· 

米銀破綻で市場大荒れ 高まる米国経済の減速懸念

米国で銀行の破綻が相次いだことを受け、週明け13日の東京株式市場では米景気の減速懸念から日経平均株価が大幅続落し、約1週間ぶりに2万8000円を割り込んだ。終値は前週末比311円01銭安の2万7832円96銭。破綻の背景にはインフレ抑制に向けた米連邦準備制度理事会(FRB)による金利引き上げがあり、米国経済の先行きの不安定さを露呈した形だ。米国との取引が多い日本企業にとっては新たな懸念材料となりそうだ。

10日に破綻したシリコンバレー銀行は集めた預金を米国債などで運用していたが、FRBの急速な利上げで含み損が膨れ上がり、信用不安となって預金者の取り付け騒ぎに発展した。

ただ、日本銀行は米国の金融政策とは逆の大規模金融緩和を継続しており、「日本で同じ状況に陥る可能性は低い」(三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジスト)。松野博一官房長官も13日の記者会見で、「現時点で今回の破綻が日本の金融システムの安定に重大な影響を及ぼす可能性は高くない」と強調した。

もっとも、米金融機関の信用不安を軽視はできない。13日の東京金融市場では投資家のリスク回避姿勢が強まり、長期金利の指標となる新発10年債の利回りは一時0・295%を付け、約3カ月ぶりの低水準に急低下。外国為替相場も早朝に一時約1カ月ぶりの円高ドル安水準を付けるなど大荒れの展開となった。

FRBなどが、金融機関の資金繰りを助ける新たな支援策を明らかにしたことで、投資家の動揺は沈静化していくとみられるが、みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「危機の地下茎は残ったままだ」と指摘する。金利上昇で巨額の含み損を抱える構造は、保険会社や証券会社、ファンドも同じで破綻の連鎖が起きる可能性は残る。

これまで金利引き上げによる米経済の下振れリスクは設備・住宅投資の減少などが見込まれていたが、一連の銀行破綻は、金融不安で米景気が想定外に悪化するリスクを浮き彫りした。

シリコンバレーバンクの破綻は米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りに

シリコンバレーバンク破綻の背景に3つの逆風

イエレン財務長官は12日(日曜日)に、破綻したシリコンバレーバンクを、国費を使って救済することはしない、と発表した。その代わりに、後に見るように、預金の全額保護など異例の措置を決めている。

シリコンバレーバンクは、ごく短期間のうちに流動性危機に陥り、10日(金曜日)に破綻に至ったことが明らかになってきた。シリコンバレーバンク破綻の背景には、テクノロジー産業の不振、金利上昇による債券投資の損失、逆イールドの進行による利ザヤの縮小、の主に3つの逆風があったと考えられる。

シリコンバレーバンクは個人ではなく、主に新興企業やベンチャーキャピタルの預金を集めてきた。テクノロジー産業の不振を受けて、新興企業が資金手当てのためにシリコンバレーバンクから預金を引き落とす動きが強まった。そこで、金利上昇下で含み損が膨らんでいた長期国債や住宅ローン担保証券(MBS)を損切りし、売却損を計上したのである。

預金保険でカバーされない大口預金中心の構造が預金流出を加速

その結果、損失が拡大し資本不足のリスクが高まったことを受けて、格付会社のムーディーズ社は、シリコンバレーバンクを格下げすることを7日(火曜日)に同社に伝え、8日(水曜日)の引け後にそれを発表した。

格下げを受けて9日(木曜日)には預金の引き出しがさらに加速した。ベンチャーキャピタルの投資家は、シリコンバレーバンクに預金を持つ新興企業に対して、同社が破綻した場合には1口座あたり25万ドルを超える預金は保険でカバーされないことから、預金を引き出すように呼び掛けたという。ここで生じた急激な預金流出が、シリコンバレーバンクを破綻に追い込んだのである。いわゆる取り付け騒ぎ(バンクラン)だ。その時点で、同行は10億ドル規模の債務超過に陥っていたとみられている。

