桑田佳祐
「桑田くんにも、みなさんにも本当に感謝しかない」
5月21日、神奈川県茅ヶ崎市にある『だんごのこばやし』が28年間の長い歴史に幕を下ろした。店主の小林健二さんは改めて感謝の気持ちを口にする。
小林さんは茅ヶ崎市出身のサザンオールスターズ桑田佳祐(67)が中学時代に所属していた野球部の先輩。小林さんの弟は桑田の同級生だ。茅ヶ崎サザン通りで『だんごのこばやし』のほか、創業74年の『茶商 小林園』を2代目として経営。サザンファンの聖地である茅ヶ崎サザン神社の向かいにあり、どちらの店にも多くのファンたちが立ち寄っていた。
「閉店する1週間くらい前から、毎日行列ができて。多い日には100m先のコンビニくらいまで。閉店することは口コミやSNSで広まったようで、最初はそんなことになっているとは気づかず驚きましたよ」(小林さん、以下同)
閉店の理由は経営不振……ではなく
地元はもちろん、遠方からも閉店を惜しむ人たちが押し寄せた。しかし、これだけ愛されるお店が閉店とはどういった理由なのか。やはりコロナ禍での営業が不振だった?
「むしろ好調でした。だんごだけでなく、太巻きなどのご飯ものも販売していたので、自宅で食べる方に需要があったようで。閉店の理由は忙しくなりすぎたこと。最近は売り切れ御免で、夕方4時には店を閉めていました。うちはおいしさにこだわってきたので、日持ちさせるために甘くしたり酸っぱくしたりということもしません。“当日手作り”でずっとやっていました」
夫婦二人三脚で店を営んできた小林さん。一日中立ち仕事だった妻は膝を痛めた。店を閉めた後、6月上旬に手術入院。
「娘も継ぐと言ってくれたけど、娘の子どももまだ小さい。今のように手作りで続けていくには大変なので、閉める決意をしました」
桑田佳祐から届いたメール
『だんごのこばやし』は閉店したが、『茶商 小林園』は続ける。桑田にお茶を贈ることもあり、そのたびに原由子から礼状が届くのだそう。今でも親交は続いている。
'00年のサザン茅ヶ崎ライブでは開催に合わせ、抹茶をブレンドした深蒸し茶・茶山(さざん)を発売。さらに、'08年には茅ヶ崎サザン神社を建てることにも尽力した。
「'10年に桑田くんが食道がんになったとき、励ましのメールを送ったら、『小林さんこそ大丈夫ですか?』と返信があった。実はその1年前に私もがんになっていたんです。義理堅く、思いやりのある人だと、改めて感じました」
そのやりとりをきっかけに、同級生である弟よりもメールするようになったそう。
「やっぱり影響力はすごい。茅ヶ崎が盛り上がるのも桑田くんのおかげ。観客数も限られる地元の野球場ですが、地元でのライブ開催は本当にうれしいですね」
6月25日にサザンオールスターズは45周年を迎えた。前日に桑田はラジオで10年ぶりの茅ヶ崎凱旋ライブを行うことを発表し、地元は大盛り上がり。茅ヶ崎サザン神社にも多くの人が訪れており、「茅ヶ崎ライブ当選祈願」といった書き込みも多く見られた。
「ノリで御朱印を作ったのですが大好評で。神社を作ったときもそうですが、楽しんで取り組むことが大事(笑)」
『だんごのこばやし』の閉店は寂しいことだが、桑田が残す茅ヶ崎への“希望の轍”はまだまだ絶えないようだ。
神奈川新聞
(神奈川新聞)
茅ケ崎市出身の桑田佳祐さん(67)率いる人気バンド「サザンオールスターズ」が今秋、茅ケ崎公園野球場(同市中海岸3丁目)で野外ライブを開催することが決まった。今年はデビュー45周年の節目で、「故郷」での凱旋ライブは10年ぶり3回目。突然の吉報にファンは熱狂し、地元は早くも盛り上がりをみせている。3カ月後の祭典に向け、サザンの「聖地」は“熱い胸さわぎ”が続きそうだ。
「茅ケ崎ライブ2023開催決定!」。6月24日深夜のラジオ番組。デビュー45周年の前夜に桑田さんが発表したサプライズに、地元は歓喜に包まれた。
茅ケ崎の海岸近くにある球場での野外ライブは2000年と13年にも開かれ、ともに全国からファンが殺到してまち全体がサザン一色に染まった。今回は9月27、28、30日と10月1日の4日間。7月17日からは4年ぶりとなる新曲を3カ月連続で配信するといい、地元は夏本番に向けた盛り上がりに期待を膨らませている。
「桑田さんの『茅ケ崎愛』の現れじゃないかな」。JR茅ケ崎駅近くのサザン通り商店街で茶店を営む小林健二さん(73)は声を弾ませる。桑田さんと同じ小中学校の6年先輩で、弟は桑田さんの同級生だ。
店の向かいにはサザン結成30周年の08年に作られた「茅ケ崎サザン神社」が立ち、「今回のライブが決まってから、ファンが行列をつくることもある」という。神社の壁に掲げられたメッセージボードには「茅ケ崎ライブ当選祈願」「プラチナチケット当たりますように」といった書き込みがずらり。小林さんは「やはり影響力はすごい。野球場は観客数も限られるのに、地元を選んでもらって本当にうれしい」と笑顔を見せた。
45周年 サザンオールスターズが愛され続ける理由「『何を歌ってもいい』桑田の信念が心に響く」
(女性自身)
1978年6月25日に発売された『勝手にシンドバッド』で衝撃的なデビューを飾り、今年45周年を迎えたサザンオールスターズ。7月から新曲を3カ月連続で配信予定、さらに9月には神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎公園野球場で『茅ヶ崎ライブ2023』を4日間にわたり開催することを発表した。今もサザンオールスターズが多くの人の心をつかんで離さない理由を音楽評論家のスージー鈴木さんに聞いた。
