· 

“ヤクザ歴66年の男”が「ヤクザとだけは喧嘩してはいけない」と断言する理由 【Apex product 世直し桃太郎】

〈 「今のヤクザは甘えている」博打場を潰したり、タクシー会社を恐喝したことも…ヤクザを“66年”続けた男の「ヤバすぎる人生」 〉から続く

「結局ヤクザと喧嘩をしても、カタギは絶対に勝てない」――そう語るのが極道の世界で66年生きた元ヤクザの正島光矩氏(1940年生まれ)だ。いったいなぜ一般人はヤクザと喧嘩すべきではないのか?

 ヤクザの危険な実態を包み隠さず語った著書『 ジギリ 組織に身体を懸けた極道人生 』より一部抜粋してお届けする。

元神戸山口組宅見組幹部の正島光矩氏が「ヤクザとは絶対に喧嘩してはいけない」と語る理由とは?(写真:本人提供)© 文春オンライン

ヤクザと絶対に「喧嘩してはいけない」理由

 結局ヤクザと喧嘩をしても、カタギは絶対に勝てない。

 ヤクザというのは組織だから、一対一の場はカタギが勝ったとしても、その後の仕返しが必ずくるのだ。

 ヤクザの喧嘩は、昔の映画と違って一対一の喧嘩ではない。とにかく勝てばいいのだ。たとえ卑怯な方法でも、喧嘩にはルールが無いので何でもありである。

 高倉健の映画の世界観は関東の人たちの美学であり、関西では通用しない。どんな方法でも勝てばいい、それが関西のヤクザの怖さだ。

 格闘技をやっていようが、ボクシングをやっていようが、結局それは決められたルールの中でやっているだけで、一番強いのは場数を踏んでいる人間。これはヤクザをやっていて肌で感じたことだ。

 そのように場数を踏んでいる人間の目は、喧嘩になってもいきり立っていないで冷静に周りを見渡して、武器などの道具や逃げ道を計算しているのが分かる。

 組織対組織で相手が詫びを入れた場合、その人間や組織としてのヤクザ人生は終わる。個人的に恐いと思うのは、その中でも関係なく「やる」人間だ。昼間だろうが闇夜だろうが、彼らはいつでも所かまわず襲ってくる。

 そして何を隠そう、わしはそんなタイプの人間だった。

 御堂筋で大きな喧嘩をしたことがあった。

 昔、明友会というミナミを圧巻した愚連隊のグループがあり、わしらの南道会などはよく揉めていた。

いきなり足を刺されたことも…

 ある時そいつらと、ちょっとしたトラブルがあった。わしらは3人で、向こうは5人いたと思う。

 近くにあった麻雀屋の前で喧嘩が始まり、こっちも宿敵が相手だから引くわけにもいかない。大声で騒いでいてうるさいから、若い衆に「ドス持ってこい、こいつらぶちのめしてやってやる」と言って喧嘩になった。

 わしは目を切られて、それで頭に来て無我夢中で相手の太ももをドスで刺したら、向こうが慌てて逃げた。少し経ってズキズキ痛いなと思ったら、わしの方も足を刺されて血が噴き出していた。

 太ももを刺すのにもコツがある。内股は大動脈が走り第二の心臓と呼ばれるくらいの大事な部分だから、ここを刺したら出血多量で即死の可能性もある。逆に外側だったらなんていうこともない。痛いけど、別に押さえれば走って逃げられるくらいだから大したことではない。

 ミナミでは、こんな事件は日常茶飯事だった。

(正島 光矩/Webオリジナル(外部転載))

借金トラブルを代わりに解決したことも…極道歴“60年超え”の男が明かした「ヤクザと仲良くしていた芸能人・避けていた芸能人」 『ジギリ 組織に身体を懸けた極道人生』より

 今では考えられないことだが、かつて芸能人とヤクザは密接に付き合っていた時代があった……。極道歴66年、元ヤクザの正島光矩氏(1940年生まれ)が「ヤクザと仲良くしていた芸能人・避けていた芸能人」を解説。芸能界とヤクザの蜜月が成立していた背景とは? 初の著書『ジギリ 組織に身体を懸けた極道人生』より一部抜粋してお届けする。

芸能界との繋がり

 わしが現役時代に関わった芸能界の話をしたいと思う。

 現役時代、白神組若頭の稲本組が、京都の東映の撮影所の面倒を見ていた。当然いろいろな組が東映の撮影所の面倒を見ていたが、その中でも稲本は力があったほうだと思う。

 そういう関係でわしはいつも東映撮影所に出入りしていたので、その頃、いろいろな役者と知り合った。

 年に1回東映祭があり、その祭りには当時の東映所属のオールスターが出演していた。あの頃出ていた人だと、片岡千恵蔵、それから中村錦之助(萬屋錦之介)、若山富三郎、その下に山城新伍、梅宮辰夫、菅原文太など、いろいろいた。その中でわしが個人的に付き合いがあったのは、山城新伍とか梅宮辰夫、菅原文太だ。みんな死んでしまったが、友人としての付き合いは長いことさせてもらっていた。

 若山富三郎とも深い関係があった。名古屋に住んでいる頃、水原弘という往年の歌手で「黒い花びら」というヒット曲を出した人間がいたが、これで勘違いしたのか段々交友関係が悪くなっていった。ある関東のヤクザ者に博打で何百万負けて、追い込まれたときに逃げ込んだのが若山富三郎のところだった。若山富三郎のところはウチが関係していたので、結局稲本とわしで相手に話を付けたことがあったのだ。

 わしは富さんと長いことの付き合いもあって信用もされていたから、あの人が京都の病院で入院していたときなんかは、毎日見舞いに行くくらいの関係だった。

 当時の芸能界というのは、ヤクザと仲良くしていること自体、特に問題にはならなかった。その大きな理由として、昔は興行権といって、そこの地元のヤクザが許可しないと興行が打てなかったということと関係があると思う。今はそういうことはないが、昔は芸能関係とヤクザは深い繋がりがあったのだ。「挨拶に来なかったら興行を打てない」なんてことはザラにあった。

 あの鶴田浩二だって、田岡の親分の顔を潰されたと怒った組員から襲撃され大問題になったこともある。

[鶴田浩二襲撃事件]

 鶴田浩二襲撃事件とは、1953年(昭和28年)1月6日に当時の人気俳優で歌手の鶴田浩二が瓶やレンガで襲われた事件である。指示を出したのは山口組の幹部で後の若頭になる梶原清晴、実行犯は、当時はまだ組員という肩書であった山本健一、清水光重、益田芳夫、尾崎彰春らであった。

 襲われた鶴田浩二は頭と手に11針のケガを負った。

 この事件は、三代目山口組組長・田岡一雄がマネージメントを行っていた美空ひばりとの公演を鶴田浩二のマネージャーが断ったことに端を発している。

 マネージャーにいい印象を抱いていなかった田岡一雄はその後、ショーの件で鶴田から挨拶とともに現金を差し出されたが、受け取らずに突き返した。

 その一連を見ていた組員が、鶴田浩二を襲ったのである。鶴田を襲った幹部たちはその後、田岡一雄から重宝され若頭や幹部にまでのぼりつめた。この事件は、芸能界で山口組が力を示すようになった出発点でもあった。

気が合わない芸能人もたくさんいた

 あの組とこの芸能人は仲が良い、といった話は実はごく一部だ。組長が個人的に可愛がっている芸能人が組事務所や本家に遊びに来ることはあったが、それはあくまで個人的な付き合いだった。

 組も〇〇興行とか〇〇芸能社とか組名を感じさせるけれども、あくまでもプロモーションをする会社という形にして、そこはキチンとわしらは分けていた。

 芸能人の借金問題の面倒を見るということは年中あり、そのようなトラブルごとの対処などもやっていたが、当然わし個人の力よりも後ろの看板の背景を相手は見ていただろう。芸能人がヤクザに対して借金をした場合は、芸能人の代わりに話をつけた。

 1000万円の借金があった場合、それを全額なんかは払わずに解決することも多かった。所詮博打の金がほとんどだから、それがまかり通っていた時代だった。

 わしは積極的に芸能人と付き合いたいとは思っていなかった。たまたま稲本の関係とか、わし個人の関係で仲良くなった人間が芸能人で役者だったというだけの話で、当然話したときに気が合うやつと合わないやつもいる。ヤクザといえど人間だから、そういった感情はある。

 わしは芸者じゃないから、誰にでも良い顔をするわけではない。気が合わない芸能人もたくさんいた。

例えば里見浩太朗とか中村錦之助は、話しにくかった。向こうがわしらをヤクザだからといって避けるからだ。

 人に夢を売る芸能人としては昨今では当たり前だが、今のようにそういった問題が騒がれる前から我々と一線を引いているという行動は偉かったと思う。

 そういう場合は、相手を立てるという意味でもこっちは近寄らないようにしていた。逆に若山富三郎はヤクザっぽいところがあり、あの人の舎弟が山城新伍とか、完全に縦社会のわしらに近い感じに見えた。

