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「大打撃」を受けるパチンコ業界…「規制」によりパチンコ本来の多様性が消失…! 大手メーカーも油断できない

大手メーカーも油断できない状況

パチンコ業界が壊滅的な打撃を受けている。

2020年、新型コロナウイルスの影響により緊急事態宣言に伴う外出自粛要請、まん延防止等重点措置などが行われ、パチンコホールは休業・時短営業を余儀なくされた。

かねてからパチンコ業界は、相次ぐ規制や遊技人口の減少から市場規模の衰退が囁かれていたが、コロナ禍でさらに業績が悪化、倒産する企業が増えたのだ。

帝国データバンクの調査を見ると、2022年の経営法人数が1508社、売上高が11兆3660億円となっており、コロナ禍以前の2019年に比べてそれぞれ約25%、約31%も減少。コロナ禍の3年間でおおよそ4社に1社消滅する事態に陥っている。また黒字法人の割合は、2019年時点で75.0%だったが、2022年には47.4%へと減少し、赤字法人のほうが増加してしまっている。

今年1月には「花満開」シリーズを代表とする「西陣」が廃業、「カイジ」シリーズを送り出した「高尾」が「オーイズミ」のもとで民事再生を図るなど、大手メーカーも油断できない状態が続いている。

まさにボロボロな状況のパチンコ業界。一方、競馬や競輪、競艇などの公営ギャンブルの業績は右肩上がりだ。たとえば2022年度の中央競馬の売上は、3兆2540億円と前年比105%増となり11年連続で増加。競輪は1兆908億円と前年比113%増で9年連続増加、競艇は2兆4142億円と前年比101%で10年連続増加する形となった。

さながら“一人負け”のような状況に陥っているパチンコ業界だが、一体なぜ業績を落としてしまっているのだろうか? 今回は都留文科大学文学部教授でギャンブル依存問題研究の第一人者である早野慎吾氏に、パチンコ業界不振の要因について解説してもらった。(以下、「」内は早野氏によるコメント)

規制による多様性の喪失

パチンコ業界衰退には、遊技機規則改正が大きく関係してくると早野氏は指摘する。

「パチンコ業界は、警察庁の管轄のもと遊技機(パチンコ・パチスロなどの大型ゲーム機)の規制が行われ、射幸性(偶然で発生する利益や成功を狙う度合い)を名目とした出玉規制をしてきた歴史がありました。規制のたびにメーカーは改正に則った遊技機を開発しなければならず、そしてホールは新規則機を設置し、旧規則機は処分する必要があります。

現在の業界を不振に追いやった直接的原因はコロナより2018年の規則改定です。この改定で旧規則機のパチンコ『CR機』、パチスロ『5号機』から、それぞれ新規則機の『P機』、『6号機』への移行を強制されました。この規制により、根拠のない出玉率(打ち込んだ玉(メダル)数に対し、どれだけの個(枚)数の払い出しがあるかという比率)の厳格化がもたらされたのです」

一般的にパチンコの大きな特徴は多様性にあり、そこに大きな娯楽性はあった。

「パチンコの大きな娯楽性のひとつに多様性があります。たとえば、低額でじっくり遊べる『羽根もの』から、ギャンブル要素の高い大当たり確率300分の1前後の『デジパチ」までありますが、新たな規制により画一化して多様性が失われます。以前は『チューリップ台』といわれる大当たりのない台もありました。低額で長時間遊べる台から、ギャンブル要素の強い台まであり、ゲーム性も多様でした。パチンコユーザーは、自分のお気に入りの台があり、古い台が好きなユーザーもいれば新しいの台が好きなユーザーもいる。お気に入りの台が撤去されたら、新しい台を打つかというとそうでもない。交換率(玉を借りるときと景品に交換するときの比率)の均一化も多様性を奪ったひとつです」

