その女子店員は、なんと発車寸前の新幹線に飛び乗ったのです。
入店間もない彼女の頭の中には、 「お客様に喜んでいただく」という社長の言葉が、 素直に浸透している。それだけでした。
彼女は、長い列車の中で懸命にお客様を捜し、 もうすぐ名古屋というところでやっと見つけました。
そのお客様は驚くやら感激するやらで、 何度もお辞儀をして礼をいい、 目頭を熱くしながら握手を求めて、 「君はこれからどうするの」と聞きました。
「お会いできて本当に嬉しかったです。 ちょうど名古屋ですので、京都に引き返します」 と言って彼女はホームに降り、 列車が見えなくなるまで手を振って見送ったのです。
このことを和菓子屋の社長が知ったのは、 彼女からの報告ではありませんでした。
そのお客様が感動して、ある雑誌に書いた記事を 和菓子店にも送ってくださったのです。
読んだ社長は、途中から涙で字が見えなくなりました。
創業者の“こころ”がそこにまだ生きていたからです。
頭で考えて行った親切は、 それほど深く人の心を感動させることはありません。
しかし、情に衝き動かされて我知らず取った行動は、 時として人の胸を強く打つようです。
そこには利害打算を忘れた“まごころ”があるからでしょうね。
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