 若山富三郎の弟の勝新太郎はかっちゃんと呼ばれていて面識もあったが、個人的な付き合いはわしはあまりなかった。京都の病院で中村玉緒さんと何回か会った程度だった。プライベートで食事をしたり酒を飲んだりする関係は無かった。

女優と付き合わなかった理由

 わしも散々遊んできた方ではあるが、女優と遊んだことはあっても付き合いはしなかった。中にはヤクザ好きの女優もいて、有名な親分が有名女優と付き合っているとかの噂は聞こえて来たこともあったが、実際はヤクザと知ると避けるようになる女優の方が多い。当然の選択だと思う。

 京都と芸能界の話はよく巷で噂になるが、それは撮影所があったというのが大きな理由だろう。京都には、名門で金看板の会津小鉄会があった。

東映の撮影所は当時会津小鉄会が揉め事やゴタゴタを処理していたが、会津小鉄会の人間と稲本には付き合いがあった。東映祭という年に1回京都の撮影所で行われた祭りに招待されたりして、そこに来る若手の俳優や前述した俳優と飯を食ったりする交際が始まった。

 さすがに今は暴対法や暴排条例でがんじがらめになっていて、ヤクザは反社会勢力と定義されてそれと交際していたら密接交際者で騒がれるご時世だ。隠れて付き合うということはあるだろうが、数はかなり少なくなっているはずだ。

 ただ、ヤクザがスポンサーになっている関係もあるし、プロダクションなんかは昔の名残で結構ヤクザが絡んでいることも多いということは今も言えるだろう。

 

「ホステスを下手に口説かないし、しつこくない」極道歴66年の男が語った「ヤクザが女にモテる理由」 『ジギリ 組織に身体を懸けた極道人生』より

「わしはタニマチじゃないし、あくまでもその芸能人と友だちという感覚で飲んでいるので、今回はわしが払ったら次は相手が払うという五分の関係だ。それが人と人との付き合い方だと思う」

 芸能人とはギャンブルに興じない、五分と五分の関係で付きなうなど、トラブルを起こさないための「ヤクザ業界の独自ルール」を解説。その道66年、元ヤクザの正島光矩氏(1940年生まれ)による初の著書『ジギリ 組織に身体を懸けた極道人生』より一部抜粋してお届けする。

芸能人と飲むときの作法

 芸能人とは普通のクラブで飲むことが多かった。

 芸能人や野球選手など目立つ人間が遊ぶ銀座のクラブに行くこともあったが、向こうに一方的に払わせたり、わしが一方的に払うようなことはしなかった。

 わしはタニマチじゃないし、あくまでもその芸能人と友だちという感覚で飲んでいるので、今回はわしが払ったら次は相手が払うという五分の関係だ。それが人と人との付き合い方だと思う。

 いくら売れっ子で金を持っている相手でも、わしがおいしい話でシノギがうまく行って、財布に何百万円入っていたとしても、それは関係ない。

 そのような付き合い方をしないと人間関係はうまく回らない。

 五分のバランスが取れてはじめて、人間関係は長続きする。それが人生のコツだと感じているし、今も間違っていたとは思っていない。

 表向きだけで付き合っていると人間関係はうまく回らない。一度でも飲んで相手を気に入って「今度また飲みましょう」と、本音で付き合わないと駄目だ。

 実際に芸能人と飲むときも、相手がひとりで来たりマネージャーと来ることもあったが、マネージャーもわしのことを信用しているから、一緒に飲んだり、芸能人だけを置いて帰ることも多々あった。

 飲みに行く話も、マネージャーを通しての連絡や本人から直接電話が来たりもしていた。なかでも山城新伍とは一番多く飲んだ。

芸能人とギャンブルはしない

 また、芸能人と賭け事などはしなかった。

 ヤクザや芸能人は高レートの麻雀など賭け事を派手にやるイメージがあるかもしれないが、わしはそんなのは好きではなかった。

 芸能人が賭け事で大きく負けて、そのトラブルの処理をやっていた関係もあると思う。せいぜいわしがやるのは身内同士の小さな賭け事くらいだった。賭け事でのトラブルは、嫌というほど見てきた。

 勝ったときは堂々と相手側に要求して、負けたときはクヨクヨして払わないとか、一部だけ払ってこっちにケツを回すなど、そんな人間をたくさん見て、嫌気がさしていた。

旧友のような存在だった山城新伍

 芸能界との付き合いは、京都の撮影所の関係だけではなかった。

 わしが関東に上がって坂町総業という看板を出して二代目宅見組の代紋を掲げたときにも、芸能界の古い人間とは付き合いがあった。

 例えば、何度も名前を出して悪いが山城新伍とは旧友のような付き合いをしていた。

 山城新伍が嫁さんの花園ひろみと仲が悪くなって芝公園にある東京プリンスホテルに部屋を借りたときも、わしは一緒に部屋を借りて生活をするような時期もあった。だが、その後芸能界が反社会勢力、つまりヤクザとの付き合いを止めましょうという流れになって、芸能人との付き合いが段々薄くなってきた。

 芸能人も人に夢を売ってなんぼだから、当然マスコミに騒がれるような交際は避ける。何度も言うが、わしはタニマチでもスポンサーでもなく、ただの友人関係だからそこは察して付き合いを遠慮するようになった。

 芸能協会などで、反社会勢力と付き合うな、と叫ばれ始めたのはわしが旭川刑務所に行く前だから20年以上前の話だと記憶している。そこで無理を言って芸能人と付き合ってもお互いにいい感情を持たないだろうし、何かあったら干されるのは芸能人だから、そこは一線を引くべきだ。

 本人が友だちとして飲みに行きたい、遊びに行きたいと言ってもわしから断っていたくらいだった。

「実はこういうわけで、もう付き合えない」と向こうからわざわざ電話があったこともある。もちろんこっちも友だちだから、相手の立場を察して会わないようにしていた。

 昔はディナーショーのときに花束を渡したりしたけど、そんなことももうめっきり少なくなった。

それでもヤクザと付き合っていた芸能人も…

 我々ヤクザ側が遠慮するのが当たり前だと思う。

 ただ、そんな厳しい時代でもわしと付き合いを変えなかった芸能人もいたことはいた。

 さすがに名前は出せないが、先日別れた女房とディナーショーに行ったときに花束を出したら喜んでいた。わしはもう引退していて関係ないから、堂々と花を出すことができたというのも良かった。

 ヤクザと芸人は、女にモテる。

 飲みに行く客は自分が楽しみたいからホステスなどに無理を言って品のない飲み方をするが、逆にわしらは話術や態度で相手を遊ばせてあげる。

 下手に口説かないし、その場が楽しければいいという遊び方をしているからだ。女にしつこくしないし、綺麗に遊んで飲んで帰るし、それが一流の遊び人だと思っている。

ヤクザ者に厳しい昨今、周りを見渡せば不義理をして飛んだ人間や、カタギになりきれずに中途半端な半グレのように詐欺や強盗などの犯罪に走る人間、そして筋を知らずに我を通すことが組織の力、己の力と勘違いしている人間は多い。
本格的にヤクザの道を究めて、ヤクザを辞めてカタギになり、キチンと顔を出して過去を語れる人間は意外と少ないだろう。

わしは自分なりの筋を通し、ヤクザ人生を全うした。今まで何度も命を狙われ、抗争事件でも自ら身体を掛け、長い懲役も経験した。
ヤクザの世界で組織のために身体を掛けることを「ジギリ」という。本書のタイトルには私の生き様としてその言葉を使わせてもらった。ヤクザは生き方、生き様であり職業ではない。

それらを踏まえた上でわしの66年のヤクザ渡世を知ってもらいたい。

著者について

正島光矩(しょうじま・みつのり)

1940年(昭和15年)生まれ。16歳のころに福岡県の有力組織・梅津会へ所属。これが渡世へ足を踏み入れるきっかけとなった。その後は大阪、そして関東へと拠点を移し、数々のシノギや抗争事件を経験。組織のためにはあらゆる犠牲も厭わず、文字通り身体を懸けたヤクザ人生を全うした。

極道用語の基礎知識(仁義なき戦い・広島やくざ用語)

あ行

 

垢 【あか】

  博奕による収入のこと。博奕に限らず博徒の収入を指すこともある。

「村岡がなんなら。おどれ一人羽ぶりようしよって。博打の垢ならわしのほうが古いんじゃいうてよう云うとけ」 時森勘市

 

足を洗う 【あしをあらう】

 掟で縛られた社会から抜け、他の社会へと転じること。必ずしも堅気になることを意味せず、問題を起こしたやくざが博徒の足を洗ってテキヤになったり、テキヤの足を洗って博徒になるケースも多かった。

 