預金保険の上限を超える預金額は、2022年末で1,510億ドルに達していた。1,750億ドル程度とみられるシリコンバレーバンクの預金総額のうち、実に約86%が預金保険でカバーされない大口預金であった計算だ。それゆえに、経営不安が一気に大量に預金取り崩しにつながったのである。小口の個人預金が中心の銀行のビジネスモデルであれば、そのような事態にはならなかっただろう。

シリコンバレーバンク破綻に個社要因

12日には、シリコンバレーバンクの破綻の影響を受けて、ニューヨークを拠点とするシグネチャーバンクも破綻した。

当局は、シリコンバレーバンクの破綻が銀行システム全体に波及しないように、例外的に同行の全預金を保護することを決めた。シグネチャーバンクについても同様だ。この結果、預金を失ったスタートアップが連鎖的に倒産するリスクなどは低下した。預金者は13日にすべての預金を取り崩すことができる。さらに、FRBは、銀行に最長1年の資金を供給する措置を決めた。

例外的な預金の全額保護という措置は、銀行経営の緊張感を低下させるなどのモラルハザードという弊害を生む恐れがある。この点も意識して、金融当局は、経営難に陥った銀行の預金保護を強化する新たな基金の創設を検討しているとされる。今回の救済措置を、後追いで正当化するような動きにも見える。

シリコンバレーバンクは大口預金が中心であったこと、逆風にあるテクノロジー企業の取引の割合が高いこと(同行によるとベンチャーキャピタルが投資する米国のテックやヘルスケア企業の約半数が同行と取引しているという)、長めの国債、MBSを中心に債券投資を行っていたことから、金利上昇によって含み損が出やすい構造であったこと、さらに同行は、総資産に占める債券投資の比率は57%と他行比でかなり高かったこと、などが経営破綻の背景にあった。

この面でいえば、突然死のような今回の破綻劇は、同行の個社要因によるところが大きかったと言えるだろう。

異例の逆イールドなど米銀全体が抱える共通の問題も

しかし、シリコンバレーバンクの破綻は、米銀全体が抱える脆弱性を浮き彫りにした側面があったことも否定できない。

昨年来の歴史的な長期金利の上昇は、多くの銀行で債券の含み損を拡大させた。米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀全体で抱える債券の含み損は2022年末時点で約6,200億ドルと1年前の約80億ドルから急拡大した。また、金利上昇によって預金から資金が流出する動きが強まり、それが収益に逆風となったのである。例えば、銀行預金からMMFなどへの資金シフトだ。

また、足元で急速に進む逆イールド化は、短期で資金調達を行い長期で運用するビジネスモデルの銀行にとっては、収益を悪化させる強い逆風だ。足元では、2年債と10年債の逆イールドの幅は、1980年代以来の水準にまで達している。

さらに、FRBが急速に利上げを実施しても、景気は顕著に減速せず、高い物価上昇率が高止まりしていることから、FRBの金融緩和によって逆イールドが早期に解消される目途も立っていない。これが、銀行の先行きの収益見通しを厳しいものとしている。

このような点を踏まえれば、シリコンバレーバンクの破綻の底流には、米銀全体が抱える共通の問題があることは疑いがない。米銀だけでなく、米国債を多く保有する欧米あるいは日本の銀行も、米国債の含み損や逆イールドの問題を抱えている。この点からも、シリコンバレーバンクの破綻は米銀全体の信用不安へと発展するリスクを内在しており、さらに、世界規模で広がるリスクがあると言えるだろう。実際に先週は、日米欧同時に、銀行株の大幅下落が生じている(コラム「日米金融政策見通しの不確実性を映して両国の金融市場は連動して動揺」、2023年3月10日)。

(参考資料)
"Silicon Valley Bank Closed by Regulators, FDIC Takes Control", Wall Street Journal, March 10, 2023
「シリコンバレー銀なぜ破綻? テック金融の要、不安連鎖」、2023年3月11日、日本経済新聞電子版
「米シリコンバレー銀行破綻、FRBの利上げに影」、2023年3月11日、日本経済新聞電子版

日本へ影響「可能性低い」 米銀破綻で金融相

鈴木俊一金融相は14日の閣議後記者会見で、米中堅銀行シリコンバレーバンク(SVB)などの経営破綻に関し、「日本の金融システムの安定に重大な影響を及ぼす可能性は低い」との見解を示した。  「日本の金融機関は充実した流動性、資本基盤を維持していて、金融システムは総体として安定している」と語った。 

