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『チェンソーマン』第7話“ゲロチュー”回に捧げる奇跡のEDテーマ。anoが語る「ちゅ、多様性。」かわいい×カオスの突破力

音楽活動だけにとどまらず、タレント、俳優、モデルなど多彩な分野で活動する「あの」。2020年9月から「ano」名義でソロアーティスト活動をスタートさせ、自身の音楽表現を拡張し続けている彼女が、TVアニメ『チェンソーマン』第7話のEDテーマを担当した。ex.相対性理論の真部脩一とともに制作した書き下ろし楽曲「ちゅ、多様性。」は、これまでのanoにはないポップでキュートな曲調と、彼女が元来持ち合わせるダークでカオスな詞世界が融合した楽曲に仕上がった。彼女はどんな心境のもと制作に向き合ったのだろうか。じっくりと話を訊いた。

『TIGER & BUNNY 2』での経験を経て、『チェンソーマン』へ

――あのさんは2020年9月にano名義で初のデジタルシングル「デリート」をリリースし、ソロアーティストとして活動を開始しました。これまでもタレント活動やモデル、演技など様々な活動をしていらっしゃいましたが、やはりご自身の表現活動の軸は音楽に置きたかったのでしょうか?

ano グループを卒業して何もしていなかった時期に「何か表現をしたい」と思うようになって、頭に浮かんだのが音楽でした。歌っている自分を客観視したときに、一番自分らしくて素直に気持ちを出せているなと思ったんです。やっぱりテレビのお仕事だけだと、僕は充実を感じられなくて。でも音楽をやっている時間はひたすら自分と向き合うことになるので、それだけだと逃げ場がなくて心がしんどくなって、気持ちが落ちすぎちゃうことも多くて。

――確かに音楽制作は、自分を削っていく側面が大きいですものね。

ano だから外からの刺激を受けられるタレントやモデルのお仕事と、自分にひたすら向き合って表現をする音楽という、まったく違う活動ができるから充実を感じられるというか。僕はどっちか1つだけじゃだめなんだなと思います。

――音楽も、anoとしてのソロ活動と、4人組バンド・I’sのギターボーカルとしての活動、どちらも必要ということでしょうか。

ano ソロはTAKU INOUEさんの力を借りて、色んなジャンルの音楽や、生楽器では表現できない音も入れてもらうことで自分の頭の中にある世界観を大っきく広げられて。あと僕のことを面白がってくれるアーティストさんが料理してくれるというパターンもあって、自分にないものも表現できる場所になっています。バンドのほうはインディーズだから、本当にメンバー4人でやりたいことだけやっていて。4人の意志から生まれている音楽です。だからちょっとしたケンカや意見のすれ違いもあるし、欠けている部分も成長過程として届けられていると思います。

――おっしゃっていただいている通り、ano名義でのソロ活動もご自身の深いところが正直に表現されているものもあれば、新しい要素を取り入れている楽曲も増えてきていて、広がりを見せていると思います。

ano 僕のことをバラエティ番組とかで知ってくれる人が多くなっているので、ソロでは音楽にもうちょっとエンターテインメントの要素を合体させて、ステージでそれを大きく表現したい、発信したいと思っています。ただ、自分の言いたいことや死生観は昔から一貫して変わっていないし、大切にしてる部分で。だから今は、それを面白く伝えていきたいという思いがあります。

――TVアニメ『チェンソーマン』の第7話EDテーマ「ちゅ、多様性。」もその文脈に乗るものではないでしょうか。anoさんにとってアニメタイアップ曲の書き下ろしは『TIGER & BUNNY 2』EDテーマの「AIDA」以来2度目ですが、こういった楽曲制作にはどのような面白さを感じていますか?

ano 「AIDA」は僕にとって初めてアニメのテーマソングの書き下ろしだったので、ワクワクしながら作りました。『タイバニ』を見ないと出てこない言葉もたくさん出てきて……“愛だ”とか“何にでもなれるよ”、“何だってできるよ”と歌っている自分は今も違和感があるんです(笑)。でも自分らしさはなくしたくなかったから、アニメ制作サイドの方々とも細かく話し合いを重ねて、“役に立たなくなった空”という言葉を使ったり、サビで“二人はきっと馬鹿さ”と歌ったり、僕が『タイバニ』を観て純粋に感じたことをいっぱい言葉に出せた実感があります。

――「AIDA」のときは、テーマソングを担当するうえでのプレッシャーなどはあまりなかったそうですね。

ano 『TIGER & BUNNY 2』のファンの方にどう受け止めてもらえるかなという不安はあったんですけど、それ以上に「僕のことは誰も知らないだろうし、そんなに期待もされていないだろうな」という気持ちが大きくて、そういう意味でプレッシャーを感じなかったというか。でも今回の『チェンソーマン』は、12組のアーティストが週替わりにEDテーマを書き下ろすという、過去に例を見ない話で……。「これだけのアーティストさんが揃っているなかで、自分が第7話に対してできる音楽はなんだろう?」とめちゃくちゃ考えました。

