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「嫌がるメスを無理やり交尾させ…」「大量生産して売れ残ったら里親に譲渡」 元社員が明かすペットショップ「クーアンドリク」凄絶な繁殖現場の実態

 ペット業界最大手のクーアンドリクで顧客トラブルが続発している。元凶は「大量生産」「利益」ありきの凄絶な繁殖現場にあるという。客たちが体験した不条理とは。そして元従業員が告発した、過酷な環境で生まれくる犬猫の運命と、会社の“動物愛護”意識とは。

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 店内は温かなカントリー調のデザインで統一され、かわいらしい犬猫のイラストがあちこちを飾る。店構えは大きく、1階は猫と触れ合えるカフェと動物病院の診察室。2階に上がると、多種多様なペット用品とともに20匹ほどの子犬・子猫が展示されていた。

 東京近県の幹線道路沿いに立つ、ペットショップ最大手「Coo&RIKU」(クーアンドリク、以下クーリクと表記)の店内。巻き毛が特徴的なラパーマという品種の子猫の前で足を止めていると、女性店員が声をかけてきた。

「抱っこしてみますか」

 店員は、生後2カ月だという、ぬいぐるみのような子猫をケージから取り出し、腕に抱かせてくれた。

「ニャー、ニャー」

 可憐な鳴き声とつぶらな瞳が見る者を引きこむ。店員がすかさず畳みかける。

「みなさん、抱っこしてしまうと離せなくなっちゃうんですよね。お支払い(の時期)を3カ月先延ばしできる『スキップローン』もありますよ」

 だが、この一目ぼれがあだとなり、悲劇に見舞われる購入者が後を絶たない。

4日で死んでしまったミックス犬(他の写真を見る

引き渡しの2日後に入院し「瀕死の状態」

〈クーアンドリク許せない〉

 日本中の愛犬家・愛猫家、いや、人々の批判がSNS上に溢れたきっかけは、8月5日に「デイリー新潮」が報じた記事だった。

 今年6月、20代の女性が木更津店(千葉県)で購入したミックス犬(異なる純血種を掛け合わせた犬)は、引き渡し当日から体調を崩し、2日後に入院。獣医師から「寄生虫に蝕まれていて瀕死の状態」と告げられた女性は店に連絡した。すると店長に「治療費は払えない。犬の交換ならできます」と突っぱねられたという。

 やっと出会えた子を「交換」できるものなのか――。

 この女性のみならず、世上も「解決案」に驚いたようだ。「クーアンドリク」のワードはX(旧ツイッター)のトレンド入りもした。

 しかし、これはトラブルのごく一端に過ぎない。

神馬さんのキャバリア(他の写真を見る

引き渡し直後に感染症で死ぬケースが続出

 昨年5月、久留米店(福岡県)でマルチーズを購入した40代女性が訴える。

「購入した翌日の夜に下痢とけいれんで“瀕死”の状態になり、慌てて夜間動物病院へ駆け込みました。獣医には“寄生虫症と低血糖症で、あと数分遅れていたら死んでいた”と言われました。なのに、そのことをクーリク本部のカスタマーセンターに伝えても“二度と起こらないようにいたします”と言うばかりで……」

 同じく昨年5月、会社員の神馬亜矢さんは住吉店(東京都)でキャバリアという犬種を購入し、脚に障害があることが半年たって発覚している。

「『先天性の両側股関節形成不全』という獣医の診断を店に伝えると、あちらは“直接、確認する”と言って先生に連絡。“獣医は100%先天性とはいえないと話している”と反論してきて、約36万円かかった医療費の負担に全く応じようとしないのです。1週間以上やり取りを続けましたが、最後は根負けして泣き寝入りしました。来月には再手術する予定です」

