Apex product 【Blog-24】

Char チャー 世界に誇れる日本のスーパーギタリスト カッコよすぎます。尊敬あるのみ

このブログをご覧頂き誠に有難うございます。当ブログでは、日々の生活、日々思うこと、地元の心温まる情報・・・などなど、について広く深く語っております。日々更新出来るよう頑張りますので、どうぞごゆっくりとお楽しみ下さい。文章を読んで頂き、何か思われる事が御座いましたらどうぞコメントをお願い致します。今後のブログ運営において参考とさせて頂きます。

Apex product 社員一同 -

初春の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。日頃は格別のお引き立てをいただき、ありがたく御礼申し上げます。 さて、このたび弊社は創立10周年を迎えるに至りました。 皆様方のご支援、ご厚情による賜物と深く感謝いたしております。
とうとう、10周年を迎えることができました。2013年の3月から数えて、10年が経ったわけです。どんなことでも、毎日10年やり続けられたら、一丁前になれるとある作家の方が言われていました。このことばを、一番信じていたのは、私達だったのかもしれません。大変なようで意外に短い期間のようでしたが、そして、とうとう待ち望んでいた10年に到達しました。これもひとえに皆様のおかげであると感謝をしております。の10年に向けて新しいスタートを切るにあたりどのようなことが必要になってきているかを日々考えてきました。私どもは伝えること、元気になること、頑張りたい人たちのきっかけとなり、力いっぱい背中を押す役割になることができますよう、幅広い視野を持ち常にチャレンジ精神を持って、皆様のご期待にお応えできるよう従業員一同最大限の努力をしてまいります。今後も格別のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2023年 3月吉日 Apex product 代表 柳伸雄

2016年

7月

22日

【そのうち・・そのうち・・弁解しながら日が暮れる】世直し桃太郎NY

そのうちはやる気がない事を意味します!!!

そのうちは、言わぬが花ですね 

やりたい事は今でしょうと頑張りたい物ですねー(^-^)

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2016年

7月

27日

おそばはやっぱり最強食品だった(笑)世直し桃太郎!! 無類のそば好きより。

おそばはやっぱり最強食品だった?抗酸化作用に優れ食物繊維も豊富だから美容と健康効果が凄い!
■抗酸化作用がある「ルチン」が豊富
そばに豊富に含まれている「ルチン」は、ポリフェノールの一種でして、毛細血管を強くする作用があるため、脳内出血・動脈硬化・高血圧などの生活習慣病をしっかり予防し、血流を改善してくれます。
また、そばには活性酸素を抑制する抗酸化する働きもあるので、アンチエイジング効果も期待できます。ちなみにルチンはビタミンCと一緒に働くため、ビタミンCの吸収が飛躍的に良くなるため、美肌効果なども期待できる女性にとって嬉しい食品です。
そのルチンなんですが、基本的に胚乳よりもそば殻のほうに多く含まれています。更科そばは中身のでんぷん質しか使用されていないことから、ルチンを多く摂るなら、田舎そばがオススメです。
また、ルチンは水溶性なので、そば湯を飲むことによって、水によって分解された栄養素を余すこと無く摂ることが出来ます。
■「コリン」が持つ肝臓を守る作用について
コリンは、体の中で「アセチルコリン」という神経伝達物質に神経終末部で合成されます。主な効能は肝臓を保護する働きで、脂肪肝・肝硬変、動脈硬化を予防する効果が優れています。また、腎臓の働きを助ける作用もあるとされています。
■豊富な「ビタミンB」が美容と健康に効く!
そばには各種ビタミンが豊富に含まれていますが、中でもビタミンB1やビタミンB2、ナイアシンなどのビタミンB群は群を抜いています。これらのビタミン類が脂肪・糖質の代謝をよくする働きがあるため、ダイエット効果も期待できます。
特にビタミンB1は、米の4倍、小麦粉の2倍も含まれています。ビタミンB1が欠乏すると足のしびれ、むくみを引き起こしますので、そばを食べればこれらの症状を改善することが期待できます。
ちなみにそばには皮膚や粘膜を正常に保つ「ビタミンB2」もお米の4倍以上含まれています。
■食物繊維が豊富!
おそばは、「ヘミセルロース」という食物繊維を多く含まれています。我々人間が一日に必要な食物繊維の量は20グラムが目安とされていますして、そば一食あたり約5グラムの食物繊維を摂ることができます。
■おそばは「低GI食品」だから太りにくい
おそばは、低GI食品の一つです。この「GI」は、体内に取り込まれた炭水化物が、どれくらいの早さで糖に変化をするのかを示す指標のことです。つまり「低GI食品」とは、血糖値の上昇が緩い食品で、ダイエットに最適とされています。
ご存知かもしれませんが、おそばの世界では、そば粉100%で打ったものを「十割そば」といいます。しかし、100そば粉を使うとコスト高になるだけでなく、まとまりにくく切れやすいので小麦粉をつなぎに使います。
ちなみに小麦を2割加えたものが「二八そば」といい、小麦粉が3割のものが「七三そば」といいます。
もしご自宅でおそばを食べるのであれば、栄養面を考慮して、出来るだけ「そば」の割合が多いものを選びましょう。
また、おそば屋さんで注文する場合は「田舎そば」がベストです。薬味をたっぷりいれて、そば湯もかならず飲み干しましょう。
さらに健康のことを考えるのであれば、野菜なら「大根おろし」や「山菜」のもの、またタンパク質を考えるなら「鴨なんばん」などがおすすめです。 

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2016年

7月

27日

平成28年秋巡業 千葉開府890年記念大相撲千葉場所が来る10月6日(木)に「千葉ポートアリーナ」で開催されます。

千葉開府890年記念!!
大相撲が千葉にやってきます!!

平成28年秋巡業 千葉開府890年記念大相撲千葉場所が来る10月6日(木)に「千葉ポートアリーナ」で開催されます。

観覧は、全席指定です。

良いお席はお早目に♪

開催概要、チケット購入方法などくわしくはホームページをご覧ください。

http://www.chibacity-ta.or.jp/…/chibakaifu890th-oozumouchib…

開催日 平成28年10月6日(木) 開場:8時、打ち出し(終了)15時予定
開催場所 千葉ポートアリーナ
住所 千葉市中央区問屋町1-20 
交通 JR京葉線「千葉みなと駅」より徒歩15分
JR「千葉駅」より徒歩16分
京成電鉄「千葉中央駅」より徒歩12分
千葉モノレール「市役所前駅」より徒歩8分
料金 3,000円~24,000円(全席指定)
主催者 サンライズプロモーション東京 【後援】千葉市・千葉市教育委員会・千葉商工会議所他
お問合せ サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00~18:00)
申込方法 前売券は、プレイガイドでお求めください。
良い席はお早めに♪
http://chiba.sumo-j.com/ticket.html#ticket

【席 種】全席指定
☆千葉場所記念座布団付 (消費税込)
タマリ席      14,000円(1名分)☆
ペアマス席     24,000円(2名分)☆
アリーナイスS席   9,000円(1名分)
アリーナイスA席   7,000円(1名分)
スタンドイスB席   5,000円(1名分) 
スタンドイスC席   3,000円(1名分) 
アリーナ車椅子席  20,000円(2名分) ※うち付添1名・敷地内駐車場付き
URL http://chiba.sumo-j.com/
備考 ※車椅子席をご希望のお客様は「サンライズプロモーション東京」までお問い合わせください。
・サンライズプロモーション東京
 TEL 0570-00-3337(受付時間 10:00〜18:00)
※4歳以上はチケットが必要です。
4歳未満のお子様でも、お席が必要な場合はチケットが必要です。
※タマリ席での未就学児童の観戦はできません。
また、1階席での膝上観戦はできません。
※1階席は土足厳禁となります。スリッパ等ご持参ください。
2階席は土足での観戦が可能です。
※お買い求め頂いたチケットは、お客様のご都合によるキャンセル・払い戻しはできません。
※付いている座布団はお持ち帰りいただけます。

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2016年

7月

27日

《KAIENTAI DOJOインフォメーション》7.31CLUB-K SUPER inTKPガーデンシティ千葉大会直前ダイジェスト  かすみちゃん頑張れ!!

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2016年

7月

27日

焼酎以上に凄い日本酒の美容と健康効果!日本酒は老化防止、骨そしょう症健忘症の予防に効く!!世直し桃太郎!! やはり日本酒ですよね(笑)

焼酎以上に凄い日本酒の美容と健康効果!日本酒は老化防止、骨そしょう症健忘症の予防に効く!!
■実は焼酎よりも日本酒の方が凄い!?
中高年だけでなく、若い人たちの間でも「焼酎」の人気が高まっていますが、実は焼酎以上に日本酒には優れた美容と健康効果が期待できます。驚くべきことに欧米でも日本酒の人気が高まっています。
日本酒は甘くて飲みやすいうえに麹の優れた美容と健康効果が高く評価されているようです。日本国内で日本酒を飲む人口は年々減っていますが、海外では反対に急速に増えているようです。
日本酒の原料は水とお米ですが、その製造過程で美容と健康に優れた効能・効果を発揮する栄養成分が数多く生まれ、驚くべきことに700種類も含まれているとされています。
ちなみに美肌効果に優れたアミノ酸が何と!ワインの10倍以上も含まれています。また、日本酒のコウジ酸には肌のシミの原因となるメラニンを抑える効果が期待できます。
しかし、一年を通じて紫外線を浴びているので、紫外線対策は夏だけじゃダ全くメなんです。年間を通じた紫外線予防策として日本酒をぐいぐい飲むのもいいですね。
ということで、今回は日本酒の持つ優れた美容と健康効果について分かりやすく解説しているまぐまぐニュースさんの記事と動画を合わせてご紹介させていただきます。
 
『焼酎だけじゃない。日本酒に老化防止や健忘症、骨そしょう症の予防効果』
■日本酒の力!
日本酒には、記憶能力を改善してくれる「活性物質ペプチド」という成分が含まれていて、健忘症にも効果があると言われ、さらには、エストロゲンの値を高める働きがあり、骨そしょう症の予防も期待されているらしいです。
日本酒に含まれているアミノ酸や有機酸など100数種類もの栄養成分には、肌の美白効果をはじめ、体にやさしく若さを保つ水と呼ばれ、さまざまな美容効果があるのだそうです。
日本酒の仕込に使われる米こうじは、蒸した米にコウジ菌というカビを繁殖させたもので、この米こうじの中に人間の体に重要な役割を果たす物質が次々と見つかり、コウジ菌が健康維持や老化防止に役立つ物質を生産していることがわかってきたそうです。
1日1~2杯、健康効果を享受するために楽しんでみてはいかがですか。
■「たまご酒」より「とろろ酒」
山芋の特徴、ムチンというネバネバ成分は、たんぱく質と多糖類が結合した粘性物質で、タンパク質をむだなく働かせたり、消化を良くしてすぐにエネルギーへ変える力があるらしいです。
また、山芋にはでんぷんを分解する酵素や解毒をする酵素が多く含まれており、一緒に食べた他の栄養も効率よく消化吸収できるため、食欲のない時でも胃にやさしく
胃炎を鎮めてくれるので胃の弱い人も安心して食べられて、滋養強壮や疲労回復にも大きな効果があるのだとか。ただし、熱を加えてしまうと、消化酵素の働きが半減してしまうので、生のまま食べるのがお勧めだそう。とろろに酒を合わせてすりのばし、塩少々を加えて火にかけ、熱燗程度になるまでかき回して作る「とろろ酒」は、風邪などで体力が低下している時に飲むと、たまご酒よりも効果があるそうです。
 
 

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2016年

7月

31日

何故❔入れ墨入れる⁈ 世直し桃太郎NY

<相模原殺傷>入れ墨や大麻使用を自慢…友人ら特異さ指摘

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が殺害された事件で、逮捕された植松聖(さとし)容疑者(26)=殺人容疑で送検=は大学生時代に体に入れ墨を入れるなど、特異な行動が目立ち始めた。事件発生から2日で1週間。知人らの証言をたどった。

 「典型的な大学デビューだった」。植松容疑者の小中学校の同級生はこう話す。この同級生によると、植松容疑者は2008年4月に東京都内の私立大に入学後、服装や髪形が派手なグループと付き合うようになり、髪を金色に染めた。

 大学の友人は、胸の入れ墨を見せられ「将来は教師か彫り師になりたい」と打ち明けられた。「(植松容疑者は)入れ墨を彫っても教師になれると思っていたのでは」

 自身が卒業した相模原市内の小学校で教育実習も受けたが、夢は実現しなかった。12年3月に大学を卒業後、清涼飲料の運送会社に就職し、同年12月に園に転職した。この時の面接では「明るく意欲があり、やる気も感じられる」と評価されたという。

 当初はまじめに働いていたが、次第に入所者の手に落書きするなど問題行動が目立ち始める。夜になるとJR相模原駅近くのバーに通い、周囲に「大麻をやっている」と自慢げに話した。遊び仲間だった男性は「俺らの前ではやるな」と注意したが、臭いなどから隠れて使用していると感じていたという。

 植松容疑者は今年に入って障害者への差別的な言動が強まり、「障害者はいなくなってほしい」などと繰り返すようになった。小中学校の同級生は「1月ごろに総理大臣に手紙を送りたいので代筆してほしいと持ちかけられた。驚いて断った」と証言する。

 2月に園を退職し、措置入院になった際、尿検査で大麻の薬物反応が出たが、医師は「症状は改善された」と判断し、退院させた。その後、「一緒にやろう」と持ちかけたが、たしなめられると逆上。友人は距離を置き始めた。

 事件後の家宅捜索で、自宅から微量の大麻片が見つかった。大麻が事件に及ぼした影響は今のところ不明だ。友人は「今から思えば事件の兆候はあった。どうにかして止められなかったか」と悔やんでいる。【杉本修作、杉直樹、加古ななみ】

最終更新:8月2日(火)11時36分

毎日新聞

 

入れ墨する必要がなぜ有るのか?ヤクザは、入れ墨(我慢)をいれるのは、世間に戻らない証しでしょう。アンダーグランドで生きる証しでしょう。お天道様の下では、死ねない覚悟でしょう。私はそう思います。極道でも無いのに、イキがってやってる奴が、いますが素人のくせに何やってんだか。大麻だ、覚せい剤だ、本物になれないくせに哀れだ。馬鹿すぎる。それでいて、普通の仕事、ましてや教師や福祉関係に就職する。笑って欲しいのか?笑えないね。何故なら、真剣に教師を目指している人に対して失礼だ。真剣に生きている人に対して謝れ。入れ墨入れて、「俺、かっこいい。大麻やって、俺、かっこいい」と、鏡みたり、飲み会で、入れ墨みせて、「どうだ、みんな、すげーだろー」と言って目立ちたいだけで、調子こいてる馬鹿。辞めろ。気持ち悪い。勝手な思想掲げて、人殺しする。それも弱い者いじめしか出来ない外道。今回の事件でお亡くなりになられた方々の、ご冥福をお祈りいたしますとともに、ご家族の皆様、ご愁傷さまでした。世直し桃太郎NYより。

 

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2016年

8月

01日

【2016 夏祭りの的屋の爺さんの話(金魚すくい編)より】 柳

ヤクザというのは一説によると893。花札のおいちょかぶでいうカス札からくると言われます。本来は世の中で役に立たないやつ。ろくでなしをさす言葉がヤクザ者です。現在暴力団に指定されている団体は、もともとは博徒や的屋、土方・船方などの人足場の親方たちが作り上げた組織です。親兄弟に捨てられ、ムラ社会から追い出されたヤクザ者を雇い、働かせることで一種の社会貢献をするのが本来の役割でした。
またそれぞれの組織には縄張りがあり、縄張り内には外部のヤクザは入れません。だから治安維持にも一役かっていたのです。江戸時代の十手持ちはヤクザの親分でしたし、暴れん坊将軍に出てきた町火消し「め組」も、とび職なのでヤクザ者集団と言えます。幕末の清水一家なんかは有名なヤクザですね。しかし戦後、縄張り争いや跡目争い等が勃発し、組同士がくっつき協力し合おうという動きがおきて、いくつかの勢力にまとまっていきました。またその過程で人命が失われたり、一般人が巻き込まれたりという事案が起こって、警察の取締りが厳しくなっていったのです。指定暴力団というのは、そういう流れから生まれた言葉です。一方、暴力団に指定されないやくざ者の組織もあります。博打が禁止されたので博徒はさすがにいなくなりましたが、的屋や人足場の親方達の中には会社や組合を組織して現在も職業として生活しています。建設業の会社で「〇〇組」などと名乗るのは人足場の名残と言えます。
的屋は、露天商組合を組織する場合が多いですが、やはり的屋の親分という人がいてその人が露天商を采配しています。と言っても、指定暴力団とのつながりが全く無いとは限りません。組合自体が暴力団の下部組織であったり、構成員の収入源として的屋や建設業に携わるということが多いのも事実です。一般人には分かりにくいグレーゾーンでした。警察では指定暴力団の構成員かどうかということを判断基準にしているようです。暴力団対策の法律が変わり、暴力団の露天商営業が禁止されました。暴力団構成員は的屋ができません。的屋の人たちは、本来の意味でのヤクザ者ではあるけれど暴力団の構成員ではないと言えます。簡単に言うと「ビミョー」な人たちですね。まっ。893・的屋の、うんちくは、これぐらいにして、本題に入ります。

 85歳になるかな?金魚すくいの爺さん。現役だけど、「ちゅうき」がひどく、金魚すくいのやり方を子供に教えてくれるのはありがたいのですが、手の震えが尋常じゃなく、持った網とボールで水面を、ばしゃばしゃするから見ているお客も「志村けんみたい」と、そこかしこから笑い声が聞こえます。しかし本人は笑いをとるつもりなど、みじんも無いので一生懸命やるから、逆に真剣な顔が面白いのでついつい周りは笑顔になります。そうこうしているうちに客が店の前にいっぱいになりました。楽しいパフォーマンスが見れました。ありがとう親父。いつまでも長生きしてよ。ご祝儀で少し包んで渡したら「何回ですか?」だって。まだまだ元気だね(笑)

夜もふけて店じまいの時間「金魚持ってきな!」と、爺さん。すくえない子供達にくばってました。震えるちゅうきの手でビニール袋に3匹つづ。中々入れられず大変です。「親父、手伝うよ」と言うと「ありがとよ。でも俺の仕事だから。遊びじゃねえからよ」と言って額に汗して、笑われながら、それでも笑顔でやっている親父を見たら、普通は、寂しくなる祭りの後に、今年は、もらった金魚を見て笑顔で帰りました。

「俺も、まだまだだな。負けないぞ!!」と思いやっぱり少し泣けました。

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2016年

8月

02日

渥美清さん、8月4日で没後20年。秘蔵写真満載のムック『寅さんの向こうに』が発売!

映画「男はつらいよ」シリーズで〝フーテンの寅さん〟を演じた渥美清さんが亡くなって8月4日で20年。株式会社朝日新聞出版(本社:東京都中央区築地)は、不世出の昭和の名優の足跡を、数々の秘蔵写真とエピソードで辿る、週刊朝日MOOK『渥美清没後20年 寅さんの向こうに』(定価980円)を発売しました。

「男はつらいよ」シリーズは、1968年のテレビドラマからスタートし、翌年映画化。「男はつらいよ・寅次郎紅(くれない)の花」(96年)までの全48作は、世界に類のない長寿シリーズとしてギネスブックにも登録されています。

 本書では、シリーズの解説はもちろん、若尾文子、吉永小百合、松坂慶子、竹下景子ら歴代マドンナをはじめ、倍賞千恵子、前田吟、佐藤蛾次郎といった縁の深い俳優ら、総勢約50人もの人々が語る渥美清、山田洋次監督、浅丘ルリ子、黒柳徹子、永瀬正敏らの語り下ろし、寅さんとは一味違う演技が光る出演作の紹介、親交の厚かった写真家・ムトー清次が捉えた秘蔵グラビア、早坂暁の特別寄稿など、多方面から俳優、そして人間・渥美清の魅力を、余すところなくお届けします。

 【『渥美清没後20年 寅さんの向こうに』おもな内容】

  • 写真家ムトー清次撮影のグラビア「渥美清との旅」
  • 若尾文子、吉永小百合、松坂慶子、竹下景子…… 歴代マドンナが語る「寅さん」
  • 山田洋次監督、浅丘ルリ子、黒柳徹子、永瀬正敏らの語り下ろし
  • 親友・早坂暁特別寄稿「俳句から見える渥美清の実像」
  • 「車寅次郎」以外の演技が楽しめる作品紹介  「渥美清が見せた顔」
  • 朝日新聞記事から振り返る   「渥美清の言葉」
  • 俳号は「風天」。渥美清がアエラ句会で詠んだ全45句
  • 寅さんの〝相棒〟たち   ロケで使用したトランク、帽子など小道具撮り下ろし
  • 渥美清バイオグラフィー    ほか

 

「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
  帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎。
  人呼んでフーテンの寅と発します」


車寅次郎の名調子とともに、日本人の心のふるさとが蘇る一冊です。


週刊朝日MOOK『渥美清没後20年 寅さんの向こうに』
定価:980円
発売:7月30日
Amazon商品ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4022770392 

 

【2016年8月4日の渥美清没後20年関連番組】
NHKBSプレミアム
8月4日(木)の命日には、渥美清さん関連番組が2作品放送されます。

●ドキュメンタリードラマ『おかしな男~寅さん夜明け前・渥美清の青春~』...
寅さん役でブレイクする前の若き日の渥美清を柄本佑さん、小林信彦を川口覚さんが演じます!
時間】20:00~21:00
【放送局】NHKBSプレミアム

●映画『男はつらいよ』第1作
寅さんの記念すべき1作を皆さんお楽しみに!
【時間】21:00~22:33
【放送局】NHKBSプレミアム

皆様、お見逃しなく♪

※今日の21:00~22:00は、NHK BSプレミアム 「アナザーストーリーズ運命の分岐点 ”映画男はつらいよ”寅さん誕生知られざるドラマ」が放送されますので、そちらもお見逃しなく~。

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2016年

8月

02日

雑誌「Player」9月号にて、Charの表紙&特集が掲載されます

2016年8月16日発売の「Player」9月号にて、Charデビュー40周年記念として
表紙と特集14ページが掲載されます。

月刊『Player』2016年9月号
定価:760円(税込)

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2023年

4月

01日

『おすすめの本・まとめ①』Apex product 読書好き 吉田哲隊長より。

ハリエット・アン・ジェイコブズ著、堀越ゆき訳「ある奴隷少女に起こった出来事」
約160年前に出版されたアメリカのとある奴隷少女の自伝的告白本であり実話。本屋でポップが目に留まり、何となく気になり購入した。アメリカの奴隷制度と言えば、確か中学の社会科で習ったリンカーンの奴隷解放宣言が真っ先に頭に浮かび、そういう制度があったのだというぐらいの知識しか無く、自分の中ではさして意識を向けることなく見過ごしてきた部分であるように思うのだが、本書を読んで初めて奴隷制度とは如何なるものなのか、その根深い差別の構造、奴隷の置かれた境遇について知る事が出来た。言わば、“生きた教科書”と言っていいのではないかと思う。歴史文献としても評価される本書であるが、同時に、希望を捨てずに過酷な人生を生き抜いた著者の家族愛や信念は現代を生きる我々にとっても大切な何かしらのメッセージを発しているようにも思う。衝撃を受けた一冊。
『漂泊のアーレント 戦場のヨナス』
過酷で破局的な時代を生きた二人の哲学者、ハンナ・アーレントとハンス・ヨナス。
強い友情と尊敬で結ばれた二人の人生を描きつつ、その哲学・思想を分かりやすく解説した良書でした。
ヨナスの哲学に興味があり、この本を手に取りましたが、ヨナスだけでなくアーレントも切り口は違えど、テクノロジーの自己増殖的な進歩が全体主義に通ずる可能性があると考えていたことに驚きました。
二人には今の世界がどう映るだろうか、と考えさせられました。
汝、星のごとく
凪良ゆう
今年の本屋大賞にノミネートされている一冊です。
主人公は2人。暁海と櫂。舞台は瀬戸内海に浮かぶ島の一つ。
母親公認で、父親が浮気相手のところに定期的に通う家庭で育った暁海。
母親が飲み屋を経営し、高校生のころからお酒を飲んでいる櫂。
2人は高校生の時に出会い、付き合うようになる。
順風満帆な恋愛をしていたが、櫂が漫画の原作者として成功し、上京する。
暁海は仕事を始めるが、なかなかうまくいかない。
徐々に2人は疎遠になっていき、一度は別れてしまった2人。
そんな時、櫂の相方が問題を起こし、櫂も仕事を失うことになる。
一方の暁海は趣味の刺繍を仕事にし、軌道に乗る。
ますます距離が開いた2人だが、気持ちはお互いを思い続けたまま…
お互い気持ちを打ち明けることができるのか?
一緒になることはできるのか?
感動の結末が待っていました。
凪良ゆうさんらしさが全面に出ている作品でした。
多くの方にこの感動を味わってもらいたいと思える一冊でおすすめです。
帰蝶
諸田玲子
 キムタクの信長の映画をみて、綾瀬はるかさんの帰蝶に惚れ惚れし、この本を手にしました。
 信長の正室はまむしと呼ばれた斎藤道三の娘、濃姫。15歳で美濃から嫁ぎます。帰蝶というのは濃姫の名前ですが、没年がはっきりしません。通説では本能寺の変より前に早逝したか、離縁されたらしいが、それにしてはその事実が記載された資料がない。近年、京都の大徳寺に「養華院」という名がみつかり、妙心寺には信長の一周忌の法要を信長公夫人が行なったという記録があるため、これが帰蝶のことなら、78歳で亡くなったことになります。作家の諸田さんは、そこから帰蝶の人生を、信長のようなひとを夫に持った女性はどんな気持ちで生きたのだろうかと、あとがきにありました。
 帰蝶は正室ですが、一度も出産せず、育てたのは側室や信長が手を出して孕ませた子供。帰蝶はその多くを手元におき、母として育てます。娘たちは成長しあちこちに嫁いでゆく。戦国時代の大名の正室はすごい役割を果たしていたことにただ感心します。もちろん、歴史をみれば帰蝶の胸を痛める、怒る出来事の連続です。信長今ならDV?いや、何万人もの僧侶、女子供も殺めたのだからそれどころじゃない。妻としてどうなのか。
 そこに立入宗継という京都の御蔵職立入家の当主が関わってきます。惹かれていく帰蝶、2人はどうなるのか、という興味がまた読むペースを早めます。また、全ての事件の裏に宗継が見え隠れしてきます。引き込まれて読み、本能寺の変が近づいてくるあたりから、ミステリー小説のようなドキドキ感でした。
 映画はエンタメとして楽しみましたが、だからこそ小説も、読んでよかったと思います。オススメします。
誉田哲也
「吉原暗黒譚」
誉田哲也さんのデビュー作「妖シリーズ」の番外編である本作。吉原大門詰同心の今村圭吾が、懇ろな元花魁のくノ一彩音、元隠密同心の千吉と共に、吉原で頻発する狐面を被った犯人よる連続花魁殺しを追う物語。吸血鬼バディ物ともいえる「妖シリーズ」の番外編としての本作も完璧といえるクォリティの時代劇バディ物で、ホラー、エロ、スリル、人情、と贅沢な要素満載で一級のエンターテイメントとして成立しています。それにしてもこの作者、「武士道セブンティーン」等でも垣間見れますが、バディ物での会話表現の切れ味はちょっと別格の逸品!
中村秀之『敗者の身ぶり ポスト占領期の日本映画』(2014)
1952年4月28日の対日講和条約の発効により日本は「独立」しましたが、この「独立」は冷戦体制への従属という新たな「敗北」のはじまりでもありました。
それ以降の戦後の日本の社会を1つの未知の領域である「敗者の想像力」として強者の論理ではないものとして位置づけ、それがどこまで展開できるか、生き抜くことが出来るかという問いを立てたのが、文芸評論家の加藤典洋氏でした。
加藤氏の言う「敗者の想像力」とは、「自分が敗者だというような経験と自覚をもっていないと、なかなか手に入らないものの見方、感じ方、考え方、視力のようなもの」と定義していますが、この視点から特に小津安二郎監督の戦後の作品の中に、「好戦的」でもなく「反戦的」でもない「小市民的」というべき世界を、あえて「敗戦的」と位置付けました。
更には「敗者の身ぶりのほうが実は普遍的だ、そのことを、小津とか成瀬とか、いま多くの国で歓迎され、発見されつつある戦後の映画監督の作品は証明しているのではないか」(「日本記者クラブシリーズ企画「戦後 70 年 語る・問う」③「戦後」の意味を考え続ける」)とも述べていました。
このように、小津作品や成瀬作品が海外でも評価されている要因を「「敗れること」の経験の深さ」に見いだした点に着目したことから、関連の言及もあるのではないかと予想して手にしたのが標記でした。
閑話休題。標記では、黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男らをはじめとする映画の登場人物の「身ぶり」を通して、この敗戦と占領という重みを負った「ポスト占領期」の日本の経験や精神を浮かび上がらせています。
その点、本書の目的は、作品の理解を通して映画と歴史の関係を考察することにありますが、小津安二郎監督作品の『晩春』を例にとれば、具体的には紀子の動きに観られる「正座」という身ぶりへの着眼と共に、「「奇跡」の顔をもつヒロインの頭部を切断する映画」と示した点に現れています。こうした映し出された「身ぶり」という細部への拘りという点では蓮実重彦的な「主題論的批評」と受け止めても良いかもしれません。
しかし、この作品は『麦秋』と共に「ふたりの紀子に共通するのは、不在の隠蔽によって家族の絆が維持されている死者たちを、代理し補填する役割であり、それゆえ彼女たちの結婚は代補の罷免を意味し、その結果、隠蔽されていた不在が露呈して構造の転換が生じる。こうして、徹底的に日常を題材としながら、これらの映画には歴史の変動に関する独特な思考が示唆されることになる。」と述べられています。
本書全体を貫いているモチーフは、〈前線-銃後〉のポスト占領期における残像と変貌ですが、「敗者の身ぶり」とは、この構造の内部で権力の諸関係に従属している身体が画面上に現れる様態に他ならないと提起しています。その他の作品についてもその表象を細部にわたり論じていますが、目次は次の通りです。
1 歴史の関をうつす
『虎の尾を踏む男達』(一九四五/一九五二)とポスト占領期の日本映画
2 絆とそのうつろい
小津安二郎の『晩春』(一九四九)と『麦秋』(一九五一)の抵抗と代補
3 富士山とレーニン帽を越えて
谷口千吉の『赤線基地』
(一九五三)における同一性の危機
4 ものいわぬ女たち
黒澤明の“ポスト占領期三部作”(一九五二‐一九五五)の政治的イメージ
5 涙の宥和
『二等兵物語』シリーズ初期作品(一九五五‐一九五六)による歴史の清算
6 女が身をそむけるとき
成瀬巳喜男における戦中(一九四一)と戦後(一九五五)の間
付録 「我らを滅ぼせ」
『ビハインド・ザ・ライジング・サン』(一九四三)の「良い日本人」
呉勝浩『爆弾』💣
 (講談社 2022年)
かなり奇抜な仕掛けのミステリーを読了。未見の作者であったが、読み手を惹きつける力が凄まじい❗️
酒屋で酔っ払って人を殴り、逮捕され警察署に拘束されたスズキタゴサク。この人を食ったような名前の犯人が爆弾の爆発を予告するところから事件は始まる。
あらかじめ犯人が読者に分かっている設定のように見えるが果たしてそうなのか?
このスズキなる人物の取調室での饒舌な自白が物語の大半を占める。どこまでも自分を卑下した悪意の放出に否応なく付き合わされ、登場人物たちだけでなく、読んでいる自分自身が辟易してくる。ひょっとしたらこれがイヤミスなのか?
敢えて出頭してきた犯人は、警視庁の凄腕刑事を翻弄する。幾つもの罠を仕掛け、常に刑事たちの先を行く。マジックミラーもビデオもない取調室での行き詰まる刑事と犯人の心理戦がノンストップで続くのだ。こんな狭い空間で、これほど重層な展開をよく考えられるものだと、作者の手腕に感心してしまう❗️
犯人に何となく既視感を覚えた。そう、あの🎬ハンニバルのレクター博士だ。スズキが仕掛ける心理戦は、ジョディ・フォスター演じる女性捜査官がレクターに徐々に支配されていくあの場面に似ている❗️
スズキタゴサクの何重もの罠にからめとられ刑事たちは連続する爆発を止められない。おぞましい爆弾事件をどうすれば食い止められるのか、刑事たちはスズキの真の狙いを暴けるのか、そして……。
手に汗握る展開。2023年版の「このミス」第1位も頷ける1冊。おススメです。
ブルース・フットさんの『人はなぜ物を欲しがるのか』を読みました。
 
本の表題に惹かれ購入したものですが、原題が『POSSESSED  Why We Want More Than We Need』“所有という悪魔   なぜ人は必要以上に欲しがるのか“です。
 
 心理学的な内容かなって思いながら読んでいましたが、人類学、歴史、社会学、行動経済学、生物学、哲学など多岐にわたる領域で“所有”の本質を追求したもので、大変面白く読みました。
私自身、“占有“と”所有“とは概ね同じ意味と考えていましたが、”所有“とは人間だけが持っている概念であることをこの歳で理解しました。
ちなみに”占有“とは、自身が守れる/見てまわれる範囲内で自身が所持する事であり、”所有“とは、遠く離れていても法律等により自身のモノと証明できる権利である。と、理解しました。
 