第7話の衝撃シーンを踏まえて「完全に振り切った」楽曲に

――『チェンソーマン』と、anoさんが発信してきた死生観は、お互い近いものがあるという印象を受けました。デンジなどの登場人物の生き様は、anoさんにどう映っていますか?

ano 『チェンソーマン』で描かれている「生きていれば何回でも蘇ってやり直せる」というところは、僕も昔から感じてる部分ではあって。自分の欲望に真っ直ぐ突き進みながら生きるのはかっこいいと思うし、自分もそうやって生きてるつもりだけど、もっともっといつ死んでもいいように生きたいなと思いました。あと『チェンソーマン』のみんなを見ていると、あらためて「僕たちはいつ死んでもおかしくない状況に身を置いているんだな」と思うんです。

――そうですね。たまたまデンジがそこを通り掛かったから助かった人もいるし、あと1秒動き出すのが遅かったら銃の悪魔に襲われることもなかった、という人もいたり。

ano マンガやアニメは味方や主人公側のキャラクターをできる限り生かすし、もし死んじゃったとしてもそれをドラマチックに描くことが多いと思うんです。でも『チェンソーマン』はどんなキャラクターもあっけなく死んでいく。あっけなさすぎるなと思うけど、アニメやマンガだからそう思うだけで、僕たちが生きてる生活ではそれが普通だとも思う。だから「僕らがこんなふうに殺し合ったら、そりゃ簡単に死んじゃうよね」ってすごく納得して。

――死は必ず誰しもに訪れるものですしね。

ano そうですね。死のシーンはショックで一瞬絶句するんだけど、でもそうだよな、死なないなんて絶対ないしな、ってすぐ腑に落ちる。すごくマンガやアニメらしい表現もたくさんあるんだけど、そういう部分がすごくリアルで、他人事ではないなという気持ちにさせられました。僕も普段の曲作りで死生観は大事にしているので、『チェンソーマン』を観ていると色々と考えたり感じてしまって。そのうえですごく面白い作品だと思っています。

――「ちゅ、多様性。」は元・相対性理論の真部脩一さんとのタッグで制作されています。こちらはどのような経緯で実現したのでしょう?

ano それこそ最初はチェンソーが想像できるギッタギタの曲を作りたいと思ったんですけど、12アーティストのラインナップを見たら、そういうものを最大限かっこよく表現できる方々が揃っているなと思ったんです。だから「自分にしかできないことをしよう」「もうちょっとファニーで、かわいくてポップだけどカオスなことをしたい」と考えました。それを一緒に実現してくれそうなのは、僕の中でまず真部さんだったんです。ダメ元でオファーをしたら、真部さんも僕と一緒にやってみたかったとお返事をいただいて。そこからすごくとんとん拍子に進みました。

――制作はどのような手順で進めていったのでしょうか。

ano 僕が歌詞を書き始めるタイミングで真部さんも曲を作り始めて、真部さんから送ってもらったメロディに僕が歌詞を書いていきました。真部さんから届くデモには仮歌詞が乗っていて。真部さんの言葉の世界観も好きなので、崩したくないなー……と思いつつ、やっぱり僕の言葉で書きたかったので結構崩しちゃいました。「この言葉は絶対入れたい」というイメージが固まっちゃってたんですよね。

――具体的にはどういう言葉でしょう?

ano “我爱你 酔いが覚めない”とか、“猛反対 お手お座りでハイ♡報酬”とか、“喉の奥がチクンチクン/僕はドクンドクン/鼓動で孤独消してみせてよ”とか。言葉で遊びたかったんです。7話の物語を踏襲しつつ、それだけじゃないものにしたかったので、それを真部さんがうまく調整してくれました。誰かと共同で作詞をすることがあまりなかったので、すごく新鮮でした。

――作品の物語を知っていると、“Get on chu!”や“Bet on chu!”という言葉の影響もあってデンジと姫野のエピソードとして聴けますが、それ抜きで聴くと“Get”や“Bet”というワードから恋の駆け引きが想像できました。

ano そう感じていただけるのは、落ちサビの3行が影響してるのかも。ちなみにそこは真部さんが書いてくれています。僕が書いていた歌詞は「詩的すぎる」という理由で却下されました(笑)。

――なんとも光栄な却下理由ですね(笑)。第7話は姫野がデンジにキスをした瞬間に嘔吐するという衝撃の内容ですが、どう向き合いましたか?

ano いつも自分が歌詞にしているような死生観と全然違うから、最初は「どうしよう」って思いました(笑)。でも僕にそういう面白さを期待していただけてるのかな、とも思ったんです。だから「じゃあ完全に振り切ってゲロチューのこと歌えばいっか」という気持ちにもなれました。すごくまともだと思っていた姫野が酔うとキス魔になって、デンジにキスした瞬間に吐いちゃうっていう話はかなり衝撃的だったし、普段クールな姫野だけど月に1回は死んでしまったバディのお墓参りに行く優しさがあって、アキに一途なところはかわいくて。デンジも姫野もめちゃくちゃなんだけどピュアで、そんな似た者同士の2人のエピソードが描かれた7話をオファーしてもらえて嬉しかったですね。

