年内に100店舗を計画 「相席屋」が事業を急拡大している理由

ワタミなどの大手外食チェーンが混迷を深める中、破竹の勢いで右肩上がりに売り上げや店舗数を伸ばしている外食ブランドがある。飲食店の運営や企画、コンサルティングを手掛けているセクションエイトが展開する「相席屋」だ。

【相席屋店内の様子】

 相席屋は2014年3月、東京・赤羽に1号店をオープンして以来、順調に店舗数を増やし、2016年3月に75店舗を突破した。今年中に全国47都道府県での展開と、累計100店舗を目指している。さらには今月からマッチングをキーワードに、“真面目”な新サービスもスタートした。

 運営会社であるセクションエイトは、その名を耳にしたことはなくても、セクシー居酒屋「はなこ」という店舗ブランドにピンと来たビジネスマンの読者諸氏は多いかもしれない。実は、はなこを運営していたのが同社である。

 相席屋とは、初対面のお客同士で同じテーブルに相席することで、新しい発見や出会いを楽しむという店だ。同性同士2人以上での入店がルールとなっている。さらに特徴的なのは、通常の飲食店とは違う料金体系だ。男性は平日30分食べ飲み放題で1500円(税別)、女性は食べ飲み放題が無料(一部有料の食べ物もあり)という、これまでの業界の常識を覆す設定となっている。

 7月の平日18時前、相席屋渋谷2号店を訪れてみた。料理はビュッフェスタイル、ドリンクもお客自ら作るようになっている。料理の横には場を盛上げるためのゲーム(カードゲームや「黒ひげ危機一発」など)も置いてある。席は半個室のように区切られており、それぞれに携帯充電用のコンセントも設置してある。客層は店舗によって多少異なるとのことだが、渋谷・新宿エリアは男性が20代後半、女性は20代前半が多いという。実際、この日もオープン間もないにもかかわらず、既に若い女性たちで賑わっていた。

 そんな相席屋も、1号店となる赤羽店でのスタートは順調とはいかなかった。業界初の「女性無料」と、「出会い」というキーワードが、逆に怪しさと、入店しにくさを感じさせてしまったのだ。この負のイメージを払拭(ふっしょく)するまでに少し時間を要したが、徐々にクチコミで広まり、メディアでも取り上げられるようになってからは、一気に成長軌道に乗った。

●安全な出会いを提供する仕掛け

 相席屋が店舗展開する一方で、数年前に大流行した「街コン」など出会いを目的としたイベントはどんどん少なくなってきている。最近は人数が集まらないなどで開催前日にイベント中止に追い込まれる事態も起きている。街中に相席屋ができることで、若者たちはこれらのイベントに参加するよりも、新しい出会いをより身近にすることとなった。

 この成功の背景には、現場スタッフの細やかな気遣いと、ブラッシュアップし続けてきたシステムがある。渋谷2号店店長に話を聞くと、また来店したいと思ってもらえるよう、男女それぞれの要望を聞いて、できるだけそれに応えるように相席する相手を選んで配置するという。仮に合わない相手だったときのために、「席替え希望カード」というものも用意した。これは、お客の「もっとたくさんの人と相席したい」という要望に応えるためのもので、男女それぞれが使用できる。

 また、相席して連絡先を交換する際、特に女性は、電話番号やSNSアカウントを教えるのに抵抗があるということを解決するために、アプリ内で連絡を取り合える相席屋専用アプリを作成した。これらの取り組みやスタッフの気遣いが相席屋のブランド力を高め、質の高い健全で安心な出会いの提供、そして出会いのハードルを下げることに成功したのだ。

●日中は「相席就活」

 その相席屋が2016年に入って新たな展開をスタートした。7月某日、お昼前の相席屋秋葉原店で「相席就活」なるイベントが開催された。簡単に説明すると、就職活動中の学生と企業のマッチングイベントだ。夕方から営業する店舗の昼間の空き時間を活用したもので、学生は普段着OK、ドリンクも飲み放題という。

 この日エントリーしていた学生は約250人。有名大学の学生も多数参加していた。企業はというと、上場企業からベンチャー企業まで多種多様な業界から13社が参加。店内は常に盛り上がっていた。

 世の中に就活イベントはほかにもたくさんあるが、相席就活では普段着のリラックスした雰囲気で行うため、学生の本質を見ることができると、参加企業担当者が話してくれた。一方、参加学生は、一般的な会社説明会よりも近い距離で深い話を聞けるのが良いという。このイベントを通じて、それまで興味がなかった業界に興味を持つようになったという声も聞かれた。

 このイベントのもう1つの特徴は、企業と学生の相席だけでなく、学生同士の相席も積極的に行っていることだ。就職活動という同じ立場にいる学生同士がつながることで、さまざまな情報交換ができ、同じ境遇だからこそ分かり合える関係を築くことができる。実は、このイベントに参加している学生の9割が、相席屋を利用したことがないという。こういったイベントで実際に店舗を見てもらうことで、安心感を与え、次はお客として店舗へ来てくれることにも期待できるというのだ。

●「0円婚活」

 さらに今年7月から、「SOWELUTE(ソエルテ)」という結婚相談所の事業も始めた。まさに「マッチング」をキーワードとしたビジネス展開だ。相席屋で、出会いのハードルを下げることに成功したその後は、婚活のハードルを下げたいというのだ。一般的な結婚相談所では、会員は30代以上が中心、平均で30~40万円の費用がかかってしまうことから、相談所への登録はハードルが高い。

 しかし、SOWELUTEは、入会金や月会費など固定でかかるコストはなしという「0円婚活」を実践している。そうすることで20代でも安心して婚活できる仕組みを作ったのだ。業界の常識をくつがえすこのシステムも、もしかすると信頼を得るまでに少し時間がかかるかもしれないが、認知さえ広がってしまえば、日本の婚活スタイルに変化を与えるインパクトをもたらすかもしれない。

 出会いを通して未来を明るくする企業でありたいという経営ビジョンを掲げるセクションエイト。今年5月には、相席屋の良縁による少子高齢化の是正計画が東京都の経営革新計画に承認された。

 男女のマッチングから始まり、ビジネス領域をますます広げている相席屋。その次の一手に注目が集まる。

(三上成文)

最終更新:7月26日(火)7時1分

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