
「いやいや豆腐事業ではありません。 私ども会社の幹部宅でお宅のお豆腐を食べながら、 商売の原点について話し合ってみたいんです。」
事業の規模から言えば、松下電器は安心堂の何千倍という大きさです。
にもかかわらず、安心堂に商売の原点を学ぼうというのです。
橋本さんが一隅を照らそうと心を込めてきた商売が、 ついに大松下に「商売の原点を学ぼう」とまで言わしめたのでした。
橋本さんは金沢市に本社を置く押し寿司専門店「芝寿司」で 15年間工場長をつとめ、商売の基本を、この会社の梶谷社長から学びました。
『お客様のお役に立てば、自分も生かされる、それが商売の基本だ』と。
橋本さんが独立する時、梶谷社長は言いました。
「安心堂を大阪で一番の豆腐屋にしてください。 一番というのは、“一番おいしい豆腐を作る店”ということです。 決して一番儲ける店ということではありません。 原価率だの粗利益率だなどという賢い豆腐屋になるな。 ただおいしい豆腐を作ることに専念する、 バカなような商人であってほしい。 あれもこれも売ると思うな。『当店はうまい豆腐の専門店です』 と胸を張って言える店になれ。挑戦と創意で進め!」
豆腐の命は水と大豆とにがりです。
いまの豆腐の多くは硫酸カルシウムや添加物を使っていますが、 そのような科学薬品は肝臓に蓄積され体に良くありません。 橋本さんは化学薬品は一切使用しない豆腐を作っています。
『一隅を照らす』という言葉は、実は、 比叡山延暦寺を開いた最澄というお坊さんの言葉です。
一つの隅を照らすような歩みを、まず自分がコツコツ続けたときに、 共鳴する人が現れ、私も頑張りたい、 私も真心を傾けて歩みたいと集まってくる。 こうして共鳴する人が次第に増えて、 二人、三人、五人になり一つの灯火が万の灯火になっていく。 そのような教えです。
橋本さんは今朝も4時に起きて 「一隅を照らすもので私はありたい・・・・・」と朗読し、 良い豆腐が出来ますようにと祈っています。

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