「自分の思っているちょっとグロいことを、こういうかわいい世界観で表現してもいいんだ」と思えた

――「ちゅ、多様性。」はポップでキュート、なおかつカオスでダークな楽曲ですが、anoさんは相反するものを同時に1つの楽曲に存在させることが多いですよね。“本気(マジ)で狂えるくらいの鬱々しさが 美しいでしょ”は、すごくanoさんのカラーが強く出た言葉選びだと思います。

ano そこはまさしく僕が書いた歌詞です。僕の発信するものには、僕の趣味がそのまま反映されていると思います。音楽に限らず、例えば服もかわいいだけのものじゃなくて、そこに毒が入ってるものが好きで。引っ掛かるものがない、違和感のないものがなんか嫌なんです。だから「なんでこんなポップな曲なのに、ゲロチューって歌ってるんだろう?」「歌詞見てみたら“Get on chu!”だったけど、なんか歌詞に書かれてることキモいよな」とか(笑)、そう受け止められるものにできたらなって。自分の趣味は曲にも出ちゃうし、それは大切にしたいんです。

――それらをすべて踏まえたうえで、anoさんの制作ではお馴染みのTAKU INOUEさんが編曲なさっていると。

ano TAKU INOUEさんから返ってきたアレンジもとても素晴らしくて、そこに「ここに心臓音を足したいです」「ここはもうちょっとゲーム音みたいなのを入れたいです」とか、あとはここを短くしてほしい、長くしてほしいとお願いをして。それで完成したのがこの音源です。

――ちなみにですが、タイトルに「多様性」という言葉を使った理由とは?

ano 色んなチューがあるんだなとか、衝撃的だけどハッピーだよね、これも愛のかたちだよねという意味もあるけど、一番の理由は語感かな。あんまり深い意味は込めていないんです。

――なるほど。深い意味があってつけているわけではないとはいえ、anoさんにとって「受け入れる」という概念の象徴的なワードが「多様性」なのかもしれないですね。

ano ああ、そうかもしれない。「多様性」って僕がよく言われる言葉なんです。僕のことを受け入れられない人たちが一定数いらっしゃる自覚はあって。テレビとかで僕を観た人から「今は多様性の世の中だから、こういう人でも受け入れていかなきゃ時代についていけなくなるよ」と言われたり(笑)。一般的にもよく使われる言葉でもあるし、僕自身「多様性ってなんなんだろう」と思ったりもするし。すごくインパクトのある言葉だと思います。自分が言われることが多いぶん、色々感じる言葉ではあるんです。

――anoさんの歌詞の言葉選びを見ていても、言葉に対する感度はすごく高い方なんだろうなとは思います。

ano どうなんだろう。でも言葉1つ1つに引っ掛かっちゃうというか、「自分はこの言葉に対してなんでこういう風に感じるんだろう」とは常に考えてるタイプかなと思います。だから人と会話したり、テレビに出たときとかに考えすぎて、すぐに言葉が出ていかなくておしゃべりがゆっくりになっちゃうんです。それで反感を買ったりするんですけど……(苦笑)。

――いえいえ。それだけ言葉を大事にしているということだと思いますし、anoさんの歌詞の美しさの理由がわかった気がします。では最後にお聞きしたいのですが、「ちゅ、多様性。」はanoさんにとってどんな位置づけの曲になっていますか?

ano やっぱり挑戦的な曲ですね。元アイドルだから、アーティストとして活動していくためにかわいい曲を禁じていたところもあったんです。インディーズ時代に出してきた曲は暗めのものが多かったし、今回はちょっと大衆性に寄りすぎたかもしれないと思ったりもするんですけど……でも、だから歌詞で攻められたし、(アニメへの)書き下ろしの曲を完成させられたからこそ「自分がこういう音楽をやってもいいんだ」「自分の思っているちょっとグロいことを、こういうかわいい世界観で表現してもいいんだ」と思えました。

――デンジとポチタが手を組んだように、シンパシーを感じる『チェンソーマン』という作品や信頼するクリエイターさんとタッグを組んだことで、アーティスト・anoの武器がまた1つ増えたんですね。

ano この曲のおかげで自分の壁を突破できたし、この先にできることが増えた気がしています。「多様性」という言葉本来の意味で、色んな人に聴いてもらえる曲になったんじゃないかなと思っていますね。


●リリース情報
ano
「ちゅ、多様性。」
デジタル配信中
https://tf.lnk.to/ano_ChuTayousei

●作品情報
TVアニメ『チェンソーマン』
毎週火曜24:00よりテレビ東京系6局ネットにて放送中
毎週火曜25:00よりPrime Videoにて最速配信中

関連リンク

ano 公式サイト
https://ano-official.com/

ano公式Twitter
https://twitter.com/ano2mass

TVアニメ『チェンソーマン』公式サイト
https://chainsawman.dog/