 引き渡し直後に、感染症が原因で子犬が死ぬケースも相次いでいる。

 去る8月3日に江の島店(神奈川県)で若いカップルが購入したミックス犬は、パルボウイルス感染症のためにわずか4日後に死んだ。感染力が強く、子犬が罹患すると8割以上が死にいたるとされる恐ろしい病だ。

 この一件もデイリー新潮が15日に報じたが、東久留米店(東京都)でも同様の事例が起きていた。

コロナ禍で劇的な急拡大(他の写真を見る

元社員は「利益至上主義に支配されている」

 17日に同店でチワワを購入した40代女性が語る。

「店員は“元気で健康な子です”と言っていたのに、帰りの車内で咳をし始め、翌日には下痢で食事も受けつけなくなりました。病院に連れて行くと、パルボウイルスに感染していると診断され、そのまま入院。21日に亡くなってしまいました。ただ、店にそう伝えても“うちの店ではパルボは発症していない”の一点張りなんです。潜伏期間を考えれば、店で発症したのは間違いないのに」

 日本最大のペットショップチェーンで一体、何が起きているのか。

「今に始まったことではありません。この会社は命を取り扱っている意識が希薄で、利益至上主義に支配されているのです」

 こう語るのは、元社員の一人である。

 クーリクの創業は1999年。大久保浩之社長(44)が20歳の頃に、埼玉県草加市に開店した個人ショップが始まりだ。

「その後、安売り路線でチェーン展開に成功します。昔は客寄せのため、広告で『100円セール』『1万円セール』なども打ち出していました」(同)

 2010年には30店舗を超えるまでに成長するも、約1億8千万円の所得隠しが発覚。同社と大久保氏は、東京国税局から法人税法違反(脱税)容疑で東京地検特捜部に告発された。

「事件直後、大久保さんは一旦、母親に社長の座を譲りますが、15年に返り咲く。母親が社長の間も実質トップは大久保さんで、拡大路線を突っ走ってきました」

 16年6月には総計100店舗を達成。

 コロナ禍でペットブームが起きた20年には、新たに43店舗、動物病院31院、猫カフェ15店舗、トリミングサロン43店舗を続々オープン。21年4月にはじつに200店舗に到達した。

 その後も拡大は続き、現在、国内216店舗、上海など国外3店舗、売り上げ266億円(22年度)を誇る、日本最大のチェーンに上り詰めたのである。

クーアンドリク創業者の大久保浩之社長(他の写真を見る

「店にいた時は元気でした」と突っぱねるように言われていた

 だが、この間も顧客とのトラブルが絶えることはなかった。関東圏で店長を務めた男性が明かす。

「売った後は知らない、というのがクーリクの基本スタンスです。引き渡し後に病気などが見つかったと客が訴え出てきても“店にいたときは元気でした”“契約は完了しています”などと突っぱねるように言われていました」

 前出の元社員も言う。

「納得してくれない客は本部のカスタマーセンターやエリアマネージャーに回されますが、原則として契約を盾に返金には応じません。消費者センターに駆け込まれるのも慣れっこで、年に1、2件は裁判にまで発展します」

 秋葉原の本部に勤務していた元社員も「顧客を大事にしようという精神はかけらもない会社」と評する。

「入社しても研修すらありません。下の社員にとって社長は遠い存在で、メッセージも聞いたことはない。ただひたすら、数字だけが求められます」

 カスタマーセンターには、多い時で1日に400件近い電話がかかってくるという。

「クレームとして多いのは、5年縛りの『フード定期プラン』関連です。エサを定期的に届けるこのサービスに加入すると、生体が8万円割り引かれます。ところが、小型犬が到底食べきれない量も一律に送られてくるので“量を減らしてほしい”という要望が絶えないのです。ただ“契約は完了している”と突っぱねるので、トラブルに発展する。そこで1年くらい前、電話をフリーダイヤルからナビダイヤルに切り替えました。電話代がかかるなら、客も気軽にかけてこないだろうという算段です」