遊人 【あしばー】

 沖縄におけるやくざのこと。沖縄には戦後になるまでやくざは存在しなかったため、本来は遊び人・不良・無職のフータローといった程度であるこの言葉を当て嵌めた。

 

姐さん 【あねさん】

 親分や目上の女房のこと。姐御、おアネエサン。 親分が渡世上の親ならば、姐さんはいわば母親であるが、母親よりも格の低い姉と呼ばれることが女に権力を持たせないやくざ社会を象徴している。やくざは女性を大切に扱いはしても男と対等の存在であると見てはいないので、『極道の妻たち』シリーズの岩下志麻やかたせ梨乃のような姐さんは存在しない。

 夫である組長が死亡した後、妻である姐さんが女組長となったり(松田組・松田芳子)、時代の組長が決まるまで姐として権力を振るった例(小原組・小原光子、山口組・田岡フミ子)もあるがこれらは例外中の例外のケースといえる。

「あいつ、明石さんの直盃の舎弟にして貰えんかちゅうて、人を介して姐さんに頼み込んでるそうなんや」相原重雄

 

アンコ 【あんこ】

 刑務所内の男色関係における女役。深海魚のアンコウ(鮟鱇)は悪食で知られ、口に入るものならなんでも飲み込んでしまう。そのアンコウのように男性器をくわえ込むのでアンコと呼ばれる。“アンコ椿”のようにあねこ(娘)が音便変化して「あんこ」になったという説もある。

 

アヤ 【あや】

 因縁をつけたり文句をいうこと。「アヤをつける」のように用いる。

 

安全装置 【あんぜんそうち】

 銃器の暴発防止装置。セーフティ。解除しない限り弾丸は発射されない。

「おう、なにしとるんな、そんとらもん持ってから。安全装置が外れとらんど」

広能昌三

 

 い行

 

いなげな

 変な、おかしな。

「鳥めの外道が突つきおって、いなげな格好になっとるわい」 神原精一

 

いびせい

 怖い、恐ろしいという意味。いびせー。

「明石組がいびせいけん、シッポ振っとるんじゃ」 松永弘

 

一本独鈷 【いっぽんどっこ】

 大組織に所属せず独立を維持している組織のこと。単に「一本」とも言う。

 仏具の独鈷に由来する用語であり、博多織の一本独鈷と語源は同じである。

 

イモを引く 【いもをひく】

 怖気づくこと。恐れて物事から手を引くこと。薩摩芋を収穫するために蔓を引っ張っていると、当然のことながら体が後退することに由来する。「芋引く」のように用いることもあり、臆病者のことを「芋引き」という。

「指揮官が行かんのなら、イモじゃ、イモじゃ」 広能昌三

「天政会の外道らが攻めてきたら、イモ引くこたぁねえんぞ。やれぃ、やりあげちゃれぃ」 市岡輝吉

 

 う行

牛の糞にも段々がある 

【うしのくそにもだんだんがある】

 すべての物事には序列が存在することのたとえ。牛の糞にも段がある。

「牛の糞にも段々があるんで。おどれとわしが五寸かい」 大友勝利

 

唄う 【うたう】

 自白すること。謳う、歌う、などとも書く。

「神原が全部うとうてしもうた」 若杉寛

 

 え行

 

ええとこ付き 【ええとこづき】

 八方美人。作中では親分を乗り換えること。

「早川も早川よ。わが親分が詰まらんけんいうてよ、今度はあっちの親分にいうてええとこづきするようなもんは、わしゃ好かんわい」 松永弘

 

絵 【え】

 計略や策略、作戦や計画のこと。「絵を画く」のように使う。陰謀を企むことを絵を書くことに例えている。

 

絵図を画く 【えずをかく】

 計画や策略を企むこと。 「絵」と同義。

 

MP 【えむぴー】

 アメリカ軍憲兵隊。military police。戦後、進駐軍には日本の警察権が及ばないため、進駐軍兵士の犯罪を日本の警察官は傍観しMPが来るのを待つのが日常だった。米軍絡みの犯罪の捜査権もあるため、日本人が扱う盗難物資などを摘発することもある。また警察の手におえない凶悪犯や、やくざの組事務所の手入れ、暴動事件などの際には要請を受けて出動することもあった。

「MPじゃ、逃げぇ」 坂井哲也

 

 お行

 

大物をたれる 【おおものをたれる】

 大口を叩くこと。

 

侠気 【おとこぎ】

 義侠心、正義感といった任侠の精神のこと。

 

おとしまえ

 失敗の後始末のこと。

「位を云うんなら、死んだ杉原さんのオトシマエをきっちりつけとくことが、極道の位いうもんでしょうが」広能昌三

 

おどれ

 お前の意。

 

小父御 【おじご】

 親分の兄弟分のこと。現代では「おじさん」と言うことが多い。

 

小父貴 【おじき】

 小父御よりもやや格上の人間に用いる。

 

おちょくる

 からかうこと。

 

オメコ

 女性器のこと。西日本で広く使われている方言。

「いうならぁ、あれらはオメコの汁で飯食うとるんど」 大友勝利

 

オメコ芸者 【おめこげいしゃ】

 水商売の女性への蔑称。

「オメコ芸者、われはだまっとれ」 江田省一

 

親父 【おやじ】

 親分のこと。

 

親分 【おやぶん】

 やくざ組織の代表者。その肩書きは組長、会長、総長、総裁など様々なものがある。日本のやくざ社会は代表者が親となり、その下に弟分 【舎弟】と子分 【若衆】が従属する擬制的血縁関係を結ぶ。

 元々は血縁関係のない武士が擬制的血縁関係を結ぶ“寄親・寄子制”に由来する。

 

か行

 

稼業 【かぎょう】

 テキヤの商売やなりわい。

 

稼業人 【かぎょうにん】

 テキヤのこと。

 

ガサ 【がさ】

 捜査すること意味する警察隠語。「さがす」→「さが」→「がさ」と転じたもの。

 

ガサ入れ 【がさいれ】

 家宅捜索のこと。

 

回状 【かいじょう】

 回し文。昔は本当に回状を持った人間が各地を回ったが、明治以降は郵便で済まされるようになった。

 

カスリ 【かすり】

 上前のこと。上納金。

 

カッパ 【かっぱ】

 刑務所内の男色関係における男役。水辺に棲むと言われる妖怪・河童は人間を溺れさせ、尻子玉(肛門内にあると想像された架空の臓器)を抜き取るとされていた。男色の気がある囚人は河童のように人の尻を付け狙うことからカッパと呼ばれるようになった。

 

カバチを垂れる 【かばちをたれる】

 文句や屁理屈をいうこと。

 漫画『カバチタレ』や、矢沢永吉のアルバム『KAVACH』もこの語に由来する。

「おうおう、どうとでも云いないや、いよいよ動きがつかんけん電話でカバチたれるしかありゃせんのじゃろが、おう、クソ馬鹿たれ」 広能昌三

 

ガラス割り 【がらすわり】

 やくざの抗争におけるポピュラーな攻撃方法で、俗に“カチコミ”と称される。殺傷を目的とはせず、抗争相手の事務所の玄関に入っている代紋入りのガラスを割りに行く行為を指す。箱乗りした車から拳銃を発砲するのがポピュラー。

 抗争調停機関は発達した関東では、揉め事が起こったらとりあえずガラス割りで時間を稼ぐ。そのうちに顔役が抗争を調停しに来るするので、攻撃したことでこちらの面子も立つし、相手も人員的被害は受けていないので調停を飲む。ガラス割りをしたボンクラは男が上がるし、警察は自主してもらえるので捜査の手間が省け、八方丸く収まる。

 森田幸吉が「広島の喧嘩はガラスの割りあいじゃない。パン、と拳銃の音がしたら誰かが死んじょる」と述べたように、政治的駆け引きではなく本気で相手事務所に銃弾を打ち込む広島やくざは周囲に恐れられた。

 近年は銃刀法違反に加え、平成7年に親切された発射罪により、たとえ殺傷を目的としていなくとも量刑が重くなったことからあまり流行らなくなった。

枯れ木も山の賑わい 【かれきもやまのにぎわい】

 つまらないものでも、ないよりはましであるという意味。

「枯れ木も山のにぎわいじゃのぅ、このままじゃ枯れ木に山が食い潰されるわい」武田明

 

カリエス 【かりえす】

 脊椎カリエスのこと。結核菌が脊椎に転移し、骨を溶かしさまざまな障害や激痛を引き起こす。正岡子規がこの病気のために寝たきりとなったことが有名。

「わしゃカリエスで腰が立てんのじゃ、院長に訊いてみぃ」山守義雄

顔に電気がつく 【かおにでんきがつく】

 顔が赤くなること。

 

 き行

 

キュウチュウねこをかむ 【きゅうちゅうねこをかむ】

 「窮鼠猫をも噛む」と同義。

 