規制によりファン人口減少が著しいパチンコ業界。その影響を如実に受けているのが、パチンコホールだ。

「パチンコ」だけ規制されることに違和感…パチンコより射幸性の高いギャンブルが規制されていない事実

パチンコ業界が壊滅的な打撃を受けている。

2020年、新型コロナウイルスの影響により緊急事態宣言に伴う外出自粛要請、まん延防止等重点措置などが行われ、パチンコホールは休業・時短営業を余儀なくされた。

かねてからパチンコ業界は、相次ぐ規制や遊技人口の減少から市場規模の衰退が囁かれていたが、コロナ禍でさらに業績が悪化、倒産する企業が増えたのだ。

【前編】『「大打撃」を受けるパチンコ業界…「規制」によりパチンコ本来の多様性が消失…!』

中小のパチンコホールが次々と撤退する理由

規制によりファン人口減少が著しいパチンコ業界。その影響を如実に受けているのが、パチンコホールだ。

「この規制で最も影響を受けたのは、中小のパチンコホールです。大手ホールには、新規則機を一括導入する財政的な余裕とコネクションがありますが、中小のホールは資金を捻出することが厳しい。中小ホールは、古い機種を長年使い、そのかわり客への還元率を高くすることで遊べる台を提供して大手と差別化できました。しかし、旧規則機は撤廃しなければいけないので、新規則機が台頭する大手と差別化する形で営業することも不可能に近くなるのです。人の命に関わる自動車でさえ車検さえ通せば古い車が当時の規則のまま何年でも使えるのに、パチンコ台は使えない。機種の撤廃は、SDGsに反する考え方なのです。

警察庁の発表では1990年は店舗数16,704が設置台数は4,008,598(1店舗平均240台)。2015年は11,310店舗、4,580,197台(平均405台)で店舗数は減ったのに台数は増えている。2022年には店舗数は7,665にまで激減したが設置台数は3,564,039(平均465台)。つまり、遊技の導入がすべて大手に集約されているのです。よって大手のホールは大型化する傾向にありまして、結果中小のホールは淘汰され始めて、ホールによる多様性も失われていくのです」

かねてからの悪いイメージが残っているのもパチンコ業界不振の要因だと早野氏は語る。

「勝つか、負けるかの意識で目の前の台に臨んでいる客もいます。負ければ台の不調を言いわけに騒いだり、当たりのよい台をめぐってトラブルが続出したりするので、以前のホール内の治安は良いとは言い難かったのですが、現在はかなり改善されています。また、地域の清掃を積極的に行うホールも多くなっており、各都道府県の遊技場組合も社会貢献を積極的に推進しています。

ただし、以前の閉鎖的イメージが残っているのも確かで、そのマイナスイメージをどれだけ払拭できるのかも業界が生き残るポイントのひとつです。仕事帰りのサラリーマンやOLが普通に立ち寄れる環境作りが必要です。出玉規制で多様性が失われ、広告規制で公営競技のような宣伝ができない状況では、新しいスタイルを作り上げないとニューカマー獲得が難しいのではないかと思います。

また、一部のメーカーでは、台の販売価格を高く設定するなど、利益にばかり目がくらむケースも目立っています。高騰した機種の代金はユーザーに跳ね返るのですから、本来であればメーカーとホールが協力して業界全体で『お客様の娯楽に徹します』というイメージづくりに努めなければいけませんが、そうした誠意が感じられないメーカーが存在するのも事実なのです」

業界は政治家への働きかけが圧倒的に足りない

一方、先述したとおり競馬、競輪、競艇といった公営ギャンブルの業績は右肩上がりになっている。

「公営ギャンブルの調子がよい理由は、インターネット販売やコロナ禍での巣ごもり需要もありますが、ギャンブルというネガティブな一面を爽やかなイメージの宣伝広告で隠していることも大きな要因でしょう。たとえば中央競馬は『HERO IS COMING.』をキャッチコピーに、ファミリー層や若者、女性層の獲得に成功しています。それなのに、いまだにパチンコ業界は、マイナスイメージを払拭できているとは思えません」

