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欠場中に失踪説まで浮上 スターダム中野たむ「もうプロレスが嫌いになっちゃって」...から復帰への道【Apex product スターダム応援団】

女子プロレス大賞を受賞した中野たむ【写真:新井宏】

地元の愛知・安城市で女子プロレス大賞受賞を報告

 1月8日(月=祝)、スターダムが愛知県安城市の東祥アリーナ安城で大会を開催。安城市は新日本プロレスのオカダカズチカを輩出した街であり、スターダムの中野たむも安城市の出身だ。中野は昨年のこの時期、デビュー以来はじめての凱旋興行を開催、大成功をおさめていた。が、今年は左ヒザの負傷により欠場中で、試合をすることができなかった。が、会場には姿を現し観客の前であいさつ、昨年度の女子プロレス大賞受賞を故郷のファンに報告したのである。

 中野がケガをしたのは、昨年10・9名古屋ドルフィンズアリーナでのワールド・オブ・スターダム王座戦だった。刀羅ナツコを相手に赤いベルトⅤ3達成も、試合後には救急車で病院に運ばれた。精密検査の結果、腰の筋挫傷と左ヒザ内側靭帯損傷と診断された。

「どこでやったのかわからないんですけど、これがけっこうな激痛で、腰の右側を痛めたらしいんですよ。蓄積ではなく、その試合中にやってしまったらしいんです。腰を痛めたせいでフィニッシュのバイオレットスクリュードライバーを仕掛けたときにバランスを崩し、相手の全体重が左ヒザに乗ってしまったんですね」

 このときすでに、次期防衛戦の相手が5★STAR GP覇者の鈴季すずに決まっていた。鈴季との防衛戦は11・18エディオンアリーナ大阪。負傷してしまったそのときから、大一番に間に合わせるための治療の日々が始まったのだが……。

「装具を3週間固定して、ヒザをまったく動かさない状態にしてくださいと。その後、はずしてから1週間のリハビリでタイトルマッチにもっていこうというスケジュールでした。ただ、実際には3週間後に装具を外したときにまったく動けなくて、残りの時間で間に合わせるなんて絶対に無理だとわかったんです。そのとき、これまで張りつめていた王者としての責任感とか、やらなきゃ、頑張らなきゃという気持ちがプツリと切れちゃって……」

 水森由菜との新チームでエントリーしていたタッグリーグ戦は、当初、中野の復帰を待つ形でスタートしたが、結局はすべて不戦敗となり、赤いベルトも返上、ワールド王座は空位となった。ちょうどその頃、スターダムでは負傷欠場者が続出しており、団体至宝のベルトを巻く王者までもがケガをしてしまう衝撃的な負の連鎖。当然、彼女はそこにも責任を感じてしまう。

「自分も(欠場者に)入っちゃったんですよね。私、いままでケガが怖いと思ったことってそんなになかったんですよ。命なくなってもいいくらいの思いでプロレスやってたから。でも、もう怖いことしたくない、ケガしたくない、させたくない気持ちがけっこう強くなっちゃって……」

 そして、中野は表舞台から姿を消した。いまの時代ならSNSなどを通じて近況を報告することも可能だが、更新もほとんどなく、失踪説まで飛び交った。だいぶ経ってからロッシー小川エグゼクティブプロデューサーが会見内にて中野と連絡を取り合ったことを報告、失踪説を一蹴した。とはいえ、中野はこのとき、プロレスからの引退を考えていたという。

「(復帰に向けて)頑張らなきゃとは思うんです。ツイッター(X)で何か来てるかもしれないから見なきゃとも思うんですけど、思えば思うほど、心が追いついていかなくて涙ばかり出てくるんですね。もうプロレスが嫌いになっちゃって。映像見るのも嫌だし、SNSには悪口とか誹謗中傷まがいのものがどんどん送られてくるし……。以来、SNSもいっさい見れなくなって、テレビでプロレスのプの字が出るとすぐチャンネル変えるくらい(苦笑)。もうプロレスアレルギーになってました。これはホントにダメだと思って、小川さんにプロレスやめたいですと話したんです。そしたら小川さん、『いまは厳しいだろうけど、しばらくゆっくり休みなさい』と言ってくれたんですよね」

昨年10・9名古屋ドルフィンズアリーナでケガを負った【写真提供:スターダム】

 そして12月上旬、彼女に“吉報”が届く。東京スポーツ新聞社制定プロレス大賞の女子プロレス大賞に選ばれたのだ。昨年は4・23横浜アリーナでジュリアを破り赤いベルトを初奪取、5月には白川未奈との2冠戦を制し、白いベルト同時戴冠の快挙を成し遂げた。ワンダー王座こそMIRAIに明け渡すも、8月には未知の強豪メーガン・ベインを破り、王者としてのステージを上げていた。また、ユニット闘争においてもコズミックエンジェルズのリーダーとしてドラマチックな闘いを展開。タッグパートナーのなつぽいも欠場し、10・9名古屋を最後に試合はしていないが、トータルでの活躍を評価されての大賞受賞だったのである。