人間は、繁殖のため雄が雌を引き寄せる手段の一つとして、相手を引き寄せるために多くのモノを蓄えて行くものです。
その中でも「見せびらかしの消費」という行動があり、周りと比べて自分がいかに裕福かを誇示したくて贅沢品に大金を費やす。それは動物はみな生存競争を行っており、自分の遺伝子を子孫に伝えていくのも競争であるため、人間は贅沢品をも所有することを続けていく。
 また、人間の脳の仕組みから、快楽中枢である複側被蓋野のドーパミン神経細胞は、セックス・ドラッグ・ロックロールなどの依存性のあるさまざまな営みを追求することによって活性化する。パーキンソン病患者に治療としてドーパミンを増大させた薬を投与したところ、セックス依存・ギャンブル依存・買い物依存が増大したという副作用が出たという。
しかし、我々は所有すれば満足するかと言えばそうではなく、人生で物があふれさせているのは、絶えず獲得したいと追い求める心なのである。
 
著者は最後に、“できるだけ多くのモノを必要以上に獲得しようと愚かな探求を続ければ、人々は分断され、諍いが引き起こされる。所有は人間の本性に根ざすかもしれないが、人間にとっての最善策ではない。私たちは所有という悪魔を祓う必要があるのだ。“と。
 
大変面白い本です。
是非、一読を。
「きみが来た場所」喜多川泰
ドップリと喜多川ワールドに浸り、自分の周りの人達に感謝を伝えたいと共に、還暦は過ぎたけど、これからも自分の3人の息子達とお嫁ちゃん達にちっちゃな背中やけど何か息子達がこれからの人生を送るにおいて、少しでもパワーを伝えられたらと思える一冊。
生まれた時から持ってる自身への使命。それを果たせるかどうか?自分の子供達から学ぶ事が多い。
3人とも独立したけれど、子供達が居てくれたから頑張れた事っていっぱいある。そう言う意味で、親は子供達のおかげで成長させてもらってるのだ。
「人間は、いや人間だけと言ってもいいが、人の喜ぶ姿を見て幸せを感じる事が出来る」
3人の息子は全員高校野球をやった。その試合を何試合も観てきた。悔しくて顔が歪む時。勝って喜びを全身で表す時。そんな姿を見て実は親も成長出来てたのかなと今では思う。
「今の子供達は、自分の欲しい物を手に入れ続ける事を幸せと教えられて育つ。しかしその先に待っているのは幸せではない。
なぜなら人間は自分が誰かから必要とされてると感じて初めて幸せを感じる事が出来る存在」
野球も家族もやっぱり人に必要とされる事が喜びと繋がるのを感じやすいのかもしれない。
ちょっとネタバレの部分もありましたが、先祖からの命のリレーを大事にしたいなとかも感じた一冊でした。
何を幸せと思うか?それは時代によっても変わりますね。
戦時中の祖先、不幸な時代にあっても幸せを感じていたんだなと思いました。
あっ、戦争は絶対反対ですよ。
祖先は必ずしも不幸だけを背負って亡くなったんじゃない。
命を大切にしないといけませんね。
悼む人              
著者 天童荒太   
文春文庫          
あらすじ          
不慮の死をとげた人々を悼むため、全国を放浪する坂築静人。静人の行いに疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者、蒔野。末期癌に冒された静人の母、巡子。そして自らが手にかけた夫の亡霊に取り憑かれた女、倖世。静人と彼を巡る人々がおりなす生と死、愛と憎しみ、罪と許しの物語。            
10年前ぐらいに、本でよみ、そのあと、DVDをみました。人は生まれた限りはいつかは、死を迎えますが、それが不慮の事故や事件などにより、命を奪われることも。又自死や病気による場合もあります。生と死はいつも背中合わせ。改めて命の尊さを心にきざまれました。😺静人の誰よりも人の死に深く悼む気持ちが伝わりました。😢
三浦英之さんの『南三陸日記』(2019年、集英社文庫)。
住んで、泣いて、記録した。東日本大震災直後に受けた内示の転勤先は宮城県南三陸町。瓦礫に埋もれた被災地でともに過ごしながら、人々の心の揺れを取材し続け、朝日新聞に連載された「南三陸日記」は大反響を呼んだ。文庫化に際し、8年ぶりの「再訪」や、当時は記せなかった物語を大幅追加。開高健ノンフィクション賞など、数々の賞を受賞した気鋭のライターが描く珠玉の震災ルポルタージュ。
著者が実際に被災地で生活をしながら肌で感じたリアルな記録です。
追記された「再訪」は涙が溢れます。
けっして風化させてはいけない物語が、ここにはあります。
はじめに
[教誨師](きょうかいし)とは…
服役中の囚人や死刑囚に対して、過ちを悔い改め徳政を養うための道を説く者。
日本では真宗の僧侶が多い。
死刑囚と面会し、さらには刑の執行にも立ち会う。 =裏帯より=
主人公
・高輪顕真
・関根要一
大学時代の友人です。
この二人が再開した場所は、奇しくも
東京拘置所。
立場は、高輪はそこの教誨師、そして関根は…死刑囚。
5年前の男女殺人事件の容疑者で逮捕。
証拠も揃い、自白もしていると言う。
殺害理由は、鼻の痣を笑われたからだと…
「死刑囚⁉️絶対有り得ない❗️あいつには人は殺せない❗️何故か❓
命懸けで人の命を救う奴が殺人なんかできるわけがない❗️それに痣ぐらいで、カッとなるような奴じゃない❗️
顕真と関根は大学時代、同じ山岳サークルの部員だった。
その時、関根は、遭難しそうになった自分と仲間を命懸けで助けてくれた…。
「絶対に何かの間違えだ❗️
顕真は自分の坊主として、そして教誨師としての立場を全て捨ててでも、関根を救う❗️
と、ほぼ全ての事を強行突破で動き出すが…
一度「死刑」と言う最も重大な刑を、そう簡単には覆えせるわけはありません。
そしてなんと言っても、本人が自分がやったと自白をしている…。
もう、あの頃の関根では無くなってしまったのか…
しかし❗️
"調べるほど浮かび上がる不可解な謎"
=裏表紙より=
顕真が思ってる通りかも…
そうだとしても、現実は死刑執行日が日に日に迫ってくる…
"絞首台へ向かう友の魂を救えるかー。"
=表帯より=
半分くらいから、もう、ドキドキの連続で、一気読みでした❗️
最後のどんでん返し、凄い❗️
たくさんの人物の名前や言葉(お経など)が出てきますが、全然、混乱しません。
人気作家さんなので、もう読んだ方はたくさん居ると思いますが、未読な方は是非‼️
「死にゆく者の祈り」
中山七里
【花石物語】
井上ひさし
 今まで読んだ小説の中で、一番泣いたのは田辺聖子の「うたかた」、一番夢中で読んで訳もわからず早く続きが読みたくてうずうずしたのはガルシア.マルケスの「百年の孤独」、一番後世に残して欲しいと願ったのは、中上健二の「日輪の翼」。。
 そして、一番心から温まった読後感だったのは、井上ひさしの「花石物語」だ。。
 井上ひさしの経歴にそっくりな主人公、夏夫は、幼い頃父親を亡くし、たくましく優しい母に育てられた。
 信仰があり通っていた教会の援助で東京の大学を受験するも、東大と思しきトップレベルの大学に落ち、鷲の紋章の帽子の私立大学に進級することに。
 私からみればその大学だって夢のようだが、夏夫は鷲の大学しか受からなかった自分を恥じ、上京しても、鷲の紋章を道ゆく人に笑われているように思え、その上、東北訛りもあり東京生活に馴染めず吃音症になってしまう。
(鷲の紋章の大学の方、またご出身の方、大変失礼。。ですが。。小説にそう表現されているのでご勘弁を💧
 夏夫は一時、精神の休養をするため、故郷の花石に帰郷する。
 花石とは、作者の故郷である釜石である、多分。笑
 そんなか弱い神経のひとり息子を、母は
「まあ、ゆっくりおし」と微笑み、これから花石の製鉄所の大勢の従業員を当て込み、屋台の焼き鳥屋をやる、と話す。
 笑ってしまうエピソード。。。
夏夫は、母が仮住まいをする洋品店(といっても、なんでも屋みたいに避妊具まで売っている)の2階の一間に居候することになったが、狭い路を挟んだ向かいの部屋には、娼婦で気のいいかおりがおり、彼女が明るく夏夫を客として誘う。。。
(かおりも東北の花石よりもっと田舎の出身で、家族のために娼婦稼業をやっており、物語中、台詞の東北弁が実にほのぼした温かさを醸し出している。ちなみに、容姿は美人ではなく
赤い頬の鼻ぺちゃさん、みたいに描かれる)
 夏夫は、何度か部屋の窓から窓へと誘われる間に“男“になるのだが、その辺の、男性としての一つの自信のつけどころに手を添えたかおりも、物語の温かいラストへ深く関わる重要人物だ。
 母が始めた屋台は、最初、全然リピーターがつかず、彼女はどうしてなんだろう?と悩む。
 夏夫は、その原因を探るべく、大繁盛している焼き鳥屋の屋台の味付けを探る。
 この大繁盛店をやっているのは、やはり東京の大学に進学した経歴をもつ夏夫と同世代の男。それも、東大出身と知り、
「彼は銀杏の紋章だから、、、」と、
夏夫はまた東大コンプレックスを深めるが。。。
 この物語は、大人になる手前で挫折を味わい、へたばりつつ階段をのぼる力を得ようとする若者の成長を描いているが、普遍的ともいえる母性(いまでは神話のようだが)の力強さ、温かさが物語のいたるところに感じさせる。
 かおりの部屋を訪ねる船員のふりをした客の、マドロスのカッコ良さを装うことに隠された葛藤。。。と言っても、読者が笑えるように描かれているが。
 夏夫を再びコンプレックスに陥れる大繁盛店焼き鳥の味のヒントを、最後に教えてくれる店主にも隠されていた心の吃音症。
 故郷でのロングバケーションで、さまざまな人物と出会い、母のどっしりした優しさに支えられて、心の病を脱し、成長していく夏夫。
 「僕が助けてみせるから!なんでも来い!」というように、今度は愛すべき人を助ける側になろうと自身に誓う夏夫が、愛しくてたまらない、しみじみ心温まる青春物語。。。
 古い作品だけど、戯曲の名手.井上ひさし、それ故のストーリーテーリングの魅力をぜひ。
教場X  刑事指導官風間公親
by
長岡弘樹
教場シリーズで、風間が警察学校に行く前の話の第二弾。どうして警察学校に行くことになったかの理由がわかる本です。
さて、風間は前作(教場0)で、昔逮捕した、十崎により、右眼を千枚通しで貫かれ、義眼になっている。本部長の肝入りで刑事部捜査一課で、所轄の刑事になって3ヶ月の者を本部に呼んで風間が指導する風間道場にて、新任刑事をエース級に育てていた。とここまでで。
第一話 硝薬の裁き
生徒 鐘羅路子(かねらみちこ)
第二話 妄信の果て
生徒 下津木崇人(しもつぎたかひと)
第三話 橋上の残影
生徒 中込兼児(なかごめけんじ)
第四話 孤独の胎衣(こどくのえな)
生徒 隼田聖子(はやたせいこ)
第五話 闇中の白霧
生徒 紙谷朋浩
第六話 仏罰の報い
元生徒 平優羽子(たいらゆうこ)
それぞれに風間の洞察力の凄さを感じました。また千枚通しの連続傷害事件も絡めながら最後にはなるほどと。おすすめです♪
デッドエンド
柴田哲孝
 妻殺しの罪で無期懲役を喰らい千葉刑務所に服役中の笠原。IQ172の頭脳を駆使して脱獄計画を練る。その目的とは…。
 脱獄、逃避行、狭まる包囲網、巨大な陰謀、冷酷な刺客、クライミングアクションと盛り沢山なエンターテイメント作品だった。
福岡県警工藤會対策課
(著)藪正孝 (出)彩図社
元、北九州地区暴力団犯罪捜査課初代課長
の著者が語る工藤會との死闘。
 暴力団排除の社会風潮の中、それに抗う
日本で唯一 特定危険指定暴力団に指定されているのが工藤會である、暴力、権力、鉄の掟
で固められた同会の内情、警察関係者との
やり取り、同会メンバー1、ナンバー2が逮捕起訴裁判判決迄、フィクションの様に思える
内容に驚かされる一冊です。
天祢涼『希望が死んだ夜に』
 
📓あらすじ
希望が死んだ夜みたいに真っ暗なこの国で――
 
面白い作家が、凄い作家になる瞬間がある。本書を読んだとき、天祢涼は凄い作家になったと、感嘆した。――細谷正充(文芸評論家)
彼女を死に至らしめたのは社会なのではないか? 社会派×青春×ミステリーの見事な融合。本書に出合えてよかった。――ベル(文学YouTuber)
 
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか? 二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって――。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。
解説・細谷正充
(文藝春秋サイトより)
 
💬感想など
 作品のテーマとなっているのが「子どもの貧困」問題。それゆえ、読後の印象としてはミステリーというより社会派という方が強かったです。作品全体通して、胸が苦しくなるしやるせなくなります。他人事だとは思えません。
 
 「貧困」問題には、当事者家族はもちろんそうなんですが、周りが大いに影響していると感じました。
 加えて、作中のあるシーンについては、貧困問題だけでなく、いわゆる「人間関係」において重要なことを考えさせられます。
 
 というのが、先生とネガが話すシーンです。
 先生はネガに対し、こう言うんです。
「世界中の人から見れば君はとても幸せなんだよ。でもアフリカの子どもたちのようになりそうだったら、いつでも先生に相談しなさい」 
 
 それを受けたネガは、
「そうか。あたしはまだ本当に困ってはいなかったのか。アフリカの子ども達に較べたら、全然不幸じゃない。むしろ幸せだったんだ。」
という結論を出します。彼女はこのとき、胸が震え、理由は分からないけど不意に涙が滲んだ、とあります。
 
 作中、なんと言うかこう胸がむかむかするシーンは少なくありません。しかしその中でも特にこの教師の言葉には腹が立ちました。私自身も同じような経験をしているし、そういう人はやはり多いのではないでしょうか。
 "世界"の話なんてしていない。"あたし"の話をしているのに。「あなただけじゃない。皆苦しい思いをしているんだよ」「あなたは幸せなんだよ」──そうじゃない。そんな話はしていない。
 きっとこの先生の言葉は、ネガにとって希望にはならなかったはずです。
 
 なぜ彼女は殺人の動機を語らないのか。「わかんないよ。あんたたちにはわかんない。なにがわかんないのかも、わかんない」の奥にあるネガの真意とは、二人の少女が抱えていたものとは何か。彼女を殺したのは一体誰なのか。
 読了後、タイトルの「希望が死んだ夜に」を噛み締めることになります。
「空の走者たち」増山実
福島県を舞台にした、時空を超えて福島の実在の人物が交わり影響し合うフィクション。
フィクションだけど、実際にそうだったのかなと思わす展開でした。
円谷幸吉、円谷英二、芭蕉、実在の人物。そして主人公の円谷ひとみ。この人達が上手く影響し合ってるストーリーが凄いと思った。
作家ってよくこんなストーリーを考えるなーと思います。
前半はちょっと読むのが複雑やなぁと思ったけど、64年の東京オリンピック、マラソン銅メダリスト円谷幸吉さんと、主人公円谷ひとみさんのお話しになってからググッと引き込まれた。僕自身もマラソンをやってるので余計にかも。
マラソンを通じての喜びとは?
生きているという事をつぶさに感じる事。
しんどい時は、空を見上げてみよう。
「苦しくなったら、一度自分の意識を身体から離して、空から自分を眺める。」
「離見の見」
これはマラソンの事だけではなく、人生で迷った時、苦しい時なんかの時に、客観的に自分を見る方法とも言えるのでは?
空から自分を眺める。デッカい空から、ちっぽけな自分を見てみるとどう目に映るのかな?
ランナーの人にはオススメの本ですが、ランナーでない人も楽しめると思う。
ちょっと時空を超えたお話しなので、迷走してしまう部分もあったが、後半は前向きに生きていくために必要な言葉がいっぱいあって良かったです。
「荒れ地の家族」
佐藤厚志
あの震災から10年以上が経った。
40歳の祐治は、母と一人息子と3人で暮らしていた。
厄災に見舞われたのは、祐治が造園業のひとり親方として船出した途端だった。
そしてその震災から2年後、妻の晴海をインフルエンザの高熱で亡くした。
更地になり、何もなくまっさらになった町は、その不自然なほどのまっさらさに、震災の痕跡を浮き彫りにしていた。
元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点なのか―――。
全てを無くしたのか。
全てを無くしたわけではない。
しかし、全てがひっくり返されたら元通りになどなりようがなかった。
人は、欠けたパーツをずっと自分の内に抱えて生きていくのだ。
震災がもたらした様々な形の破壊と、主人公が営む造園という仕事の目を通して感じる生命が漲る力強さとのコントラスト。
壊れた心と壊れた家族と、哀しみと少しの希望と。
浮き沈みを繰り返しながらも、たんたんと生きていく姿にリアリズムを感じる。
第168回芥川賞受賞作。
私は芥川賞の作品とはあまり相性がよくないようで、いつもはちょっと敬遠してしまうのですが、この作品はどうしても読んでみたくて手に取りました。
震災についてのダイレクトな描写はないのですが、そこに暮らしている人々の息づかいや心の傾きから、痛ましい情景がページに染み渡ってくるようでした。
絶望と悲しみを胸の奥底にしまいながらも、わずかながらも未来を見、明日へその先へ歩んでいく主人公の姿を、私はこの作品から感じました。
読んでよかったです。
仙台在住の書店員作家が描く、被災地に生きる人々の止むことのない渇きと痛み。是非
村上春樹/アンダーグラウンド(講談社文庫)
下の写真の帯の通り『地下鉄サリン事件』の被害者(もしくはその家族)に対するインタビューと著者本人の事件に関する所感的なものが書かれています。
こちらは文庫本で約780ページ、しかもインタビュー部分は2段組。
かなりのボリュームです。
読むのには相当根気がいるかも知れません。
________________
1995年3月20日。
いつもと同じような1日になるはずだった日。
この日のことを語るのは、辛いという言葉だけでは足らないほどの苦痛があっただろうと思います。
被害者の方々の事件に関する生々しい証言や、被害者のご家族の悔恨の言葉がそれを物語っているように感じました。
読むのが本当に辛くて仕方なかった。
なのに、なぜか読むことをやめられませんでした。
私の知人にも『被害者』になってしまったひとがいます。
去年10年ぶりくらいに会って話をしましたが、未だにPTSDに悩まされているようです。
そして、その知人と会ったことが切っ掛けとなり、この本を再読しようと思いたち文庫本を購入しました。(単行本も読んでいたのですが、手元に置いておくのが辛くて手放していたので…)
ただ、単行本のときと同じく読み出すまでに時間がかかりました。
そして、最初に読んだときから随分と時間が経ったのに、やはり読んでいるときの辛さは変わらないまま。
きっと、何度読んでも辛いままなのだろうと思います。
心の整理があまりつかないままに書いたので、わかりにくい文章になっていると思いますが、どうかご容赦くださいませ。
『推し、燃ゆ』  宇佐美りん  ★★★★★
主人公・女子高生のあかねにとってアイドルの「推し」は背骨。それ以外はすべて「生き難さ」で削り取られて行く。部屋は汚れ、勉強は手に付かず、体は異常にやせ衰え・・・。
もともと生きる能力が低いあかねだが「推し」が絡むと色んな事が可能になる。情報を集め、整理し、解釈し、グッズを買うためにはバイトも頑張れる。普段の何もできない主人公が普通で、推しが絡んだ時だけ能力が上がるのか、推しの時が普通で、それに精力を奪われ普段の生活がダメになっているのか。
いずれにしても私の嫌いなタイプの主人公です。
普通なら投げ出したいような本なのですが、読まされます。なんか説得力がある。見事に時代の一部を本当に見事に切り出している。描く対象物に意味(思想)は感じられないけれど、描くことの素晴らしさは良く判る。
それにしても見事な文章力ですね。「見た物を美しく表現する」とか「心の動きを見事に表す」とかは良く見かけるけど、宇佐美さんが随所にみせる体を一部を使った表現、例えば「頬の内側、右の眼と左の目の奥に感じる吐き気は、根強く、抉り出せそうになかった。」は新鮮でした。
第164回芥川賞受賞作
『ある男』 平野 啓一郎
 愛したはずの夫は、全くの別人だった。
弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
 その男はある日突然事故でなくなり、里枝が悲しみに暮れるなかに知った別人。なぜ夫は、名前や戸籍を変えてでも、違う人物の人生を歩む事になったのか…。
 人間存在の根源に迫る、心に残る作品です。
《舞台が宮崎県S市で共感でき、本当に桜が綺麗ですよ😀》
 今度映像でも観てみたいです。
紙の梟
貫井徳郎
 裁判員制度の下では市民感情によって厳罰化の傾向にあるらしい。本書はそんな時代の空気に基づいて、『一人殺せば死刑』となった日本を描いている。
 確かに殺人罪の量刑の尺度となっている『三人殺せば死刑』という現行の永山基準は甘い印象がある。ましてや自分が被害者遺族だと想像したら受け入れ難い。
 五つの短編はいずれもそうした不寛容な社会でのケーススタディともなる連作で考えさせられる。
中でも『レミングの群れ』はその設定、展開、オチまで見事にキマった傑作だった。
近衛龍春「毛利は残った」
毛利輝元、祖父は中国地方の覇者であった毛利元就。豊臣政権において五大老を務める彼は、気がつくと関ヶ原の戦いで西軍の総大将に担がれてしまい、徳川家康と対立する羽目に。戦後、その責任を問われ、領地を四分の一に削られてしまう。その後も隙きあらば取り潰してしまおうとする家康から屈辱的な扱いや役負担をかけられる。
輝元は、毛利を没落させた凡将か、毛利を守り抜いた名将か、考えながら読み終えました。
<與那覇潤『帝国の残影ーー兵士・小津安二郎の昭和史』>
 映画『男はつらいよ』の主題歌から話を始めよう。
  ドブに落ちても 根のある奴は
  いつかは 蓮の花と咲く
 星野哲郎作詞のこの歌詞の原典と思しきことを小津安二郎は語っている。
「泥中の蓮ーーこの泥も現実だ。そして蓮もやはり現実なんです。(中略)私はこの場合、泥土と蓮の根を描いて蓮を表わす方法もあると思います。しかし逆にいって蓮を描いて泥土と根をしらせる方法もあると思うんです。」
 昭和12年、中国戦線のいち兵士となって戦場の悲惨を体験した小津安二郎が直接に戦争を作品に描かなかった理由は、この言葉に凝縮されている。昭和28年、松竹後輩監督の木下惠介が戦争直後の喧騒と混乱を『日本の悲劇』でリアルに描いた際の小津の激しい反発もここにある。
 とはいえ小津の描く「家族の物語」には常に戦争の影が差していることも事実だろう。『東京物語』の紀子(原節子)は戦争未亡人であるし、『秋刀魚の味』では父親周平(笠智衆)と軍隊時代の部下(加藤大介)との交流が描かれているのも、これらが「戦後」という時代に根差した作品だからに他ならない。
 父と娘、夫婦、兄弟姉妹といった日本の家族を描ききった小津は生涯独身で家庭を持たなかったし、中国戦線に参戦したにも拘らず作品に戦争の悲惨さを直接描かなかったという謎には、小津は実直に「蓮」を描ききったのだ、と応えることもできるだろう。
 著者の與那覇は、実は小津の「失敗作」にこそ小津の真に表現したかったものが宿っている、と見ている。例えば戦前の作品であれば『戸田家の兄妹』。裕福な家族の老父の死去により借金の返済に屋敷を売り、未婚の兄は天津へと転勤し、老母と妹は既に家庭を持った兄姉の家を転々とし邪魔者扱いされる。天津の兄は兄姉の冷淡を非難し老母と妹を天津に引き取る、という話。また、戦後の作品であれば『宗方姉妹』。満鉄官僚の娘として生まれた、満洲生まれの自由奔放な妹と日本の因襲を引きずった姉の葛藤。満洲からの引き揚げ者でプライドの高い技官である姉の夫。小津がこうした失敗作で描こうとしたのは、敗戦のもとで「高度に理念化された普遍的ビジョンの下で、所属集団なき個人の群れが、急速な集結と分散を繰り返す動態的な政治経済の情勢」(著者は「中国化」という言葉を使っている)による日本の伝統的家族の崩壊、であったのでは、というのだ。まさにそれこそが、いち兵士・小津安二郎が中国大陸で目の当たりにしたものではなかったか。
 與那覇は更に続ける。何故、戦後の日本人は「小津安二郎の『失敗作』」を評価せずに、大きな波風も立たぬ平板な小津の家庭ドラマばかりを評価してきたのか。それこそ、戦後の日本人の深層に戦前の「帝国の幻影」が未だに生き続けているからではないのか。
 本著はサブタイトルが無ければ日本の戦中戦後史の歴史書のようにも取れるし、サブタイトルがあればあったで主題との間にどこか違和感を抱かせる。そもそも日本近現代史を専攻し大学教員でもあった著者がメンタルを病み、評論家として再出発するという異色のキャリアの持ち主であることに、これは起因している。好きな小津安二郎作品の深奥を究めることで日本文化の真相を炙り出す、優れた歴史社会学の一冊となっていると言えるだろう。
 因みに今年は、小津安二郎生誕120年、没後60年。神奈川近代文学館では、今日4月1日より小津安二郎展が始まっている。是非、小津の失敗作にも興味を持って観て貰いたい。
雲を紡ぐ 伊吹有喜 
いじめで学校に行けなくなった娘、不登校になった娘をもつ教師の母、実家の父親との関係がよくなく故郷に背を向けてきた娘の父親。誰も悪くないのに何故かうまくいかずバラバラになってしまった家族の再生の話かな。盛岡のおじいちゃんがイイのです。
めちゃくちゃ良かったです。題名もイイ。是非、読んで欲しい一冊です。盛岡に行ってみたくなりました!
「どうした、家康 」
歴史時代小説の13人の短編集
逸木裕 「銀色の国」
逸木さんの文庫本が新しく出ていたので買ってみました。
 
主人公はNPOで自殺対策に取り組む男性。彼がかつて対応して立ち直ったと見ていた男性が自殺したと連絡がある。遺族によると彼は自殺前にVRゲームに没頭していたと聞き、友人のゲームクリエイターと彼の死について調査を始める。彼のVR機器を調べてみるとそこには非公式ゲームが消された痕跡があり、彼が没頭していたのは裏で流通する自殺を幇助するVRゲームだったのではと推測し始める。
一方で浪人生である女性はTwitterにて自殺をほのめかして周囲の気を引く鬱葱とした日々を送っていた。あるときフォロワーから自助グループが運営するVRゲーム「銀色の国」に参加してみないかと誘われる、というお話。
 
自殺をテーマにした作品となります。
メインは主人公側である自殺から救いたい側の視点で描かれており、その合間に自殺したい/させたい人々の視点を見せながら物語が進んでいきます。多くの人に寄り添って救いたいけど直接は何もできないことに悩む主人公をはじめ、登場人物たちの心理描写が非常にリアルで読み応えがありました。また自殺者とどう向き合うかについて作中にての人物たちが持ついろいろな考え方が描かれているのも見所の一つになるかと思います。これに関しては正しい考えというものはないので、こういった考え方もあるのだなと新しい視点が得られて私としては良かったと考えています。
あくまで主題は上記の部分となるため、ミステリーの方は物語を面白くするために添えてあるという程度の認識で良いです。
 
独特な世界観が面白い作品なので気になる方は是非読んでみてください。
『いるいないみらい』
窪美澄
「子どもを持つこと」を考えるには、ど真ん中の年齢ではないので、少〜し離れたところから眺めている感じで読みました。
子どもが欲しいのか、いらないのか、それぞれの立場で思い悩む5つのお話。
結婚したら「子どもはまだ?」と普通に聞かれた昭和の頃よりは、女性が自由に選択が出来るようになって来たと思います。
しかし、自由な選択が出来るとは言え、今が将来に繋がる「タイムリミット」が近づくと、色々と考えてしまいます。
「異次元の少子化対策」と政府が旗を振っているけれど、それぞれの環境や個人の事情もあるので難しいですよね。
どのお話も日常が書かれていて気取りがなく、それでいて切実な思いを含んだお話でした。📚
『月の立つ林で』
 青山美智子
本屋さん大賞3年連続候補入りしてる青山さんの初読みです。
物語は、五つの短編で何れも平凡な生活を送る五人の人達が、共通のラジオ番組『ツキない話』を聞き、月にまつわるエピソードを聞くうちに自身の平凡な又悩める生活に少しずつ影響を与え前向きに活路を見出していく。
一つは長年勤めた病院を辞め両親の面倒を見ながら淡々と生活することに悩める元看護婦の話。
一つは売れないながらも夢を諦めきれない芸人の話。
一つは娘や妻との環境の変化に寂しさを抱える古風な信条を持つ二輪整備の自営業者の話。
一つは親から離れ早く自立したいと願う女子高生の話。
一つは仕事が順調に進展する反面家族との疎遠を感じ悩むアクセサリー作家の話。
よくあるパターンの物語の作りですが、この小説の面白い所は、共通のラジオ番組からのヒントに自身の悩みを解決に導くだけでなく、各章の登場人物(脇約含め)がお互いに絡み合い、お互いに何処かで関係し合い助け合い、そして各章の主人公が成長、前向きに向き合える人生に出逢える素敵な小説です。
また、その悩み事が特別でなく誰にでも起こり得る日常的な事なので親近感あり、「ほっと」出来る暖かい物語となってます!
この作品で本屋さん大賞獲れるといいですね!
桃野雑派 「星くずの殺人」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。
 
民間企業による宇宙旅行のモニターツアーが実施されることとなった。宇宙に設立されたホテルに到着したのだが、宇宙船の機長が無重力下で首を吊って死んでいるのが発見される。無重力の場所でわざわざ首吊りをするとは思えないが、他殺だとしたらツアー客の中に殺人犯がいることになるためすぐに地球に帰還するか悩みはじめる。ツアー客に事態を説明すると、それぞれが強い目的を持っていることと高額な参加費のこともあってツアーを続行することとなる。しかしその後耐えかねたホテルスタッフが脱出ポッドで逃亡してしまい、さらにはツアー客の一人が何者かに襲撃されてしまう、というお話。
 
SF系のミステリー作品となります。
状況が特殊な設定になっているので、本書ではなぜこの場所で犯行に及んだのかを中心として話が進んでいきます。上記の首吊りに見せかけた殺害などは地球上でやった方が簡単なのになぜ宇宙で?という点を考えながら読むと楽しめます。一方でどうやって殺害したのか?の方はSF系ということもあって推理するのが難しいのでやらなくて良いと思います。
もし宇宙旅行が身近になったらどんな感じになるのかが描かれているため、想像しながら読むと面白いです。長期間の病気検査、行くときは人が耐えられるギリギリのGに耐えないといけない、などお金だけ払えばいいというわけではないところが妙にリアルでした。
高額ながらも民間企業による宇宙旅行が実現できるようになったばかり、という設定もあってか参加者が何を目的に参加しているのかを話す場面は面白くて個人的には見所でした。わざわざ宇宙に来るほどなので目的は壮大なものが多いのですが、何かズレてる部分もちらほらあって物語を面白くしてくれています。
 
