【寒いのも冷たいのも、手が汚れるのも皆同じ】
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正月が明けて間もない日のことだった。
セルフスタンドで給油してると、
対面のスペースで若い兄さんがタイヤに空気を入れ始めた。
据え置き型のなんだけど、あれ長いホースまとめるの面倒くさいのか、
誰も綺麗にまとめず、いつも機器の足元にぐちゃって置いてある。
その日も店員がまだ気付いてなかったのかぐちゃぐちゃのままで、
給油後に空気圧見ておこうか迷ったものの、見送った矢先であった。
正直、あれを束ねるとなると手が汚れて億劫である。
自分が使った後にぐちゃぐちゃのままでは気分が悪いし、
かと言ってヨソの奴らがぐちゃぐちゃにしたままのを、
自分が手を汚してまで綺麗にするのも癪だった。
そんな小者じみた判断でタイヤの空気入れを見送ったのだ。
空気を入れてた若い兄さん、
彼も入れ終わったら、皆と同じだろうと眺めてた。
しかし、彼のやることは少し違っていた。
その兄さんは、全てのタイヤに空気を入れ終わった後、 わざわざホースを伸ばし切ってねじれを取り、 綺麗に束ねて所定のフックに引っかけていた。
すぐ傍の水道で手を洗い、寒さに身を震わせながら、 かじかむ手をすり合わせながら彼は車に乗り、 そのまま出て行った。
寒いのも冷たいのも、手が汚れるのも皆同じなのである。
皆同じ中で、彼だけがホースをきちんと片づけていった。
ただそれだけのことと思われるかも知れないが、 そのことに俺は羞恥とか感動とか、色んな感情が込み上げてきた。
彼の行いこそが当然であるのだが、 それを実行できるか否かの差がそこにあった。
今年一年、この気持ちを忘れずに過ごしていきたい、 そう思った正月明けの日の出来事だった。
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