『おすすめの本・まとめ①』Apex product

ハリエット・アン・ジェイコブズ著、堀越ゆき訳「ある奴隷少女に起こった出来事」
約160年前に出版されたアメリカのとある奴隷少女の自伝的告白本であり実話。本屋でポップが目に留まり、何となく気になり購入した。アメリカの奴隷制度と言えば、確か中学の社会科で習ったリンカーンの奴隷解放宣言が真っ先に頭に浮かび、そういう制度があったのだというぐらいの知識しか無く、自分の中ではさして意識を向けることなく見過ごしてきた部分であるように思うのだが、本書を読んで初めて奴隷制度とは如何なるものなのか、その根深い差別の構造、奴隷の置かれた境遇について知る事が出来た。言わば、“生きた教科書”と言っていいのではないかと思う。歴史文献としても評価される本書であるが、同時に、希望を捨てずに過酷な人生を生き抜いた著者の家族愛や信念は現代を生きる我々にとっても大切な何かしらのメッセージを発しているようにも思う。衝撃を受けた一冊。
『漂泊のアーレント 戦場のヨナス』
過酷で破局的な時代を生きた二人の哲学者、ハンナ・アーレントとハンス・ヨナス。
強い友情と尊敬で結ばれた二人の人生を描きつつ、その哲学・思想を分かりやすく解説した良書でした。
ヨナスの哲学に興味があり、この本を手に取りましたが、ヨナスだけでなくアーレントも切り口は違えど、テクノロジーの自己増殖的な進歩が全体主義に通ずる可能性があると考えていたことに驚きました。
二人には今の世界がどう映るだろうか、と考えさせられました。
汝、星のごとく
凪良ゆう
今年の本屋大賞にノミネートされている一冊です。
主人公は2人。暁海と櫂。舞台は瀬戸内海に浮かぶ島の一つ。
母親公認で、父親が浮気相手のところに定期的に通う家庭で育った暁海。
母親が飲み屋を経営し、高校生のころからお酒を飲んでいる櫂。
2人は高校生の時に出会い、付き合うようになる。
順風満帆な恋愛をしていたが、櫂が漫画の原作者として成功し、上京する。
暁海は仕事を始めるが、なかなかうまくいかない。
徐々に2人は疎遠になっていき、一度は別れてしまった2人。
そんな時、櫂の相方が問題を起こし、櫂も仕事を失うことになる。
一方の暁海は趣味の刺繍を仕事にし、軌道に乗る。
ますます距離が開いた2人だが、気持ちはお互いを思い続けたまま…
お互い気持ちを打ち明けることができるのか?
一緒になることはできるのか?
感動の結末が待っていました。
凪良ゆうさんらしさが全面に出ている作品でした。
多くの方にこの感動を味わってもらいたいと思える一冊でおすすめです。
帰蝶
諸田玲子
 キムタクの信長の映画をみて、綾瀬はるかさんの帰蝶に惚れ惚れし、この本を手にしました。
 信長の正室はまむしと呼ばれた斎藤道三の娘、濃姫。15歳で美濃から嫁ぎます。帰蝶というのは濃姫の名前ですが、没年がはっきりしません。通説では本能寺の変より前に早逝したか、離縁されたらしいが、それにしてはその事実が記載された資料がない。近年、京都の大徳寺に「養華院」という名がみつかり、妙心寺には信長の一周忌の法要を信長公夫人が行なったという記録があるため、これが帰蝶のことなら、78歳で亡くなったことになります。作家の諸田さんは、そこから帰蝶の人生を、信長のようなひとを夫に持った女性はどんな気持ちで生きたのだろうかと、あとがきにありました。
 帰蝶は正室ですが、一度も出産せず、育てたのは側室や信長が手を出して孕ませた子供。帰蝶はその多くを手元におき、母として育てます。娘たちは成長しあちこちに嫁いでゆく。戦国時代の大名の正室はすごい役割を果たしていたことにただ感心します。もちろん、歴史をみれば帰蝶の胸を痛める、怒る出来事の連続です。信長今ならDV?いや、何万人もの僧侶、女子供も殺めたのだからそれどころじゃない。妻としてどうなのか。
 そこに立入宗継という京都の御蔵職立入家の当主が関わってきます。惹かれていく帰蝶、2人はどうなるのか、という興味がまた読むペースを早めます。また、全ての事件の裏に宗継が見え隠れしてきます。引き込まれて読み、本能寺の変が近づいてくるあたりから、ミステリー小説のようなドキドキ感でした。
 映画はエンタメとして楽しみましたが、だからこそ小説も、読んでよかったと思います。オススメします。
誉田哲也
「吉原暗黒譚」
誉田哲也さんのデビュー作「妖シリーズ」の番外編である本作。吉原大門詰同心の今村圭吾が、懇ろな元花魁のくノ一彩音、元隠密同心の千吉と共に、吉原で頻発する狐面を被った犯人よる連続花魁殺しを追う物語。吸血鬼バディ物ともいえる「妖シリーズ」の番外編としての本作も完璧といえるクォリティの時代劇バディ物で、ホラー、エロ、スリル、人情、と贅沢な要素満載で一級のエンターテイメントとして成立しています。それにしてもこの作者、「武士道セブンティーン」等でも垣間見れますが、バディ物での会話表現の切れ味はちょっと別格の逸品!
中村秀之『敗者の身ぶり ポスト占領期の日本映画』(2014)
1952年4月28日の対日講和条約の発効により日本は「独立」しましたが、この「独立」は冷戦体制への従属という新たな「敗北」のはじまりでもありました。
それ以降の戦後の日本の社会を1つの未知の領域である「敗者の想像力」として強者の論理ではないものとして位置づけ、それがどこまで展開できるか、生き抜くことが出来るかという問いを立てたのが、文芸評論家の加藤典洋氏でした。
加藤氏の言う「敗者の想像力」とは、「自分が敗者だというような経験と自覚をもっていないと、なかなか手に入らないものの見方、感じ方、考え方、視力のようなもの」と定義していますが、この視点から特に小津安二郎監督の戦後の作品の中に、「好戦的」でもなく「反戦的」でもない「小市民的」というべき世界を、あえて「敗戦的」と位置付けました。
更には「敗者の身ぶりのほうが実は普遍的だ、そのことを、小津とか成瀬とか、いま多くの国で歓迎され、発見されつつある戦後の映画監督の作品は証明しているのではないか」(「日本記者クラブシリーズ企画「戦後 70 年 語る・問う」③「戦後」の意味を考え続ける」)とも述べていました。
このように、小津作品や成瀬作品が海外でも評価されている要因を「「敗れること」の経験の深さ」に見いだした点に着目したことから、関連の言及もあるのではないかと予想して手にしたのが標記でした。
閑話休題。標記では、黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男らをはじめとする映画の登場人物の「身ぶり」を通して、この敗戦と占領という重みを負った「ポスト占領期」の日本の経験や精神を浮かび上がらせています。
その点、本書の目的は、作品の理解を通して映画と歴史の関係を考察することにありますが、小津安二郎監督作品の『晩春』を例にとれば、具体的には紀子の動きに観られる「正座」という身ぶりへの着眼と共に、「「奇跡」の顔をもつヒロインの頭部を切断する映画」と示した点に現れています。こうした映し出された「身ぶり」という細部への拘りという点では蓮実重彦的な「主題論的批評」と受け止めても良いかもしれません。
しかし、この作品は『麦秋』と共に「ふたりの紀子に共通するのは、不在の隠蔽によって家族の絆が維持されている死者たちを、代理し補填する役割であり、それゆえ彼女たちの結婚は代補の罷免を意味し、その結果、隠蔽されていた不在が露呈して構造の転換が生じる。こうして、徹底的に日常を題材としながら、これらの映画には歴史の変動に関する独特な思考が示唆されることになる。」と述べられています。
本書全体を貫いているモチーフは、〈前線-銃後〉のポスト占領期における残像と変貌ですが、「敗者の身ぶり」とは、この構造の内部で権力の諸関係に従属している身体が画面上に現れる様態に他ならないと提起しています。その他の作品についてもその表象を細部にわたり論じていますが、目次は次の通りです。
1 歴史の関をうつす
『虎の尾を踏む男達』(一九四五/一九五二)とポスト占領期の日本映画
2 絆とそのうつろい
小津安二郎の『晩春』(一九四九)と『麦秋』(一九五一)の抵抗と代補
3 富士山とレーニン帽を越えて
谷口千吉の『赤線基地』
(一九五三)における同一性の危機
4 ものいわぬ女たち
黒澤明の“ポスト占領期三部作”(一九五二‐一九五五)の政治的イメージ
5 涙の宥和
『二等兵物語』シリーズ初期作品(一九五五‐一九五六)による歴史の清算
6 女が身をそむけるとき
成瀬巳喜男における戦中(一九四一)と戦後(一九五五)の間
付録 「我らを滅ぼせ」
『ビハインド・ザ・ライジング・サン』(一九四三)の「良い日本人」
呉勝浩『爆弾』💣
 (講談社 2022年)
かなり奇抜な仕掛けのミステリーを読了。未見の作者であったが、読み手を惹きつける力が凄まじい❗️
酒屋で酔っ払って人を殴り、逮捕され警察署に拘束されたスズキタゴサク。この人を食ったような名前の犯人が爆弾の爆発を予告するところから事件は始まる。
あらかじめ犯人が読者に分かっている設定のように見えるが果たしてそうなのか?
このスズキなる人物の取調室での饒舌な自白が物語の大半を占める。どこまでも自分を卑下した悪意の放出に否応なく付き合わされ、登場人物たちだけでなく、読んでいる自分自身が辟易してくる。ひょっとしたらこれがイヤミスなのか?
敢えて出頭してきた犯人は、警視庁の凄腕刑事を翻弄する。幾つもの罠を仕掛け、常に刑事たちの先を行く。マジックミラーもビデオもない取調室での行き詰まる刑事と犯人の心理戦がノンストップで続くのだ。こんな狭い空間で、これほど重層な展開をよく考えられるものだと、作者の手腕に感心してしまう❗️
犯人に何となく既視感を覚えた。そう、あの🎬ハンニバルのレクター博士だ。スズキが仕掛ける心理戦は、ジョディ・フォスター演じる女性捜査官がレクターに徐々に支配されていくあの場面に似ている❗️
スズキタゴサクの何重もの罠にからめとられ刑事たちは連続する爆発を止められない。おぞましい爆弾事件をどうすれば食い止められるのか、刑事たちはスズキの真の狙いを暴けるのか、そして……。
手に汗握る展開。2023年版の「このミス」第1位も頷ける1冊。おススメです。
ブルース・フットさんの『人はなぜ物を欲しがるのか』を読みました。
 
本の表題に惹かれ購入したものですが、原題が『POSSESSED  Why We Want More Than We Need』“所有という悪魔   なぜ人は必要以上に欲しがるのか“です。
 
 心理学的な内容かなって思いながら読んでいましたが、人類学、歴史、社会学、行動経済学、生物学、哲学など多岐にわたる領域で“所有”の本質を追求したもので、大変面白く読みました。
私自身、“占有“と”所有“とは概ね同じ意味と考えていましたが、”所有“とは人間だけが持っている概念であることをこの歳で理解しました。
ちなみに”占有“とは、自身が守れる/見てまわれる範囲内で自身が所持する事であり、”所有“とは、遠く離れていても法律等により自身のモノと証明できる権利である。と、理解しました。
 
人間は、繁殖のため雄が雌を引き寄せる手段の一つとして、相手を引き寄せるために多くのモノを蓄えて行くものです。
その中でも「見せびらかしの消費」という行動があり、周りと比べて自分がいかに裕福かを誇示したくて贅沢品に大金を費やす。それは動物はみな生存競争を行っており、自分の遺伝子を子孫に伝えていくのも競争であるため、人間は贅沢品をも所有することを続けていく。
 また、人間の脳の仕組みから、快楽中枢である複側被蓋野のドーパミン神経細胞は、セックス・ドラッグ・ロックロールなどの依存性のあるさまざまな営みを追求することによって活性化する。パーキンソン病患者に治療としてドーパミンを増大させた薬を投与したところ、セックス依存・ギャンブル依存・買い物依存が増大したという副作用が出たという。
しかし、我々は所有すれば満足するかと言えばそうではなく、人生で物があふれさせているのは、絶えず獲得したいと追い求める心なのである。
 
著者は最後に、“できるだけ多くのモノを必要以上に獲得しようと愚かな探求を続ければ、人々は分断され、諍いが引き起こされる。所有は人間の本性に根ざすかもしれないが、人間にとっての最善策ではない。私たちは所有という悪魔を祓う必要があるのだ。“と。
 
