欧米のロックスターたちの不道徳、不謹慎なエピソードを集めた『不道徳ロック講座』(新潮新書)を執筆するにあたり、数多くの自伝や評伝を読み解いてきた神舘和典氏。その作業を通して見えたのは、ロックスターたちの大胆かつ豪快な生きざまだった――。前編記事『【不倫で自粛なんかするわけないだろ!】エリック・クラプトン、ミック・ジャガー…欧米ロックスターたちの「不道徳」伝説がヤバすぎる』に続き、本稿では伝説のグループバンド・キッスの赤裸々かつ意外な一面を紹介する。
初体験と長い舌
キッスは1973年、ジーン・シモンズ(ヴォーカル、ベース)、ポール・スタンレー(リード・ヴォーカル、ギター)、エース・フレーリー(ギター)、ピーター・クリス(ドラムス)の4人によって結成された。顔に施された白を基調とした悪魔や獣のペインティングは、あまりにも有名である。
中心メンバーで現在もバンドを牽引しているジーンとポールは、それぞれ自伝を発表している。『KISS AND MAKE-UP ジーン・シモンズ自伝』(ジーン・シモンズ著/大谷淳訳/シンコー・ミュージック刊)と『ポール・スタンレー自伝 モンスター~仮面の告白~』(ポール・スタンレー、ティム・モーア著/迫田はつみ訳/増田勇一監修/シンコーミュージック・エンタテイメント刊)だ。
他のアーティスト同様、彼らもまた性に関するエピソードを惜しげもなく披露している。たとえば初体験。
ジーンは13歳の頃、アルバイトの新聞配達先で集金先の家がその体験の場になったという。かなり強引に「奪われた」格好のようで、現在ならば性加害の被害者と認定されそうである。
彼はクラスメイトの女子からも求められた。その際に好評だったのが、人よりも長い舌だった。ライブを観たことがある人はご存知だと思うが、ステージ上で彼が血を吐き(もちろんニセモノだが)、長い舌をだらりと垂らすのは定番である。演奏中もよく長い舌をベロベロと出す。
これがクラスメイトには魅力だったようで、彼はこれが女性に対しての武器になることを経験を通じて知ったという。その後、ステージパフォーマンスでも最大限に活用したというわけだ。
ポールの場合は、近所の奥さんが相手だったと告白している。彼が10代の頃、夫が出て行って寂しい思いをしている人妻に誘われたのだ。それまで性に関しては両親から厳格な教育を受けてきたのだが、この経験によって彼は快楽を知ってしまう。
メイクはビジネスに有効だ
彼らの自伝には、こうしたエピソードがサービス精神満載で綴られている。ファンとの「夜の交流」、日本で経験した特殊な風呂のサービス等々。初体験はともかく、こちらのエピソードのほうは、もし今の日本のアーティストが披露したら「一発退場」となること確実な類のものばかりである。
ただ、実は彼ら二人は、そうしたワイルドなロックンローラー的な顔以外に、クールな戦略家、ビジネスマンという顔を持っている。
『ポール・スタンレー自伝』を読む限り、彼の頭の中はかなりクールだ。キッスのビジネス戦略についても具体的に書かれている。そしてなによりも、ポールは自分をかなり客観視できている。彼は次のような自己認識を述べている。
こうしたことが具体的、現実的に語られていく。経営者的な発想なのだ。ポールの自伝はビジネス書的な感覚で読むこともできる。
相棒のジーン・シモンズもビジネスに関する意識が強い。十数軒のレストランチェーンを経営。自分のロゴを清涼飲料水のボトルに印刷してロイヤリティを得るビジネスも展開している。
2017年、筆者は彼にインタビューしたことがある。ソロの限定ボックスセットをリリースしたタイミングだった。
下ネタとお金儲けの話ばかり
この時の彼の口から出てきたのは、下ネタとお金儲けの話ばかりだった。ビジネスのプランをいくつも持っていたのだ。ジーンもまたミュージシャンというよりも、経営者のイメージだ。
ボックスセットには彼のその方面での才能がつまっていた。まず、キッスの新旧のメンバーは全員参加。自伝では酷評しているエース・フレーリーやピーター・クリスも演奏している(二人ともアルコール依存等の問題を抱えていて、ジーンたちを悩ませていた)。キッスのファンがほしくなる仕掛けが満載なのだ。ボックスセットの魅力はもちろん、価格や入手方法等々を能弁に語ってくれた。
こうしたビジネスマン的な側面を表に出したくないほうが多数派だと思うが、彼の場合はきわめてオープンで、『KISSジーン・シモンズのミー・インク』(ジーン・シモンズ著、大熊 希美、滑川 海彦訳)なるビジネス書まで書いている。
今年、結成50年を迎えたキッスは十分にレジェンドと言える存在なのだが、前述の通り、あまり音楽の共和国の「相関図」の中には登場しない。いわゆる大物との交流があまり見られないのだ。
それでもなお、一線で活躍しつづけられたのには、楽曲の魅力やパフォーマンスの素晴らしさに加えて、フロントマン二人のビジネス的なセンスがあったことがうかがえるのである。
photo by gettyimages
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