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北越コーポVS大王製紙の壮絶バトル 「物言う株主」も参戦

 海外に拠点を置くアクティビスト(物言う株主)が「今年最も注目すべき業界」と照準を定めたのは製紙業界。なかでも最も関心をもっているのは、新潟県長岡市を本拠地とする北越コーポレーション(株)と愛媛県四国中央市に拠点を置く大王製紙(株)。両社の統合が遅々として進まないことに、物言う株主の堪忍袋の緒が切れた。北越コーポの株主総会で、岸本哲夫社長の責任を追及した。

物言う株主は北越と大王製紙の統合要求

    香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント(以下オアシスと略)は5月22日、6月29日開催予定の北越コーポレーション(以下北越コーポと略)の定時株主総会で、岸本哲夫社長の再任に反対投票を行うようほかの株主に要請する文書を公表した。岸本氏は代表取締役社長として在任した15年間、経営に失敗したと断罪した。

 オアシスは2019年以降、北越コーポと対話してきた。北越コーポに大王製紙株の売却を提案したが、北越コーポはこの要請に従わず、大王製紙の株価は16カ月で48.1%下落し、北越コーポとステークホルダーに400億円の経済価値の損失を与えた。2023年2月に、北越コーポと大王製紙の統合を提案。要求が通らない場合は取締役全員の反対票を投じると主張していた。

 北越コーポにノーをつきつけたのはオアシスだけではない。英投資ファンドのニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドは、役員報酬の見直し、自己株式の取得、取締役の過半数を社外取締役とする定款変更の3つの議案の株主提案をした。株主総会で岸本社長にどの程度の賛成票が集まるかが注目だった。

社長再任の賛成比率は前年比15ポイント低下

 北越コーポは7月3日、定時株主総会の議案に対する賛否の状況をまとめた臨時報告書を関東財務局に提出した。それによると、会社側が提案した取締役の人事のうち、岸本哲夫社長の再任の賛成票の比率は65.13%にとどまっていた。昨年開催の定時株主総会の際の賛成率80.21%から約15ポイント低下した。他の取締役9人はいずれも78%台の賛成を得ており、岸本社長の賛成票の比率の低さが際立った。

 岸本氏の社長再任に対しては、北越コーポ株の18.0%を保有する筆頭株主(23年3月期末時点)のオアシスのほか、大王製紙の関連会社である大王海運が、株主総会の開催前に、岸本社長の反対を表明していた。

 大王海運は、グループ会社である美須賀海運と合わせて北越コーポ株10.0%を共同保有する(23年3月期末時点)。2013年以降、資本政策やコーポレートカバナンス(企業統治)などへの懸念を理由に株主総会で岸本氏の再任議案に反対票を投じている。

 大王海運は大王製紙株の5%を保有し、海上運送や倉庫事業を手がける。北越コーポは大王製紙に経営統合を迫っており、それを阻止するために大王海運が北越コーポ株を取得。オアシスが登場してくるまでは大王海運が筆頭株主だった。株主提案の3議案は、賛成が36~37%で過半数に達せず、否決された。

 海外に拠点を置くアクティビスト(物言う株主)が「今年最も注目すべき業界」と照準を定めたのは製紙業界。なかでも最も関心をもっているのは、新潟県長岡市を本拠地とする北越コーポレーション(株)と愛媛県四国中央市に拠点を置く大王製紙(株)。両社の統合が遅々として進まないことに、物言う株主の堪忍袋の緒が切れた。北越コーポの株主総会で、岸本哲夫社長の責任を追及した。

創業家御曹司のバカラ賭博事件

大王製紙 東京本社 イメージ    北越コーポと大王製紙のバトルの発端は、大王の創業家本家の三代目・井川意高元会長が起こしたカジノでのバカラ賭博事件で総額106億円を使い込んだことだ。

 この事件を機に、後任の社長になった佐光正義氏ら経営陣は脱・創業家に踏み切る。創業家(本家)と経営陣のトラブルの仲介の労をとったのが、北越の岸本社長だった。岸本氏は「2006年に王子製紙(現・王子ホールディングス)によるTOBの際に安定株主となってくれた大王製紙に恩義を感じている」と語っている。創業家が支配していた大王がホワイトナイトとして救いの手を差し延べた。

 大王と北越が2~3%ずつ株式を持ち合う資本提携を結び、「反王子」の立場で支援した。その縁から12年に北越は創業家が保有する大王株を取得して、筆頭株主になった。創業家(本家)のもつ大王関連会社の株式を北越が買い取り同値で大王製紙に売却、大王製紙本体の株式は北越が所有、持分適用関連会社とした。

