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「ゼネコンで働きたくない」原因は?“建設業界の人手不足”を危ぶむ大手5社の社員のリアルな声

建設業界で人材確保にも直結する魅力的な職場づくりのために必要なこととは?(写真はイメージです)

建設業界が、残業規制が厳しくなる「2024年問題」への対応に迫られている。根強い3K(きつい・危険・汚い)のイメージなどを背景に人手不足が深刻化しており、さまざまな業務の遂行が困難になると懸念されている。今回、オープンワークの調査から、社員が働きがいや成長実感を得られる要素に加え、人材確保にも直結する魅力的な職場づくりのために必要なことを考える。(ダイヤモンド・ライフ編集部)

「2024年問題」で業務の遂行が困難か
25年大阪万博の会場建設にも暗雲

 建設業界が「2024年問題」への対応に迫られている。働き方改革の一環として、労働基準法の改正による時間外労働の罰則付き上限規制が24年4月から建設業界にも適用され、残業規制が厳しくなるためだ。

 建設業界では従来から、根強い3K(きつい・危険・汚い)のイメージなどを背景に人手不足が深刻化しており、工期に間に合わせるための長時間労働が常態化していた。今後は労働者の確保が一層難しくなることから、「2024年問題」としてさまざまな業務の遂行が困難になると懸念されている。

 現状を放置すれば、インフラの維持などに影響を及ぼす可能性があり、「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)の会場建設にも暗雲が垂れ込めている。

 就職・転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワーク株式会社は、慢性的な労働力不足の課題を抱える建設業界の働き方に着目した調査レポートをまとめた。

 次ページでは、ゼネコン大手5社の現在の働き方を全業界平均と比較。社員クチコミから、「2024年問題」の受け止めを読み解く。また、大手5社の人材育成や教育体制について分析。社員が働きがいや成長実感を得られる要素に加え、人材確保にも直結する魅力的な職場づくりのために必要なことを考える。

働き方の改善に向けて取り組むも
サビ残の増加や若手の離職の懸念

 まず、建設業界で元請け業者と呼ばれるゼネコン大手5社(鹿島建設、大林組、清水建設、大成建設、竹中工務店)の現在の働き方を見てみよう。

 下表は、全業界と大手ゼネコン5社の平均残業時間を比較したものだ。5社の平均残業時間は50.33時間/月となり、全業界平均(23.39時間/月)の約2.2倍という結果になった。

 近年は働き方改革による就業環境の改善が進み、業界を問わず残業時間は減少傾向にあるが、ゼネコン大手5社の残業時間は依然として長いことが分かった。残業時間の上限規制適用が約半年後に迫り、「2024年問題」への対応が急がれるなか、実際に働く社員はこの現状をどのように受け止めているのか。

 OpenWorkに集まったゼネコン大手5社の社員クチコミ(原文ママ)を見てみよう。

「残業時間規制の建設業への適用が迫る中、有効な対応策を見出せていない。絶対的な仕事量が多く、生産性の向上で太刀打ちできるレベルではない。こなしきれない仕事は中間管理職ポジションが休日にサービス残業で捌いている現状があり、若手がずっと働き続けたいと感じるのか疑問」(総合職、現職、男性、鹿島建設)

「近年、働き方改革の影響により現場の業務改善に対する士気は高く、2024年度の残業時間規制に向けてなんとかしようとする意識は感じられる。反面、若年〜中堅層の業務負担が軽くなっている訳ではなく、業務密度・負担が大きくなっていると声も出ている」(建築職、現職、男性、大林組)

「社会情勢もあり、会社として残業時間の低減に寄与する取り組みを色々と模索しているようだが、現実として仕事量は変わっておらず(むしろ増えている)、根本的な解決には至っていない。2024年問題として言われている月45時間以内、年間360時間以内の条件は、どう考えても達成できる環境ではない。結局はサービス残業が増え、むしろ企業が得する結果となると思う」(設計、現職、男性、清水建設)

「労働基準法の改正により残業時間の上限規制が設けられたが、現在建設業は2024年まで猶予されている。そのため現場の生産性向上を目指しているものの、2024年までに年間720時間以内を全員が達成するのはかなり厳しいと感じる。法令上罰則もあるため、無理やりにでも達成する必要があるため、今後色々とボロが出てくるのではないか」(総合職、現職、男性、大成建設)

「2024年からの年間残業上限360時間を見据えて残業時間を少なくする目標を掲げてはいるものの、現場においてはトラブル対応や人手不足等もあり、月80時間を守るのが精一杯と感じる。一方内勤では部署にもよるが土日休みは当然、日々の残業時間も少ない」(施工管理、現職、男性、竹中工務店)