大変面白い本です。
是非、一読を。
「きみが来た場所」喜多川泰
ドップリと喜多川ワールドに浸り、自分の周りの人達に感謝を伝えたいと共に、還暦は過ぎたけど、これからも自分の3人の息子達とお嫁ちゃん達にちっちゃな背中やけど何か息子達がこれからの人生を送るにおいて、少しでもパワーを伝えられたらと思える一冊。
生まれた時から持ってる自身への使命。それを果たせるかどうか?自分の子供達から学ぶ事が多い。
3人とも独立したけれど、子供達が居てくれたから頑張れた事っていっぱいある。そう言う意味で、親は子供達のおかげで成長させてもらってるのだ。
「人間は、いや人間だけと言ってもいいが、人の喜ぶ姿を見て幸せを感じる事が出来る」
3人の息子は全員高校野球をやった。その試合を何試合も観てきた。悔しくて顔が歪む時。勝って喜びを全身で表す時。そんな姿を見て実は親も成長出来てたのかなと今では思う。
「今の子供達は、自分の欲しい物を手に入れ続ける事を幸せと教えられて育つ。しかしその先に待っているのは幸せではない。
なぜなら人間は自分が誰かから必要とされてると感じて初めて幸せを感じる事が出来る存在」
野球も家族もやっぱり人に必要とされる事が喜びと繋がるのを感じやすいのかもしれない。
ちょっとネタバレの部分もありましたが、先祖からの命のリレーを大事にしたいなとかも感じた一冊でした。
何を幸せと思うか?それは時代によっても変わりますね。
戦時中の祖先、不幸な時代にあっても幸せを感じていたんだなと思いました。
あっ、戦争は絶対反対ですよ。
祖先は必ずしも不幸だけを背負って亡くなったんじゃない。
命を大切にしないといけませんね。
悼む人              
著者 天童荒太   
文春文庫          
あらすじ          
不慮の死をとげた人々を悼むため、全国を放浪する坂築静人。静人の行いに疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者、蒔野。末期癌に冒された静人の母、巡子。そして自らが手にかけた夫の亡霊に取り憑かれた女、倖世。静人と彼を巡る人々がおりなす生と死、愛と憎しみ、罪と許しの物語。            
10年前ぐらいに、本でよみ、そのあと、DVDをみました。人は生まれた限りはいつかは、死を迎えますが、それが不慮の事故や事件などにより、命を奪われることも。又自死や病気による場合もあります。生と死はいつも背中合わせ。改めて命の尊さを心にきざまれました。😺静人の誰よりも人の死に深く悼む気持ちが伝わりました。😢
三浦英之さんの『南三陸日記』(2019年、集英社文庫)。
住んで、泣いて、記録した。東日本大震災直後に受けた内示の転勤先は宮城県南三陸町。瓦礫に埋もれた被災地でともに過ごしながら、人々の心の揺れを取材し続け、朝日新聞に連載された「南三陸日記」は大反響を呼んだ。文庫化に際し、8年ぶりの「再訪」や、当時は記せなかった物語を大幅追加。開高健ノンフィクション賞など、数々の賞を受賞した気鋭のライターが描く珠玉の震災ルポルタージュ。
著者が実際に被災地で生活をしながら肌で感じたリアルな記録です。
追記された「再訪」は涙が溢れます。
けっして風化させてはいけない物語が、ここにはあります。
はじめに
[教誨師](きょうかいし)とは…
服役中の囚人や死刑囚に対して、過ちを悔い改め徳政を養うための道を説く者。
日本では真宗の僧侶が多い。
死刑囚と面会し、さらには刑の執行にも立ち会う。 =裏帯より=
主人公
・高輪顕真
・関根要一
大学時代の友人です。
この二人が再開した場所は、奇しくも
東京拘置所。
立場は、高輪はそこの教誨師、そして関根は…死刑囚。
5年前の男女殺人事件の容疑者で逮捕。
証拠も揃い、自白もしていると言う。
殺害理由は、鼻の痣を笑われたからだと…
「死刑囚⁉️絶対有り得ない❗️あいつには人は殺せない❗️何故か❓
命懸けで人の命を救う奴が殺人なんかできるわけがない❗️それに痣ぐらいで、カッとなるような奴じゃない❗️
顕真と関根は大学時代、同じ山岳サークルの部員だった。
その時、関根は、遭難しそうになった自分と仲間を命懸けで助けてくれた…。
「絶対に何かの間違えだ❗️
顕真は自分の坊主として、そして教誨師としての立場を全て捨ててでも、関根を救う❗️
と、ほぼ全ての事を強行突破で動き出すが…
一度「死刑」と言う最も重大な刑を、そう簡単には覆えせるわけはありません。
そしてなんと言っても、本人が自分がやったと自白をしている…。
もう、あの頃の関根では無くなってしまったのか…
しかし❗️
"調べるほど浮かび上がる不可解な謎"
=裏表紙より=
顕真が思ってる通りかも…
そうだとしても、現実は死刑執行日が日に日に迫ってくる…
"絞首台へ向かう友の魂を救えるかー。"
=表帯より=
半分くらいから、もう、ドキドキの連続で、一気読みでした❗️
最後のどんでん返し、凄い❗️
たくさんの人物の名前や言葉(お経など)が出てきますが、全然、混乱しません。
人気作家さんなので、もう読んだ方はたくさん居ると思いますが、未読な方は是非‼️
「死にゆく者の祈り」
中山七里
【花石物語】
井上ひさし
 今まで読んだ小説の中で、一番泣いたのは田辺聖子の「うたかた」、一番夢中で読んで訳もわからず早く続きが読みたくてうずうずしたのはガルシア.マルケスの「百年の孤独」、一番後世に残して欲しいと願ったのは、中上健二の「日輪の翼」。。
 そして、一番心から温まった読後感だったのは、井上ひさしの「花石物語」だ。。
 井上ひさしの経歴にそっくりな主人公、夏夫は、幼い頃父親を亡くし、たくましく優しい母に育てられた。
 信仰があり通っていた教会の援助で東京の大学を受験するも、東大と思しきトップレベルの大学に落ち、鷲の紋章の帽子の私立大学に進級することに。
 私からみればその大学だって夢のようだが、夏夫は鷲の大学しか受からなかった自分を恥じ、上京しても、鷲の紋章を道ゆく人に笑われているように思え、その上、東北訛りもあり東京生活に馴染めず吃音症になってしまう。
(鷲の紋章の大学の方、またご出身の方、大変失礼。。ですが。。小説にそう表現されているのでご勘弁を💧
 夏夫は一時、精神の休養をするため、故郷の花石に帰郷する。
 花石とは、作者の故郷である釜石である、多分。笑
 そんなか弱い神経のひとり息子を、母は
「まあ、ゆっくりおし」と微笑み、これから花石の製鉄所の大勢の従業員を当て込み、屋台の焼き鳥屋をやる、と話す。
 笑ってしまうエピソード。。。
夏夫は、母が仮住まいをする洋品店(といっても、なんでも屋みたいに避妊具まで売っている)の2階の一間に居候することになったが、狭い路を挟んだ向かいの部屋には、娼婦で気のいいかおりがおり、彼女が明るく夏夫を客として誘う。。。
(かおりも東北の花石よりもっと田舎の出身で、家族のために娼婦稼業をやっており、物語中、台詞の東北弁が実にほのぼした温かさを醸し出している。ちなみに、容姿は美人ではなく
赤い頬の鼻ぺちゃさん、みたいに描かれる)
 夏夫は、何度か部屋の窓から窓へと誘われる間に“男“になるのだが、その辺の、男性としての一つの自信のつけどころに手を添えたかおりも、物語の温かいラストへ深く関わる重要人物だ。
 母が始めた屋台は、最初、全然リピーターがつかず、彼女はどうしてなんだろう?と悩む。
 夏夫は、その原因を探るべく、大繁盛している焼き鳥屋の屋台の味付けを探る。
 この大繁盛店をやっているのは、やはり東京の大学に進学した経歴をもつ夏夫と同世代の男。それも、東大出身と知り、
「彼は銀杏の紋章だから、、、」と、
夏夫はまた東大コンプレックスを深めるが。。。
 この物語は、大人になる手前で挫折を味わい、へたばりつつ階段をのぼる力を得ようとする若者の成長を描いているが、普遍的ともいえる母性(いまでは神話のようだが)の力強さ、温かさが物語のいたるところに感じさせる。
 かおりの部屋を訪ねる船員のふりをした客の、マドロスのカッコ良さを装うことに隠された葛藤。。。と言っても、読者が笑えるように描かれているが。
 夏夫を再びコンプレックスに陥れる大繁盛店焼き鳥の味のヒントを、最後に教えてくれる店主にも隠されていた心の吃音症。
 故郷でのロングバケーションで、さまざまな人物と出会い、母のどっしりした優しさに支えられて、心の病を脱し、成長していく夏夫。
 「僕が助けてみせるから!なんでも来い!」というように、今度は愛すべき人を助ける側になろうと自身に誓う夏夫が、愛しくてたまらない、しみじみ心温まる青春物語。。。
 古い作品だけど、戯曲の名手.井上ひさし、それ故のストーリーテーリングの魅力をぜひ。
教場X  刑事指導官風間公親
by
長岡弘樹
教場シリーズで、風間が警察学校に行く前の話の第二弾。どうして警察学校に行くことになったかの理由がわかる本です。
さて、風間は前作(教場0)で、昔逮捕した、十崎により、右眼を千枚通しで貫かれ、義眼になっている。本部長の肝入りで刑事部捜査一課で、所轄の刑事になって3ヶ月の者を本部に呼んで風間が指導する風間道場にて、新任刑事をエース級に育てていた。とここまでで。
第一話 硝薬の裁き
生徒 鐘羅路子(かねらみちこ)
第二話 妄信の果て
生徒 下津木崇人(しもつぎたかひと)
第三話 橋上の残影
生徒 中込兼児(なかごめけんじ)
第四話 孤独の胎衣(こどくのえな)
生徒 隼田聖子(はやたせいこ)
第五話 闇中の白霧
生徒 紙谷朋浩
第六話 仏罰の報い
元生徒 平優羽子(たいらゆうこ)
それぞれに風間の洞察力の凄さを感じました。また千枚通しの連続傷害事件も絡めながら最後にはなるほどと。おすすめです♪
デッドエンド
柴田哲孝
 妻殺しの罪で無期懲役を喰らい千葉刑務所に服役中の笠原。IQ172の頭脳を駆使して脱獄計画を練る。その目的とは…。
 脱獄、逃避行、狭まる包囲網、巨大な陰謀、冷酷な刺客、クライミングアクションと盛り沢山なエンターテイメント作品だった。
福岡県警工藤會対策課
(著)藪正孝 (出)彩図社
元、北九州地区暴力団犯罪捜査課初代課長
の著者が語る工藤會との死闘。
 暴力団排除の社会風潮の中、それに抗う
日本で唯一 特定危険指定暴力団に指定されているのが工藤會である、暴力、権力、鉄の掟
で固められた同会の内情、警察関係者との
やり取り、同会メンバー1、ナンバー2が逮捕起訴裁判判決迄、フィクションの様に思える
内容に驚かされる一冊です。
天祢涼『希望が死んだ夜に』
 
📓あらすじ
希望が死んだ夜みたいに真っ暗なこの国で――
 
面白い作家が、凄い作家になる瞬間がある。本書を読んだとき、天祢涼は凄い作家になったと、感嘆した。――細谷正充(文芸評論家)
彼女を死に至らしめたのは社会なのではないか? 社会派×青春×ミステリーの見事な融合。本書に出合えてよかった。――ベル(文学YouTuber)
 
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか? 二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって――。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。
解説・細谷正充
(文藝春秋サイトより)
 
💬感想など
 作品のテーマとなっているのが「子どもの貧困」問題。それゆえ、読後の印象としてはミステリーというより社会派という方が強かったです。作品全体通して、胸が苦しくなるしやるせなくなります。他人事だとは思えません。
 
 「貧困」問題には、当事者家族はもちろんそうなんですが、周りが大いに影響していると感じました。
 加えて、作中のあるシーンについては、貧困問題だけでなく、いわゆる「人間関係」において重要なことを考えさせられます。
 
 というのが、先生とネガが話すシーンです。
 先生はネガに対し、こう言うんです。
「世界中の人から見れば君はとても幸せなんだよ。でもアフリカの子どもたちのようになりそうだったら、いつでも先生に相談しなさい」 
 