SF系ながらもリアルな部分も多くあって面白いので気になる方は読んでみてください。
帯のそうそうたるメンバーの推薦の言葉(裏にも続く)に引かれて大津の書店で購入。
西武大津店の閉店にとことん付き合うと言って始まる中2の成瀬あかりという主人公の、高3までを周りの何人かの視点で描かれます。何事にも一生懸命だけど、クラスメイトからしたらちょっと、いやかなり「変人」の成瀬さんは、とてもステキなキャラクター。でも幾つかの別れがあり、普通の子の面も見せます。
大津の地名、施設がバンバン出てくるので、地元の人はドキドキします。京都の隣だけど、地味な大津/滋賀への愛がヒシヒシと。
成瀬さんはまだ天下を取ってないから、続きがあればいいな。
罪の境界
薬丸 岳
通り魔事件をきっかけに、その被害者と加害者を中心に恋人、家族の苦悩、背景、動機が明らかになっていく作品。
冒頭のくだりで出てくる「約束は守った…伝えてほしい」が、作品の重要な部分に感じられなかったのは気のせいでしょうか。
作品は、ニュースなどにもよく出てくる幼児虐待、DVなどをベースに描かれていますが、幼い頃のそういう経験や、真面目に生きようとしても上手くいかない場合に、こういう犯罪に手を出そうと思うのかもしれませんが、結局は自分より弱そうな人間を対象とした弱いものいじめな感じがします。
それを理由に人を傷つけていいわけもなく、そのために傷つく被害者としては、「なぜ自分が」と思うのも当然だし。何が正解か、どうやったらこういうことが減るのか、読んでいて少し苦しかったです。
この作品の中で描かれている母子の関係。よく言われる毒親であっても、子供にとってはかけがえのない親であり、親にとってもやはり子供はかけがえのない子供とされている点は少し気持ちを軽くなりますが、「境界」はそこか?というツッコミどころと、犯罪そのものじゃなく、被害者、加害者の心理を丁寧に書いているあたりは好感がもてました。
他の作品も読みたい先生がまた増えました(笑)
君たちに明日はない    垣根涼介    新潮文庫 
村上真介は 企業の人事部からリストラ 業務を請け負う 会社の社員   首切りの面接で恨まれ なじられ 泣かれても なぜかやりがいを感じている  最初の面接でリストラを申し渡した仕事ができまっすぐな気性の芹澤陽子とは なぜか恋人となる 
五つの リストラ 事例の中で興味深かったのは 北海道の高校の同級生だった二人のいずれかを切るか 〈旧友〉 と 
芸能プロデューサーの切れ者と実務家の どちらかを 切る 〈去りゆくもの 〉
そして 年上の恋人陽子の がつかんだ意外な転職 
ビジネス小説はあまり惹かれないが この作品は人間ドラマとして面白く 山本周五郎賞を受賞も納得
解説も 八王子市役所勤務の 経験のある 篠田節子
 公務員 サラリーマンの方には 必読の 身にしみる作品群である
「82年生まれ、キム・ジヨン」
チョ・ナムジュ・作
斎藤真理子・訳
この本は、
「読んだ後に絶対に誰かに勧めたくなる」
「読んだ人の感想を聞きたくなる」
そんな本です!!!
2016年に韓国で刊行され、130万部以上売れ、16カ国で翻訳され、韓国文学やフェミニズム隆盛の契機となり、絶大な共感で世界を揺るがした〈事件的〉小説。
ここ10数年、日本では韓国のドラマが非常に人気ですが、私は1度も観たことがなく、韓国の文化に疎かった事もあるとは思いますが、この本を通じて知らなかった韓国の文化を知り、驚く事がたくさんありました。
私は韓国という国に「日本の隣にあり、外見も文化もよく似ていて、今一番日本と友好関係があるであろう国」という認識しかなかったのですが、この本を読んで、国における女性の在り方が日本と決定的に違うと衝撃を受けました。
ソウルで夫と1歳になる娘と暮らしている33歳のキム・ジヨンが、あることをきっかけに心のバランスを崩し、精神科病院に通うところから物語は始まります。
物語は、彼女が病院で話した33歳の半生を聞き取って医師が記したカルテという形式で進んでゆきます。
彼女の語る半生の、女性としての生きづらさには、共感する部分がたくさんありますが、生まれながらにして「女」で生まれてきた事が「男」で生まれてきた弟よりも世間的に価値のないものとされている事や、義務教育が全て男子生徒優先であることなど、日本で生まれた私は読んで驚愕する部分もありました。
この本はフィクションではありますが、作者さんがあとがきで、
「キム・ジヨン氏がほんとうにいて、どこかに住んでいるような気がしきりにします。」
と言っていて、私も同じ気持ちで読み進めていました。
世界中の人に、読んでもらいたい1冊です!!!
本(文豪たちが書いた酒の名作短編集)
タイトル通り文豪たちが書いた酒にまつわる短編集です。彩図者文芸部編集のこの本は、先ずは編集者の企画のユニークさに敬服といった感じですが、私もこの文庫本のタイトルを広告で見て、早速買ってきて読んでみました。
坂口安吾から始まり夢野久作、芥川龍之介や福沢諭吉と続き、最後は太宰治、さらに「太宰治との一日」を書いた豊島与志雄まで13人の作家の短編15編が収められています。
作品は小説だけでなく随筆も含まれており、文豪といえども酒に関する想いは私たち一般人と大差はなく、酒にまつわるエピソードには、共感を覚える箇所も何カ所も出てきます。
林芙美子の随筆「或一頁」では「随時小酌」という言葉が登場し、酒をたしなむには随時小酌にかぎると書いています。酒を飲みすぎた女性の醜態に対する嫌悪感を述べていますが、こうしたたしなみは今風に言えば「ちょい飲み」あたりになるのでしょうか。最も現代のちょい飲みは、経済的制約や健康志向など、当時の趣きとは大分違いがあるのも事実ですが。
太宰治の「酒の追憶」では、「ひや酒は、陰惨極まる犯罪とせられていたわけである。いわんや、焼酎など、怪談以外には出て来ない。」と新派の芝居のセリフを引用しながら、こう述べています。
日本酒は燗をつけて飲むべきものであり、冷や酒が邪道で下品、さらに焼酎はさらにランクが下だったと言うことですが、これもブランド物の冷酒の日本酒や焼酎などの現代の状況と比較すると、隔世の感がありすぎといった印象です。
さらに同じ太宰の「禁酒の心」では、最後に「なんとも酒は、魔物である。」と結論付けています。この文豪の場合も、何度も禁酒をしようと誓いながらも、その魔力に負けて飲んでしまうという偽らざる心境であったと、同じ酒飲みとして大いに共感する所がありました。
個人的な体験を述べれば、私も若い頃は深酒をして、酔いがさめた翌日に後悔することが幾度となくあり、酒のことを「悪魔の水」と例えたこともありました。
年配になり病気で入院して以降は、酒量も減ってきましたが、それでも禁酒とまではいかないのが、酒飲みの性(さが)とでもいうものでしょうか。
「節酒を心掛けるように」とは、健康診断でよく指摘されることですが、やはり適正な量をたしなむ節酒をしつつ定期的な休肝日を設けてこそ、酒が「百薬の長」と言われる所以ではないしょうか。
ゴッホの犬と耳とひまわり/長野まゆみ
これはもう完全にタイトルに惹かれたやつです。
大好物のアートもの。しかもゴッホ!!!こりゃ読まにゃいかーん!ってなって、ウハウハで図書館から借りてきました。
しかし、長野まゆみさんの本はまだ数冊しか読めていないのですが、わたしが読んだ本はちょっと難しい印象があって、わたしの読解力がないために、途中リタイアしそうになった本ばかりなんです。だから少し不安も覚えつつ、恐る恐る読み出すという…なんともウハウハの真逆をいく心境でもありました。
著者の長野さんは、美大出身ということもあり、マハさんや中野京子さんのようにアートに精通されている方だと思っています。また、わたしと同じく宮沢賢治が大好きで、賢治関連の書籍も何冊かあるんですよー!
やっぱり、賢治、最高だもの。
あらすじ
文化人類学者の河島より、手稿の翻訳の依頼を受ける「ぼく(小椋弥也)」。100年以上も前に存在した1冊の家計簿。それは家計簿の役割を果たしてはおらず、殴り書きしたような速記でクセ字でかなり読みにくいものだった。そして、最後の記述につづくのは「Vincent van Gogh」のサイン。
もしもこの手稿がゴッホ本人が記述したものなのであれば、大変な価値がつく。だが、河島はおそらくゴッホ直筆のサインではないであろうとの見解を示す。
しかし、この100年以上も昔に存在したであろう家計簿の元の所有者であり、入手経路なんかを考えると、もしかしたらゴッホ本人が所有していた家計簿である可能性も捨てきれないという。果たしてゴッホ本人のものなのか、贋物なのか。そして、作者不明で個人出版されたであろう、ある1冊の古い絵本の存在が鍵になってゆく…。
やっぱり少し難しかった。専門的な記述が多いんです。どんなかというと、カビとか金(moneyでなくgoldの方)とかキノコとかインクとか紙とか石榴とかとかとか………たーくさんっ!もう読みごたえ満載すぎます。頭使いましたー。笑
もちろん、筆跡のこと、ゴッホの生涯のこと、弟テオのこと、テオの嫁のこと、ゴッホが亡くなったあとのことなども、詳しく書かれています。が、脱線し過ぎなんじゃないですかっ?!と言いたいくらい、ゴッホから離れていくんで、どうしたこっちゃ?!と思いながら読んでいくと、なんとまあ、全てが伏線のようなものでした。嬉しいことに、賢治だって3回か4回くらい登場しちゃうんですから!
でも、難しいだけでは終わらず、小椋家の家族として迎えられる、当たり屋をしている野良犬「ゴッホくん」と、弥也の母「すみれさん」はものすごーくいい感じ。
あとは喋りだすと止まらなくて、脱線しまくりの河島先生、河島の孫 兼 助手の海一、海三(名前のセンス!笑)、家計簿と絵本の謎を結びつける謎の「森口女史」など、魅力的な登場人物が多いのですが、ゴッホくんとすみれさんを除き、みな頭が良すぎて、専門的知識が飛び交うので、面白くもあり、難しい…って感じでした。
この登場人物たちの実父や、先祖たちの出世の秘密なんかも、この謎に絡んできて思わぬ繋がりが発覚するところなんかも見所(読みどころ)かもしれません。
100年以上もの昔に1冊の本にも歴史があって、様々な経路をたどって、オランダからパリだとかフランスだとかに渡り渡って、上海にたどり着き、終いには日本のある人物の手元へ渡るというのは、なんともロマンを感じました。所有者が歩んできた人生の傍らに、相棒のように寄り添い、携えられていたのでしょうか。
本が辿るあしあともまた、考えてみると、とてつもなく魅力的であり、この上なく不可思議なご縁を感じるなぁと思いながら読み終えました。
大佛次郎『宗方姉妹』(1950)
標記は、小津安二郎監督作品で有名な『宗方姉妹』(1950)の原作小説ですが、今年が大佛次郎氏の没後50年、そして小津安二郎氏の生誕120年及び没後60年という節目に当たることから、作者が最晩年に病床で加筆した「序の章」を加えた決定版として、巻末に随筆「映画「宗方姉妹」を見て」を増補して改めて刊行された文庫です。
物語は、戦時中に満州での都市づくりに賭けた技師であった三村亮助とその妻である節子、および大連に生まれて教育を受けたその妹の満里子、さらには公職追放を受け、尚且つ死を前にして生きる二人の父親である宗方忠親らを通じて、敗戦後の日本人の生き様を描いた作品です。
映像作品では、宗方忠親(笠智衆)の娘である古風な生き方を通す田中絹代さん扮する姉の節子と、そんな姉に反発する高峰秀子さん扮する現代的な妹の満里子を中心に、節子の夫である三村亮助(佐分利信)の人生の挫折と、その対極に位置して登場する昔の恋人である田代宏(上原謙)との再会に揺れ動く節子の心情を通して、敗戦後の変わりゆく家族の姿を描いています。
しかし、この小説では、映像作品には観られない戦争の影が色濃く覆われていることがわかり、大佛氏も「映画の「宗方姉妹」は、小津君の「宗方姉妹」である。私の「宗方」であって、また、そうではない。映画は小説から離れて独り歩いているのだ。」(随筆「映画「宗方姉妹」を見て」『日附のある文章』所収)とも述べている通り、あくまでも別作品であるという印象を受けました。特に映像作品では脇役での登場だった高杉早苗さんが演じたパリ以来の田代宏の恋人である真下頼子が、生き生きと描かれていたことには魅了されました。
加筆した「序の章」では、本編と大きな違和のある描写として満州国安東の副市長だった三村亮助が、敗戦の年に満州から引き上げる過程で遭遇する、戦時中の悪行を重ねた日本人の町会長か防護団長と思しき男を、女性たちがリンチにかける場面を生々しく描いています。
その点を、先日取り上げた『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』(2011)の著者である與那覇潤氏がこの文庫解説で触れているのですが、この作品の背景となっている舞台が満州であるという設定から、村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』と響き合うモチーフを持っていると説いていたことに目を留めました。
その意味では『ねじまき鳥クロニクル』を「日本人にとっての大陸進出をどう描いたか」という観点から読めば、この作品も不倫の香り漂う軽めの恋愛・風俗小説として括るのではなく、そこには「満州国の崩壊」という主題が横たわっているということが取り出せるようです。その意味では、ここで描かれた宗方忠親のように公職追放された戦犯たちが「逆コース」として公職に復帰し、戦後の日本の政治経済や社会の動きを見るとき、特に彼らが活躍した「満州国」の存在は再検証すべき事項なのかもしれません。その点を含め與那覇潤氏は次のように述べています。
「『宗方姉妹』の三村は戦後、満州時代に用意してもらった名ばかりの職を除けば失業状態で、妻がやりくりするバーの経営に興味を持たず、虚脱した意識で無為な日々を送る。『ねじまき鳥クロニクル』でも仕事と家族を失った主人公は自我喪失に陥るか、彼の敵として描かれるのは、海外から借りたポストモダン思想を振り回してメディアで活躍するスター言論人の義兄(バブル期のニューアカデミズムがモデル)で、やがてそのルーツに満州国が関わることが明かされてゆく。(中略)『宗方姉妹』の三村亮助に刻み込まれた大陸開発の幻想は、日本国内にダウンサイズした形で戦後昭和にも反復され、それから行き詰った後に『ねじまき鳥クロニクル』の平成が訪れる。」
今点を踏まえ、村上春樹氏を「日本の純文学の高度な達成の先端に位置する硬質な小説家の系譜に連なっている」(加藤典洋『村上春樹は、』むずかしい』)と評価するならば、標記作品と協調しながら『ねじまき鳥クロニクル』も、29年ぶりに改めて再読しようとも思っています。
『殺戮の狂詩曲 ラプソディ』中山七里 著
昨年、中山七里さんの御子柴シリーズを読んで久しぶりに面白いシリーズにハマってしまいました。
最近は単行本を買う事はなかったのですが、いつ文庫本になるかわからないのでネットで予約注文しておきました。
物語は、高級老人ホーム『幸郎園』で発生した令和最悪の凶悪事件。
容疑者は『忍野忠泰』44歳。
忍野は柳刃包丁で入居者9人を次々に刺殺。
木更津拘置支所に収監されている忍野は面会に来た御子柴に弁護を依頼する。
高齢者施設での殺人事件と言えば、まだ記憶に新しいあの『やまゆり園』事件を思い出しますよね。
本当に痛ましく悲惨な事件でした。
また、葉間中顕さんが書いた『ロストケア』もやっぱり訪問介護センターの職員が高齢者を殺害した事件をテーマにしてますよね。
今、映画が上映されてますよね。
一昔前は男女の憎しみとかを描いたミステリーが多かった気がしますが、最近は、少年事件やこう言った高齢者への虐待などを取り上げた作品が見受けられます。
これも少子高齢化の一つの問題点かもね。
「ただいま、お酒は出せません!」
長月天音
新宿駅直結の商業ビル〝シンジュク・ステーションモール〞の中にある〈カジュアルイタリアン・マルコ新宿店〉は、ピザをメインとするカジュアルイタリアンを展開している。
「明日から休業です。
しばらくの間、自宅で待機してください。」
コロナ禍による緊急事態宣言で、お店は休業となる。
主人公六花は、このお店でベテランフロア係として、パートで働いている。
六花は独り暮らしの中、孤独を深めていく。
休業が明けても客足は戻らず、課題は山積だった。
「不要不急の外出は控えてください」
レストランは、不要なのか。不急なのか。。。
人々が飲食店など不要だと思ってしまったら・・・
六花は店の立て直しに奮闘する。
あの頃、未知のウイルスに対して、皆本当にこの先どうなるのかがわからず、不安や恐怖の中悶々としていて、生活も仕事も難しいことが多かったなぁ。
三密、ソーシャルディスタンス、クラスター、濃厚接触、パンデミック、ロックダウン・・・
コロナによる様々な制限が記憶に生々しいこともあり、当時の状況に思いをはせながら、懸命に走り回る六花の姿を応援してました。
レストランって、いったい、何だろう。
迷走しながらも、少しずつ前を向いて進んでいく六花達。
コロナという未知のウイルスに対して、一番パニックになっていたあの頃、同調圧力の気配が世の中にずしりと広がっていて、最も打撃をうけた業種の中の1つである飲食店の皆さんは、こんなに辛く大変な日々を送っていたのだ。
「世の中が変わっても、失くしてはいけないものがある。それは人と人との交流である。」
六花の言葉が胸に響く。
コロナ禍の中、苦境に立たされたイタリアンレストランで働く従業員が、孤軍奮闘するお仕事物語です。
初夏の訪問者
吉永南央
五月の風が、心地よくある季節、街路樹の若葉。紅雲町にやって来た、五十過ぎくらいの男..ある日 彼は、小蔵屋に来て 草 (そう)に告げた、「私は良一なんです」3歳で亡くなった草の息子、良一。男はなんの目的で良一を名のるのか?ーーそれとも
第1章 初夏の訪問者
       〜
第5章 風ささやく
不思議な感じの物語に魅力される一冊でした。
吉永南央  1964年埼玉県生まれ
太陽の棘
原田マハ
終戦後の沖縄。米軍の医師・エドワードはある日、画家たちが暮らす集落ーーニシムイに行きつく、、言葉、文化、そして立場の違いを越えて交流を深めていく…だか、そんな美しい日々にも影が忍び寄る。
〈私たちは、互いに、巡り合うとは夢にも思っていなかったーースタンレースタインバーグ〉
  実話をもとにした感動作です☺️
「ゴールドマン家の悲劇」
ジョエル・ディケール
主人公はマーカス・ゴールドマン。職業は小説家。
彼の伯父と従兄弟に悲劇が訪れるが、それは一体どんな悲劇だったのか?過去と現在を往復して、悲劇の真相に迫る。
同著者の「ハリー・クバート事件」のシリーズ2作目に当たるが、前作を読まなくても全く問題なし。
前作と共通するのは、主人公が敬愛する人物が実はあまり尊敬に値しない、卑小な人間であったということ。
どれだけ富や名声を得ても上には上がいるし、どれだけ人格者に見えても、嫉妬に駆られて愚行を犯してしまうこともある。
「他人の芝生は青い」とはよく言ったものだが、物質的豊かや名声に固執せず、人と比べず、自分の軸を持って生きることが自分を幸せにするんだな…という感想を持った。
辻真先さん「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」
2020年に発表されたこの作品。
同年の年末に発表されたミステリランキングで三冠を達成するなど、作者の年齢(この時点で88歳という高齢!)も相まって何かと話題になりました。
文庫化を待ちわびてようやく入手したものの、シリーズものであることに気付き、前作「深夜の博覧会」を慌てて読み終えたという経緯は、前回の投稿で書かせていただいた通りですが、ようやく「憧れの人に巡り合った」感覚で読み進みました。
前作でシリーズの作風に馴染んだせいか、はたまた12年という年月が戦前から「戦後」になったせいかはわかりませんが、前作よりはかなり読みやすく感じて、サクっと読み終えました。
読後の感想としては、すごく上質の青春ミステリであり、「終戦直後」という時代背景(残念ながらその時代にはぼくは生存していませんので、あくまでも伝聞でしかありませんが笑)が活き活きと描かれているのではと思います。
作者がこの作品の発表時点で、ご高齢であることが不思議なようで、「なるほど」というようでもある、何か「凄い」作品です。
また、後で書きますがタイトルが、作中である登場人物が語る言葉から来ているのですが、間違いなく「ある時期を知る人」でないと、この感覚は理解できないような、重みのあるものであることも、やっぱり「凄い」な~って思わせる名作だと思います。
ま、感心ばかりしていないで、作品の紹介をさせていただきますと…
主人公は、推理小説家を目指す少年風早勝利。
前年まで旧制中学の5年生あったのが、進駐軍の進める6・3・3制にするという教育改革のために、急遽「高校三年生」に編入される。
また、男女共学が推進され、それまでの「男女七歳にして席を同じゅうせず」の風潮が急に崩され、社会全体が戸惑いを隠せないながらも、明らかに時代が変わってきた、そんな時代背景。
勝利(通称カツ丼)が部長を務める推理小説研究会と、映画研究会の部長である大杉日出夫は友人同士で、趣味を同じくすることもあり、二つの研究会は部室を共有し、活動していた。
そんな夏休みに、両部の顧問を兼ねる別宮操教員(前作でも登場した謎の多い人物です)の提案で両部の部員5名で「修学旅行」と称して、温泉旅感を訪れる。
しかし、早々に現地で鍵のかかった建売住宅で勝利たちは撲殺された死体を発見することに。しかも、完全に施錠され、内部から脱出できない密室であることに興味を抱く勝利たちであるが、その後文化祭の準備に追われる彼らが台風の夜に校内で、床に転がる生首を発見し、その後切断された死体が見つかる。
密室殺人とバラバラ(解体)殺人。
二つの事件の謎を解くため、別宮は前作「深夜の博覧会」で名推理を披露した那珂一兵に協力を要請する。
そして、関係者を構内に集めて、一兵が事件の謎について語り始める。
驚くべき密室殺人のトリックと、バラバラ殺人の謎を解明する一兵。
そして、彼が指し示す意外な犯人の名前は…
というようなお話なんですが、実はこのお話、勝利が事件をベースに書き上げた「推理小説」という体裁となっていて、かなり早い時点で彼(勝利)が「犯人は、お前だ」と指し示す記述もあり、ラストまで読むと、構成の面白さも楽しめます。
さて、この雑文の冒頭のあたりで「タイトルが」というようなことを書きました。
最初、「何て傲慢なタイトルなんや」と思いましたが、実は関係者(ま、書いてしまうと被害者の一人)が、戦争によって何百万人もの人が殺されたことに比べて、ひとりや二人を殺したことくらいは、「たかが」という認識から来ているもののようで、この時代設定ならではのものでしょうし、このタイトルが犯人の動機に大きく関わって来るという設定も、「なるほど」と頷けるのではないかと思います。
ということで、この「昭和シリーズ」
次作「馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ」も既に発表されていて、また、那珂一兵と風早勝利の活躍が読めるようで、文庫化が待たれるところです。
余談ですが、第一作が「昭和12年の探偵小説」、本作が「昭和24年の推理小説」ときて次が「ミステリ」となるわけです。
本作の中で、「探偵小説」が「推理小説」に変わった経緯が語られていますが、そのあたりも「そうなんや」と初めて知った次第で、ミステリマニアも、「年の功」には及びませんでした😅
とにかく色んな意味で「面白い作品」です。
ミステリ三冠もダテではないことを、是非楽しんでいただければ😃
小犬を連れた男
ジョルジュシムノン
  刑期を終え、出所したばかりのフェリックスアラールは、小犬のビブを唯一の友としてパリの質素なアパートで暮らしている。彼はそれまでの人生を丹念に記述しはじめる…その過程で新たな疑惑と苦悩が心に兆してくる。
夜の散歩、小犬の愛らしさ、そして主人公の孤独と狂気、、そして悲劇が訪れる。
犬好きだった、シムノンが唯一、犬を登場させた名作です☺️
ーージョルジュシムノン  
  フランスの小説家、ベルギーの貧しい家庭に生まれた 15才で学校をやめ、菓子屋、本屋などに勤めた後に16歳で地方紙の記者になり、17歳で処女作「めがね橋で」で作家デビュー。
〈メグレ警部シリーズ〉は、各国語に翻訳されて世界的な名声を博す  世界中の発行部数は5億冊を超え、聖書とレーニンを凌駕したといわれる。ジッドは20世紀 最高の作家のひとりに数えている
花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」
本のタイトルがやたらと長い本書は本グループでMoroi Katsuhikoさんが紹介されており、興味を持った。過去に、女性が出会い系サイトでの体験談を綴った本を読んだことがある。それと同じで、男女間のドロドロした人間関係を赤裸々に書いた本なのかと思って、読み始めたら、とんでもない。明るくて、必死で、前向きだ。何度も、涙が出るくらい感動した。加えて、相手にお勧めする書籍が興味深い。書店に携わる人たちは本好きが多いと聞いていたが、私の想像をはるかに超えるレベルだ。本書により、これから読みたい本がたくさん見つかった。本好きには、たまらない収穫であり、喜びである。
『箱根駅伝ナイン•ストーリーズ』生島 淳 文春文庫
日本のスポーツイベントとして最大の人気を誇る「箱根駅伝」。早稲田、中央、明治などの古豪の他、山梨学院、駒澤、東洋、そして初優勝を遂げた青山学院まで、まさに群雄割拠の戦国時代。大学生たちの涙や歓喜の裏側にどのような物語かあるのか(背表紙の書評より)。
毎年楽しみにしている箱根駅伝ですが、中継される2日が終わった後から、もうすでに次に向けて準備、次への挑戦が始まっているんだろうなと感じた作品です。今は名監督者として名が通っている原晋監督の、選手時代の失敗、後悔がなければ、青学の強さは生まれなかったと思います。そして酒井監督が東洋大学から声がかかった時2ヶ月苦悩して最終的に引き受けた場面、伝統を守るため中央大学がどれほど努力してきたかetc.箱根駅伝は総力で戦うものなんだと知ることができました。
「キン肉マン 四次元殺法殺人事件」
おぎぬまX : 著  ゆでたまご : 監修
漫画ではありません。小説です。ミステリー小説です。しかも面白かった。シンプルに面白かったです。4話からなるショートミステリーのそれぞれが起承転結をたどっていて読みやすく、ちゃんと超人の特性が活かされたミステリーで、キン肉マンファンの僕にとってはミステリーなのにワクワクしちゃいました。まだまだ特徴を持った超人は山ほどるんで、第二弾、第三弾を期待したくなります…と同時にひとつ苦言を言わせてもらうなら、僕がそうであるように、この当時のキン肉マンに胸を熱くした少年たちは今やおよそ40代〜50代の世代になっています。そんな大人が読むにはちょっとミステリーが軽いですかね…キン肉マンの世界観でもっと重くガッツリとしたミステリーであって欲しいと思いました。ミステリーが進化することも願って第二弾、第三弾を期待したくなります。
とても楽しい一冊でした。
堤未果さんの『日本が売られる』(2018年、幻冬舎新書)。
裏書きはこんな感じ。
水と安全はタダ同然、医療と介護は世界トップレベル。そんな日本に今、とんでもない魔の手が伸びているのを知っているだろうか?法律が次々と変えられ、米国や中国、EUなどのハゲタカどもが、我々の資産を買い漁っている。水や米、海や森や農地、国民皆保険に公教育に食の安全に個人情報など、日本が誇る貴重な資産に値札がつけられ、叩き売りされているのだ。マスコミが報道しない衝撃の舞台裏と反撃の戦略を、気鋭の国際ジャーナリストが、緻密な取材と膨大な資料をもとに暴き出す!
4年半ほど前に出た一冊ながら、その内容は全く色褪せていないどころか、ここ現在に於いて更に輝きを増していると言えるでしょう。
むろん、日本という国にとっては不愉快な皮肉でしかないのですが…。
ビジネスマンの父より息子への30通の手紙
ビジネスマンとして成功した父が
 実社会へ出ていく息子への
30通の手紙で構成されている
結論は
目標の志と誠実さを維持して
 挑戦と決断を繰り返し
 全力を尽くして達成すれば
 真の幸福が得られる
【感想・行動】
 やはり貯金より貯信だなと
 改めて思ったよ。
 子どもに残したいこと
 財産よりも自分が生きることで
 学んできた知恵
 正解はないので
 お母さんはこうだったということ
 こうやって手紙として
 子ども達に送るのっていいですよね
 人生の転機を迎えるたびに
 送れるのっていいですね。
池波正太郎「スパイ武士道」(1967年)
主人公・弓虎之助は一見めだたない勘定方の武士だが、裏の顔は幕府直属の公儀隠密。与えられたミッションは筒井藩に潜入し内情を探ること。そこで藩の重鎮・堀口左近に接触を試みるが・・・
発表年からして007シリーズに影響されて書かれたのかな、スパイ小説風味の時代物です。池波先生の代表作ではないのかもしれませんが、ルーティン通りに話は進み、サクサク読めます。任務と私情との板挟みになる主人公もまぁお約束だけれど上手く描かれている。
藩内政治の駆け引きも現代のサラリーマン処世術になぞらえていて、「半沢直樹」のスタッフでドラマ化すると面白そう。
『サスペンス小説集 殺意』 井上靖 中公文庫
戦中戦後のサスペンスと云えば、松本清張…
『敦煌』『しろばんば』で有名な文豪 井上靖がサスペンス小説を書いているとは…その興味でこの一冊を手にしました。
『殺意』『投網』『驟雨』『春の雑木林』『傍観者』『斜面』『雷雨』『二つの秘密』『ある偽作家の生涯』
『殺意』は,中卒で集団上京した少女の抱いだ殺意は、誇りによるものだった。
『投網』『雷雨』は、少年時代を同郷で過ごした男のその後の世界が大きく変わった者が抱くコンプレックスや羨望が無言で…又は本人に届かない声で怨み続ける。
『二つの秘密』娘は本当に自分の子だろうか?優秀な我が社の課長は俺の秘密の子供だ。妻は知っているんだろうか?恐ろしい秘密が27年後明かされるのだろうか?
どれも生々しい殺人の現場は表現されないが、秘密のベールを一枚づつ剥がされるような怖さとやはり品の良さ,人の良さが表現されている。
戦争の影が戦後しばらく続いていたそんな時代のサスペンス…おすすめですよ。
『名探偵のいけにえ』
 白井智之
昨年のミステリーベスト1を総ナメした作品なので期待して読んだのですが‥…
物語は病気もケガも治す奇跡の楽園を作った新興宗教の教団に、調査に出向き 戻らない助手達を探しに乗り込んだ探偵大塒は、次々と不審な死に遭遇する。現地に生存していた助手らとともに、理論を武器にカルト教団の妄信に立ち向かう!
はたして探偵大塒達は無事に戻れるのか?
この手のミステリー物は、有り得ない設定でも謎解きに正当性あり納得出来て、展開がスリリングで、やはり最後に「じゃーん」と引掛けありのドンデン返しに「やられました」とくると満足するのですが。
う〜ん、殺人犯の大塒の謎解きが二点三点する展開は理解出来るのですが、いかんせん長い! 読んでていい加減面倒くさくなり興醒めしてしまった!
また、ラストのお決まりのドンデン返しも、「ん?」と納得いかず、何故この作品が各賞を総ナメしたのか分からない。
むしろ本作と競った「方舟」の方が何倍も面白かった。
この本のファンの方には申し訳ないが、僕には期待値高かっただけに落胆度高かったです。
藻屑蟹
赤松利市
 その日、事態は決定的となった。
メルトダウン、そして原発建屋の水素爆発。
福島の地方都市で燻っていた木島雄介はパチンコ屋の仕事に見切りをつけ、友人に誘われた除染の仕事で浮上を図るが…。
 除染作業員の過酷な日々、原発避難民たちが手にした巨額の賠償金、原発行政を支えるための闇のネットワーク。真実かフィクションか渾然となって重い現実を突きつけてくる。
 除染作業員として働いた経験に基づき、住所不定暮らしで書き上げたという、これぞプロレタリアハードボイルド!
大藪春彦新人賞受賞作。
心淋し川ーうらさびしがわー
西條奈加
第164回直木賞受賞作です✨✨✨
淋しい時に淋しいと感じ素直に言える。
そんな人がうらやましい
残りの人生では、意地を張らずに恥ずかし
がらずに大切な人の前では素直で居たいと
思う…とっても難しいけどね☺️
🏞
「心淋し川(うらさびしがわ)というそうだ」
「趣があるのは名ばかりで、汚い溜まりだと知って
がっかりしたでしょ?」
「…誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよぼど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね。」
                                                         〜本文より🌟
"心淋し川"
"閨仏"
"はじめましょ"
"冬虫夏草"
"明けぬ里"
"灰の男"
同じ長屋に暮らす6人の町人のお話です
わたしは、江戸時代の小説が大好物です😋😋😋
いつも懐かしく感じて、自分がそこに暮らすように
感じてそして切なくなる…
あっと言う間に読書トリップへ〜⛴🌊🌊
"ちほ"は酒ばかり飲んで働かないおとっつぁんが
嫌いだ。おっかさんは愚痴ばかり、生計を立てるための縫い物も大の苦手とくる…
不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。"りき"はそんな六兵衛と暮らすようになって14年経つ。自分以外にも3人の女がいて同じ長屋に暮らす…
"与吾蔵"は境内で遠い昔に捨てた女がいつも歌っていた歌が聞こえてきた。歌っていたのは7才の女子。もしかしてあの時の腹の子か…
最愛の息子とその嫁の仲を裂き、歩けなくなった息子の世話を至上の喜びとする"吉"…それは愛なのか
親の博打のかたに"よう"は遊郭へ。好いた相手と一緒になれたものの自分の口の悪さから素直になれない。
そんな時昔の"明里姉さん"と再会し…
差配の"茂十"には二本差しだった過去がある。長屋の住人に気づかれることなく12年もの月日が流れ…
🏞
やるせない気持ちになるお話もありますが、
小さな幸せを精一杯に感じて生きる人々の暮らしが
描かれていて読んで良かったなぁと
思わせてもらえるお話達でした💓
どんな時代も変わることなく続く暮らし
お勝手仕事や自分の生業で暮らす人々の
お話を読むことで、別の自分になれたように
思えました❣️そして今回の読書旅行も大成功✈️🌤
ほんとは今日から3日間旅行の予定だったの
だけどキャンセルに( i _ i )
代わりに1人で読書旅行やよー(暴走気味やで)
西條さんは女性の心情をうまく表現されていますよ✨✨✨
江戸時代のお話、時代ものですが敷居は高くないですよ〜💓💓💓

「影武者徳川家康」。隆慶一郎による時代小説です。

徳川家康が実は関ヶ原の戦いで西軍により暗殺され、影武者と入れ替わっていたという内容で、「静岡新聞」にに1986年から1988年にかけて連載され、1989年に新潮社から上下巻で刊行されました。この作品は第8回日本冒険小説協会大賞特別賞を受賞しました。その後、原哲夫によって1994年〜1995年に「週刊少年ジャンプ」にて漫画化され、また1998年にテレビ朝日系でテレビドラマ化され、また2014年にテレビ東京系にて「新春ワイド時代劇」として再ドラマ化されました。

