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シャブは止められないのか!? 「組長の娘」が証言する常用者の実態 【Apex product 世直し桃太郎】

シャブ常習者の実態とは――「サウナ入って血管出しても針が入らんとき、それでもクスリ入れたい。どないするかいうとな――」 (※写真はイメージ)(他の写真を見る

覚せい剤】最後は“穴”から摂取するしかない――

 悪いとわかっていながら、薬物を再び使用する人が後を絶たないのはなぜだろうか。

 気鋭の犯罪社会学者、廣末登氏の近著『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』はシャブ常習者の悲哀を生々しく綴っている。同書は、中川茂代さん(仮名)という関西のヤクザの家に育った女性の人生を聞き取りしたドキュメント。

18歳で覚せい剤

 主人公の中川さんは、十代で覚せい剤を使用する。

「段々と深みにはまっていったんは18歳くらいの時期からやな。何の深みかいうたら、薬物やねん。シャブ打ったり(この頃は、まだまだタマポンやで。ツネポンちゃうから)、大麻やったりしよってん。まあ、周りがやりよるから、初めは軽い気持ちからや。せやかて、一度味覚えたら、猫にマタタビやったな。抜けられやせん」

「ツネポン」とは覚せい剤の常習者を指し、「タマポン」は覚せい剤をたまに用いる者のことを指すアウトロー用語だそうだ。

最後は“穴”から―― 常用者の末路

 しかし、そんな中川さんも、次第に覚せい剤の深みにはまり、覚せい剤営利目的有償譲渡・使用で逮捕され、4年半を刑務所で過ごすことに。初めは興味本位で始めた覚せい剤が、彼女の人生から、夫や子ども、社会的信用まで、何もかも全てを奪うこととなった。

 覚せい剤常習者となった当時の模様を、中川さんは次のように回想する。

「シャブ屋してるから、カネには困らんやってんな。当時は、1g(ワンジー)で7万円位になってたしな。しゃあかて、常にビクビクしとったな。(略)

 誰見てもポリに見えんねん。その頃は、もうドロドロや。ポン中(覚せい剤中毒者)しか分からんことやけどな、この時期、うちは血管が潰れてしもうて針が入らんようになってたんや。腕だけやなく、脚の血管からも入れたもんや。

 どうしようもない時は、ウオーリー(仮名)いう専属の女の針師(覚せい剤の注射を補助することで報酬を得る者)を呼んで入れてもらいよったんやが、サウナ入って血管出しても針が入らんときあんねん。もう血みどろになるんやがな、それでもクスリ入れたいねん。

 どないするかいうとな、注射器に逆流した血みどろの液を冷凍して備蓄しておくんや。で、注射器の針をバーナーで炙って、先を丸くしてから、解凍したクスリを、ケツの穴から注入するしか手がないんや。ここまで来たら、シャブ中もかなりの筋金入りや」

人生やり直せるのやったら、やり直したい―

 刑務所を出所すると、彼女を頼ってかつての刑務所仲間が次々に訪ねてくる。しかし一度覚せい剤で服役した者は、なかなか更生できないようだ。

 その理由を中川さんはこう分析している。

「女子の大学(刑務所)はシャブ関係が最も多いな(こいつらは、あまり反省の色がないんが特徴や。パクられたんは運がなかったんや、まあ、他人には迷惑かけてへんからな……そうした言い訳かまして、虫わかしてるん[再び覚せい剤を使用したいという思いを募らせている人]が多い)」

 つまり、はっきりした「被害者」が存在していない分、罪の意識が薄いというのだ。しかし、実際には当然のことながら家族や周囲には多大な迷惑をかけている。

 肉親や近隣社会に助けられ更生した中川さんは、再び薬物に手を出さないと誓った。そして、自らの経験を生かし、覚せい剤で身を持ち崩した人の更生を助けようと頑張っている。だが、そうした努力も空しく、仮釈放中に再び覚せい剤に手を出し、刑務所に引き戻されてゆく者が多いという。

