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中古車販売グッドスピードでも保険金水増し請求 ビッグモーター不正が開けた「パンドラの箱」

愛知県を地盤に店舗展開し、東証グロースに上場している中古車販売大手グッドスピード(写真:編集部撮影)

ビッグモーターによる保険金不正請求問題の火の手が、ついに同業大手にも広がり始めた。

東証グロース上場で中古車販売大手のグッドスピードが、事故車修理費用(保険金)を水増し請求していることが新たにわかった。損害保険会社がビッグモーター以外の中古車販売会社を対象に、これまでの修理案件を改めて精査する中で疑義のある案件が表面化し、すでに金融庁に任意で報告したもようだ。

 

グッドスピードは「過失」と主張か

グッドスピードは愛知県を地盤に店舗展開しており、SUV(スポーツ用多目的車)の販売に強みを持つ。中古車の買い取りのほか、車検整備、板金塗装、保険代理店事業も手掛けており、事業構造はビッグモーターとほぼ同じだ。保険の幹事会社はあいおいニッセイ同和損害保険が務めている。

水増し請求について、グッドスピードは事務ミスといった「過失」によるものだと弁明しているもようだ。故意なのか、また保険契約獲得の見返りに修理費の査定を甘くしてもらうといった損保との癒着があったのかどうか、という調査・検証はまさにこれから進めることになる。

グッドスピードは水増し請求の疑義について「担当者が不在のため、コメントできない」としている。

そもそも、ビッグモーターによる不正が発覚したときから、同業者においても水増し請求が顕在化するのは時間の問題とみられていた。「板金業界ではこれまでにも保険金請求に当たって、過剰な修理や実際に施工した工数以上の請求といったことは、業者の規模にかかわらず常態的に行われてきた」(ビッグモーターが公表した調査報告書)からだ。

実際に2022年末から2023年6月にかけて、トヨタ自動車系列の販売会社ネッツトヨタ茨城とトヨタカローラ静岡で、板金塗装作業の内容を偽って保険金を水増し請求したとして、謝罪文を公表する事態が起きている。さらに言えば、系列販売会社による不正は板金だけではない。

車検整備においても、2021年にトヨタ系列の15社16店舗で速度計の検査を省略するなどといった不正があったことが判明している。2022年にはホンダ系列でも不正車検が発覚し、東京都内の一部店舗が自動車整備事業の指定を国土交通省から取り消されている。車検や板金における個別の不正行為は、もはや枚挙に暇がない状況にあるわけだ。

自動車、整備・板金、損保の各業界がときにもたれ合い、不正行為が水面下で横行するという状況で、大きな懸念の一つが自動車保険全体の保険料への影響だ。

 

保険料の”過払い金”が発生している可能性

ビッグモーターの不正問題では、保険料計算の目安となる「参考純率」を決める損害保険料率算出機構が、「不適切な請求が判明したケースについては保険会社にそれらの報告を求め、参考純率の算定に反映」する方針を示している。不正の規模によっては保険料の“過払い金”が発生している可能性があるわけだ。

ビッグモーターの不正問題を受け自動車保険料が割高になっていた可能性があるとして、損害保険料率算出機構も対応に乗り出した(写真:同機構のホームページより)

一方で不正請求の規模は、「ビッグモーターで年間数億円とみられ、保険料への影響は平均で数十円程度ではないか」(大手損保役員)との見方がある。そのため、大手損保各社では保険料への影響は限定的と見越していたものの、完成車メーカーの系列会社をはじめとして今後不正請求が相次いで発覚するようなことになれば、その影響はもはや無視できなくなる。

ビッグモーターの不正問題をきっかけにして、自動車修理をめぐる「パンドラの箱」が開いてしまった今、騒動に群がるようにして国会議員たちも大きな関心を示している。かつて、公正取引員会からカルテルの疑いで注意を受けた「修理単価(レバーレート)」についても、不正請求の背景にあるのではと問題視する声が政府・与党内で急速に強まっていることもあり、火の手は収拾がつかないほど広がり始めている。