◉ 小杉健治 著 『 もうひとつの評決 』
祥伝社文庫 2023年2月23日発刊 364P
裁判員制度をテーマとした『 家族 』に続いて、今回の一冊も裁判員裁判を舞台にしたサスペンスが綴られる。
小杉氏は、そんな裁判員制度の問題点を鋭く指摘している。
被告人の木原一太郎は、30歳間近の弱々しい男だ。
木原が起訴された事件とは、出会い系サイトで出逢った美人の並河留美子と、その母親の富子の二人を刺殺したことだった。
これまで女性と一度として付き合った経験がなかった木原は、優しく接してくれた留美子に好意を寄せる。
そのうちに留美子から50万円、150万円を工面してくれと頼まれ、木原はそれに応える。
そして3回目の要求額は300万円となり、木原は300万円を用意して母親と同居している留美子宅へ向かった。
そこで何らかのトラブルが起こったのか、木原は親子を刺殺した犯人として逮捕、起訴された。
警察の取り調べでは犯行を自白していたにもかかわらず、法定の証言台で「私は殺していません」と涙を浮かべながら訴え、一変して犯罪を否認した。
木原は無罪なのか有罪なのか、物語は進んで行くのだが、事件の内容は意外とシンプルで、サスペンス好きの読者には舞台裏を想像するのは容易いかも知れない。
だがそこは小杉健治氏が綴った裁判員裁判の物語だ。
主題はこの裁判員裁判の制度に焦点を当てた内容となっている。
裁判員裁判が始まる前に、公判前整理手続で、裁判長、検察官、弁護人の三者で、争点が洗い出されているというところに問題点があると、小杉氏は主張したかったのだろう。
裁判員を含めた審理は、この公判前整理手続で提出された証拠を土台にして行われるのだ。
もしも新たな証拠や問題点が審議中に出たとしても、その裁判では再調査を行うことは無く、あくまで公判前整理手続で出された要素だけで審理を進めなければならないのだと云う。
選ばれた六人の裁判員も、当然公判前整理手続で決められた範囲内での審理を要求され、新たな推理や意見などを述べることは許されない。
もしも警察・検察の取り調べがずさんな内容で公判前整理手続を終えたならば、冤罪の可能性が生じてしまうとの危惧を読者は理解することとなる。
もし裁判中に明らかな新証拠や真犯人が出たとしても、被告人は即解放とならず、控訴審で無罪と明らかになるまでは拘留されるという、とても理不尽な制度なのだと私は理解した。
未だ全てが解決していない袴田事件も、冤罪事件として歴史に残る汚点を露わにしたばかりだ。
検察、裁判長、弁護士の三者が、緻密な裏付けのある証拠と状況を検討し尽くした完璧に近い公判前整理手続でなければ、禍根を残す判決が下る可能性があると小杉氏は云えている。
小杉氏は、裁判員の一人である堀川恭平に、裁判員制度の矛盾と問題点を体験させている。
判決後は、疑わしい事案が明らかになっても微動だにもしない裁判所、検察の実態を描いている。
無実を主張する被告人は、控訴して新たに審議を要求する以外に道はないのだ。
堀川恭平は、自分たちが下した納得のいかない判決に対して、徹底して事件の真相を追い求める。
読者が求める事件の真相解明を、正義感溢れる堀川が読者に代わって真犯人を追い詰めるのだ。
ウ~ンッ、堀川恭平は正義の味方だ。
完全恋愛    牧薩次著    小学館文庫    2011年3月発行
牧薩次さんと言ってもご存知ない方が多いでしょう。あの辻真先さんの別ネームです。著者名がアナグラムになっています。
本書は2009年の「本格ミステリ大賞」受賞作です。恋愛ミステリですね。
冒頭の言葉を引用します。
「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ  では  他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」
戦後洋画界の巨匠と呼ばれた柳楽糺(なぎらただす)こと本庄究が主人公。彼が生涯を通して愛した女性への愛情物語ですが…
舞台は戦後まもない福島の山奥。家族を空襲で亡くし、中学で伯父の家に引き取られた究だが、後に離れに住む画家小仏の娘、朋音が都会からやってくる。
そして、温泉宿を営む伯父の家にやってくる進駐軍。そこの大尉は執拗に朋音に言い寄るが、そこで発生した殺人事件、でも凶器が見つからない…
ここから始まる、時代を飛び越えて3件の殺人事件。その中心にいたのはいつも究。
**************************
良いですね、このお話。夢中になってしまいました。トリックもお見事ですが、設定も相当、凝っています。
後半に登場する真狩火菜、藤堂魅惑、大関刑事など、みんなキャラクターが際立っています。
でも、最初の仕掛は途中で分かってしまいました。流石に全貌までは分かりませんでしたが…
後でもう一度読み返すと、確かにあちこちに伏線がいっぱい貼ってありましたね。
それでも、物語に引き込まれます。展開が早いので、次々と時代が移り変わります。
そしてストイックな究がいじらしくもなってきます。なんせ、これは恋愛ミステリですからね🤔
茶色の朝
物語:フランク パヴロフ 
訳: 藤本一勇
帯に在るよう「フランスの政治を動かしたベストセラー寓話」に高橋哲哉さんがメッセージを寄せている。
多くの人が知っていると思うが内容は…。茶色が正しい犬や猫だと他の色のペットは飼えない制度になり、可笑しいと思いつつも自分の生活に影響がないので何も言わないでやり過ごす。結果、社会全てが茶色に染められ、取り返しの付かない社会が作られていく。人は考えることを止めたら終わる。特に事なかれ主義の日本人にはとても危険な事を注意喚起してくれている。
46頁しかない絵本の様な本だけど、訴える内容は厳しく自分さえ良ければ等ど生きていてはいけないと教えられる。考えることを諦めてはいけない。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げればあの女と子供を殺す」=裏表紙より=
「あの女と子供」とは、主人公の天才スリ師がスーパーで見かけた、子供にスリをさせている親子の事です。
「完全に万引き警備員にバレてる❗️」
何故か放って置けなくなりなり、近づき、
「今日はこのまま置いて帰るか買え」
と教える。
子供の服は所々破れていて、女の服も決して良くない。
そして、子供の肌には虐待❓のような痕が…
その後も、この二人とは関わりを持つようになる。
何故か❓
子供は自分の子供時代と重なり、女は昔の女と重なったから…
天才スリ師ともなると、闇社会に足を突っ込んでいるようなものです。
上層部の人間と直接関わりがなくても、ほぼ全てを知られています。
「何故、僕の事を知ってる❓」
だから、親子の事も知っている…
果たしてこの三つの仕事を、天才スリ師は成功させる事ができるのか⁉️
スリのワザの細やかな描写が凄い❗️
ページ数は少ないけど、中身は濃いです。
是非‼️
掏摸(スリ)       中村文則
「よろず御探し請負い候」
          浅野里沙子
本の帯に、
物、人、そして心まで。何でも探す凸凹三人組。
という表記があり、興味を持ちました。
あらすじ
江戸で「御探し物請負屋」をやっている藤井文平は元服前の16歳。
その上背も低いし、女のような顔なので幼くみられやすい。
ひょんなことから優男の森川哲哉と巨漢の本田岩五郎が、手伝う事に。
文平はなぜ御探し物請負屋を始めたのか。哲哉達がなぜ手伝ってくれるようになったのか…
江戸の探偵物だけでなく、江戸らしく人情物でもあります。
ろう者の10人のうち9人が何らかの差別に遭遇した経験がある。
はっとさせられる数字です。
ろう学校へ向かう電車に乗り合わせると、彼等が楽しそうに流暢な手話で話している姿を見かけたこと位。でしか、正直ろう者と出合った記憶もありません。私も、どこかで差別につながる行動をしていたかもしれません。わからないから、理解がないこと。
みんなの手話を見て、ちょっとだけ手話がわかるようになった今だから手に取ることができた本かな、と思います。
ろう者がいること、手話という言語があること。
聴者ができること、ちょっとはありそうです。
宇佐美まこと
「るんびにの子供」
「幽」怪談文学賞、短編部門、大賞受賞作の本作は五篇の短編からなっていますが、いずれの作品も人間の心理の闇を巧妙に描くことで成り立っており、手応え十分の読後感はなかなか得難いもので大賞受賞も納得の読後感でした。作者の全著作を完読しているわけでは無いのですが、この最初期のホラー物から、その後ミステリー、ファンタジーとカテゴリーを広げて創作を続けておられ、同様のジャンルの作家小野不由美さんのファンでもある私としては、これだけの筆力とストーリー構成力を持つ、宇佐美まことさんの吸血鬼物を読んでみたい気がします。
「俳優のノート」 山崎努
演劇関係者はもちろん、表現に関わっている
すべての人に読んで欲しい、名著です。’
名優がリア王の戯曲をどう読み解き、
演技をしていくかをつぶさに描いている。
あとがきで香川照之が「あなたがもし俳優ならば、
あなたは即刻この本を教科書と指定すべでである」
と記しているが、戯曲を読むとはどういうことか、
演技をするというのは何なのか、を深くえぐられ、
唸るほどの名言が散りばめられている、
類まれなる本です。
少し長くなるけど、その一部をご紹介。
 
「ある感情から次の感情に飛躍することが
日本の俳優の苦手とするところで、これが劇の
ダイナミズムを損なう最も大きな原因である。
ドラマチックということはダイナミックと
いうことであり、ダイナミックでなければ
ドラマチックではない。
感情の沼に溺れ込んで、ぬくぬくべたべた
めそめそと、まるで羊水の中に留まっていれるだけの
自己充足的感情お化け芝居は劇ではない」
 
「当初から目指していた演技のダイナミズムが
実現しつつあるように思う。感情のアクロバット。
日常ではあり得ない感情や意義の飛躍を楽しむのだ。
しかし、基本にあるのはあくまで日常の感情だ。
日常の感情を煮つめ、圧縮し拡大したものが
舞台上の感情なのである」
 
「演技の修練は舞台上ではできない。
優れた演技や演出を見て、技術を学ぼうとしても
駄目なのだ。その演技はその人独自なものである。
大切なものは日常にある」
 
「やはり人は、皆、己の身の丈にあった感動を
持つべきものなのである。
読みかじったり聞きかじったりした知識ではなく、
自分の日常の中に劇のエキスはある。
我々はそのことをもっと信じなければならない」
 
「四十年も俳優業をやっているのだから、
笑わせたり泣かせたりすることはもう充分に
出来るはずだ。
どのキーを押してどんな音を出すか、充分に
知ったはずだ。
肝心なことは、何のための演技をするかなのだ。
演技をすること、芝居を作ることは、
自分を知るために探索の旅をすることだと思う。
役の人物を掘り返すことは、自分の内を掘り返す
ことでもある。(略)
役を生きることで、自分という始末に負えない
化けものの正体を、その一部を発見すること。
しかし手に入れた獲物はすぐに腐る。
習得した表現術はどんどん捨てて行くこと」
 
「俳優は馬鹿ではいけない。俳優は演出家の
道具になってはならない。
今、演出家主導の芝居がもてはやされている
ようだが、これはとても悲しく淋しいことだ。
我々俳優は森全体を見、そして木を
見なければならない。
自立しなければならない。
そして、演技をひけらかしては
ならない。
登場人物が、俳優という生身の肉体を与えられ、
舞台の上で生き生きと存在すること、それが
芝居の生命なのだ。
戯曲が素晴らしい、演出が新鮮だ、演技が見事だと
観客に感じさせたらそれは失敗なのである。
舞台上に劇の世界を生き生きと存在させること。
ただそれだけ」
 
俳優の話をされてるんですが、いろんなことに
置き換えられる深い言葉だなーと思います。
おそらくこれから何度も読み返す、
大事な本です。
未読の方はぜひ。
【祝祭のハングマン】
【著:中山七里】
 
しっ、私刑執行人だとぉ!?Σ( ̄□ ̄;)
 
《警視庁捜査一課の瑠衣は、中堅ゼネコン課長の父と暮らす。ある日、父の同僚が交通事故で死亡するが、事故ではなく殺人と思われた。さらに別の課長が駅構内で転落死、そして父も工事現場で亡くなる。追い打ちをかけるように瑠衣の許へやってきた地検特捜部は、死亡した3人に裏金作りの嫌疑がかかっているという。
父は会社に利用された挙げ句、殺されたのではないか。だが証拠はない……。疑心に駆られる瑠衣の前に、私立探偵の鳥海が現れる。彼の話を聞いた瑠衣の全身に、震えが走った――。》
 
まだ数冊しか読んでいない中山七里さん。そう、数冊しか読んでいない故なのかもしれないけど…中山七里さんの特徴というか、作風みたいなものが未だ全然掴めていない僕なのです。
作品のジャンルやテーマも幅広く、筆も早い…すごいなぁ。( *・ω・)
本作は、何と言うか…かなりストレートな作品という印象。あらすじの内容の流れでスピーディに駆け抜ける感じ。
ただ肝心の?ハングマンの存在がなかなか見えてこないので、まだかなぁ~とか思いながら読んでいると、あれよあれよのうちに結構な局面を迎える事になる。もうここまできたら、一気に最後まで読んじゃうのが◎かなと。( ´∀` )b
 
主人公である瑠衣の、直情型で思慮が浅く、自制心があまりにも低い性質がどうも苦手でプチストレスになってしまった。( ;゚皿゚)ノ
まぁでもこれについては、僕自身も似たようなところがあるので…同族嫌悪に近いのかも。笑
そんなわけで個人的にはあまり好感が持てない瑠衣なのだけど…そんな彼女であるからこその葛藤や苦悩、そして決断こそが、本作品の見どころと言えるのではなかろうか。
 
法律では裁けない相手にどうしても復讐したいとなったら…僕ならどうするだろう?
えぇと…
 
しょうもない嫌がらせとかを仕掛けて、逆に捕まったりしそう…僕、どんくさいので。
私刑執行、みたいなのは現実世界では妄想の中に留めておくべき…ですねっ!(´д`|||)
●食堂かたつむり
小川糸
久しぶりに、小川糸さんの本を読みました🍀
やっぱりほっこり温かい
読後感も、とろんと心地良い
このお話は
失恋で声を失い、何もかもを失った女性が、確執のある母のもとに戻り、そこでイチから食堂を作り上げ、1日ヒト組限定のお客様たちだけに心を込めたおもてなし、お料理を振る舞い、そうしながら、彼女も少しずつ再生していく物語です🙂
食堂かたつむりに来るお客様それぞれにも様々なドラマがあり、生きてきた理由があり、
 
食材や人の心や、いろんなものが愛おしくなる
そんなお話です🙂
年が明けて3ヶ月
 春になり新しい生活が始まりつつある今の時期に、ちょっと心を温めたい
そんな人におすすめの1冊です🙂
冷たい檻    伊岡瞬著    中公文庫    2020年4月発行
北陸地方にある、ひなびた岩森村で起きた駐在所警官失踪事件を追う元刑事樋口が主役の話。
樋口は17年前、非番の日、妻と3歳の息子を連れて遊園地で遊んでいたが、ベンチのバッグを掴んで逃げる男が…。慌てて追いかける樋口だが、その隙に息子はいなくなっていた…
そして17年後。岩森村で失踪した警官の代わりに駐在員となった29歳の島崎。妻と3歳になる娘との3人暮らしだ。そこへ、やってきた謎の男。それは失踪した警官を探す樋口だった。
しかし、樋口は、その失踪事件が、村にある「施設」で行われていた秘密の実験と関係があることに気がつく。
そしてその施設では、入居老人の転落事故も起きていた。
*************************
もう、登場人物が多い。警官達の他に、村を牛耳るドンの旧村長一派とその反対派。児童養護・青年更生・老人介護の3つの機能をあわせ持つその「施設」の入居者たち。それは子どもたちや、非行青年、その施設で働く施設長や介護士、パート職員など、また、廃れた街のラーメン屋やジャズ喫茶の店主たち、さらには施設の売買に暗躍するブローカーなどなど。大変です。
登場人物が多くて覚えきれないがストーリーは十分掴める。印象的だったのは青年更生施設に入っている巨漢のシンとレイイチ。
この人たちがストーリーにどう絡んで来るのかが楽しみだったが、これは予想通り。
タイトルの「冷たい檻」とはその施設のことらしい。これは事件を追う樋口を主人公とするハードボイルド小説でもあるし、若い警官島崎の成長小説でもあります。
そして、家族を再生していくお話なのかもしれません。
でも、一挙に引っ張っていく力はさすがです。
「異次元の館の殺人」 芦辺拓
図書館で表紙と題名に惹かれて手に取りました。初めて読む作家さんです。
あらすじ
主人公は検事の菊園綾子。
尊敬する先輩、名城政人検事が殺人者として逮捕され、彼の無実を証す為に〈霹靂X〉という科学捜査マシンを頼る。
被害者の成宮明日美は地元財界の肝いりでつくられた私立学園の養護教諭で、その学園の関係者から話を聞くために、ライバルである弁護士、森江春策と共に、住宅を改装した〈悠聖館〉という半会員制のホテルに潜り込む。
そこで新たな密室殺人がおこるが、推理の度にパラレルワールドに迷い込んでしまう…。
感想
科学の話は正直ちんぷんかんぷんで、この話、最後まで読めるかしら…と心配になりましたが、面白かったです!
館をつくった、服部逸太郎男爵が、江戸川乱歩、横溝正史、小栗虫太郎、海野十三…などの探偵小説家と交友があると!それだけでもうワクワク。
菊園綾子が「犯人はあなたです!」と言うたびにパラレルワールドに迷い込んでしまい、登場人物の名前や顔が少しづつ変わってしまうという不思議な感じも奇妙です。推理が当たるまで元の世界に帰れないかも知れないという怖さもドキドキしました。
「透明な迷宮」 平野啓一郎
美しく官能的な悲劇が描かれた作品です。
ハンガリー、ブダペストにある、19世紀末に建てられた古い7階建ての建物。天井の高い、黒一色の部屋で、彼らは全裸で蹲っていた。男女6人ずつ計12人。日本人は岡田とミサだけ。年齢は20代から40代までで、岡田たちと同様、欺されたり拉致されたりして連れて来られた観光客だった。自由を奪われた彼らを、仮面を被った4人の男女が、椅子に腰掛けて見物している。監禁された者たちが命じられているのは、たった一つのこと ーー ここで、見物人たちの目の前で、愛し合え、と。
作品のテーマは、偶然性と必然性。
先行き不透明な時代と言われていますが、インターネットで身近な事柄から世界の果てで起きている出来事までが透明になり、手に取るように可視化されている時代でもありますね。
でも、こんなふうに情報量の多いなかで、ますます私たちはこれからどの方向に進んで行けばいいのか分からなくもなってくる。つまり、透明なんだけれど、迷宮の中にいるような…
こんな世界で、人と人が出会い、恋愛をしたり別れたり…。どこまでが自分の意識によるものなのか、無意識でそうなってしまったことなのか。どこから先が、仕方がなかったこととして受け入れるしかないことなのか。
人を好きになるのに理由はない、というのが自論です。
もちろん、初対面であれば、姿かたちは気になるし、その後、性格・仕事ぶり・趣味などなど、色んなファクターが合う合わないでその人との関係性は変わってきます。
「透明な迷宮」で共感できたのは、その人の中の漠然とした人格全体が好きになるのではなく、あるエピソードを共有したから好きになる、というところ。
よく、特別な状況下で始まった恋愛は長続きしない、と言われますが、今のところ、私には当てはまりません。20年ほど前、日本を離れて、たまたま特殊な時間を共に過ごした「偶然」が、今なお続く、ある意味、特殊な「必然」的な関係性につながっているのかもしれません。
ラストがおもしろい作品です。
いや、コワイ … かな。
恋愛小説とみるか、ホラー小説とみるか。
それは あなた次第です。。

戦争犯罪人として文官でただ一人絞首刑になった広田弘毅の伝記小説を読んでみた。福岡の石屋の倅として生まれ、東京帝大を出てから外交官一筋、父親は家業継がせたかったらしいけど幼少のころから「栴檀は二葉より匂う」で非凡だったらしい。どうも運に見放されたかな...とにかく軍部台頭の時代だった。海軍出身の斎藤(1932-34)、岡田(1934-36)首相の下で外務大臣を務め、軍部とはよくやり合ったし、協和外交を標榜し蒋介石にも大いに評価された時もあった。そして昭和天皇の大命降下により組閣(1936-37)。菅内閣に劣らぬ短命だったが日独防共協定を締結し軍部大臣現役武官制を復活させた。首相になってからは気のせいかあまりやる気が感じられない。軍部との折衝に嫌気がさしたのかもしれない。内閣総辞職後は在野に下るがすぐに呼び戻され第一次近衛内閣(1937-39)で外務大臣を拝命。一か月後には日華事変が勃発。日本は中国と全面戦争に突入。これがのちにハル国務長官が日米交渉で日本側に提示した覚え書(ハルノート)の中でも言及され太平洋を挟んだ日米戦争の遠因になった。

「日曜日の夕刊」 重松清
楽しい日曜日も夕方近くになるとなんとなく切なくなりますね。
ごく普通の市井の人たちや家族が、どんな日曜日の午後を過ごしているか、この短編集をちょっと覗いてみませんか?
特に子育てが終わったくらいの方々には、10年前に子どもと向き合った経験、そこでの苦い思い出などが蘇ってくるかもしれません。
大丈夫ですよ、重松さんはどんな人にも優しいですから。
私のお気に入りは、「すし、食いねェ」です。
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2023年

4月

03日

『おすすめの本・まとめ②』Apex product 読書好き 吉田哲隊長より。

垣谷美雨「夫の墓には入りません」
やはり、垣谷さんの作品は、社会の不安や介護問題などを題材としていますが、やはりリアリティーを感じ、すいすい読めてしまいます。
結婚して、夫の実家・長崎に移り住み、タウン情報誌の編集のパートとして働く、夏葉子ですが、夫が50歳を前に脳溢血で急死します。
それから姑たちは、留守中でも家に入り込んだり、勝手に夫の墓に夏葉子の墓碑銘を彫ったり、引きこもりの義妹の存在、夫の愛人への毎月の送金、押し売り業者などには悩まされる始末。
そんな中、実父が知らせてきた「姻族関係終了届」が危機を救い…。
普通は、早く死に別れた嫁に対し、再婚を勧めるものですが、亡き夫の両親に、自分たちを介護してもらいたい思惑に縛られ、悩み多き夏葉子でしたが、やはり持つべきものは父。
それでも、長年経済的な援助をしてくれた舅夫婦も、ねっから悪気があったのではないでしょうね。
_人生にはいくつもの岐路がある_
かつて日本に存在した、山中をさまよいながら竹細工や川魚漁で生活していたサンカと呼ばれる人々について、文献や聞き取りによる丹念な調査により、実態や起源を論じている。
これまで、サンカに関する学術的な研究は少なく、民俗学の分野でも注目されなかったというだけに本書は注目に値する。
本書では、丹念な調査により、サンカとして生きることになった人々は、天明や天保の大飢饉で崩壊した村から逃げ、山中で生計を立てざるを得なかったことが原因であると論じている。
これまで、権力体制の外に生きる謎の民とか、大和政権以前の原始日本民族の末裔とか、ロマンチックな説も唱えられたそうだが、現実的というか、ある意味「夢のない」結論に至ったようだ。
また、三角寛(みすみ・かん)という異様な作家について大きく取り上げている。サンカを題材に昭和戦前期に多数の作品を発表した作家で、作品はベストセラーになったそうだが、誇張と歪曲に満ちたサンカ像を描いたため誤解と偏見を生んだと、筆者は厳しく批判している。こんな作家がいたなんて知らなかった。
誰もが知る戦国武将や幕末の英雄など歴史の光の当たる部分だけでなく、サンカのような歴史の底辺、周縁部に生きた人々についても研究が進むことを期待したい。
凍てつく太陽    葉真中顕著    幻冬舎文庫    2020年8月発行
戦争末期の北海道を舞台に軍事機密を題材にした壮大なミステリーです。これでもかというぐらい理不尽なことが起こります。
室蘭の街が物語の舞台。そこには、第2の太陽と言われる溶鉱炉が、昼夜を問わず紅蓮の炎を燃やして輝き続ける。
そして、朝鮮人・アイヌ人と人種差別が横行する時代。アイヌの血を引きながら特高警察で働く日崎八尋(やひろ)が主人公。
八尋は密命を帯びて、朝鮮人だけの石炭採掘の現場に潜り込む。そこで脱走事件が起きたものの、その手段がつかめないのだ。
八尋は大日本帝国に心酔し、皇国臣民を自認していた。そして、見回りにきた特高警察の横暴から、わざと朝鮮人の少女を守り、飯場の朝鮮人の信頼を得ていく。そして…。
同じ特高警察なのに、アイヌの血が混じった八尋を毛嫌いする先輩警官の三影。三影は八尋をことあるごとに問い詰め、対立を深めていく。
また、室蘭の街には軍部だけしか入らせない秘密の「愛国第308工場」があった。そこでは、いったい何を製造しているのか?
そして、その工場関係者に関わる連続殺人事件。その犯人は自らを「スルク」と名乗り、殺人現場にいつも血でメッセージを残していく…。
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アイヌ民族に係るお話では、やはり「ゴールデンカムイ」が有名ですね。最近では馳星周さんの「神の涙」を読みましたが、印象に残っているのは、船戸与一の「蝦夷地別件」ですね。でも、本作も凄まじいですね。
全体のトリックは少し無理があるなあと思いましたが、大和民族の中だけでなく、朝鮮人とアイヌ民族のアイディンティティの問題が入り混じり、さらに戦争の悲惨さ、脱獄など様々なシーンが織り込まれます。
何と言っても時代は、昭和19年12月〜昭和20年8月までですから。これは反戦小説でもありますね。
やはり魅力的なのは、アイヌ文化です。特に、作中で語られるイオマンテのアイヌの祭りシーンには興味を惹かれました。これでは熊を神と呼ぶわけですね。
それにしても真犯人は見事でしたね。全く予想が外れ、まんまと騙されました。
これはオススメです。
「思わず考えちゃう」ヨシタケシンスケ
人気絵本作家のヨシタケシンスケさんの初エッセイ集!
図書館でも人気でなかなか借りられなくて、ようやく借りて読んだのですが
「これは毎日でも読みたい本だ!買おう!」
と思いました!!!
この本は、ヨシタケさんが日々生活していて何かを見て「思わず考えちゃったこと」を描き留めていたメモのようなイラストに、解説をつけた本なのですが、その感性が自由で独創的で、自分が日々感じている息苦しさや生きづらさを軽くしてくれる言葉ばかりでした。
日常のあるあるを書いているのですが、読んでいて「うんうん」とうなずく事もあれば、「えー?!」とビックリする事もあり、結果クスクス笑えて、日頃の疲れが吹っ飛びました。
ヨシタケさんはメモを書く時に「あわよくば生きるヒントに」と思っていて、日常生活をしていく上で常に「考える」事をしていて、その新しい発想には目からウロコ!
新しい自分に出会うためにも、これからヨシタケさんのエッセイをたくさん読みたいと思っています!!!
仏教入門 三枝充悳
ブッダを育てた社会的背景、ブッダの出現およびそれ以降の布教活動と思想の変遷、さらにブッダ入滅後の各地への波及が描かれている。
四諦八正道。仏・法・僧の三宝。四苦八苦。律・経・論の三蔵。無記の十難。十二因縁。六波羅蜜。数を含んだ教えの多い事。流石ゼロを生んだ国(インド)ではあります。ゼロは空かな。
まだまだわからない事だらけで、読み進めるのも一苦労でしたが大変勉強になりました。いつかもっともっと学んで仏教中興の祖である龍樹さんの本(中論など )、倶舎論、お経などにもチャレンジしてみたいです。
「犬も食わない」by 尾崎世界観×千早茜 
千早さんは今年度直木賞受賞の作家、尾崎さんはお初でしたが、いわゆる共作(デュエット)モノです。
恋人同士を男目線と女目線で交互に同じ場面の出来事を描いた作品です。
主人公はダメな男と面倒くさい女で、いわゆるどうしようもないカップルなんです。
喧嘩ばっかりしてるんですがどこにでもいるんだろうなぁと思わされます。男女ともにずるくて弱い。羨望と嫉妬の感情が常に行き来する。
こういうカップルが案外 結婚して長く続くんだよなあとも思わされました。
それにしても千早さんの文章はリアルでトゲトゲがえぐってきますね(笑)テンポよく さくっと一時間少しで読めたお話でした🤗興味ある方はどうぞ。
鈴木宣弘先生の『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』(2022年、講談社+α新書)。
帯裏書きはこんな感じ。
三七パーセントという自給率に種と肥料の海外依存度を考慮したら日本の自給率は今でも一〇パーセントに届かないくらいなのである。だから、核被爆でなく、物流停止が日本を直撃し、餓死者が世界の三割にも及ぶという推定は大袈裟ではない。(略)
「お金を出せば輸入できる」ことを前提にした食料安全保障は通用しないことが明白になった今、このまま日本の農家が疲弊していき、本当に食料輸入が途絶したら国民は食べるものがなくなる。不測の事態に国民の命を守ることが「国防」とすれば、国内の食料・農業を守ることこそが防衛の要、それこそが安全保障だ。(略)
国民も農家とともに生産に参加し、食べて、未来につなげよう。
あまりにも衝撃的な内容で、統一地方選の前に一人でも多くの方に読んでいただきたいと思う一冊です。
有権者の皆様、どうかあなたの人生の数時間と、あなたのお財布の中の千円を、この一冊に費やしていただきたいです。
「わたしは『ひとり新聞社』 岩手県大槌町で生き、考え、伝える」菊池由貴子著 亜紀書房 2022 ¥1800+税
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町で、震災後、たった独りで地域の新聞社を立ち上げた著者の自伝的記録です。全国紙は全国の視点で、県紙である岩手日報もどうしても盛岡市中心の視点で書かれるため、地元で一番必要な情報が入手できない。彼女はそれまで取材の経験もほとんどない中でそれならばと「大槌新聞」を創刊します。たった独りの新聞社なので、取材、紙面作り、営業すべて独りでこなすことになりました。
私は2017年12月から1年間町任期付き職員として、大槌町に赴任していたのですが、地域の情報を得るために、岩手日報とともに、大槌新聞も定期購読していました。大槌新聞は地域紙の域を超えた硬派の論調で感心しておりました。町内でイベントがあるときなどはカメラをかついだ菊池さんのお姿をよく見かけました。
この本では彼女が取材した大槌町の復興の動きについても書かれていますが、その中で震災遺構であった大槌町旧役場庁舎の問題について多くの紙面を割いています。震災時に町長はじめ約40名の職員が殉職した旧庁舎をどうするか町を二分する議論があったのですが、結局私の帰任直後の時期に解体されました。この問題については批判的な論調で書かれています。
大槌新聞は2021年3月で廃刊、彼女はいまは別なかたちで大槌の情報発信に努めています。廃刊は残念ですが、独り新聞社だから仕方がないのでしょう。
「木曜日の子ども」 重松 清 著
読み出しは虐め、虐待、復讐について書かれたよくある内容だと思いましたが、全然違いました。
これはカルトに惹かれながらも、「これは違う!」と最後まで己を諦めなかった父親の話でした。
中盤からカルトの教祖(大量殺人犯)に取り込まれた人々が自らロシアンルーレットに興じ次々と死んでいきます。大体カルトの教祖はほとんどサイコパスなので、その断定的な口調でとにかく俺の言うことは正しい(根拠は全くないのですが)その言葉に自らの生きる意味を外から与えられてしまいます。政治家にもいますよね。そういう人。
とにかくサイコパスに最後まで抗った主人公は本当に立派でした。
ところでこの作品にも妻や子供に酷い虐待をつづけるどうしようもない男が出てくるのですが、なぜ結構聡明な女性でさえ他にいくらでもマシな男性がいるのにそんなのを選んでしまうのか?以前はずっと疑問でしたが西尾維新さんの小説で、狩猟時代から女性が自分を守ってくれる強い男(強いだけで他は全滅だけれど)に惹かれるのは睡眠欲や食欲のように本能なんだそうです。だからどうしようもないんです。残念な生き物です、人間は。
追憶の夜想曲(ノクターン)
by
中山七里
御子柴弁護士シリーズ第二弾。相変わらず引き込まれてしまいました。最後は、えーっというどんでん返しで。
さて、前作で刺されて入院していた、御子柴弁護士。退院してきて、すぐに夫殺しの妻の弁護人を別の弁護士から代わってやる事に。被告人は何かを隠している。相手の検事は以前に叩きのめした東京地検の次席検事。公判では全く歯が立たず、御子柴は神戸、福岡と被告人の過去を遡ってとここまでで。
いやあ、真犯人はなんとなくわかったような気がしていましたが、この結末は予想外。本当に楽しめました。第三弾も楽しみです♪おすすめです♪
「江戸前の男 春風亭柳朝一代記」
吉川潮
芸人を描かせたら天下一の著者が
綴る、柳朝伝。
読むのは5度目くらいですが、
いやー、楽しい。
志ん朝、談志、円楽と並ぶ四天王と
うたわれた柳朝師。
粋でいなせで威勢の良い口調は
まさしく江戸っ子そのもの。
映画にテレビに大活躍で
ハリウッドでフランク・シナトラと共演も
果たし、シナトラにオイチョカブを教えた
のが自慢。
落語好きが高じて、いつのまにか
僕は寄席のプロデューサーや
落語のDVDや本を作るようになった。
たくさんの噺家さんたちも
会ってきたが、芸人さんの洒落で生きる
姿勢、自分の不幸を笑い飛ばす強さ、
時折見せる情けなさ、弱さに惚れ、
人生の手本としてきた。
もちろん落語は生きるバイブルだ。
この小説には、そんな噺家の持つおかしみと
哀しみがいっぱい詰まってる。
とくに好きなのは、こんな場面。
柳朝の師匠、彦六師が談志、円楽とともに
「素晴らしき世界」に出たとき。
談志がいきなり彦六に、
「師匠近ごろだいぶ耄碌したそうで」とかました。
柳朝が、「耄碌じゃなくて彦六だよ」とやり返す。
談志と円楽が「うまいね」と言って喜ぶ。
若い頃、鈴本の楽屋で柳朝、談志、円楽ら前座が
浴衣姿でゴロゴロしていた。
そこへ彦六が入ってきて、
「てめえたち、鈴本に湯治に来てるんじゃねえぞ!」
談志が黒のトックリのセーターに黒の背広の
上下で楽屋入りしたら、彦六すかさず
「マドロスの喪服だね」
収録中、柳朝が彦六に酌をして着物の上に
酒をこぼした。
あわてて自分の手拭いで着物を拭いた。
談志がそれを見て、
「おい、馬鹿に優しいじゃねぇか」
そこで柳朝、
「うん、死んだらこの着物もらうことに
なってるんでね」
すかさず彦六、
「馬鹿野郎、誰がてめえなんぞにやるもんか」
いいねー、この間合い、このやりとり。
「難しいものを簡単に見せるのがプロ」
柳朝師匠の口癖、肝に銘じて
いつも湯上りでのほほんと生きていきたいねー。
『生きることの意味 ─ある少年のおいたち』
   高 史明著  ちくま文庫   解説 鶴見俊輔
この作品は、1932年に在日朝鮮人として山口県下関市に生まれた著者の少年時代の回想を戦時下の極貧生活の中で描写し、在日であることによってみまわれた人間の不幸と悲哀の裡に、それでも「生きることの意味」を問う少年の成長の記録をきざんだドキュメンタリーな物語です。
母親は著者が生まれてまもなく亡くなり、石炭置場や土方で働く寡黙な父と真面目な兄との男だけの長屋生活が主人公の日常のすべてでした。幼いうちは家庭や町内でそれは貧しいながらも保護され、守られた世界が構築されていました。
しかし、小学校に上がり、だんだんと世界が広がってゆくなかで、母がいないこと、貧しさの辛さを痛感する経験を持ったり、”朝鮮人”という生い立ちがその経緯や意味するところの正確な認識を得ることで、つまり、『世界=世間』にふれることで、知ることで成長の中でぶち当たる困難に、これらが色濃く投影される現実の中、少年の心に複雑な形ではびこるさびしさや、哀しさ、虚しさ、被差別感情は、読むものに緊張を迫ります。
朝鮮人であること、しかしながら日本という国で生まれ育ち、しかも時代は太平洋戦争と大東亜戦争の只中。自身のアイデンティティーの崩壊と二つの祖国との乖離が少年の成長とともに膨張してくる。
やがて終戦を迎え、著者も成長し家庭をもち新しい命が誕生する。しかしこのあとさらにおおきな悲劇がまちうけていた。
《1975年、『生きることの意味』で日本児童文学者協会賞、産経児童出版文化賞を受賞するが、同年、一人息子の岡真史くんが12歳で自殺した。その遺稿詩集『ぼくは12歳』を妻の岡百合子との編纂で刊行、1979年にNHKでテレビドラマ化された。その後、親鸞と『歎異抄』の教えに帰依し、著作のほか、各地で講話活動を行う。》以上、Wikipediaより引用
この作品は、15歳の読者からの手紙に応えて、哲学者の鶴見俊輔さんが選んだ本のなかの一冊です。
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
夏目漱石『私の個人主義』
鷲田清一『「聴く」ことの力』
内山節『山里の釣りから』
高史明『生きることの意味』
カミュ『シジフォスの神話』
ゲーテ『ファウスト』(池内紀訳)
生きるということは、ひとり一人のそのかけがえのない命を育み、成長し、それを国が、社会が応援し、全力を尽くしてまっとうすることではないでしょうか?
今に始まったことではない少子高齢化問題への対策として政府は、『異次元の』○○を掲げていますが、本気で、本腰を入れて取り組んでいるとはとうてい思えない。お隣の国、韓国は早くからこの問題に取り組んで10何年間に10何兆円もの予算を投入したが、出生率は、0.7人です。日本において過去70年間で出生率が2.0人を上回ったのは第一次ベビーブーム(昭和22~24年)、いわゆる団塊の世代の4人と第二次ブーム(昭和46~49年)の2人の併せてもわずか7年間だけです。あとは、全て1.5人前後の数値です。つまり、この数値の推移が正常で、出生率2.0人以上のほうが異常なのです。
先日、ある団塊の世代の昭和22年生まれの人に
会う機会がありました。その方は農家の子として生まれたそうです。そしてこうおっしゃっていました。「我々の頃からサラリーマンの家庭では一人か二人が普通で、四人も五人も生む家庭は殆どが農家か自営業の人たちばかりだと」つまり、本音を言えば二人ぐらいで良いのだが、働き手を増やすために仕方なく六人も七人も生まざる得なかったと。学校にあがる年齢になると農家の仕事を手伝わされていたと。
こうやってみてくると、いくら政府が予算を付けて行政に働きかけ「生めよ、増やせよ」と囃し立ててもどうなるものでもないような気がします。それよりも適切な人口数を導きだし、それを一極集中させるのではなく分散させ、今ある命を大切にする施策を講じたほうがよいのではないかと思います。2003年の34,427人をピークに自殺者の数は減少してますが令和の時代に入ってもその数は二万人を下りません。
そんなことを考えながら数十年振りにこの本を再読しました。後世に残したい名著だと思います。お薦めします。
辻村深月
「噛みあわない会話と、ある過去について」
本作は思春期の頃、周りにうまく馴染めず、孤立したり逆に過剰に忖度したことで、クラスメートに、担任の教師に蔑まれ、無意識のイジメに傷ついていた被害者が、社会人として成功し報復をしてみせる四篇の物語です。その報復は、読み手に思わず自分にも無意識に傷つけていた経験がないか振り返るほど、余りに見事、余りに痛烈で、読後感の衝撃たるや過去未経験のものでした。この作品は感動作の対極にあるにも関わらず、他者に対する無意識の目には見えない、結果として深い傷を負わせる行為がいかに残酷かを見事に描き切って見せています
花房観音さんの『京都に女王と呼ばれた作家がいた』 “山村美紗とふたりの男”
 