「なしてうちの周りには、こんな人間ばかりなん……嘆きが悲しみに、怒りが虚しさに変わってゆく。考えれば、やはりうちのような人間に寄ってくるのは、うちが悪いからやないか、これぞ、『類は友を呼ぶ』いうもんやないか。自分の過去の愚行の数々が骨身にしみた」

「やっぱ、みんなちゃんとしたいねん。ちゃんと生きていきたいねん。ホンマは。根本は、せやねん。もう、もっかい(もう一回)人生やり直せるのやったら、もっかい頑張ってやり直そう、みんな、そう思うてる。絶対に……でも、やっぱり出来へんねん」

 覚せい剤で全てを失った経験を持ち、覚せい剤中毒者などの更生に寄り添い、伴走支援する中川さんだけに、その言葉は重い。

女子は増加傾向

『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』の著書である廣末登氏は、次のように警鐘を鳴らす。

「厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課が、平成27年11月に発表した薬物事犯の報告書によると、覚せい剤使用者自体は減少傾向にあります。しかし、再犯者は平成22年から26年まで、おおよそ56%で推移しており、覚せい剤の依存性の高さを示しています。

 さらに、平成25年版の犯罪白書を見ると、平成24年の女子の特別法犯の送致人員のなかでは、覚せい剤取締法違反の割合が22.1%と最も高くなっています。女子の覚せい剤取締法違反による入所受刑者数も、平成5年以降右肩上がりになっている。これらの多くは再犯者と思われます。彼女たちが再び覚せい剤に手を染めたのはなぜなのか、明確な理由は分かりませんが、一度刑務所に収容された人に対し、セカンドチャンスを与えない硬直した世相も反映しているのではないかと思います。だから「……でも、やっぱり出来へんねん」となるわけですね。

 

 私の研究は、暴力団を離脱した方の社会復帰についてですが、日本では、一度、そうした負の経験をした方をなかなか受け入れてくれません。いわゆる社会的排除が生じている。しかし、そうすると極道の道からも外れた、新たな「悪い人たち」が生まれるだけなのです。覚せい剤は元手が少なく、儲けが大きい。狙われるのは社会的弱者である女性や子どもたちなのです」

 罪を犯した以上、社会的制裁も含めて罰を受けるのは当然だろう。しかし、「やり直したい」という気持ちを維持させることで、更生をすすめ、再犯を減らすためにはどうすべきか、「社会全体で真剣に考える時期が来ている」と廣末氏は語っている。

デイリー新潮編集部

2016年12月6日掲載

【裏社会の業界用語】「組長の娘」が教える「業界人」度判別テスト

「そんな珍しいもんちゃうで」少し寂しげに笑いながら、女は口を開いた――。生家は関西で戦前から続く博徒(ヤクザ)の組織 (※写真はイメージ)(他の写真を見る

アウトローたちの業界用語とは?

 どの業界にも専門用語や隠語といったものが存在します。テレビ業界や出版業界などのそれは番組や記事で使われることも多いので、一般にもよく知られていることが多いようです。「ひな段」なんて言葉も、ほんの数年前まではバラエティ番組での業界用語の類だったはずですが、今では普通に使われています。

 一方であまり知られていないのは「裏の世界」の言葉でしょう。警察モノのドラマや小説を通じて有名になったものもあるとはいえ、「ホンモノ」の人たちの言葉を耳にする機会は多くありません。

『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』は、犯罪社会学者の廣末登さんが、関西の博徒の家に生まれた女性から、その半生を聞き取ったノンフィクション。

 喧嘩と薬物に明け暮れ、覚醒剤で逮捕され……といった波乱万丈の人生に加えて、「主人公」である中川茂代さんの用いる独特の「業界用語」も読みどころになっています。

 以下に、同書に登場する「業界用語」を掲載してみましょう。

 正しい意味はあとでご紹介するので、まずはどういう意味かお考えください。

①タマポン (用例:「この頃は、タマポンやからまだマシやった」)
②ツネポン (用例:「ツネポンにまでなると、ちょっと厄介やで」)
③キップ  (用例:「その男、キップ回っていたよ」)
④チンコロ (用例:「あの野郎、チンコロしやがって」)
⑤針師   (用例:「自分ではキツいから針師を呼んだ」)
⑥カチカチ (用例:「いくら怨みがあっても、カチカチはやり過ぎだ」)
⑦アカ落ち (用例:「結局逃げ切れずにアカ落ちしました」)
⑧ミテ肛門 (用例:「ミテ肛門ほどの屈辱はない」)
⑨大学   (用例:「今度こそ大学入りは間違いないなあ」)
⑩シケ張り (用例:「着替える間、シケ張りしておいて」)

知らなくても問題なし!

