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「会社から認められていない=無能」は間違い…「会社を辞めて輝く人」と「行き詰まる人」の決定的な違い 会社員として成功した人が、起業で成功するとは限らない

会社員を辞めて、起業に成功する人には、どんな共通点があるのか。経営コンサルタントの新井健一さんは「会社員として成功した人が、起業で成功するとは限らない。重要なことは『信念の一貫性』があるかどうかだ」という――。(第3回)

※本稿は、新井健一『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

 

「会社から認められていない=無能」は間違い

企業の人事制度というものは、環境の変化を受けて改定されるものである。そして当該制度は、役割や能力というモノを評価や処遇の対象とするが、特に能力を扱う際には注意が必要だ。

なぜなら、能力というものは、多くの前提条件を満たした上で、はじめて発揮できるものであり、前提条件が変われば当然だが、それまで有能だった人材が平気で無能にもなり得る。また、上司や周囲との相性によって、パフォーマンスが大きく変わることも、多くの人材が経験済みだ。更に、ある分野で能力を高めるということは、他の分野で活躍することを諦めることに他ならない。

したがって、仮にある業界の、ある会社の、ある職種の会社員として能力を発揮できなかったとしても、それは無能なのではなく、適性がないというだけなのだ。

たとえば企業組織において、選抜という観点で言えば、人材の見極めは概ね30代で決着がつく。そして、そのようなシステムにおいて、自分が会社から認められていない、評価されていないと感じて憤るか、落ち込むかする社員も相応にいるだろう。だが、生涯キャリアを全うするという長期的、戦略的展望に立てば、気に病むことなど何もない。

ただ、その職業には、それほど向いていなかったと分かっただけだ。

そして、適性に恵まれていないことを、(もっと言えば)相性が悪いことを自覚したならば、決してしがみつかずに手放すこと、そこから離れることをお勧めする。

キャリアに一貫性は必要なのか

また、たとえば自分のキャリアに一貫性がないと悩む読者には『きみの人生に作戦名を。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)をお勧めする。ちなみに著者の梅田氏は、このような人物だ。

人生を振り返ってみると、自分でも呆れるほどにやっていることに一貫性がなく、何も長続きしなかったことを告白する。

習い事や塾に通いはじめても、続かないから身につかない。部活に入っても即幽霊部員化。獣医師に憧れるものの大学受験に失敗。仮面浪人をするも結果は変わらず挫折。バンド活動の延長線上でレコード会社の起業と経営。生体材料の研究から、広告制作の道へと鞍替え。育休取得と家事への専念。ベンチャー支援、起業家養成。

やっていることに何の一貫性もなく、何をしているかよくわからない人である。完全に迷走していると思われても仕方ない。

出典:『きみの人生に作戦名を。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)P3〜4

だが、筆者・新井も振り返れば、かなり迷走してきたという自負がある。

部活は野球部、演劇部。高校卒業後、受験予備校にも通わず、人生に迷い畳屋でバイト。一念発起して入った大学の学科は政治。就職氷河期に選択肢のない中、重機械メーカーに入社、人事部配属。転職して人事・業務改善コンサルタント。監査法人グループの会計・ファイナンス兼コンプライアンス担当講師。医療系ベンチャー企業の役員を経て独立。経営コンサルタント、セミナー講師等。

必要なのは「信念の一貫性」

同じく、やっていることに何の一貫性もなく、まさしく迷走している人である。では梅田氏は、この一貫性のなさをどのように捉えているだろうか。

「やってきたことの一貫性」と「信念の一貫性」は別物である。

やってきたことはバラバラかもしれないが、意志や興味に従って行動を起こしてきた。だからこそ、私は私のことを、やってきたことの一貫性ではなく、信念の一貫性で評価することにしよう。

出典:『きみの人生に作戦名を。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)P4〜5

筆者は、梅田氏の見解に大いに賛同する。人は誰しも人生に生きがい(生きる目的)を求めるとするならば、それは、対象は何であれ、その何かを正しいと堅く信じて疑わない気持ち、すなわち信念からうまれ、発するものだと思う。

したがって、人は誰しも(多くの場合、無自覚に)信念を最重要視して行動するだろうから、やってきたことの一貫性ではなく、信念の一貫性で評価することは極めて重要な意味をもつ。

それは私が「私にとっての生きがいとは何か」を自覚することに他ならないからだ。その上で、自覚した信念に基づく態度や行動にかなった仕事を我が仕事にするか、今ある仕事を組み合わせたり、仕立て直したりするか、今そのような仕事がこの世に存在しないのであれば、そのような仕事を創ってしまえばよい。

これにより、生きがいと仕事は、その追求において一致していく。

会社で結果を出せても、起業で成功するわけではない

これから会社員は、「同じ会社で引き続き会社員」「会社員をしながら副業および兼業」「転職」「独立起業」「フリーランス」など様々なオプションから自分のキャリアを選び取る時代を生きていく。

その過程で信頼できる仲間や共同体を見つけることになるのだが、そこには当然、仕事のやり取り(仕事をお願いする、お願いされる)が介在する。たとえば多くの会社員が、どこかで一度は経験するであろうキャリアの棚卸し作業、これは常に、仕事をお願いされることを想定した取り組みである。

しかしながら、同じ棚卸しでも、自分の判断や裁量だけで、誰かにお願いできる仕事の棚卸しをしたことがある会社員はどれだけいるだろうか。どの人間関係でもそうであろうが、キャリアを共に生きていくという関係も、勿論ギブアンドテイクが基本である。したがって、この辺りをうまくやれるか否かで、会社員から会社員(転職)以外のキャリア・チェンジについて、その成否が別れるのだが、この辺りについて勘違いしてしまう会社員もいる。