 それを受けたネガは、
「そうか。あたしはまだ本当に困ってはいなかったのか。アフリカの子ども達に較べたら、全然不幸じゃない。むしろ幸せだったんだ。」
という結論を出します。彼女はこのとき、胸が震え、理由は分からないけど不意に涙が滲んだ、とあります。
 
 作中、なんと言うかこう胸がむかむかするシーンは少なくありません。しかしその中でも特にこの教師の言葉には腹が立ちました。私自身も同じような経験をしているし、そういう人はやはり多いのではないでしょうか。
 "世界"の話なんてしていない。"あたし"の話をしているのに。「あなただけじゃない。皆苦しい思いをしているんだよ」「あなたは幸せなんだよ」──そうじゃない。そんな話はしていない。
 きっとこの先生の言葉は、ネガにとって希望にはならなかったはずです。
 
 なぜ彼女は殺人の動機を語らないのか。「わかんないよ。あんたたちにはわかんない。なにがわかんないのかも、わかんない」の奥にあるネガの真意とは、二人の少女が抱えていたものとは何か。彼女を殺したのは一体誰なのか。
 読了後、タイトルの「希望が死んだ夜に」を噛み締めることになります。
「空の走者たち」増山実
福島県を舞台にした、時空を超えて福島の実在の人物が交わり影響し合うフィクション。
フィクションだけど、実際にそうだったのかなと思わす展開でした。
円谷幸吉、円谷英二、芭蕉、実在の人物。そして主人公の円谷ひとみ。この人達が上手く影響し合ってるストーリーが凄いと思った。
作家ってよくこんなストーリーを考えるなーと思います。
前半はちょっと読むのが複雑やなぁと思ったけど、64年の東京オリンピック、マラソン銅メダリスト円谷幸吉さんと、主人公円谷ひとみさんのお話しになってからググッと引き込まれた。僕自身もマラソンをやってるので余計にかも。
マラソンを通じての喜びとは?
生きているという事をつぶさに感じる事。
しんどい時は、空を見上げてみよう。
「苦しくなったら、一度自分の意識を身体から離して、空から自分を眺める。」
「離見の見」
これはマラソンの事だけではなく、人生で迷った時、苦しい時なんかの時に、客観的に自分を見る方法とも言えるのでは?
空から自分を眺める。デッカい空から、ちっぽけな自分を見てみるとどう目に映るのかな?
ランナーの人にはオススメの本ですが、ランナーでない人も楽しめると思う。
ちょっと時空を超えたお話しなので、迷走してしまう部分もあったが、後半は前向きに生きていくために必要な言葉がいっぱいあって良かったです。
「荒れ地の家族」
佐藤厚志
あの震災から10年以上が経った。
40歳の祐治は、母と一人息子と3人で暮らしていた。
厄災に見舞われたのは、祐治が造園業のひとり親方として船出した途端だった。
そしてその震災から2年後、妻の晴海をインフルエンザの高熱で亡くした。
更地になり、何もなくまっさらになった町は、その不自然なほどのまっさらさに、震災の痕跡を浮き彫りにしていた。
元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点なのか―――。
全てを無くしたのか。
全てを無くしたわけではない。
しかし、全てがひっくり返されたら元通りになどなりようがなかった。
人は、欠けたパーツをずっと自分の内に抱えて生きていくのだ。
震災がもたらした様々な形の破壊と、主人公が営む造園という仕事の目を通して感じる生命が漲る力強さとのコントラスト。
壊れた心と壊れた家族と、哀しみと少しの希望と。
浮き沈みを繰り返しながらも、たんたんと生きていく姿にリアリズムを感じる。
第168回芥川賞受賞作。
私は芥川賞の作品とはあまり相性がよくないようで、いつもはちょっと敬遠してしまうのですが、この作品はどうしても読んでみたくて手に取りました。
震災についてのダイレクトな描写はないのですが、そこに暮らしている人々の息づかいや心の傾きから、痛ましい情景がページに染み渡ってくるようでした。
絶望と悲しみを胸の奥底にしまいながらも、わずかながらも未来を見、明日へその先へ歩んでいく主人公の姿を、私はこの作品から感じました。
読んでよかったです。
仙台在住の書店員作家が描く、被災地に生きる人々の止むことのない渇きと痛み。是非
村上春樹/アンダーグラウンド(講談社文庫)
下の写真の帯の通り『地下鉄サリン事件』の被害者(もしくはその家族)に対するインタビューと著者本人の事件に関する所感的なものが書かれています。
こちらは文庫本で約780ページ、しかもインタビュー部分は2段組。
かなりのボリュームです。
読むのには相当根気がいるかも知れません。
________________
1995年3月20日。
いつもと同じような1日になるはずだった日。
この日のことを語るのは、辛いという言葉だけでは足らないほどの苦痛があっただろうと思います。
被害者の方々の事件に関する生々しい証言や、被害者のご家族の悔恨の言葉がそれを物語っているように感じました。
読むのが本当に辛くて仕方なかった。
なのに、なぜか読むことをやめられませんでした。
私の知人にも『被害者』になってしまったひとがいます。
去年10年ぶりくらいに会って話をしましたが、未だにPTSDに悩まされているようです。
そして、その知人と会ったことが切っ掛けとなり、この本を再読しようと思いたち文庫本を購入しました。(単行本も読んでいたのですが、手元に置いておくのが辛くて手放していたので…)
ただ、単行本のときと同じく読み出すまでに時間がかかりました。
そして、最初に読んだときから随分と時間が経ったのに、やはり読んでいるときの辛さは変わらないまま。
きっと、何度読んでも辛いままなのだろうと思います。
心の整理があまりつかないままに書いたので、わかりにくい文章になっていると思いますが、どうかご容赦くださいませ。
『推し、燃ゆ』  宇佐美りん  ★★★★★
主人公・女子高生のあかねにとってアイドルの「推し」は背骨。それ以外はすべて「生き難さ」で削り取られて行く。部屋は汚れ、勉強は手に付かず、体は異常にやせ衰え・・・。
もともと生きる能力が低いあかねだが「推し」が絡むと色んな事が可能になる。情報を集め、整理し、解釈し、グッズを買うためにはバイトも頑張れる。普段の何もできない主人公が普通で、推しが絡んだ時だけ能力が上がるのか、推しの時が普通で、それに精力を奪われ普段の生活がダメになっているのか。
いずれにしても私の嫌いなタイプの主人公です。
普通なら投げ出したいような本なのですが、読まされます。なんか説得力がある。見事に時代の一部を本当に見事に切り出している。描く対象物に意味(思想)は感じられないけれど、描くことの素晴らしさは良く判る。
それにしても見事な文章力ですね。「見た物を美しく表現する」とか「心の動きを見事に表す」とかは良く見かけるけど、宇佐美さんが随所にみせる体を一部を使った表現、例えば「頬の内側、右の眼と左の目の奥に感じる吐き気は、根強く、抉り出せそうになかった。」は新鮮でした。
第164回芥川賞受賞作
『ある男』 平野 啓一郎
 愛したはずの夫は、全くの別人だった。
弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
 その男はある日突然事故でなくなり、里枝が悲しみに暮れるなかに知った別人。なぜ夫は、名前や戸籍を変えてでも、違う人物の人生を歩む事になったのか…。
 人間存在の根源に迫る、心に残る作品です。
《舞台が宮崎県S市で共感でき、本当に桜が綺麗ですよ😀》
 今度映像でも観てみたいです。
紙の梟
貫井徳郎
 裁判員制度の下では市民感情によって厳罰化の傾向にあるらしい。本書はそんな時代の空気に基づいて、『一人殺せば死刑』となった日本を描いている。
 確かに殺人罪の量刑の尺度となっている『三人殺せば死刑』という現行の永山基準は甘い印象がある。ましてや自分が被害者遺族だと想像したら受け入れ難い。
 五つの短編はいずれもそうした不寛容な社会でのケーススタディともなる連作で考えさせられる。
中でも『レミングの群れ』はその設定、展開、オチまで見事にキマった傑作だった。
近衛龍春「毛利は残った」
毛利輝元、祖父は中国地方の覇者であった毛利元就。豊臣政権において五大老を務める彼は、気がつくと関ヶ原の戦いで西軍の総大将に担がれてしまい、徳川家康と対立する羽目に。戦後、その責任を問われ、領地を四分の一に削られてしまう。その後も隙きあらば取り潰してしまおうとする家康から屈辱的な扱いや役負担をかけられる。
輝元は、毛利を没落させた凡将か、毛利を守り抜いた名将か、考えながら読み終えました。
<與那覇潤『帝国の残影ーー兵士・小津安二郎の昭和史』>
 映画『男はつらいよ』の主題歌から話を始めよう。
  ドブに落ちても 根のある奴は
  いつかは 蓮の花と咲く
 星野哲郎作詞のこの歌詞の原典と思しきことを小津安二郎は語っている。
「泥中の蓮ーーこの泥も現実だ。そして蓮もやはり現実なんです。(中略)私はこの場合、泥土と蓮の根を描いて蓮を表わす方法もあると思います。しかし逆にいって蓮を描いて泥土と根をしらせる方法もあると思うんです。」
 昭和12年、中国戦線のいち兵士となって戦場の悲惨を体験した小津安二郎が直接に戦争を作品に描かなかった理由は、この言葉に凝縮されている。昭和28年、松竹後輩監督の木下惠介が戦争直後の喧騒と混乱を『日本の悲劇』でリアルに描いた際の小津の激しい反発もここにある。
 とはいえ小津の描く「家族の物語」には常に戦争の影が差していることも事実だろう。『東京物語』の紀子(原節子)は戦争未亡人であるし、『秋刀魚の味』では父親周平(笠智衆)と軍隊時代の部下(加藤大介)との交流が描かれているのも、これらが「戦後」という時代に根差した作品だからに他ならない。
 父と娘、夫婦、兄弟姉妹といった日本の家族を描ききった小津は生涯独身で家庭を持たなかったし、中国戦線に参戦したにも拘らず作品に戦争の悲惨さを直接描かなかったという謎には、小津は実直に「蓮」を描ききったのだ、と応えることもできるだろう。
 著者の與那覇は、実は小津の「失敗作」にこそ小津の真に表現したかったものが宿っている、と見ている。例えば戦前の作品であれば『戸田家の兄妹』。裕福な家族の老父の死去により借金の返済に屋敷を売り、未婚の兄は天津へと転勤し、老母と妹は既に家庭を持った兄姉の家を転々とし邪魔者扱いされる。天津の兄は兄姉の冷淡を非難し老母と妹を天津に引き取る、という話。また、戦後の作品であれば『宗方姉妹』。満鉄官僚の娘として生まれた、満洲生まれの自由奔放な妹と日本の因襲を引きずった姉の葛藤。満洲からの引き揚げ者でプライドの高い技官である姉の夫。小津がこうした失敗作で描こうとしたのは、敗戦のもとで「高度に理念化された普遍的ビジョンの下で、所属集団なき個人の群れが、急速な集結と分散を繰り返す動態的な政治経済の情勢」(著者は「中国化」という言葉を使っている)による日本の伝統的家族の崩壊、であったのでは、というのだ。まさにそれこそが、いち兵士・小津安二郎が中国大陸で目の当たりにしたものではなかったか。
 與那覇は更に続ける。何故、戦後の日本人は「小津安二郎の『失敗作』」を評価せずに、大きな波風も立たぬ平板な小津の家庭ドラマばかりを評価してきたのか。それこそ、戦後の日本人の深層に戦前の「帝国の幻影」が未だに生き続けているからではないのか。
 本著はサブタイトルが無ければ日本の戦中戦後史の歴史書のようにも取れるし、サブタイトルがあればあったで主題との間にどこか違和感を抱かせる。そもそも日本近現代史を専攻し大学教員でもあった著者がメンタルを病み、評論家として再出発するという異色のキャリアの持ち主であることに、これは起因している。好きな小津安二郎作品の深奥を究めることで日本文化の真相を炙り出す、優れた歴史社会学の一冊となっていると言えるだろう。
 因みに今年は、小津安二郎生誕120年、没後60年。神奈川近代文学館では、今日4月1日より小津安二郎展が始まっている。是非、小津の失敗作にも興味を持って観て貰いたい。
雲を紡ぐ 伊吹有喜 
いじめで学校に行けなくなった娘、不登校になった娘をもつ教師の母、実家の父親との関係がよくなく故郷に背を向けてきた娘の父親。誰も悪くないのに何故かうまくいかずバラバラになってしまった家族の再生の話かな。盛岡のおじいちゃんがイイのです。
めちゃくちゃ良かったです。題名もイイ。是非、読んで欲しい一冊です。盛岡に行ってみたくなりました!
「どうした、家康 」
歴史時代小説の13人の短編集
逸木裕 「銀色の国」
逸木さんの文庫本が新しく出ていたので買ってみました。
 