 しかしながら、本人には寝耳に水のまさかの受賞。考えてみれば、自分だけではなく、スターダム全員で取った賞だと思うことができた。そこには、れっきとした理由がある。

「(欠場中)スターダムやコズエンの仲間がいろいろ助けてくれました。(安納)サオリちゃんなんか、連絡くれるたびに『たむのいいところを三つ』言ってくれたり、(某レスラーが)海を見に連れていってくれたり、KAIRI(現カイリ・セイン)なんてWWE行ってものすごく忙しいのに、『なんでも言ってくれていいからさ』って連絡くれたり(笑)」

 また、引退したかつてのタッグパートナー星輝ありさも彼女を心配したひとりだ。

「星輝は体調不良で、王者のままフェードアウトしたんですよね。そんな彼女が、『たむちゃんの気持ちすごくわかるよ』って連絡くれて。『しんどいと思うけど、いまはなにもかも忘れていいから、納得いくようにしたらいいと思う』と話してくれたんです。そういった言葉が本当にうれしくて、いろんな人が私を引っ張り上げようとしてくれたんですよね」

 大賞受賞や仲間たちの気配りが後押しとなり、中野は12・29両国に来場する決意を固めた。公の場に姿を現すのは2か月半ぶりだ。

「(欠場のあいさつをして)怖かった。怖かったけど、みなさんがすごく温かく迎え入れてくれて、私が生きる場所ってやっぱりここだったんだ、ここにいていいんだなと思うことができました」

 第1試合からメインまで全試合を見たという中野。この大会で、彼女が保持していた赤いベルトは鈴季との王座決定戦を制した舞華が初戴冠。本来ならば、中野がベルトを守り続け、両国のメインで勝っていてもおかしくはないだろう。2カ月半ぶりに体感したプロレスに、いったい何を感じたのだろうか?

「意外と悔しいとかはなかったですね。2人ともメチャカッコよかった(笑)。どっちにも負けてほしくないって思いました。舞華とすずの2人が命を懸けて、人生を懸けて闘う姿を見て、大嫌いだったプロレスが、また好きになったんです」

東祥アリーナ安城のリングに上がった中野たむ【写真提供:スターダム】

「プロレスラーの気持ちにはまだ戻っていないと思います」

 舞華が獲得した王座には、2・4大阪にて上谷沙弥が挑戦することが決定。上谷は中野との試合で負傷も4か月の欠場を経て復帰、1・6後楽園でのランブル戦を制してライバル舞華への挑戦権を獲得した。上谷のカムバックは中野にもうれしいニュースであり、負傷欠場者が徐々に復帰している流れに彼女も乗りたいところだ。

「腰はもうほとんど悪くなくて、ほぼほぼ完治という状態ですね。ヒザの方は、日常生活は問題なく、走ったりするのも大丈夫。なので、けっこうトレーニングもしています。気持ちはけっこう前を向いていますよ!」

 そんななかで帰ってきた故郷・安城。リングであいさつをし、セミ&メインを本部席から観戦した。また、メイン後には岩谷麻優に促され再びマイクを取った。そして、「絶対にまたコスチューム姿でみんなに会えるように頑張るから待っててください。宇宙にきらめくたむロードについてこい、ビリーブ・イン・たむ!」で大会を締めた。これにより、この大会は2年連続で“中野たむ凱旋興行”となったのである。

「昨年初めて安城で試合をして、愛にあふれたすごく幸せな大会だった記憶があるんですね。それが今年は試合ができなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。実際、昨年よりも空席があって寂しい感じもしました。でも、安城のみなさんはやっぱり優しかったです。優しかったからこそ、その優しさが沁みて、安城のみなさんをもっと最高の景色に連れていきたいなという気持ちになりました」

 ただし、プロレスラー中野たむの復活にはもう少し時間が必要だ。彼女自身も、復帰に関しては冷静に考えている。

「試合ですか? おもしろかった(笑)。ただし、今回はひとりのお客さんとして見た感じで、プロレスラーの気持ちにはまだ戻っていないと思います。自分が闘っているビジョンをハッキリと想像できていない、描けていないので。見ていてすごかったし、自分もこんなことしてたんだと思うと、まだ怖いという気持ちは拭えなかったですね。戻すためにはまだ時間が必要なのか、どのパーツが足りないのか、自分の中ではまだハッキリしていない。といっても、復帰はもちろん視野に入っているし、桜が咲く前には(自分が)満開になりたい。とはいえ、何も持たずに復帰というわけにはいかないと思ってるので、何か新しいものを身に着けて戻ってきたいですね!」