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月間売上「1200万円」... 巷で話題沸騰「女性用風俗」で働く「男性セラピスト」たちの、謎に包まれた「働き方」

「女性用風俗」の「稼ぎ方のからくり」

女性用風俗、通称「女風」。

数年前から一部の女性たちの間でひそかな話題を呼んでいたが、ここに来て、ますます認知度が高まってきているとともに、そこで働くセラピストにも注目が集まりつつある。

女性用風俗店検索・セラピスト情報サイトの最大手、Kaikanに登録しているセラピストは5327人(2023年11月30日現在)。その数が多いか少ないかは判断するに悩ましいが、全国5000人超のセラピストが女性ユーザーをめぐって鎬を削っている状況にある。

「月間1200万円超の売り上げ記録を持つセラピストがいる」

そう教えてくれたのは、女性用風俗情報サイトFEMTASYの編集長を務める金田氏だった。情報交換会を兼ねてランチをしていた際に話題に上り、俄然興味をそそられた。

どうすれば月間1200万円という売り上げを叩き出せるのか、疑問だったからだ。

シャンパンや高級酒のボトルを入れることによって青天井に金を積むことのできるホストクラブとは違い、女風は1時間あたりいくらと料金が決まっている。

その相場は2時間で2万円程度。アロママッサージやSMプレイ、アダルトグッズ使用などのオプションが設定されている店もあるが、どれも1000円~3000円程度で、たとえ24時間稼働したとしても、400万円にも届かない。

いったいどんなからくりがあるのか。

もちろん、単純に業界売り上げ記録を持つセラピストというのがどんな人物なのか見てみたい気持ちもあった。どんな顔をしていて、どんな人物なのか。紹介を頼むと金田氏は快く受けてくれた。

「取材前」から伝わる日本一の「場の作り方」

業界最高売り上げ記録を持つセラピスト、千咲はる氏と会うことになったのは、紹介を受けてわずか5日間のことだった。取材場所は新宿のカラオケボックス。千咲氏が代表を務める女性用風俗『Tokyo Adolescence(東京アドレセンス)』に所属するセラピストの高槻優馬氏も同行させたいということだった。

こちらとしては、いろんなセラピストに話を聞いたほうが業界全体を見渡しやすくなるので、もちろん了承の旨を伝えた。

取材当日、わたしが取材場所のカラオケボックスについたのは待ち合わせた時間ギリギリだった。フロントについた瞬間にスマホが鳴った。LINEをひらくと千咲氏からで先に部屋に入っている旨と、部屋番号が届いていた。

取材相手が気を利かせて先に受付を済ませてくれるなんて、これまでに経験がない。慌ててエレベーターに乗り込むと、部屋へと向かった。

部屋にいたのは千咲氏だけだった。黒いトップスにデニムパンツに薄めに色の入ったメガネとカジュアルな服装だが、いかにも上質そうだ。顎くらいまで伸ばされた髪の毛は、緩やかなカールが掛かっている。

ホストのようにもみえるが、メイクをしていないせいかホストほど浮ついた夜っぽい雰囲気はない。華やかではあるけれど、男っぽさがある。

挨拶を交わした瞬間、千咲氏はわたしにドリンクメニューを手渡すと素早く立ち上がり、インターフォンへと向かった。わたしを制して「オーダー、ゆっくり決めてください」と微笑む。

完璧なエスコート……ではあるけれど、取材者としての役割をすべて先回りでされてしまっているという焦りが先に立つ。慌てて「千咲さんもお好きな飲み物をどうぞ」とフォローを入れたが「僕は、もう先にハイボールを」と茶目っ気のこもった口調で言われ、途端に場の雰囲気が緩んだ。

これが女風業界売上日本一の場の作り方なのか…。さすがだと感心していると、遅れて高槻氏が登場した。

こちらは打って変わってのワイルド系。姿勢よく着こなした黒いTシャツの胸板は厚く、両腕にはタトゥーがびっしりと入っている。どこか冷めたような一重の目元に整った口元。事前にウェブサイトで確認したHPの自己紹介欄には「ドSサイコパス」と書いてあったが、まさにそれを体現したルックスといえる。

