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建設業界死傷事故多発の背景 工事現場から消えた「チームワーク」と「意識の共有」(森山高至)

東京駅近くで起きた鉄骨落下事故では5人が死傷(C)共同通信社© 日刊ゲンダイDIGITAL

【事故多発の建設現場で何が起きているのか】#1

建設現場で、あってはならない事故が多発している。

9月中旬、JR東京駅近くの51階建ての複合商業ビルの工事現場でクレーンで吊り上げられていた鉄骨が落下。作業員5人が死傷した。都心の一等地で次々に計画されている巨大開発のひとつだ。

福岡県でも9月にドラッグストアの建設現場でコンクリートが落下し、38歳の作業員が下敷きになり亡くなった。この記事を書いているさなかにも、高知市の造船所でクレーンからの鉄骨落下で下敷きになった死亡事故が発生している。以前では考えられなかった事故の続発だ。

工事現場では壁や床、柱や梁などの巨大な部材が行き交い、完全に設置されるまでの間、不安定な状態で仮置きされている。その隙間を縫って足場や作業動線があり、一歩間違えば落下や、とがった部材に衝突する危険がある。

そのため、建設現場では毎日の安全講習や作業手順の引き継ぎが欠かせない。立場が異なる多くの工事管理者や、担当が違う作業員が同時に動いているため、日々、安全な動線も変化しているからだ。昨日まで何もなかった場所に部材が置かれ、通れたはずの通路が閉め切られたり、なかったはずの配管が数日で頭上や床に出来上がっていることもある。

作業空間が日々変化するのが巨大な工事現場の実態なのだ。

肝要なのは、鉄骨やコンクリート、電気や配管、大工やとび職といった、それぞれの作業員が互いの仕事を円滑に進めるための配慮だ。工事管理者も一人で全てを仕切ることはできない。多くの管理者が必要で、経験豊富なベテランからフットワークの軽い若手まで、連携し助け合いながら働くのが理想の現場だ。

危険が伴う作業をやり抜いて、数年にわたる大きな現場を無事完成させる──。重要なのはチームワークの維持と意識の共有である。現場監督の生きざまや人柄に共鳴する職人が集まり、難工事を乗り越えるものなのだ。

そのさまを戦国時代の合戦の総大将に例えて説明していたのが、二十数年前までの大手ゼネコンの現場監督だった。しかし、今、そのような認識で取り組んでいる大手ゼネコン社員は少ない。

それは、他の職種と同様に、建設業界でも終身雇用制度が崩れ、技術者や現場監督の期間採用、中途採用が当たり前のように横行し、一つの現場に数年間同じメンバーが揃うことがなくなったためだ。全作業員が顔見知りで、総力を挙げて完成を期するということがなくなってしまったのだ。

つまり、昨日までと明日からの仕事に連続性がなくなり、日々、目の前の仕事を早く安くこなすことを求められた結果、あり得ない事故の続発につながったと言える。本連載ではそうした建設業界の今をリポートしたい。

(森山高至/建築エコノミスト)

八重洲・ビル鉄骨落下 鉄骨を支える土台の強度が不足か 事前に設計変更に…

先月、東京駅前のビル建設現場で男性作業員が鉄骨とともに落下し2人が死亡、3人がけがをした事故で、鉄骨を支える土台の強度が不足していた可能性があることがわかりました。

この事故は先月19日、東京・中央区八重洲のビル建設現場の7階部分で作業をしていた男性作業員5人が鉄骨とともに落下し、鉄骨の下敷きになった作業員2人が死亡、3人がけがをしたものです。

5人はクレーンでつり上げられた鉄骨の上に乗って別の鉄骨にボルトで仮止めする作業をしていましたが、その後の捜査関係者への取材で、「支保工」と呼ばれる鉄骨の一部を支える土台の強度が不足していた可能性があることがわかりました。

「支保工」の設計は事前に変更になっていたということで、警視庁は引き続き関係者からの聴取を行うなどして、業務上過失致死傷の疑いも視野に事故の原因を調べる方針です。