· 

勾留中男性の手足をベルト手錠などで144時間拘束、その後死亡…父親「警察に殺されたようなものだ」【Apex product 世直し桃太郎】

 愛知県警岡崎署で勾留されていた男性(当時43歳)が死亡した問題で、県警は1日、過去最多となる計27人の処分に踏み切った。県警の捜査や調査では、男性に対する暴行や公文書の虚偽記載に加え、多岐にわたる不適切行為も明らかになった。

絶食状態の男性を漫然と放置

記者会見で謝罪する愛知県警の平松伸二・警務部長
(1日午後、名古屋市中区で)=青木瞭撮影

 「亡くなった男性、ご遺族、県民の皆様に深くおわびする」。署員らの書類送検や処分を発表する1日の記者会見で、調査の責任者を務めた県警の平松伸二警務部長は頭を下げた。

 発表によると、男性は昨年11月に公務執行妨害容疑で逮捕され、死亡する同12月4日まで同署留置場で勾留された。男性は死亡直前、食事や水分をとろうとせず、絶食状態だったという。

 留置場担当は交代制だが、男性の状況を引き継いでおり、捜査幹部は「体調の異変があれば、すぐに医師の診察を受けさせる注意義務があった」と指摘する。しかし、現場の責任者だった留置主任官の警部(46)ら3人は漫然と放置し、男性を死亡させた疑いがある。

県警幹部「人権を尊重した処遇でなかった」

 県警の調査では、ベルト手錠などで男性の手足を計144時間もの長時間拘束したほか、署長が内規で定められた留置場の巡視を怠ったり、絶食時にも医師による診療を受けさせなかったりするなど、数々の不適切行為が明らかになった。

 男性は勾留当初に30時間拘束され、その後一時解除されたが、それからさらに114時間も拘束された。「長時間拘束と死亡に因果関係は認められない」(捜査関係者)とされるが、県警幹部は「人権を尊重した処遇でなかった」と指摘する。

 再発防止に向け、警察庁は1日に出した通達で、ベルト手錠による拘束は3時間を限度とする目安を明示。県警も拘束が2時間を超えると署と本部のパソコンで警告が表示される仕組みを導入した。

「入院や投薬をしてほしい」と署側に懇願したが…

自宅にある男性の遺骨に手を合わせる父親。署員らの書類送検を受け、
「息子は警察に殺されたようなものだ」と話した

 男性の父親(72)は1日、県警から処分などの説明を受けた後、報道陣の取材に応じ、「警察組織の責任は重い。全然納得できない」と憤った。

 父親によると、男性は人間関係を築くのが苦手で様々な悩みを抱えていたが、それでも木工所で働き、自立しようと奮闘していた。他方、統合失調症が原因で発作的に大声を出したり暴れたりすることもあり、意思疎通が難しくなり、医師の診察や投薬が必要だったという。

 昨年11月に男性が勾留された後、同署員から「暴れて食事も取らない」と連絡があった。父親は「入院や投薬をしてほしい」と署側に懇願したというが、1日に公表された調査結果では男性に薬を飲ませていないことが明らかになっている。

 「警察に殺されたようなものだ。もう息子は帰ってこない」。父親は悔しそうにつぶやいた。

 県警は1日、島崎浩志・岡崎署長の依願退職などに伴う人事異動を発表した。警視だった同署の小野田弘樹副署長と村越修警務課長の2人は、警部に降格した。