ふたりが揃ったところで、さっそく取材をスタートさせた。

セラピストとして必要なのは「個性」と「発信力」

千咲氏が女風のセラピストとしてデビューしたのは今から2019年の秋。不動産屋からバーテンを経て、23歳で女風のセラピストへと転職したという。

きっかけはAbemaTVで、女風業界を紹介する番組を目にしたこと。「こんな業界があるんだ」と知り、やってみようと思ったからだという。

「バーテンをやっている時に少し借金があったんです。これから返済していかないといけない状況で、自分の容姿やポテンシャルを生かせず、ましてや借金も抱えている現状が歯痒かった。自分のこの根拠のない自信や考えが間違っていないことを、とにかく自分自身に証明したかった。だから自分が商品で自分の価値が計れる環境に飛び込もうと思ったんです」

千咲氏が自分の価値を証明するために選んだのが、女風のセラピストという道だった。しかし、抵抗や後ろめたさはなかったのだろうか。

「なかったです。それよりも現状を変えたいという気持ちが強かった。家族や友人、知人にバレたら困るという考えすらないほど、すでに覚悟が決まっていたんだと思います」(千咲氏)

5年のキャリアを持つ千咲氏だが、セラピストとして必要なのは「個性」と「発信力」だという。

「いま、都内に5000人くらいのセラピストがいるとして、それだけいるとやはり目立たないといけない。どれだけ容姿が優れていても、入店して3ヵ月間、お客様がゼロとか、そういうこともザラにある世界。顔が良いだけの男だったら、女の子はマッチングアプリで出会える時代です。

だから、それ以上の価値がいる。専業で成り立っているセラピストは、2~3割はいるかもしれないですが、自由にやりたいことが出来るほどの稼ぎのある人は1割くらいだと思います。なかなか現実は厳しい世界です。それとは対照的に高槻のように別の仕事と並行しながらもセラピストとしてしっかりと稼げているような人もいます」(千咲氏)

千咲氏が店の経営およびセラピストとして生計を立てている一方、高槻氏は副業としてセラピストをしている。

最近、注目を集める「女性用風俗」。そこで働く「セラピスト」たちは、いったいどのような人物で、どのように稼ぎ、どのような思いを持って働いているのか...。後編記事『男性セラピストを「推し活」する女性たち... 女性用風俗が編み出した「信じがたい戦略」』で引き続き紹介する。

男性セラピストを「推し活」する女性たち... 女性用風俗が編み出した「信じがたい戦略」

最近、注目を集める「女性用風俗」。そこで働く「セラピスト」たちは、いったいどのような人物で、どのように稼ぎ、どのような思いを持って働いているのか...。前編記事『月間売上「1200万円」... 巷で話題沸騰「女性用風俗」で働く「男性セラピスト」たちの、謎に包まれた「働き方」』に引き続き紹介する。

「遊び慣れている」顧客といかに「関係性」を築くか

セラピストの高槻氏は高校中退後、建築関係の作業員を経て、営業代行の会社に転職。そこで知り合った顧客に誘われて、雇われ社長として働くことになるが、やがて独立。

飲食店を経営するなどしていたが、ある時、親しくしている友人から女風(女性用風俗)の存在を知らされて興味を持ち、女風店の経営に乗り出す。

当初はオーナーとして関わっていたものの、店に所属しているセラピストたちの数字が上がらない状況を見て、自分もプレイヤーとして働くことを決意。2021年の8月コロナ禍の真っ最中にセラピストとしてデビュー。以後、経営者とセラピストの二足の草鞋を続けている。

「本業があるので、どうしても動けない時間とかもある。なので、僕の場合はお客様のほうに予定を合わせてもらうことが多いんです。どうしても都合が合わずに続けてお断りしちゃうこともあって、申し訳ないといつも思っているのですが……」(高槻氏)

本業があるからこその悩みだが、千咲氏もまた売れっ子ゆえ、なかなか予約が取れないという事態があるという。が、それでも顧客が離れることはないそうだ。

 

「女風には、『回遊』という遊び方もあるんです。いわゆる毎回、違うセラピストを指名するという遊び方ですが、僕のお客様には回遊をするような方はいないし、いらないです。

自分には『業界で一番売り上げた』っていう肩書きがある分、ハードルが上がっている。逆に言うと自分に自信がある方や生活レベルが高かったり、遊び慣れているお客様がスッと踏み込んで来てくださる。そのような方たちと、いかに関係性を構築していけるか、というのが僕のスタイルなんです」(千咲氏)