「④はわかったけど、あとは??」という方が多いかもしれませんね。

 それでは正解です。

①タマポン = たまに覚醒剤を打つこと
②ツネポン = 覚醒剤の常習者のこと
③キップ  = 指名手配
④チンコロ = 密告
⑤針師   = 覚醒剤などの中毒者を補助して注射を打ってやり、報酬を得る者
⑥カチカチ = 放火
⑦アカ落ち = 刑の確定により、刑務所に入ること(昔の女囚は下獄したら赤い囚人服を着せられることからきたとされる)
⑧ミテ肛門 = 刑務所で行われる肛門検査
⑨大学   = 刑務所
⑩シケ張り = 見張り

 

 正解が0~2なら「アウトロー度ゼロ。立派な一般人」、3~5なら「周囲が恐れる街の不良クラス」、6~9なら「警察がマークする“本職”クラス」、10なら「どこから見ても組長クラス」といったところでしょうか(もちろん、適当です)。

 もちろん、正解数が少なくてもまったく気にする必要はありません。

 捜査関係者や更生施設関係者でもない限りは、むしろ少ない方が、まっとうだとも言えます。

 念のために補足しておけば、中川さんは罪を償った今、カタギとして働きながら、同じような境遇の人たちの更生にも尽力なさっています。

女子刑務所の「同性愛」「イジメ」「グルメ」事情 ――「組長の娘」の告白

「そらな、男でも女でも、動物やからな、性欲はある。トイレのブラシが恋人やった女もおった」(※写真はイメージ)(他の写真を見る

女囚たちの「大学」生活

 アメリカのB級映画や日本の成人映画で根強い人気を誇っているジャンルの1つが「女囚」モノだ。急に投獄されたヒロイン(もちろん美人)が、刑務所内でのイジメなど様々な試練に立ち向かう、というもので、そこに必ずお色気要素が散りばめられているのが定番である。

 実際の女子刑務所はどのようなものか。

 気鋭の犯罪社会学者、廣末登氏の近著『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』には、当事者の貴重な証言が掲載されている。同書は、中川茂代さん(仮名)という女性の人生を聞き取りしたドキュメント。

 関西のヤクザの娘として生まれた中川さんは、覚醒剤譲渡・使用の罪で収監された経験を持つ。

 以下、同書から引用しながら女子刑務所内の「食事」「イジメ」「同性愛」事情について見てみよう。なお、文中に出てくる「大学」とは「刑務所」のこと、「先生」は「刑務官」のことである。

文中に出てくる「大学」とは「刑務所」のこと、「先生」は「刑務官」のことである(※写真はイメージ)(他の写真を見る

ヨーグルト+麦飯

(1)刑務所グルメ

 ご飯は正月以外は麦飯。おかずも決してうまいものではなく「一口で言うとエサ」というレベルだったという。

 ただし、そんな環境でも彼女たちは、女性らしく知恵を絞って、「デザート」を自作していた。

 たとえば、「アンコパン」。ぜんざいとパンの食事が出ると、ぜんざいの小豆をスプーンで丹念に潰す。この即席アンコをコッペパンに塗り、さらにマーガリンをかけると「絶品やで」とのこと。

 また「即席リゾット」は、朝食に出たヨーグルト(ヤクルトのジョアなど)を麦飯の上から掛けて、仕上げにきな粉をまぶしたもの。

 あまり美味そうにも思えないのだが、中川さんは「珍味やで」と語っている。

 他にも「お茶にきな粉ぶちこんで」まぜたものを「ココア」として飲んでいたという。

(2)イジメ

「大学」の中には、イジメのピラミッドが出来ていて、弱い軍団が、より弱い者をイジメることになっていた。興味深いのは、イジメの理由の一つが「不潔さ」だという点だろう。

