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二十四節気「秋分」 秋分に咲く花は地獄の花?天界の花?

9月23日(土)から10月7日(土)までは、二十四節気の「秋分」です。

9月23日(土)は「秋分の日」で、国民の祝日の一つでもあります。この日、太陽は真東から出て、真西に沈み、昼と夜の長さはほぼ等しくなります。春分の日(2023年は3月21日)も同様です。

肌寒い日の多い春分に比べると、過ごしやすい気温の日が多い秋分。どんな時季か、幾つかのキーワードをもとに見ていきましょう。

秋分の日は「彼岸の中日(ちゅうにち)」

秋分の日は「秋の彼岸の中日」でもあります。この日の前後3日間を含めた1週間は「秋の彼岸」です。

「彼岸」とはそもそも、仏教で迷いのない悟りの境地のことを指します。一方、私たちが今いる世界は「此岸(しがん)」で、迷いに満ちた現実世界です。

お彼岸にお墓参りをする人は多いでしょう。では、どうして彼岸に墓参りをするようになったのでしょうか。それは、極楽浄土と関係があります。

日本ではかつて、極楽浄土は西のかなたにあると信じられていました。

そして、太陽が真西に沈む春分の日や秋分の日は、極楽浄土に最も近づける日と考えたのです。そのため、春分や秋分と供養が結びつき、これらの時季に仏事が行われるようになったといわれます。

「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉もあります。暑さは秋の彼岸まで、寒さは春の彼岸までで、それ以降はほどよい気候になることをいいます。

「幽霊花」「曼珠沙華」などの別名がある「彼岸花」

「彼岸花」はヒガンバナ科の多年草で、土手や畦(あぜ)などに自生します。秋の彼岸のころに咲くために、「彼岸花」と名づけられました。

毒を持ち、食べると危険なので、お子さんなどには注意が必要です。墓地によく植えられているのは、主に虫除けや鼠(ねずみ)などの害獣を防いだためです。

毒があり、墓地によく咲いていることなどから、彼岸花には「死人花(しびとばな)」「幽霊花(ゆうれいばな)」などの異名もあります。「地獄花(じごくばな)」と呼ぶ地方まであるようです。
「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」も彼岸花の別名で、これは「赤い花」という意味です。仏教では「天界に咲く花」とされます。

「地獄」と「天界」では、正反対。いったいどちらなのでしょう。

大正時代に兵庫県で生まれ、長崎県で育った俳人、森澄雄(もりすみお)に、次の一句があります。

〜西国(さいごく)の畦(あぜ)曼珠沙華曼珠沙華〜

花の様子を形容せずに、ただ「曼珠沙華」を繰り返しています。どこかしらの西国の畦に咲き広がる曼珠沙華の花々が眼前に見えるようです。

「秋の夜長」に何をしますか?

秋分の日は昼と夜の長さがほぼ等しくなり、秋分の日を過ぎると、日に日に夜が長くなっていきます。

秋の夜が長く感じられることを「秋の夜長」といいます。夜が最も長くなるのは冬至(2022年は12月22日)なのですが、秋の方が不思議と夜が長く感じられるものです。

ちなみに冬は、夜長といわずに「短日(たんじつ)」「日短か」などといいます。

〜長き夜(よ)の中に我在(あ)る思(おもい)かな〜

これは、明治から昭和期の俳人で小説家の高浜虚子が詠んだ一句です。

フランスの哲学者、デカルトの有名な言葉「我思う、ゆえに我在り」を思い起こす人もいるでしょう。

虚子は、自分がいま確かに存在していることを、秋の夜長に噛み締めたのでしょうか。

時に寂しさを伴う「秋風」

「秋風」は文字どおり、秋に吹く風です。しかし、時に、寂しさや儚(はかな)さを伴います。

俳句を二句、紹介しましょう。

一句は、江戸時代後期の俳人、小林一茶の作です。

〜秋風やむしりたがりし赤い花〜

一茶の長女、さとは満1歳で、疱瘡(ほうそう/天然痘)で亡くなりました。

秋風の吹く中、一茶はさとの墓前に赤い花を捧げます。そのとき、さとが赤い花を見ては、むしりたがっていたのを思い出して詠んだのです。この「赤い花」は彼岸花と考えられます。

もう一句は、高浜虚子に師事した、大正生まれの俳人、野見山朱鳥(のみやまあすか)の作です。

〜秋風や書かねば言葉消えやすし〜

彼は若いときに結核で胸を患い、長く病中にあったため、身を削る思いで作句していたのでしょう。そのことがうかがえる一句です。

とはいえ、秋風は通常、涼しく、心地よいものです。

「スポーツの秋」「読書の秋」「芸術の秋」「実りの秋」、そして「食欲の秋」など、秋を形容する言葉はたくさんあります。

秋風を受けての散策やスポーツ、秋の夜長の読書、旬の果物の食べ比べなど、それぞれの秋を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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参考資料など

監修/山下景子:作家。『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)や『日本美人の七十二候』(PHP研究所)など、和暦などから日本語や言葉の美しさをテーマとした著書が多数ある。