「いつ会えますか」と言われるSNSブランディング

だからこそ、SNSでの集客も他と比べればさほど重視していないという。

現状、女風のセラピストたちは営業ツールとしてX(旧Twitter)やInstagram、TikTokといったSNSを活用することが重要視されている。男性向け風俗に比べて、圧倒的に歴史が浅い女風ユーザーたちは、その多くがまだ風俗慣れしておらず、事前に誰を指名するかを深く吟味する傾向にもある。

これまで多くの女風ユーザーを取材してきた中で、自分からは指名せずに店側から勧められたセラピストを呼んだことがあるという女性もいたが、ごく少数派で、ほとんどが事前に店のHPだけではなく、セラピストのSNSやブログなどをチェックして「この人に会いたい」という決意のもとに予約を入れる。

しかし高槻氏はこうも指摘する。

「基本的にこの業界は『毎日バンバンXにポストしろ』って感じなんです。でも僕たちはXをほぼ動かしていません。だから自ずとユーザーからすると敷居が高い雰囲気を感じると思うんです。そうすることで、本当に自分たちに会いたいという人しか連絡をしてこないし、必然的に求められることが変わってくるんです」

Xのダイレクトメッセージ(DM)ひとつとっても然りだという。興味を持った女風ユーザーからDMが届いたからといって、必ずしもそれは予約に繋がるわけではない

DMでの返信を見て予約をしようと考えているケースもあるし、ただSNS上で相手をして欲しいだけの場合もある。後者は論外として、前者であってもやり取りした結果、予約が入らない場合は時間と労力の無駄になってしまう。

「だから自分たちはSNSを『構ってくれますか?』ではなく『いついつ、会えますか?』と言われるブランディングをしています。」

ストレスなく、長く働きやすくするために自らの価値をブランディングしていく――その最たるものが、千咲氏の仕掛けた<業界No.1 月間売り上げ1200万円>という冠なのだが、どんな方法を使ったのか。

「寄り添う姿勢」こそが「セラピストの価値」

「当時、1000万円を売り上げていたセラピストさんがいらっしゃったんです。以前自分が所属していた店の代表ですね。その記録をその人を越えたいと常々思っていて、お客様にその思いを伝え、数人の方々に1ヵ月程度枠を貸し切ってもらったり、その間も通常通りに別の予約も対応して数字を作っていきました」(千咲氏)

最近では、アイドルを始め、アニメしかりアーティストしかり、いわゆる“推し”の対象を応援するために金を遣う風潮があるが、人気稼業であるセラピストもまた推しの対象と成り得る。

顧客に推してもらって結果を出し、それを自分の価値としてアナウンスする。そうして業界No.1へと上り詰めた千咲氏。が、推しの対象といってもセラピストという職業柄、肉体接触も伴う。プロとして、多くの女性たちの体に触れてきた2人は女性たちの性についてどう考えているのか。

「男性の場合、多くはフィニッシュしたら、もうそこで終わりじゃないですか。『ありがとう、またね』って。だけど女性の場合はそうはならない。さらに精神的な満足度を欲したりすると思うんです。そういう部分で男女は全く違う。

女風は風俗ですが、最初からホテルに直行して性感だけをするのではなく、数回外で食事やデートを重ねて、関係性ができてからホテルに行くお客様も多いですし。女性は快感を得るためには、心の繋がりが大切ってことを分かっているんです。

もちろん初めてのドキドキ感のまま、性感をという方もいます。いきなり体を触られるよりは、関係性ができてからの方が良いですから。必要とされる限りはセラピストを続けていこうと思います」(高槻氏)

「正解がないからこそ日々の変化やその時々の心情などを汲み取って気に掛けることが大事です。自分も体よりも心の方が重要だと思います。たとえば褒め方ひとつにしたってそう。かわいいね、綺麗だねもいいけど、自分に会いに来てくれるまでの一歩踏み出した勇気や想い、当日までに準備してくれたネイルやエステや美容院、その過程全てを感じ取って伝える。何よりも一番の理解者でいたいですね」(千咲氏)

恥じらいや、不慣れさによって、多くの女性はまだ自らの望みや、求めていることを言葉に出来ない状況にある。そこに寄り添う姿勢こそが、二人の“価値”を確立している。

「どう遊べばいいのか」「セラピストとどういう関係を築けばいいのか」それらを模索するユーザーにとって、はっきりと自分のスタイルを押し出してくれるセラピストの存在価値は大きい。