私自身は山村美紗さんの本を読んだことがなく、映像化したテレビドラマも観たことがないのですが、本の題名と山村美紗さんの名で興味が湧き、本を購入していたものです。
 
今回この本を読んで、山村美紗さんが幼い頃から病弱だったため、“好きなように生きたい”との意思から、結婚後でも当時女性は専業主婦となるのが当然の世の中でしたが作家を目指した。
また、山村美紗さんは社交的で向上心ある性格、負けず嫌いで努力家であったが、江戸川乱歩賞等の賞を獲っていない劣等感から、自身の作品が売れるためには凄まじい努力を行った女性でした。
夫・巍さんとの仲、作家・西村京太郎さんとの関係がこの本を読んで、山村美紗さんはこのふたりの男性を手放すことが出来なかった欲張りな女性(女王だから仕方ないか.....)だと思ったが、劣等感と性格がそのようにさせたのかもしれません。
 
この本、非常に面白いです。
また、この作品の著者も、なかなか面白そうな女性作家だと思います。
是非、一読を
LISTEN 知性豊かで想像力がある人になれる
ケイト・マーフィ 著
■自分の話なんて他人には迷惑だと思う人は多い
ほとんどの人は、自分の話にを聞かせるのは、相手に負担をかけると思っている。重大な局面に達したとき、お金を払って話を聞いてもらう。(セラピスト、美容師、など。)
■「よい聞き手」とは、話し手と同じ感情になって聞ける人
探偵のように、「なぜこの人はこの話を私に聞かせているのだろう」と自問しながら聞く。話し手は自分で答えを分かっていないことがあるので聞き手が質問すれば、「分かってくれた‼」と気分が良くなる。
■聞く時間が長いと疲れる
聞くことはかなりの労力を使う。
新米管制官は実際、1時間~2時間で休憩に入るシフトとなっている。パイロットからの重要な指示が聞き取れなくなる可能性があるからだ。
聞き上手とはよく言うけれど、他人の話は面倒で退屈なもの。でも、話し手の本質を知れば、聞くことが楽しくなるし、仕事でも私生活でも他人からの評価は高くなる。無理のない範囲で、相手の事を良く知ろう、という意識を改めてみたい。
『今夜、すべてのバーで』中島らも
題名からして、お酒の話とは思ったが、こんな「体験的アル中小説」だとは思わなかった。最初のページからあまりにリアルで、しかも面白くて、身につまされっぱなし。いっきに読んで、ああこんな小説を読むことができて有難いことだと思いました。52才で死んでしまった中島らもに拝礼して、美味しいお酒を飲みたいと思います、と書くと、この小説を読んだ方々の中には「何て不謹慎なやつだ」とお叱りの言葉が飛んでくるかもしれません。いずれにせよ、男女問わず、お酒が好きな方、やめられない方々に絶対読んで欲しい小説だなってつくづく思いました。
追記、作中、印象に残った一節。
ー「教養」のない人間には酒を飲むくらいしか残されていない。「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」のことである。
「荒野へ」 ジョン・クラカワー
田舎で暮らしてますので、行こうと思えば、結構な名峰に登れるような環境で暮らしてるのですが、
普段、地域の山作業に、チロっと従事したり、風水害時に、消防団なんかで、イヤイヤ外に出て作業してたり。ロープだ、シートだの使った活動は、心底ウンザリしてるのですが、
そのくせ、山岳遭難ドキュメンタリーが大好きで。
しょうがない、生命に危機を回避するためだったり、財産を保持したり、権益を主張するためのナニかだったり以外で、
あえて、シゼンなんかに近づきたくは無いわりに、
アラスカで、暮らしてる人たちのドキュメンタリー観るのが大好きだったり。
ドロップアウトを気取ってるかに見える若者のその時々に、
浮かないあの日のジブンが、もう一歩踏み出したら、もしかして、と、重ね観たり。
調子コいた若いのがいたら、
取り敢えず、気付かれないようにビール代は、払ってあげようと思いました。
栗田哲男さんの「踊る虎」
栗田哲男さんには辺境写真家という肩書きがあって、私はたまたま写真を見て素敵な写真に感動して写真集を買った後、この本が出版されました。
作者は大学生で初めて中国を訪れます。
そして中国に魅了され、中国で働ける可能性が高い会社に就職、中国南部の広東省へ赴任と中国での長い生活が始まります。
作者の人柄の良さがどこに行っても受け入れられるのもありますが、現地の人達と体当たりでぶつかっていく姿勢、こうと決めつけず柔軟に目的を変更する、気になることがあったら探究心のままに追いかけていくなど、気がついたら自分が実際に旅をしているようなイメージで読んでいました。
通りすがりの人に目的地までの距離を尋ねると「あと6キロ」と返ってきます。
かなり歩いてから再度同じ質問をするとなぜか又「あと6キロ」。
再び歩いてもう一度尋ねても「あと6キロ」
誰に何度聞いてもあと6キロ…
日本ではこんないい加減なことはないと思いますが、そこは広大な国、中国。
泊まるところが決まっているのか聞いてくれて、決まっていないという作者に泊めてもらえそうな人を紹介してくれたり、自分達が食べる物もあまりないのに、貴重な食材でもてなしてくれたりします。
地図にも載っていない村や電気も通っていない村、洞窟の中で生活している人達、体に刺青を入れる種族などいろんな場所、いろんな人達との触れ合いが作者の文章と写真で紹介されています。
ぜひ、自分では行けない所に行って、自分では出来ない体験をこの本を読むことによって疑似体験してもらえたらと思います。
文章もですが、この本に載ってる人物(特に現地の人の表情)、景色、食べ物などの写真も楽しく見せてもらいました。
この本にも、「虫草」(写真集)にも載っていない、栗田さんにしか撮れなかったかもしれない素敵な神々しいといえるかのような写真もぜひ見てもらえたらと思います。
興味を持って頂けた方は辺境写真家栗田哲男で検索して他の写真も見て頂けたらと思います。
「朝と夕の犯罪」 降田 天
 この作者の前作 "偽りの春" に出てくる神倉駅前交番 狩野雷太が,どことなく東野圭吾の名作 "新参者" と加賀恭一郎を連想させるところがあった(おそらく私だけかもしれないが)ので、続編である本作を読んでみた。
 アサヒとユウヒという血縁のない兄弟が、ある犯罪を決行し成功させる。最終的に、仲間割れ?が起こってしまう。というところまでが第一部。
 第二部では、一部の仲間と思われる女性が幼児虐待で逮捕され、関連して過去の8年前の犯罪が捜査されていくというストーリー。
 烏丸靖子という刑事が捜査するのであるが、最後に狩野巡査が鋭い推理で解決する。
 重たい話題が全編を覆うのであるが、最後の解決はスッキリしており、それまでの伏線が全てカバーされる。私としてはイヤミスではなく、読後感スッキリであった。2021年9月 角川書店刊で、もう文庫になっているのではないかな、知らんけど。
《異邦人 いりびと》        原田マハ
 PHP文芸文庫
京都に夜、到着したのはこれが初めてだった。春の宵の匂いがした。ーーー
  こんな、印象的な言葉で始まる…作者の新境地を開いた衝撃作です。主人公の1人 菜穂は、気分転換に出かけた老舗画廊で一枚の絵に心を奪われる…強烈な光を放つその絵の作者は、まだ無名の若き女性画家だった…。彼女の才能と[美]に翻弄される人々を描いた作品ですが、著者がこの本をイメージするにあたって参考にしたのが、かの川端康成の「古都」だったらしいですね。
 遠くて近きもの、極楽 舟の道 人の中〜〈枕草子 一節〉
津村記久子「つまらない住宅地のすべての家」
双葉社
実はこの本を読むのは二度目です。
2021年3月21日第1刷発行の本だから
(図書館で順番待ちして読んだから
出てすぐ読んだわけじゃないけど)
最初に読んでから2年近くたっています。
この2年の間にあったこと。
NHKの夜ドラ(月〜木で15分4週ぐらい?)に
なって、
それを録画してちゃんと見たことでした。
夜ドラって朝ドラとは違って、
歴史もないし始まってはみたものの、
未来永劫継続するか怪しい感じなんだけど
(朝ドラや大河ドラマにはそれがある)、
これはなかなか面白かった記憶があります。
まあ私がちゃんと見た唯一の夜ドラなんだけど。
で、ドラマを見終えて私が感じたのが、
「あの本、こんな話だった?」ってことでした。
読んでそれほど時間が経過したわけでもないのに、
思った以上に読書体験が風化していたような印象を受けたわけです。
で今回思いつきでもう一度借りて
もう一度読んでみたんだけど、
最初から物語の登場人物がやたら具体的に思い描けてやたら分かりやすくなっていました。
勿論100%原作通りにドラマが作られていたわけじゃないんだけど、
キモの部分に変化があるわけじゃないし、
日常生活を描いた作品だからスケール感の違いを感じることもありませんでした。
(篠田節子さんの「百年の恋」はドラマを見てから本を読んだんだけど、
そして勿論どちらも良かったんだけど、
ヒロインのビジネスエリート感がドラマじゃ強烈に描かれていて原作の一歩も二歩も前にいる感じがした)。
「つまらない住宅地のすべての家」、
生活に絶望して勤め先で横領することにしか
ときめきを覚えられなくなり収監された
女性模範囚が甥からの
「(父親の)余命が幾ばくもないようだ」
という知らせに反応して脱獄したことにより
澱んだ空気が渋滞つまらない住宅地のそれぞれの悩みや不満やストレスを抱えた老若男女の住人たちが少しずつ変わっていく様を描いた物語なんだけど、
あらためて読み返しておすすめ出来る作品だと思いました。
辻村深月さん「青空と逃げる」
ミステリ好きで、辻村さんの作品は色々と読ませていただきましたが、最近、ちょっとミステリ色が薄れてきたのかなって、遠ざかってましたが久しぶりに手にしてみました。
読後の感想から書きますと、辻村さんの視点が少し変わったのかな?という感じです。
デビュー作以来、どちらかといえば子供(少女・女の子・娘と色んな意味での)目線で家庭や家族、社会を描いた作品が多かったように思いますが、御本人も結婚されて、お子さんも生まれてということで、何か目線が「母親」になってきているように感じました。
もちろん、この作品の主人公は中学生の男の子である力であり、その母である早苗の両方の視点で描かれているのですが、そう思うからかもしれませんが、これは母親の物語であるように感じました。
単なる思い込みかもしれませんが、そういう意味ではやっぱり作風が少し変わったような気がします。
ということで、作品を紹介させて、いただきますと…
早苗は、舞台俳優である夫の本条拳が交通事故にあったとの連絡を受ける。
息子の力を連れて病院に駆けつけた早苗は、夫が女優の遥山真輝(はるやままさき)の運転する車に同乗していて事故にあったことを知る。
幸いにも二人とも一命は取り留めたものの、真輝は顔に女優生命に関わるような大怪我を追い、自宅で自ら命を断ってしまう。
「ダブル不倫」とマスコミに追われ、夫の拳は病院から姿を消す。
そしてマスコミや所属プロダクションの執拗な追求が早苗たちに向かうが、事情がわからないままの早苗は、力を連れて東京を離れる。
高知県の四万十川、兵庫県の家島、そして大分の別府と二人の逃避行は続くが、各地で暖かく接してくれる人たちに感謝しながらも、追求に恐れながらひっそりと暮らす早苗と力。
心休まる日々を手に入れたと思ったところで、追手が目の前に現れ、再び旅立つ。
そして、ある人物から、夫が仙台にいるとの情報を得た早苗は、震災から復興を果たしつつある仙台にたどり着くが、早苗が風邪をこじらせホテルで寝込むことに。
母を助けるべく、力は年末の仙台の街を駆け巡る…
というようなお話です(もちろんラストの展開は書けませんが…😅)
この作品、ミステリ色はあまりないのですが、夫が早苗に何も告げずに失踪した謎と、もうひとつ自宅の押入れで見つけた、力のタオルケットに包まれた血にまみれた包丁の謎がミステリっぽいといえばそうなんですが、むしろ「早苗と力の成長譚」という表現が正しいのではないかと思います。
印象的なシーンとしては、別府の砂風呂で仕事を得た早苗が、客にせがまれて歌う「四季の歌」で「冬を愛する人は…大地のようなぼくの母親」という歌詞に今まで持ったことのない感情を抱くシーンや、どちらかと言えば人生を斜に構えて、何かというと「別に…」としか応えなかった力が、それまで一人称を「オレ」と言い続けていたのにあるシーンで自分のことを「僕」と呼ぶシーンがあります。
この逃避行が、母子にとって辛い旅であるとともに、お互いを見つめあい、また思いあうという時間であったことは間違いなく、だからこそラストの感動的なシーンが、より際立っているのだと思います。
辻村さんのミステリを期待して読まれると、ちよっと拍子抜けするかもしれませんが、何かと殺伐とした!?世の中で、たまにはこういう「暖かい」お話もいいと思います。
そういう意味でおすすめさせていただきます😃
山崎豊子「華麗なる一族」上・中・下巻
※この作品の新潮文庫裏表紙はネタバレしすぎて、私は2007年のキムタク主演(原作の主人公の長男と置き換えられています)のドラマは観ていたので、私はまあいいですが(良くないですねw)、できれば、原作もドラマも未見の方は、裏表紙を読まない方が無難です。 
昭和40年代、業界10位の阪神銀行頭取・万俵大介は、二男三女に恵まれながら、嵯峨子爵の娘で気弱い正妻・寧子と、元・子供たちの家庭教師でもあり、家内を取り仕切る愛人・相子と、妻妾同衾の「華麗なる一族」生活を送っていました…それだけでも不快。
そうした生活と並行し、政財界の人脈を得て、銀行合併による自社拡大化に乗り出していきます。
既婚の長男・鉄平以外の、相子が取り仕切る弟・銀平、妹たちの、どこか歪な結婚や、恋愛も挟みつつ…。
長男・鉄平は、系列の阪神特殊鋼を専務として任され、粉骨砕身しますが、大介は、鉄平の祖父に当たる亡き父・敬介を彼に重ね合わせ、彼に対し冷淡な態度を示し続けています。
やがて、鉄平は、大介の反対を押し切って、阪神特殊鋼の高炉建設に乗り出すも、アメリカとの貿易取引に失敗、私生活でも、うっかり雉撃ちで大介をかすめ打ってしまったりと関係が悪化し、彼が迎えた悲劇的な末路とは…。
大介は鉄平を寧子と父との不義の子と思い込み、彼を心から慈しむことができなかった、本来なら慈しむべき存在であったことに気づいた時には、遅すぎたことには、ただただ痛切の一語に尽きます…最後は始まりの「華麗」さはなく、「陰鬱」とした一族…しかし、始めからこの一族は、本質的には、「華麗」などではなかったのだと思います。
_人間性を置き忘れた企業は、いつか、何処かで必ず、躓く時が来るというのが、私の信条です_
「残虐記」 桐野夏生
自分の住む新潟県で実際に起きた少女監禁事件のノンフィクション・ルポを以前読んだ時に、その本の中かアマゾンレビューか忘れましたが、この残虐記が紹介されていたので読んでみた次第です。
実際の事件が起きた当時自分は中学生だったけど、とてつもなく衝撃だったのですが、被害者が保護されるまで9年2ヶ月を要したという事実は、想像をはるかに超えていていたたまれない思いです。
残虐記はこの事件を題材にはしたもののモデルにはしていません。実際の事件と小説の内容を比較することはできないし、比較すること自体がナンセンスだとも思うのですが、幼少期に誘拐されて長期に監禁されるということは、本来の養育者である家族とりわけ両親から引き離されることであり、生存本能として監禁者との連帯意識や共感のようなものを代替的に育まざるをえなくなるのでしょう。
桐野作品は初めて読むのですが、この残虐記は複数回読まないとちゃんとしたレビューは書けそうにもない気がします。とりわけ加害者のケンジがいかにして少女を誘拐するに至ったのかとか、ケンジとヤタベさんとの関係性とか、検事の宮坂さんとか。でもすごく内容に引き込まれたのは確かでした。
【美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔】
著者:中野京子 2018年PHP研究所より刊行
古今東西関係なく、絵画に描かれている23人の「美貌のひと」を著者が選んで解説した書です。
絵画に描かれている「美貌のひと」と言われて連想すると、ヴィンターハルター作の「エリーザベト」、ルブラン夫人作の「マリー・アントワネット」、ルーベンス作の「シュザンヌ」、コロー作の「真珠の女」、etc.エトセトラ、世界中に知られている巨匠の名画が思い浮かびました。
しかし自分が連想した作品は、表紙のクラムスコイの「忘れえぬ人」を除いて、一人もいませんでした。
著名な画家の作品ではあるけれど、「えっ、これが美貌のひとなの?」と思う人物画像がほとんどでした。
また男性が幾人かピックアップされていたのが意外でしたが、「美貌」「美人」という言葉の形容は女性にだけ該当するのではなかった、と改めて実感しました。
「美貌のひと」のエピソードは、1人物に対し、5~6頁の短文で書かれており、大変面白く興味ひかれる内容でした。
 
「美」は持って生まれた才覚の一つです。
その才能を活かし他者を圧倒させて生き抜いた者、逆に利用されて人生を滅茶苦茶にされてしまった者、と様々ですが、通して言えるのは皆波乱万丈な、それでいてドラマティックな人生を送ったということです。
不幸になっても「美しくありたい」という思いは男女問わず、古来からの人間の願望なのですね。
本書を読んで、映画「ある公爵夫人の生涯」を再見、そしてトルストイの「アンナ・カレーニナ」を再読したくなりました。
★「ある公爵夫人の生涯」は本書に掲載されているデヴォンシャー夫人の伝記の映画化作品です。
「忘れえぬ人」は「アンナ・カレーニナ」のモデルと言われています。
『きらきら眼鏡』森沢明夫 著  
*背表紙から*
愛猫を亡くしてうちひしがれた
立花明海は古本屋で1冊の本を買った。
中には「大滝あかね」と書かれた
名刺が挟まっていて、自分が心を
打たれたフレーズに傍線が
引かれていた。
気になった明海は思い切って
あかねにメールをすると、
会うことになった。
あかねは年上の明るい女性で、
日常の物事を幸福に換える
「幸せの天才」だった。
たが、あかねには病に伏し、
余命宣告を受けている恋人がいて。
*この物語のモデルになった場所は
千葉県の西船橋。
実際にある居酒屋や場所、
関東に住んでいればより面白い
作品であることには間違いない。
小松菜サワー、
ふなばし三番瀬海浜公園。
また、この物語の中には、
『癒しやキリコ』の喫茶店が
出てくる。
森沢氏の仕掛けが楽しい。
放浪探偵と七つの殺人  歌野晶午著    講談社文庫    2002年8月発行
年中タンクトップとビーチサンダルで過ごしている正体不明の男、信濃譲二が探偵役となり、様々な謎を解明していくお話。
一編一編の設定とトリックがとても凝っています。
最初は大学生として登場した信濃も終盤には、立派な(?)若者となっています。
【ドア↔️ドア】
安アパートに住む山科は、同じアパートの男を思わずナイフで刺してしまう。血で汚れたドアを部屋ごと交換しようとするが…
【幽霊病棟】
大学2年の桂木は、コンパの飲み会で茜にいいところを見せようとして、幽霊が出ると噂の廃病院に行く羽目になってしまう。
【烏勧請】
町内でゴミ屋敷と言われる下田家。その家の妻はゴミ置き場から、人のゴミを大量に持ち帰ってしまうのだ。おかげで近所は臭くてたまらない。その奥さんが死体で発見される。
【有罪としての不在】
大学寮で発生した殺人事件。犯人は誰か、自治会でアリバイ調査が始まる。これは途中で読者挑戦も仕掛けられた作品。私はお手上げでした…
【水難の夜】
悪徳商法で儲けていた女社長が殺害される。発見者はピザの配達員。ところが…。これはうまいなあ。
【W=mgh】
墓地に逆さになって発見された若い女性の死体。しかし、信濃の同僚の高瀬はその女性を深夜見かけたという。これはゾンビか??
【阿闍梨天空死譚】
新興宗教団体の塔の上で、全裸の男が発見される。しかし、信濃はその種明かしをしないという。
****************************
本作の特徴は、探偵役の信濃譲二のキャラクターでしょうね。いろんなところに出没し、首を突っ込み、周囲の人たちを引っ掻き回します。まるで、奥田英朗のシリーズに登場する伊良部みたいです。まあ、そこまで酷くありませんが…
いろんな趣向が凝らしてあります。最初から犯人が分かっているお話もあります。読者も犯人の心理で事件を隠蔽しようと考えることになります。でも、信濃に見抜かれていきます。
この探偵信濃譲二は、歌野晶午さんの家シリーズ3作品に登場するんですね。まだ、読んでいませんでした。

佐藤友則・島田潤一郎著『本屋で待つ』

いや、すごい本だったな。僕の仕事とも直結していて(本屋じゃないけど)感銘を受けた。どうしてこの人はカウンセリングマインドを持っているんだろう?やさしい人。こんな殺伐とした今だからこそ、多くの人に読んでもらいたい。夏葉社はいい本作るなぁ。

罪の轍            
著者 奥田英朗    
新潮文庫         
あらすじ            
昭和38年十月、東京浅草で男児誘拐事件が発生。日本は震撼した。警視庁捜査一課の若手刑事、落合昌夫は、近隣に現れた北国訛リの青年が気になって仕方なかった。一刻も早い解決を目指す警察はやがて致命的な失態を演じる。憔悴する父母。公開された肉声。鉄道に残された(鍵)。凍りつくような孤独と逮捕にかける熱情が青い火花を散らす。ミステリー史にその名を刻む、犯罪、捜査小説。
やっと読み終えました。が人は生まれ育った背景や環境が違いますが、犯人も警察署の人も、人の子であり、又子供の親、そして何より一人の人間ですね。ミスや、失敗、過ちは誰にでも人生生きていればおこします。が罪人に対する警察官や捜査官の職務に対する厳しい責任感や、失態へのそれぞれの心情が伝わりました。警察同士の人間関係も複雑で難しいのだと思いました。
レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳
「体の贈り物」
本作は不治の病だった頃のエイズ患者を介護するホーム・ケアワーカーの女性とその患者たちの交流と別れを、極めてシンプルな筆致で描いたものですが、繰り返される、死を迎えるばかりの患者さんとの出会いとその死を、なんともさりげなく、だからこそ息苦しいほど切ない表現で語っており、死を覚悟した患者とその死を見送り続ける女性のなんでもないが極限のやりとりに、読中たびたび絶句せざるを得ませんでした。メンタルダウン時に手に取ることはオススメしませんが、出会ったことに必ず感謝することになる一冊です。
『あずかりやさん桐島くんの青春 大山 淳子』
地方の小さな書店から話題が上がり、累計30万部を越えるヒットとなった“あずかりやさん”シリーズ。
本作はその二作目になります。
出版社は児童書を主に手掛けていたポプラ社。
僕もお世話になった“怪盗ルパン”シリーズは現在は全20巻で出版されています。
このシリーズは中学生・高校生・一般というカテゴリーで展開。
断捨離では語れない人とモノの関係。
捨てられないから預ける。
僅か1日百円を、期日を決めて払うのです。
店主が目が見えないことも、預けやすい一因ですが、そこに流れるお店の雰囲気が安らぎを与えるのでしょう。
今回は、その場に欠かせない二つのアイテム。
文机とオルゴールが今回の語り部。
この二人?がいかにして“あずかりやさん さとう”にやってきたのか?が語られています。
特に遙々海を越えてきたオルゴールの話は児童書としてもかなりの良作だと思えます。
それに、店主桐島くんの高校時代(この時すでに全盲でした。)のお話しも、瑞々しいタッチで描かれています。
全盲の人の生活が少し理解できた気がしました。
「藪医ふらここ堂」 朝井まかて
あらすじ
江戸は神田三河町の小児医、天野三哲は「面倒臭え」が口癖。
患者は待たせる、面倒になると逃げ出す。ついたあだ名は「藪のふらここ堂」。(ふらここ=ブランコ)
 そんな三哲だけど実は名医?!凄腕を発揮することも。
三哲に振り回されながらも診療を手伝う娘のおゆん、弟子の次郎助、凄腕産婆のお亀婆さん…
周囲の面々を巻き込んで大騒ぎ。
登場人物のキャラクターが面白かったです。
笑わせたかと思えば、命を考えさせられる場面もあったりして読み応えがありました。
〚近いはずの人〛  小野寺史宜著
なんか、もやもやしながら読んだ感じです。
着地点もいまいち…
小野寺さんの作品は初めてです。
〚ひと〛〚まち〛を読もうと思ってたんですが、ちょっといいかな?って気持ちになってます。
うーん。やっぱりもやもやする。
大岡昇平「俘虜記」
有名ですが初めて読みました。
「何故、目前の米兵を撃たなかったのか?」という心理分析は有名ですが、思考を深めていく迫力が凄いです。
俘虜となった後のマラリア療養のための病院生活、一般収容所に移されてからの日本社会の縮図のような退屈な生活、日本への帰還と、リアルで明晰な記録が克明に続いていき、圧巻です。
個人的には、収容所に日本の降伏情報が伝わった時の「八月十日」の章に感銘を受けました。例えば、軍部が原爆を落されても中々降伏しないのは「自己保存という生物学的本能のほかはなく」、従って「私は彼らを生物学的に憎む権利がある」といったクダリ、「戦争の悲惨は人間が不本意ながら死なねばならぬという一事に尽き、その死に方は問題ではない」といったクダリなど、鋭い言葉が飛び出してきます。
社会人生活を経て中年で招集された大岡さんの筆は、ロウエルフルスンのブルースのような「苦み」があります。
悪魔のトリック    青柳碧人著    講談社文庫    2019年5月発行
この世の中には悪魔がいます。その悪魔は、「どうしても誰かを殺したい」と強く願う人の前に現れます。
そして、一つの能力を与えます。悪魔は直接、人を殺すことはできません。また、与えられた能力で直接人を殺すことは、できません。
その能力とは、例えば…
【ネズミに言うことを聞かせる力】
【強力な磁力を発する力】
【草木を腐らせる力】
【壁をすり抜ける力】
【金属や石を噛み砕く力】
などなど、それだけではどうも人を殺すのは難しそうです。
そして、この【悪魔の力】を使って引き起こされた犯罪を探るのが、特別任務を与えられた九条と有馬。この捜査をめぐる5編の連作短篇集です。
もう、ただでさえ【悪魔の力】を使って起こされた不可能犯罪なのに、どんどんトリックが複雑になります。
事件を追う九条は中年の無愛想な刑事。なぜか、【悪魔の力】を使って引き起こされた犯罪を知ることができます。そして、九条に振り回される平凡な刑事有馬にも秘密がありました。
どこまで行くんだ、この話と思ってしまいました。だんだん論理バトルの様相を呈してきます。
ありえない犯罪とありえない推理のお話です。興味がある人だけどうぞ。
霧の旗
   松本清張
『お姉さん、ぼくは犯人ではありません』---弟の無実を信じ五十年以上も闘い続けて、 八十九歳になった姉ひで子さんの、 あの若々しい満面の笑みを見て、 すごい!と思わず声を出してしまい。
ふと、松本清張氏が描いた、兄の無実を信じた妹を思い出して。
 その妹というのは、 死刑判決を受けた兄のために、 九州から上京し、 著名な弁護士事務所を訪ねた、 柳田桐子(二十歳)のことです。
桐子も裁判のことは分からず、 当然兄が犯人ではない証拠のことを、 知るよしもありません。
桐子に唯一できることは、 信頼できる弁護士にすがることでした。
ところが---忙しい---お金が無ければ---弁護士の大塚は相談に乗らず、 その後の懇願にも応じません。
桐子の願いも叶わず、 兄は控訴後の二審のさなかに獄中で亡くなって。
桐子の恨みの執念は、 冷酷に、卑劣に、大塚弁護士をおとしめていくのです。
 どうにもならない桐子の諦めと恨みを、 松本清張氏が描くと、 全く別の形になって、 ヒロインの悲哀が伝わってきます。
人が生きる中で簡単に起こりそうな出会いが、 二人の運命を大きく変えてしまったこと、 それが『人を裁く』世界の中だっただけに、 怖さが際立ってきます。
愛する兄の無実を信じ、 汚名を晴らしてあげたい、その一途な思い、 消えそうにない無念と哀しみ、 これらはどう昇華されていくのか。
そして、彼は何を感じ、 どんな人生を受け入れる覚悟をするのか。 松本清張さんですから、こんな感じになってしまいましたが、ぜひ再読してみてください。
『霧の旗』の書籍化から六十二年の歳月を経て、 いまも変わらぬこのテーマの重みを感じた読後でした。
「闘病記専門店の店主が、
   がんになって 
   考えたこと」 星野 史雄 著
  (産經新聞出版 平成24年刊)
 高齢化が進み、私の身内や知り合いでもがんに罹患する人が増えていますね。
 がんだけではなく、昔は聞いた事もないような病気と闘っている人の話も耳にするようになっています。
 明らかに誰に改めてとっても病気は“他人事ではない”と思う昨今です。
 著者は、奥さんのがんの闘病中に同じ病気の患者の闘病記が参考になるのではと思い探しますが、なかなか見つかりません。奥さんが亡くなって大きな喪失感にとらわれた著者は、このままでは精神的に危険と、闘病記を探して全国の古書店を巡り、やがて“闘病記専門ネット古書店「パラメディカ」を開店し、病気と闘う人たち(家族も含め)に闘病記を紹介するなど闘病の手助けをしていたが、今度は自分ががんになり自らこの本を書くことになってしまいました。
 本書は、妻の闘病の記録〜闘病記の収集〜専門書店を通じた患者と家族の声〜自分の闘病〜などを闘病記を紹介しつつ、よく整理され読みやすく書かれています。
 また、患者の家族として(また、大切な人を亡くした遺族として)、患者として、それぞれ当事者の視点で書かれています。それに加えて、第三者的な冷静に自分の病気を捉えているように感じます(時にユーモラスでもあります)。数多くの闘病記を読み豊富な知見を持っていた著者ならではの冷静さなのでしょうか?
 私は図書館に行くと闘病記コーナーを眺めるのが習慣になっています。読むと病気を持っていない人でも“励まされる”ものが少なくありませんね。
 「差別」、「格差」、「分断」など多数の人が“生きづらい社会”に向かうような風潮を感じられます。命や健康の大切さと、人への思いやり・・・闘病記って役に立つかも知れません。
【橋のない川:全六巻】『住井すゑ』:原作。
長~い間、手元に第四巻までしかなく「積読」状態になっていた【橋のない川】が何と‼「青梅図書館」の廃棄図書コーナーで、第五巻、第六巻で手に入れることが出来ました。それも第五巻、第六巻だけが残っていたのです‼【橋のない川】は名匠:今井正監督の演出により映画化もされましたが、島崎藤村の【破戒】。高木彬光の【破戒裁判】。松本清張の【眼の壁】。等々の舞台にもなった「被差別部落」を扱った名作です。

