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週間・ナイナイミュージック(取材、ご苦労様でした。20年前に茅ヶ崎に行きました。今回は行けませんでしたがレポート観て感激しました。本当にありがっとう。涙)

ナインティナインがMCを務めるフジテレビ系の新番組「週刊ナイナイミュージック」が、10月11日にスタートした。

“架空の音楽雑誌”をコンセプトに、矢部浩之が編集長、岡村隆史が記者を務める「週刊ナイナイミュージック」編集部から最新のエンタテインメント情報を発信するこの番組。編集部の最初の取材先となったのは、サザンオールスターズの「茅ヶ崎ライブ」だ。

サザンオールスターズのフロントマン・桑田佳祐(Vo, G)の故郷にしてサザンファンの聖地である神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎公園野球場を舞台に、9月27日、28日、30日、10月1日の4日間の日程で行われたワンマンライブ「サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ 2023』powered by ユニクロ」。矢部編集長、岡村記者、そしてゲストの玉井詩織(ももいろクローバーZ)とファーストサマーウイカは、最終日の公演に潜入し、それぞれの視点でライブを取材した。

このページでは、4人が書き留めたライブレポートを全文掲載。熱い筆致をそのままに、「週刊ナイナイミュージック」編集部の“初仕事”を記録する。

取材・文 / 岡村隆史(ナインティナイン)、矢部浩之(ナインティナイン)、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、ファーストサマーウイカ

フジテレビ系「週刊ナイナイミュージック」

毎週水曜日23:00~23:40

コンセプトは“架空の音楽雑誌”。
矢部浩之が編集長、岡村隆史が記者の「週刊ナイナイミュージック」編集部から、最新の音楽情報やアーティスト情報だけでなく、さまざまなエンタテインメントをめぐるトレンドや、知られざる音楽業界のウラ側密着などを発信。まるで1冊の音楽雑誌を読んでいるかのような多彩な切り口で情報を届ける。

 

サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ 2023」ライブレポート

サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ 2023」の様子。(撮影:西槇太一)

岡村隆史(週刊ナイナイミュージック記者)

若い頃からサザンオールスターズが好きだったにもかかわらず、相方が「サザンファン」を公言すればするほど、「俺はあんまり言わんとこ。サザンは相方のもんやから」と一歩引いたスタンスで格好を付け、好きな気持ちに蓋をするようになった。カラオケに行くと相方と相方の兄貴がずっとサザンを歌い続けるので、本当は自分も歌いたいのにわざと違うアーティストの曲を歌ったりした。こんな自分だがサザンとの縁は30年以上前から始まっている。

1990年、大学生だった自分はコンビニエンスストアでアルバイトをしていたのだが、その店のキャンペーンソングとして流れていたのが「真夏の果実」と「希望の轍」だった。朝10時にシフトに入り夜10時に退店するまでの12時間、延々とループされる「真夏の果実」「希望の轍」を聴きながらレジを打ったり、万引き犯を捕まえたりした(万引き犯を捕まえたおかげで時給がアップした! ありがとう、サザン!)。

岡村隆史(ナインティナイン)

紅白歌合戦に出たときはひと目だけでもサザンの皆さんに会いたくてステージの袖で何十分も待ち伏せをしてNHKのスタッフに訝しがられたりした。サザンの出番が終わったら、きっとここを通って楽屋に帰るはずだ。通りすがりに桑田さんの視界に入れれば「やぁ! 初めまして! 岡村くん!」なんて言ってくれないだろうか……。そんな淡い気持ちを抱いた待ち伏せ作戦は、あえなく失敗に終わった。大物だけが通る隠し動線を使ってサザンは楽屋に帰っていき、自分はすれ違うことすらできなかった(その後出川哲朗が廊下でサザンとすれ違ったと騒いでいて心底腹が立った)。