兄弟 【きょうだい】

 やくざ社会における擬制的血縁関係の一種。同じ組の者同士は紐帯を深めるためたり上下関係を明確にするため、他の組織の者とは友誼や組織の格や個人的な損得勘定によって関係を結ぶ。兄弟といっても兄貴分と弟分には格の差が生じることがあり、「五分の兄弟(ごぶのきょうだい)」「五厘下りの兄弟(ごりんくだりのきょうだい)」「四分六の兄弟(しぶろくのきょうだい)」「七三の兄弟(しちさんのきょうだい)」「二分八の兄弟(にぶはちのきょうだい)」などの種類に分かれ、後のものほどその格差が大きい。

 作中で「兄貴!」と呼びかけていても兄弟と呼ばれる間柄にはいくつかの種類があり、下の例に示すように1以外は厳密には兄弟ではない。

(1)兄弟盃を交わした間柄。本来の意味ではこの関係だけが兄弟である。

  ex.若杉寛と広能昌三、坂井鉄也と上田透、新開宇市と有田俊雄(以上仁義なき戦い)、打本昇と広能昌三・松永弘・武田明・江田省一(代理戦争)、大友勝利と市岡輝吉(完結篇)

(2)ノレン兄弟(暖簾兄弟。ノレン分けの兄弟)。同じ親分から盃を下ろされた子分同士はそれぞれが兄弟ということになる。直接兄弟盃を交わしたわけではないので、お互いの仲は険悪なこともある。

  ex.山守組結成時の坂井鉄也・広能昌三・新開宇市・神原精一・矢野修司・槇原政吉・山方新一

(3)廻り兄弟(まわりきょうだい)。自分の兄弟の兄弟は自分にとっても兄弟だ、という発想。AとBが兄弟かつBとCが兄弟の場合、AはCにとっても兄弟ということになる。

  ex.大松義寛と荒谷政之・加納良三(最後の博徒)

(4)年長者や有力者への敬称。

  ex.倉元猛が西条勝治に対して 【代理戦争】

 

侠客 【きょうかく】

 任侠に溢れた男の中の男のこと。任侠とは強気を挫き弱気を助ける精神のため別にやくざである必要はなく、不文律の連帯組織を持っている職業──テキヤ・町火消し・鳶・漁師・沖仲仕・車夫・鉱夫・石工・杜氏・女衒・芸者など──も侠客である。

 

侠気 【きょうき】

 義侠心、正義感といった任侠の精神のこと。おとこぎ。

 

斬り込み 【きりこみ】

 やくざ同士の首の取り合いのこと。間違い、出入り、殴り込みとは異なり、相手の殺傷を目的としている。明治以前のやくざの世界では抗争が起こっても相手を殺害することが稀だったためにこのような言葉が使われていた。

 

金筋 【きんすじ】

 筋金入りの極道ということ。

 

 く行

 

グレン隊 【ぐれんたい】

 関東大震災以降に出現し、戦後に威勢を誇ったテキヤでも博徒でもない不良集団。戦後は復員兵が闇市の支配権や復興後の縄張りを巡り、全国各地で博徒・テキヤ・三国人と抗争を繰り広げた。終戦後の混乱が収まると組織を持たない愚連隊は徐々に既存のやくざ社会へと吸収され消えていったが、本来のやくざとは筋目の異なる愚連隊を吸収したことから博徒・テキヤの暴力団化が始まったと言える。

 グレン隊は既存の親分から盃を下ろされていないためやくざではない。そのため愚連隊のままで終わった安藤昇や安部譲二は警視庁の前科者リストではやくざとして扱われてはいない。同様に万年東一は大日本一誠会を組織したから右翼である。漢字で「愚連隊」と当てるのは「ぐれる」から来ているとも、「当時何にでも“連隊”をつけるのが流行したから」ともいわれている。

 やくざのように掟や組織に縛られない自由なアウトローとして愚連隊は今でも人気があり、安藤昇、万年東一、加納貢、花形敬などは伝説的存在としてしばしば創作物の題材になっている。

 映画『仁義なき戦い』の登場人物では、打本昇、早川英男などの打本組関係者が愚連隊出身で、打本が村岡親分の舎弟になった際に正式なやくざになっている。

 

組 【くみ】

 やくざ組織のもっとも普遍的な名称。慣習的に初代の親分の名前を冠することが多い。例:山守組─山守義雄組長、広能組─初代組長・広能昌三

 実際に存在する例では、戦後日本最大のやくざ組織である山口組が初代組長である山口春吉の名前からつけられている。

 昔からやくざ社会は箔付けのために武家組織から名称を借りることが多いが、この“組”という名称も元々は、江戸幕府の百人組、伊賀組、槍組、鉄砲組、御先手組、やくざの元祖とも言える旗本奴の白柄組、六法組、神祇組などに見られるような武家の組織単位である“組”に由来している。

クロスオーバー 【くろすおーばー】

 映画・小説・アニメ・ゲームなどの分野において、作品間の壁を越えて登場人物や設定が他の作品に登場すること。

『極道VSまむし』(1974年)─『まむしの兄弟シリーズ』のまむしの兄弟ことゴロ政と勝次が、『極道』シリーズの島村清吉が率いる島村組の地元・大阪釜ヶ崎へとやってくる

『極道VS不良番長』(1974年)─釜ヶ崎を後にして岐阜で商売に励む島村清吉と、清吉一家と地元暴力団の対立を金儲けに利用しようとする『不良番長』シリーズ・カポネ団の激突

『直撃地獄拳 大逆転』(1974年)─網走刑務所へと送られた主人公たちの前に、『網走番外地』のレギュラーキャラクター・八人殺しの鬼寅親分が現れる

『堕靡泥の星 美少女狩り』(1979年)─ヒッチハイクを『トラック野郎』シリーズの星桃次郎が主人公の父親をヒッチハイクで乗せる

『地獄』(1999年)─『ポルノ時代劇 亡八武士道』(1973年)で死亡し地獄に堕ちた明日死能が主人公を助け獄卒を斬る

 

 け行

 

撃針 【げきしん】

 銃の撃発装置の部品。雷管を打撃し、発射薬を発火させる。

「撃針がイカレとるげじゃけん、みとってくれ」 広能昌三

 

ケツをかく 【けつをかく】

 そそのかすこと。

「おどりゃ武田にけつかかれてよ跡目に欲あるけんそれでもよかろうがよ。こっちはそう単純にはいかんのじゃ」 松永弘

 

ケツを割る 【けつをわる】

 逃亡すること。

 

原爆 【げんばく】

 原子爆弾。ここでは1945年8月6日にアメリカ合衆国が広島市へ投下した原爆のこと。東京大空襲の八倍のエネルギーにより市外を焼き払い、衝撃波や放射能、火災によりの十数万人におよぶ被害者を出した。二次被爆、胎内被爆より戦後も多くの人々が苦しめられた。

 広島の大親分であった渡辺長次郎が原爆で亡くなったことがその後の仁義なき戦いの原因ともなった。また二代目共政会会長・服部武の持病である貧血症は被爆のためであるという説もある。

 

原爆スラム 【げんばくすらむ】

 広島市基町一体に存在した木造密集住宅地のこと。原爆により家財を失った人々がバラック小屋を建てて住み始め、引揚者などが流れ込みスラム化した。被爆者、低所得者、朝鮮人労働者が多く住んだことから社会問題となった。

 

原爆ドーム 【げんばくどーむ】

 広島原爆の象徴とされる建造物。旧名・広島県物産陳列館。1945年8月6日の原爆投下の際、上空が爆発地点だったため衝撃波が窓から抜けて建物が残存した。1996年には世界遺産 【文化遺産】に登録された。

 仁義なき戦いではオープニングやエンディングで広島の象徴として登場する。

 こ行

 

後見人 【こうけんにん】

 世間一般での後見人と同じ。

 

呉越同舟 【ごえつどうしゅう】

 仲の悪い者同士が一緒に行動すること。出典は「孫子」九地篇。

「やめい、やめい。呉越同舟じゃ」 武田明

 

極道 【ごくどう】

 暴力団と呼ばれるのを嫌ったやくざが生み出した自称。 道 【博徒は任侠道、テキヤは神農道】を極めるという意味で、「極道息子」のような否定的ニュアンスは含まれていない。

「ま、お前等同士で決めい。いうとくがよ、子が親に金をだししぶる極道がどこにおるんなら」 山守義雄

「わし、マーケットでこみおうたやつ等、らみんなブチ殺しちゃろう思うちょりますけん、極道にさしてつかぁさい、たのんます」 山中正治

ここら

 このあたり、この辺。

「こんなもここらで男にならにゃぁ、もう舞台は回って来んど」 川田英光

木っ葉喰らわす 【こっぱくらわす】

 こてんぱてんにするという意味。

 

ゴンゾウ 【ごんぞう】

 沖仲仕の蔑称。明治以降、港湾・土木事業の発展とともに、沖仲仕や土方の勢力が盛んになりった。中には勝手に賭博を開帳したり、賭場を荒らすなどして既存の博徒と衝突することが多かったことから博徒が喧嘩の「ごろ」から嘲ってつけた呼び名。