主人公はNPOで自殺対策に取り組む男性。彼がかつて対応して立ち直ったと見ていた男性が自殺したと連絡がある。遺族によると彼は自殺前にVRゲームに没頭していたと聞き、友人のゲームクリエイターと彼の死について調査を始める。彼のVR機器を調べてみるとそこには非公式ゲームが消された痕跡があり、彼が没頭していたのは裏で流通する自殺を幇助するVRゲームだったのではと推測し始める。
一方で浪人生である女性はTwitterにて自殺をほのめかして周囲の気を引く鬱葱とした日々を送っていた。あるときフォロワーから自助グループが運営するVRゲーム「銀色の国」に参加してみないかと誘われる、というお話。
 
自殺をテーマにした作品となります。
メインは主人公側である自殺から救いたい側の視点で描かれており、その合間に自殺したい/させたい人々の視点を見せながら物語が進んでいきます。多くの人に寄り添って救いたいけど直接は何もできないことに悩む主人公をはじめ、登場人物たちの心理描写が非常にリアルで読み応えがありました。また自殺者とどう向き合うかについて作中にての人物たちが持ついろいろな考え方が描かれているのも見所の一つになるかと思います。これに関しては正しい考えというものはないので、こういった考え方もあるのだなと新しい視点が得られて私としては良かったと考えています。
あくまで主題は上記の部分となるため、ミステリーの方は物語を面白くするために添えてあるという程度の認識で良いです。
 
独特な世界観が面白い作品なので気になる方は是非読んでみてください。
『いるいないみらい』
窪美澄
「子どもを持つこと」を考えるには、ど真ん中の年齢ではないので、少〜し離れたところから眺めている感じで読みました。
子どもが欲しいのか、いらないのか、それぞれの立場で思い悩む5つのお話。
結婚したら「子どもはまだ?」と普通に聞かれた昭和の頃よりは、女性が自由に選択が出来るようになって来たと思います。
しかし、自由な選択が出来るとは言え、今が将来に繋がる「タイムリミット」が近づくと、色々と考えてしまいます。
「異次元の少子化対策」と政府が旗を振っているけれど、それぞれの環境や個人の事情もあるので難しいですよね。
どのお話も日常が書かれていて気取りがなく、それでいて切実な思いを含んだお話でした。📚
『月の立つ林で』
 青山美智子
本屋さん大賞3年連続候補入りしてる青山さんの初読みです。
物語は、五つの短編で何れも平凡な生活を送る五人の人達が、共通のラジオ番組『ツキない話』を聞き、月にまつわるエピソードを聞くうちに自身の平凡な又悩める生活に少しずつ影響を与え前向きに活路を見出していく。
一つは長年勤めた病院を辞め両親の面倒を見ながら淡々と生活することに悩める元看護婦の話。
一つは売れないながらも夢を諦めきれない芸人の話。
一つは娘や妻との環境の変化に寂しさを抱える古風な信条を持つ二輪整備の自営業者の話。
一つは親から離れ早く自立したいと願う女子高生の話。
一つは仕事が順調に進展する反面家族との疎遠を感じ悩むアクセサリー作家の話。
よくあるパターンの物語の作りですが、この小説の面白い所は、共通のラジオ番組からのヒントに自身の悩みを解決に導くだけでなく、各章の登場人物(脇約含め)がお互いに絡み合い、お互いに何処かで関係し合い助け合い、そして各章の主人公が成長、前向きに向き合える人生に出逢える素敵な小説です。
また、その悩み事が特別でなく誰にでも起こり得る日常的な事なので親近感あり、「ほっと」出来る暖かい物語となってます!
この作品で本屋さん大賞獲れるといいですね!
桃野雑派 「星くずの殺人」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。
 
民間企業による宇宙旅行のモニターツアーが実施されることとなった。宇宙に設立されたホテルに到着したのだが、宇宙船の機長が無重力下で首を吊って死んでいるのが発見される。無重力の場所でわざわざ首吊りをするとは思えないが、他殺だとしたらツアー客の中に殺人犯がいることになるためすぐに地球に帰還するか悩みはじめる。ツアー客に事態を説明すると、それぞれが強い目的を持っていることと高額な参加費のこともあってツアーを続行することとなる。しかしその後耐えかねたホテルスタッフが脱出ポッドで逃亡してしまい、さらにはツアー客の一人が何者かに襲撃されてしまう、というお話。
 
SF系のミステリー作品となります。
状況が特殊な設定になっているので、本書ではなぜこの場所で犯行に及んだのかを中心として話が進んでいきます。上記の首吊りに見せかけた殺害などは地球上でやった方が簡単なのになぜ宇宙で?という点を考えながら読むと楽しめます。一方でどうやって殺害したのか?の方はSF系ということもあって推理するのが難しいのでやらなくて良いと思います。
もし宇宙旅行が身近になったらどんな感じになるのかが描かれているため、想像しながら読むと面白いです。長期間の病気検査、行くときは人が耐えられるギリギリのGに耐えないといけない、などお金だけ払えばいいというわけではないところが妙にリアルでした。
高額ながらも民間企業による宇宙旅行が実現できるようになったばかり、という設定もあってか参加者が何を目的に参加しているのかを話す場面は面白くて個人的には見所でした。わざわざ宇宙に来るほどなので目的は壮大なものが多いのですが、何かズレてる部分もちらほらあって物語を面白くしてくれています。
 
