この記事をまとめると
■デコレーション・トラック(デコトラ)は映画「トラック野郎」でブームになった
■一時期は大流行したがコンプライアンスの観点などから使用を控える企業が増えた
■現在デコトラは海外からも人気が高く、イベントを開催すると大盛り上がりだという
レストアされた劇用車の「一番星号」。東映から大阪在住の前オーナーの手に渡り、2014年には現オーナーである「全国哥麿会」の田島順市会長に譲渡され、レストアされた(ジャパントラックショー2016にて撮影)
ここ近年は、かつて仕事で使っていたデコトラを引退させ、ナンバーを営業用の「緑ナンバー」から自家用の「白ナンバー」に変更、荷台コンテナのなかをリビングのように改造してトラックベースのキャンピングカーのようにリメイクをしたり、仕事で使用するトラックは飾らずに、通勤用に軽トラックや1.5~2トン積の小型トラックを購入したりして飾る向きも増えてきた。
「トラックは仕事をしてナンボ」という声も聞こえそうだが、キャラバンやハイエースのような4ナンバー商用車をエアロパーツやリフトアップパーツなどでドレスアップしてプライベートで使用することと根本的には変わらないのではないだろうか。そう考えると、驚くようなことではないのかも知れない。
本職が大型トラックのドライバーだというアラケンさんはプライベートでは三菱ふそうキャンターを愛用している。陸運局で構造変更を行ったため、車検にも対応済だ(提供:アラケンさん)
アジアのパキスタンやタイでは、トラックを飾ることで神が宿る(=自分の命が守られる)と考えられ、交通安全の信仰としてトラックを飾る。また、アメリカやヨーロッパの各地では、ドレスアップした個人所有の大型トラックやトレーラーを展示した「カスタム トラックショー」が定期的に開催されている。
世界中でスポーツカーやSUVがカスタムされるのと同様に、トラックをカスタムしたいと思う人たちがいるのも世界共通。日本では、深夜の街道やハイウェイで電飾を光らせて荷物満載で闊歩する「デコトラ」は確かに減ったが、トラックを試行錯誤して飾り立てた先人たちや、俳優・菅原文太に憧れてトラックドライバーになった人たちの心意気は根強く残っており、中高生の若い世代へも着々と引き継がれている。
そもそも「デコトラ」は映画がきっかけで生まれたわけではない。諸説はあるが、1960年代に物流の主役が鉄道からトラックに代わった頃、鮮魚などを運ぶトラックが錆を防止するために車体にステンレス板を貼ったり、観光バスの標識灯、メッキされたホイールカバー、軍用車払下げのエアホーン(ヤンキーホーン)などを取り付けたりしたのが始まりとも言われている。
ドライブインなどで仲間同士がパーツの互換性などの情報交換を行い、ダンプや青果便など異なる業種の運転手にも伝わったのだろう。いまでこそ専門のパーツメーカーやショップも存在するが、そんなものがない当時は、運転手たちの試行錯誤によって愛車を飾ったと聞く。ちなみに「デコトラ」は、映画のブームに乗っかって「デコトラ」のプラモデルをいち早く商品化した静岡県にある模型メーカー「株式会社青島文化教材社」の登録商標である。
1970年頃のデコトラ。当時のトラッカーに人気のあった 三菱ふそうの大型車(T951型 ・1968年式)に純正部品やフォグランプなどを活用して飾りを施している。(提供:宮﨑靖男氏)
映画『トラック野郎』は1979年12月に公開された第10作目でシリーズが終了したが、その後も一定数のファンが存在し、1984年には専門誌「カミオン」(芸文社)が創刊され、1980年代後半には(映画公開時を第一次とするならば)「第2次デコトラブーム」が発生。街道にデコトラが溢れ、雑誌だけでなく、映画・ドラマ・バラエティー番組などさまざまなメディアにも取り上げられていた。
それから30年、あの頃の「デコトラ」はどうしているのだろうか? 今でも街なかで時折見かけることもあるが、明らかに数は減少しているように思える。昔のように運送業界が高賃金でなくなったこと、安全基準や排出ガス規制対策でトラックの車両重量が重くなり、飾りを装着すると積載量が取れなくなったことなど理由はいくつか考えられるが、やはり大きいのは、コンプライアンスの観点などから荷主となる企業が飾った(派手で目立つ)トラックによる輸送を嫌厭するようになったことだろう。