そんな積年の思いを抱えた自分が人生で初めてサザンオールスターズのライブに行くのだ! 茅ヶ崎に向かうバスの中から、1曲目のイントロが鳴った瞬間に気絶するのではないかと不安になるぐらい胸が高鳴っていた。開演直前に座席に向かうと、場内のお客さんから我々ロケ隊に対して拍手が沸いた。間もなく始まるサザンのライブを待ちわびているお客さんに拍手などさせてしまい「すんません、すんません」という気持ちで席に着く。ライブ前のはやる気持ちと相まって、球場内がざわめいたところにサーッと心地よい風が吹く。湘南の潮風という緞帳が開いた瞬間だった。

 

サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ 2023」の様子。(撮影:西槇太一)

1曲目は「C調言葉に御用心」であった。音が鳴った瞬間、もう泣くかもしれないと思った。いや、テレビカメラが入っていなかったら確実に泣いていた。テレビに映る芸人としてのプライドでグッと涙を堪えた。あれだけ好きだったサザンオールスターズのライブに初めて来た、目の前で桑田佳祐が歌ってくれている。それだけでもう十分だった。

ライブには「ちょっとひと息つきますか」という曲がセットリストに組み込まれることが多いように思うのだが、この日のライブは息もつかせぬ怒涛の勢いで次から次へとヒット曲が繰り出される。すべてがメインディッシュでこちらも気が抜けない。ハッと気が付いたときにはもう「勝手にシンドバッド」だった。「ラーララーラララ ラーララー」と歌いながらこの時間が永遠に続けばいいのにと願った。ライブ中、見ず知らずの後ろの席のおじさんと何度かハイタッチをした。押さえきれない興奮を誰かと共有したいなんて感情を抱いたのはいつぶりだろうか。

帰り道、クールダウンしなければ寝付けそうになくて、コンビニに寄って缶ビールを1本買った。レジの向こう側で一生懸命働いていた若かりし頃の僕よ、サザンのライブに酔いしれてニヤケ顔で家に帰る未来が待ってるから腐らずがんばって働けよ!!

岡村隆史(ナインティナイン)

ファーストサマーウイカ(週刊ナイナイミュージック記者)

サザン45周年、10年ぶりの茅ケ崎公園野球場、有観客は約2年半ぶり

国民的人気バンド・サザンオールスターズが10月1日、神奈川・茅ヶ崎公園野球場で10年ぶりとなる「茅ヶ崎ライブ」の最終公演を迎えた。4DAYSの最終日を感じさせぬパワフルな歌声と演奏で2時間半にわたり全26曲を大熱演。デビュー45周年の記念すべき節目に行われた聖地でのライブは、会場と全国映画館でライブビューイングを合わせ4日間で延べ27万人超を動員。有観客での生歓声に包まれるライブは約2年半ぶりの開催となった。

新番組「週刊ナイナイミュージック」潜入取材

ここでライブレポの前に、私、大阪が生んだSUMMER QUEENことファーストサマーウイカがなぜこのライブのレポを書かせていただいているのかという経緯を簡単にお伝えしておく。

フジテレビ系で10月より毎週水曜放送の、ナインティナインのお二人による新しい音楽番組「週刊ナイナイミュージック」がスタートする。その記念すべき第1回放送がこのサザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ 2023」の特集である。初回のゲストとして、ももいろクローバーZの玉井詩織さんと私がナイナイさんとともにライブへ向かい(ちなみにしおりんとは奇しくも同じ6月4日生まれという夏女コンビである)、岡村さん、しおりん、私は“記者”として潜入取材の命を受け、レポートを担当する。

こういったライブレポを書くのは初めてだが、初体験をサザンに捧げられるなんて恐悦至極! あの日の感動を私なりの言葉でお伝えさせていただく。熱狂的なファンである矢部編集長以外の3人は初のサザンライブ。それぞれの観点でフレッシュにレポしているのでぜひ合わせてチェックいただきたい。

終わらせない夏、夏をあきらめない。

この日の茅ヶ崎は、太陽が今年最後の力を振り絞り、気温30度超えという真夏の暑さを叩き出していた。まさに罪な奴といったところか。今日という日を迎えるまでは夏を終わらせない、いや、夏をあきらめない!というファンの皆さんの熱気に観念したのか、前日まで雨予報だったとは思えない夕晴れの空が球場を包んでいた。