■圧倒的な感情を喚起させる“桑田語”
「鮮烈なデビュー曲『勝手にシンドバッド』の衝撃は45年たっても色あせません。そもそも『胸さわぎの腰つき』ってどんな腰つきかわからない。けれども音楽の中で聴くと『わかる』のです。
言葉そのものというより、言葉とビートがぴったりと結び付くことで、文字だけでは伝わらない圧倒的な感情が喚起される。そんな“桑田語”に私たちは癒され、勇気づけられ、心震わせられてきました」
そう語るのは音楽評論家のスージー鈴木さん。サザンが45年もの間、支持され続ける理由についてこう分析する。
「ワンマンバンドはだいたい早くついえるんです。ところが桑田佳祐という強烈なリーダーがいながら45年続いている。その理由のひとつがテクニシャンバンドだということです。サザンを一貫して牽引し続けているのはドラムスの松田弘。『勝手にシンドバッド』のリズムをたたき出せたことこそがブレークに結びついたと思います。さらに原由子のセンスのいいキーボードも大きな役割を果たした。
メンバーの和気あいあいとした姿を見るにつけ、桑田はリーダーでありながら上から目線にならない“ムードメーカー”なのでしょう」
サザンは活動休止期間もあるが、メンバーそれぞれ実力があるからこそ長続きしているという。
■ラブソングも、エロも、政治的なことも…何を歌ってもいい
さらに桑田の「こだわり」も私たちの心を離さない理由のひとつだという。
「桑田には『ロック音楽は何を歌ってもいいんだ』という揺るぎない根本思想を感じます。45年間貫いているのは歌詞にまつわるさまざまな制約に対する抵抗感かもしれません。
とにかく何を歌ってもいい。ラブソングでなくともいい。エロなことから政治的なことまで、ノー制約で何を歌ってもいいという感覚。戦後の音楽家で『表現の自由』をもっとも満喫し、謳歌した人です」
日本の音楽シーンの先頭を駆け続けているサザンについて、最後にスージーさんはこう語る。
「桑田佳祐は67歳。そう考えると、なかなかの高齢だと思ってしまいますが、沢田研二が今年75歳になったにもかかわらず、積極的にライブ活動をしているのを見るにつけ、5年
後の50周年でも桑田佳祐は現役バリバリかもしれませんね。
ファンとしては長く地味に、のんびりと活動してほしいものですが、ドームコンサートなどこれまで以上にド派手なことをしてくれそうな気がします」
【PROFILE】 スージー鈴木
1966年、大阪府生まれ。音楽評論家。著書に『サザンオールスターズ1978-1985』『桑田佳祐論』など。
育った場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代にはやったドラマや歌の話。同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。
「’80年代に限らず、メジャーデビューした’78年から現在に至るまで、コンスタントにヒット曲を出し続けています。そのため、固定ファンに愛されるだけでなく、時代を追うごとに、新たなファンが“上乗せ”されていくから、これほど息の長い。まさに不世出のバンドですよね」
そう語るのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(53)。サザンオールスターズは、デビュー当時から、テレビ番組で強烈なインパクトを放った。
「“夜ヒット”(フジテレビ系)では、メンバー全員がジョギングパンツとタンクトップ姿で登場し、『勝手にシンドバッド』を熱唱。Tシャツにジーパン姿のフォークシンガーはいましたが、それをはるかに上回るラフな衣装で、桑田さんは髪もボサボサ。まるでスタジオに勝手に乱入してきたかのようなイメージでした。また、歌詞がよく聞き取れないため、字幕が表示されたのも、サザンならではのことです」
お茶の間にハチャメチャな印象を与えたサザンだが、3枚目のシングル『いとしのエリー』(’79年)でバラードを披露。
「『ふぞろいの林檎たち』(’83年・TBS系)の主題歌ともなった名曲。“こんなしっとりした曲も歌うんだ”と、そのギャップに驚かされました」
“原坊(ハラボー)”こと原由子の存在も大きかったという。
「『私はピアノ』(’80年)、『そんなヒロシに騙されて』(’83年)ではボーカルを担当。桑田さんが生み出すメロディを楽譜に起こし、サポートしたといわれ、制御不能に見える桑田さんたちを、穏やかにとりまとめている姿が印象的。“売れたら別れる”ケースが多い芸能界で、大学時代に知り合い、仕事でも生きるうえでもパートナーであり続ける理想的な夫婦像に、誰もが憧れているはずです」
そんなサザンは’80年代以降も、多くの楽曲が主題歌、CMソングに使用され、愛され続けている。
「湘南をイメージする曲は、海沿いのドライブで聴きたくなるし、『ピースとハイライト』では、時の政権に対する痛烈な皮肉だと話題になりました。がんになられてからは、桑田さんの命に対するメッセージ性も前面に。あらゆるジャンルの曲があり、なかなかカテゴリー分けできないのも魅力。あえていうとすれば“サザン”というジャンルとなるでしょう」
変幻自在の曲調に、シビれるメッセージを乗せ、サザンはこれからも人々を魅了し続ける。
「女性自身」2021年2月23日号 掲載
コメントをお書きください