 創業家(本家)は、株式の売却代金(100億円)を原資に、大王の子会社からの借金とカジノの未清算金の弁済を行った。大王製紙は、段ボール原紙など産業用紙のメーカーだったが、家庭紙に進出。ティッシュペーパーのエリエールは、今では大王の代名詞となった。

 大王の中興の祖と呼ばれた高雄氏は、不肖の息子・意高氏がつくった莫大な借金を尻拭いした。その結果、すべての株式を処分して、創業家(本家)が三代にわたり君臨してきた大王の支配権を失った。意高氏は「売り家と唐様で書く三代目」、そのままであった。

「ギャンブル狂」大王・創業家御曹司の復讐

 会社法違反(特別背任)の罪に問われた意高氏は、懲役4年の実刑判決が確定し、4年近く服役した。刑期満了で実家に戻った意高氏は、19年9月父の死に遭遇する。父の死後、書斎から走り書きが見つかった。井川家を大王製紙から排除した佐光氏について、父は次のようなメモを残した。

「佐光と“共死”(注:刺し違えて死ぬという意味だろう)しても構わない」
(有森隆「企業真相研究」(日刊ゲンダイ2022年8月4日付け)より)

 意高氏は復讐を決意する。2022年6月、意高氏は『熔ける 再び そして会社も失った』(幻冬舎刊)を著した。キャッチコピーは「ギャンブルよりも血がたぎる。現会長佐光一派による井川家排除のクーデターが実行されていた」である。

 同書によると佐光氏が一族間の離反工作を働いたことを告発している。佐光氏と、高雄氏の弟たち(分家)が手を組んで、本家の高雄氏を追い出したという。大王製紙の株主総会の直前に、この本が出版されたため、大王製紙は佐光会長を再任する議案を取り下げた。

 ギャンブル狂の御曹司は、佐光氏の首を取って、復讐をはたしたわけだ。なお、そのあたりの事情については、NetIB-NEWSに「大王製紙、「ギャンブル狂」(御曹司)の復讐!」(2022年7月4日~6日付)を寄稿した。

 意高氏による前出の暴露本『熔ける、再び』にはこう書かれている。

 <まさか佐光が自分に牙を剥き、兄弟たちが反目して佐光側に寝返るとは、父は夢にも思わなかった。佐光と三男・俊高が裏で手を握り、残りの兄弟を全員佐光派としてまとめてしまったのだ。高雄が実験を失いかけていると見るや、五男・英高は佐光派に寝返った。
 「オレたちをずっと押さえつけていた兄貴をここで排除すれば、オレたちは今後好き勝手にできる」と考えたのだろう>

 このように大王製紙では、北越コーポ(岸本氏)が支援していた創業本家(高雄氏、意高氏)と、創業分家と手を組んだ経営陣(佐光氏)の対立が泥沼化していたのである。

北越・大王を丸ごと売却する可能性は!?

 では、両社の関係はどうなるかを占ってみよう。

 北越コーポの岸本社長が大王製紙獲りに動いた意図は、何か。北越・大王、三菱製紙で第三極を形成する腹づもりで、その頂点に自らが立つ狙いがあったと考えられる。だが、その狙いは、大王側の抵抗にあって頓挫する。両社の関係は冷え込んだ。

 北越が王子製紙からの乗っ取りを仕掛けられたとき、反王子の先頭に立ったのが、三菱商事出身の岸本氏。古巣の三菱商事に支援を仰いだとされる。王子を撃退して完全勝利した2008年4月、社長兼CEOに就任し、今日に至るまで長期政権を続けている。

 だが、その後、三菱商事は製紙業界への出資を見直した。当初は北越と三菱製紙との統合により、王子製紙、日本製紙グループ本社(現・日本製紙)に次ぐ第3の製紙会社を構想していたが、これを断念したのだ。19年に三菱製紙を王子HDに売却したのに続き、20年2月、三菱商事は19.32%を保有する北越コーポ株を売却。北越コーポが自社株式として取得した。

 岸本氏には、最後の大仕事が控えている。大王製紙との関係だ。

 北越コーポは、物言う株主に大王製紙株の売却を迫られている。国内製紙2強である、王子HDもしくは日本製紙に、大王製紙株を保有する北越コーポをセットで売却することが考えられる。製紙業界の再編は2強に集約されることになろう。