パチンコ業界のイメージ悪化には、ロビイングの不徹底も挙げられるそうだ。

「世間的にはギャンブル依存者が社会問題となり、業界に対する風当たりが強い時期は長らく続きました。これは、第一には、『ギャンブル依存疑い536万人』と問題の大きい調査結果が出されたときに、しっかりしたエビデンスを示せなかったことにも要因があります。

公的機関が発表したことをそのまま報道したマスコミの問題も大きいのですが、業界も客観的なデータのもとに誤解をただす必要があったのにできなかった。これは、パチンコ業界を悪と考えたい政治家や団体に格好の材料を与えてしまったことになったのです。その反省で、現在は、公的機関を上回るエビデンスを整えることに取り組んでいます。

パチンコの管轄は警察庁です。警察庁が出玉規制を積極的に進めるのは、自らの権限を誇示したいからという理由もあると思われます。それと、業界を支持してくれる政治家を輩出することが最重要事項となります。世の中の不条理を解決するためには、それに対応してくれる政治家に依頼することが必要です。

パチンコ業界は、10兆円近くの市場規模ですから、関係者数も莫大です。統制がとれれば、計算上では国会議員を数人は出せます。やや遅い気もしますが、改革に向けたロビイングを業界全体で活発に行っているので、『仕上げをじっくりご覧じろ』と言ったところです」

パチンコの射幸性は低いのか

そして、そもそもパチンコのみを悪質なギャンブルとして見立てるのも見当違いであるという。

「実はパチンコの射幸性というのは、そのほかの宝くじや公営ギャンブルよりもかなり低いレベルです。そもそも射幸性というのは、風営法第二条第一項第四号によれば『偶然に財産的利益を得ようとする欲心』のことを指しまして、期待する財産的利益の額によって射幸性の値は上下します。そうした観点で見ると、私が全国4万人に対して行ったギャンブル調査では、パチンコで5000円を使った場合、期待する勝ち額は5~10万円ほど。大抵は損をするか、勝ったとしても数万円が現実的なラインです。

パチンコと比べて著しく射幸性が高いのが宝くじです。宝くじは、5千円程度の投資で1億円以上を期待する購入者が約20%います。当選確率が数千万分の1なのにです。射幸性が格段に高いギャンブルなんです。

しかも、宝くじは販売場がパチンコ店よりも多く、参加人口もより膨大。たとえばパチンコの人気機種(CRスーパー海物語IN沖縄4 MTC)を例にすると1日で25,000発の出玉(10万円分の景品)を得る確率は1.56%。2018年末ジャンボ1等の7億円を得るには、パチンコでは1.56%の勝ちを7,000日続けないといけないわけです。パチンコの出玉なんて、まるで意味をなさないほどギャンブル性が高いのがおわかりでしょう。私の調査では、パチンコよりもギャンブル依存につながっているのに、宝くじは購入金額が寄付という訳のわからない言い分がまかり通り、ギャンブル依存症を生まないと堂々断言されてきた歴史があるのです」

パチンコ業界は、この先どのようにして生き残りを図るべきなのか。

「現状では、パチンコだけが悪いという流れはなくなってきており、公営ギャンブルも依存対策を検討してきています。宝くじは地方自治体、競馬は農林水産省というように、公営ギャンブルが行政と密接な関係を築いているのに対して、パチンコは後ろだてがないというのも事実です。国は本当にギャンブル依存を改善したいのであれば、根拠のない規制などではなく、科学的根拠に基づいた対策が必要です。パチンコばかりを規制対象にするのではなく、ギャンブル全体の依存リスクを考慮したうえでの対策が必要になります。

またパチンコ業界としては、ギャンブル依存に対する正しい知識を共有して、客観的なエビデンスに基づいた情報を発信して、誤解や偏見をなくすことが必要です。そして、業界全体で政治に関心を持ち、理解のある政治家を選出することが必要です。そのうえで、気軽に楽しめる娯楽という原点に立ち返り、ニューカマーが訪れやすい土壌を作り上げ、客と共存共栄の関係性を構築することが求められるでしょう」

(取材・文=A4studio)