こんな

 あなた、おまえ、の意味。

「こんなと飲んだら死んだもんにすまんけえのぉ」 広能昌三

さ行

 

盃事 【さかずきごと】

 祝いごとのこと。

 

さがりぼんぼ

 さげまん。肉体関係を持った男性の運を下降させる女のこと。「ぼんぼ」は「まん」同様に女性器を意味する九州地方の方言。

 

ささらもさら

 むちゃくちゃ、めちゃくちゃにすること。 

「おう。お前ら。構わんけぇ、そこらの店をささらもさらにしちゃれい」

 

市岡輝吉さす

 警察に密告すること。昔は博徒の間では忌み言葉とされ、錐はもみ込む、針をぬう、などと“さす”という言葉を避けた。

 

三国人 【さんごくじん】

 第三国人。終戦後、朝鮮人・中国人・台湾人は戦勝国でも敗戦国でもない「第三国人」「解放国民」であると自称し、無法の限りを尽くした。無力な警察に替わってそれと対決したのが戦後のやくざ・愚連隊である。

 

三下 【さんした】

 ヤクザの最下級。若いもの、若い衆、若者。博徒の役職は貸元、代貸、出方と三段階あるのだが、それらのさらに下であるという意味。自らを卑下していう言葉であって、他人から言われた場合は喧嘩になるだろう。

 

 

ジギリをかける 【じぎりをかける】

 体を張ること。服役することや、自分で自分の体を傷つける行為をさす。濁らずに「ジキリ」と用いることもある。漢字では「自切り」と書く。

 

シケ張り 【しけばり】

 見張りのこと。

「表のシケバリが解けたら広島へ押し出すけん、用意しとけい」

 

広能昌三しご

 やっけつける、始末をするという意味。

 

四方席 【しほうせき】

 四方同席。 四方同朋、席順無差別の意味で、盃事の席などに貼りだされる。やくざは貫目を重んじ席順にうるさいためこういった気配りが必要とされる。

 

島 【しま】

 一家の縄張りから一部をあずかって管理する勢力範囲。縄張りは組のものだが、島は管理者のものではないため、「島をあずかる」と言う。

 

しめる

軽度の制裁のこと。

 

地回り 【じまわり】

 元々はならずもののこと。近年ではシマを巡回したり、カスリを取り立てることを意味するようになった。

 

舎弟 【しゃてい】

 兄弟盃をした間柄における弟分。やくざ社会における擬制的血縁関係の一種。

 

舎弟頭 【しゃていがしら】

 組長の弟分たちの代表となる実力者。舎弟会、兄弟会を束ねる役柄。

 

蛇の道は蛇 【じゃのみちはへび】

 同類の者は互いにその方面のことに通じているという意味。同類の者がすることは良くわかる、という時に用いる。

 

じゃもかも港祭り 【じゃもかもみなとまつり】

 じゃもかも祭り。毎年六月に神奈川県生麦で行われる祭り。「じゃもかも」は「蛇も蚊も」から来たという。

 

ジャリパン 【じゃりぱん】

 街道でドライバーなどを相手にする娼婦。 「ジャリ道のパンスケ」の略称。

 

ションベン刑 【しょんべんけい】

 短期刑、微罪ということ。

 

シロクロ 【しろくろ】

 シロクロショー。ストリップ用語で男女のカップルがSEXを観客に見せるショーのこと。

 

仁義 【じんぎ】

(1)中国の思想家・孟子が最も尊ぶべきとした徳目、仁と義のこと。仁は人情、義は義理を意味する。 

(2)1が転じて、やくざの仲間内のしきたりや決まりごと。

(3)博徒の作法、あいさつのこと。近づき仁義作法の略称。なお戦後の広島には仁義を切る習慣はない。

 「山守の下におって、仁義もクソもあるかい」坂井哲也

 

 

仁義なき戦い 【じんぎなきたたかい】

(1)美能組元組長・美能幸三の手記を元に飯干晃一が週刊サンケイに連載したノンフィクション。

(2)飯干の原作を元にした東映実録路線映画。監督・深作欣二、脚本・笠原和夫(『完結篇』のみ高田宏治)、主演・菅原文太。

(3)1や2で描かれた四半世紀におよぶ広島やくざ抗争の通称。特に第二次広島抗争(広島代理戦争、第二次広島けん銃抗争事件、広島戦争、広島やくざ戦争、広島ヤクザ戦争、広島事件)を指すことが多い。

(4)1~3が転じて、泥沼の激しい争いのこと。

  肉じゃが発祥をめぐる旧海軍港・仁義なき戦い!?

  サイバー犯罪者の仁義なき戦い

  スーツ業界版「仁義なき戦い」は果てしなくつづく!?

  名人戦争奪「仁義なき戦い」

 

進駐軍 【しんちゅうぐん】

 第二次大戦後、日本を占領・統治するために駐留した連合国軍。“占領”というマイナスイメージをなくすために、占領軍ではなく進駐軍と呼ばれた。帝国海軍の軍港であった呉にはアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、インド、スコットランド、ネパールなどの軍隊が駐屯していた。 

「やめとけ、相手は進駐軍じゃ」 

 

神農道 【しんのうどう】

 テキヤは神農皇帝を崇め、博徒は天照大神を崇める。前者が稼業人の神農道であり、後者が渡世人の任侠道である。

「競輪はバクチじゃけん。バクチうちのテラじゃろうが。神農道の稼業人が手をつけては仁義が立たんと言いよるんど」 大友長次

 

スケ 【すけ】

 女のこと。「女番長」と書いて「スケバン」と読むのが東映魂。

 

筋者 【すじもの】

 本来は渡世の筋を守った立派な博徒のこと。今日では嘆かわしいことに、博徒どころかヤクザであれば誰でも筋物と言われてしまう。

 

墨 【すみ】

 刺青のこと。「イレズミ」では江戸時代に囚人へ刑罰として行われたものになってしまうので、「ホリモノ」「スミ」「キズ」などと呼ぶ。

 

スピンアウト 【すぴんあうと】

 映画・小説・アニメ・ゲームなどの分野において、作品に登場するの主人公以外のキャラクターを異なる作品の主人公として登場させること。

『シルクハットの大親分』『シルクハットの大親分 ちょび髭の熊』 緋牡丹博徒シリーズの人気キャラクター・熊虎親分こと熊沢虎吉を主人公とした作品

『人斬り観音唄』 極悪坊主シリーズのライバルキャラクター・了達を主人公とした作品

 

 

青酸カリ 【せいさんかり】

 推理小説や二時間サスペンスでおなじみの毒物。シアン化カリウムの通称。日本では毒物及び劇物取締法で毒物に指定されている。

 実際に広島抗争でも青酸カリをまぶした弾丸が使用されたことがあるが、期待されたような特殊効果を発揮することはなかった。劇物の取り扱いに不慣れなやくざが空気に触れさせたり日光に晒したため、無毒化してしまったためである。

「青酸カリです。こいつをマブしてブチ込んだりゃア一発でコローッとイキよりますけん」 竹本

 

政治結社 【せいじけっしゃ】

 政治団体。特に申請などは必要ないが、アピールのため地元の選挙管理委員会へ登録することが多い。なおこの名称は右翼が主に用いる。

 やくざ社会では、昭和三十四年に松葉会がはじめて政治結社を名乗ったことが有名。東映映画『日本の首領』に登場する関東連盟のモデルになった関東会(錦政会──現・稲川会、住吉会、松葉会、日本国粋会──現・國粹会、義人党、東声会──現・東亜会、北星会が参加】も政治結社の一種。

 

絶縁 【ぜつえん】

 やくざの処分のひとつ。最も処分が重く、ヤクザを引退して堅気にならなければ、親分に刃向かったと見なされる。絶縁状が各組織に送られるため、対象者はやくざ社会で生きていけなくなる。

 絶縁後も独立組織として組を存続させた例としては、三国事件(映画『北陸代理戦争』のモデルとなった“北陸の帝王”こと川内弘射殺事件。波谷守之が殺人教唆の冤罪で逮捕される)で山口組を絶縁された菅谷組・菅谷政雄組長(通称・ボンノ)が有名だが、組織は衰退を続け最終的には解散している。

 

ゼロ戦 【ぜろせん】

 旧日本海軍の代名詞的戦闘機「零式艦上戦闘機」の愛称。日中戦争から太平洋戦争終結まで主力として活躍した名機。仁義なき戦いシリーズの脚本家・笠原和夫は後に零戦に関わる男たちを描いた東宝映画『零戦燃ゆ』を手がけている。

 

センズリ 【せんずり】

 男性のオナニーのこと。マスターベーション、自慰、手淫。 

「これだけ大勢の若いもんがおってから、センズリかいて仁義で首くくっとれ云うんかい」 大友勝利 

 