 社員クチコミを見ると、「労働時間の短縮に向けて社外へのアウトソーシングや業務の効率化を進めている」といった肯定的な声が見受けられた。企業が働き方改革に関連する法律を意識し、働き方の改善に向けて取り組んでいることが分かる。

 一方、課題や危機感を抱いている様子もうかがえた。建設業界での仕事は、建物の完成までに発注者や建設地の地域住民、職人など関わる人が多岐にわたり、「自分の思い通りに時間を調整しにくい」などの声も見受けられる。業界の特徴や構造上の課題を踏まえた根本的な解決策が打ち出されていないことに対し、実際に働く社員からサービス残業の増加や若手の離職を懸念する声が見られた。

人材の定着や獲得のために
仕事の面白さや働きがいの訴求も重要

 次に、ゼネコン大手5社の職場環境に関する評価から強みや特徴を探る。下表は、23年にOpenWorkに投稿されたデータ(1月1日~9月30日)を集計した、5社と全業界の平均スコア比較だ。

 

 5社の総合評価は5点満点中3.24点となり、全業界の3.06点を上回った。「待遇面の満足度」「社員の士気」「社員の相互尊重」「20代成長環境」「人材の長期育成」の5項目のスコアは高い傾向が見られた。このうち、「人材の長期育成」は3.10点となり、全業界(2.64点)より0.46点上回り、社員の育成面に強みがあることが考えられる。実際、5社の社員クチコミには社員の資格取得をサポートする講習があること、入社時の研修が手厚いことを評価する声が寄せられた。

 ゼネコンが手掛けるプロジェクトは人々の生活を支える大規模なものが中心となるため、多くの関係者と円滑に仕事を進める必要がある。仕事量は多く、若手の頃から社会に与える影響力の大きさを意識した仕事の取り組み方が求められるといえよう。

 以下の社員クチコミ(原文ママ)からは、そうした厳しい環境だからこそ成長でき、次世代にも残るようなものづくりに携わることが働きがいにもつながっている様子がうかがえる。

「若い頃から物事を俯瞰して把握するような仕事への取り組み方を鍛えられる。適切なタイミングで国家資格の取得が必要となってくることもあり、理論と実践のバランスは比較的とりやすい業態であると思う」(技術、現職、男性、鹿島建設)

「規模の大きい仕事が多く、特に建設現場における仕事はインフラやアイコニックな建物など誰もが知るようなものだったりするため、それに関われるという醍醐味は大きく、働きがいがある。資格取得は常に奨励されており、社内での講習など様々な分野の資格取得についてサポートがある。規模が大きいので短期的なキャリアパスを構築するのは難しい。様々な部門を経験できるので、自分の適性を知ることができる」(事務、現職、男性、大林組)

「仕事量が多い分、成長はできる。繰り返しの作業は少なく、常に新しいことを学ぶため能力は上がると思う。また判断力や対応力の速さや柔軟性が常に求められるため、成長は出来る環境だと思う」(施工管理、現職、男性、清水建設)

「日々変わっていく現場を目にすると、ものづくりをしている実感を得られ、社会貢献への貢献度合いを感じることが多くあった。1年目から現場管理のため、年齢が大きく離れた下請け作業員とのコミュニケシーションが重要となり非常に鍛えられた。また、現場管理能力として、工程管理や原価管理など、幅広い分野で管理をしていく必要があるため、鍛えられる」(土木施工、現職、男性、大成建設)

「様々なステークホルダーと関わり合いながら建物をつくっていくことが楽しいと感じた。また建設業の最前線を知ることができる貴重な経験ができる。一年目には新社員研修があり非常に手厚い。キャリアについても相談に応じてくれて、機を見て計らってくれる。海外なども志望をだせば積極的に送り出してくれる」(建築設計、現職、男性、竹中工務店)

「2024年問題」への対応を巡っては、すでにゼネコン大手の一部が受注段階で、週休2日を確保できる工期を原則とする方針を打ち出すなどしている。

 建設業界では、国や自治体、民間企業などの施主がゼネコンと呼ばれる元請け業者に対して工事を発注し、元請け業者はさらにそれぞれの専門や技術に特化した下請業者に工事を発注する。複数の企業が階層化する建設業界において、ゼネコン大手が率先して改革に取り組むことが求められている。

 長時間労働の改善や人手不足といった課題が山積する一方、多くの関係者を巻き込み、一つの仕事を成し遂げる一体感や、人々の生活を支える仕事の醍醐味は代えがたいものといえる。人材の定着や獲得のためには、働き方の根本的な改善を進めることはもちろん、仕事の面白さや働きがいなどの魅力を訴求することも重要だろう。

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