開演2時間前。会場に着き、まず目に飛び込んできたのは、そろいのライブグッズに身を包んだあふれんばかりの大勢のファンの皆さんだ。45周年の文字と海辺のサンセットのイラストが描かれた、オレンジが印象的なTシャツや法被が客席を鮮やかに染め上げて、客席全体がまるで大きな夕陽のように、今かと待ち望む眩しい笑顔でステージを照らしていた。

 

「茅ヶ崎ライブ 2023」で盛り上がる「週刊ナイナイミュージック」の面々。

我々4名はグッズ販売エリアにお邪魔させていだき、ライブ直前の心境をお聞かせ願いたく、聞き込み取材へ。皆さん快く取材に応えてくださり、サザンとの出会いや思い出を語ってくださった。その中でも、特に印象的だった1人の男性の話をしたい。

男性は、サザンをきっかけに奥様と結ばれ、2000年の茅ヶ崎ライブも夫婦で訪れており、今年はそのときお腹の中にいた息子と2人で観に来たという。息子さんは取材時お手洗いに行っていて、残念ながら会えなかったが、素敵なエピソードだ!と現場は大盛り上がりだった。しかし、驚くべき事実がもうひとつ。のちにスタッフさんが出演確認した際に判明したのだが、その息子さんのお名前が、なんと「ケイスケくん」だったのだ。現場で聞き出せなかった記者としての自分の腕の無さを恨みつつ、素晴らしいオチにじんわり感動が込み上げた。

きっと、今日この会場には、サザンとともに人生を歩まれたファンの方がたくさん集っているのだろう。それぞれの人生に、ともに寄り添ってきたサザンの楽曲が、1人ひとりのテーマソングがあるのだろう。

ずっと追い続けている熱狂的なファンの方だけでなく、何気なく聴いてきた人たち、平成以降の若い世代にも、きっと思い出の1曲がある。その瞬間の景色、匂い、表情、いろんな記憶が曲とともに呼び起こされ、さらに時を経て、同じ曲でも歳を重ねて聴くとまた新しい気持ちで向き合う瞬間が来る。青春のページに挟まった栞のように、サザンの曲は心に、1人ひとりの人生に刻まれ残っていくのである。そのパワーが、それこそが国民的スターバンドたる所以なんだと、取材を通して改めて体感した(ちなみに、しおりんもその影響を大きく受けた1人ではあるのだが、そちらはO.Aや彼女のレポをチェックいただきたい)。

ようこそここへ~クッククック

開演直前、温かいファンの皆さんに声をかけていただきながら客席へ向かう。ナイナイしおりんのお三方の、興奮に緊張が入り混じる、普段テレビでは見せないような表情に、撮影隊のカメラを持つ手にもグッと力が入っていたように見えた。

17時。マジックアワー、夕陽の溶ける空に茅ヶ崎の若大将、加山雄三さんの「君といつまでも」の歌声が響く。「あっ加山さん!」と、ゆかりあるしおりんも声を弾ませる。桑田さんの茅ヶ崎への愛とリスペクトを噛み締めていると、桑田さんを先頭にして汽車のように連なってメンバー5人が仲よく登場。ファンの声援に応えるように、盛大な祝いの花火とともに茅ヶ崎の頭文字「C」とかけたのかな?と考察したくなる「C調言葉に御用心」でスタート。これぞ桑田節!とキュンキュンしてしまう「女呼んでブギ」に続き、「帰ってきたよー、愛してるよー」と客席にさらに火を点ける。

この日の桑田さんのMCは「ようこそ、茅ヶ崎へ~!」からの「ようこそここへ~」「クッククック~」という桜田淳子さんの「わたしの青い鳥」コール&レスポンスが多発(笑)。若い世代の人たちは初めはポカンだったかもしれないが、終盤にはみんなで「クッククック~」と会場がひとつに。こんな不思議なグルーヴが生まれるのも、歓声ありの有観客ライブでしか感じられない特別な空間だろう。