読み終わったあと、自室の窓から見えるいつもの山が、ふと得体の知れないものに見えてしまって慌ててカーテンを閉めた。 昭和初期の話がちょくちょく出てきたもので、身近にお年寄りがいなく、古い怪談を聴く機会など無い私としては、とても楽しんで読めた1冊。

《郷愁  ペーター・カーメンチント》
      ヘルマン・ヘッセ 
 豊かな自然に囲まれて育ったペーターは故郷を離れ、文筆家を目指すため都会生活を始める。そこで彼は、多くの人と出会い、学ぶが、心の底では常に虚しさを感じていた。文明に失望し、故郷に戻った彼を待っていたのはシンプルな暮らしと新たな出会いだったが、、。
叙情に溢れた美しい自然描写、青春の苦悩、故郷への思いをみごとに描いた、ヘッセの処女作にして出世作。
【ヒューマン・ファクター】
グレアム・グリーン著
ジョン・ル・カレ著「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」のモデルは「キム・フィルビー事件」
英国情報部の幹部がソ連に情報を提供し、
それどころかソ連に亡命した事件です。
ル・カレ氏にとって勤め先の大不祥事ですが
グレアム・グリーン氏にとって裏切り者は直属の上司であり、家族ぐるみの交友があったそうです。
そのグリーン氏による二重スパイの物語。
スパイ小説というより、スパイ組織に勤めている人の物語です。
主人公は、僕と同じような小市民。
ジェイムズ・ボンドのようにタフガイでもなく
ジョージ・スマイリーのように老練でもありません。
まして、愛国心に燃えているわけもなく、
世界平和のために命をかけたりしません。
伏し目がちに望むのは、平凡な日々。
でも、極秘情報がソ連に漏洩したことが判明。
裏切者の嫌疑をかけられた部員たちは…
若い頃に読んだら、おじさんたちのど〜でもいい会話ばかりで放り投げちゃっていたでしょう。
人生にくたびれた今、読むとうんうんと頷き、頁をめくるのが止められなくなりました。
そして、伏線(というより僕がさらっと読み飛ばしたところ)が
後半、意味を持つようになり、再読しないと良さがわからないようです。
裏切者と言うと「卑劣漢」とイメージしますが
やむにやまれぬ事情があり、単純に売国奴と切り捨てらません。
イスカリオテのユダ、明智光秀など史上有名な裏切者たちはみんな、こんな孤独を抱えていたのか、としんみりさせられます。
著者は遠藤周作氏にも影響を与えたそうです。
遠藤周作氏が好きな方は手にしてみてください。
🥰思わずニンマリしちゃうのは
登場人物がジェイムズ・ボンドのことを口にすること。
「僕がジェイムズ・ボンドなら、いまごろ…」
「お父さん、007ってホントにいるの?」と。
ここで言うボンドは、発表年代から言ってロジャー・ムーア。
あんな二枚目にはやっかみも言いたくなりますよ、
ねぇ、そうでしょ、みなさん?
【暇と退屈の倫理学】國分功一郎著
坂本龍一の訃報を耳にしたのは4月3日の朝だった。特別なファンではない。「筑紫哲也のNEWS23」と「戦場のメリークリスマス」と「energy flow」くらいしか知らない。最近たまたまradio sakamotoでの斎藤幸平や國分との対談をyoutubeで聴いた。作曲家としてしか坂本を見ていなかった僕にはとても新鮮だった。「この人はただの音楽家ではなかったんだ」と思った。「この人は広い人なんだ。」と思った。僭越ながらそこに親近感が沸いた。サイズもレベルもまるで異なれど、この5年ほど僕は広い人になりたいと思って狭くではあるが動いてきた。対談を聴いて自分が進みたいと思っている方向にあまりに偉大な先輩がいることを知り、とても喜んだばかりだった。だから訃報を聞いたその日1日、身体も頭も全然動かなかった。数日経った今でもなかなか気持ちが落ち着かない。それでも天上からのenergy flowを浴びながら、今日もこんな不毛な作文をしている。
radio sakamotoの中で坂本龍一は國分の『暇と退屈の倫理学』を「震災後日本の政治状況も驚くように変化している中で、ひとりひとりのこれからどう生きていったらいいのかを考えるヒントが詰め込まれている」と絶賛している。題名からは想像しにくいが、本書は大量消費社会への痛烈な批判を展開している。大量消費社会への批判として「贅沢をさせろ」をスローガンにしようというのだ。大量消費は贅沢の対極にあり、我々は消費から足を洗って贅沢を取り戻さなければならない。なぜなら大量消費社会ではその贅沢が妨げられているからである。贅沢がないから退屈が紛れない。退屈を凌ぐためには消費ではなく贅沢をこそするべきだ。これが國分の主張である。
この結論にいたるまでの國分の論理構成は僕にとっては実に明瞭だった。難解な議論を間に挟みながらも全体としては非常に見通しのよい記述の手順を踏んでいる。この見通しの良さは「実践」を意図してのものだろうと僕は受け取っている。radio sakamotoの別の回で、國分は斎藤幸平とも対談している。その中で國分はこういう。「哲学って、概念の学問なんだよね。哲学を勉強するってことはうまく哲学的な概念を理解して体得して使えるようになっていくっていうことだと思うんですよ。ある種の概念的思考の訓練なんだよね。それを社会との関係ってことでいうと、社会の中に色々こんがらがっていることがあって、理解されていない問題とかがあるわけ。そうすると哲学的思考を専門にしている人間がきちんと概念を整理することはすごく大事なことで、社会にあるたくさんの問題を考える上で、哲学はたくさんのことをしなきゃいけない。」小平市での住民運動から民主主義システムの欠陥を暴いた『来たるべき民主主義』しかり、本書『暇と退屈の倫理学』しかり、哲学は世の中に寄与しなければならないという國分の「実践」への態度は一貫していて、それが著作の明瞭性を担保している。
だからといって帯にあるオードリー若林のコメントのように「哲学書で涙する」のはまた別の話である。実際本書のどこに涙ポイントがあるのか、僕にはわからなかった。
※坂本龍一と國分功一郎の対談はこちら
https://youtu.be/7nGG6J_cOZo
《思い出コロッケ》 諸田玲子
コロッケ 黒豆 パエリア ミートボール すき焼き シチュー ベリーニ  〜あとがき
  昭和を舞台に大人の恋、男女の情愛、そして家族の真実を描いた静謐な短編七編の物語。
諸田玲子ーー静岡市生まれ 上智大学文学部英文科卒  外資系企業勤務の後、翻訳・作家活動に入る
《歴史を紀行する》   司馬遼太郎
 幕末ーー松蔭を筆頭に過激に突っ走った長州。西郷、大久保と大人の知恵を発揮した薩摩。ーー危機の時ほど、その人間の特質が明瞭に現れる時はない。風土と人物の関わりあい、その秘密、そして日本人の原形質を探るため、日本史上に名を留める各地を歴訪し、司馬史観を駆使して語る歴史紀行の名著です。
龍馬と酒と黒潮と〔高知〕
               〜
政権を亡す宿命の都〔大阪〕
『告白』(2010年製作)
原作 : 湊かなえ『告白』
監督 : 中島哲也
キャスト : 松たか子、岡田将生、木村佳乃、西井幸人、藤原薫、橋本愛
2009年本屋大賞に輝いた同名のミステリー小説の映画版。生徒に娘を殺された中学校教師と、事件の関係者たちを独白形式で描く群像サスペンス。
とある中学校の1年B組。終業式の雑然としたホームルームで、担任の森口悠子が静かに語りだす。「わたしの娘は死にました。警察は、事故死と判断しました。でも事故死ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」教室は一瞬にして静まりかえり、この衝撃的な告白から物語が始まっていく・・・。
独自の雰囲気と絶望の連鎖であり、人によってはモヤモヤが残ると思います。
それぞれの視点により次々明らかになっていくのが良い。少年法の問題提起を取り入れながら、人間の本質を恐ろしく描いた作品。
松たか子の鬼気迫る演技に圧巻です。
白と黒のコントラストを強調した独自性の映像が綺麗。様々な挿入歌も世界観を際立たせていますが、歌声と重なって台詞が聞こえづらい場面がありました。
ピスタチオ      梨木香歩
  緑溢れる武蔵野にパートナーと老いた犬と暮らす、主人公の棚(たな)。ライターを生業とする彼女に、ある日アフリカ取材の話がまいこむ……。そこから不思議な符号が起こり始め、何者かに導かれるようにアフリカへ…。内戦の記憶の残る地で、失った片割れを探す ナカト と棚が出会ったものは…
生命と死、水と風が循環する、原初の物語。
  2010 刊行
『ヒカリ文集』 松浦理英子  講談社
二年前、東北大震災のボランティア活動に一人で出かけ、厳寒の夜に泥酔し横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代がその未完成の遺作を発見した。それは、学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRをモデルにした戯曲であった。久代は同じく劇団員だった鷹野裕に「裕、あの戯曲の続き書かない?」ともちかけ相談の結果、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。 ... それは、同じくその劇団員であったヒカリを巡るそれぞれの想いを込めた《ヒカリ文集》となるのである。
劇団NTRの劇団メンバーと、男女を問わずと次々に関係を持ったヒカリの思い出が綴られる。世間の相場からすればネガティブに嫌われるキャラであるヒカリだが、メンバーからはいまだに愛されているという稀有で不思議なキャラクターとして描かれる。二年前にアジアの地と思われる場所で更新されたFaceBook以降の彼女の消息を知るものはいない。メンバーたちの彼女への不思議な回想が錯綜し、重層的に語られてゆく。
非常に趣向を凝らした、巧みな構成でヒカリという今は非在の存在に読む者もそれに魅了され虜にされてゆく。
ヒカリの相手は、男性であったり、女性であったりするが、バイセクシュアルと断定することもできないような気がします。その都度の関係性のなかでセクシュアリティを横断的に変容させるような性の在り方をしている。
優也がヒカリにかけた言葉「一人の人を愛せないんだったら大勢の人を同時に愛すればいい」が、今の時代の恋愛の有り様の一面を鋭く捉えているような気がしました。それにしてもヒカリという存在はミステリアスである。
六人の視点を通しヒカリの解像度は上がっていくようにも感じるが、それに反比例してその実存は虹の彼方にあるようでもある。ともにヒカリに失恋し、今は恋愛関係にある裕と雪実の以下に引用する会話がそれを如実に物語っている。
《先に立ってバイクを走らせるヒカリの、車のヘッドライトを反射する革ジャンパーの背中を見ながら、雪実が言った。
「轢き殺さない?」
「いいね」
ふっと笑いを漏らした後、雪実は問いをよこした。
「まだヒカリが好きでしょ?」
「うん」私は頷いた。
「私も」》
晩婚化であり、非婚化であり、少子化でもある時代の新たな恋愛小説の誕生か?とでも言っておきましょうか?
劇中で語られる劇団NTRの人気作品である『壁越しの恋人』にその片鱗がかいま見えた気がします。第75回野間文芸賞受賞作品でもあります。
名探偵のままでいて
小西マサテル
小学校教諭の楓とその祖父が主人公。
祖父は認知症を患っており、幻視の症状がある。
数々の事件が起こり、楓は祖父に話に行く。そこで祖父は幻視のように、事件を見ることができ、解決していく。
私にとっては新しいタイプのミステリーで楽しく読めました。
終章では感動する話があり、読んだ後にじーんとさせられました。
かなりライトな感じで読みやすく、一気に読んでしまいました。おすすめの一冊です。
「R帝国」
中村 文則 (著)
 近未来の島国・R帝国。人々は人工知能搭載型携帯電話・HP(ヒューマン・フォン)の画面を常に見ながら生活している。ある日、矢崎はR帝国が隣国と戦争を始めたことを知る。だが何かがおかしい。国家を支配する絶対的な存在"党"と、謎の組織「L」。この国の運命の先にあるのは、幸福か絶望か。やがて物語は世界の「真実」にたどり着く。
 佐藤航さんがこちらで同筆者の「教団X」をあげていらっしゃいましたが、そちらは残念ながら自分のテイストに合わなかったので、こちらをオススメとします。
 オーウェル「1984」ディック「高い城の男」といったデストピア名作を背骨に、スマホをはじめとするガジェットや脳の自由意志問題等、現代向けにアップデートしたという印象の一作です。ただ、これらの名作たちは今読むと小説としてこなれていない印象もあるので、このような作品から入るというのは大いにアリと自分は思いました。ディストピア小説入門書としてオススメです。
水野学 「センスは知識からはじまる」
仕事に役立ちそうな書籍を探していて面白そうな本を見つけたので読んでみました。
 
著者は熊本県の公式キャラクター「くまもん」を手掛けた方です。「センス」と聞くと生まれつき、あるいは幼少から英才教育することで身に着くものを想像する人が多いでしょう。そういった分類の「センス」もありますが、「センス」とは本来誰でも持っているものであり、磨くこともできると主張しているのが本書の内容となります。大項目は以下
大項目:
・「センス」の定義とは
・「センス」が必要とされる理由
・「センス」はどのような仕組みで発揮されるのか
・「センス」の磨き方
読んでみると「センス」とはそもそも何なのか?どういった思考をしているのかが論理的に分かりやすく解説されています。「センスとは数値化出来ないものを最適化することである」と定義されていて、その最適化は知識によって行われていると主張していました。例えば製品をどんなカラーリングにするか、を決めるという話になったとして「センス無いから」と才能のせいにするのではなく配色の仕方や製品を置く場所の周りには何がどういったものが置かれるかを知識で知っていれば決められる、ということです。あらためて主張されると確かにその通りだなと納得してしまいました。もしかしたら自分もセンスを磨けるかも!という前向きな気持ちになれましたので、読んでみて良かったかなと思っています。
またセンスと学校教育にまつわる話もありますので、子育てしている親御さんたちであれば将来我が子がセンスの良い子になれるように手助けできそうです。
 
センスへの見方が変わる面白いことがたくさん書かれていたので、気になる方は読んでみてください。
貫井徳郎さん「私に似た人」
この作品、怖い。
何が怖いって、登場人物たちの考え方が「私」つまりぼくの若い頃に「似てる」と感じてしまったからです。
もちろん、年齢を重ねて、「自分」というものを冷静に見れるようになってきて、「そうではない」ことに気付いた今では、良くわかりますが、若い頃は自らの不遇を「周り」のせいだと思ってました。
と言っても、それなりの大学に入って、一応名の通った会社に入ってという人生のどこに不遇があるのかと言われると、その通りなんですが、若い頃は自分がもっと何かが「できる」と信じ込み、それが叶わないのは「周り」のせいだと信じていました。
もちろん、それでも破壊的な行動に出なかったから、今こうして読んだ本の感想などを発信できているわけですが、あの時誰かに背中を押されていたらと感じると、やっぱり怖い気がします。
ま、もしかすると誰しもが多少はこの登場人物たちと、近い所をウロウロしているのかもしれませんし、誰もがこの作品の登場人物たちに「似てる」のかもしれません。
そんなお話なんですが… と言っても未読の方には「何のこっちゃ」という感じかと思いますので、ストーリーの紹介をさせていただきますと。
日本で続発する小規模なテロリズム。
「小口テロ」と呼ばれた事件の実行者たちは、自らを「レジスタンス」と名乗り、社会への不満を前面に打ち出していた。
当初、実行者たちに繋がりはなく、個別の案件と思われたそれぞれの事件に黒幕の存在が明らかになる。
SNSで社会への不満や憎しみをぶちまける若者たちに対して、社会への反抗を呼び掛ける「トベ」という謎の人物。
「トベ」に「背中を押されて」、トラックで群衆に突っ込む者、また、刃物を振り回し無関係な歩行者に切りつける者。
その実行者たちは、事件の直前に「トベ」と関わっていた。さらに「トベ」自体が複数の人物に引き継がれており、その正体が掴み切れない。
就職氷河期、派遣切り、非正規雇用、ブラック企業、引きこもり、他人への無関心…
現代社会の「病巣」が、レジスタンスを生み出していく。
そして、その実行者たちの周辺の人々たちの苦悩が十篇の短編の中に描かれています。
各短編の登場人物たちに多少の関わりはあるものの、基本的には独立したお話(同一の事件を会話の中での話題として取り上げるという関わりも含めてですが、従ってこれ以上は書けません😅)
というわけなんですが、連作として貫井さんの上手いところは、一見何の関係もなさそうな事件について、話を読み進むに連れて、「ああ、あの事件の…」という具合に関連を持たせながら、ある事件の「傍観者」が別のお話ではその事件をきっかけとした「主役」になるという組立ての妙があります。
特に、ラストである人物独白の中で、「トベ」の秘密の一端が語られるのですが、社会生活の中で「よくあるような出来事」が、「トベ」を生み出したということが明らかになります。
それはそれで、哀しい出来事なんですが、全篇を通じて、そんな不満や不条理が周囲に牙を剥くさまが淡々と語られていて、そこにもある種の「恐怖」を感じざるを得ません。
まあ、ぼくの文章力ではこれが限界なんですが、おそらくこの作品をに出てくる十人の登場人物たち、「あっ、この人自分と似てる」と感じる人が、必ずいるのではないのかと思います。
つまり冒頭に書いた「この作品、怖い」というのが、ぼくの感想ですが、みなさんがどう感じるのか…ちょっと興味があります。

村田沙耶香著『コンビニ人間』聴覚と資格を上手に使って、現代社会における同調圧力を上手く描き出した作品。正常と異常なんて線の引き方だよなと改めて思う。自分の常識は他人の非常識と思って生きていきたいと思う。

「母という呪縛 娘という牢獄」齊藤彩
"事実は小説より奇なり"
私がこの本を読み終えた時の一番の感想です!
2018年に滋賀県で起きた、実の娘が母親を殺害した事件。元新聞記者である作者が追いかけ事件の真相を書いたノンフィクション!!!
加害者の手記を元に書いた2人の親子関係は、小説以上に壮絶なものでした。
加害者は母親から、9年にわたる浪人生活を強いられていました。酷い罵声と暴力に耐えながら医学部を目指し続けた末に、どうにか看護師になった彼女ですが、今度は助産師学校を受験させられ落ちてしまい、母親を殺すという選択をとってしまいます。
「学歴信仰」に囚われた母親は、娘の自由を奪い「医学部に入る事」を強要します。自分の思い通りにならない娘を口汚く罵り、時に暴力をふるいながらも自分の理想を押し付ける母親。「なぜそんなに医学部にこだわるのか?」という理由も娘には言わずに。
この本の「母」と「娘」が、30年以上一緒に暮らしながらも、お互いの心が通い合った事がなかったのではと思うと、本当に胸が引き裂かれる思いです。
読んだ人は「彼女が、母親を殺さないですむ方法はなかったのか?」と、一番に考えると思います!
興味が湧いた方は、是非読んでみて下さい!!!
【ダイイング・アイ】
著者:東野圭吾 2007年に光文社から刊行
※画像は文庫版
ストーリーは一人の女性が交通事故で亡くなったことから始まります。
加害者は30代のバーテンダーの男性です。
女性の夫は復讐のためにその男性を殺そうとしますが失敗します。
女性の夫は服毒自殺をし、バーテンダーの男性は一命を取り留めたものの記憶喪失になってしまいました。
その失われた記憶も事故に関する部分だけという実に曖昧な状態でありました。
それから男性の周囲で奇妙な出来事が次々と起こりはじめました。
同棲していた女性が失踪がしたり、「瑠璃子」と名乗る妖艶な雰囲気を持つ美女が近づいて来たり、と。
そして時折事故に関する記憶が部分部分に蘇ってくるのですが、何か違和感を感じるのです。
男性はこの事故には何か秘密があると感じ、失われた記憶を取り戻すべく自身で調査を始めました。
ホラー的な要素を含んだ東野圭吾さんの長編ミステリー小説です。
物語のキーとなるのはバーテンダー男性の失われた記憶です。
そこに全ての真実が隠されていました。
男性の記憶が戻った時、「なるほどそういうことだったのか」と納得がいき、登場人物たちの今までの意味深な言動も理解することができました。
結末はまさしくタイトル通りの「ダイイング・アイ」です。
罪を認めず、互いの保身しか考えない人間たちに、亡き被害者が怨霊となって復讐を果たしたような感じでとても怖かったです。
作品名 告解
著者名 薬丸岳
人は重大な過ちを犯した時、逃げずに真正面から、それに向き合う事ができるのか?客観的に見れば、そうすべきだとわかっていても、いざ当事者になってみれは、事実に目を伏せて逃げてしまうのではないか?心底、謝罪が出来る勇気が持てるのか?そういった事を、この小説で問われていると感じました。中々、奥深い内容です。
薬丸岳氏の小説は、ページ数も多くなくて、文章も分かりやすいので読みやすいと再認識しました。軽度の認知症を患った人物を主観として描かれている場面があるのですが、著者が認知症に患った事が無いにも関わらず、上手く描かれている事に関心しました。
罰を受けても罪は消えない。なら、どう生きていけばいい?
『天使のナイフ』『友罪』『Aではない君と』――
贖罪と向き合い続けた著者だから描けた入魂の傑作長編小説。
「自分は運が悪かっただけだ……」
女性を撥ねるも、逃げてしまった大学生
「やらなければいけないことがあるんだ」
愛する妻を奪われ、犯人の出所を待つ男
ひき逃げ事件の加害者と被害者遺族。両者の運命が交わる先にあるものは――?
深夜、飲酒運転中に何かを撥ねるも、逃げてしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。罪に怯え、現実を直視できない翔太に下ったのは、懲役四年を超える実刑だった。一方、被害者の夫・法輪二三久は、ある思いを胸に翔太の出所を待ち続けていた。贖罪の在り方を問う傑作。
坂井希久子
若旦那のひざまくら
坂井希久子さんの「妻の終活」を読み、妻としての生活を全うし素晴らしい女性なのに立派すぎて
謂わゆる男勝りというのではなく男前な生き方で甘えられないその性格が少しかわいそうにも思ったものだが、今回の長谷川芹にも同じ匂いを感じさせられる。
京都の西陣という昔ながらの老舗の一人息子の充に惚れてしまうが、義父母には東京の11歳も年上の芹は受け入れられないし街も受け入れてくれない。
しかし斜陽の織屋を芹の奔走で盛り上げる為に一生懸命になる姿に少しづつ周りに受け入れられ最終的には義母をも魅了してしまう一途な生き方は滅茶苦茶素敵でカッコいいが、人の懐に入っていけない不器用な性格なのに正反対の柔らかい11歳も年下の充にふと甘える芹がとても可愛かった😊
『大江戸あにまる』  山本幸久  ★★★__ 
な~~~んと、山本幸久が時代小説。
「何でまた?」と読んでみれば、確かにある意味立派な娯楽時代小説ですね。それにしてもこのキャストは。。。
歴史的人物として若き日の勝海舟、鳥居耀蔵、島津斉彬、岩瀬忠震、講談・浪曲の世界からは平手造酒、国定忠治、鼠小僧(いずれも実在)。これらを互いに絡ませて話を進めちゃうんですからね、ちょっと無謀(笑)。平手造酒とか忠治と若い人は知らないでしょうね。ただ登場人物の絡み合いで笑わせてくれるのは山本さんの得意技ですね。
表紙に描かれる3人の主人公、お人好しで失敗ばかりの幸之進、草花や獣にしか興味のない福助、可愛いけど男勝りの藩主の妻・小桜。そこに駱駝、豆鹿、羊、山鮫(ワニ)、猩々(マントヒヒ):いずれも各章のタイトルやオオカミ、豚、ペリカンまで現れての荒唐無稽のドタバタ騒ぎ。エピローグでしっとりと上手くまとめあげ、とてもユニークな娯楽時代小説でした。
自殺や殺人事件のあった、いわくつきの物件に一時的に住む「影」
何もなかったかのように物件ロンダリングする話し。
不動産業界に興味が有るので、手に取りました~
高齢社会、これからドンドン事故物件が増える事でしょう😥
ルームロンダリングにまつわる様々な人間模様を紡いだ8つの物語です。
不動産の仕事って、ほんと大変なんだ~!
色々と勉強になり良かったです。
そして自分の終の棲家にも…
久しぶりに緊張感のある本を読みました。
傲慢と善良 辻村深月
連絡取れない婚約者は何処へ 購入し半年以上ようやく読了 それはなぜか 婚活の話なんですがセリフが結婚適齢期過ぎた者には相当堪える 心配する親 恋愛結婚者 アプリで会う価値観の違う善人 結婚相談所やらが現実を突き付ける 時代の価値観変わっても周囲は 自分見直し 裏テーマは家族かな
いつもつるんでいる彼は妻子持ち 小遣いで自由な金は少ない しかしいつもラーメンを奢ってくれる 後輩と飲みに行っても一切出させない 普段私は投稿と違い重箱の隅をつつくようなボケ ただツッコミが無いと笑いが 任せられるのは彼だけ 今まで出会った中で一番面白い男 退屈した事無し 一週間話さない事は無かったが最近連絡取れず ようやく来た返信には離婚したと LINEで言うなと超久々の一ヶ月半ぶりに再会 私は新バツイチ様と書いた画用紙を持ち迎える 準備しておいた中島みゆきの時代を流して まわすなまわすなもっと真剣に慰めろと元気な笑顔 私が初めてラーメン奢った日 
#2人はしゃべくりのみ道具も王様ゲームもいらない
『岬』  中上健次  文春文庫
「吹きこぼれるように、物を書きたい。いや、在りたい。ランボーの言う混乱の振幅を広げ、せめて私は、他者の中から、すっくと屹立する自分をさがす。だが、死んだ者、生きている者に、声は届くだろうか? 読んで下さる方に、声は、届くだろうか?」(中上健次『岬』後記より引用)
この小説は、戦後生まれ初の芥川賞を受賞した中上健次のその受賞作品で、後に紀州(路地)サーガとよばれる三部作品の出発点となる記念碑的な作品です。『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞した宇佐美りんさんが大きな影響をうけた作家の作品として新装版の文庫の帯で推薦されています。三十年ぶりの再読です。
文芸批評家の江藤淳は、この作品をして日本の自然主義文学百年の伝統のひとつの到達点であると称賛しています。次の文章にその一端がかいまみえるかもしれません。
《土を掘り起こしておこうと思った。つるはしを打ちつけた。見事に根本まで入った。(中略)土はふくれあがり、めくれる。(中略)腕の筋肉が動き、腹の筋肉が動く。それは男らしかった。(中略)朝、日と共に働きはじめ、夕、日と共に働き止める。》
《なにもかも正直だった。土には、人間の心のように綾というものがない。彼は土方が好きだった。》
中上作品の登場人物は、その錯綜した複雑な家系の人間関係がわかり辛く、紀州弁で語られるその会話文の主体の把握が難しいと言われますがこの作品もそのきらいはあるものの、主人公である秋幸を「彼」と三人称表記されていること、さらに「姉」と「あね」との表記の違いをを理解して読みすすめてゆけば、しだいにその関係が霧が晴れるようにすぅ~っとクリアになります。
主人公である秋幸を中心とした腹違い、種違いの親子親族関係がその地に根づいた土地の宿命と運命に哀しみと、慈しみと、怒りを乗じて描写される。私生児として生まれた秋幸の本当の父親は、「あの男」と表記され、この土地(路地)では、悪名たかい噂で溢れている。
《おれの顔は、あの男の顔だった。世の中で一番みにくくて、不細工で、邪悪なものがいっぱいある顔だ。彼は思った。その男が、遠くからいつもみている。いつもおれの姿を追っている。(中略)あの男は絶えずおれを視みている。その眼を、視線を、焼き尽くしたい。》
ラストシーンで彼=秋幸が、腹違いの妹と媾うときに人称が「おれ」となってこの小説は唐突に終わる。ある批評家によればコンドームを被ったソーセージが豚小屋の脇の測溝からぷかぷか浮いて流れてくる挿話を『古事記』の隠喩との見解には戦慄させられました。
土地の端っこから海に鋭利に突き出して世界から隔絶した「岬」をメタファとして、遠い世界の果てを母系的な神話として著者が名付けた『路地』をその足がかりとして描写する土着的、神話的な自然主義文学と言えるのかもしれません。
アンダークラス / 相場英雄
外国人技能実習生問題を主に描かれています。
老人養護施設で殺人事件が起こり、実習生のベトナム人女性アインが疑われます😫
二人は普段は仲良く、よく話その話の中に山側と言う言葉が出てきます。
神戸で山側といえば高級住宅街、この二人は生まれた時から貧乏を背負い体を張って働いて来ました😥
そんな人達を奴隷のように扱う悪徳業者。
実際でもあるのでしょうね。時々ニュースになってます😤
今の世の中、防犯カメラが発展し絶対捕まりますよね。逃げ切れるものではありません😏
格差社会の世の中、アインの「日本にくるな、酷い所だ」「日本人、とっくにお金持ちじゃなくなった、ずっと給料が下がり続けているよ、後進国になった事受け入れるべき」と言う言葉にある意味納得🤔
推理を楽しめ、今の日本の問題について考えさせられる一冊でした☺️
(二重カバーになって今年(令和5年)2月25日に再版されていました。)
"この小説は、ある女の一生を描いたものである。 
女は「殺人鬼フジコ」と呼ばれた。
少なくとも15人を惨殺した、殺人鬼。"
                                        =はしがきより=
                         