外 【そと】

 娑婆のこと。刑務所の外の意味。 

た行

 

代貸 【だいがし】

 博徒組織のなかで、貸元(親分)の下で実際に賭場を取り仕切る役職。戦後の近代的組織では舎弟頭がこの地位を兼ねることが多い。

 東映やくざ映画で描かれる代貸としては、『人斬り与太 狂犬三兄弟』『仁義の墓場』で暴走する主人公に苦労させられる中間管理職の室田日出男が印象深い。

 

ダイナマイト 【だいなまいと】

 ニトログリセリンを主剤とする爆薬の総称。構造が簡単で制作が容易なことから、「ピース缶爆弾事件」などで過激派がテロに使用した。同様のメリットはやくざにもあるため、第二次広島抗争では山村・打越両陣営ともにダイナマイトを利用した手製爆弾で拠点攻撃を行った。服部武の指揮による田岡邸爆破事件は当初本多会の仕業と偽装しようとしたものの、ダイナマイトを抗争に用いるのは広島やくざぐらいなものであるため、警察・山口組双方にその正体をすぐに見抜かれてしまった。

 

代理戦争 【だいりせんそう】

 米ソ冷戦時代、核保有国同士は共倒れになる危険があるため直接の交戦ができなかった。そのためそれぞれの陣営が支持する勢力へ兵器や資金を援助行い、それにより引き起こされた局地戦のこと。朝鮮戦争、ベトナム戦争などが代表例。またそのようなシチュエーションをあらわす用語として使われる。

タコの糞で頭に上る 【たこのくそであたまにのぼる】

 自分は思い上がって偉そうに振舞っているが、他人には馬鹿にされていること。蛸の内蔵が頭にあることに由来する(実際にはあれは頭ではなく胴体)。

 余談だが、広島は蛸の水揚げ量では全国有数の土地であり、なかでも呉はいまや三原市に代わって蛸壺漁(たこつぼ)の本場として知られている。

「おどりゃ、タコのクソ頭のぼりやがって!」広能昌三

 

立合人 【たちあいにん】

 式に立合い後日の商人となる役柄。見届人よりは格下の人間が担当する。

 

旅 【たび】

 広島弁でよそ、という意味。

「広島極道はイモかもしれんが、旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで」  武田明

 

タマ 【たま】

 相手の命のこと。「タマをとる」のように用いる。

たれこむ

 自分で喧嘩ができずに他人に頼ること。警察に走り込むこと。

たれこみ

 もめごとを警察へ持ち込むこと。

 

 ち行

 

筑豊 【ちくほう】

 旧国名の筑前と豊前のこと。福岡県および大分県北部に相当する。

「男は筑豊たい」

 

チラシ 【ちらし】

(1)回状のこと。

(2)やくざ社会の儀式(襲名披露、結縁式、放免祝い)や冠婚葬祭の案内状。奉加帳。

 やくざは義理事を重んじるため、仲の良くない組織であってもチラシに名前を載せたり、チラシを配るのが慣習となっている。東映映画『日本の仁義』ではチラシを巡って抗争が勃発するが、これは本多会二代目会長・平田勝市と松葉会会長・藤田卯一郎の縁組の際、チラシに山口組系列組織の名前がないことが問題になったことをモデルにしている。

 

チャカ 【ちゃか】

 拳銃のこと。弾倉の回転する音に由来する。主に関西方面の隠語。

 

仲介人 【ちゅうかいにん】

 抗争の手打ちの際、当事者の間を取持つ役柄。大物でなくては勤まらない大役。仲裁人。

 

頂上作戦 【ちょうじょうさくせん】

 東京オリンピック開催を期に、やくざ組織の巨大化に対抗すべく全国警察が一体となって実施した暴力団の組長・幹部の逮捕および組織解体作戦のこと。ことに連日新聞でも大きく取り上げられた広島抗争が主原因のひとつ。第一次(1964年~1969年)から第三次(1975年~1978年)までの計三回行われた。全国のやくざの1/3にあたる5万人が検挙され、多数の組織が解散に追い込まれた。反面、企業舎弟などに代表されるシノギの合法化、麻薬・売春など非合法部門の地下組織化、二次団体・三次団体の再編成、広域暴力団が群小組織を吸収し系列化するなどのやくざ組織の近代化改革をもたらした。

 

朝鮮ピー 【ちょうせんぴー】

 朝鮮人娼婦のこと。“ピー”は売春婦または女性器を意味するが、その語源は中国語とも英語とも言われ定かではない。

 

チンコロ 【ちんころ】

 警察に密告すること。

「おい、若杉の兄貴の隠れ家を地図に書き込んでサツにチンコロしたんは、おどれらか?」 広能昌三

 

チンピラ 【ちんぴら】

 かけ出しのやくざのこと。最低の数詞「チンケ」と平社員などに使う「ヒラ」が合わさったもの。盗賊用語で子供を意味する、という説もある。

 

 つ行

 

つとめ

 刑務所入りのこと。服役。

 て行

 

出入 【でいり】

 一家をあげての喧嘩のこと。やくざの抗争にはいずれ仲裁が入るのだからお互いの顔を立てるために、喧嘩ではなく出たり入ったりしただけということにしておくことから。

 

手打ち 【てうち】

 和解が成立すること。

 

テキヤ 【てきや】

 露天商、大道商人、香具師。漢字では的屋、テキ屋と書く。神農皇帝を商売の神として崇めることから神農とも呼ばれる。

 本来のテキヤは露天経営者の自治組織としてやくざに似た擬制的血縁関係を結んではいてもやくざとは異なるものだったが、明治維新以降は博徒同様のやくざと見なされることが多い。関東大震災や敗戦により博徒社会が衰退するとテキヤ集団は闇市を支配し、やくざとしてその勢力を大きく拡大した。

 映画『仁義なき戦い』では、テキヤ大友組の跡取息子である大友勝利が博徒村岡組のシマで博奕を開いたことにより抗争が勃発するが、実際の第一次広島抗争ではテキヤの領分である闇市の利権を岡組(村岡組のモデル)が握ったことに村上組(大友組のモデル)が反発したのが原因である。

 

鉄砲玉 【てっぽうだま】

 行ったきりで戻ってこない人間のこと。やくざ社会では、他の組織の縄張りに送り込み、相手を挑発することで抗争のきっかけをつくる人間を意味する。多くの場合は殺されることでその役目を果たすことになる。近年では敵対組織幹部へのヒットマンを意味することが多い。

 実在の人物では、山口組が九州へ侵出するきっかけとなった博多事件(夜桜銀次事件)を引き起こしたことで知られる、夜桜銀次こと平尾国人 が有名。ヒットマン型鉄砲玉としては、ベラミ事件(京都のクラブ・ベラミで山口組組長・田岡一雄を銃撃した)の鳴海清が挙げられる。この二人は伝説的な鉄砲玉として、映画、小説、漫画などさまざまな媒体でその生涯が語られ続けている。

映画では鉄砲玉に仕立て上げられる無知なチンピラといえば渡瀬恒彦の演技が絶品で、ATG『鉄砲玉の美学』、東映『日本の首領』でその死に様を見ることができる。

 

手のすける 【てのすける】

 歯が浮く、見え透いた、という意味。

 

テラ 【てら】dt>

 博打のあがり。語源は「江戸時代、隠れ蓑のために寺で開帳して場所代を払ったから」という説と、「ドテラ(温)、テテラ(褌)などのテラと同義で、布や布団の意味である」という説がある。

 

天ぷら 【てんぷら】

 戦後の流行語で偽学生という意味。衣=学生服をつけているという駄洒落。

 

 と行

 

道具 【どうぐ】

 抗争で使用する武器のこと。主に拳銃をさす。

「こんな、道具持っとるんか」 坂井哲也

 

トコロ 【ところ】

 地元のこと。

 

所払い 【ところばらい】

 ヤクザの処分のひとつ。地域を限定した追放処分。

 

ドス 【どす】

 刃物のこと。長いものは長ドスという。現在では刃物は「長いの」といい、ドスは「ドス」を効かすのように口先を指すようになった。

 

渡世 【とせい】

 無職渡世の略語。博徒の世渡りのこと。テキヤの場合は無職ではなく商売(バイ)をやっているので渡世とはいわない。

 

渡世人 【とせいにん】

 博徒のこと。

 

渡世名 【とせいめい】

 博徒の渡世上の名前。博徒の場合は“稼業名”。芸名・ペンネーム・リングネームのように本名とかけ離れたものではなく、縁起を担いで名前を変えたり、優しそうな名前をいかつい名前にするようなものが多い。

 ありふれた苗字のやくざの場合、警察・新聞の資料を当たるときには渡世名を把握していないと混乱を来たしてしまうことがある。

ex.美能幸三→美能武雄、稲川角二→稲川聖城(稲川会総裁)、篠田建市→司忍(六代目山口組組長)

 