コメントをお書きください

コメント: 8
  • #1

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 15:55)

    日本では起こらないよ。
    エコノミスト誌の解説によるとFRBが急速な利上げをする過程で貸出ローンの受け取り金利収入よりも
    調達資金の支払い金利の方が上回るようになり銀行経営が焦げついたと書いてある。
    また、シリコンバレーのベンチャー企業は分速で資金を溶かすので、ローンを手仕舞うこともできなかった。

  • #2

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 15:57)

    アメリカはこのインフレ下で金融機関に大規模資本注入なんてできんだろうな。
    つぶれるところは潰して、預金保険でカバー可能な預金だけ預金者は返還されることになるんだろう。
    日本だと1千万円までしかカバーされていないが向こうはその3倍ぐらいカバーされているからな。それ以上預けている連中の預金まで税金で負担する必要はないよね。

  • #3

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 15:57)

    金融危機、相次ぐ金融機関の破綻
     97年4月、中堅生保の日産生命保険が債務超過に陥り、大蔵省から業務停止命令を受けた。戦後初の保険会社の破綻だった。運用資金を株式に傾斜させ、含み損が膨らんだ。これを皮切りに97年11月に準大手証券の三洋証券が会社更生法を申請、戦後初めての証券会社の倒産となった。その後も北海道拓殖銀行、山一證券、徳陽シティ銀行と、相次いで金融機関が経営破綻した。
     さらに、98年は10月に日本長期信用銀行、12月に日本債券信用銀行と長銀2行が相次いで破綻、金融危機がピークを迎えた。

  • #4

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 15:59)

    ソフトランディングなんてあり得ないことがはっきりした罠

    これで次回は0.25%利上げで、パウエルは鳩派的なことを匂わせて市場を落ち着けようとする。
    そうすると利上げ停止どころか金融緩和期待が出てきて、「AVBはリーマンショックの再来だ」と言って空売りした奴らを踏み上げて株は爆上げ。
    半年後くらいに「インフレ全然収まってないやんwww」となって、また大幅利上げに追い込まれて本当の地獄へ・・・
    といったところやろな。

  • #5

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 16:00)

    この銀行は大規模な金融緩和を背景に預金を増やしていました。

    FRB=連邦準備制度理事会が新型コロナウイルスの感染拡大への対応として大規模な金融緩和策に踏み切った2020年3月以降、スタートアップ企業などの取引先の預金が増加。

    銀行の資料によりますと去年3月末時点の預金はその2年前の2020年3月末と比べて3.2倍に急増していました。

    こうした預金は国債などの債券で運用されていました。

  • #6

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 16:03)

    オーストラリアは中央銀行が債務超過になって政府が補填したけど、
    今の日本政府の財政にそんな余裕はないぞ
    数年前から投信の売れ行き上位が海外株とかになってるし、
    去年あたりからドル預金も経てる
    キャピタルフライトまったなしだわ

  • #7

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023)

    あまりにも早い金利の上昇は、いろいろ面倒が起きますなぁ。
    金利を下げる、減税、給付をするときは弊害がなくて、上げるときにはこの有様。
    MMT論者はこの非線形性をどう解決するのだろうね。

  • #8

    通りすがりの人民 (火曜日, 14 3月 2023 16:07)

    利上げするな派の専門家は故意に現実逃避してるからな
    70年代~80年代に利上げが遅れてインフレ高進を許し
    世界経済がどれだけ深刻なスタグフレーションになったことか
    イギリスなんてそのせいで財政破綻したのにな
    ニュージーランドもインフレ版失われた十年に苦しんだ
    目先の景気を悪化させたくないからと
    高インフレ下で緩和をひたすら継続し続けた極端な事例の国家がアルゼンチンやトルコだ

    日本は景気が悪いから利上げするなと主張する人間ですら
    日本は景気が悪いんだから日銀はもっと金融緩和を強化しろという人間が皆無なのが現実
    薄々このままでは日本はやべえ!と思ってんだろ