· 

「どうする家康」広瀬アリス、人を笑顔にするには「大人でいようとしないこと」

第36回「於愛日記」より広瀬アリス演じる於愛の方 - (C)NHK

 現在放送中の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜、NHK総合夜8時~ほか)。本作で、松本潤演じる徳川家康の側室・於愛の方を演じた広瀬アリスが、初となる大河ドラマ出演によって得たことや、松本との共演について振り返った。

【画像】於愛の哀しい過去が明らかに…第36回名場面集

 約260年にも渡って続いた徳川幕府の祖である徳川家康が、三河の田舎大名から全国を統一するまでに直面してきたさまざまな選択を、『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの脚本家・古沢良太が描いた本作。広瀬は、激動の時代を潜り抜けようとする家康を明るく笑顔で支えた於愛の方を好演している。

本作が大河ドラマ初出演作となった広瀬。「ちょうど10か月ぐらい仕事から離れていて、復帰作となったのが『どうする家康』でした」と言い、「時代劇の経験もほとんどなく、所作を含めて、一から役を作っていく感覚でした。改めてお芝居ってどういうものなのか……と一つ一つ丁寧に取り組めた作品になりました」と自身にとってターニングポイントになる作品だったことを明かす。

於愛の方が初登場した第23回より。家康(松本潤)を笛で慰めるはずが……

 殿と側室という関係で最も長きにわたって芝居を共にしたのが松本だ。広瀬は本作で描かれている家康について「殿の魅力は不器用なところ。誰よりも人の上に立たなければいけないのですが、実は弱くて優しいからうまくいかない。横にいて支えたいと思ってしまうような人」と印象を述べる。

 松本については「座長として現場を引っ張ってくださる方。ちょっと言いづらいセリフなどがあると、何度も確認してくださる。360度細やかな気遣いができるんです。とても格好良かった」と目を細めると「徳川家臣団のキャストの方々が、“殿!”と周りを囲んでいることが多かったのですが、そういう雰囲気になる意味が分かりました。一緒にいると、本当についていきたいと思える方です」と松本の座長力に圧倒された様子。

第30回より本多正信(松山ケンイチ)と。「ホウ!」と鷹を呼び続ける正信だが……

 9月24日放送の第36回「於愛日記」では、常に明るく元気だった於愛の知られざる過去が描かれたが、これまで広瀬にとって印象に残っているシーンを問うと、第30回(『新たなる覇者』)で松山ケンイチ演じる本多正信が鷹を呼ぶシーンを挙げた。鷹匠として再び徳川に舞い戻った正信が鷹の訓練をしていたところ、いくら呼んでも戻ってこない……というユーモラスなシーンだ。「あのときの“ホウ”(鷹の呼び声)は思い切りおふざけでできたシーンで、とても楽しかった」と笑う。

 一方で、しんみりという意味では、第34回「豊臣の花嫁」で秀吉(ムロツヨシ)のもとへ出奔した石川数正(松重豊)を巡るシーンが印象に残っているという。「石川数正さんが残した(築山でつんだ)お花を見てみんなが泣く場面は、とても時間がかかったのですが、鼻水が出て止まらなくなるぐらい気持ちが入りました。久々に家臣団の皆さんが集まったシーンだったのですが、すごく一体感があって居心地が良かったです」

第34回より、秀吉のもとへ出奔した石川数正に思いを巡らせる家臣たちと於愛の方

 於愛といえば笛を吹くのが趣味だが、いつも音程を外してしまうなど、おちゃめな一面があり、我慢が続いた家康に安らぎと明かりを灯した愛深き姫でもある。広瀬は「彼女の懐の深さ」に感銘を受けたそうで「どんな時でも殿の味方になって、物事をプラスに変える。すごく魅力的な女性」と羨望の眼差しを向ける。広瀬自身は「まったく私は懐が深くない」と謙遜しながら「どうしても自分のことを優先しがちなので。こうなれたらいいなとは思いましたけど……やっぱり無理かな」と悩ましい表情を浮かべていた。

 どんなに困難に陥っているときでも笑顔を絶やさなかった於愛。そんな女性を演じてみて「人を笑顔にするためには、大人でいようとしないことなのかな」と見えてきたものがあったという。

 例えば、於愛が長丸や福松(家康との子)と遊び疲れて寝てしまい、その様子をみた家康が思わず目を細めるシーン。「側室として殿にお仕えしなければいけない立場なのに、子供みたいに遊んでそのまま寝てしまう……。そういうところが可愛らしくもあり、人をホッとさせるのかなと。童心ではないのですが、そういう部分が見えると、人は笑顔でいられるのかなと思うんです」