桑田さんは「10年ぶりに、すっかり高齢者になって帰ってきました。みんなオムツを履いています」と冗談まじりに語りながらも、それを感じさせないパワフルでチャーミングなパフォーマンスで、会場を取り込んでいく。「夏をあきらめて」から「Moon Light Lover」「栄光の男」の流れに、夕暮れから月夜に移り変わる空と少し肌寒い風に包まれ、今年の夏も終わりか……と物寂しさに浸ったのも束の間「OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~」「そんなヒロシに騙されて」と、バンド隊、ホーンセクションがこれでもかというテクニックで盛り上げ、客席にまだまだ!とハッパをかける。

桑田佳祐(Vo, G)(撮影:西槇太一)

中盤戦は「いとしのエリー」をはじめファンの甘酸っぱい思い出に寄り添う名曲を交えつつ、歌詞を茅ヶ崎に変え地元愛を込めた「歌えニッポンの空」、レーザー演出と、突き上げる拳に巻かれた「烏帽子ライト」の光に観客の大合唱が織り混ざり、球場に幻想的な空間が生まれた「東京VICTORY」で、壮大な世界観に観客をさらに引き込む。

茅ヶ崎で聴く「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」はより一層深みのある大人のいけない恋愛を感じさせる。そして高揚感そのままに、原由子さんの神秘的なイントロと緑色の光が球場を包み、レトロと近未来が融合したマッピングの中で響き渡る「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」は恐ろしいほどに圧巻。

ここからラストスパート!と言わんばかりに2023年の新曲「盆ギリ恋歌」でステージも客席も歌い、踊り狂う。「世の中色々あるけれど水に流すのはどうだい?」といたずらな少年のように、桑田さんがはしゃぎながらおなじみの放水パフォーマンスで歌い走る「みんなのうた」。ちなみに隣にいるナイナイのお二人にとっては、「みんなのうた」は特別な1曲。子供のように目を輝かせてステージを見つめる2人の笑顔を観て、水がかかったのかと思うほど涙で顔がびしょ濡れになってしまった。

本編ラストの「マンピーのG★SPOT」。ビジョンに映る茅ヶ崎のCがGに変わると、「爺」という文字と相模ナンバーのプレートをあわせたマンヅラ姿で登場した桑田さんは「まだいけるか!」と見た目と裏腹にカッコよく煽り歌い上げる。

カッコよさ、ひょうきんさ、セクシーさ、そして哀愁、この世のすべての魅力を兼ね備えたシンガーは桑田さん以外はいないのではないか。サザンと同じ時代に生まれて、こんないやらしい歌をみんなで笑って歌える世界。なんて幸せなんだろう、と私は思ったし、みんな同じ気持ちだったのではなかろうか。圧倒的スターの生き様を下ネタとともにガツンと見せつけ、メンバーは颯爽とステージをあとにした。

茅ヶ崎の夜風とそよぐウェーブ 希望、そして約束の花火

アンコールは、定番のコールと手拍子ではなく、突如客席で自然発生したウェーブでメンバーたちを迎える。和やかなムードでアンコールが始まると、2曲目の「Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)」ではデビュー当時のメンバー映像と、ステージのメンバーがクロスオーバーするエモーショナルな演出で、客席をノスタルジーに誘う。そして桑田さんは、祭りが終わる寂しさを払うように「また楽しい逢瀬が叶いますよう、サザンオールスターズは次なる計画を練って、皆さんにご報告することをお約束いたします」と観客に希望を届けてくれる。彼らの想いとともに「希望の轍」の美しいイントロが光となり客席を照らす。1つの約束が明日へのみなぎる活力になるという、音楽の持つ圧倒的な力をまざまざと感じた瞬間であった。

会場のボルテージは最高潮。待ってましたと割れんばかりの歓声の中、ラストナンバー「勝手にシンドバッド」へ。サンバホイッスルの音色、血躍るリズム。軽快なステップで登場するサンバダンサー、めでたいお神輿、これぞサザン!という多幸感にひしめくステージ。1万8000人、そしてライブビューイングの10万人の「今何時!」が茅ヶ崎の、日本の夜空に響き渡った……。