    ー高津区一家惨殺事件ー
「フジコの母親と父親と妹が、残虐な方法で殺害された。
フジコだけが首の切り傷だけで、かろうじて助かる。」と言う事件。
その後、フジコは叔母(フジコの母の妹)
に引き取られ、何不自由なく育てられた…と感じますが…
結果、そこの家を飛び出し、殺人鬼にまでなるくらいだから、フジコにとっては決して居心地が良い場所ではなかったのでしょう…
殺害した15人を知れば、おのずとフジコがたどった人生がわかってきます。
はい、で…❓
フジコの人生がわかって、それで終わりですか❓…
"最後の一行を読んだ時、あなたは諸者が仕掛けたたくらみに戦慄し、その哀しみに働哭する……❗️"      =裏表紙より=
気になって「あとがき」を最初に覗いたりしないで下さい。
ちなみに…
高津区一家惨殺事件の犯人は捕まっていません…
そして、
"この小説を書いたのはある女性だ。
「了」の文字を書き込んだその三日後、果てた"            =はしがきより=
亡くなっているのですね…
(人気作家さんの人気作品なので、もうとっくに読んでいる方が多いと思いますが、未読な方は是非❗️)
「殺人鬼フジコの衝動」
                                           真梨幸子
革命前夜   須賀しのぶ    文春文庫 
政治小説 ベルリンの秋と 音楽小説 蜜蜂と遠雷を 思い出させる ミステリアスな 音楽 歴史エンターテイメント 
冷戦下の東ドイツ ドレスデンの音楽大学 に留学する ピアニスト真山柊史は 父親と親交のあった ドイツ人家族ダイメル一家の世話になる 
そこで 2人の天才的バイオリニスト  ハンガリーからの留学生ラカトシュとドイツ人イエンツに出会う 
個性あふれる才能たちに戸惑いあがく真山は ある時 教会でバッハを演奏する美貌のオルガニストのクリスタに出会うが 彼女は シュタージュの監視対象だった
 ベルリンの壁崩壊直前の 自由を求める東ドイツの 人々と 切磋琢磨する音楽家たちの才能の しのぎ合いが ダイナミックに絡む人間ドラマは ラストに向けて驚くべき苦悩の真実を明らかにする 
重苦しい中にどこか人間の理性と感性の希望を感じさせる瑞瑞しい小説である
2017年の 文庫ベストテン第1位で オリジナル文庫大賞も受賞している
清浄島   河﨑秋子    双葉社
ここ数年世界をパニックに陥れたウイルス感染とは違いますが、包虫を介して感染する恐ろしい病気です。人類の歴史とは、病原微生物ないし病原体との戦いの歴史でもありました。
呪われた島…、かつて最北の島、礼文島はそう呼ばれていました。腹が異様に膨れあがり、為す術もなく死んでいく。患者の肝臓にはこぶし大の腫瘤があり、蜂の巣状の嚢胞と化す。病名はエキノコックス。今でこそ名が知れ渡っているキタキツネなどを中間宿主とした感染症です。北海道の観光客に野生のキタキツネに餌などをあげないよう注意が呼びかけられていまずが、触るのはもちろん、糞などの粉末に触れても感染するし、川の水などもどんなに澄んでいてもそのまま飲むのは危険とされています。礼文島での根絶をよそに、今や北海道全土に渡って感染が広がってしまっています。早期に発見されれば治療も可能ですが、この病気の怖さは発症まで長い年月を要し、発症したときには手遅れになっていることが多いことです。
本作はエキノコックスと人間の戦いの歴史を描いたものです。
土橋義明…、昭和11年に礼文島出身の女性が本症と診断され、その後北海道立衛生研究所から派遣された研究員である。エキノコックス根絶のためにただ一人礼文島に派遣された。エキノコックスは中間宿主を必要とする。ネズミ、猫、犬、キツネである。礼文島にはかつてキツネはいなかったのだが、ネズミの繁殖を抑えるために本当からキツネを持ち込み野に放った。それが今野生化し繁殖している。土橋は、中間宿主を突き止めるために、島内の猫、犬、キツネの捕獲及び殲滅を任務としていた。島民との軋轢、孤独な戦いの末、最後は島内のすべての中間宿主となる動物を薬殺することになる。飼い猫、飼い犬もすべて…。
伝染病と人間の戦い…。土橋という一人の人間の葛藤が克明に描かれています。史実を詳細に研究した作者の描くドラマはドキュメンタリーのように胸に迫ってきます。読み応えがありました。
佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』。
NHK朝の連続テレビ小説、ベルギー18世紀版(しかも主人公は男性)…みたいな感じ(?)。
その時代にも地方にもまったく疎い。下調べもせずに読み始めたが、どんどん引き込まれて毎晩寝るのが遅くなってしまった。
ひとりの天才的な頭脳の持ち主である女性(ヤネケ)と、彼女をずっと慕い続ける主人公(ヤン)の、愛(といっていいのか?)の物語。大きな時代の流れを背景に、何十年にもわたる家族の苦難や喜びを描く。
以前読んだ『スゥイングしなけりゃ意味がない』でも感じたことだが、佐藤亜紀の文体はすごく淡々としている。そしてなにより登場人物の台詞がすごく今風である。そのせいで、歴史小説・家族小説というより、なんとなくファンタジーっぽい雰囲気になってるような気もする。
作中に、ヤネケが入る「ベギン会」なる団体が出てくる。
これは実在した団体(施設)で、キリスト教の信仰を支えとした未婚(非婚)の女性たちが集まって住んでいる。洗濯の請負仕事やレース編みで賃金を稼いで暮らすのだ。その規則は修道院よりも緩く、途中で脱会することもできるし、施設の中庭ぐらいまでなら一般男性が入ることも可能だ。
欧州におけるNPOの発展の下地には、こういう団体の存在の影響も大きいのだろうと強く思った次第である。
最後の方で、ベルギーにもフランス革命の影響が及んでくるのだけれど、当時の混乱した情勢が詳しく描かれていて興味深かった。
まずフランス軍の先遣隊が市役所にやってきて占領を宣言するのだ。むろん彼らが市域に進入する時に戦闘が始まることもあったのだろうと推測するが、それまでの総督府と市(自治体)との関係からして、多くは穏便に占領されたのだろう。
軍の代表は、革命で成り上がった世間知らずの若者なので(というか、革命政権そのものが世間知らず)、海千山千の市長や参事会に懐柔されてしまう。その様子が可笑しくて笑えた。
幕末の日本でも、官軍が進軍する過程で、そんなこともあったんじゃないかと思ったりする。
この作品のテーマは「女性の解放」である。
ヤネケは論文や書物を弟の名で発表する。そうしないと世間に相手にされないからだ。女性は男性と結婚し子供を産むことが役割だと思われていた時代、ヤネケはべギン会に入ることで、自らの興味と才能の趣くまま自由に仕事をすることができたのだ。
男性と結婚し子供を産むことが女性の役割だという思想は、映画『たそがれ清兵衛』で丹波哲郎扮する伯父の台詞にもあるように、わが国でも常識だと思われていた時代があった。(…いや、今もある。)
「すみなれたからだで」by 窪美澄読了。
またまた窪さんにやられました。むちゃくちゃ良くて心に強く残る濃いお話の連続でした。2016年の作品で9つの(文庫は)短編集です。テーマは「生」と「性」でどれも味わい深くリアルで良かったのですが特に印象深かったのを5つご紹介します。
「父を山に棄てにいく」
自殺願望のあるダメな父親を山奥の施設に預けに行くお話。
相変わらず心理描写が秀逸で切なく悲しい。
「すみなれたからだで」タイトル本
1人娘が初のデートに行くとしって母親はあらためて中年となった自分と夫との乾いた性を思うお話。これ短いけど良くできてた☝️
「バイタルサイン」
16歳の娘 作家の母親の恋人、いわゆる義父と出来てしまう昭和の最後の日のお話。現場を母親が見られて泥沼に。そして25年後。。エロティックなフランス映画のような 😎
「銀紙色のアンタレス」
直木賞作品の中にも入ってるのでご存じの方も多いかも。
高一の夏、美人の幼馴染を振って祖母のいる田舎で数日前に会ったばかりの人妻に告白する少年の初恋のお話。解放的な夏の風景と夏の終わりの切なさがキュンキュンします。そして何故かぞわぞわします(笑)
「朧月夜のスーヴェニア」
認知症の老婆が孫娘の世話になりながら昔の記憶を思い起こします。認知症でも昔の記憶は鮮明で戦時中、許嫁がいるのに戦地を拒む医学生と逢瀬を重ねます。人目を忍んで身を焦がすような恋をして性に奔放だったおばあちゃんからみて三十路を越え独身でスマホばかりいじっている孫娘をみて思います「女としては私はこの娘に勝ったわ」 🤪
私も最近の事は全く覚えられませんが、昔の恋はよーく覚えてますよ❣️、えっ聞いてない(笑)
追伸
猫好きな方にも「猫と春」良かったですよ。。
時代背景も様々だし中年夫婦から少年や女子高生から老婆までバラエティにとんだ主人公のお話達。タイトルのセンスも抜群🤗
窪さんファンはもちろん必見ですが、お気に入りの一編がきっと見つかるのでは と思います。
オススメしたい、そしてまだまだ追っかけたい窪作品でした。

田坂広志「運気を磨く」著者の「死は存在しない」が面白かったのでその勢いで購入。ジョセフ・マーフィーやナポレオン・ヒルの成功哲学に代表されるような、潜在意識に働きかけることで運気を拡大させるやり方は多くの人にとってなぜ上手くいかないのか、その理由と著者なりの実践方法を明快な理論で説いている。願望実現のためのノウハウ本っぽく見えるが、読んでいくにつれ、心の有り様を説いた究極のポジティブ人生論へと話は進んでいく。そして最後には壮大な帰結に行き着く。修行僧のように自分自身にムチを打つ必要などなく、少しだけ日常の視点を変え、心の持ち方を見直すことがより拓かれた人生につながるとする氏の考えにはどこか優しさを感じる。いやこれも面白かった。

岩城けいさんの『サウンド・ポスト』
を読みました。温かい涙が止まらない一冊でした😢
 サウンド・ポストとは、バイオリンの内部にある芯のような部品で、それが倒れると上手く音を出すことができません。隠れているので普段は気がつかないものです。表紙の右側の父親:崇が娘のサウンド・ポストです。左のメグはバイオリンをこよなく愛する娘です。メグの母親はフランス人でメグは母親似です。メグが三歳の時に病気で亡くなりました。それから崇は日本人で相棒瑛二の和食店の料理人として働きながらメグを育てていきます。メグが18歳になるまでの様々な出来事が書かれてありました。私も一人の親として共感することばかりで、目頭が熱くなりながら読み進めました。
 メグのバイオリンの先生セルゲイ先生は、「メグの演奏は、沢山の人達の手で育てられたことが分かる❗最上級のブレンド珈琲だ‼️」と言います。
 崇は、料理の仕込みをしながら、メグの奏でる演奏を聴き、メグと会話しているのです。
 困難をいくつも乗り越えながら成長していくメグのことを娘のように感じながら読んだのですが、ラストが余りにも悲しく苦しく美しく温かく・・・。
 いい一冊にまた出逢いました‼️
【一人称単数(村上春樹)】
久しぶりの春樹ワールドを堪能して📚
友人に薦められたことをきっかけに、学生時代から愛読している村上春樹。独特の世界観と文体に惹かれ続ける数少ない存在だ。私小説の雰囲気を纏いつつ、時代の息吹や心情を鋭く描き出す仕掛けや作風にいつの間にか引き込まれてしまう。
これほど長く愛読しているのに、いざ感想をまとめる段になると少なからず困惑する。言葉での表現が難しい思いと読後感を惹起させるのは、自分の中で村上春樹の他にはない。にも関わらず嫌になるどころか、また手に取りたくなる魅力がどの作品にもある。
今の自分に大きな不満はないものの、置き忘れた何かを常に意識の底で引き摺りながら生きる主人公。身近でありうる存在の周りに起こる不可思議な現象が奏でる物語も、時代とともに進化する。最近は綴られる世界も円熟味が増してきた印象。
本作は8つの短編集だが、その世界にはどれも今あげた要素が満載だ。品川猿の告白にはユーモアがあるし、他の作品では音楽への造詣の深さが感じられる。大人だからこそ楽しめる深さが稀少になった時代に、そんなリアルと幻想を綴る騎手を追い続けたい。
書籍「女中がいた昭和」(小泉和子著)
昭和の戦争前までは、女性は事務員やタイピスト等の仕事に就く方もいらっしゃいましたが、「女中」や子守をする方が多かったようです。
しかし、もう「女中」などという言葉はなくなってしまったのでしょうか?
辞書を引けば、「家庭・旅館・料亭などにおいて、住み込みで働く女性の、日本国内における歴史的呼称である。」、もっと無機質的に、「よその家に雇われて家事の手伝いなどをする女性。現在は『お手伝いさん』という」、あるいは「旅館・料理屋で、客への給仕や雑用に当たる女性」などと書かれており、まあ、今の言葉では、「住み込みの家政婦」でもいいのかも知れませんが、やはり「女中」という言葉には、その独特の響き、味わいがあります。
今は令和の時代。平成より以前の昭和、それもかなり古い、前回の東京オリンピックが行われた約60年前の、昭和30年代(1964年以前)までは、今とは違い、掃除機、洗濯機などの電気製品は一般には普及していません。また、ガス、IHだど、とんでもない。薪で煮炊きをしていた時代です。ご飯の支度も大変。主婦の仕事は重労働だったのでしょう。
その中でも、例えば、地主だとか、商家だとか、住み込みで働く従業員を多数抱える家では、それに比例して家事も多く、沢山の「女中」さんが働いていたようです。また、一流企業の重役のご家庭、「中流家庭」なんて言葉もありましたが、そんな家にも普通に「女中」さん(住み込み、通い)がいたように思います。
昭和44年前期の芥川賞受賞作「赤頭巾ちゃん気をつけて」では、こんな中流家庭の「薫君」宅には「よっちゃん」という女中さんがいました。
ところで、この仕事、「行儀見習に入る」、「女中奉公」などという言葉がある通り、花嫁修業的意味合いもありましたが、いい話ばかりではありません。
当時の家は鍵もかからない和室が殆どです。男と女が同じ屋根の下で暮らしていれば、間違いも起こります。
この本の著者の小泉和子さんは昭和8年(1933年)生まれ。登録有形文化財昭和のくらし博物館館長。工学博士。元京都女子大学教授。朝香宮邸等文化財建造物の修復、復元を行う。生活者の視点から昭和のくらしの細部を語る第一人者です。
そんな著者の視点から、「旦那のお手付きだ」、あるいは「若旦那に手籠めにされた」など、あまり語られぬ貞操に関する問題を含め、多角的な視点から女中という職業が考察されているものです。
私は社会風俗を研究するため、4、5回読みました。図書館に行けば、簡単に借りることができます。昭和史の一面を知ることができる貴重な書籍ですので、お時間あれば、図書館で借り出し、ご一読されることをお勧めします。
「リバー」 奥田英朗
群馬県桐生市の河川敷で、若い女性の死体が発見された。その後、栃木県でも同様の事件が。
10年前、群馬と栃木で起きた未解決の連続殺人事件と手口が似ており、緊張が走る。容疑者は逮捕されたが、証拠不十分で不起訴になっていた。10年前と同一犯による犯行なのか…。
かつて容疑者だった男
取り調べをした元刑事
娘を殺され、執念深く犯人探しを続ける父親
若手新聞記者
一風変わった犯罪心理学者
新たな容疑者たち...
奥田英朗さんは、これまでも「罪の轍」や「オリンピックの身代金」など、骨太の作品を執筆していますが、今作はそれ以上に重厚な内容かな、と思いました。
様々な人の視点で語られる群像劇。
ミステリとしてだけでなく、人間の心理を知る小説としても大きな満足感を得られます。
ページのボリューム感もばっちりですが、とてもたくさんの登場人物!それでも混乱せずにすいすい~ッと読み進められるのは、奥田さんのある工夫があるからです。それは何なのか、詳しくは書きませんが、読み進めてしばらくすると … 気づいちゃいます。ヒントは 名前 です。
これ以外にも、事件の詳細や設定の描写が丁寧、かつ、色々な謎は謎のまま。そして、ラストでの清々しい解明!!!
ミステリの醍醐味を思う存分味わえますよ。
ところで、奥田さんと言えば、「伊良部シリーズ」。
「イン・ザ・プール」や「空中ブランコ」はかなりユーモラスでしたね。
今作「リバー」は、重厚感ずっしり!の犯罪小説。
でも、細かく読んでいくと、キャラたちが軽くツッコミを入れる瞬間など、お笑いシーンもありまーす。
さらに、犯罪心理学者が一風変わっていて面白い。なんとなく伊良部に似ているような…。
600頁を超える長編ながら、最後までワクワクわくわく。
続編を期待してしまいました。
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2023年

12月

02日

『おすすめの本・まとめ③』Apex product 読書好き 吉田哲隊長より。

彩瀬まるさんの『花に埋もれる』
を読みました。「なめらかなくぼみ」「ニ十三センチの祝福」「マイ、マイマイ」「ふるえる」「マグリアの夫」「花に眩む」の六つの短編集が入っています。恋人同士のたおやかで官能的な愛の物語で、まるで花に埋もれる感じなので、この題名?なのかな?
 不思議な表現が多いのですが、久しぶりに大人の愛の形を考えることができる一冊でした。
「しろいうさぎとくろいうさぎ」ガース・ウイリアムズ
今年の目標は、
"兎年だから兎の絵本をたくさん読む"
なので借りて読みました♪
初めて読んだのは小学校に入ったくらいの年齢でしたが、幼いながらに「きっとこれを恋って呼ぶんだな」と照れくさくも感動したのが蘇ってきました♪♪♪
子供の頃の記憶だともっと難しいお話だった記憶でしたが、すごく簡単なお話でした(笑)
「好きな相手とずっと一緒にいたい」という簡単だけど大切な気持ち。
それが「恋」で「愛」なんですよね。
英語版のタイトルは
「The Rabbits'Wedding」
直訳すれば
「ウサギたちの結婚式」
英語版のタイトルはネタバレしすぎなので、日本語版のタイトルのがいいですよね!!!
仲の良い白ウサギの女の子と黒ウサギうさぎの男の子が結婚するまでのキュートなラブストーリー♪
ウサギが本物みたいにフワフワで可愛くて、淡い色合いが綺麗で、結婚する人へのプレゼントにピッタリな1冊です♪♪♪
ヴィオラ母さん〜私を育てた破天荒の母・リョウコ
ヤマザキマリ
(文藝春秋)
「テルマエロマエ」で一躍有名になった、漫画家のヤマザキマリさんとお母さんの話。
女性が働くのがまだ珍しかった時代に、ヴィオラ🎻片手に突き進むシングルマザーのリョウコ。
起床前に家を出て、眠る時間まで帰ってこない。ツアーの間は知人宅に預けられる。でも、申し訳ない素振りも無い。母親らしい態度も無い。ご近所さんに怒られても、ひたすら彼女の道を突き進む。
それだけを見れば育児放棄に受け止められかねないだろう。
しかし、置いていくおにぎりとお手紙、たまの休暇のエピソードなど、そこには他の家庭とはちょっと違うけれど愛しみが溢れている。
生活のためにはあなた達を置いていくしかないの…ではなく、私はこれがやりたいと決然と出ていく。遠慮なく人生を謳歌する大人、それを見て子どもたちも逞しく成長する。
いろんな親子の形があるなぁと感心して読みました。子育て本ではないけれど、読むと元気が出る一冊なので、真面目に悩んじゃっているお母さんにもオススメです。いや、リョウコはあくまでも真面目なんだけど。
第三の時効   
横山 秀夫
殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた〈第三の時効〉とはいったい何か⁈ 刑事たちの生々しい葛藤と逮捕への執念!を鋭くえぐる表題作ほか、全六編の傑作推理短編集。
本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い、本作品。それは 硬質のエレガンスが貫かれている。
沈黙のアリバイ〜密室の抜け穴、 ペルソナの微笑…… など…
作者の最高傑作と云われている本書、そして戦後を代表する作家の一人と思う
『いま、台湾で隠居してます』 大原扁理
おすすめポイント:新しい場に立つと、これまでの自分がより鮮明に見えてくるかも。
令和の隠居、大原扁理さん。
先日読んだ本が面白かったので、その前の話が知りたくなって手に取りました。
東京郊外で週に2日だけ介護施設で働き、年収90万。自称、隠居生活を送った20代。30代に差し掛かり、東京以外でも隠居できるのか試してみたくて、全財産17万円を手に「ちょいと」台湾に移住した顛末記です。
著者の独特なライフスタイルは性的マイノリティであることも影響しているのかもしれません。
多数派とは同じではないことを前提に、マイノリティが幸せに暮らすスタイルを追求していると。
私が著者に惹かれるのはその視線が限りなく優しいからです。
それは自分にできる限り無理を強いないからではないかと感じました。
-ちまちまと困っている人を助けると
 いざ自分が困ったときに誰かの助けを受けるときの
 心理的ハードルが下がる
-相手も許すから、自分も許してね
-自力で遠くへ行けなくなる日が
 誰のもとにもいつか必ずやってくる
本書では台湾人の寛容な部分について色々と書かれていますが、それと対比させるため日本社会について「正義の仮面をかぶった誰か」「正義にみせかけた意地悪」という言葉が散りばめられています。
「空気を読む」ために自分に過度の無理を強いる日本社会の反動が、自然体に生きている人、ハンディキャップなどにより人と同じにできない人に敏感に反応してしまうのではないかと。
-日本では
 お金を持っている人しか
 「おもてなし」してもらえない
-買い物は投票だ。
 (高くても、種類が少なくても)
 台湾を応援するために
 選択肢がある場合は台湾製品を選ぶ
自分にとっての幸せとは何か。
今日も著者は
「必要以上に働かない」
「だけど節約するために生きている訳じゃない」
の最適なバランスをとって、人生をエンジョイするためのスタイルを(必死にならずに)ぼちぼちと探しているように思います。
まだ若い著者の人生観が今後のどのような変容を遂げるのか。
次著も楽しみです。
黒川博行「後妻業」
大竹しのぶ主演「後妻業の女」として映画化されましたが、原作も映画に負けず、えげつなかったです^^;
91歳の夫・耕造が脳梗塞で倒れ亡くなり、内縁の妻・武内小夜子69歳は、遺言状と同等な、公証証書を盾に遺産相続を主張します…何故、正式の妻でないのに?
小夜子は、詐欺まがいの結婚相談所所長・柏木と手を組み、過去に何人もの老齢の結婚相手をたぶらかし、時には自然死に見せかけ手にかけ、遺産を騙し取っていたのでした。
元警察官の裏稼業探偵・本多は、耕造の娘たちに依頼され、小夜子の過去を調査することになりますが、驚くべき事実が明らかとなり、迎える驚愕の結末とは…。
小夜子、柏木、本多、耕造の娘たちなど、登場人物は、お金ばかりしか頭にない一癖も二癖もある人物たちばかりで、現実もこんなんだったらと^^;
公証証書って、うかつに作ると怖いなあと、改めて実感しました…殺されそう(笑)。
_それはつまり、後妻業ですか_
「黄色い家」
川上未映子
惣菜店で働く花
ニュース記事で黄美子の名を見つけ
それは生涯忘れる事はないだろうと思っていたのにすっかりと忘却していた20年前の黄美子と少女達との共同生活
母と2人暮らしの花、貧困家庭に生まれ育ち
決して母に愛されてなかったわけではないが
構ってもらっていたわけでもない。
17歳で家を出て母の知り合いだった20歳も年上の黄美子について行き一緒に暮らし始める
同じような境遇の少女2人も加わり花にとっては今まで得ることのなかった楽しく幸せな時間
その「家族」を、「家」を守るために「稼ぐ」ために犯罪に手を染めてゆく花。
楽しく幸せな時間を守るため
みんなで過ごす将来のためにと
真面目過ぎるゆえに花は
お金に執着し狂気じみていく
「みんなのために」がいつの間にか、そのみんなにイライラし
支配するようになり
最悪な関係になってもなお、お金の呪縛から逃れられない
生まれ育った環境で人の人生が決まるわけではないと思うが
でもやっぱり繰り返していくのかなぁ
サクセスストーリーだとか
シンデレラ物語なんてそう簡単にはないんだよ、と。
花のお母さんが亡くなって、もう何年も連絡も取り合っていなかったのに
母が1人暮らしていたアパートに移り住み
母のパジャマを着て母の寝ていた布団にくるまって眠る。
そして
「花ちゃんに渡す分」と書かれた封筒のお金を見つけた時
泣けました。
600ページの長編ではありますが
気がつけば最終章
「孤独な少女の闘い
 善と悪の境界の肉薄する」読み応えのある一冊です。
【デンジャラス】
著者:桐野夏生 2017年に中央公論新社より刊行
「デンジャラス」というタイトルから桐野さん特有の猟奇的な事件を主題にしたストーリーかと思いきや、意外や意外、文豪・谷崎潤一郎の周囲を取り巻いていた世界の物語でした。
その長編小説は一人称で書かれ、「つまいもうと娘花嫁われを囲む潺湲亭の夜のまどゐ哉」と谷崎が詠んだ歌から始まります。
「つま」は谷崎の三番目の妻で彼の久遠の女性と称された松子、「いもうと」はその松子の実妹である重子、「娘」は松子が前夫との間でなした子供である美恵子、「花嫁」はやはり松子が前夫との間にもうけた息子の妻となった千萬子のことを指しています。
谷崎は潺湲亭と呼ばれる屋敷にこれらの女性たちと一緒に暮らしていました。
描かれる小説からもわかるように、谷崎は常に女性に囲まれているのが好きな作家だったようです。
その彼の世界の物語の語り手となるのは「いもうと」である重子。
重子が谷崎を取り巻く世界、そして彼の作家としての芸術観を、かなり強く自分の感情を吐露しながら語っていきます。
女性であれば誰しも芸術家の、それも歴史上に名を残すことになる作品のミューズになりたいと願うものです。
重子は自分が彼の代表作である「細雪」の登場人物のモデルになったことを誇りに思い、そしてそれを矜持にしていました。
しかしそれは「花嫁」の千萬子によって崩れ去っていきます。
「細雪」を書き終えた谷崎は、新たなる世界の境地に千萬子をミューズにしたからです。
「色ボケ爺」と陰口を言われながらも、千萬子に並々ならぬ愛情を注いでいく谷崎。
正妻である松子や創作のミューズであったはずの重子の心はどす黒い気持ちに覆われていきます。
谷崎王国の水面下で女たちの恐ろしい闘争が繰り広げられるようになりました。
語り部である重子の主観がかなり強いストーリーとなってますが、人物やその心情の描写が巧みで、ぐいぐい引き込まれて最後まで引きずられました。
読みどころは幾つもありますが、やはり一番は「芸術の源泉となる女性は自分である」ことを譲らない女たちの戦いでしょうか。
最終章で重子が「にいさん」である谷崎を跪かせたシーンには唸らせられました。
谷崎にとって最高傑作はやはり「細雪」であったことを暗に示唆した描写です。
谷崎潤一郎は日本を代表する文豪です。
彼はその生涯において多数の作品を創作しましたが、自分は恥ずかしきことに学生時代にほんの数冊しか読んでおりません。
しかも代表作「細雪」が未読という為体です。
谷崎の著作を読み、そして彼の芸術観を少しでも理解していたら、もっと面白く読めていたかと思うと残念です。
谷崎の本を読破した後、本書を再読してみようと思います。
「抱く女」桐野夏生
1972年、吉祥寺、ジャズ喫茶、学生運動、恋愛。
「抱かれる女から抱く女へ」と叫ばれ、あさま山荘事件が起き、不穏な風が吹く70年代。
20歳の女子大生・直子は、社会に傷つき反発しながらも、ウーマンリブや学生運動には違和感を覚えていた。
必死に自分の居場所を求める彼女は、やがて初めての恋愛に狂おしくのめり込んでいく…。
この主人公は、私自身だーーと桐野夏生さんが言ってた作品のようです。
私自身は、もう10年くらい後の世代なので、学生運動は、はるか昔のことで、時代的には、ここまで過激ではなかった印象ですが…。
危なっかしい直子には、あまり感情移入は出来ずに読んでいましたが、それでも、この作品での「昭和感」は、半端なく、自身の若い頃を思い出しました。
スマホなんてないから、家の電話で連絡取るのが基本だし、それこそ、駅の伝言板も使ったことある。待ち合わせに遅れても外だったら連絡とれないし、公衆電話や、喫茶店の電話番号使ったり。男子は大学近くのパチンコ屋にいたり(おそらく雀荘もあったけど、たまたま私自身は未経験)
映画館でもどこでも、皆、タバコ吸ってたし、大学時代、私の女友達は皆、喫煙者だった。(私はこれまた未経験)今思うと、いっぱい煙吸ってたよ(笑)大学の先輩の男子にお酒飲みながら、説教(?)されたこととか思い出すと、なんか今でも悔しい気持ちになったりする😅
しかし、どんな時代でもいろいろな女性も男性もいるのが当たり前で、この主人公の直子や、その周りの人達のような人ばかりではないとは思うけど。それでも、今作を読んでいて、
「ああ〜〜、こうして時代が変わって若者の姿も変わっていくのかなあ」しみじみ感じました。ただ、今の自分が、すっかり親世代になってしまったので、どうしても、この直子の親の気持ちも分かる。そっちにも感情がいってしまいました。
もちろん自分も含め、だけれど、若いということは不遜なんだ❗️と強く感じ、しかしその若い時期をもがきながら、大人になっていくのが人間なのかしら?とか、いろいろ思ったのでした。
そして、ラストは、やっぱり桐野さん。放り出すように終わるのでした。
桐野さんファンの私としては、大好きな作品、とはなりませんでしたが、これを書いて残した桐野さんの気分が、なんとなく腑に落ちたような気がします。
印象に残ったところ、少し。
ーーーーー
「ほんと。どんなに冴えない男だって、自分の下に女が属していると思っているから、威張ってるんだよ」
かくめいとは、綺麗な指輪や、素敵な服や靴とは無縁の、何の嗜好も拘りもない人間が起こすものなのか。身綺麗にしたい人間や、お洒落な人間は、皆失格なのか。そのことと、女の嫉妬は別物だ。
「料簡が狭いよりは広い方がカッコいいのに、世間は逆を推奨するんだよ。心は許しても体は許すなよ、とね。心を許す方が難しいのに」
人を好きになるって、怖しいことなんだね。
ーーーーー
「死は最強」よりは「生が最強」と思って生きていきたいよね…。
楪一志さんの処女作『レゾンデートルの祈り』を読みました。レゾンデートルとは、自分自身が求める存在意義という意味だそうです。2036年は世界中に広がったウイルスが終息し、安楽死が認められている世界です。安楽死の条件はあります。80歳以上、難病、意志疎通困難者で親族から安楽死の要望あり。の中からどれか一つ当てはまること。(RES)自らの要請であり14歳以上、精神的苦痛・肉体的苦痛、要請日から起算し一年後の応答日まで検討期間として生活する。検討期間に、アシスターとの面談を10回以上行うこと。検討期間を終えた後の意向に変化がないこと。(REN)RENは全て満たしていないといけません。
 主人公真白はアシスターとして、安楽死希望者と面談をしていく仕事を始めました。心に寄り添う度に苦しく悩みます。この本では各々事情の違う五人の安楽死希望者と面談を行い、四人に生きる希望を見つけることができました。読んでいて、人間の本質に迫る描写に惹き付けられました。こんな世界がもしかしたら来るかもしれない。次作の『レゾンデートルの誓い』も読みたいと思いました‼️
桂望実 「息をつめて」
知り合いが紹介してくれたので読んでみました。
 
主人公の女性は人目につかないように友人も作らず、職場も住居も転々としてひっそりと生きていた。その理由は彼女の息子がかつて連続殺人事件を起こし少年刑務所に入っているからであり、自分がその親であることを知られないためであった。あるとき自分と好意的に接してくれる人たちがいる職場を見つけ、いつもより長居したのだが息子のことがばれてしまい拒絶されてしまう。その後息子が出所してくるという連絡があったので、反省したフリをしているだけと知りつつも息子と一緒に暮らすこととなる、というお話。
 
親子の間にある愛情と憎しみをテーマにした作品となります。
子供が罪を犯すと育て方が悪い、親の責任といった声が上がることに対して、その親たちはどういった心境で生きているのかを描いています。息をひそめるように生きているため、描写自体は本当に地味ですがそれがリアルな姿を描いているのだと思います。
本作の描写は子が人を不幸にするような人間になってしまったことに対して親として責任を持ち過ぎず子を放棄しても良い、という主張が多く出てきました。少し前に親ガチャという言葉が話題になっていましたがそれとは立場を逆にした構図を描いているということですね。これについてどう考えるかによって本作の最後のシーンがどう見えるかが変わってくるでしょう。
 
