プロサッカー界を目指す生徒が集まる私立高校で、肝心要のサッカー部員たちが「大量転校」してニュースになっている。新聞やスポーツ紙は異例の事態と報じるが、その裏には、かつて問題を起こして警告を受けた監督の存在があった。
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【写真を見る】パワハラ疑惑のある上船前監督 66人が転校するハメに
秋に行われる全国高校サッカー選手権大会の予選。夢の晴れ舞台である来年1月の決勝戦に向けた戦いが各地で始まろうとする矢先、ある出場校で大量の転校劇が起きた。舞台は兵庫県相生市に本校を構える広域通信制の相生学院高校。
同校サッカー部は「プロサッカー選手の養成」を活動方針に掲げ、淡路島を拠点に全寮制で活動する。スポーツ紙デスクによれば、
「現在J1リーグ首位のヴィッセル神戸に所属する日高光揮選手(20)を育てた新進の注目校で、今年夏のインターハイでは県予選で準優勝。10月に始まった全国高校サッカーの兵庫県予選でも、優勝候補の一角に挙げられていた。しかし、11月3日の準々決勝で敗退。予想外の結果でした」
「大量転校」の引き金となった張本人
敗退から1週間、毎日新聞(11月10日付)に目を引く記事が。それによると、同校サッカー部員104人のうち66人が転校したか、あるいは転校手続き中で、サッカー部の上船(うえふね)利徳前監督(31)の「今後もう少し増えると思う」という談話を載せている。
だが、この妙に客観的な見解を口にする上船前監督こそが「大量転校」の引き金となった張本人に他ならない。部員らの転校先は淡路島にある通信制のAIE国際高校とされるが、当の上船氏が3年来務めた相生学院からそこへすでに移っているのだ。
栄養不足で10キロ近く痩せた生徒も
実は、上船氏を巡る騒動は今回が初めてではない。
鹿児島県の神村学園が淡路島でプロサッカー選手の育成を行っていた際、総監督を務めていた上船氏は、生徒と保護者から損害賠償を求める訴訟を起こされているのである。
20年1月、この件を報じた本誌(「週刊新潮」)記事で、保護者らは口々に語った。上船総監督は、学校環境は良好で、充実した食事を提供し、勉強もマンツーマンで教えると請け合った。ところが実際は、生徒に“勉強はしなくていい”と言い放ち、満足な食事を与えず、みな栄養不足で体重が減り、最大10キロ近く痩せた子もいた。あれこれ改善を求めたが、スタッフは取り合わず、神村学園と上船氏を提訴するに至ったのだと。
生焼けのグリルチキン、週4回のカレー
裁判まで起こされるとは指導者としてレッドカードをもらったに等しいが、
「こちらに入学する前に、もちろんその記事は読んでいたのですけれど……」
と苦渋の表情で語るのは、相生学院高校サッカー部員の保護者だ。
「上船氏は“週刊誌の記事なんて全部ウソだから。本田圭佑と今でもLINEしてる仲なんだから、本当なわけないでしょ”と言い、何日か前にやり取りしたという本田さんとのLINEを見せてくる。それで、つい信じてしまいました」
けれど、相生学院に移っても、実態は神村学園時代と同じ。勉強のサポートはほとんどなく、食事もずさん。生焼けのグリルチキンが供されたことも一再ならず。昼食は週4回カレーという時期が1カ月続いたことも。
「はなから食事には期待できなかったので、子どもにはカップラーメンなど簡単に作れるものを食べるように言っていました。ただ、コロナ禍の最中に熱を出しても病院に連れて行ってくれなかった時は、あまりにどうかと思いましたね」(保護者)
部員の飲酒を報告したキャプテンを叱責
それでもチームの大会成績は良好で、親も生徒も我慢していた。それが限界に達したのは今年9月だ。
「サッカー部員4名が飲酒し、そのことをインスタグラムに投稿したのです。見つけたキャプテンがさすがにまずいと思い、保護者と学校、上船氏に報告をしたのですが……」(同)
