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罵声は来ない「女性3人」のごみ収集チームの凄み 収集に来てくれるのを楽しみに待つ高齢者も 2023/09/30 9:00

新大型特殊車(4t)に乗務する都清掃の女性スタッフのみなさん(筆者撮影)
ごみ収集という仕事からは3K(きつい・汚い・危険)がイメージされるため、男性が中心の職場と思っている人もいるだろう。しかし、現状は必ずしもそうでなく女性も働いている。筆者が研究対象とする東京23区の清掃事業でも、区の女性清掃職員(公務員)のみならず、清掃業務を請け負う会社[雇上(ようじょう)会社]の清掃車に乗務する女性運転手や女性作業員が活躍している。
そのなかでも近年、人手不足の打開策として、女性だけの収集チームを編成して作業する検証が行われている。罵声を浴びせるなど論外だが、女性のみだと「邪魔だ」「くさい」といった強い言葉を投げてくる一般人が減るという。一方、「力が必要な作業のときにキツい」という声も聞こえてきた。本稿ではその取り組みの現場に迫ったうえで今後を展望してみたい。

女性3人によるごみ収集

東京23区の可燃ごみ収集は、基本的に収集作業員2名と清掃車の運転手の合計3名で行われている。

今回の検証は、女性のみの収集チームを編成し、通常どおり割り当てられるルートでどのような問題が生じるか、女性が継続して業務を遂行していくための課題を把握する趣旨で行われた。また、そこから得られる効果を明らかにし、今後の可能性を探る取り組みともしている。

小型プレス車(2t)に乗務する白井運輸の女性スタッフのみなさん

これは東京23区の清掃業務を請け負う50社で組織する東京環境保全協会が区にもちかけて実現した。2022年11月に続き、2023年6月に2回目の検証が実施された。筆者は協会傘下の白井運輸と都清掃の協力を得て、2度にわたり足立区での収集の現場を見学した。

こうした取り組みの背景には、清掃従事者の人材不足問題がある。23区の清掃事業は、退職不補充(退職しても、その数に見合う人員を補充しない)により雇上会社への業務委託を進めてきた。

しかし、雇上会社が人材を確保しようにも、3Kのイメージが根付く清掃業務への従事者が集まらず、身内への声かけなどによりかろうじて人材を確保しているのが実態だ。

収集の現場

2023年6月5日に白井運輸のチームの作業を見学した。

夏の日差しが降り注ぐ中、現場に到着した清掃車から颯爽と女性作業員が降り、「オーライ」という大きな掛け声により清掃車を集積所近くに誘導し始めた。その声が静かな住宅街に響き渡るやいなや、カーテン越しから「おはよう~!」と男児の大きな声が返ってくる中で収集作業が進められていった。

きびきびと作業を進めていく(筆者撮影)

声をかけ合いながらきびきびと収集作業が進んでいく。きゃしゃな体にもかかわらず複数の大きな重たいごみを持ち上げ、テキパキと収集車に積み込んでいく。

慣れた手つきで複数の重たいごみを収集する(筆者撮影)

収集作業は歩きながら行うのを基本とするが、収集車が入り込むと通行人の妨げになるところでは、路地奥から小走りでごみを運び出したり、次の集積所まで小走りしたりする配慮をしていた。筆者も一緒に走ってみたが、想像以上に体力が必要だと感じた。

(左)小走りで路地からごみを運びだす(筆者撮影)/(右)次の集積所に小走りで向かう。写真左端は筆者(写真:白井運輸)

プレス車ではごみを押し潰しながら格納していくため、プレス時にごみが飛び出してくることもあるが、散乱したごみを丁寧に拾い上げていた。また、住民も声をかけやすいようで、気軽に作業員に声をかけていた。

 

(左)散乱したごみを拾い上げる様子/(右)住民とのコミュニケーション(筆者撮影)

一方、6月12日にも別の女性収集チームが、小雨の降る中、新大型特殊車で大規模マンションから排出されるごみを収集する様子も見学した。

マンションの隅や地下の倉庫に並べられた「反転コンテナ」(ごみのコンテナ)を、清掃車のフックにかけリフトで持ち上げて積み込む作業であり、大都市ならではの収集形態であった。マンションの管理人も立ち合い、手際よくごみを収集していく作業が続けられていった。

(左)機械を操作しコンテナのごみを積み込んでいく/(右)大規模マンションから排出される膨大な量のごみ(筆者撮影)