1986年頃のデコトラ。会社所有のいすゞフォワード(1983年式)に「ウロコステンレス」という素材で製作したシートキャリアやバンパーなどを装着し、大手住宅メーカーの建築資材を運んでいた。(1986年茨城県にて撮影)
ハイテク&デジタルが生んだデコトラ「花魁号」! 美しすぎるその姿にファンの熱視線が止まらない
この記事をまとめると
■東北カスタムカーショー2023が開催された
■今回は「花魁 Japan」のブースに注目
■デコトラ「花魁号」には 最新技術が投入されていた
花魁ジャパンは東日本と西日本、ふたつの会社が共同で展開するひとつのブランドで、奥田氏は岐阜を、西日本代表は鳥取をベースとする谷口真一氏。
テールランプや装飾モールのようなアクセサリーのみならず、デカールなどデコトラ乗りでなくても気軽に身に着けられるアイテムもあって、花魁ジャパンはさりげにデコトラ・ファンの間でも憧れブランドになりつつある。加えてデモカーの助手席にも体験的に乗り込めるとあって、人の入りはひっきりなしだ。
「今回のデモカーは、日野のいわゆる17(イチナナ)プロフィア現行型がベース。ハイクオリティのパーツを実際に装着して見せるだけでなく、フィッティングや耐久性などを検証して改良するのに用いています」。
サイドマーカーまでシーケンシャル・ウインカー化された保安部品だけでなく、パネルを囲むように彩られた電飾の枠ライティングはすべてLED。とはいえ枠内のパネルアートが肝心となるが、花魁号は「オートボディプリント」という最新の大型インクジェッタプリント技術で塗装されている。まるで蒔絵のように雅な絵柄はそう、CGで描かれたものを巨大プリンタで出力して描いているというのだ。複雑な色合いやタッチを早い時間で実現する点では、およそ人間の手が敵わないほどだ。
ライトなカスタムパーツも魅力的
最新テクノロジーをデコトラに採り入れることにも積極的である一方で、ミラーステーやデコレーション用のメタルパネルなど、オリジナルのプレミアムかつ高品質なパーツを開発生産することが花魁ジャパンのビジネス。たとえばリヤの観音開きゲートは、3mm厚のステンレスパネルの鏡面仕立てで、鏡でも見たことがないほどの巨大反射面に圧倒される。
「これ以上に薄いステンレス板だと波打っちゃって、こうもキレイに像は映らないんです。このパーツがほとんどワンオフな一方で、テールランプのキット、近頃の最新のものは3列シーケンシャルのウインカーになっていますが、やはりこのあたりが最初にデコトラのオーナーの誰もが手をつけるところ。うちのベストセラーです」。
他にもライトなカスタムパーツとして興味深いのは、金属パネルやホイールリムに貼るだけでエレガントな蔓草モチーフがあしらえる、両面テープのソフトメタル・アクセサリーが挙げられる。何とボディは無論、ホイール内側にまで貼れるとか。
「最初は金型を作ってキャストで本格的なものを作ろうとしたのですが、こちらの方がオーナーさんが貼りたいところに自分で貼れるというメリットが大きいです。それにいまはトラック業界も配送先の出入りを含めコンプライアンスが厳しくて、法規対応の範囲内でのカスタムが求められますから」。
ちなみに最新のアイテムのひとつが、オープニング付きのテールランプ。電源ONにすると、5つの巨大発光部をもつLEDがひとつずつ光ってオーナーを迎え入れる工夫だ。
すでにこのデモカー自体が3年近く使っているそうで、「そろそろリニューアルしたいですね。もちろんサイドパネルの図柄も一新して」。
ところで先ほど説明した「オートボディプリントは通常だと、高さ70cmの部分には塗装はつけられない。どうしてパネル最下部にまでCGの絵柄が行き届くほどのキャンバスを作り上げられたかといえば、「トラックごと、塗装マシンの前で70cm持ち上げているんですよ。大変でしたけど、そこが違いを生むディティールだと思って」
最新ツールも、使う人間の知恵とパッションがないと使いこなせないという、好例だったのだ。
ディープすぎるニッポンの文化! 一般人には意味不明の「デコトラ」の運転席まわりの専門用語をご紹介!!
