たかが段ボール、されど売上100億へ...富山のメーカーが“世界一の称号”を得た理由
地方の段ボール製造会社が売上100億円を達成できた理由とは? 会社の飛躍の要となった社員の基礎力向上の秘訣を橋本淳氏が語る。
富山県を拠点に、段ボールや商品パッケージの製造販売を行うサクラパックス株式会社。現社長である橋本淳氏の就任以降、売上100億円、経常利益7~8%、自己資本率83%と(2023年7月期時点)約15年で売上を倍増させ進化し続けている。 会社の飛躍を支える包装設計の技術力や社員の基礎力はどのようにして生まれたのか? 橋本氏に聞いた。
リーマンショックをきっかけに旧態刷新を決意
――段ボールや業界について教えてください 段ボールはリサイクル率98%と、とても優秀な製品です。古紙を主な原料とし、原紙2枚の間に波型に加工された段ボール原紙を挟み込み糊付けして生産されます。 原料や製造工程ともに高い技術力は求められず、その技術も成熟しきっており、改良の余地はほとんどありません。さらに、輸送用の梱包資材のため、重要視されるのは質よりも納期と価格といったところです。 製造現場では段ボール原紙の独特の匂いや接着時に熱を使うため、夏場の工場は40度近く室温が上がり厳しい労働環境となります。 ――サクラパックス株式会社は、どのような会社でしょうか 戦後の復興期に、初代が北陸ではじめて起こした段ボールの製造販売の会社です。富山県を中心に石川県、新潟県の地元産業の輸送を支える段ボールを製造してきました。現在では、包装資材をはじめ、強みである包装設計を武器に世界でNO.1の称号をいただく実績を持つほどの会社となりました。 社長就任当時は段ボール業界特有の性質や先代のワンマン経営のツケもあり、「しょせん段ボール」といった考えを持つ社員が多かったと正直思います。 先代社長(父)は利益の上がる体質の会社を作るため地元経済界とのパイプを太くし、トップセールスで注文をとりワンマンで会社を拡大。おかげで赤字を計上したことはなく、業績も安定していたと思います。 しかし、ワンマン経営が30年以上も続いたことにより一般社員から役員に至るまで社長からの指示を待つだけの指示待ち社員と化していました。 自分の持ち場を守って日々同じことを繰り返し、社長が決めた売上目標を達成すればそれでいい。何のために仕事をし、それが誰の役に立ち、どのような社会的な価値を持つかもわからない。社員らが顧客本位の意識を持ち活動するなど夢の話だったのです。 ――業績が悪くなかったようですが、なぜ大規模な社内改革が必要だったのでしょうか 2008年、リーマンショックが起きた年に私は3代目の社長に就任しました。世の中はリーマンショックを機に経済活動を縮小させ、国内でも企業が生き残りをかけて激しい競争に突入した時でした。 実は、GDPの動きと段ボールの出荷量は見事に一致します。なぜなら、梱包資材として需要が高いため、経済活動が縮小すれば、比例して段ボールの需要も縮小します。 リーマンショックの影響や国内の人口減や少子高齢化で内需も縮小の道をたどることは容易に想像できます。飛び抜けた技術や独自の付加価値もなく、仕事への誇りや意義を持てない社員。これでは企業として生き残れない。 強い企業にするために、会社経営の核となり、社員を一丸とする確固とした理念。それと社員の意識を顧客第一に変え、顧客本位のマインドを持った会社にしていかなければと痛感、旧態刷新を決意しました。
売上高50%UP、利益4倍、脅威の成長を遂げた取り組み
SAKURA経営モデル
――具体的には何から始めたのでしょうか 経営とは理念と戦略の両輪で成り立つと考えています。ところが、理念も戦略もない状況では思い描く経営はできません。直ちに社員が向かうべき方向を示す理念の作成とその理念を実現に移す人材や強い組織力を養う必要がありました。 経営について思い悩んでいた2011年、東日本大震災が発災、当時私は被災地支援の活動をおこなっていました。そこで受けた衝撃からその後の人生の指針となる「誰かの笑顔のために生きていく、世の中を笑顔にしていく」という考えに出会います。 この考えが会社の在り方にも当てはまると思った私は、それをベースに50人以上の管理職と共に100年後の会社を考えながら、皆で進むべき方向について意見を出し合う2泊3日の合宿をおこない理念を完成させました。 経営理念は社員全員に浸透させて、自らが理念に基づいた行動を起こしてこそ存在意義があります。 そこで、理念に基づく経営方針と行動様式をまとめた冊子『サクライズムブック』を作成。会議やミーティングのたびに繰り返し内容に触れ理念を腹落ちさせる取り組みを実施しました。 ――利益をもたらす会社の強み包装設計の技術力や社員の基礎力は、どのように培われましたか 理念を理解し行動に移す「考える力」がなければ理念の浸透は、難しいです。そこで、社員の基礎力を作る人づくり(教育)と組織力の強化もおこないました。 まず、社員が常に考えて行動する習慣化を養う目的として、清掃をテーマにした活動を行いました。各課のグループで年間の計画をたて、そこから逆算し1ヶ月、1週間の行動計画に落とし込み1週間単位で、できたかどうか、何が足りなかったか、次はどうするか、話し合いながらPDCAを回します。 新入社員や中途入社した人、誰もができる清掃という身近な業務で、考える力をつける訓練をおこないました。 加えて、この「考える力」をベースに各部署のマネージャーが会社の基本経営方針に基づいた向こう半期の方針を作り実施する「ミッション活動」、モノづくりの現場では、品質と生産性の改善を図り収益の向上に繋げる「KAIZEN(改善)活動」を展開。 これら3つの活動は全て1ヶ月単位ではなく、1週間単位でPDCAを回します。短いスパンで回すことで迅速に細かい活動が実施できます。また、活動方針が間違っていればすぐに修正が可能となり、より深く行動に移せる仕組みです。 この活動は"SAKURA経営モデル"と称し日々取り組んでいます。そして、この活動こそが弊社の利益を生む最大のエンジンでもあるのです。 また、社員のやりがいを高めるため社内の人事評価制度も見直しました。見直しでは「納得性」と「やりがい向上」を重視しました。 例えば、半年や年に1回の評価で本人評価と上司評価に違いが出たとしたらどうでしょう。納得できなし、やりがいは落ちます。 そこで、毎月1回の評価面談を行い、十数項目において、本人評価と上司評価の照らし合わせを行います。年間12回、その面談を繰り返すことで上司と部下の評価が一致し、納得性が高まり、やりがい向上につながる訳です。 このような活動を通じて、"顧客第一"の考えのもと試行錯誤と改善を繰り返すことで設計技術の向上をもたらし大幅な成長が実現したのではないでしょうか。 経営で大事なことは、そこまでやるかと言われるまでやることと考えています。そこに秘策はなく、経営理念のもと、作り上げた施策をひたすらじっくりじっくりと浸透させて行くことと考えています。
世界一の称号を獲得するまでに成長
世界包装機構の「ワールドスターコンテスト」で最高賞を受賞
――社内が大きく変化したことを実感できることは何でしょう 顧客本位でニーズに応えるトータルパッケージサービスを提供する会社を目指し、発想力や技術力を磨いてきた結果、世界包装機構の「ワールドスターコンテスト」日用品部門で最高賞を受賞、世界一の称号をまで獲得することができるようになりました。 また、こんなことがありました。「もっと、うちの商品が売れて欲しい」、顧客の声を追求した結果、BtoB事業をおこなう段ボール製造会社が、BtoC事業にまで領域を拡大させ、三井アウトレットパーク北陸小矢部にて、北陸ならではの食品や工芸品を販売するセレクトショップ「the Made In」を開業しました。 このように顧客が抱える課題を一緒に解決していく、そんな取り組みを通して顧客の利益向上を支える役割も担えるようになった様子が見えた時に変化を実感します。 それから、社員の変化は社外からよく伝わってきます。先日も、「お宅の営業マンは凄い、とにかくこちらの考えを聞いてきて、こちらの要望や課題に真摯に向き合い、なんとか答えようとする。あの執念のような気合いがすごい!」と、得意先の社長様から言葉をいただき、社員の変化と成長をしみじみ実感しています。 ――創業100年目へ向け、今後の取り組みや目指す会社像とは 顧客本位の理念をもとに社員の教育や強い組織づくりを推し進めてきた結果、今年度の売上は100億を超え、経常利益も7~8%、自己資本比率も83%となりました。しかし、国内外の経済環境を考えると、さらなる努力が必要となるでしょう。 弊社には顧客の利益をとことん追求するマインドと実現化するための高い設計技術力があります。この強みを最大限に活かし、段ボール並びにパッケージ設計を活かした新規事業や新製品を仕掛けていきたいと考えています。 まず、梱包や輸送に関わるプラスチック製品を紙製へ置き換える脱プラ活動。また、世界進出として大型の機械や車両のパーツを輸送する際に使用している木や樹脂製の梱包資材を段ボールに置き換える活動の拡大。さらに、新たな輸送手段として開発が進むドローン運送の梱包資材市場へも進出を始めているところです。 「しょせん段ボール」と思い段ボール箱を作るだけだった弊社が今では段ボールを新たな視点で使いこなし、新たな価値を提供する企業に変化しています。この先、万一段ボールが存在しない時代が来たとしても、さらなる笑顔と価値創造を提供する企業として存続しつづけたいです。