 戦国時代の姫を演じたことには「最初、時代劇ということで、所作をすべて美しく見せなければいけない」と構えてしまい「ハードルが高かった」と本音も。しかし「お方様と呼ばれる立場であったのですが、於愛さんがとても人間らしかった」ことで、少し肩の力を抜いて演じることができたそう。

 一方で「やっぱりこの時代の女性は強い」と認識したとも。第34回「豊臣の花嫁」では、上洛を迫る秀吉に抗い続ける家康に対し、於愛が“他の人が戦なき世をつくろうとしているのであれば任せてもいいのではないか”と意見するシーンがあった。「いまの時代の女性よりも強かったのかも。とても筋が通っているし、そのうえで男性を支える。その潔さみたいなものは演じていて感じました」と印象を述べていた。(取材・文:磯部正和)

広瀬アリス「どうする家康」で“本当の笑顔”見せるシーンはアドリブ!

第36回「於愛日記」より於愛の方(広瀬アリス)と徳川家康(松本潤) - (C)NHK

 放送中の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜、NHK総合夜8時~ほか)で、松本潤演じる主人公・徳川家康を支える側室・於愛の方を好演する広瀬アリス。9月24日放送の第36回「於愛日記」では、於愛の過去が描かれた。悩みながら進む家康をユーモアで包み込んだ於愛を、はつらつと演じた広瀬が、これまでの撮影を振り返った。

【画像】意外な人物が再登場!第36回「於愛日記」場面写真

 本作は、三河の田舎大名だった徳川家康が、さまざまな困難のなか、究極の選択を迫られながら進む生涯を『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの脚本家・古沢良太が描いた物語。

於愛は何かと苦悩を抱える家康を元気づけ、笑顔にする女性だが、第36回「於愛日記」では、実は夫を戦乱で亡くし、幼子を連れて側室になったという哀しい過去がつまびらかになった。広瀬は「初めて登場したときから、於愛さんの過去というのはほとんど描かれていないんです」と語ると「自分の思いはさておき、現在進行形でとにかく一途に殿にお仕えしていたんです」と於愛の役割を解釈。

 だからこそ、台本を読んだときは「泣いてしまいました。於愛さんの初登場シーンでは、殿のお尻をバーンって思い切り叩いてしまうようなユーモラスな場面だったのに、その前にすごく辛いことがあったわけですよね。それでもああやって笑顔で明るく振る舞っているんですから。本当にゾクッとしました」と古沢が描く人物造詣の深さに圧倒された様子。

 広瀬の言葉通り、於愛が第23回「瀬名、覚醒」(6月18日放送)で初めて登場した際、家康との強烈な出会いのシーンが注目を浴びた。於愛の大らかさやそそっかしさなど愛すべき人柄も示す場面で、広瀬は「松本さんが『遠慮せずにどんどん来てほしい』と言ってくださったのですが、松本さんのお尻を叩くなんて……と最初は遠慮してしまったんです。でもテイクを重ねていくうちにだんだん慣れてきて強くいけるようになって」と振り返り、「その後、もう一度殿のお尻を叩くシーンがあるのですが、そのときは一発OKでした」と笑う。

 このときの明るい笑顔の於愛について、その少し前に起きた悲しいできごとをふまえると「より彼女の笑顔に多くのことが含まれていたんだなと思えました」と広瀬は想いを馳せていた。

 そんななか臨んだ第36回。広瀬は「第36回で今まで見せたことのないような於愛の表情をすべて出せればいいかなと思っていたので、それまではなるべく笑顔でいようと。彼女がそばにいることで、殿が“徳川家康”という鎧を脱いで、一人の人間として安らげるように……という思いで演じていました。この緩急が視聴者の方に刺さったらいいのですが……」と役へのアプローチ方法を語る。

 とりわけ印象に残っているのが、家康と縁側で過ごす場面。広瀬は「殿と二人でキャッキャキャッキャしていますが、完全アドリブだったんです。殿がどんな動きをするのか分からないなか、どうやって(お芝居を)受けようか……と思いながら臨みました。でもシンプルに楽しくできたのは、本当に殿と於愛としてあそこに居られたからだと思うんです」と、時間をかけて作り上げてきた関係だからこそ生まれたシーンだったという。

広瀬アリスの“陽”の魅力が詰まったかのような於愛の方。広瀬は「於愛の方を演じられて本当に良かったなと思っているんです」としみじみすると、「その場をパッと明るくするようなキャラクターは得意分野かなと思っていたので、改めて今回大河ドラマで於愛の方という女性を演じられて、再確認できました。自分自身も演じていて楽しかったので、とても素敵な出会いだったなと思います」と充実感を滲ませていた。(取材・文:磯部正和)