ファーストサマーウイカと岡村隆史(ナインティナイン)。

と、このままレポートを終わりたいところだが、そう、我々には忘れてはならない潜入取材の任務があったのだ。またの再会を約束するように、盛大に打ち上がる花火を横目に、我々はご案内いただいたバックヤードに駆けこむのであった。

4DAYSのファイナル直後、ステージを終えたメンバーの皆様はお疲れの様子を一切見せず、楽屋に戻る前の少しの時間我々の取材に応えてくださった。詳しくはO.Aで空気感含めて観ていただきたい。が!ひとつお伝えしておきたいのは、国民的スターバンドであるにもかかわらず、番組や我々に対し、細部まで心遣いにあふれ、海よりも広く深い優しさでご対応してくださったこと、快く取材を受け入れてくださったということである(桑田さんが「サマーさん!」とご存知で名前を呼んでくださったこと、ヒロシさんが「ドラムうまいんだよね!」と声をかけてくださったこと、忘れません)。

取材に全面協力くださったサザンオールスターズの皆さま、スタッフの皆さま、そして温かいファンの皆さま、本当にありがとうございました!

今回レポート取材についてレクチャーいただいた小栁大輔氏には、レポにおいて「本当」や「最高」という言葉を容易に使うと薄っぺらくなるからダメだと言われたが、全身全霊、心から魂を込めて使わせていただく。

本当に本当に最高でした!

サザン、ありがっとう!!

プロフィール

ファーストサマーウイカ

1990年生まれ、大阪府出身。2013年5月にアイドルグループ・BiSに加入してメジャーデビューするも、翌年7月にグループは解散。その後、音楽ユニット・BILLIE IDLEの一員として活躍する。2019年12月にグループ解散後は、バラエティ、ドラマ、ラジオなど多数のメディアで活躍している。2021年2月に配信シングル「カメレオン」でソロデビューした。

玉井詩織(ももいろクローバーZ / 週刊ナイナイミュージック記者)

まだ暑さが残る茅ヶ崎の野球場には、サザンとともに歳を重ねてきたであろう世代、親の影響でサザンに出会ったであろう若い世代など本当に幅広い年齢層の観客が、10年ぶりの茅ヶ崎ライブの幕開けを今か今かと待ちわびていた。

茅ヶ崎のレジェンド、加山雄三さんの「君といつまでも」に乗せてサザンオールスターズのメンバーがそれぞれの肩に手を置いて列車のように登場する。まさに“里帰り”のようなリラックスしたオープニングに、初めてサザンのライブを観る私も緊張が解れていくのを感じる。これが誰も置いてけぼりにしないサザンの懐の深さなのだろう。

ライブは「C調言葉に御用心」でスタートした。私の母はサザンオールスターズの大ファンで、2日目の9月28日にライブに参戦していた。「1曲目は意外な曲からスタートするのよ♪」と“家庭内匂わせ”をされていたので「なるほど、この曲だったのか!」と合点がいった。長年のファンである母でさえ「意外」と言うものを10年ぶりの茅ヶ崎ライブの1曲目に持ってきたのは「予定調和では済まないぞ」というメッセージだろうか? 空がややオレンジ色に染まり出した頃、涼しい海風が会場を駆け抜けていく。「涙のキッス」「夏をあきらめて」という夏の名曲とともに私の2023年・夏が幕を閉じた。

会場のボルテージが一気に上がったのはライブ中盤の「東京VICTORY」だった。
観客が腕に巻き付けた通称“烏帽子ライト”が一斉に点灯し、あたり一面が光の海になる。
レーザーが上空に伸び、観客全員が拳を突き上げ「Ohh ohh」と声を上げる。市民球場がスタジアムになった気がした。ここから一気にアップテンポで畳みかけるのだろうと思ったそのとき、一瞬の静寂の後響いたのは思いもよらない曲のイントロだった。

サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ 2023」の様子。(撮影:西槇太一)

