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【町で出会った親切な人】
 
「優しいうそ」に感激
 
大阪府豊中市の佳奈さん(42)から、〈聞いていただけますか?〉というメールが届きました。

 8年前の秋のこと。佳奈さんは、生後数か月の赤ちゃんだった息子さんをおなかに抱っこして、自宅近くのバス停でバスを待っていました。

 〈すると突然、ポツポツと雨が降ってきました〉

 傘を持っていなかった佳奈さんは、そのままバス停に立っていました。雨がやむ気配はありません。その時、後ろから声がしました。「良かったら、バスが来るまで一緒に傘に入りませんか」。振り返ると、傘を持つ女性が立っておられたそうです。お年は50代くらいだったといいます。

 〈一度はお断りしましたが、その方は私と息子をすぐに傘に入れてくれました。「申し訳ないなあ」と思いながらも、温かい気持ちで、私はその方と一緒にバスを待ちました〉

 すてきな心遣いのできる方ですね。佳奈さんはその女性と「突然降り出しましたね」「そろそろバス来ますかね」など、たわいのない会話を交わしていたそうです。

 驚いたのは、その後に起こったことでした。

 〈数分でバスが来ました。「ありがとうございました」と声を掛け、私が先にバスに乗ると、あれ?さっきの女性の方が、バスに乗ってこないのです〉

 ドアは閉まり、バスは女性を残したまま出発しました。

 〈「あれ?どういうこと?」と、最初は理解できませんでした。見ると、その方はバス停から離れ、どこかへ歩いていきました〉

 佳奈さんはその時初めて、その女性が普段着姿で、バスでどこかに外出する格好ではなかったことに気づいたのだそうです。

 〈ようやく理解できました。雨にぬれてバスを待つ親子に傘をさしてあげるためだけに、「一緒にバスを待ちませんか」と、優しいうそをついてくれたのです〉

 「ものすごくびっくりしました。見ず知らずの人間に、そこまでしてくれるなんて……」と佳奈さんは振り返っていました。それ以来、この女性に出会う機会はないとのことですが、息子さんが8歳になった今でも、印象的な経験として、強く心に残っているといいます。

 〈その方に直接お礼はできないので、受けた優しさを、いつか私も循環させていきたいと思います〉と、佳奈さんは文面を結んでおられました。息子さんにもきっと、その温かい思いが伝わっていることでしょう。