SF系ながらもリアルな部分も多くあって面白いので気になる方は読んでみてください。
帯のそうそうたるメンバーの推薦の言葉(裏にも続く)に引かれて大津の書店で購入。
西武大津店の閉店にとことん付き合うと言って始まる中2の成瀬あかりという主人公の、高3までを周りの何人かの視点で描かれます。何事にも一生懸命だけど、クラスメイトからしたらちょっと、いやかなり「変人」の成瀬さんは、とてもステキなキャラクター。でも幾つかの別れがあり、普通の子の面も見せます。
大津の地名、施設がバンバン出てくるので、地元の人はドキドキします。京都の隣だけど、地味な大津/滋賀への愛がヒシヒシと。
成瀬さんはまだ天下を取ってないから、続きがあればいいな。
罪の境界
薬丸 岳
通り魔事件をきっかけに、その被害者と加害者を中心に恋人、家族の苦悩、背景、動機が明らかになっていく作品。
冒頭のくだりで出てくる「約束は守った…伝えてほしい」が、作品の重要な部分に感じられなかったのは気のせいでしょうか。
作品は、ニュースなどにもよく出てくる幼児虐待、DVなどをベースに描かれていますが、幼い頃のそういう経験や、真面目に生きようとしても上手くいかない場合に、こういう犯罪に手を出そうと思うのかもしれませんが、結局は自分より弱そうな人間を対象とした弱いものいじめな感じがします。
それを理由に人を傷つけていいわけもなく、そのために傷つく被害者としては、「なぜ自分が」と思うのも当然だし。何が正解か、どうやったらこういうことが減るのか、読んでいて少し苦しかったです。
この作品の中で描かれている母子の関係。よく言われる毒親であっても、子供にとってはかけがえのない親であり、親にとってもやはり子供はかけがえのない子供とされている点は少し気持ちを軽くなりますが、「境界」はそこか?というツッコミどころと、犯罪そのものじゃなく、被害者、加害者の心理を丁寧に書いているあたりは好感がもてました。
他の作品も読みたい先生がまた増えました(笑)
君たちに明日はない    垣根涼介    新潮文庫 
村上真介は 企業の人事部からリストラ 業務を請け負う 会社の社員   首切りの面接で恨まれ なじられ 泣かれても なぜかやりがいを感じている  最初の面接でリストラを申し渡した仕事ができまっすぐな気性の芹澤陽子とは なぜか恋人となる 
五つの リストラ 事例の中で興味深かったのは 北海道の高校の同級生だった二人のいずれかを切るか 〈旧友〉 と 
芸能プロデューサーの切れ者と実務家の どちらかを 切る 〈去りゆくもの 〉
そして 年上の恋人陽子の がつかんだ意外な転職 
ビジネス小説はあまり惹かれないが この作品は人間ドラマとして面白く 山本周五郎賞を受賞も納得
解説も 八王子市役所勤務の 経験のある 篠田節子
 公務員 サラリーマンの方には 必読の 身にしみる作品群である
「82年生まれ、キム・ジヨン」
チョ・ナムジュ・作
斎藤真理子・訳
この本は、
「読んだ後に絶対に誰かに勧めたくなる」
「読んだ人の感想を聞きたくなる」
そんな本です!!!
2016年に韓国で刊行され、130万部以上売れ、16カ国で翻訳され、韓国文学やフェミニズム隆盛の契機となり、絶大な共感で世界を揺るがした〈事件的〉小説。
ここ10数年、日本では韓国のドラマが非常に人気ですが、私は1度も観たことがなく、韓国の文化に疎かった事もあるとは思いますが、この本を通じて知らなかった韓国の文化を知り、驚く事がたくさんありました。
私は韓国という国に「日本の隣にあり、外見も文化もよく似ていて、今一番日本と友好関係があるであろう国」という認識しかなかったのですが、この本を読んで、国における女性の在り方が日本と決定的に違うと衝撃を受けました。
ソウルで夫と1歳になる娘と暮らしている33歳のキム・ジヨンが、あることをきっかけに心のバランスを崩し、精神科病院に通うところから物語は始まります。
物語は、彼女が病院で話した33歳の半生を聞き取って医師が記したカルテという形式で進んでゆきます。
彼女の語る半生の、女性としての生きづらさには、共感する部分がたくさんありますが、生まれながらにして「女」で生まれてきた事が「男」で生まれてきた弟よりも世間的に価値のないものとされている事や、義務教育が全て男子生徒優先であることなど、日本で生まれた私は読んで驚愕する部分もありました。
この本はフィクションではありますが、作者さんがあとがきで、
「キム・ジヨン氏がほんとうにいて、どこかに住んでいるような気がしきりにします。」
と言っていて、私も同じ気持ちで読み進めていました。
世界中の人に、読んでもらいたい1冊です!!!
本(文豪たちが書いた酒の名作短編集)
タイトル通り文豪たちが書いた酒にまつわる短編集です。彩図者文芸部編集のこの本は、先ずは編集者の企画のユニークさに敬服といった感じですが、私もこの文庫本のタイトルを広告で見て、早速買ってきて読んでみました。
坂口安吾から始まり夢野久作、芥川龍之介や福沢諭吉と続き、最後は太宰治、さらに「太宰治との一日」を書いた豊島与志雄まで13人の作家の短編15編が収められています。
作品は小説だけでなく随筆も含まれており、文豪といえども酒に関する想いは私たち一般人と大差はなく、酒にまつわるエピソードには、共感を覚える箇所も何カ所も出てきます。
林芙美子の随筆「或一頁」では「随時小酌」という言葉が登場し、酒をたしなむには随時小酌にかぎると書いています。酒を飲みすぎた女性の醜態に対する嫌悪感を述べていますが、こうしたたしなみは今風に言えば「ちょい飲み」あたりになるのでしょうか。最も現代のちょい飲みは、経済的制約や健康志向など、当時の趣きとは大分違いがあるのも事実ですが。
太宰治の「酒の追憶」では、「ひや酒は、陰惨極まる犯罪とせられていたわけである。いわんや、焼酎など、怪談以外には出て来ない。」と新派の芝居のセリフを引用しながら、こう述べています。
日本酒は燗をつけて飲むべきものであり、冷や酒が邪道で下品、さらに焼酎はさらにランクが下だったと言うことですが、これもブランド物の冷酒の日本酒や焼酎などの現代の状況と比較すると、隔世の感がありすぎといった印象です。
さらに同じ太宰の「禁酒の心」では、最後に「なんとも酒は、魔物である。」と結論付けています。この文豪の場合も、何度も禁酒をしようと誓いながらも、その魔力に負けて飲んでしまうという偽らざる心境であったと、同じ酒飲みとして大いに共感する所がありました。
個人的な体験を述べれば、私も若い頃は深酒をして、酔いがさめた翌日に後悔することが幾度となくあり、酒のことを「悪魔の水」と例えたこともありました。
年配になり病気で入院して以降は、酒量も減ってきましたが、それでも禁酒とまではいかないのが、酒飲みの性(さが)とでもいうものでしょうか。
「節酒を心掛けるように」とは、健康診断でよく指摘されることですが、やはり適正な量をたしなむ節酒をしつつ定期的な休肝日を設けてこそ、酒が「百薬の長」と言われる所以ではないしょうか。
ゴッホの犬と耳とひまわり/長野まゆみ
これはもう完全にタイトルに惹かれたやつです。
大好物のアートもの。しかもゴッホ!!!こりゃ読まにゃいかーん!ってなって、ウハウハで図書館から借りてきました。
しかし、長野まゆみさんの本はまだ数冊しか読めていないのですが、わたしが読んだ本はちょっと難しい印象があって、わたしの読解力がないために、途中リタイアしそうになった本ばかりなんです。だから少し不安も覚えつつ、恐る恐る読み出すという…なんともウハウハの真逆をいく心境でもありました。
著者の長野さんは、美大出身ということもあり、マハさんや中野京子さんのようにアートに精通されている方だと思っています。また、わたしと同じく宮沢賢治が大好きで、賢治関連の書籍も何冊かあるんですよー!
やっぱり、賢治、最高だもの。
あらすじ
文化人類学者の河島より、手稿の翻訳の依頼を受ける「ぼく(小椋弥也)」。100年以上も前に存在した1冊の家計簿。それは家計簿の役割を果たしてはおらず、殴り書きしたような速記でクセ字でかなり読みにくいものだった。そして、最後の記述につづくのは「Vincent van Gogh」のサイン。
もしもこの手稿がゴッホ本人が記述したものなのであれば、大変な価値がつく。だが、河島はおそらくゴッホ直筆のサインではないであろうとの見解を示す。
しかし、この100年以上も昔に存在したであろう家計簿の元の所有者であり、入手経路なんかを考えると、もしかしたらゴッホ本人が所有していた家計簿である可能性も捨てきれないという。果たしてゴッホ本人のものなのか、贋物なのか。そして、作者不明で個人出版されたであろう、ある1冊の古い絵本の存在が鍵になってゆく…。
やっぱり少し難しかった。専門的な記述が多いんです。どんなかというと、カビとか金(moneyでなくgoldの方)とかキノコとかインクとか紙とか石榴とかとかとか………たーくさんっ!もう読みごたえ満載すぎます。頭使いましたー。笑
もちろん、筆跡のこと、ゴッホの生涯のこと、弟テオのこと、テオの嫁のこと、ゴッホが亡くなったあとのことなども、詳しく書かれています。が、脱線し過ぎなんじゃないですかっ?!と言いたいくらい、ゴッホから離れていくんで、どうしたこっちゃ?!と思いながら読んでいくと、なんとまあ、全てが伏線のようなものでした。嬉しいことに、賢治だって3回か4回くらい登場しちゃうんですから!
でも、難しいだけでは終わらず、小椋家の家族として迎えられる、当たり屋をしている野良犬「ゴッホくん」と、弥也の母「すみれさん」はものすごーくいい感じ。
あとは喋りだすと止まらなくて、脱線しまくりの河島先生、河島の孫 兼 助手の海一、海三(名前のセンス!笑)、家計簿と絵本の謎を結びつける謎の「森口女史」など、魅力的な登場人物が多いのですが、ゴッホくんとすみれさんを除き、みな頭が良すぎて、専門的知識が飛び交うので、面白くもあり、難しい…って感じでした。
この登場人物たちの実父や、先祖たちの出世の秘密なんかも、この謎に絡んできて思わぬ繋がりが発覚するところなんかも見所(読みどころ)かもしれません。
100年以上もの昔に1冊の本にも歴史があって、様々な経路をたどって、オランダからパリだとかフランスだとかに渡り渡って、上海にたどり着き、終いには日本のある人物の手元へ渡るというのは、なんともロマンを感じました。所有者が歩んできた人生の傍らに、相棒のように寄り添い、携えられていたのでしょうか。
本が辿るあしあともまた、考えてみると、とてつもなく魅力的であり、この上なく不可思議なご縁を感じるなぁと思いながら読み終えました。
大佛次郎『宗方姉妹』(1950)
標記は、小津安二郎監督作品で有名な『宗方姉妹』(1950)の原作小説ですが、今年が大佛次郎氏の没後50年、そして小津安二郎氏の生誕120年及び没後60年という節目に当たることから、作者が最晩年に病床で加筆した「序の章」を加えた決定版として、巻末に随筆「映画「宗方姉妹」を見て」を増補して改めて刊行された文庫です。
物語は、戦時中に満州での都市づくりに賭けた技師であった三村亮助とその妻である節子、および大連に生まれて教育を受けたその妹の満里子、さらには公職追放を受け、尚且つ死を前にして生きる二人の父親である宗方忠親らを通じて、敗戦後の日本人の生き様を描いた作品です。
映像作品では、宗方忠親(笠智衆)の娘である古風な生き方を通す田中絹代さん扮する姉の節子と、そんな姉に反発する高峰秀子さん扮する現代的な妹の満里子を中心に、節子の夫である三村亮助(佐分利信)の人生の挫折と、その対極に位置して登場する昔の恋人である田代宏(上原謙)との再会に揺れ動く節子の心情を通して、敗戦後の変わりゆく家族の姿を描いています。
しかし、この小説では、映像作品には観られない戦争の影が色濃く覆われていることがわかり、大佛氏も「映画の「宗方姉妹」は、小津君の「宗方姉妹」である。私の「宗方」であって、また、そうではない。映画は小説から離れて独り歩いているのだ。」(随筆「映画「宗方姉妹」を見て」『日附のある文章』所収)とも述べている通り、あくまでも別作品であるという印象を受けました。特に映像作品では脇役での登場だった高杉早苗さんが演じたパリ以来の田代宏の恋人である真下頼子が、生き生きと描かれていたことには魅了されました。
加筆した「序の章」では、本編と大きな違和のある描写として満州国安東の副市長だった三村亮助が、敗戦の年に満州から引き上げる過程で遭遇する、戦時中の悪行を重ねた日本人の町会長か防護団長と思しき男を、女性たちがリンチにかける場面を生々しく描いています。
その点を、先日取り上げた『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』(2011)の著者である與那覇潤氏がこの文庫解説で触れているのですが、この作品の背景となっている舞台が満州であるという設定から、村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』と響き合うモチーフを持っていると説いていたことに目を留めました。
その意味では『ねじまき鳥クロニクル』を「日本人にとっての大陸進出をどう描いたか」という観点から読めば、この作品も不倫の香り漂う軽めの恋愛・風俗小説として括るのではなく、そこには「満州国の崩壊」という主題が横たわっているということが取り出せるようです。その意味では、ここで描かれた宗方忠親のように公職追放された戦犯たちが「逆コース」として公職に復帰し、戦後の日本の政治経済や社会の動きを見るとき、特に彼らが活躍した「満州国」の存在は再検証すべき事項なのかもしれません。その点を含め與那覇潤氏は次のように述べています。
「『宗方姉妹』の三村は戦後、満州時代に用意してもらった名ばかりの職を除けば失業状態で、妻がやりくりするバーの経営に興味を持たず、虚脱した意識で無為な日々を送る。『ねじまき鳥クロニクル』でも仕事と家族を失った主人公は自我喪失に陥るか、彼の敵として描かれるのは、海外から借りたポストモダン思想を振り回してメディアで活躍するスター言論人の義兄(バブル期のニューアカデミズムがモデル)で、やがてそのルーツに満州国が関わることが明かされてゆく。(中略)『宗方姉妹』の三村亮助に刻み込まれた大陸開発の幻想は、日本国内にダウンサイズした形で戦後昭和にも反復され、それから行き詰った後に『ねじまき鳥クロニクル』の平成が訪れる。」
今点を踏まえ、村上春樹氏を「日本の純文学の高度な達成の先端に位置する硬質な小説家の系譜に連なっている」(加藤典洋『村上春樹は、』むずかしい』)と評価するならば、標記作品と協調しながら『ねじまき鳥クロニクル』も、29年ぶりに改めて再読しようとも思っています。
『殺戮の狂詩曲 ラプソディ』中山七里 著
昨年、中山七里さんの御子柴シリーズを読んで久しぶりに面白いシリーズにハマってしまいました。
最近は単行本を買う事はなかったのですが、いつ文庫本になるかわからないのでネットで予約注文しておきました。
物語は、高級老人ホーム『幸郎園』で発生した令和最悪の凶悪事件。
容疑者は『忍野忠泰』44歳。
忍野は柳刃包丁で入居者9人を次々に刺殺。
木更津拘置支所に収監されている忍野は面会に来た御子柴に弁護を依頼する。
高齢者施設での殺人事件と言えば、まだ記憶に新しいあの『やまゆり園』事件を思い出しますよね。
本当に痛ましく悲惨な事件でした。
また、葉間中顕さんが書いた『ロストケア』もやっぱり訪問介護センターの職員が高齢者を殺害した事件をテーマにしてますよね。
今、映画が上映されてますよね。
一昔前は男女の憎しみとかを描いたミステリーが多かった気がしますが、最近は、少年事件やこう言った高齢者への虐待などを取り上げた作品が見受けられます。
これも少子高齢化の一つの問題点かもね。
「ただいま、お酒は出せません!」
長月天音
新宿駅直結の商業ビル〝シンジュク・ステーションモール〞の中にある〈カジュアルイタリアン・マルコ新宿店〉は、ピザをメインとするカジュアルイタリアンを展開している。
「明日から休業です。
しばらくの間、自宅で待機してください。」
コロナ禍による緊急事態宣言で、お店は休業となる。
主人公六花は、このお店でベテランフロア係として、パートで働いている。
六花は独り暮らしの中、孤独を深めていく。
休業が明けても客足は戻らず、課題は山積だった。
「不要不急の外出は控えてください」
レストランは、不要なのか。不急なのか。。。
人々が飲食店など不要だと思ってしまったら・・・
六花は店の立て直しに奮闘する。
あの頃、未知のウイルスに対して、皆本当にこの先どうなるのかがわからず、不安や恐怖の中悶々としていて、生活も仕事も難しいことが多かったなぁ。
三密、ソーシャルディスタンス、クラスター、濃厚接触、パンデミック、ロックダウン・・・
コロナによる様々な制限が記憶に生々しいこともあり、当時の状況に思いをはせながら、懸命に走り回る六花の姿を応援してました。
レストランって、いったい、何だろう。
迷走しながらも、少しずつ前を向いて進んでいく六花達。
コロナという未知のウイルスに対して、一番パニックになっていたあの頃、同調圧力の気配が世の中にずしりと広がっていて、最も打撃をうけた業種の中の1つである飲食店の皆さんは、こんなに辛く大変な日々を送っていたのだ。
「世の中が変わっても、失くしてはいけないものがある。それは人と人との交流である。」
六花の言葉が胸に響く。