「栞のテーマ」。1995年6月4日、私がこの世に生を受けたとき、サザンファンの両親は私に「詩織」という名前を付けてくれた。言うまでもなく、由来はこの「栞のテーマ」。今日まで28年間、自宅で、車で何度も聴いたこの曲を、人生で初めて目の前で桑田さんが歌ってくれる。あんなに盛り上がった「東京VICTORY」から「栞のテーマ」なんて、予想だにしない流れだった。照明が私のメンバーカラーでもある黄色だったことに運命を感じずにはいられない。すべてのサザンオールスターズファンの皆さん、どうか今日だけは「詩織のテーマ」だと思うことをお許しください。

私のようにサザンの楽曲から名付けられた人、大切な人との出会いや人生の節目にサザンの楽曲があった人、この会場にいる観客それぞれに「自分のテーマソング」があり、イントロが流れた瞬間脳裏に思い出がよみがえるような、そんな時間だった。聴くだけでその時代に連れて行ってくれるサザンの楽曲は、タイムマシーンみたいだと思った。

矢部浩之(ナインティナイン)と玉井詩織(ももいろクローバーZ)。

アンコールで「希望の轍」のイントロがかかると、「待ってました!」という気持ちと同時に、もう少しでこの夢のような時間が終わってしまうんだという寂しさが押し寄せてきた。その寂しさを打ち消すような「勝手にシンドバッド」! 寂しい時こそ大きな声で笑おうぜ!と言われている気がして力の限りコールアンドレスポンスをした。きっと会場にいる全員がそうだったに違いない。

私にとってサザンオールスターズは両親との「絆」にほかならない。終演後、桑田さんにお会いさせていただいたとき「僕が茅ヶ崎一中の野球部で被っていた帽子だよ」とそっと頭に被せてくださったこと。名前の由来をお伝えしたら「じゃあ俺が名付け親みたいなもんだな」と言ってくださったこと。早く両親に話してあげたい! そうだ、家に帰ったら今度は私がこの野球帽を両親に被せてあげよう。そのとき両親はどんな表情をするだろうか。

プロフィール

玉井詩織(タマイシオリ)

1995年6月4日生まれ、神奈川県出身。2008年結成のアイドルグループ・ももいろクローバーZのメンバーで、イメージカラーは黄色、キャッチフレーズは「ももクロの若大将」。2018年にNHKの連続ドラマ「女子的生活」にメインキャストで出演し、2019年からはフジテレビNEXT「しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村NEXT」のMCを担当。そのほか、映画やバラエティ番組への出演など、個人での活動は多岐にわたる。2023年1月にソロプロジェクト「SHIORI TAMAI 12 Colors」を始動し、12カ月連続でソロ曲を配信リリースしており、9月にリリースした最新ソロ曲「Sepia」では自ら作詞を手がけた。ももいろクローバーZとしては、今年5月に行われた結成15周年記念ライブ「代々木無限大記念日 ももいろクローバーZ 15th Anniversary」のBlu-ray / DVDが10月にリリースされた。

矢部浩之(週刊ナイナイミュージック編集長)

サザンオールスターズのライブは、誰もが涙するロマンティックなバラードと、桑田佳祐という「エッチなおじさん」が悪ノリしちゃう曲が混在する、ジェットコースターのような展開が何よりの魅力だと僕は思う。

桑田佳祐(Vo, G)(撮影:西槇太一)

10年ぶりに開催される茅ヶ崎ライブの1曲目はなんだろう? やっぱりデビュー曲の「勝手にシンドバッド」かな……? もしかしてバラードで始まるなんてこともあるかも……? 観客全員がそれぞれに思いを巡らす中、この伝説のライブは「C調言葉に御用心」「女呼んでブギ」という意外な楽曲で幕を開けた。「意外だ」と感じたのは「10年ぶりの茅ヶ崎ライブ」というものにこちらが構えすぎていたからで、サザンとしては至って通常営業。「女呼んでもんで抱いていい気持ち」ってどないやねん!と思いながら観客みんなで合唱する気持ちよさ。そうかと思えば、まだまだ序盤というところで惜しげもなく「涙のキッス」のイントロが流れてくるとどよめきが起こる。この緩急こそがサザンなのだ。

