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『心に残る話』Apex product

「あなたの中に今でも彼女が生きている事はわかってる。
それでも良いから私と付き合って下さい」
俺は20歳から25歳まで付き合った彼女がど真ん中だった。
「そろそろ結婚するか?」そんな話になり
具体的な両家への挨拶の日取りとかも決めていた。
が、彼女は突然居なくなった。
彼女の両親は、俺の名前を知っており、線香をあげる事を喜んでくれた。
そして、3年目の花を手向けていた時に
彼女の母に
「あなたも若いのだから何時までも縛られては駄目、
あなたは幸せになりなさい。それがあの子の望みでもある筈」
彼女の父に
「もう此処には来なくても良い。忘れないで居てくれれば」
「正直、君が来る事で我々家族も苦しい」
それ以降、彼女の家には行けなくなった。
ただ、寺には行っていた。
その後、事情を知る会社の後輩の女の子が
「あなたの中に今でも彼女が生きている事はわかってる。
それでも良いから私と付き合って下さい」
可哀想な自分に酔ってる俺に対する同情か何かわからないが、
その言葉に後輩を試したくなり、付き合うことになった。
が、後輩を抱いていても話してても彼女の影は消える事が無かった。
墓参りもそのまま続けた。
そして、その2年後にその後輩と結婚する事になった。
その事を彼女の両親に電話で伝えるとかなり喜んでくれた。
彼女の墓に参ると言うと、後輩も一緒に行くと言う事で、二人で報告に行った。
そして、結婚しても妻は、変わる事無く、一緒に墓参してくれた。
その1年後に妻が懐妊し、女の子が生まれた。
嫁は、娘に彼女の名前を付けるよう勧めてくれたが、
「早死にすると嫌だから」と断り、嫁から一字貰って名前を付けた。
彼女の事は、俺の中で徐々に薄れていって、家族が中心になってきた。
しかし、幸せは長く続かなかった。
病院で、医者の話を聞いた時は信じれなかった。
「若いから転移が早くて、治療が難しい」
「最善を尽くしますが、覚悟はお願いします」
呆然とする俺に
「気持ちはわかりますが、しっかりして下さい」
医者はそう言った後、
「奥様に告知なさいますか?」と尋ねた。
考えたかった、色々と。
が、咽喉から出た言葉は、「いいえ」だった。
1歳半の娘を俺両親と嫁両親との交代で面倒を見て貰い、
俺は嫁の病院と会社を往復する生活をした。
嫁は、俺に「ごめんね」と娘の世話を出来ない事を嘆いた。
その度に俺は、「すぐ治るさ」「早く帰って遊んでやろう」と励ました。
2度目の手術のあと、衰弱しきった体で嫁は尋ねた。
「私、あの人の代わり上手く出来てた?」
一瞬、意味がわからなかったが、嫁が彼女の事を言ってるのがわかった。
「代わりなんて…。それにまだまだ一緒に生きて行こうよ」
「ありがとう。嬉しい」
「お前にそんなに気を使わせててごめんな。
でも、今なら俺はお前が大事だと心から言える。
それに○○(娘)だって、まだまだ手が掛かるんだよ。
だから頑張れ」
病院を出て娘の居る実家へ向う途中、車を公園に停めて泣いた。
今まで嫁に充分な愛情を注げなかった事を
それなのに愛してくれる嫁を
本来なら可哀想な娘の事を
如何しようも無い憤りとやり切れなさと自戒と
そして、俺は実家に向わず寺に向った。
何度となく通った彼女の墓石。
泣きながら彼女に頼んだ。
「あいつを何とかしてやってくれ。
無念さを知ってるお前ならわかるだろ」
そして、彼女との思い出を墓石にむかって話し始め、
やがて嫁のこと、娘の事と話していると、東の空が白み始めた。
やはり奇跡は起きなかった。
2度目の手術の後も新たな箇所に病巣が発見されたが、
それを取り除く為の手術に最早耐えられるだけの体力は無かった。
嫁もそう言う状態に気付いていた。
そして、最後の時は来た。
面会を禁じられていた娘と対面し、「ごめんね」を繰り返した。
俺は、何も言えなかった。
ただ二人を見つめるだけだった。
その後、意識低下となり、静かに…
葬式、初七日、四十九日、ほとんど無意識に時は過ぎた。
2歳だった娘も小学校に通ってる。
今は、昔の彼女は、ド真ん中には居ない
元嫁が、心のド真ん中に居る
引用元: 夫婦・家族のジーンとする話を集めるスレ
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言葉にできない話です。
ただただ涙が溢れてきます。
娘さんには、お母さんの分まで幸せになってほしいと思います。
嫁さんに出来なかった分 娘さんには最高の愛情を注いでほしい。