紙物流、トラック待機削減へ…慣習是正なるか

製紙業界が紙や板紙、衛生用品の出荷で「物流2024年問題」への対応を加速している。人手不足や残業規制を受け、作業の省力化によるトラック待機時間の削減、船舶・鉄道輸送へのシフトなど取り組みは多様だ。積年の課題である働き方改革やデジタル変革(DX)と相まって、自助努力にとどまらず競合や業界を越えた連携に発展。物流の改善は商品・デザイン戦略にも影響を及ぼしている。各社の取り組みに迫った。

「90分以内を何としてでも達成する」。王子ホールディングス傘下の紙・板紙を手がける23工場、5倉庫では、荷積み、荷下ろしに要する時間の短縮が至上命令となっている。

従来は1回当たりの荷積み、荷下ろしにそれぞれ最大2―3時間かかっていたとみられる。これを1時間半以内にすべく、時間割や作業場所の変更・拡大などあらゆる手段を総動員する。

発注の前倒しを含めて取引先1社1社に協力を要請し、輸送会社とは到着時間を協議する。入庫スケジュールを組み直して、トラックが集中しないよう努めている。

人口減や高齢化、物流関連規制に伴って産業界全般に、これまで運べていたものが容易には届けられない事態が懸念されている。一口に紙・板紙といっても、印刷用紙などは顧客が発注計画を比較的立てやすいが、板紙の代表例、段ボール原紙は季節要因もあってオーダーがぎりぎりになりがち。夏は猛暑による野菜の作付け不良、台風を見越した催事の見合わせなどが生じやすい。

レンゴーの段ボール原紙の出荷現場においても「90分以内」が目標になっている。荷物を積みに来るトラックの待機時間の50%削減に向け、現在の平均約2時間を当面1時間半に短縮するためデジタルツールを駆使する。

埼玉県八潮市内の拠点では、トラックの入場受け付けを電子化しようと全地球測位システム(GPS)機能を持つ専用端末をトライアル活用している。ドライバーの拘束時間で最大30分削減を狙う。

さらにレンゴーは国内の全物流拠点を中長期的に自動化し、無人自動クランプリフトや無線識別(RFID)タグによる製品管理体制を導入する方針だ。

「24年度以降、全出荷ルートの十数%で現行の対応が難しくなる」。日本製紙は全国12工場からの紙・板紙出荷で、課題となる約300ルートと倉庫配置の見直しが大詰めを迎えている。

取引先に発注の前倒しを求めた上で、今後の意向をヒアリング。前倒し可能なら現行ルートのまま、難しければ消費地に近い場所で倉庫を確保し、中継倉庫の設定も図る。配車リードタイムを確保するには従来以上の計画性や時間的余裕が求められるが、顧客次第で難しい調整になる。

ある製紙会社幹部は漏らす。「トラックの長時間待機などは半ば慣習になっていた。いざ取引先や関係部署にお願いしてみると、意外と時短が進むことに驚いている」。

製品を届け続けるため、どう安定的かつ柔軟に輸送手段を確保するか。大規模なDX以前に、人の知恵と工夫、地道な対話でできることは少なくない。

日刊工業新聞 2023年09月27日

紙のまち・王子の懸案、駅前再開発が動き出す…日本製紙が土地譲渡

日本製紙が登記上の本店を置く東京都北区王子1丁目の「サンスクエア」。渋沢栄一らが立ち上げた抄紙会社の流れをくみ、初代王子製紙の王子工場の跡地に建つ

紙のまち・王子で懸案だったJR王子駅前再開発が動き出す。日本製紙は30日、東京都北区王子の土地約1万5117平方メートルと建物を譲渡すると発表した。譲渡先と譲渡額は非公表で、譲渡益は約254億円。2024年3月期に特別利益を計上するが、業績への影響は織り込み済み。24年春に物件を引き渡すが、現在ある商業・スポーツ施設「サンスクエア」は当面営業を継続する。約150年前に渋沢栄一らが設立した「抄紙会社」ゆかりの地の今後が見え始めた。

日本製紙は印刷・情報用紙の需要低迷に伴い、抄紙機数の縮小や生活事業強化など構造転換を進める。24年3月期業績の黒字化に取り組む中での決定だ。売却先は大手デベロッパーとみられ、東京都北区の「王子周辺まちづくり」の一環として民主導の再開発につなげる見通し。近隣の国立印刷局の一部用地に約10年後の完成を目指す区役所新庁舎プロジェクトがあるが“先行案件”となるだけに地元、関係者の関心は高い。