不健康な犬猫を販売し続けていた(他の写真を見る

全国に大規模繁殖場

 だが、やはり最大の問題は、不健康な犬猫を販売し続ける営業手法に違いない。

 その実態を明かしてくれたのが、クーリクの繁殖部門を運営するグループ企業「大浩商事」の元社員X氏だ。なお「大浩」とは、大久保浩之氏の姓と名からとった社名である。

「昔はブリーダーが繁殖した犬猫を、競(せ)りを通して購入していたのですが、それでは業容の拡大に追い付かなくなり、数年前から自前で全国に大規模繁殖場を建設するようになりました」

 先述のごとく、店舗は全国で200超……。

「月に1店舗平均20頭が売れたとして、全国で4千頭、年間5万頭もの犬猫が必要となります。今では繁殖場として北海道から鹿児島まで11施設が稼働するようになりました。昨年、鹿児島にできた最新施設は千匹以上の繁殖犬・猫を収容できる規模です」

 X氏はそのうち一施設で犬の繁殖を担当していたが、上から降りてくるのは、とにかく「生産性を上げろ」という指令だった。

「もっぱら業務連絡に使われるグループLINEを通じ、出産率を上げ、死亡率を下げるようプレッシャーがかけられます。達成率がよければ、管理職には特別報酬が支払われました」

繁殖現場ではおぞましい光景が……(他の写真を見る

ゴキブリ、ネズミだらけの繁殖場

 初めて繁殖現場を見た時、そのおぞましい光景に絶句したと振り返る。

「交配を嫌がるメスもいるのですが、かまれないようタオルを首元に巻いたり、2、3人がかりで押さえつけたりしてオスと交尾させるのです」

 繁殖場はゴキブリだらけだった。夜間に明かりをつけると、天井から何十匹とそれが降ってきたそうだ。

「ネズミも毎日2、3匹捕獲されるくらい、そこら中を走り回っています。そんな不衛生極まりない環境の中、妊娠した母犬が毎日20~30匹ほど産室でお産を迎えるのです。広さは20~30畳くらいで1頭ごとに空間が仕切られていますが、常時、けたたましい鳴き声が響き、落ち着いて出産できる環境じゃない。母体へのストレスは大きく、産みはしたもののネグレクトしたり、果てはわが子を食べてしまう母犬もいました」

死亡率が30%を超える月も

 X氏の提供による全国の繁殖状況をまとめた内部資料には、目を覆う数字が羅列されている。表の中にある「D犬」という項目。DはDEADの頭文字、つまり「死亡」数だ。21年10月のD犬率は20.2%、11月34.8%、12月30.1%。年平均22.5%とあった。

「30%を超える月はどこかの施設でパルボウイルスが発生していたと思われます。死んだ犬は冷凍庫に一度保管され、たまったら火葬場へ運んで処分します」

 繁殖犬の中には遺伝子検査で〈キャリア〉や〈アフェクテッド〉と出た犬も交じっていた。前者は遺伝病の発症遺伝子を半分もつ個体、後者は確実にもつ個体を指す。

「彼らを異常のない〈クリア〉と呼ぶ生体と交配させれば、異常は滅多に引き継がれないという安易な発想からです」

 この点、ブリーディングに詳しい獣医師は「繁殖学を無視している」と指摘。

「アフェクテッドの犬を繁殖犬に回すなど絶対にあってはなりません。仮に次の代で疾患が出なかったとしても、隔世遺伝する可能性があるためです。交配したがらない犬に対しては人工受精などの手段を取るべきでしょう」

片付けなかった糞を食べてしまうことも

 なお、店舗のほうの管理体制もめちゃくちゃで、前出の店長いわく、

「常に人手が足りていないのでワンオペになることも多く、片付けなかった糞を気付いたら犬が食べていたケースもあった」

 現役社員のこんな話も。

「今年3月には掛川店(静岡県)、金沢店(石川県)、サンパークあじす店(山口県)、京都店(京都府)でパルボウイルスが立て続けに発生しました」

 店頭に並ぶ前に遺伝子異常が見つかることもある。その際はどうするのか。

「『譲渡事業』に回されます。客に一度売られたものの、問題が生じて戻ってきた犬猫や、高齢などの理由で繁殖できなくなった引退犬も同様です」(X氏)