コロナ禍の中、苦境に立たされたイタリアンレストランで働く従業員が、孤軍奮闘するお仕事物語です。
初夏の訪問者
吉永南央
五月の風が、心地よくある季節、街路樹の若葉。紅雲町にやって来た、五十過ぎくらいの男..ある日 彼は、小蔵屋に来て 草 (そう)に告げた、「私は良一なんです」3歳で亡くなった草の息子、良一。男はなんの目的で良一を名のるのか?ーーそれとも
第1章 初夏の訪問者
       〜
第5章 風ささやく
不思議な感じの物語に魅力される一冊でした。
吉永南央  1964年埼玉県生まれ
太陽の棘
原田マハ
終戦後の沖縄。米軍の医師・エドワードはある日、画家たちが暮らす集落ーーニシムイに行きつく、、言葉、文化、そして立場の違いを越えて交流を深めていく…だか、そんな美しい日々にも影が忍び寄る。
〈私たちは、互いに、巡り合うとは夢にも思っていなかったーースタンレースタインバーグ〉
  実話をもとにした感動作です☺️
「ゴールドマン家の悲劇」
ジョエル・ディケール
主人公はマーカス・ゴールドマン。職業は小説家。
彼の伯父と従兄弟に悲劇が訪れるが、それは一体どんな悲劇だったのか?過去と現在を往復して、悲劇の真相に迫る。
同著者の「ハリー・クバート事件」のシリーズ2作目に当たるが、前作を読まなくても全く問題なし。
前作と共通するのは、主人公が敬愛する人物が実はあまり尊敬に値しない、卑小な人間であったということ。
どれだけ富や名声を得ても上には上がいるし、どれだけ人格者に見えても、嫉妬に駆られて愚行を犯してしまうこともある。
「他人の芝生は青い」とはよく言ったものだが、物質的豊かや名声に固執せず、人と比べず、自分の軸を持って生きることが自分を幸せにするんだな…という感想を持った。
辻真先さん「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」
2020年に発表されたこの作品。
同年の年末に発表されたミステリランキングで三冠を達成するなど、作者の年齢(この時点で88歳という高齢!)も相まって何かと話題になりました。
文庫化を待ちわびてようやく入手したものの、シリーズものであることに気付き、前作「深夜の博覧会」を慌てて読み終えたという経緯は、前回の投稿で書かせていただいた通りですが、ようやく「憧れの人に巡り合った」感覚で読み進みました。
前作でシリーズの作風に馴染んだせいか、はたまた12年という年月が戦前から「戦後」になったせいかはわかりませんが、前作よりはかなり読みやすく感じて、サクっと読み終えました。
読後の感想としては、すごく上質の青春ミステリであり、「終戦直後」という時代背景(残念ながらその時代にはぼくは生存していませんので、あくまでも伝聞でしかありませんが笑)が活き活きと描かれているのではと思います。
作者がこの作品の発表時点で、ご高齢であることが不思議なようで、「なるほど」というようでもある、何か「凄い」作品です。
また、後で書きますがタイトルが、作中である登場人物が語る言葉から来ているのですが、間違いなく「ある時期を知る人」でないと、この感覚は理解できないような、重みのあるものであることも、やっぱり「凄い」な~って思わせる名作だと思います。
ま、感心ばかりしていないで、作品の紹介をさせていただきますと…
主人公は、推理小説家を目指す少年風早勝利。
前年まで旧制中学の5年生あったのが、進駐軍の進める6・3・3制にするという教育改革のために、急遽「高校三年生」に編入される。
また、男女共学が推進され、それまでの「男女七歳にして席を同じゅうせず」の風潮が急に崩され、社会全体が戸惑いを隠せないながらも、明らかに時代が変わってきた、そんな時代背景。
勝利(通称カツ丼)が部長を務める推理小説研究会と、映画研究会の部長である大杉日出夫は友人同士で、趣味を同じくすることもあり、二つの研究会は部室を共有し、活動していた。
そんな夏休みに、両部の顧問を兼ねる別宮操教員(前作でも登場した謎の多い人物です)の提案で両部の部員5名で「修学旅行」と称して、温泉旅感を訪れる。
しかし、早々に現地で鍵のかかった建売住宅で勝利たちは撲殺された死体を発見することに。しかも、完全に施錠され、内部から脱出できない密室であることに興味を抱く勝利たちであるが、その後文化祭の準備に追われる彼らが台風の夜に校内で、床に転がる生首を発見し、その後切断された死体が見つかる。
密室殺人とバラバラ(解体)殺人。
二つの事件の謎を解くため、別宮は前作「深夜の博覧会」で名推理を披露した那珂一兵に協力を要請する。
そして、関係者を構内に集めて、一兵が事件の謎について語り始める。
驚くべき密室殺人のトリックと、バラバラ殺人の謎を解明する一兵。
そして、彼が指し示す意外な犯人の名前は…
というようなお話なんですが、実はこのお話、勝利が事件をベースに書き上げた「推理小説」という体裁となっていて、かなり早い時点で彼(勝利)が「犯人は、お前だ」と指し示す記述もあり、ラストまで読むと、構成の面白さも楽しめます。
さて、この雑文の冒頭のあたりで「タイトルが」というようなことを書きました。
最初、「何て傲慢なタイトルなんや」と思いましたが、実は関係者(ま、書いてしまうと被害者の一人)が、戦争によって何百万人もの人が殺されたことに比べて、ひとりや二人を殺したことくらいは、「たかが」という認識から来ているもののようで、この時代設定ならではのものでしょうし、このタイトルが犯人の動機に大きく関わって来るという設定も、「なるほど」と頷けるのではないかと思います。
ということで、この「昭和シリーズ」
次作「馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ」も既に発表されていて、また、那珂一兵と風早勝利の活躍が読めるようで、文庫化が待たれるところです。
余談ですが、第一作が「昭和12年の探偵小説」、本作が「昭和24年の推理小説」ときて次が「ミステリ」となるわけです。
本作の中で、「探偵小説」が「推理小説」に変わった経緯が語られていますが、そのあたりも「そうなんや」と初めて知った次第で、ミステリマニアも、「年の功」には及びませんでした😅
とにかく色んな意味で「面白い作品」です。
ミステリ三冠もダテではないことを、是非楽しんでいただければ😃
小犬を連れた男
ジョルジュシムノン
  刑期を終え、出所したばかりのフェリックスアラールは、小犬のビブを唯一の友としてパリの質素なアパートで暮らしている。彼はそれまでの人生を丹念に記述しはじめる…その過程で新たな疑惑と苦悩が心に兆してくる。
夜の散歩、小犬の愛らしさ、そして主人公の孤独と狂気、、そして悲劇が訪れる。
犬好きだった、シムノンが唯一、犬を登場させた名作です☺️
ーージョルジュシムノン  
  フランスの小説家、ベルギーの貧しい家庭に生まれた 15才で学校をやめ、菓子屋、本屋などに勤めた後に16歳で地方紙の記者になり、17歳で処女作「めがね橋で」で作家デビュー。
〈メグレ警部シリーズ〉は、各国語に翻訳されて世界的な名声を博す  世界中の発行部数は5億冊を超え、聖書とレーニンを凌駕したといわれる。ジッドは20世紀 最高の作家のひとりに数えている
花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」
本のタイトルがやたらと長い本書は本グループでMoroi Katsuhikoさんが紹介されており、興味を持った。過去に、女性が出会い系サイトでの体験談を綴った本を読んだことがある。それと同じで、男女間のドロドロした人間関係を赤裸々に書いた本なのかと思って、読み始めたら、とんでもない。明るくて、必死で、前向きだ。何度も、涙が出るくらい感動した。加えて、相手にお勧めする書籍が興味深い。書店に携わる人たちは本好きが多いと聞いていたが、私の想像をはるかに超えるレベルだ。本書により、これから読みたい本がたくさん見つかった。本好きには、たまらない収穫であり、喜びである。
『箱根駅伝ナイン•ストーリーズ』生島 淳 文春文庫
日本のスポーツイベントとして最大の人気を誇る「箱根駅伝」。早稲田、中央、明治などの古豪の他、山梨学院、駒澤、東洋、そして初優勝を遂げた青山学院まで、まさに群雄割拠の戦国時代。大学生たちの涙や歓喜の裏側にどのような物語かあるのか(背表紙の書評より)。
毎年楽しみにしている箱根駅伝ですが、中継される2日が終わった後から、もうすでに次に向けて準備、次への挑戦が始まっているんだろうなと感じた作品です。今は名監督者として名が通っている原晋監督の、選手時代の失敗、後悔がなければ、青学の強さは生まれなかったと思います。そして酒井監督が東洋大学から声がかかった時2ヶ月苦悩して最終的に引き受けた場面、伝統を守るため中央大学がどれほど努力してきたかetc.箱根駅伝は総力で戦うものなんだと知ることができました。
「キン肉マン 四次元殺法殺人事件」
おぎぬまX : 著  ゆでたまご : 監修
漫画ではありません。小説です。ミステリー小説です。しかも面白かった。シンプルに面白かったです。4話からなるショートミステリーのそれぞれが起承転結をたどっていて読みやすく、ちゃんと超人の特性が活かされたミステリーで、キン肉マンファンの僕にとってはミステリーなのにワクワクしちゃいました。まだまだ特徴を持った超人は山ほどるんで、第二弾、第三弾を期待したくなります…と同時にひとつ苦言を言わせてもらうなら、僕がそうであるように、この当時のキン肉マンに胸を熱くした少年たちは今やおよそ40代〜50代の世代になっています。そんな大人が読むにはちょっとミステリーが軽いですかね…キン肉マンの世界観でもっと重くガッツリとしたミステリーであって欲しいと思いました。ミステリーが進化することも願って第二弾、第三弾を期待したくなります。
とても楽しい一冊でした。
堤未果さんの『日本が売られる』(2018年、幻冬舎新書)。
裏書きはこんな感じ。
水と安全はタダ同然、医療と介護は世界トップレベル。そんな日本に今、とんでもない魔の手が伸びているのを知っているだろうか?法律が次々と変えられ、米国や中国、EUなどのハゲタカどもが、我々の資産を買い漁っている。水や米、海や森や農地、国民皆保険に公教育に食の安全に個人情報など、日本が誇る貴重な資産に値札がつけられ、叩き売りされているのだ。マスコミが報道しない衝撃の舞台裏と反撃の戦略を、気鋭の国際ジャーナリストが、緻密な取材と膨大な資料をもとに暴き出す!
4年半ほど前に出た一冊ながら、その内容は全く色褪せていないどころか、ここ現在に於いて更に輝きを増していると言えるでしょう。
むろん、日本という国にとっては不愉快な皮肉でしかないのですが…。
ビジネスマンの父より息子への30通の手紙
ビジネスマンとして成功した父が
 実社会へ出ていく息子への
30通の手紙で構成されている
結論は
目標の志と誠実さを維持して
 挑戦と決断を繰り返し
 全力を尽くして達成すれば
 真の幸福が得られる
【感想・行動】
 やはり貯金より貯信だなと
 改めて思ったよ。
 子どもに残したいこと
 財産よりも自分が生きることで
 学んできた知恵
 正解はないので
 お母さんはこうだったということ
 こうやって手紙として
 子ども達に送るのっていいですよね
 人生の転機を迎えるたびに
 送れるのっていいですね。
池波正太郎「スパイ武士道」(1967年)
主人公・弓虎之助は一見めだたない勘定方の武士だが、裏の顔は幕府直属の公儀隠密。与えられたミッションは筒井藩に潜入し内情を探ること。そこで藩の重鎮・堀口左近に接触を試みるが・・・
発表年からして007シリーズに影響されて書かれたのかな、スパイ小説風味の時代物です。池波先生の代表作ではないのかもしれませんが、ルーティン通りに話は進み、サクサク読めます。任務と私情との板挟みになる主人公もまぁお約束だけれど上手く描かれている。
藩内政治の駆け引きも現代のサラリーマン処世術になぞらえていて、「半沢直樹」のスタッフでドラマ化すると面白そう。
『サスペンス小説集 殺意』 井上靖 中公文庫
戦中戦後のサスペンスと云えば、松本清張…
『敦煌』『しろばんば』で有名な文豪 井上靖がサスペンス小説を書いているとは…その興味でこの一冊を手にしました。
『殺意』『投網』『驟雨』『春の雑木林』『傍観者』『斜面』『雷雨』『二つの秘密』『ある偽作家の生涯』
『殺意』は,中卒で集団上京した少女の抱いだ殺意は、誇りによるものだった。
『投網』『雷雨』は、少年時代を同郷で過ごした男のその後の世界が大きく変わった者が抱くコンプレックスや羨望が無言で…又は本人に届かない声で怨み続ける。
『二つの秘密』娘は本当に自分の子だろうか?優秀な我が社の課長は俺の秘密の子供だ。妻は知っているんだろうか?恐ろしい秘密が27年後明かされるのだろうか?
どれも生々しい殺人の現場は表現されないが、秘密のベールを一枚づつ剥がされるような怖さとやはり品の良さ,人の良さが表現されている。
戦争の影が戦後しばらく続いていたそんな時代のサスペンス…おすすめですよ。
『名探偵のいけにえ』
 白井智之
昨年のミステリーベスト1を総ナメした作品なので期待して読んだのですが‥…
物語は病気もケガも治す奇跡の楽園を作った新興宗教の教団に、調査に出向き 戻らない助手達を探しに乗り込んだ探偵大塒は、次々と不審な死に遭遇する。現地に生存していた助手らとともに、理論を武器にカルト教団の妄信に立ち向かう!
はたして探偵大塒達は無事に戻れるのか?
この手のミステリー物は、有り得ない設定でも謎解きに正当性あり納得出来て、展開がスリリングで、やはり最後に「じゃーん」と引掛けありのドンデン返しに「やられました」とくると満足するのですが。
う〜ん、殺人犯の大塒の謎解きが二点三点する展開は理解出来るのですが、いかんせん長い! 読んでていい加減面倒くさくなり興醒めしてしまった!
また、ラストのお決まりのドンデン返しも、「ん?」と納得いかず、何故この作品が各賞を総ナメしたのか分からない。
むしろ本作と競った「方舟」の方が何倍も面白かった。
この本のファンの方には申し訳ないが、僕には期待値高かっただけに落胆度高かったです。
藻屑蟹
赤松利市
 その日、事態は決定的となった。
メルトダウン、そして原発建屋の水素爆発。
福島の地方都市で燻っていた木島雄介はパチンコ屋の仕事に見切りをつけ、友人に誘われた除染の仕事で浮上を図るが…。
 除染作業員の過酷な日々、原発避難民たちが手にした巨額の賠償金、原発行政を支えるための闇のネットワーク。真実かフィクションか渾然となって重い現実を突きつけてくる。
 除染作業員として働いた経験に基づき、住所不定暮らしで書き上げたという、これぞプロレタリアハードボイルド!
大藪春彦新人賞受賞作。
心淋し川ーうらさびしがわー
西條奈加
第164回直木賞受賞作です✨✨✨
淋しい時に淋しいと感じ素直に言える。
そんな人がうらやましい
残りの人生では、意地を張らずに恥ずかし
がらずに大切な人の前では素直で居たいと
思う…とっても難しいけどね☺️
🏞
「心淋し川(うらさびしがわ)というそうだ」
「趣があるのは名ばかりで、汚い溜まりだと知って
がっかりしたでしょ?」
「…誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよぼど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね。」
                                                         〜本文より🌟
"心淋し川"
"閨仏"
"はじめましょ"
"冬虫夏草"
"明けぬ里"
"灰の男"
同じ長屋に暮らす6人の町人のお話です
わたしは、江戸時代の小説が大好物です😋😋😋
いつも懐かしく感じて、自分がそこに暮らすように
感じてそして切なくなる…
あっと言う間に読書トリップへ〜⛴🌊🌊
"ちほ"は酒ばかり飲んで働かないおとっつぁんが
嫌いだ。おっかさんは愚痴ばかり、生計を立てるための縫い物も大の苦手とくる…
不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。"りき"はそんな六兵衛と暮らすようになって14年経つ。自分以外にも3人の女がいて同じ長屋に暮らす…
"与吾蔵"は境内で遠い昔に捨てた女がいつも歌っていた歌が聞こえてきた。歌っていたのは7才の女子。もしかしてあの時の腹の子か…
最愛の息子とその嫁の仲を裂き、歩けなくなった息子の世話を至上の喜びとする"吉"…それは愛なのか
親の博打のかたに"よう"は遊郭へ。好いた相手と一緒になれたものの自分の口の悪さから素直になれない。
そんな時昔の"明里姉さん"と再会し…
差配の"茂十"には二本差しだった過去がある。長屋の住人に気づかれることなく12年もの月日が流れ…
🏞
やるせない気持ちになるお話もありますが、
小さな幸せを精一杯に感じて生きる人々の暮らしが
描かれていて読んで良かったなぁと
思わせてもらえるお話達でした💓
どんな時代も変わることなく続く暮らし
お勝手仕事や自分の生業で暮らす人々の
お話を読むことで、別の自分になれたように
思えました❣️そして今回の読書旅行も大成功✈️🌤
ほんとは今日から3日間旅行の予定だったの
だけどキャンセルに( i _ i )
代わりに1人で読書旅行やよー(暴走気味やで)
西條さんは女性の心情をうまく表現されていますよ✨✨✨
江戸時代のお話、時代ものですが敷居は高くないですよ〜💓💓💓

