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お祭りの屋台 元・たこ焼き屋店主が原価率とリスクを語る

 夏を彩るイベントといえば、夏祭りや花火大会。そういった場所で見かける屋台の食べ物は何とも美味しそうに見える。かつて屋台のたこ焼き屋を経営し、各地で祭りを取り仕切る人物とも親しい男性・Aさんによれば、祭りの屋台では、モノによってはかなり原価率が低い商品もあるという。

「まず、かき氷と綿あめは、原価はタダみたいなものです。かき氷は氷とシロップで1杯15~20円ぐらい、綿あめはザラメだけなので1本10円ぐらい。イカ焼きも1本30円ぐらいで原価率は低いです。ただ、かき氷は気温が上がらないとまったく売れないし、イカ焼きは売れ残ると捨てなくてはいけない。一方、綿あめは在庫リスクはありませんが、機械に金がかかります」(Aさん。以下「」内同)

 かき氷や綿あめ、イカ焼きの販売価格は300~400円程度。これを知ってしまうと一気に購買意欲が失せてしまうかもしれないが、まだまだ原価が安いものがあるという。

「原価率が低そうに見えないものの、実は原価が安いのがベビーカステラです。ベビーカステラで使うのは小麦粉、卵、牛乳、砂糖、ベーキングパウダーぐらいでしょうか。1パック20円ぐらいで作れます。ベビーカステラの強みは、イベントが終わる直前にも売れること。『持って帰って明日食べよう』というお客さんがいるのは、他の食べ物とは違うところです」

 ここまでライバルたちのビジネスのカラクリをばらしてきた元・たこ焼き屋店主。たこ焼きも相当儲けているのでは?

「よく『たこ焼きなんてタコと小麦粉とソースだけでしょ?』と言われるのですが、実は、タコがどんどん値上がりしています。私は西アフリカのモーリタニア産のタコを使っていましたが、10年間で価格が4割ぐらい値上がりしました。後は桜えび、切りイカ、天かす、紅しょうがなど、細かく色々入っており、原価は30~35%ぐらいでしたね。

 またたこ焼きは焼けるまでに時間がかかるので、売り上げに限界があります。あらかじめ焼いておきすぎても嫌がられますし、出来上がりの品がなくなって『いま焼きますから』と言っても、『じゃあいらない』と言われるし……。まあ、そこまで含めて“腕”なんですけどね」

 さて、お祭りで何を食べる?

「昔は1000円あれば色々楽しめたのに…」 久々の夏祭りで“屋台離れ”した人たちの本音

 コロナ禍で中止を余儀なくされていた夏祭りが、4年ぶりに各所で復活している。久しぶりに開催される夏祭りが賑わう一方で、お祭りに付き物である屋台を「楽しめなくなった」と漏らす人たちがいる。どんな理由があるのか。今夏、“屋台離れ”したという人たちに話を聞いてみた。

焼きそばが800円になっていてびっくり! 

 メーカーに勤める40代女性・Aさんは、数年前までは家族で地元のお祭りに行けば、必ず屋台で食べ物を購入していた。しかし、今年は食べ物や飲み物を買わなかったと明かす。

「お祭りといえば屋台。このときだけは子供たちに買い食いも、歩き食べも許していました。でも、屋台飯ってコスパは悪くて、あっという間に数千円が飛んでいく。しかも最近の物価の値上がりの余波なのか、コロナ前はたしか500〜600円だった焼きそばが、800円にもなっていてびっくりしました。

 もちろん、これまでは屋台で買うものは多少高くても“雰囲気代”だと思っていたのですが、いろいろな物価が上がっているなか、急に『わざわざ屋台で買って食べなくても……』という気持ちになってしまいました」

 とはいえ、子供にお祭り気分を味わいさせたい気持ちはあるAさん。今年は「屋台で買う飲食物はきょうだいで一つをシェア」と決め、くじやゲームにはお金を使ったという。

「お祭りならではの商品で、1000円する光る容器に入ったジュースをねだられましたが、高すぎるので却下。高校生ぐらいになって、自分でバイトしたお金で買えばいいかなと思います。ただ、興味を持ったヨーヨーつりや射的はやらせました。ものよりも体験にお金を使いたいと思っていたので、夏の思い出になってくれたらいいなと思います」(Aさん)

お祭り会場を出てコンビニへ

 IT企業勤務の30代男性・Bさんも、屋台の価格を見て驚いた経験を話す。

「僕はもともとめちゃくちゃ屋台好きで、屋台が並んでいる風景を見ると“ああ、お祭りだな”と嬉しくなる。屋台で売っているメジャーな飲食物はほとんど口にしたことがあると思います。

 でも今年行ったお祭りでは、ざっとあんず飴が300円、かき氷400円、チョコバナナが500円、たこ焼き700円、お好み焼き800円、串焼き1000円くらい……。1000円という価格帯が屋台にあるのを見た時は、思わず『高っ!』と言ってしまったほどでした。地域やお祭りの規模によるのかもしれませんが、子供の頃は1000円あればあれこれ楽しめた記憶があるのに……」

 Bさんは夫婦で話し合った結果、一旦、お祭り会場を出てコンビニに向かった。

「ポテトやフランクフルト、飲み物をコンビニで買うと、屋台の半額以下の値段で済みました。自分がそんなことをしておいて言うのもなんですが、お祭りの屋台が出なくなるのは寂しいんですけどね……」(Bさん)

