
隣の人は、そっと気づかうように定期券を隠しましたが、 ぼんやりした頭の私にもよく分かりました。
その定期券には、終点の十数か所も手前の駅名が書いてあったのです。
寄りかかって眠りこけている私を起こすのにしのびず、 その人は終点まで私にそっと肩を貸してくれていたのです。
私は慌てて謝り、その人に戻り分の追加金を払わせては悪いと思って、 運転手さんに理由を説明しました。
運転手さんは快く承知してくれました。
「いいですよ。折り返しもただでかまいません」
”ありがとう”と百ぺん言っても足りない気持になりました。
参考本:あのときはありがとう、涙が出るほどいい話 出版:河出書房新社 編集:「小さな親切」運動本部

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