「影武者徳川家康」。隆慶一郎による時代小説です。

徳川家康が実は関ヶ原の戦いで西軍により暗殺され、影武者と入れ替わっていたという内容で、「静岡新聞」にに1986年から1988年にかけて連載され、1989年に新潮社から上下巻で刊行されました。この作品は第8回日本冒険小説協会大賞特別賞を受賞しました。その後、原哲夫によって1994年〜1995年に「週刊少年ジャンプ」にて漫画化され、また1998年にテレビ朝日系でテレビドラマ化され、また2014年にテレビ東京系にて「新春ワイド時代劇」として再ドラマ化されました。

◉ 小杉健治 著 『 もうひとつの評決 』
祥伝社文庫 2023年2月23日発刊 364P
裁判員制度をテーマとした『 家族 』に続いて、今回の一冊も裁判員裁判を舞台にしたサスペンスが綴られる。
小杉氏は、そんな裁判員制度の問題点を鋭く指摘している。
被告人の木原一太郎は、30歳間近の弱々しい男だ。
木原が起訴された事件とは、出会い系サイトで出逢った美人の並河留美子と、その母親の富子の二人を刺殺したことだった。
これまで女性と一度として付き合った経験がなかった木原は、優しく接してくれた留美子に好意を寄せる。
そのうちに留美子から50万円、150万円を工面してくれと頼まれ、木原はそれに応える。
そして3回目の要求額は300万円となり、木原は300万円を用意して母親と同居している留美子宅へ向かった。
そこで何らかのトラブルが起こったのか、木原は親子を刺殺した犯人として逮捕、起訴された。
警察の取り調べでは犯行を自白していたにもかかわらず、法定の証言台で「私は殺していません」と涙を浮かべながら訴え、一変して犯罪を否認した。
木原は無罪なのか有罪なのか、物語は進んで行くのだが、事件の内容は意外とシンプルで、サスペンス好きの読者には舞台裏を想像するのは容易いかも知れない。
だがそこは小杉健治氏が綴った裁判員裁判の物語だ。
主題はこの裁判員裁判の制度に焦点を当てた内容となっている。
裁判員裁判が始まる前に、公判前整理手続で、裁判長、検察官、弁護人の三者で、争点が洗い出されているというところに問題点があると、小杉氏は主張したかったのだろう。
裁判員を含めた審理は、この公判前整理手続で提出された証拠を土台にして行われるのだ。
もしも新たな証拠や問題点が審議中に出たとしても、その裁判では再調査を行うことは無く、あくまで公判前整理手続で出された要素だけで審理を進めなければならないのだと云う。
選ばれた六人の裁判員も、当然公判前整理手続で決められた範囲内での審理を要求され、新たな推理や意見などを述べることは許されない。
もしも警察・検察の取り調べがずさんな内容で公判前整理手続を終えたならば、冤罪の可能性が生じてしまうとの危惧を読者は理解することとなる。
もし裁判中に明らかな新証拠や真犯人が出たとしても、被告人は即解放とならず、控訴審で無罪と明らかになるまでは拘留されるという、とても理不尽な制度なのだと私は理解した。
未だ全てが解決していない袴田事件も、冤罪事件として歴史に残る汚点を露わにしたばかりだ。
検察、裁判長、弁護士の三者が、緻密な裏付けのある証拠と状況を検討し尽くした完璧に近い公判前整理手続でなければ、禍根を残す判決が下る可能性があると小杉氏は云えている。
小杉氏は、裁判員の一人である堀川恭平に、裁判員制度の矛盾と問題点を体験させている。
判決後は、疑わしい事案が明らかになっても微動だにもしない裁判所、検察の実態を描いている。
無実を主張する被告人は、控訴して新たに審議を要求する以外に道はないのだ。
堀川恭平は、自分たちが下した納得のいかない判決に対して、徹底して事件の真相を追い求める。
読者が求める事件の真相解明を、正義感溢れる堀川が読者に代わって真犯人を追い詰めるのだ。
ウ~ンッ、堀川恭平は正義の味方だ。
完全恋愛    牧薩次著    小学館文庫    2011年3月発行
牧薩次さんと言ってもご存知ない方が多いでしょう。あの辻真先さんの別ネームです。著者名がアナグラムになっています。
本書は2009年の「本格ミステリ大賞」受賞作です。恋愛ミステリですね。
冒頭の言葉を引用します。
「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ  では  他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」
戦後洋画界の巨匠と呼ばれた柳楽糺(なぎらただす)こと本庄究が主人公。彼が生涯を通して愛した女性への愛情物語ですが…
舞台は戦後まもない福島の山奥。家族を空襲で亡くし、中学で伯父の家に引き取られた究だが、後に離れに住む画家小仏の娘、朋音が都会からやってくる。
そして、温泉宿を営む伯父の家にやってくる進駐軍。そこの大尉は執拗に朋音に言い寄るが、そこで発生した殺人事件、でも凶器が見つからない…
ここから始まる、時代を飛び越えて3件の殺人事件。その中心にいたのはいつも究。
**************************
良いですね、このお話。夢中になってしまいました。トリックもお見事ですが、設定も相当、凝っています。
後半に登場する真狩火菜、藤堂魅惑、大関刑事など、みんなキャラクターが際立っています。
でも、最初の仕掛は途中で分かってしまいました。流石に全貌までは分かりませんでしたが…
後でもう一度読み返すと、確かにあちこちに伏線がいっぱい貼ってありましたね。
それでも、物語に引き込まれます。展開が早いので、次々と時代が移り変わります。
そしてストイックな究がいじらしくもなってきます。なんせ、これは恋愛ミステリですからね🤔
茶色の朝
物語:フランク パヴロフ 
訳: 藤本一勇
帯に在るよう「フランスの政治を動かしたベストセラー寓話」に高橋哲哉さんがメッセージを寄せている。
多くの人が知っていると思うが内容は…。茶色が正しい犬や猫だと他の色のペットは飼えない制度になり、可笑しいと思いつつも自分の生活に影響がないので何も言わないでやり過ごす。結果、社会全てが茶色に染められ、取り返しの付かない社会が作られていく。人は考えることを止めたら終わる。特に事なかれ主義の日本人にはとても危険な事を注意喚起してくれている。
46頁しかない絵本の様な本だけど、訴える内容は厳しく自分さえ良ければ等ど生きていてはいけないと教えられる。考えることを諦めてはいけない。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げればあの女と子供を殺す」=裏表紙より=
「あの女と子供」とは、主人公の天才スリ師がスーパーで見かけた、子供にスリをさせている親子の事です。
「完全に万引き警備員にバレてる❗️」
何故か放って置けなくなりなり、近づき、
「今日はこのまま置いて帰るか買え」
と教える。
子供の服は所々破れていて、女の服も決して良くない。
そして、子供の肌には虐待❓のような痕が…
その後も、この二人とは関わりを持つようになる。
何故か❓
子供は自分の子供時代と重なり、女は昔の女と重なったから…
天才スリ師ともなると、闇社会に足を突っ込んでいるようなものです。
上層部の人間と直接関わりがなくても、ほぼ全てを知られています。
「何故、僕の事を知ってる❓」
だから、親子の事も知っている…
果たしてこの三つの仕事を、天才スリ師は成功させる事ができるのか⁉️
スリのワザの細やかな描写が凄い❗️
ページ数は少ないけど、中身は濃いです。
是非‼️
掏摸(スリ)       中村文則
「よろず御探し請負い候」
          浅野里沙子
本の帯に、
物、人、そして心まで。何でも探す凸凹三人組。
という表記があり、興味を持ちました。
あらすじ
江戸で「御探し物請負屋」をやっている藤井文平は元服前の16歳。
その上背も低いし、女のような顔なので幼くみられやすい。
ひょんなことから優男の森川哲哉と巨漢の本田岩五郎が、手伝う事に。
文平はなぜ御探し物請負屋を始めたのか。哲哉達がなぜ手伝ってくれるようになったのか…
江戸の探偵物だけでなく、江戸らしく人情物でもあります。
ろう者の10人のうち9人が何らかの差別に遭遇した経験がある。
はっとさせられる数字です。
ろう学校へ向かう電車に乗り合わせると、彼等が楽しそうに流暢な手話で話している姿を見かけたこと位。でしか、正直ろう者と出合った記憶もありません。私も、どこかで差別につながる行動をしていたかもしれません。わからないから、理解がないこと。
みんなの手話を見て、ちょっとだけ手話がわかるようになった今だから手に取ることができた本かな、と思います。
ろう者がいること、手話という言語があること。
聴者ができること、ちょっとはありそうです。
宇佐美まこと
「るんびにの子供」
「幽」怪談文学賞、短編部門、大賞受賞作の本作は五篇の短編からなっていますが、いずれの作品も人間の心理の闇を巧妙に描くことで成り立っており、手応え十分の読後感はなかなか得難いもので大賞受賞も納得の読後感でした。作者の全著作を完読しているわけでは無いのですが、この最初期のホラー物から、その後ミステリー、ファンタジーとカテゴリーを広げて創作を続けておられ、同様のジャンルの作家小野不由美さんのファンでもある私としては、これだけの筆力とストーリー構成力を持つ、宇佐美まことさんの吸血鬼物を読んでみたい気がします。
「俳優のノート」 山崎努
演劇関係者はもちろん、表現に関わっている
すべての人に読んで欲しい、名著です。’
名優がリア王の戯曲をどう読み解き、
演技をしていくかをつぶさに描いている。
あとがきで香川照之が「あなたがもし俳優ならば、
あなたは即刻この本を教科書と指定すべでである」
と記しているが、戯曲を読むとはどういうことか、
演技をするというのは何なのか、を深くえぐられ、
唸るほどの名言が散りばめられている、
類まれなる本です。
少し長くなるけど、その一部をご紹介。
 