大企業で相応の役職を務めた会社員の中には、「自分が独立したら、これまでの取引関係を大いに利用して、みんなに仕事を回してやる」と、俺に付いて来いと言わんばかりに大きな話をして、その場を大いに盛り上げてくれる人物もいる。

ただし、そのような人物が独立起業してうまく行くかというと、必ずしもそうではない。いつの間にか、元気のよかったその人物の名前すら聞かなくなることもよくある。

「仕事は仕事」とわきまえるべき

そこで、先にも述べたこの辺りを上手くやってのける人物の考え方を、筆者なりに慮ってみた。

(1)あくまで「仕事」とわきまえている。
(2)大言壮語には乗らない付き合わない。
(3)自分にできないことは引き受けない。
(4)常に仕事は回すものだと考えている。
(5)常に人物の性質を見極めようとする。
(6)親切だが押し付け押し売りはしない。
(7)人脈を自ら積極的に作ろうとしない。
(8)目先の利益より信用取引を優先する。

まず「(1)あくまで『仕事』とわきまえている。」であるが、彼らは会社員が誰かに仕事を頼むように、もしくは発注するようにあなたに仕事を依頼する。そこに変なうやうやしさや慇懃無礼な態度は微塵もない。勿論、仕事を出してやっているなどという、尊大な態度をとることもない。むしろ仕事を受けてくれてありがとう、という態度をとる。また多くの場合、案件の仕様なども、事前に押さえてから話を持ってきてくれるので、受ける側も安心して話を聞くことができるし、顧客に基本的な取引内容を確認しなければならないような二度手間もない。

次に「(2)大言壮語には乗らない付き合わない。」であるが、彼らは雲をつかむような話を嫌う。そんな話に振り舞わされる暇があったら、ほかの仕事をしたほうが金になることを知っているからだ。まさにタイムイズマネーである。一方でその辺りが分からない人物は、壮大な儲け話で人を振り回すだけ振り回し、遂には本人が疲弊し、人も離れていく結果となる。

仕事はやるものではなく「回すもの」

次に「(3)自分にできないことは引き受けない。」であるが、彼らはとにかく顧客や取引先に迷惑をかけることを嫌う。したがって、自分にできないことを引き受けようとはしないし、どんなに実入りがよさそうでもきっぱりと断る。これを、たとえば独立起業当初から徹底していた。

ただし、この徹底は難しい。なぜなら起業当初はとにかく売上をたてるために、仕事が欲しいからだ。その「欲しい」のために、何でもかんでも仕事を引き受け、結果としてうまくいかず、顧客や取引先の信用を失っていく。

ちなみに、一歩踏み込んでその辺りが分かる人物は、顧客や取引先の要望にかなった同業者を紹介してくれる。結果として、顧客や取引先の信頼は高まり、更には仕事を紹介した同業者からも、新たな仕事が舞い込むようになる。

次に「(4)常に仕事は回すものだと考えている。」であるが、3とも関連して自分ですべての仕事をこなせるとは、はじめから考えていない。だが、副業であれ兼業であれ、もしくは独立起業であれ、この発想にもとづいて仕事を受ける人物は実に少ない。

これは会社員以外の仕事を引き受けた途端に、自分のさばき方次第で実入りが変わるからかもしれない。だが、仮に自分だけで完結できてしまう仕事であっても、誰かに振るメリットを感じた場合には、自分の実入りを削っても仕事を回すと、それは後々自分に返ってくるのだ。

長期的な視点が信頼につながる

次に「(5)常に人物の性質を見極めようとする。」であるが、3と4でも解説したように、彼らは常に自分にできないことができる人、そして仕事を回せる相手を探している。しかしながら、顧客や取引先に失礼があってはならない、(少なくとも平均点以上に)満足してもらいたいとも考えている。

次に「(6)親切だが押し付け押し売りはしない。」であるが、彼らは常に顧客や取引先、仲間の長期的な利益を考えている。だから顧客にも「それは御社のためになりますか、本当に必要ですか」、取引先にも「それはお客様のためになりますか」と話して、ビジネスパートナーの更なる熟考を促す。

彼らは自身のその姿勢が、顧客や取引先の「信頼」につながることを知っている。ただし、自らの見立てで「これはできる」「この人物であればできる」と判断すれば、(半ば強引に)仕事の依頼を持ちかけることはある。

自分から人脈を作りにいってはいけない

次に「(7)人脈を自ら積極的に作ろうとしない。」であるが、彼らはわざわざ異業種交流会のような場に出かけていくことはせず、仕事をしながら交流する人々を観察し、そして声をかける。仕事をしながらだから、その人の仕事ぶり、仕事に向かう際の心構えがよく分かるのだ。なかには、先ずは友人として付き合ってみて、それから人により、はじめて仕事の話を持ちかけるという人物もいた。

最後に「(8)目先の利益より信用取引を優先する。」であるが、彼らのもとには多くの儲け話が持ち込まれる。それは金銭による利益もあれば、うちの会社の役員をやってくれないかというようなステイタスによる利益もある。だが、中にはそのような儲け話に安易に飛びついて、周囲の信用を失った者もいる。彼らは親切であるが、相手を見切るのも早い。多くの場合、これら8つは仕事のできる会社員であれば、誰もが当たり前に実践していることだ。

仕事は、特別なイベントなどではない。それを会社員は一番よく分かっているのかもしれない。