橋本淳(サクラパックス株式会社 代表取締役社長)

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名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:50)
石油給湯器・石油ボイラー・エアコン等の修理販売をしてるが製品を取り寄せたとき梱包材の発泡スチロールの処分にいつも苦労する処分料が高くて、メーカーによっては段ボールだけで梱包されてるものもありとても助かる、ものすごい複雑なカッティングと組み立てされててバラすときに「ほ〜なるほどこうなってるのか」といつも感心する、みんな段ボールになってくれたら嬉しいな。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:50)
今、楽天倉庫という場所で働いていますが、入荷する時も出荷する時も物凄い数の段ボールを毎日使います。
この世に存在するあらゆる商品が、作られた時からお客様の手元に届くまで、段ボールに守られて移動しますからね。
たかが段ボールどころか、段ボールが無ければ世の中の経済が成り立たないことが分かりました。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:51)
ダンボールの世界って不思議なもので、梱包資材だからお金をかけたくない、もしくは再利用したいという考えと、一方では中身をよく見せたい商品を飾りたい等お金をかけたい考えと二局化がはっきりしてる傾向があると思います。
いかに良いお客さん(ダンボールにお金をかけてくれる)と取引するかでダンボールメーカーの経営は大きく違ってくるんでしょうね。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:52)
多分、素晴らしい感性を持った社員さんが
多かったのでしょう。
この手の記事を見て表面だけを真似して
余計な制度の導入を増やす企業は逆に無駄が
増えるが、制度導入した者は都合の良い数字を
集めて自己満足に浸る。
目的と目標がブレない経営層が増えれば
自然に会社は成長するでしょう。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:52)
段ボールはとてもエコな商品で、逆に野菜などで使う折りたたみコンテナこそかさばり重たく、洗浄などで何度も輸送され実はエコじゃない。
発泡スチロールも製品の輸送は確かに嵩張るけど、市場などにある減容設備で溶かされリサイクルされるので、案外エコです。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:53)
毎週PDCAを廻す、経営理念を浸透させるとかなんか大層なことかいてあるけど、売上増などの直結した話とはまだ別なんじゃないかな。
PDCAを細かく回せば廻すほど、廻すための管理工数が飛躍的に増えて業務が圧迫する。経営理念の浸透させる工数も会議だらけになる。そうすると、売上に直結する仕事工数が減るので基本は売上は下がる傾向が出てくる。
そうした場合、社員は工数を無理して詰め込むか、人員を増やすしか無い。
1日にできる時間は限られているので、どこかに歪みがあるはず。
なければ、そもそも管理に割当できる時間に余裕があったんじゃと思う。
私自身はPDCA自体が理想論を纏ったなんとなくできたらカッコいい耳障りな経営手法だと考えていますので、単純に営業が優秀だったか、経営者の営業手腕が良かった、時流に乗れたなどではないかなと思う。
まぁもちろんその結果はなにかした成果だと思うので喜ぶべきだと思う。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:54)
お客さんが段ボール納品がいいと言われるが木パレットでいいのならその方がたすかる。段ボールのゴミも多く回収に来てもらうのも大変。2週間前に来たのにもう捨てられませんも困りますので減らしてほしいです。出荷に使えないため業者に回収してもらうしかない。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:55)