突破者 【とっぱもん】

 向こう意気の強い直情径行の人間のこと。宮崎学の著作『突破者』のタイトルはこの言葉に由来する。

 

賭場 【とば】

 博奕をするところ。狭義には盆の敷いてあるところを意味する。道場ともいう。

 

取持人 【とりもちにん】

 親子、兄弟、跡目相続の杯などを取持つ役柄。一家の幹部がこの役になる。

 

トル 【とる】

 殺すこと。漢字では当て字で「殺る」と書く、と東映宣伝部がデッチあげた。

「広島のケンカいうたらよ、殺るか殺られるかの二つしかありゃせんのじゃけぇ」 広能昌三

「広島やくざ用語≪トル≫=殺す!」

「殺れい! 殺ったれい! こいつらは何回、そう叫んだか!?」 以上二点、仁義なき戦い広島死闘篇新聞広告

な行

中 【なか】

 刑務所のこと。外界である娑婆に対して、中という。

「あれの脱走の目的は靖子よ。誰かが中で言うとるんじゃ」村岡常夫

 

殴り込み 【なぐりこみ】

 縄張り争いによる喧嘩のこと。間違い、出入り同様に、日本刀や拳銃を使用した場合でもちょっと殴りかかっただけということで最終的に仲裁が入ることを前提としている。

縄張 【なわばり】

 一家の勢力範囲のこと。縄を張って境界線を決めたことに由来する。

 

 に行

 

握り金玉 【にぎりきんたま】

 何もしないこと。何もすることがなくきんたまを握ってみるぐらい暇で手持ち無沙汰なことから。

「これまでは打本の兄貴が面倒をみてくれてたんですがの、近頃あの人も握りキンタマになっとってじゃけん」 川田英光

 

任侠 【にんきょう】

 強気をくじき弱気を助けること。義のためには命を惜しまないという精神。男気。男伊達。

「任侠道か……そんなもんは俺にはねえ……俺は、ただの、ケチな人殺しなんだ」 中井信次郎@博奕打ち 総長賭博

 

 ぬ行

 

ヌードスタジオ

 性風俗の一種で、客がヌードモデルを自由に撮影するもの。

 

 ね行

 

ねき

 根際。そば、かたわら。

「わしもねきで聞いとりましたけん」 槇原政吉

 

念達 【ねんたつ】

 念を入れて伝達すること。こみ入ったことがらに対して、きっちり申し入れすること。近年では挨拶や苦情といった意味でも使う。

 

 の行

 

脳梅 【のうばい】

 エイズ以前は最も猛威を奮った性病(性感染症・STD)である梅毒の一症状。菌が脳、脊髄、神経を侵し、感情障害や麻痺性痴呆といった状態になる。

 梅毒は歯茎からの出血や虫歯、歯肉炎や口内炎などの条件により、その場で盃を共用しただけでも感染する可能性がある。

 

野良をつく 【のらをつく】

 やくざになること。

「わしら、もう野良突く程の性根はありゃせんのよ」 広能昌三

は行

 

場 【ば】

 賭場のこと。「場が立つ」とは博奕ができる状態を意味する。

 

媒酌人 【ばいしゃくにん】

 取持人、仲介人の補佐を行う役柄。 取持人、仲介人の子分であることが多い。

 

ハイ出し 【はいだし】

 恐喝や強請(ゆすり)のこと。ハイダシ。「ハイ出しをかける」のように用いる。

吐いた唾は呑めぬ 【はいたつばはのめぬ】

 一度口にした言葉は取り消すことができない、という意味の諺。

「そうか、われらも吐いた唾のまんとけや。わかったら、はよイね」 岩井信一

 

博徒 【ばくと】

 博奕打ち、博打うち。賭博で生計を立てているやくざのこと。本来はヤクザとは博徒を指す言葉だった。

 ちなみに広島抗争に関わったやくざ組織は、テキヤである村上組や愚連隊である北陽同志会を除き、ほとんどすべての組織が博徒である。

 小原組や打越会はよく愚連隊あがりと言われるが、前身はどうあれ賭場を開帳しているので警察の資料ではちゃんと博徒に分類されている。

「これからは博徒大友組じゃけん、仲良うしてつかいや、のう」 大友勝利

パクられる

 警察に捕まること。

「岩井が応援に行ってパクられてしもうた」 相原重雄

 

ハジキ

 拳銃のこと。弾をはじくことに由来する。主に関東で使われる隠語。

 

バシタ

 女房のこと。

 

法被 【はっぴ】

 昭和20年代当時、呉・広島のやくざ社会では羽二重で仕立てた法被が流行していた。背中に大きく組織名や親分の名前が入っており、現在の代紋バッチのように組員のシンボルとされた。

 映像作品ではVシネマの『鯨道10 広島ヤクザ抗争史総完結篇 猛侠・門広』『実録 鯨道12 広島列侠伝・悪魔の大西政寛』『実録 鯨道13 広島任侠伝・美能幸三』などでその姿を見ることができる。映画『仁義なき戦い』のやくざファッションは実際には70年代当時の関西やくざを参考にしているため、法被は劇中には登場しない。

 

破門 【はもん】

 やくざの処分のひとつ。所属する組織から追放であり、その事実は全国の組織に破門回状(破門状)で知らされ、他の組織がその人間に関わった場合は破門した組織への敵対行為であると見なされるためやくざ社会からの追放処分でもある。重い処分ではあるが、本人が深く悔悟した上で折をみてそれなりの仲裁人を立てて詫びを入れ、許されれば親元に返ることもできる。関東のやくざは破門状に印刷された文字の色から、永久絶縁処分を「赤字破門」、復帰が可能な破門を「黒字破門」と言い習わしている。

 破門状絡みのトラブルとしては、住吉連合会系の幸平一家内池田会・池田烈会長が池袋事件の引責として赤字破門になった際、九州の道仁会・古賀磯次会長が池田元会長を引き取り身内にしようとした池田烈事件が有名。この道仁会の態度は住吉連合会のみならず、関東博徒社会への挑戦と受取られ関東二十日会との抗争勃発寸前にまでなった。最終的には調停機関としての関西二十日会が真価を発揮し、道仁会が池田元会長受入を断念することで抗争は回避された。

 

番長 【ばんちょう】

 不良集団の首領格のこと。戦後、新宿に歌舞伎町が出来始めたころの新宿駅七番線・八番線ホームにたむろする不良学生集団が存在した。このグループは「バンセンよた(七番線・八番線ホームの与太者)」、首領が「バンチョウ(番線与太の長)」と呼ばれていたことに由来している。

 梅宮辰夫が演じる神坂弘が暴れまくる映画『不良番長』シリーズは、不良ではない番長は存在しないのだからタイトルは「馬から落馬」式の重複表現である。

 

 ひ行

 

広島抗争 【ひろしまこうそう】

 戦後の広島・呉で四半世紀渡り繰り広げられた暴力団抗争の総称。狭義には東映映画『仁義なき戦い 代理戦争』『仁義なき戦い 頂上作戦』で描かれた広島の地元やくざと山口組系組織の抗争である第二次広島抗争(第二次広島けん銃抗争事件、広島代理戦争、広島事件、広島戦争、広島ヤクザ戦争など様々に呼ばれている)のことを指す。広義で使われる場合は、備後地方における浅野組と篠原組の抗争、浅野組と侠道会の府中戦争、福山、三次といった地域の抗争事件も含む。

 広島抗争という呼び名は警察ではなくマスコミによる造語のため、第三次抗争以降に勃発した共政会の内紛(血の粛清こと新井組・岩本組粛清事件──岩本組は『代理戦争』で小森のモデルになった宇部の岩本組とは別組織、広島駅新幹線ホーム乱射事件、共政会幹事長・清水組清水毅組長射殺事件、青木組絶縁事件など)を第四次抗争、第五次抗争と定義している向きも存在する。

第一次抗争(1946年8月~1959年10月)……戦後の新興勢力である博徒・岡組と伝統的テキヤ・村上組が広島駅前闇市の覇権を巡り断続的に繰り広げた抗争。同時期に呉で勃発した山村組・小原組・海生組三派連合と土岡組の抗争、山村組内佐々木派・小原組と山村組内今田派・土岡組残党の抗争、山村組内佐々木派・小原組内岡崎派と小原組内門派の抗争(これら三つの事件を総称して呉けん銃事件という)と並列して語られることが多い

第二次抗争(1963年4月~1964年10月)……山口組の山陽地方進出に端を発した山村組と打越会の抗争。打越会を山口組が、山村組を本多会とそれぞれ大組織が援助したことから俗に広島代理戦争と呼称される。抗争初期は山村組・山口(英)組などの連合対打越会・美能組・小原組・岡組・西友会・河井組などの連合という図式だったが、抗争後期には山村組は村上組・浜部組などと広島やくざの連合組織・共政会を発足させ、共政会対打越会連合という図式になった