屋台飯は“非日常”にかかるお金

 商社に勤務する30代男性・Cさんは、「“非日常”の場で楽しむものの値段は、今後さらに上がるのでは」と分析する。

「今年行った海の家ではカレーが1000円ぐらい。かき氷は800円とかだったかな。もともと、スキー場とか山の上とか、レジャーに関する場所は物価が高いじゃないですか。最近の屋台も、それと同じなのかなと思っています。

 僕が子供の頃行っていた屋台は、チョコバナナで200〜300円ぐらいじゃなかったかな。それが最近は500円しますよね。輸送する車のガソリン代も原材料費も上がっているのでしょうから、仕方がないと思いますが、屋台飯も高くなった分、何を買うか吟味するようにはなったかもしれません。周囲を見渡せば、水筒を持参する子供、手作りおにぎりを食べながら歩く大人もいましたね」(Cさん)

 屋台グルメの楽しみ方も変わりつつあるようだ。(了)

地元の祭りに10年参加した50代男性が「もう参加しない」と決意した理由

 9月に入ると全国各地で秋祭りが行われ、町内会をあげて盛り上がることだろう。お揃いのハッピを着た老若男女が勇壮な掛け声とともに神輿を担ぎ、終了後はテントの下で酒を酌み交わす。この光景に対してはこんなコメントもある。

「引っ越してきたばかりなので祭りの輪に入れず寂しい」(都内在住30代男性)
「地元の仲間とワイワイやっていて楽しそう。羨ましい」(神奈川県在住40代男性)

 実際、東京23区内のとある町内会で祭りを仕切る男性・A氏は飲食店を経営しているが、祭りの良さについて次のように語る。

「オレらは地元あっての商売です。年に一度の祭りはそりゃあ重要ですよ。何週間もかけて準備をしますし、皆で掛け声の練習をしたり、神輿を担ぐ一体感は何度味わっても素晴らしいです。祭りが近づくと商売そっちのけで頑張っちゃいますよ(笑)」

 しかし、A氏のように祭りを楽しみにしている者ばかりではない。最近祭りからの撤退を決めた人物もいるという。都内在住の50代男性・B氏は、この10年、地元の祭りに参加し続けていたが、今年からは参加しないと決めた。

「地元に溶け込もうとしたのですが、所詮私は“ヨソ者”だったんですよ……」、そう言ってうなだれるB氏は妻の実家に住んでいる。この60年、地元に根付いている家で、「あの家のお婿さんならば」ということで、B氏も祭りに参加できることになった。

 B氏によると「通常のルートでは、祭りに参加することはできません」とも言うが、せっかく参加できるようになった祭りから、撤退を決めたのはなぜなのか。冒頭で紹介したような祭りを羨ましがる声をB氏にぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。

「それは外から見ているからそう思うだけです。結局、祭りってものは、地元から絶対に離れない人のためのものなんです。私は妻の縁があるため10年間参加することができましたが、それでも常に“外様”扱いです。私が9回目の参加をしたときに2歳の子供がハッピを着て参加したらその子の方が“重鎮”扱い。その子の親も祖父母も、もっと言うとひいおじいさん、ひいおばあさん世代も祭りに参加していたから、その子も“身内”なのです」

 そうした身内意識が強い場で、なんとなく疎外感を感じ続けてきたB氏だが、そもそも祭りに参加するようになったいきさつは何か。

「当初、妻からは『祭りなんかに参加してもロクなことはないからやめなさい』と言われたのですが、やはり私もここに骨を埋める覚悟をしたので地元に溶けこまねければ、と参加を決めました。もちろん最初からアウェイ感はありましたが、運営に協力し、一緒に神輿を担げば、いつしかその努力は認めてもらえると思ったのです。しかしそれは甘かった。私はいつまで経ってもヨソ者だったのです」

 B氏がもう参加しないことを決意したきっかけがあった。祭りには、気性の荒い人々も多数参加しており、酒を飲んでケンカになることもあるという。昨年の祭りでも口論が発生したため、B氏は「まぁまぁ、そう熱くならないで、ここは落ち着きましょうよ」と仲裁に入った。すると、口論をしていた男性からこう言われた。

「うるせぇよ。お前みたいなヨソ者は黙ってろ!」

 こうなるとなぜか口論をしていた者同士が突然結託し、B氏に対して「お前はうるせぇんだよ!」「勝手に口出しするんじゃねぇ!」などと言いながらB氏を責め立てる。そうこうしているうちに2人の口論は終わり、あとは仲良く酒を飲み始めたそうだ。

 こんな経験をしただけに、B氏は「もうやっていられない」とばかりに、祭りから離れることを決意した。妻からは「だから最初から言ってたじゃない。ロクなもんじゃないって」と言われた。B氏は悔しそうにこう語る。

「私はヨソ者なだけになんとか地元に溶け込もうとしました。それでも受け入れてもらえないんです。祭りを羨ましいと思っている人は、一度体験してみるといいですよ。いや、ヨソ者が体験できるかは分かりませんが、ドロドロした人間関係や序列を見せつけられることでしょう」