がいて楽しい方」と答えました。
「だったらもうケンカも復讐もするなよ。 お前だったら分かるだろ? イジメられると、どんなに悲しい思いをするか。 どんなに憎まれるか。 自分と同じ思いを他人にさせたくないだろ? 友達に憎まれたくないだろ?」
なんか子供心に響くものがあって、 素直にうなずいたら、 先生は笑いながら、固くてゴツゴツした手で 優しく頭をなでてくれました。
それから僕はイジメをすぐにやめて、 かつてのいじめっ子達と友達になりました。
そのうちの一人とは今でも良い友達です。
小学校の記憶なんて、ほとんど残ってませんが、 小3の、この頃のことはなぜかよく覚えています。
コメントをお書きください