紙のまち・王子は渋沢栄一らが抄紙会社を立ち上げたのに由来する。初代の王子製紙となり、戦後の財閥解体で十條製紙、苫小牧製紙、本州製紙に分割。サンスクエアが建つ旧王子工場など周辺資産は十條製紙(現日本製紙)に継承され、現在登記上の本店を置く。

子会社が運営するサンスクエアはボウリング場が約50年の歴史を持つが、駅前一等地とあって商業・オフィス集積の低さが指摘されていた。再開発は何度か検討されたものの企業再編などで後手に回っていた。譲渡決定を東京商工会議所北支部の越野充博会長(越野建設社長)は「どう最適な再開発手法をとれるかが課題だ。地権者、事業者の意欲を高める再開発とし、渋沢栄一ゆかりの地としてのにぎわいにつなげてほしい」と期待する。

日本製紙・大王製紙が海上共同輸送、定期的輸送提携は初

大王製紙に加えて、日本製紙が活用するRORO船「第五はる丸」

日本製紙大王製紙は、千葉市の千葉中央港と大阪府の堺泉北港を結ぶ海上共同輸送を2日に始めた。大王製紙が三島工場(愛媛県四国中央市)から首都圏・東北向けの製品輸送に使う貨物専用フェリー(RORO船)の帰り便に、日本製紙勿来工場(福島県いわき市)の情報用紙を千葉中央港から積み込み、関西圏に運ぶ。製紙会社が連携する定期的ラウンド輸送は初めて。物流2024年問題や二酸化炭素(CO2)排出量削減を背景に今後、さらに加速しそうだ。

ラウンド輸送は貨物を終着地で降ろし、帰り便は違う貨物を運んで戻ることを指す。海上共同輸送は、国土交通省の総合効率化計画の認定、モーダルシフト推進事業の交付を受けて行う。

大王海運(愛媛県四国中央市)が三島川之江港(同)―堺泉北港―千葉中央港で運行するRORO船を活用。行きのみの利用で、帰りは空だった大王製紙の“枠”を日本製紙が使う。

日本製紙は感熱紙など情報用紙を勿来工場から千葉中央港までトラックで運ぶ。船に積み替え堺泉北港まで海上輸送し、その後は兵庫県尼崎市の園田倉庫にトラックで運ぶ。

同社は当面週に2便で計36トンの製品を輸送する。船の活用で従来のトラック長距離輸送よりCO2排出量を年46・7%、トラックドライバーの走行時間を78・8%、それぞれ削減する。

大王製紙は三島工場で生産した紙・板紙製品を、三島川之江港から首都圏、東北地区にで1回当たり1000トン程度輸送している。

日本製紙の勿来工場から出荷される感熱紙やノーカーボン紙

「厳しくなる物流環境を打開するため、両社でできることはないか」。大王製紙と日本製紙が共同輸送・保管を検討し始めたのは約1年前のこと。双方の物流子会社を含め、目標数字を設定するなどあくまでビジネスベースでの取り組みだ。

大王製紙はサントリーグループと、日本製紙はDOWAエコシステム(東京都千代田区)と共同輸送を進めるなど物流改善に熱心。大王製紙、日本製紙は元々印刷・情報用紙に強いが、長巻きトイレットペーパーの特許をめぐり係争中の間柄でもある。

「商売と物流は別」というスタンスだが、業界では「今回の『呉越同舟』は、将来的にモノが運べなくなる深刻さを物語っている」との声も聞かれる。

洋紙はデジタル化で需要が先細り傾向にある上、消費地と工場が離れているケースが少なくない。地方ほどトラック、ドライバーの不足が顕著との事情もある。

両社は今後、共同輸送の対象品目・ルートを広げることを検討。一方でそれぞれ異業種企業との関係も模索する。「食品や日用品メーカーなどで組織する共同物流の仕組みが理想」(製紙会社)ともされる。ただ同じ悩みを持つ業界内連携の余地もあり、紙代理店を巻き込んだ輸送効率向上などが注目される。

