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「私と一緒に死んで!」客に包丁を突きつけられたホストは、そっと足を差し出した

 

「昔はホスクラに行くたびにシャンパンを開けていたのですけどね…」そう語るのは、以前は歌舞伎町のホストクラブに毎日のように通い詰めていた、元ホス狂いのインフルエンサー、「すしすし!ゆうひちゃん(@ykyk_yuuhi)」だ。(以下、ゆうひちゃん)彼女はなぜホスクラ通いをやめたのか、そして、彼女が夜の街で見てきたホス狂いの「生活」とはーー。

月100万円を注ぎ込む

ゆうひちゃんがホストクラブに通い出したのは2020年ごろ。初めてホストクラブに行ったきっかけは友達の付き添いだったそう。当時のゆうひちゃんは合コンやクラブ遊びに浸っていて、男性にお酒やご飯を奢られていたため、ホストクラブのような女性が大金を払って男性と遊ぶ楽しさが全然理解できなかったという。

だが、ホストクラブに何度か通い、イケメンたちから「好きだよ」や「愛している」といった甘い言葉をかけられているうちに、「自分の求めている感情をお金で買える」楽しさに気づいてホストクラブにハマってしまった。

その後はホスト通いを続けるため、会社員として働きながら夜の仕事を掛け持ちしてお金を稼ぎ、担当(お客から担当として指名されたホストのこと)に月平均100万円を注ぎ込む、典型的なホス狂いになっていた。

そんな彼女がホストクラブに通う頻度が少なくなったのは、2022年の冬ごろにマッチングアプリで出会ったホストの「ヒモ男」を飼い出したこと、そして地元に彼氏ができたことが大きな要因だった。

しかし、ゆうひちゃんのようにホスト以外の「推し」や「恋人」的な存在ができてホス狂いをやめる人もいれば、金銭的な問題や家庭の事情でやめてしまう人も。人によってホスト通いを辞める理由はさまざまだ。

ホス狂いはどのようなタイミングでホス狂いを辞めるのか、そしてその後はどのような生活を送るのだろうか。今回は元ホス狂いのゆうひちゃんに「ホス狂いの末路」についてインタビューを行った。

「担当の命を終わらせたい」

「ホストに一度ハマったらなかなか辞められない」と話すゆうひちゃん。ホス狂いになると、色とりどりのネオンサインが並ぶ歌舞伎町に豪華絢爛なホストクラブの店内、そして自分を無条件に褒めて楽しませてくれるイケメンたちに夢中になり、遊びがどんどんと派手になっていく。

だが、カネは有限だ。金銭的に困ってしまい、夜の仕事を始めるようになる人も少なくない。

「なかには風俗で働き始めて、月に200~300万円を稼いでホストに貢ぐ女性もいます。そのような人は、ひと月の大半を地方の風俗への”出稼ぎ”に費やし、月に2日だけ歌舞伎町に戻ってきて担当に貢ぐという生活をしていますね。

私はそこまで熱心に仕事はできませんでしたが、それくらいホスト通いに一生懸命になってしまう人も少なくありません」

ホス狂いのなかには、ホストへの愛が強すぎるあまり、文字通りホストを"刺して"しまう人もいる。

ゆうひちゃんの知り合いのとあるホストは、エース(最も売上に貢献してくれる、お金を使ってくれるお客)の女性から「頑張って応援してきたのに結婚できないなら一緒に死のう」と心中目的で包丁を突きつけられた。

そのホストはとっさに「足なら致命傷にならないだろう」と足を差し出して、刺されたそうだ。

「歌舞伎町では包丁を持ち出すくらいのことはよくある話ですよ。担当への愛が強すぎるが故に『恋心が叶わないならば、自分の手で担当の命を終わらせたい』と思って行動に移してしまう人もいますね。ホス狂いにとって、推しへの思いはそれくらい深く重いものなんです」

どっぷりと夜の世界に浸ってしまうとホストへの感情が最優先になり、次第に抜け出すことが難しくなっていくのが実情だ。しかし、それでもホス狂いを辞めてしまう人もいる。そのような人たちにはどのような事情を抱えてホスト通いを卒業していくのだろうか。後編「昼の世界には戻れない…ホス狂いから卒業した女子が陥る「負のスパイラル」に続く。

昼の世界には戻れない…ホス狂いから卒業した女子が陥る「負のスパイラル」

どっぷりと夜の世界に浸ってしまうとホストへの感情が最優先になり、次第に抜け出すことが難しくなっていくのが実情だ。しかし、それでもホス狂いを辞めてしまう人もいる。そのような人たちにはどのような事情を抱えてホスト通いを卒業していくのだろうか。

元ホス狂いのインフルエンサー、「すしすし!ゆうひちゃん(@ykyk_yuuhi)」。(以下、ゆうひちゃん)が語る。

昼の世界には戻れない…ホス狂いから卒業した女子が陥る「負のスパイラル」

ホストの沼につかってしまった女性たち。そんな彼女らがホス狂いをやめる一番のきっかけになるのは「恋人」ができることだ。

ホストとは関係ない恋人ができるパターンが多いそうだが、なかには推しのホストと恋愛関係になって最終的に結婚に辿り着いたという、ホス狂いの夢を叶えた人もいるのだとか。最初は「誰がホストにハマるのか」と思って来店しても、いつの間にか「沼ってしまう」のは、やはりこうした感情が絡むのが大きいようだ。

「私たちはホストからの愛情表現や自己肯定感をお金で買っているので、お金を払っていないのに恋人から『好きだよ』と言ってもらったりプレゼントをもらったり、大切にされている感覚になると人一倍ピュアになってしまいます。