この記事をまとめると
■デコトラは数少ない日本初の文化として海外でもよく知られている
■今回は運転席を含めるキャビンまわりを装飾するための大型パーツを解説
■デコトラアイテムの多くは実用的なものが飾りへと進化して誕生している
世間の人たちは、ここまで派手に飾られたトラックこそが「デコトラ」だという認識でいることだろう。しかし、デコトラ界にも変化が生じている。とくに仕事で使われているトラックにおいてはボディや細部架装に力を注ぐ傾向にあるため、素人目では即座に判断できなくなっている。写真は、NPO法人全国哥麿会の「元禄丸」(編集部で画像の一部を修正しています。撮影日:2020年11月)。
苦楽をともにする相棒を華やかに飾り上げるための手段とは
デコトラ界における専門用語は数多く存在するが、今回は入門編として手始めに、運転席を含めるキャビンまわりを装飾するための大型パーツについて述べてみたい。
まずは、ルーフの上に載せる「シートデッキ」。骨組みの上からステンレス板を巻いて製作するのが一般的だが、ステンレスの角パイプで構成されたものも「鳥かごスタイル」と呼ばれて人気を集めている。地域や世代によっては「シートキャリア」や「シート台」とも呼ばれるのだが、元をたどれば実用的なアイテムだった。シートデッキは平ボディに使用する荷台用のシートを収納するための装備であり、そこに電飾パーツなどを取り付けたことで発展してきたのだ。
写真は、前出の「元禄丸」。シートデッキの形状自体はシンプルだが、数多くのアンドンでデコレーション。これは、昭和時代の水産便を連想させるものだ。
写真は、角パイプで構成された鳥かごのシートデッキ。形状そのものにこだわりを見せる、とても優れた逸品である。派手にすれば良いというわけではなく、高品質であれば良いというわけでもない。デコトラ界では、全体のバランスを考慮して飾ることが必要とされるのだ。一等地となるため、メインアンドンと呼ばれる看板灯には車輌のニックや所属するクラブ名、及び会社名を刻むのが定番となっている。
他人と違うデコレーションを好むデコトラにはワンオフ製品が多い
実用的なものから飾りへと進化したデコトラアイテム
フロントガラスの上部にせり出させたアイテムは、「バイザー」と呼ばれる。シートデッキと同様に、こちらも実用的なアイテムが進化したもの。
昭和の時代では「庇」とも呼ばれていたバイザーは、その名のとおり日除けとして活用されていたのだ。睡眠不足のなかで運転しているドライバーにとって、朝日や夕日はとても危険で辛いもの。昼夜問わずに街道筋を駆けるトラック稼業においては、必須アイテムだと言えるだろう。さらには、冬季ではフロントガラスの凍結防止にも役立つという優れものなのである。
そんなバイザーは、もともと小ぶりで簡素なデザインだったのだが、こちらもシートデッキと同様に電飾パーツが組み合わされるようになり、飾りとしての色が濃くなってゆく。近年では、日除けや凍結防止のためにもっとも重要であるはずの、屋根の部分に該当する天板を持たないものが多い。それは大きなパーツでド派手に飾り上げたデコトラに多いのだが、バイザーそのものを巨大化したことで、軽量化と空気抵抗の軽減を図っているのだ。その部分でも、現代におけるバイザーとは実用性云々ではなく、装飾としての意味合いが強いことがおわかりいただけるだろう。
仕事車の世界では大き過ぎるものは敬遠されるが、趣味で飾られたデコトラには巨大なバイザーを装着する人も多い。
写真は「元禄丸」のバイザーで、車輌全体の飾りに相応しくクラシカルなものを装着する。形状はシンプルで、サイズは小さめ。まさに日除けとして活用されていた時代の雰囲気を、存分に放ちだしている。
前方へと大きく張り出させた写真のバイザーは、天板を排除して軽量化や空気抵抗を軽減させたもの。もちろん実用性はなく、飾りと割り切って装着されている。サイドミラーをセットしたパーツは、ミラーステーと呼ばれて親しまれている。
知れば知るほど奥深く、とてもディープなデコトラ文化
他人と違うデコレーションを好むデコトラの世界では、一般的な改造車と比較すると汎用パーツが圧倒的に少ない。登竜門とも言えるバイザーには既製品が存在するが、シートデッキにおいては十中八九オリジナルだと言ってもいいだろう。もちろんデコトラに欠かすことが出来ないアイテムは、ほかにもまだまだ存在する。その部分については、稿を改めてお伝えさせていただきたいと思う。
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