トラックドライバー不足や残業時間上限規制など「物流24年問題」への対応が求められ、製紙各社はトラックに代わる船舶や鉄道の利用を広げつつある。

船や鉄道はコストがかかり、長距離輸送やロットの大きい輸送に適している。トラックより余裕を持った受注、出荷が必要となる

500キロメートル以上のルートにおける船、鉄道の輸送量比率(モーダルシフト率)は日本製紙で76%、三菱製紙は74%。日本製紙は今回、大王製紙とトラックの荷台を載せるRORO船を使うが「トラックをそのまま運べるフェリーの活用も増やしたい」(日本製紙物流部)という。

王子ホールディングスは、苫小牧―東京間のRORO船で輸送効率の向上を図る。7月から青森県の八戸港への寄港回数を増やした。港の荷役を約4時間から3時間半程度に短縮し、可能にした。

船の利用がトラック、鉄道より多い三菱製紙は、紙・板紙工場を青森県八戸市に持つ。「環境負荷軽減の観点からも船の比率を増やしたい」として、同社は約26%のトラック利用率を、将来20%程度まで減らす考えだ。

北越コーポレーションも船舶利用を増やす方針だ。三重県紀宝町の工場から関東方面への製品輸送に活用を検討する。一方、23年度から千葉県市川市、茨城県ひたちなか市の両工場からの出荷で鉄道コンテナを利用するモーダルシフトを始めた。24年度からは新潟市の工場から関西方面への鉄道コンテナを増量することも検討中だ。

 

行きは紙、帰りは飲料…「ラウンド輸送」で変わる紙物流

大王製紙はサントリーHDと関東圏-関西圏の長距離輸送を効率化している(上が大王の紙製品、下がサントリーの飲料製品の混載イメージ)

「想定通りいかない点もあったが、現場の作業レベルは確実に向上している」。大王製紙の田上一義執行役員グローバルロジスティクス本部長は、サントリーホールディングスと組むトラック・鉄道の長距離輸送についてこう語る。

数年前からの車両融通を経て、2022年夏には関東圏―関西圏で貨物の混載と鉄道コンテナの共有を開始。トラックは渋滞で想定よりも時間を要し、飲料、紙という異なる品の混載で積み込みには細心の注意を払うなど気苦労も少なくない。

それでも増便で走行するトラック数を減らすなど効果を挙げ、両社は23年8月から高松市―東京都品川区間の鉄道輸送も始めた。

貨物を終着駅で降ろし、帰り便は別のものを積んで戻る「ラウンド輸送」で、愛媛県から関東に紙製品、神奈川県から香川県には飲料を輸送。全てトラック輸送だった従来と比べトラック運転時間は85・6%減、二酸化炭素(CO2)排出量は63%減を目指す。

そんな大王製紙と同業の日本製紙が連携し23年8月、千葉市の千葉中央港と大阪府の堺泉北港を結ぶ海上共同輸送を始めた。大王が愛媛県の工場からの出荷で東日本向けに使う貨物専用フェリー(RORO船)の帰り便に、日本製紙が福島県の工場から出す西日本向け情報用紙を積む。往路のみ利用で空だった復路を“満杯”にすべく取り組む。

紙会社同士の定期ラウンド輸送はこれが初めて。家庭紙で特許係争中の間柄ゆえ、業界内で「呉越同舟」との声も聞かれるが、「コスト低減に向け、目標額を決めて輸送効率を高めたい」と日本製紙の川里裕一営業企画本部物流部長は語る。これに先だって同社は、DOWAエコシステム(東京都千代田区)と秋田県―首都圏間での段ボール原紙などのラウンド輸送を始めた。

トラックから船、鉄道へのモーダルシフトは活発化している。王子ホールディングスは、苫小牧―東京間のRORO船で青森県八戸港への寄港回数を増やしている。港の荷役を約4時間から3時間半程度に縮めた。八戸市に工場を持つ三菱製紙は船の利用を増やし、トラック利用率を約2割まで減らす。

北越コーポレーションは、三重県の工場から関東への製品輸送に船舶の活用を検討している。千葉県、茨城県の各工場からの出荷では鉄道利用を始めた。

船、鉄道はトラックよりコストがかかるが、長距離、大ロット輸送に最適。政府は低環境負荷の点からも利用を奨励する。とはいえ、運用にはトラック輸送以上に高い計画性や時間的余裕が欠かせない。

日刊工業新聞 2023年09月28日