「ある感情から次の感情に飛躍することが
日本の俳優の苦手とするところで、これが劇の
ダイナミズムを損なう最も大きな原因である。
ドラマチックということはダイナミックと
いうことであり、ダイナミックでなければ
ドラマチックではない。
感情の沼に溺れ込んで、ぬくぬくべたべた
めそめそと、まるで羊水の中に留まっていれるだけの
自己充足的感情お化け芝居は劇ではない」
 
「当初から目指していた演技のダイナミズムが
実現しつつあるように思う。感情のアクロバット。
日常ではあり得ない感情や意義の飛躍を楽しむのだ。
しかし、基本にあるのはあくまで日常の感情だ。
日常の感情を煮つめ、圧縮し拡大したものが
舞台上の感情なのである」
 
「演技の修練は舞台上ではできない。
優れた演技や演出を見て、技術を学ぼうとしても
駄目なのだ。その演技はその人独自なものである。
大切なものは日常にある」
 
「やはり人は、皆、己の身の丈にあった感動を
持つべきものなのである。
読みかじったり聞きかじったりした知識ではなく、
自分の日常の中に劇のエキスはある。
我々はそのことをもっと信じなければならない」
 
「四十年も俳優業をやっているのだから、
笑わせたり泣かせたりすることはもう充分に
出来るはずだ。
どのキーを押してどんな音を出すか、充分に
知ったはずだ。
肝心なことは、何のための演技をするかなのだ。
演技をすること、芝居を作ることは、
自分を知るために探索の旅をすることだと思う。
役の人物を掘り返すことは、自分の内を掘り返す
ことでもある。(略)
役を生きることで、自分という始末に負えない
化けものの正体を、その一部を発見すること。
しかし手に入れた獲物はすぐに腐る。
習得した表現術はどんどん捨てて行くこと」
 
「俳優は馬鹿ではいけない。俳優は演出家の
道具になってはならない。
今、演出家主導の芝居がもてはやされている
ようだが、これはとても悲しく淋しいことだ。
我々俳優は森全体を見、そして木を
見なければならない。
自立しなければならない。
そして、演技をひけらかしては
ならない。
登場人物が、俳優という生身の肉体を与えられ、
舞台の上で生き生きと存在すること、それが
芝居の生命なのだ。
戯曲が素晴らしい、演出が新鮮だ、演技が見事だと
観客に感じさせたらそれは失敗なのである。
舞台上に劇の世界を生き生きと存在させること。
ただそれだけ」
 
俳優の話をされてるんですが、いろんなことに
置き換えられる深い言葉だなーと思います。
おそらくこれから何度も読み返す、
大事な本です。
未読の方はぜひ。
【祝祭のハングマン】
【著:中山七里】
 
しっ、私刑執行人だとぉ!?Σ( ̄□ ̄;)
 
《警視庁捜査一課の瑠衣は、中堅ゼネコン課長の父と暮らす。ある日、父の同僚が交通事故で死亡するが、事故ではなく殺人と思われた。さらに別の課長が駅構内で転落死、そして父も工事現場で亡くなる。追い打ちをかけるように瑠衣の許へやってきた地検特捜部は、死亡した3人に裏金作りの嫌疑がかかっているという。
父は会社に利用された挙げ句、殺されたのではないか。だが証拠はない……。疑心に駆られる瑠衣の前に、私立探偵の鳥海が現れる。彼の話を聞いた瑠衣の全身に、震えが走った――。》
 
まだ数冊しか読んでいない中山七里さん。そう、数冊しか読んでいない故なのかもしれないけど…中山七里さんの特徴というか、作風みたいなものが未だ全然掴めていない僕なのです。
作品のジャンルやテーマも幅広く、筆も早い…すごいなぁ。( *・ω・)
本作は、何と言うか…かなりストレートな作品という印象。あらすじの内容の流れでスピーディに駆け抜ける感じ。
ただ肝心の?ハングマンの存在がなかなか見えてこないので、まだかなぁ~とか思いながら読んでいると、あれよあれよのうちに結構な局面を迎える事になる。もうここまできたら、一気に最後まで読んじゃうのが◎かなと。( ´∀` )b
 
主人公である瑠衣の、直情型で思慮が浅く、自制心があまりにも低い性質がどうも苦手でプチストレスになってしまった。( ;゚皿゚)ノ
まぁでもこれについては、僕自身も似たようなところがあるので…同族嫌悪に近いのかも。笑
そんなわけで個人的にはあまり好感が持てない瑠衣なのだけど…そんな彼女であるからこその葛藤や苦悩、そして決断こそが、本作品の見どころと言えるのではなかろうか。
 
法律では裁けない相手にどうしても復讐したいとなったら…僕ならどうするだろう?
えぇと…
 
しょうもない嫌がらせとかを仕掛けて、逆に捕まったりしそう…僕、どんくさいので。
私刑執行、みたいなのは現実世界では妄想の中に留めておくべき…ですねっ!(´д`|||)
●食堂かたつむり
小川糸
久しぶりに、小川糸さんの本を読みました🍀
やっぱりほっこり温かい
読後感も、とろんと心地良い
このお話は
失恋で声を失い、何もかもを失った女性が、確執のある母のもとに戻り、そこでイチから食堂を作り上げ、1日ヒト組限定のお客様たちだけに心を込めたおもてなし、お料理を振る舞い、そうしながら、彼女も少しずつ再生していく物語です🙂
食堂かたつむりに来るお客様それぞれにも様々なドラマがあり、生きてきた理由があり、
 
食材や人の心や、いろんなものが愛おしくなる
そんなお話です🙂
年が明けて3ヶ月
 春になり新しい生活が始まりつつある今の時期に、ちょっと心を温めたい
そんな人におすすめの1冊です🙂
冷たい檻    伊岡瞬著    中公文庫    2020年4月発行
北陸地方にある、ひなびた岩森村で起きた駐在所警官失踪事件を追う元刑事樋口が主役の話。
樋口は17年前、非番の日、妻と3歳の息子を連れて遊園地で遊んでいたが、ベンチのバッグを掴んで逃げる男が…。慌てて追いかける樋口だが、その隙に息子はいなくなっていた…
そして17年後。岩森村で失踪した警官の代わりに駐在員となった29歳の島崎。妻と3歳になる娘との3人暮らしだ。そこへ、やってきた謎の男。それは失踪した警官を探す樋口だった。
しかし、樋口は、その失踪事件が、村にある「施設」で行われていた秘密の実験と関係があることに気がつく。
そしてその施設では、入居老人の転落事故も起きていた。
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もう、登場人物が多い。警官達の他に、村を牛耳るドンの旧村長一派とその反対派。児童養護・青年更生・老人介護の3つの機能をあわせ持つその「施設」の入居者たち。それは子どもたちや、非行青年、その施設で働く施設長や介護士、パート職員など、また、廃れた街のラーメン屋やジャズ喫茶の店主たち、さらには施設の売買に暗躍するブローカーなどなど。大変です。
登場人物が多くて覚えきれないがストーリーは十分掴める。印象的だったのは青年更生施設に入っている巨漢のシンとレイイチ。
この人たちがストーリーにどう絡んで来るのかが楽しみだったが、これは予想通り。
タイトルの「冷たい檻」とはその施設のことらしい。これは事件を追う樋口を主人公とするハードボイルド小説でもあるし、若い警官島崎の成長小説でもあります。
そして、家族を再生していくお話なのかもしれません。
でも、一挙に引っ張っていく力はさすがです。
「異次元の館の殺人」 芦辺拓
図書館で表紙と題名に惹かれて手に取りました。初めて読む作家さんです。
あらすじ
主人公は検事の菊園綾子。
尊敬する先輩、名城政人検事が殺人者として逮捕され、彼の無実を証す為に〈霹靂X〉という科学捜査マシンを頼る。
被害者の成宮明日美は地元財界の肝いりでつくられた私立学園の養護教諭で、その学園の関係者から話を聞くために、ライバルである弁護士、森江春策と共に、住宅を改装した〈悠聖館〉という半会員制のホテルに潜り込む。
そこで新たな密室殺人がおこるが、推理の度にパラレルワールドに迷い込んでしまう…。
感想
科学の話は正直ちんぷんかんぷんで、この話、最後まで読めるかしら…と心配になりましたが、面白かったです!
館をつくった、服部逸太郎男爵が、江戸川乱歩、横溝正史、小栗虫太郎、海野十三…などの探偵小説家と交友があると!それだけでもうワクワク。
菊園綾子が「犯人はあなたです!」と言うたびにパラレルワールドに迷い込んでしまい、登場人物の名前や顔が少しづつ変わってしまうという不思議な感じも奇妙です。推理が当たるまで元の世界に帰れないかも知れないという怖さもドキドキしました。
「透明な迷宮」 平野啓一郎
美しく官能的な悲劇が描かれた作品です。
ハンガリー、ブダペストにある、19世紀末に建てられた古い7階建ての建物。天井の高い、黒一色の部屋で、彼らは全裸で蹲っていた。男女6人ずつ計12人。日本人は岡田とミサだけ。年齢は20代から40代までで、岡田たちと同様、欺されたり拉致されたりして連れて来られた観光客だった。自由を奪われた彼らを、仮面を被った4人の男女が、椅子に腰掛けて見物している。監禁された者たちが命じられているのは、たった一つのこと ーー ここで、見物人たちの目の前で、愛し合え、と。
作品のテーマは、偶然性と必然性。
先行き不透明な時代と言われていますが、インターネットで身近な事柄から世界の果てで起きている出来事までが透明になり、手に取るように可視化されている時代でもありますね。
でも、こんなふうに情報量の多いなかで、ますます私たちはこれからどの方向に進んで行けばいいのか分からなくもなってくる。つまり、透明なんだけれど、迷宮の中にいるような…
こんな世界で、人と人が出会い、恋愛をしたり別れたり…。どこまでが自分の意識によるものなのか、無意識でそうなってしまったことなのか。どこから先が、仕方がなかったこととして受け入れるしかないことなのか。
人を好きになるのに理由はない、というのが自論です。
もちろん、初対面であれば、姿かたちは気になるし、その後、性格・仕事ぶり・趣味などなど、色んなファクターが合う合わないでその人との関係性は変わってきます。
「透明な迷宮」で共感できたのは、その人の中の漠然とした人格全体が好きになるのではなく、あるエピソードを共有したから好きになる、というところ。
よく、特別な状況下で始まった恋愛は長続きしない、と言われますが、今のところ、私には当てはまりません。20年ほど前、日本を離れて、たまたま特殊な時間を共に過ごした「偶然」が、今なお続く、ある意味、特殊な「必然」的な関係性につながっているのかもしれません。
ラストがおもしろい作品です。
いや、コワイ … かな。
恋愛小説とみるか、ホラー小説とみるか。
それは あなた次第です。。

戦争犯罪人として文官でただ一人絞首刑になった広田弘毅の伝記小説を読んでみた。福岡の石屋の倅として生まれ、東京帝大を出てから外交官一筋、父親は家業継がせたかったらしいけど幼少のころから「栴檀は二葉より匂う」で非凡だったらしい。どうも運に見放されたかな...とにかく軍部台頭の時代だった。海軍出身の斎藤(1932-34)、岡田(1934-36)首相の下で外務大臣を務め、軍部とはよくやり合ったし、協和外交を標榜し蒋介石にも大いに評価された時もあった。そして昭和天皇の大命降下により組閣(1936-37)。菅内閣に劣らぬ短命だったが日独防共協定を締結し軍部大臣現役武官制を復活させた。首相になってからは気のせいかあまりやる気が感じられない。軍部との折衝に嫌気がさしたのかもしれない。内閣総辞職後は在野に下るがすぐに呼び戻され第一次近衛内閣(1937-39)で外務大臣を拝命。一か月後には日華事変が勃発。日本は中国と全面戦争に突入。これがのちにハル国務長官が日米交渉で日本側に提示した覚え書(ハルノート)の中でも言及され太平洋を挟んだ日米戦争の遠因になった。

「日曜日の夕刊」 重松清
楽しい日曜日も夕方近くになるとなんとなく切なくなりますね。
ごく普通の市井の人たちや家族が、どんな日曜日の午後を過ごしているか、この短編集をちょっと覗いてみませんか?
特に子育てが終わったくらいの方々には、10年前に子どもと向き合った経験、そこでの苦い思い出などが蘇ってくるかもしれません。
大丈夫ですよ、重松さんはどんな人にも優しいですから。
私のお気に入りは、「すし、食いねェ」です。