「クリスマスのお忙しい時間に、故障の電話なんかして申し訳ありません。 もう修理は結構です。 もういいんです。 電話を替わったのは、一つだけ、お伝えしたいことがあったんです」
「はあ?」
と相手の人は、警戒心を強められました。
何、言うんだろな、電話を替わってまで・・・と思ったでしょうね。
僕はかまわず、こう続けました。
「僕が、そちらのお店で買ったもの、それは何だか解りますか? 僕が買ったもの、それは・・・。
サンタクロースは、子供たちの心の中にいますよね。 子供たちは、イヴの夜、サンタに会おうと夜更かしをするんです。 1時間経っても、2時間経っても現れる様子はないんです。 そして、睡魔には勝てず、とうとう寝てしまいます。
次の朝には、枕元におもちゃが置かれている。 そのおもちゃを見て、
『あー、サンタは本当にいたんだ!』
そう思って、心躍らせて遊ぶ。 その夢と子供たちの感動に、僕はお金を払ったんです。 僕がそちらで買ったもの、それはおもちゃでは無いんですよ。
その夢と感動です。
だから、クリスマスの、このおもちゃで遊べることが、 どれほど大切なことなのか、 それだけは理解していただきたいと思うんです。 また余裕がある時に、修理の方をお願いします」
そう言いました。
そして、電話を切ろうとした時です。
その人がこう言われました。
「お客様、時間をいただけますか?」
「お客様がお買いになった子供用のコンピューター。 超人気商品で、この店には在庫はございません。 でも支店を探してみれば、一つくらいあるかもしれません。 もしあれば、今日中に届けさせていただきたいと思います。 ちょっと時間をいただけますか?」
「えっ、本当ですか? 本当にあれば、子供はすごく喜びます。 お願いします」
僕は、そう言って電話を切りました。
電話を切ったあと僕は、 「頼む!あってくれよ!!」 と、期待に胸が張り裂けんばかりでした。
そして、ピンポンが鳴るのを心待ちにして、待ちました。
しかし、夜の8時になっても、 誰も来る気配はありません。
子供たちは、すっかり寝支度ができて、布団の中に入りました。
「間に合わなかったな。きっと無かったんだな。 今年のクリスマスは、ガッカリだったな。 でも、こんな時もあるよな・・・」
とあきらめていた、その時です。
9時頃でした。
「ピンポーン!」とチャイムが鳴りました。
僕は「よし、来たっ!」と、小さくガッツポーズをしながらも、 何食わぬ顔で、子供たちを部屋に残し、玄関に向かいました。
ドアを開けたら、その人がコンピューターを抱えて立っていました。
しかも、サンタクロースの服を着て・・・。
僕は驚きました。
「えっ、サンタ?!」と思わず口に出ました。
その人は言いました。
「サンタクロースです。お子さんをお呼びください」
僕は、漠然とスーツ姿の人を想像していました。
スーツ姿で、代わりのコンピューターを持ってくる、そう思っていました。
でも、僕の前に立っていたのはサンタでした。
僕は興奮して、子供たちを呼びに行きました。
「早く降りておいで」
子供たちは、何ごとかと、ドタドタ階段を下りてきました。
そして、その人の姿を見た瞬間、 「サンター!サンタだー!!」 驚きながらも、次の瞬間にはピョンピョン跳ねていました。
サンタはしゃがんで、子供たちの目線に合わせて、こう言いました。
「ごめんね、サンタのおじさん忙しくてね。 壊れたおもちゃを持ってきてしまったんだ。 ほんとにごめんね。はい、これはちゃんと動くからね。 お利口にしていたら、来年もまた来るからね」
そう言って、頭を撫でてくれました。
僕は、子供たちを部屋に戻して、その人にお礼を言いました。
「ありがとうございました。本当に子供の夢をつないでくれました。 サンタにまでなっていただいて、本当にありがとうございました」
その人はこう言いました。
「私たちが売っているものは、おもちゃではないんです。 夢と感動なんです。 忙しさにかまけて、大切なものを忘れていました。 それを教えてくれて、ありがとうございます」と。
「とんでもないです。こちらこそ、本当にありがとうございます。 こんなことをしていただけるなんて、 これから僕は、一生あなたの店からおもちゃを買います。 いい社員さんがいる会社ですね」
と僕はそう言いました。
その人は泣かれました。
僕も思わず泣いてしまいました。
その夜は、とても不思議な気分で眠れませんでした。
眠らなくてもいい、そう思いました。
「なぜ、あの人はサンタの服で来たんだろう?」
それをずーっと考えていました。
そして、行きついた言葉、それは「感動」でした。
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