あろうことか上船氏はこの生徒をキャプテンから外し、残暑厳しい炎天下の路上に1時間も立たせ、脇に止めた車の中から「親に言うとか意味わからん」「親に頼らず自分たちで解決できないのか」などと叱責した。
“裏切り者を試合に出させるな”
「保護者数人で学院の森和明理事長(72)に直談判に行ったところ、理事長は上船の行動をパワハラと認定し、監督職からの解任も決断してくださった。監督に不信感を抱く生徒十数人を兵庫県加古川市内にあるキャンパスに避難させ、彼らを選手権に出場させるという約束も取り付けることができました」(保護者)
これで一件落着かと思えばさにあらず。10月16日に監督を解任した翌日、上船氏とその右腕と目されるコーチのほか、上船氏を支持する生徒約40人と保護者3人が加古川キャンパスに来訪。そこで一騒動が――。
森理事長によると、
「午後5時半くらいでしょうか。コーチが現れて“エルシオを監督にして、淡路に残った子たちだけで選手権に出させろ”と要求してきました。エルシオとは上船のもとで働くフィジカルコーチのことです」
その場に上船氏も合流すると、生徒たちは高ぶった。
「彼らは“裏切り者を試合に出させるな”とか“生徒ファーストなんやったら、言うこと聞かんかい”などと延々言い立ててくるんです。ほとんど恫喝でしたよ。私は“加古川(に退避中)の子たちとも仲良くして一緒に選手権に出よう”と提案したのですが聞き入れられない。怖くなって理事長室に戻ろうとしたら、コーチに“逃げんじゃねぇよ”と怒鳴られましてね」(同)
おえつする校長
その際、コーチは理事長室のドアを無理やり開け、理事長につかみかかってこようとしたという。
「職員が割って入ってくれてことなきを得ましたが、この状況をまずいと思ったのか父兄もコーチを羽交い締めにしていました。私はもう怖くて、理事長室に閉じこもってしまいました」
そこからは代わりに校長が対応したそうだが、
「向こうの勢いにのまれ、校長は“加古川で活動する子を選手権には出さない”という要求を受け入れてしまいました。なぜそんなことになったのかと校長に聞きましたら“夜9時を過ぎても帰らず異常な雰囲気になった。だから仕方なく場を収めるために”と言うんですよ」
翌日、理事長は加古川の生徒たちを理事長室に呼び、
「校長とともに“本当に申し訳ないことをした”と謝りました」
校長はおえつし、言葉に詰まってしまったという。
「生徒も泣いていましたが、“気持ちを切り替えて頑張ります”と言ってくれ、逆にこちらが励まされるようでしたよ。私らとしてはもう、申し訳ないという以外にありません」
「悲しんでいることはないと思う」
かくして、10月22日に開催された県予選1回戦に、解任された元キャプテンを含む加古川組が出場することはなかった。
上船氏にまずはパワハラの件について問うと、
「キャプテンには管理者側の一員として、選手の問題行動をコーチ陣に報告するのではなく、チームメイトと同じ立場で、一緒にチームを作るマインドを持ってもらいたかった。先輩のやり方を教えてあげただけで、パワハラはしていません」
加古川組はなぜ予選に出られなかった?
「一緒に練習も競争もしてないのに、どうやってメンバーに入るのか。自ら淡路島を離れた選手がメンバーに入ることを、淡路島の選手たちは誰一人納得しません。また、加古川組には一人一人、試合に出場しない旨の意思を確認し、そのうえで彼らは淡路島を離れています。悲しんでいることはないと思います」(同)
改めて保護者に聞くと、
「加古川組には夏のインターハイでベンチ入りした子が7人もいて、試合に出て頑張っていた。なのに予選で出場したのは飲酒した生徒たち。あんまりです」
主力を欠いての県予選敗退。大量の転校劇の裏にはチームの混乱、生徒の分裂、保護者の憤りと悲嘆があった。
まさに2枚目のレッドカードに値しよう。だが、生徒らの転校先のAIE高校で上船氏は今後も指導にあたるわけで、当面退場する気配はないのである。
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