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かつての花街文化、知って! 着物、日本髪で散策 女性20人が体験ツアー 千葉・東金

着物を着て八鶴湖周辺を散策したツアーの参加者。左から2人目が土肥さん=東金市

東金市でかつて盛んだった花街文化を市内外の

人に知ってもらおうと、同市東金の料亭「志津本」などで体験ツアーが開かれた。女性約20人が参加し、着物に日本髪姿で散策したり、かつてのにぎわいの様子に耳を傾けたりした。

 市内にはかつて花街がありにぎわった。JR東金駅近くには芸妓が集団生活する置屋が立ち並んでいたほか、多くの旅館や料理屋があり、三味線や歌、踊りなどの芸が披露された。しかし、時の移り変わりとともにカラオケの普及などレジャーの多様化で花街文化も衰えた。

 体験ツアーは同市の特産品PR大使を務める土肥美木子さん(51)が主催した。参加した女性たちが、国登録有形文化財「八鶴館」で着物に着替え、日本髪に結って移動。元芸者で母が開いていた置屋「志津本」の跡地に開業した同料亭経営の片野妙子さんから、当時の花街文化の説明を聞き、桜の名所八鶴湖周辺を当時をしのびながら着物姿で巡った。

 土肥さんによると、地元に花街があったことを知らない人が市民にも多いという。かつての伝統を知ってもらう体験ツアーについて「地域活性化策や観光事業として、持続的な取り組みとしてスタートしたい」と意欲を示した。

 柏市から参加した会社員女性(42)は「東金市に来たのは2度目だが、街並みがすごく素敵。(花街があったことを)もっと宣伝したら、海外の人も来るかもしれない」と語った。

東金市の八鶴湖畔に建つ『八鶴館(はっかくかん)』は、明治創業の割烹旅館として長年人々に愛されてきた。現存する建物は大正から昭和初期に建てられたもので、往時の面影をそのままに残す。2006年の旅館廃業後、「歴史ある建物を後世に残したい」という市民の熱意がその姿を守ってきた。現在本館ではフレンチレストランが営業、そのほかの棟を市民グループ『みんなの八鶴館』が管理し、建物の保護だけでなく活用する道を探り活動している。

相次ぐ困難

 八鶴館の創業は明治18年(1885年)。桜の名所としても名高い八鶴湖を望む特等席として大勢の人をもてなし、島崎藤村や北原白秋などの文人も訪れた。百年以上もの長い歴史を刻んだ八鶴館だが、2006年に経営破綻を迎える。一時は競売にかかり解体も危ぶまれたが、地元の有志が資金を出し合い買い戻した。それが現在のオーナーである『株式会社八鶴亭』だ。同年、レストラン八鶴亭として再出発をし、2020年4月の緊急事態宣言で休業・閉店に至るまで14年間営業を続けた。その間八鶴亭は地域活性化・観光客誘致のため、能楽鑑賞会など多くのイベントを精力的に開催。2013年には、本館・新館・宿泊館・浴室棟・ビリヤード棟の5棟が国登録有形文化財に指定された。しかし、東日本大震災や台風が老朽化した建物を次々と見舞い、その度に壁の崩落や雨漏りなど受けたダメージは深刻なものだった。維持管理費に加え修繕費の負担は増すばかりで、さらにコロナ禍が追い打ちをかける形となった。

新たな一歩

 2021年になっても、『八鶴館』の扉は閉ざされたままだった。『みんなの八鶴館』代表の宮原政志さんは、「コロナ禍で県内の老舗旅館が廃業し解体されるというニュースを目の当たりにして、地域の宝を守っていくことを八鶴亭1社だけに担わせてはならないと感じました。近所で商店を営む仲間を中心に何としてもこの建物を壊すまいという思いの人々が集まり、話し合いを始めました」と振り返る。この会合から保存会である『みんなの八鶴館』が誕生していった。同じ頃、『株式会社八鶴亭』では本館をテナントとして新たに賃貸する契約が進んでいた。そこで『みんなの八鶴館』は本館以外の建物を管理し、部屋を貸し出すことで建物修繕資金を捻出することを申し入れ、両者は合意。これにより『みんなの八鶴館』が一歩を踏み出した。
 5月1日、『レイクサイドレストラン八鶴亭』がオープン。地元の旬の食材をふんだんに使用したフレンチのコース料理を、眺めのいい風格漂う部屋でゆっくりと味わうことができる。本館以外の建物は、『みんなの八鶴館』による2回の大掃除と月に2回の定期的な清掃で息を吹き返していった。障子を張替え、柱や廊下を磨き上げ、出来うる限りの修繕を行った。「現状を知ってもらうため、たくさんの人に建物の中に入ってもらいたい」と、建物公開日を設定。館内は部屋ごとに天井や床の間のしつらえが異なり、随所に意匠がこらされ、風情あるたたずまいがさらに人々を惹きつけている。『貸部屋』は、旧館1階・2階の和室と別館ホールを貸し出し、和室は書道や楽器の稽古、ホールは企業の会合などに利用されている。インターネットでは館内3Dビューイングを制作し公開中。館内を歩くようにして自由に見て回ることができる。

あらゆる可能性を求めて

 本格的な始動から8カ月あまり、建築や文化財、映像などの専門分野に明るい関係者の協力も得ながら活動してきた『みんなの八鶴館』だが、「様々な課題が浮かんできました」と、宮原さんは話す。「貸部屋の収益も満足とは言えず、ボランティア頼みの受付業務も報酬を出せるようにならなければ先が続きません。建物を守りたいという熱量だけで結集した段階から、組織を見直し次のステージへ進む曲がり角に来ています。より収益を上げていくために、行政への働きかけ、映画やドラマ撮影の誘致など、いろいろな所に声をかけていくことが僕らの役目だと思っています」。『みんなの八鶴館』は市民グループができることの可能性を追求しながら、近い将来の大規模修理を大きな目標として歩みを進めている。掃除・受付ボランティアは随時募集中。八鶴館応援団『八鶴会(やつるかい)』は年会費千円。詳しくは問合せを。

●『レイクサイドレストラン八鶴亭』 1/4より花見時期の予約開始 
年始1/4~ (木)定休
ランチ11時半~14時
ディナーのみ要予約・17時~21時
連絡は9時~17時
Tel.0475・54・7830
http://hakkakutei.com
●『みんなの八鶴館』
連絡は12時~16時
Tel.0475・78・5873
https://hakkakuko.com
・3Dビューイング
http://hakkakukan.com