 クーリクのホームページの「里親募集」コーナーに、こんな文言がある。

〈ワンちゃん・ネコちゃんとの出会いも私たちの人生を豊かにしてくれる、大切な人生の一部です。そんな素敵な出会いを提供することこそ、弊社の役割だと考えております。その為にCoo&RIKUに出来ることの1つとして譲渡活動を行なっています〉

 あたかも保護犬を引き取ってボランティア活動に励んでいるかのようだが、譲渡の実態はX氏の証言のとおり。儲けありきで大量生産した結果として生じた個体を“余り物”よろしく、善意の第三者に押し付けようとしているのだ。

 

出生後56日たたずに……(COO&RIKU HPより)(他の写真を見る

「いたたまれなかった」業務

 X氏が勤務中に「いたたまれなくて仕方なかった」と振り返る業務がある。

「産まれたばかりの、まだ目も開いていない赤ちゃんを母親から引き離し、リボンをつけて写真に撮って、売るためにホームページに載せる作業です。動物愛護管理法では出生後56日を過ぎないと販売できませんが、こうして早いうちから予約を受け付けます。3万円の内金まで取って……。生きるか死ぬかで頑張っている赤ちゃんに、ここまでさせるものかと」

 なお、X氏は「われわれも犬猫同様とまでは言いませんが、あまりの扱いを受けていた」と打ち明ける。

「会社に健康診断がないんです。給与システムもめちゃくちゃで、ひどい人だと基本給15万円程度。プラス残業代もみなしで月3万円くらいしかつきません」

 社員に健康診断を受けさせないのは、歴とした労働安全衛生法違反である。

「パピーミル(子犬工場)規制を」と杉本氏(他の写真を見る

「生体販売を禁止しない限り…」

 動物愛護活動で知られる「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」代表の杉本彩氏は、実状を聞いて憤りを隠さない。

「動物虐待そのものです。やるせないのは、今の動愛法ではこの凄惨な状況を取り締まれないところ。『パピーミル(子犬工場)』による大量生産を何ら規制していないのです。フランスのように日本も生体販売を禁止しない限り、こうした倫理観にもとるビジネスがなくなることはありません」

 クーリクに質した。まず顧客とのトラブル。東久留米店でのパルボウイルス感染の件は「協議進行中」としながら、その他の件は、

「すでに解決済みと認識しております」

 続いて、遺伝子異常の犬を繁殖に用いていること、繁殖場にゴキブリやネズミが大量発生していること、嫌がる犬を無理やり交配させていることや、店舗での糞尿始末の不備に関しては、

「ご指摘の事実はございません」と否定した。

 D犬率の推移を記した内部資料は、その存在自体を否定。“大量生産”の件は、

「施設を増やし、個別に愛情をもって飼養できる環境整備をしております。施設数を増やしたことを大量生産とする表現は、事実誤認であり誇大表現です」

譲渡の問題についても、

「動物取扱業は対面販売、対面説明が求められており、ご指摘のような欺く行為は不可能で、事実誤認です」

 コールセンターへの入電数は1日300~400件あるものの、クレームは1%程度だとし、パルボウイルス感染は「根絶に努めておりますが、年間数件の発生がある」と回答した。

 犬猫を「繁殖」させ「売り買い」するビジネスの、見過ごされてきた冷酷な一面があらわになりつつある。

週刊新潮 2023年9月7日号掲載

特集「犬猫無情…客の『クレーム』『悲劇体験』も次々と 日本最大ペットショップ『クーアンドリク』に響く哀しき鳴き声」より