岸田さんに、教えてあげて下さい。 国を頼らず他人に支えられて生きて下さい的な政治を続けて来たら、最初は良くても最終的に息切れします。 既得権益だけを守り自分達の立場を確保する、国民が少しでも前向きに頑張って行こうと頑張れば増税のオモリを付け動く範囲を狭める。お友達の機嫌だけ考える。これじゃ経済浮揚しないでしょ! 日本国民に優しい政治を続けて行く気が有るのか疑問です。 会社も国民も、やる気を持たす、事後報告でも良い、とにかく前に進む社会を、その国に住む人々がイキイキ輝いて行ける、希望有る社会に、して下さい。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:56)
このところダンボール材料のライナーロール原紙の出荷も増えてますね…聞くところによるとそれを運ぶトラックも不足気味とか。確かに原紙を運ぶとなると運送屋さんも濡れ、小さな破損等で返品、敬遠するらしいです。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:57)
ダンボールって、地域密着な製品なんだろうね。
いくら畳めるとは言え、
関東で作ったダンボール、北陸には運ばないだろうね。
北陸のマーケットを制覇したら、
別の地域に進出するんだろうなぁ。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:58)
業界に居たけど、レンゴーや王子には逆立ちしても勝てない。。。
中小企業が腐る程ある業界なだけに牌の奪い合いも限度がある。
この業界自体がキャッシュフロー悪すぎです
しかも、高齢の経営者や二代目、三代目と苦労や発想力の無い人物が上に立つ所ばかり。
だけど、やり方次第では100億程度は容易である。現に業界に居たときは売上倍増させたし今も成長してるし間もなく100億に行くみたい。。。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:58)
住宅/オフィスリフォームを生業にしてますが、段ボールだけの梱包は非常に助かります
複雑な形状は確かに手間ですが、つぶしてしまえばコンパクトになるし、古紙問屋に持ち込めば無料か買取で処理出来ますからね(笑)
名無し (日曜日, 17 9月 2023 10:59)
このお二人の「どや顔」は、妙に引かれるね。(特に左側) 段ボールメーカーといっても量や質だけでなく、スピードも大切らしいよ。 どこかのメーカーの若いマイスターは、依頼のあった複雑な形状の商品をしばらく見るだけで、その商品がガタつかないように固定する段ボールを、頭の中で展開して短時間で設計出来る。 確かに、精密機器なんか複雑に折り込まれていて、ピッタリ嵌まっているよね。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:00)
主たる製品とかメーカーサイドに目が行くが
こういう梱包があっての商品が収まる
こういう業界だってカッコイイんです
世界を制する力を持てるってすばらしい事
職業偏見を助長するSNSもあるけど
そういうのにとらわれないで飛び込んで欲しいな若者達よ
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:01)
マジメすぎる日本人にはこういうサクセスストーリーはウケるのかもしれないが、誰がやっても、こう上手く行くものではないと思う。成功した事実があっての解説であり、理論だからケチをつけるのは良くないが、正直“立派”すぎて、凡人が辻褄を合わせようとすると、ムリが生じる。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:01)
ダンボールドローンの開発に全力を尽くして欲しい!敵国の数十億の戦闘機を50万円程で沈めれる無人ドローンの大量生産を願います。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:03)
アマゾンの無駄にでかいダンボールは資源の無駄
また頼んだものを一纏めにせず発送を分けることにより、ダンボール、ガソリン、人件費の無駄になっている
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:04)
以前、段ボール箱製造の仕事に従事してました。工場は3Kで、給料は安かったですね。μ(ミュー)という印刷機が使いずらかった。
名無し (日曜日, 17 9月 2023 11:04)
この会社はまだまだ大きくなる
段ボールは近い将来、建築資材や家具に使われることになるからだ