第三次抗争(1969年10月~1971年9月)……広島やくざの連合組織・広島共政会三代目会長の座を巡る抗争。呉における共政会樋上組と美能組・小原組の抗争(呉2丁けん銃事件)、広島における共政会と村上組・宮岡組の抗争、大阪・尾道における共政会・浅野組・千田組と十一会梶山組・侠道会・北陽同志会の抗争(大阪事件・尾道事件・府中戦争)と各所で勃発した事件の総称

ヒンガモ 【ひんがも】

 カモのこと。くみしやすい相手の意。

 

 ふ行

 

プーヤ 【ぷーや】

 野球賭博を商売にする人間のこと。歩ウ屋(ブウヤ、ブーヤ)。多くがダフ屋を兼ねていたため、単にダフ屋のことを指す場合もある。

「舐められとったらプーヤは終いで」 藤田正一

 

復員 【ぶしょくとせい】

 博徒の世渡りのこと。この言葉から博徒のことを渡世人と呼ぶようになった。

 

無職渡世 【ぶしょくとせい】

 博徒の世渡りのこと。この言葉から博徒のことを渡世人と呼ぶようになった。

 

府中 【ふちゅう】

 広島県府中市(備後府中)のこと。「府中」という地名は律令制度の行政府である国衙が置かれた「国府」の別名のため、北海道と沖縄を除く日本全国に存在しているが、説明がない場合は地元と解釈できる。同じ広島県に安芸郡府中町(安芸府中)が存在するが、小さな町でありやくざが抗争を繰り広げるような都市ではない。

ふとい

 偉い、立派な。

「ええもん貰うたのぅ、そりゃスイス製の何十万もするもんで。おやじさんいう人は、ああいう腹の太いお方よ」 松永弘

 

 へ行

 

ペイ 【ぺい】

 阿片系の麻薬・ヘロインの隠語。ペー、ペエ。白い粉末であることから中国語で「白(ペイ)」と呼ばれていたことに由来する名称。今日ではヘロ、H、白い粉、クイーンオブダウナーなどと呼ばれる。

 アヘンから抽出したモルヒネをさらに化学処理し精製することにより作られ、日本では昭和28年に施行された麻薬及び向精神薬取締法により取締対象となっている。

ペイ中 【ぺいちゅう】

 ヘロイン中毒者。ヘロインに限らず、麻薬中毒者や薬物中毒者全般を指して使われることもある。

 

 ほ行

 

放免祝い 【ほうめんいわい】

 刑務所づとめをつとめあげた人間への出所祝い。

ポルノ 【ぽるの】

 「ポルノグラフィー」から鈴木則文が作り出した造語。今日では「児童ポルノ」などのように公文書にまで使われるようになった。

盆 【ぼん】

 賭博のこと。

盆暗 【ぼんくら】

 チンピラのこと。漢字では「盆暗」と書き、盆に暗い=博奕に疎い半人前という意味の博徒用語だった。

「大友の実子とツルんどるボンクラです」 江田省三

「どうせそこらのボンクラじゃろ」 打本昇

盆ござ 【ぼんござ】

 博奕を打つ際に使うござのこと。盆蓙または盆胡座と書く。

盆屋 【ぼんや】

 賭場のこと。

「おう、闇屋でのしゃ上がった成金の盆屋は愛想がないのう」 上田透

ポン 【ぽん】

 覚せい剤の一種・メタンフェタミン系中枢神経刺激薬の隠語。現在ではシャブ、スピード、エス、冷たいの、などと呼ぶのが一般的。

 大日本製薬の商品名「ヒロポン」の略称に由来する。ヒロポンは現在でも大日本製薬の後進である大日本住友製薬で製造されている。

 戦中は戦略物資として運用され、特務機関・パイロットなどの軍人や軍需工場の職工に支給されていた。戦後はそれら軍需物資が民間に流出し、小説家、芸人、娼婦、受験生などの間で乱用された。無頼派の作家・織田作之助には演台でヒロポンを射ちながら講演をしたエピソードなどが残っている。

 ちなみに「覚醒剤」と書くと特定の商品名になってしまうので、「醒」はひらくのが正しい。

「有田、ポンは止めえいうとるんが聞けんのか」 坂井哲也

「モロッコ、ポンは止めろ」 稲原龍二@修羅の群れ

ポン中 【ぽんちゅう】

 覚せい剤中毒のこと。または覚せい剤中毒者。

 覚せい剤取締法施行以降、覚せい剤は暴力団の有力な資金源になった。ところが「ミイラ取りがミイラになる」という諺のように、ポンの売人を仕切るやくざが好奇心から手を出してしまい、そのままポン中となってしまうことが相次いだ。『仁義の墓場』の石川力男、『私設銀座警察』の渡会菊夫、『修羅の群れ』のモロッコの辰こと出水辰雄などはそういった事実を踏まえた描写になっている。

ポン友 【ぽんゆう】

 親しい友人のこと。朋友の中国語読みに由来する。

ま行

マエ 【まえ】

 前科のこと。

間違い 【まちがい】

 喧嘩、いざこざのこと。やくざの喧嘩はそのうちに仲裁人が入るのが前提となるため最終的には相手と手打ちをすることになる。その際にあれは喧嘩ではなく間違いを仕出かしただけだった、といえるように喧嘩ではなくマチガイという。

松杉を植える 【まつすぎをうえる】

 博徒の慣用句で一家のために役立ち箔をつけたり、犠牲になること。松は客を待つ、杉はまっすぐという意味で博徒には縁起がよくめでたい。

マトにかける

 標的として狙うこと。

「わしゃ、いずれ山守を潰しちゃるけん。そん時は真っ先にそっちを的にかけちゃるけんの」 打本昇

マブい

 美しい、可愛いなどの意味。

豆泥棒 【まめどろぼう】

 他人の女を寝取った者のこと。元々は刑務所の隠語で性犯罪者という意味だった。女性の陰核 【クリトリス】のことを俗に豆というが、ここでは女性器を指している。原典での佐々木哲彦はもっと直截的に「おめんちょ盗人」という言葉を使っている。

マン

 縁起のこと。

 み行

見届人 【みとどけにん】

 式の次第を見届ける役柄。一家の長老が担当することが多い。

 も行

モタレ

 三下やくざ。チンピラ。ボンクラと同義。

「おどれら、広谷んところのモタレじゃろう?」 久能徳松@県警対組織暴力

モッソウ 【もっそう】

 刑務所で飯類を食べる際に使用する食器。漢字では物相と書く。本来は仏教用語で、日本まんが昔話のように高々と盛り上げた飯のことを指す。

「やんのかいアンちゃん。おらぁ何遍もモッソウ飯喰って来た男だど」 藤尾信次@新幹線大爆破

もます

 衝突・トラブルを起こすこと。

や行

やくざ

 やくざの語源はいくつかの説があるが、八・九・三の数字を足すと二十になり、花札賭博では役にたたないことから、ごろつきや博徒のことをやくざと言うようになったというのが一般的な説。

ヤサ

 家などの住居のこと。「鞘」の逆読みで、刀が鞘に収まるように人間もねぐらに戻ることから。

家賃が高い 【やちんがたかい】

 元々は相撲用語で、実力以上の番付に位置すること。転じて、肩書きや序列などが本人の資質よりも高いことを意味する。

ヤッパ 【やっぱ】

 匕首、刀などの刃物類のこと。

ヤマ 【やま】

 事件のこと。警察用語。

 よ行

予科練 【よかれん】

 海軍飛行予科練習生の略語。海軍飛行兵を養成するための制度で、志願した少年を試験で選抜し、パイロットに育成した。

汚れ 【よごれ】

 生き方、身の処し方がなっていない人物のこと。

寄せ場 【よせば】

 刑務所こと。ヨセバ。「寄せ場に落ちる」のように用いる。鬼平こと長谷川平蔵宣以が創設した、犯罪者や無宿人を収容し労働や更生を行わせる施設である人足寄場に由来している。

れ行

レンコン 【れんこん】

 拳銃のこと。リボルバーの回転式弾倉が蓮根に似ていることに由来する。

わ行

 

若頭 【わかがしら】

 子分の筆頭である実力者。近代的やくざ組織では組織のNo.2に相当する役職で後継者候補。若者頭、若衆頭、若中頭、頭(カシラ)、若頭(ワカトウ)。

若頭補佐 【わかがしらほさ】

 肥大化した組織を統制するために山口組三代目が設置した役職。組織によっては理事長補佐ともいう。若頭が組長候補であるように、若頭補佐は若頭候補となるため、このポストの設置は人材登用や出世意欲に繋がる。近代やくざ組織はその利点を認め次々と若頭補佐のポストを設置するようになった。

若衆 【わかしゅう】

 やくざの親分から盃をおろされた子分。たとえ親分よりも年配でも、60代70代であっても若衆と呼ばれる。若者、若いの、若中、乾分、乾児、三下。

 武家用語の“若衆”に由来する言葉である。

わりゃ

 お前、の意味。