そのため、ホストクラブに通う必要がなくなり、だんだんとホス狂いを卒業していきます。やはり支えてくれる存在がそばにいるのは大きいですね」

しかし、恋人ができたというような幸せな理由以外でホス狂いを辞めてしまう人も少なくない。特に多いのが金銭面での事情で、ホストに通うお金がなくなり、地元や実家に強制送還をされてしまうという人もいるのだとか。そのほかにも、犯罪に関わってしまってホス狂いを辞めざるを得なくなる人も。

「以前に大きな援デリグループがあり、私の友達がそこに所属していました。ある日、その子が出稼ぎで北海道に行ったときに警察に摘発されてしまい、北海道から出られなくなってしまいました。

そこで身元引受人として両親を呼んだのですが、そこでホスト通いがバレて修羅場になってしまいました。その後、ホスト通いをすっぱりと辞めたと聞いています」

昼の世界には戻れない

ゆうひちゃん曰く、ホス狂いを辞められるかどうかは「家族の存在があるかどうか」も大きいという。歌舞伎町に入り浸る女性のなかには両親と絶縁していたり関係が悪化したりしている人も多い。

ホスト通いを止めさせる役割の人がいないために歯止めが効かなくなり、金銭的にも精神的にも抜け出せないスパイラルに陥ってしまうこともよくあるそうだ。

では、実際にホス狂いから足を洗った後、彼女たちはどのような生活を送るのだろうか。ゆうひちゃんは「みんな昼の仕事に戻って真面目に働くが、金銭感覚を取り戻すのは難しい」と語る。

やはり、昼と夜では稼げる金額が桁違いであり、ぜいたくな暮らしに慣れてしまっている人も少なくないのだとか。そのため、昼の仕事だけでは足りずに金欠に悩んだり、夜の仕事を再開したりしてしまう人も多い。

「また、金銭的な面以外にも、昼と夜では大きなギャップを感じます。ホストクラブや歌舞伎町にはユニークでコミュニケーション能力が異様に高い人がたくさんいます。

その人たちの話を聞くのはとても楽しく刺激的なので、ついつい入り浸ってしまうのです。ですが、昼の世界では基本的に真面目に慎ましく生きている人たちばかりなので、話が面白くなく、会話が続かないのが悩みになってしまいます。

なので、束の間の刺激を求めてホストクラブに出戻りをする人も多いですね。私もそのひとりです」

真面目な人ほどハマる

"ホス狂い"というくらいの頻度まで行かなくても、結局はホスト通いをやめられないのが現実だ。一度はホス狂いをやめる宣言をしたゆうひちゃんも刺激のない生活に耐えられず、友達に誘われたときや暇を持て余しているときには、ふらっとホストクラブに入っては朝まで飲んだくれることもあるそうだ。

「ほかにも、生活費もすべてホストにつぎ込んでしまい、家賃が払えなくなって強制退去になってしまった人もいましたね。最終的に彼女はホームレスになってしまい、しばらくキャリーバッグひとつ抱えて路上生活をしていました。

その後、どういうわけか電波系のおじさんに拾われ、しばらく一緒に暮らしながらひたすら陰謀論を聞かされていたそうです。現在は生活保護を受給していると聞いています」

一度ハマってしまうと辞めるのに苦労をしてしまうホスト通いだが、どのような人がホス狂いになってしまうのだろうか。ゆうひちゃんは「真面目でいい子人ほどホストにのめり込みがち」だと分析している。

「推しのためにお金を貢げる人って、ある意味で非常に真面目で純粋な人なんです。なかには高校まで勉強を頑張ってきた高学歴の子も多いです。だからこそ推しを応援するために一生懸命働いて、他の人の何倍以上もの大金を注ぎ込めるのです。

普通の人ならそこまでできませんよね。何事においても真面目な子ほど沼に溺れてしまう、それがホストクラブです」

また、近年では、結婚やお付き合いを前提とした、真面目な出会いを探すマッチングアプリで、ホストが営業活動をしていることも少なくないという。

ホストは薬物と一緒

恋人探しのフリをして女性と出会い、「友人が働いている」「自分の働く姿を見せてほしい」とデートの途中にホストクラブに連れ込むホストもいるそうだ。そのような手口で入店した女性客がホストの魅力を知ってしまい、ホス狂いになってしまう例が後を絶たないそう。

そして、身の丈以上にホストに貢いでしまい、入れ込みすぎて生活がままならなくなったり、破産寸前に陥ってしまったりする女性も増加中だそうだ。真面目だからこそ初回の退店を断りきれず、そしてホストに真剣に恋して大金を貢いでしまうという危険性を孕んでいる。

ホストクラブはゆうひちゃんの言うように「自分の求めている感情をお金で買える」場所。自己肯定感や欲求不満、恋愛感情などを気軽に満たせてしまうからこそ、依存してしまう女性が後を経たないのだ。

そして、一部のホストたちが行っている「色恋営業」や「結婚営業」を含め、女性に夢を見させて大金を稼ぐという仕組みも、ホスト通いから抜け出せなくなる一因なのではないだろうか。

このような刺激的で感情的な世界から抜け出し、ホス狂いを卒業するためには「家族」や「恋人」というストッパーの存在や、資金の枯渇による強制退場など、強烈な処方箋が必要になってしまうのが実情だ。「ホストは薬物と一緒です。一度ハマったら簡単には抜け出せません」とゆうひちゃんは話す。

現在はホス狂いの卒業を目指して、ヒモの飼育に充実感を見いだし、彼氏と過ごす時間に満足感を覚えているゆうひちゃん。

「ゆくゆくはホスト通いをきっぱりとやめたいですね。今後しばらくはたまにホストクラブに行くくらいにして、ほのぼのと過ごしたいです」