「女やからな、イジメも細かいで。汚いことすんの、イジメの対象やな。
 たとえば、コップの口を持つ奴おったら、
『誰がそこ持つの! あんた常識ないわ』言うてな(おいおい、常識ある人間やったら、大学に来てへんやろ)。
 トイレ行って手を洗わん子もやられるわ。『マジ汚(きった)なー、あんた手洗ったん』いうてな」(同書より)
 
 閉鎖された空間だけに、他人の不潔さは余計に気になるのかもしれない。

 こうしたイジメの対象となった女性は、雑居房で暴れて懲罰を受けることも多いという。

(3)同性愛

「大学では、男役をトイチ、女役をハイチ言うんや。こいつらは、トイレの中でキスしたり、布団(ふとん)の中で『ドウキン』いうて、乳繰り合うわけや。
 もちろん、うちも誘われたわ。
 オババから
『おい、班長! ワシの女になれや』
 言われたりな。
 もちろん、
『うち、そんなんやないんやで』
 言うて、彼女か彼か知らんけど、恋心傷付けんように、丁重にお断りしたがな。
 そらな、男でも女でも、動物やからな、性欲はある。
 トイレのブラシが恋人やった女もおった」

 中川さんのしゃべりが軽妙なため、同書で描かれる「大学」生活は、思ったよりも深刻なものではない。しかし、もちろん、実際には決して楽しいものでもないし、他人に勧められるものではない。中川さんも、「入学」を深く反省している。

 そして、こうした経験をもとに、彼女は現在、カタギとして働きながら、罪を犯した人の更生のためにも尽力をしているのだ。

デイリー新潮編集部

2016年11月15日掲載

喧嘩、シャブ、刑務所、そして……。
昭和ヤクザの香り漂う河内弁で語られる濃厚な人生。

「そんな珍しいもんちゃうで」少し寂しげに笑いながら、女は口を開いた――。
生家は由緒正しい関西の博徒(ヤクザ)。少女時代は喧嘩(ゴロ)と薬物(クスリ)に明け暮れた。
一度は幸せな家庭を築くが、浮気がきっかけで再び覚醒剤(シャブ)に手を出し逮捕される。
四年半の刑務所暮らし、そして出所後に見つけた自らの社会的役割とは。
昭和ヤクザの香り漂う河内弁で語られる濃厚な人生。


まえがき

本書の成り立ち

I 組長の娘―中川茂代の人生
家庭環境
学園時代
シャブ入門編
結婚
不倫
覚せい剤営利目的有償譲渡・使用で下手打ったこと
拘置所から大学へ
下獄(アカ落ち)
刑務所工場
刑務所の一日
刑務所グルメ
刑務所の階級
刑務所の規則
刑務所のイジメと恋愛事情
「引き込み」が決まった日
仮釈放までのカウントダウン
希望寮での生活
大学よさようなら、シャバの皆さん、こんにちは
帰ってきたで
不幸な出来事1
不幸な出来事2
最近の活動
茂代が語る母――昭和最後の女侠客
母のエピソード1
母のエピソード2
現在のシノギ
中川茂代の手記から
非行サブカルチャー用語
刑務所集会(基本的には水曜日に開かれる)時に自弁喫食できる甘味等メニュー

II 中川茂代のテレビ番組から
(テレビ西日本・TNC報道ドキュメント)
記者魂【暴力団「離脱」の現実~元組員の社会復帰支援~】
平成二十六年十一月三十日放送

III 著者による解説
1 本書執筆を推進した「心根」の存在
2 本書の意義
3 筆者の関心事について
4 近隣地域の組織化によるインフォーマルな社会復帰支援
【補足】本書における調査手続きなど

解題(矢島正見)

参考引用文献

リアルな昭和ヤクザの「証言者」 宮崎学