ヒット曲を立て続けに連発する怒涛のセットリストの中で球場の雰囲気が一瞬にして変わったのは、ライブの中盤を過ぎたあたりの「真夏の果実」だった。すっかり陽が暮れて暗闇に包まれる中、「太陽は罪な奴」で上がりきった観客がシーンと静まり返り曲に聴き入る、「あ、ここで1回このライブは締まるんだ」と思うほどその場の空気を変える強さがあった。そこで一度、マルが打たれたライブはフィナーレに向けて加速していく。「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」、この鉄板のヒット曲のあとに繰り出された新曲「盆ギリ恋歌」では不思議な高揚感に包まれた。

「みんなのうた」は我々ナインティナインにとって青春の酸いも甘いもが詰まった曲で、コワモテの演出家がカラオケで歌っている姿、そのカラオケを盛り上げることができず怒らせてしまったこと、その演出家が番組の最終回で曲を流したことなどいろんな思い出が頭をよぎっていったが、いざ目の前で桑田さんが歌ってくれると思い出は全部吹っ飛んで、周りのお客さんと一緒に大きく手を振りながら大合唱するだけだった。桑田佳祐の歌声は思い出に勝る。今日ここで「みんなのうた」が聴けてよかった。きっとこれからも僕にとって忘れられない1曲であり続けるだろう。そして本編ラスト、先ほどは「真夏の果実」で観客を全員黙らせた人が、今度はヅラを被ってダンサーのお姉ちゃんのパンチラを狙っている。「マンピーのG★SPOT」のあの演出、もうテレビのコント番組でもできないことですよ、桑田さん(笑)。でも僕は「マンピーのG★SPOT」や「女呼んでブギ」の世界が大好きなのだ。原坊がモニターに映ると、その微笑みの横に(バカねぇ……)という吹き出しが見える。そんなサザンオールスターズがたまらなく愛おしい。

男たるもの、いくつになっても「色気」は持っていたいなとしみじみ感じた夜だった。

矢部浩之(ナインティナイン)

プロフィール

ナインティナイン

岡村隆史、矢部浩之からなるお笑いコンビ。1990年NSC大阪校9期生で、1990年4月結成。1992年に「第13回ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞を受賞。以降数々の人気テレビ番組にレギュラー出演し、人気を博す。現在は日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン」やニッポン放送「ナインティナインのオールナイトニッポン」に出演。2023年10月にフジテレビ系で新たな冠番組「週刊ナイナイミュージック」がスタートした。

 

プロフィール

サザンオールスターズ

1975年に青山学院大学の音楽サークルで結成。現在のメンバーは桑田佳祐(Vo, G)、関口和之(B)、松田弘(Dr)、原由子(Key)、野沢秀行(Per)の5名。1978年6月にシングル「勝手にシンドバッド」でデビューし、独自の音楽性が当時のシーンに衝撃を与える。1979年3月に3rdシングル「いとしのエリー」の大ヒットにより幅広い層に受け入れられ、名実ともに日本を代表するロックバンドの仲間入りを果たす。その後も時代の変化に伴い、さまざまなアプローチで革新的かつ大衆的な楽曲を発表。1992年7月のシングル「涙のキッス」が初のミリオンヒットを達成し、1999年発表の「TSUNAMI」は293万枚の売り上げを記録する。その後デビュー30周年を迎え、バンドは2009年から無期限活動休止期間に突入していたが、2013年6月に活動再開を発表。2023年6月にデビュー45周年を迎え、7月から3か月連続で新曲を配信リリース。9月から10月にかけ、4日間の日程で茅ヶ崎公園野球場での野外ライブを開催した。

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玉井詩織のインスタグラムから

玉井詩織のインスタグラムから

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コメント: 1
  • #1

    さとる (木曜日, 12 10月 2023 02:37)

    感激しました。桑田最高。ウィー