女性チームが来るのを楽しみにしていた高齢者

コンテナでの収集は、平場を動き回り集積所のごみを個々に収集していく作業形態と相違し、労力がそれほどかからない作業となる。

だが、中にはコンテナの底にへばりつくごみもあるため、清掃車に常備している「引っかき棒」で取り出す。それでも取り出すのが難しい場合には身を乗り入れてごみを取り出す作業もあり、汚れや臭いと闘う作業環境となる。また、ごみがこぼれ落ちることもあり、収集箇所を綺麗に掃除して原状回復していく必要も生じる。

(左)身を乗り入れて底のごみを取り出す作業/(右)こぼれ落ちたごみを拾い原状回復していく(筆者撮影)

当日はコンテナでの収集が主となるコースであったため、マンション管理人や近隣住民から声をかけられる場面が多く見られた。話しかけた方々に伺ったところ、「女性のほうが話しかけやすい」「細やかに対応してくれる」「同じ女性として尊敬する」といった声が聞こえてきた。

ちなみに声をかけてきた高齢の方は女性チームが収集に来るのを楽しみに待っていた。わずかな時間であるが高齢者の話し相手になるのは、ごみ収集が福祉サービスにもなる一面にも見えた。

(左)管理人とのコミュニケーション/(右)住民とのコミュニケーション(筆者撮影)

実際に作業に当たっていた女性スタッフから女性だけのごみ収集チームの受け止めを聞くことができた。

良い点としては、優しい目線で自分たちの作業を見てもらえることだという。男性スタッフとともに収集をしていると、「邪魔だ」「うるさい」と怒鳴られることもあるが、女性のみだと強くあたってくる人はおらず、優しい言葉をかけてくれる人がほとんどだという。

また、同じ動作をしていても、女性のほうが柔らかく見えるようで、丁寧に細やかに仕事をしている印象を与えられているのではないか、と受け止めていた。さらに、チームとしても女性同士のほうがコミュニケーションを取りやすくチームワークが良くなる、とのことであった。

一方、困った点としては、力仕事が多い現場では、どうしても男性の力が必要になることがあるという。

飲食店から排出される厨芥ごみが入ったバケツや、水分を多く含んだごみが入ったバケツを持ち上げる際は、男性スタッフがいてやっと収集できるが、それを女性2人で持ち上げるとなると限界を感じる。またその際に無理をするので腰などを怪我する不安がある、とのことである。

厨芥ごみが入ったバケツはかなり重たい。この日は水気がなかったので女性2人で持ち上げられた(筆者撮影)

このような不安を抱えながらも、女性スタッフはごみ収集という仕事を選んだ以上、それを完遂するモチベーションを持って仕事に従事していた。

 

今後の課題

今回の見学により見えた今後の課題は、女性が継続して働ける環境をソフト面とハード面の両面から整備し続けていくことだと思える。

第1に、力がどうしても必要な現場では、女性だけではキツいという声が聞かれた。女性に限らず重たいものが持ちづらい人のために持ち場を作る必要があるだろう。ほかの作業と比べて負担が少ない集合住宅のコンテナによる収集のような作業をまとめて割り振っていくなどだ。ただその際には、男性スタッフとの意思疎通や仕事の公平性を考慮しなければならない。

第2に、勤務形態の整備だ。例えば子育て世代には保育園に預けた後の時間から業務を始められるような業務形態を考えていく必要があるのかもしれない。また、清掃事務所の最寄りの保育園に優先的に預けられるような仕組みも検討の余地があるのではなかろうか。これは女性に限らず多様な働き方が求められる今後必要な取り組みだ。

第3に、女性用施設の整備である。これまで男性を前提に施設の整備が行われてきたため、区の清掃事務所では女性用のロッカー室や洗身施設が整備されていないところもある。また、清掃工場の一角にトイレがあるが、男性用を男女で共用する形で利用されている。早急な整備が必要であるが、その際には国からの資金的支援がなされるような仕組みが期待される。

われわれの生活に必要不可欠な清掃サービスを継続させていくためにも、人材不足を解消していくための手立てをできるところから打っていく時期に来ているのだと思える。

筆者はごみ収集業務も含めた自治体内の生活環境を衛生的に維持していく仕事が、子どもの憧れの職業になればいいと真剣に考えている。多少の汚れは伴うが、住民から温かく励まされる中で仕事ができ、多くの人々から感謝されながら自治体の生活環境を維持していく仕事に、さまざまなバックグラウンドを持つ人が参入してきてほしく思う。

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