派手さはないながらもつい色々なことを考えさせられる作品でしたので、気になる方は読んでみてください。
『金庫番の娘』伊兼 源太郎 著
物語は、衆議院議員久富隆一の秘書藤木功を父に持つ香織は、一流商社を辞め、久富事務所に転職。議員事務所の日々は慌ただしく、ある日突然久富に呼び出され、財務秘書、通称『金庫番』になるよう打診される。
議員事務所に入る以前は政治に嫌悪まで抱いていた香織がその政界に飛び込んだのは密かな理由があったのだ‥
伊兼源太郎さんを知ったのは、wowowのドラマ『警視庁監察ファイル 密告はうたう』で、以来、その面白さに続編と完結編を即買いして読破しました。
著書には、『警視庁監察ファイル』シリーズ以外にも『地検のS』シリーズや『巨悪』などの傑作もあります。
今回の『金庫番の娘』はミステリーと言うより永田町や霞ヶ関のドロドロとした裏側を鋭く抉っています。
政治経済もののミステリーと言うとどちらかと言えば堅苦しいイメージがありますが、本作は女性が主人公でストーリーもスッと頭に入ってきます。
そうそう金庫番といえば、あの金丸の屋敷の金庫には北から貰ったと言う噂の金の延板が何枚も入っていたとか。
『あなたはここにいなくとも』
著 町田そのこ  【新潮社】 
人生の壁につまずいたり、別れが訪れた時、杣心の襞をそっと解きほぐし、また、新たな自分へとの一歩を踏み出すことを後押ししてくれる5つの短編集。町田ワールド全開な、温もりと愛おしさが染み渡る一冊。
そして、本作のキーパーソンとして、いずれもおばあさんが登場し、人生を長く生きてきた先輩としての、生き様や考え方を通して、これからの若き人に、新たな種を撒いている。
それは、決して無理強いするモノではなく、長く生きてきた証によって紡がれた何気ない言葉であり、所作であるように感じ、それを受け取る感性と心のゆとりが大切であると伝わってくる。
物語は、
〇突然の祖母の死による葬儀に、自分の恋人を家に連れて紹介できなかった親族との蟠りのある女性の心理を綴った『おつやのよる』
〇『ばばあのマーチ』・会社も辞めて、恋人との結婚にも踏み出せないフリーターの女子。近所に住む食器を庭に並べて箸で叩く、風変りなお婆さんとの交流を描く『ばばあのマーチ』
〇恋人との別れを決意したアラサー女子の亡くなった叔母が、実は祖父の愛人だったと判明した一家の騒動に巻き込まれる『入道雲が生まれるころ』
〇不倫相手が妻に頼まれたと言って、祖母直伝の栗の渋皮煮を
作るように頼まれ、休日を棒にして一生懸命作るOLのやるせなさを綴る『くろい穴』
〇恋心を抱いていた幼馴染が、急に冷たくなり、死神はばあと呼ばれるの家に出入りしている事を突き止めた女子高生。しかし、差の真実に迫った時…『先を生くひと』
等、5編が収録されている。
「月の立つ林で」
青山美智子著
「木曜日にはココアを」の青山さんの新作。
一章「誰かの朔」
ニ章「レゴリス」
元看護士の朔ヵ崎怜花、芸人を目指す宅急便配達員の本田重太郎は、仕事に躓き落ち込むが「誰かの為に生きる」という昔からの目標を思いだし、再び目標に向かって生きることにする。
三章「お天道様」
バイク修理の町工場を経営する無口な父親高羽は、一人娘の亜弥が急に結婚し九州に行くことになり悲嘆に暮れるが、亜弥と相手の内川信彦の優しさに触れ元気を取り戻す。
四章「ウミガメ」
高校生の逢坂那智は卒業後自立すべくバイクの免許を取りベスパを買い、ウーバーでアルバイトを始める。配達先にいたのは同級生の神成迅(怜花の弟が所属する劇団運営者の息子)で、劇団の手伝いもすることになる。怜花はバイク事故をおこしたことで、疎遠になっていた母親との関係が改善し、迅とも親しくなり、将来の道を見つける。
五章「針金の光」
ハンドメイドのアクセサリーを作っている北島睦子は、出版社からアクセサリーを作る本を出版しないかとオファーを受け、編集者の篠宮と会う。アクセサリーの作成と出版準備で多忙の睦子は誤ってアロマオイルを点眼してしまい、救急センターに電話したところ一章に出てきた怜花から治療のアドバイスを受ける。
また、四章に出てきた迅は昔別れた母親に再開出来る。
いづれの章にもタケトリオキナと称する人物がPodcastで月を題材に毎日10分呟く「ツキない話」が出てきますが、最後の章の「ツキない話」で「月の立つ」の意味が説明されます。
こんなに長文のコメントを書いたのは初めてです。
素晴らしい作品です✨✨✨
4年前新しい仕事に就き最近はマンネリになってましたが、この本のお陰で、「初心に還って頑張ろう」という気持ちになれました😄
#青山美智子
鈴木忠平著
『アンビシャス』〜北海道にボールパークを創った男たち〜
“In the beginning, no one believed the project had a chance.”
北海道日本ハムファイターズ前監督の栗山英樹さんが率いた侍JapanがWBCを制した春、一気読みした一冊です。
ファイターズはなぜ札幌ドームと決別して、北広島市に新しいボールパークを求めたのか…。そこにはリアル日本版の「フィールド・オブ・ドリームス』の一大ドラマがありました。
文中には栗山さんや新庄剛志監督などはほとんど登場しませんが、エピローグの小さな話題に、胸を打たれました。
新庄は、あのド派手なイメージと裏腹に、新人時代の初任給で買った7,500円のグラブを18歳から引退する34歳まで使い続けたそう。「自分のどこを見て、監督にしようというのですか?」と尋ねる新庄に球団幹部が言ったという。「あなたがファイターズの選手だった頃、あなたのグラブを見たことがあります。あれを見れば、あなたがどんな野球人なのか、どんな人間なのか、分かります」…
読んでいる間は、まるで良質のミステリーを読んでいるかのような感覚。読み終えた後は、爽やかな感動と、何かを成し遂げた者たちの信念と鉄の意志への畏怖を感じました。
「文身」 岩井圭也
こんな物語読んだことがない。
驚きながら、「そんなアホな」と
思いながらページをめくる手が
止まらない。
弟は兄の名前で、無頼な私小説を書く。
兄は書いてある通りの人生を生き、
作家としての体裁を保つ。
やがて兄は、一行も書くことなく、
文壇の重鎮になっていく。
弟はさらにとんでもないことを小説を通して
兄に強いる。
兄は苦悩のすえ、従う。
そしてラスト。
物語はさらに反転する。
なに、なに。え、何がどうなってるの。
なんとも座りの悪い椅子に腰かけたような
終わり方が、後を引く。
この作家、ただもんじゃない。
新名智さんの『あさとほ』を読みました。デビュー作「虚魚」が横溝正史ミステリー&ホラー大賞を受賞され、本作は2作目だそうです。読みながらホラー🧟なの・・・とドキドキしながら読んだのですが、今まで読んだミステリーでは感じなかった不思議な感覚になり読み終えました。
 主人公の「わたし」は、彼女の物語を紡ぐ語り手でした‼️と言っても訳が分からないと思いますが、それが事実なのです。「あさとほ」とは、源氏物語と同じように、昔の本の名前です。
 私なりに言うと、この本は、物語の可能性を最大限駆使して作り上げたミステリー、ちょこっとホラーです。
織田作之助『夫婦善哉』(1940)
標記は、大正から昭和にかけての大阪を舞台に、北新地の人気芸奴で陽気なしっかり者の蝶子と、安化粧問屋の若旦那で優柔不断な妻子持ちの柳吉が駆け落ちし、次々と商売を試みては失敗し、喧嘩しながらも別れずに一緒に生きてゆく内縁夫婦の転変の物語です。
織田作は、東の太宰治と共に新戯作派として括られることが多いのですが、この作品においても2人に共通する戯作調の文体の中から、特に具体的な地名や店名、食事のメニューなど「地名や職業の名や数字を夥しく作品の中にばらまく」ことを読み取ることが出来ます。
その理由については短編『世相』において、「これはね、曖昧な思想や信ずるに足りない体系に代るものとして、これだけは信ずるに足る具体性だと思つてやつてゐるんですよ」と主人公「私」の言葉として語っているように、織田文学に見られる特色の一つでもあると言われています。
更にこの作品では、この作品の主人公である夫婦が、落語、浪花節、浄瑠璃といった市井の人々の暮らしと共に親しまれた戯作という伝統芸能が、生活の一端として上手く取り入れられていることが伺えます。
初代桂春団治については『わが町』同様にこの作品でも言及されていますが、織田作が特に大阪落語についてその特徴を見いだした点は、東京落語にはない「情景描写や性格描写の巧みさ」であり、「大阪の持つ現実疑視の鋭い眼がある」(『大阪論』)と言い切っている点などからも伺えて、自らの作品にも反映させているように思います。
また、そうした「語り物」としての特徴は、ここでも柳吉をあえて吃音に設定させたキャラとして登場させるも、浄瑠璃は流暢に語らせるなど、発語のリズムについて高い関心を抱いていたことを読み取ることが出来ます。
また、この作品の主人公である2人は、織田作自身が宮田一枝さんとの恋愛と家との狭間で葛藤していた心情が反映されていたと解釈できるとも思いますが、街の片隅で居場所を失い、自らが招いたのか何一つ報われないこうした男と女の姿には、織田作文学に一貫して流れている「寄る辺の無さ」を受け取ることもできるでしょう。
また、この文庫には2007年に新たに発見された『続夫婦善哉』をあわせて『正続』とし,そのほか,芥川賞候補作『俗臭』や自伝的作品『雨』、または伝説の棋士坂田三吉を主人公にした『聴雨』『勝負師』など,おもに戦前・戦中期の代表的短篇14篇を収録して入り、特に織田作の作品を初めて読むには、最も手ごろな1冊です。
余談ながら、標記作品は2013年にNHKにて連続ドラマ化され、森山未來氏と尾野真千子さんの好演が光っていましたが、やはり映像作品は、森繁氏が柳吉を演じた1955年の豊田四郎監督作品が決定版と言えるでしょう。
◉ 熊谷達也 著 『 邂逅(かいこう)の森 』
文春文庫 2006年12月10日発刊 535P
今回の一冊は、2004年度の直木賞受賞作、『邂逅の森』を手にした。
時代背景は明治末から大正時代、秋田の貧しい小作農の家に生まれた松橋富治が主人公となる。
富治は少年の頃からマタギとして山に入り、獲物のニホンカモシカや熊を追っていた。
その富治が25歳の時、マタギとしての自信を深め、猟師としての厳しさと楽しさを覚えた頃、地元の有力者の娘である文枝と秘めた恋に陥り、子を宿してしまう。
がしかし、この恋は許されざる出来事で、文枝の父親の差配で富治は村を追われることとなり、断腸の思いで文枝と訣別する。
マタギとして生きて行くことを諦めざるを得なかった富治は、銅を掘る鉱山に鉱夫として働くこととなる。
鉱夫の仕事をしながらも別れた文枝への想いを断ち切ることは難しく、悶々としながらの生活が続く。
根が真面目な富治は、仕事場でも徐々に一目置かれる立場となる。
そんな富治が以前はマタギだったことを知った同僚の小太郎は、自ら富治の弟分を名乗って慕ってくる。
その小太郎が、マタギとして指導者になってくれと富治に頭を下げる。
富治もマタギに対する想いを断ち切り難く、小太郎の里で再びマタギとして生きて行く道を選ぶ。
その里で、よそ者の富治がいかにして地元の人々に溶け込んで生きて行くのかが物語の柱となっている。
その過酷とも云えるマタギの狩猟生活が、富治の波乱万丈の人生と共に綴られた物語となっている。
この『邂逅の森』は、単にマタギの物語ではなく、失われつつある昔から伝承されてきた里山の文化、そして明治・大正の時代に山々の自然環境を大きく変化させてしまった話が興味深く綴られている。
40年程前、私が福島の檜枝岐村をちょくちょく訪れていた頃、代々尾瀬の周辺で職猟師を継いできたHお爺ちゃんの話をよく聞いた。
Hお爺ちゃんが12歳の頃に初めてマタギとして加わり、冬眠中の熊狩に出向き、槍一本を持って熊追いをした話。
少年の頃から尾瀬ヶ原に流れる渓流で石を積んで魚留を作り、代々受け継がれてきた方法で岩魚の自然養殖をしていたこと。
初代環境庁の大石長官が尾瀬ヶ原の視察に来ていた折、尾瀬の湿原を釣竿を肩に引っ提げて歩いていたところを役人から咎められ、大石長官、お役人、そして取材記者を前にして「俺の狩猟場で俺が育てた岩魚を獲って何が悪い」とH爺さんが詰め寄った有名なエピソードなどを想い出した。
この逞しかった檜枝岐のH爺さん、亡くなった時には朝日新聞(だったと思う)に日本最後の職猟師として紹介された。
この一冊を読みながら、マタギの厳しさを面白おかしく語ってくれたH爺さんを想い出してしまった。
天地に燦たり    川越宗一著    文春文庫   2020年6月発行
首里城の守礼門に掲げられている「守礼之邦」の扁額。戦いの世の中に、儒教の教えを学び悩みながら成長していく3人の青年たちを描いた時代小説です。
その3人とは、薩摩島津家の侍大将大野(後に樺山)久高、朝鮮の最下層貧民である白丁に生まれた靴職人の明鍾、そして琉球国の商人でありながら、「唐栄」という密偵組織に所属する真市の3人だ。
圧巻は秀吉の朝鮮出兵時の戦いだ。お互いが何者かも知らず、それぞれの立場で、国のことを考えている。
本書のテーマは「礼」です。論語をはじめ多くの古典が会話に引用され、3人の思想を作っていきます。
久高は主の島津久保が語る礼の国に憧れをいだきます。明鐘は儒教を教える道学先生の指導を仰ぎます。真市は琉球の教えである「誠を尽くせばなんとかなる」を信奉しています。
しかし、時代は戦を求めます。そして3人とも、時代に翻弄されます。でも、その中で自らの生き方を見つけ、それを貫きます。
この清々しい読了感。いいお話を読んだという充実感でいっぱいです。
時代小説ですけれど、日本や朝鮮、琉球と言った枠に囚われていることがばからしく思えてきます。おすすめします。
大岡昇平「事件」
この小説は、ある意味ありふれた三面記事的な事件を題材に、裁判自体をドキュメンタリー風にリアルに丁寧に辿った物語ですが、ケレン味が全く無いにも関わらず、並のミステリーより、余程、サスペンスと知的興味を満足させてくれます。
活躍する弁護士も、裁判長も「大人」で、情に流されず「甘くない」ところが、とても魅力的です。
判決後の関係者のさりげなく書かれた事後談の「現実」も甘くなく、キッチリ締まってます。
昭和36年、新聞に最初に連載された時の題名が「若草物語」だったそうですが、やはり「事件」意外に妥当な題名は無いと思います。
男はふと、狭い空を見上げた。
高いコンクリートの塀と巨大な舎房の壁面で直線的に切り取られた歪な形の空だった。
初秋の陽光は眩しく蒼かったが、男には自分の着ている受刑服の灰色にしか感じられなかった。
性別-男
身長176センチ、体重73kg、健康状態良好
ウェクスラー式全検査IQテストによる結果
ーーIQ・172ーー
「デッド・エンド」柴田哲孝
久しぶりのミステリー、脱獄モノ❤️🙌
一気読みしちゃいましたね、めちゃ面白かったですお前は「プリズン・ブレイク」のマイケルスコフィールドか!ってくらいクレバーな主人公が良かったな😍❤️🙌脱獄プラス、ハラハラ冒険モノでお得感ありました。
こうゆう脱獄やクライムサスペンス、ミステリーに求めるモノって、私はリアリティさもだが
まず主人公が魅力的か?
まずヒロインが魅力的か?
まず敵(警察や追われる組織)が魅力的か?かなりを重んじるんですが、皆さんはどうですか?
それでいくと、ちょっとだけリアリティは足りないし、ヒロインがステレオタイプで物足りないとこはありました😅💦
主人公だけでなく、父親から賢さと強さを譲り受けた主人公の娘がむちゃくちゃ大活躍するので、インパクトで負けてしまうんですよねー。
さらにヒロインが活躍しちゃうと解決しまくっちゃうからかもしれないんですが…
でも主人公を追う刑事田臥もなかなか!
主人公に毎回先回り先回りされてしまうけれども、なかなか切れ者で良かったですよ!
とにかく娘が良い!父と娘にしかわからない車のナンバープレートをアルファベットの暗号解読なんかも良かったです😊💕
「無人島のふたり
120日以上生きなくちゃ日記」山本文緒
2021年10月13日に、58歳という若さでこの世を去った小説家の山本文緒さんの、余命宣告されてからの5ヶ月間の日々を綴ったエッセイ。
出た当初から「これは絶対読まなきゃ」と思っていて購入したのですが、なかなか読み始める覚悟がなく、今回勇気を振り絞って読了しました。
文緒さんは、2021年4月、膵臓がんのステージ4bと診断され、既に治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせる事しかできないと知りました。
そして、彼女は、抗がん剤治療で苦しむより、残された時間を少しでも苦しまず楽しく生きようと、旦那さんと相談し緩和ケアへ進む事に決めました。
それから、2021年5月24日から、亡くなる寸前の2021年10月4日まで、自分の病状と、日々の出来事を、丁寧な言葉で、ほとんど毎日欠かさず書き続けた文緒さん・・・
どんなに辛くとも、最後まで書くことを諦めず、この日記を書き続けた彼女の作家魂に、とにかく感動と感謝の気持ちでいっぱいです。
既に新型コロナウイルスに汚染された2021年に、余命120日と宣告された文緒さんは、少しも後ろ向きではなく、日々少しでも快適に生きられるよう努力を惜しみませんでした。
「死ぬ前に自分の本が出るのがみたい」と短編集の制作に取り組み、旦那さんの協力を得て断捨離し、次々と小説を読み感想を日記に綴ります。
高熱と吐き気、浮腫といった病の苦しみと戦いながらも、「120日以上生きなくちゃ」と常に全力で日々を生き続けた文緒さんのパワーに、私も元気づけられました。
また、「無人島にふたり」というタイトル通り、彼女に残された日々を、献身的に看病し、少しでも良い時間にしようと頑張る旦那さんにも尊敬しかありません。
四半世紀以上前に、文緒さんの「ブルーもしくはブルー」と出会いファンになり、「プラナリア」で直木賞を取った時は嬉しくて単行本を買いに走った私は、文緒さんの死はとてもショックでしたが、最期の最期まで「本を書くこと」そして「本を読むこと」をやめなかった文緒さんを、ますます好きになりました。
涙なしでは読めない本ですが、一生の宝物になる本に間違いないです。
春口裕子「悪母」
読んでいて、ママ友付き合いって、こんなにうざくて、面倒くさいの?と思いましたが、最後まで一気に読みました…私は子供がいないからですかね。
主人公・岸谷奈江は、一人娘・真央の有名私立幼稚園のお受験に臨みますが、奈江が属する、ママ友グループでの苛めが原因で、家庭が崩壊したとの告発文により、入園できず、通園に時間のかかる幼稚園に何とか入園し、グループの佐和子の車に同乗させてもらい、通園することになります。
時は流れ、真央の小学校受験で、今度こそは、エスカレーター式の私立小学校入学を望む奈江ですが、何者かに補欠合格を取り消され、真央は公立の小学校に通うことになります。
一連の出来事の犯人は、奈江には見当がついていたのですが、思いがけない事態を迎え…。
「ママ友」はあくまで、子供を通しての友人であり、真の友人ではありません。
グループ内のトラブルに巻き込まれながら、受け身な奈江に対しても苛ついてしまいました。
それでも子供のためには、裏表があり、時には悪意が蔓延る「ママ友」でも必要なのはわからなくはないです。
しかし出てくる母親たち誰もが、どこかしら怖くて、ゾッとした作品でした。
_友情には何の保障も補償もないわ。ちょっとしたことで結びつくこともあるけれど、あっけなく壊れてしまうこともある。裏切られたって、ある日突然捨てられたって、何を言う権利もない_
『みかづき』
著・森絵都
教育業界の現代史をリアルに描いた小説です。
個に対する教育のあり方と、国全体の利益を優先した教育のあり方との意見の対立など、とても読み応えがあります。
話の流れとしては。
教育に強い関心を持つ女性が、家族全員を巻き込んで学習塾経営に奔走する姿を中心に描かれます。
一方で、家族それぞれの思いや葛藤、家族の分裂、周囲の人々の生活など、とても丁寧に表現されています。
結構な長尺なのですが、一気読みでした。
塾が今ほどスタンダードではなかった時代。
私が子どもの頃も、あの子塾に行ってるんだって!というように特別なスクープとして伝播されたような記憶があります。
世間になかなか認知されなかった時代を切り拓いていった彼女の力強さ。
一方で母の愛情を充分に感じることなくして育った3人の娘たち。
皆が一生懸命生き、悩むことで、女性が社会で働く難しさをも浮き彫りにしています。
仕事とは何か。
家族とは何か。
理想とは何か。
教育とは何か。
登場人物たちが様々な道を選び、迷いながらも進んでいく様子に、現代日本に生きる者として、学んだり考えたりすることが多くありました。
未読の方、お勧めです🤗
柚月裕子氏の小説「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」
女優天海祐希(55)が主演を務めるカンテレ制作フジテレビ系連続ドラマ「合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜」(月曜午後10時)の第2話が24日夜に放送された。
ツイッター上では同時間帯、2話連続で「#合理的にあり得ない」がトレンド入りした。
同作は「クセ強コンビ」が理不尽な悪党たちを“あり得ない”手段で葬る極上痛快エンターテインメント。天海は頭脳明晰(めいせき)で変装の達人、元豪腕弁護士というワケあり美人探偵の上水流涼子役を演じる。天海と初共演の松下洸平(36)は、女性に苦手意識を持ちながらもIQ140を誇る貴山伸彦役を担当し、バディを組む。ときに手段を選ばない上水流を貴山が頭脳を生かしてサポートする。また、2人が抱える過去の因縁にも立ち向かう。上水流は弁護士資格を剥奪されたきっかけの傷害事件の真相を、貴山は家族との確執を追う。
ツイッター上では天海と松下の名コンビぶりが絶賛されていた。「これからいろんなコスプレをした天海祐希と松下洸平を見られるというだけで神なのに バディの掛け合いがドストライクすぎて神、開始10分でもう好き」「つかみで性癖確定ですね コレは天海祐希と松下洸平のバディたまらん」「天海祐希と松下洸平が好きだからこのドラマやばい好き」などと書き込まれていた。
原作は映画化された「孤狼の血」で知られるミステリー作家柚月裕子氏の小説「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」。天海、松下の他にも白石聖、中川大輔、丸山智己、仲村トオルらが出演する。
◉ 恩田陸 著 『 夜の底は柔らかな幻 上・下 』
文春文庫 2015年11月10日発刊 398P + 388P
初出 2006年~2009年 「オール読物」に連載
この一冊、これまでに私が読んだ恩田陸女史の作品の中でも、恩田女史の世界観が鮮明に綴られているのではとの印象が強い。
あとがきでご本人が記されているのだが、この作品の出発点は、フランシス・フォード・コッポラ氏の映画、『地獄の黙示録』にあったとのこと。
この一冊の物語の内容を簡潔に述べることはとても難しい。
私が読み始めて数ページ、あっという間に恩田ワールドに引き摺り込まれ、800ページに及ぶ大作を一挙に読み進んだ。
恩田女史はこの物語を綴るにあたり、小説の舞台には四国の高知をイメージされたようだ。
『地獄の黙示録』では、熱帯の奥深いジャングルが舞台となっていたが、『 夜の底は柔らかな幻 』では神秘性が漂う土佐の国の山深い地が舞台のようだ。
主人公は東京警視庁警部補の有本実邦(ありもとみくに)となり、警視庁から特命を受け、超能力を生かしながらある人物を追う女性捜査官である。
他に登場する一人一人にもスポットが当たり、集団で物語が進行する群像劇と云える。
舞台は日本国内に位置しながらも、治外法権を得ている特別な独立国家、「途鎖国」である。
この国の奥深い山中「フチ」に、ヨーロッパからもテロリストとして指名手配されている超能力者の神山倖秀(かみやまゆきひで)が、「ソク」として君臨している。
その「フチ」は山奥に広がる禁足の地で、水晶谷と呼ばれる神秘な場に、巨大な水晶内に「仏像」らしき謎の物体が存在すると伝えられている。
そこに王の如く君臨している神山と、彼に対峙する特殊な能力を備えた者たちが、激しいバトルを繰り返すことになる。
登場する多くの人物たちは、「途鎖国」への不法密入国者や不審な人たちで、そのような人物達を取り締まる入国管理局に、独裁者の如く君臨する局次長の葛城晃(かつらぎあきら)は、怪しいオーラを発揮しながら容赦のない特殊能力で彼らと対峙する。
読み進むに従って、一人一人の登場人物の繋がりが徐々に見えてくる。
そしてクライマックスには、恐怖を含みながらも壮大なスケールで超能力者達のバイオレンスなシーンが描かれる。
そして最後に、水晶体の中に存在する謎の「仏像」らしきものの意味が、漠然としながらも明かされる。
私の周りには恩田女史を理解するファンは殆ど存在していない。
読者にとって、恩田女史が綴る独特の世界観が、物語に入り込むのを難しくしているのかも知れない。
直木賞受賞作の『蜜蜂と遠雷』は、とても読み易い物語だったので、新たに恩田女史のファンになった方も多く存在する筈だ。
この一冊、従来からの恩田陸女史のファンには応えられない毒気を含んだ物語となるのだろうが、恩田作品に馴染みの薄い方々には少々困惑されるかも知れない。
けれど、一度でも恩田女史が放つ毒気に身も心も痺れる快感を味わったならば、きっと恩田陸女史の世界観から足抜けするのは難しくなる。
『ノラネコの研究』 伊澤雅子
 よく見かけるノラネコの1日の行動を、大学教授の作者が、根気強く気合いと好奇心で追いかけて記した意欲作。ありそうでなかった本。そして、何となく想像することで知っている気になっていたけれど、実はちゃんとは知らなかったことを、丁寧なフィールドワークを元に教えてくれています。
 今、うちにいる猫😺も、家の周りをうろついていたノラちゃんです。近所のゴミ袋から食べ物の匂いがついたティッシュペーパーを咥えて来て、食べようとしていたのを見て、そんなの食べたらダメよ!と、つい、亡き愛猫にお供えしていた猫缶と引き換えにティッシュを取り上げたのがファーストコンタクトでした💦それを期に軽く居つくようになってしまい…厳しい冬になるという情報を耳にし、居ても立っても居られなくなり、飼い猫となりました。
 うちの子になって2年以上経っても、以前いた亡き愛猫のトト💕(この子も事故にあって動けなくなっていた元ノラちゃん)のように懐かず、脱走も数回し、もう自由にして欲しいのかな?と思ったり、この子はどんなノラ生活をしていたんだろう?と想像していました。
 この絵本に書かれてあるような気ままで自由なノラちゃんの生活を、比較的安全に送っていたのなら、本人はノラちゃんのままの方が幸せだったのかもしれません。
ノラネコの生活を実際にきちんと知ることができる、貴重な一冊でした😊
「一人で生きる」が当たり前になる社会    荒川和久・中野信子著    ディスカバー携書   2020年12月発行
ソロ社会の到来を予測しているマーケティングの研究者と脳科学者の対談です。
多分、これからの社会は、みんなソロ化していくという内容です。
2040年には独身者の人口が5割になり、既婚者(64歳まで)が3割になるとのこと。
ソロ化が進むことは、これはもう、社会の趨勢としてしょうがないですね。
著者の一人、荒川和久さんが、最近、結婚された中川翔子さんに、「ソロ充の大切さに共感していた人は、人を大切にできる人」とお祝いのメッセージを寄せていたのが印象的でした。
ここでは、恋愛は幻想であり、そもそも男性からのプロポーズという文化は「ねるとん紅鯨団」までなく、それは作られた文化で、まだ30年位の歴史しかないと言っています。
本書は結婚と恋愛問題だけでなく、様々な切り口で縦横無尽に話が展開します。いくつか紹介すると…
◎家族は人質で人を働かせるためのもの
◎生きているうちは、ほとんど男は余り
◎男はダウンタウンに住み、女はアップタウンに住むという状況なので、未婚男女はもう永遠に出逢わない。
◎ソロ男の外食費は1 家族分の外食費の2倍近い
◎女性は金持ちを見つけるのではなく、男を金持ちに育てることが大切
◎自然災害が多いと集団主義になって、安全なときは個人主義になる。
◎少子化対策は結婚促進策を打つべき
◎男女とも恋愛強者が年収が高い
◎城壁を閉じれば安全だと思い込むが、城壁を閉じるとそこで死んでしまう。
◎父性と母性の両方を持っていないとコミュニケーションができない。
◎結婚は結局一人に決めることだから父性がないと結婚できない
◎男性が一人で出かけるのは温泉とフェス
*****************************
まあ、結婚していなくても、していたとしても一人で楽しめる世界を持つことは大切ですよね。
ソロ充を進めたいなあと思います。ですから、「妻と離別・死別すると男性は寿命が短くなる」と聞くと、依存していたんだなあと思います。
本書にもあったように、「結婚する人・しない人の共存」が子育てしやすい社会の鍵だと思います。叔父さん、叔母さんを含めて、いろんな人が子育てに関わることが、子どもたちにとっても、親にとっても大切だと思います。
本書ではコミュニティの大切さも説かれますが、その危険性にも言及しています。それは集団の中で違うことを言い出した人を攻撃することです。
個人の意思よりもきずなを大事にする傾向があると言います。これは、気をつけなくては…
最後に、「ソロ化社会、個人化する社会は決して絶望の未来ではない」と言います。私もそう思います。
家族や地域、職場、趣味など様々なコミュニティの中で協力していくとともに、互いに外のコミュニティと接続していくこと。
ソロであっても閉じこもらないということですね。
薬丸岳 「最後の祈り」
薬丸さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 
主人公の男性は牧師をする傍らで受刑者の教誨師のボランティアをしていた。あるとき結婚を間近に控えた娘が殺害されてしまい、犯人である男性は娘を含め4人殺害していたため死刑判決が下る。しかし彼には罪悪感がなく、早く死刑にしろと嘯いていた。何とかして彼が死刑になる前に地獄に落としたいと考えたところ、娘を育てた女性から彼が収容されている施設の教誨師となることを提案される。彼を教誨して罪を認識し、死を恐れるように救済してから死刑にすることで娘の復讐を果たそうとする、というお話。
 
被害者遺族と死刑囚をテーマにした作品となります。
被害者遺族は加害者と接することが出来ない点を問題視した作品は色々ありますが、こういった設定であれば接点が出来て対話が可能になり、実際どうなるかを描いているのがとても面白い。あらすじの時点でも分かるように本作はダークな雰囲気で物語が進んでいきます。まったく反省しようとしない犯人と対面する主人公の心理描写はとてもリアルに描かれていたため読むのもなかなかつらいものがありました。とはいえ反省していない加害者と対面したら現実にはこうなるだろうという描写だったのでむしろ良い気がしました。
結末に関しては薬丸さんなりにちょっとでも希望があるようにと配慮されているので、少々ご都合的な部分もあります。ですが私はこういった終わり方も良いと思いました。
上記以外にも受刑者の教誨がどのように行われ、受刑者に必要である理由についても書かれており読んでいてためになりました。
 
これまでの薬丸さんの作品を読んだことのある方ならきっと楽しめると思うので、ぜひ読んでみてください。
「ねこはるすばん」 町田尚子
SNSで人気だよ!と友人に勧められました。クスッと笑っていやされるネコの絵本です。
にんげん、でかけていった。ねこは、るすばん。とおもいきや…。猫だってカフェに行くし、身だしなみを整える。あなたの知らない猫の世界。
『ねこがおとなしく、るすばんしてるとおもうなよ』
飼い主が出掛けて行ったあとの猫が、猫の街へでかけ、気の向くままに一日を満喫。この猫が中年のおじさんにしか見えない。ずんぐりむっつり、小太りぎみ。町を闊歩する姿は、哀愁ただよッちゃってる。
この おじさん猫 もうね、自由気まま
美容院 喫茶店 映画館 ジム 寿司屋 ちょい飲み...
中年おじさんが街歩きをするテレビ番組あったなー。
あれあれ!『じゅん散歩』
好きでよく見てたな。
本の中のことばひとつひとつがシンプルでユーモラス。
 ねこ、きたいにシッポをふくらませる
 ねこ、きょうというひをまんきつ
 ねこ、たまにはほんきをだす。。。
ツボだったのは本屋に行ったところ。
 ねこ、こうみえても ほんがすき
 「これ、これ。
  このかどが たまらんのよ」
そして、最後のページで爆笑❣
ぶはッ。そして、ほっこり。
最後のページがたまらんのよ 
  🐾🐾
女のいない男たち 村上春樹
舞台俳優・家福を苛み続ける亡き妻の記憶。彼女はなぜあの男と関係したのかを追う「ドライブ・マイ・カー」。妻に去られた男は会社を辞めバーを始めたが、ある時を境に店を怪しい気配が包み謎に追いかけられる「木野」。封印されていた記憶の数々を解くには今しかない。見慣れたはずのこの世界に潜む秘密を探る6つの物語。
映画化され大ヒットした「ドライブ・マイ・カー」。まだ映画は観ていないですし、村上春樹の小説を読んだこともないですが、どの話も面白くどんどん読み進めることができました。特に「イエスタデイ」と「木野」が好きです。題名の通り、女を失った、いなくなってしまった男たちの6つの物語です。内容は謎を残したまま終わるのですが、それがまたクセになる短編集だと思います😊✨
なかにし礼さん
「翔べ!わが想いよ」
ソ連軍数十機が満州牡丹江を爆撃したのは昭和20年8月11日の午前10時であった。
なかにし礼さんが6歳の頃のことです。
母は日頃の人間関係を使って無理やり母と姉、私を牡丹江発最後の軍用列車に乗りこませたのだった。
もしこの列車に乗れなかったら歩いて脱出するより方法がなかっただろう。
そしたら私達はソ連軍の戦車につかまって牡丹江の土と化していたに違いない。
母はそういう勘の鋭い人だった。
列車はときおりソ連の戦闘機の機銃掃射を受けて止まった。
辺りを見ると沢山の人が死んでいた。
死体はみんな汽車の窓から捨てるのである。
窓から見える風景はまさしく死屍累々であった。
8月15日の朝10時、やっとの思いでハルビンに到着。そこで日本が負けて戦争が終わったことを知ります。
やがて家族のことを探しに来てくれた父と会いますが、「45歳以下の男子は使役として連行する」との声に46歳なのに「私も行く」と行ってしまいます。
母と姉、私は大福餅とタバコを売りながら父との再会を待ち望んでいました。
そしてやっと再会した父は2ヶ月の間に見る影もなくやせ衰え、骸骨が皮をかぶったようになっていて再会後直ぐ病気で亡くなってしまいます。
昭和20年12月17日、47歳でした。
日本へ帰る、引き揚げるという話があったのは翌年の春の終わりでした。
母と姉にとっては待ちに待った吉報だったが、私が生まれたのは満州・牡丹江だった。
私の故郷は牡丹江なのだ。
引き揚げるという言葉には祖国を捨てるという痛い響きがあった。
昭和21年9月の中頃、私達は満州を引き揚げて日本へ帰ることになります。
途中鉄橋が壊れていて汽車が渡れないから胸まで水に浸かって河を渡った。
この河の手前に中国人の人買いが待ち受けていて「子供を売れ」と日本人に近づいて来た。
5歳以下の子供は到底渡れそうにない河だったので、ここで小さい子供と別れて河を渡った親は何人もいました。
馬や牛を運ぶ貨車や無蓋車(屋根の無い貨車)にのせられコロ島に着いたのはハルビンをたってから15日後のことでした。
引き揚げ者はここで適当な船に振り分けられます。10日待ってやっと乗船し、2週間ほどでついに昭和21年10月、佐世保の港に着きます。
ソ連の爆撃をうけてから1年2ヶ月後のことでした。
日本に着いてからはシャンソンの訳詞家を経て作詞家になり、『時には娼婦のように』『北酒場』など多くのヒット曲を生みだします。
作詞家であり小説家でもある、なかにし礼さんの活躍ぶりはぜひ、読んでもらえたらと思います。
『ボブ・ディラン』  北中正和  新潮新書
《代表曲「風に吹かれて」から60年。ノーベル文学賞を受賞した唯一のミュージシャン、ボブ・ディランは、80歳を過ぎた今なおコンサートツアーと創作活動を続けている。底知れぬエネルギーと独創性、ときに剽窃まがいと批判を受けても、なぜ彼の詞と音楽は時代もジャンルも越えて高く評価されるのか――ポピュラー音楽評論の第一人者が、数々の名曲の歴史的背景を分析、「ロック界最重要アーティスト」の本質に迫る》以上は、新潮社PR要約文です。
この四月に七年ぶりに来日公演をはたしたボブ・ディランは、五月で満八十ニ歳を迎えます。健康保持のために、ボクシングのトレーニングを取り入れているとどこかで聞いた記憶があります。ワンステージで約一時間半歌い上げるのですから凄いものです。超人です。神の領域です。今回の公演はチケットが取れず行けませんでした。残念です。
この本は日本における数あるボブ・ディランの解説書の最新のものです。非常にコンパクトにその要点が纏められていて読みやすいです。
ディランの作品は、政治や社会に深く関わるものが多くありますが、この本でも取りあげられている『激しい雨が降る』A Hard Rain'sA-Gonna Fallについて紹介したいと思います。因みにこれは、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも重要な局面で使われています。
この曲は、アパラチア山地に伝わる民謡「ロード・ランドル」を参考にしているようです。
母親が青い目の息子にどこに行って来たのかと尋ねるところからはじまります。 要約して紹介します。        
     
おお、息子よ。その眼の青色。変わってないな
聞かせてくれ。一体どこに行っていたのかい
(中略)
そうかい、息子よ
そこでお前は何を見たのかい
狼の群。奴らが囲う赤ん坊を見た
車の通わぬ高速道路を
血の滴り落ちる黒い枝を
阿鼻叫喚で満たされた部屋を
水底に沈む白き梯子を
舌を抜かれ それでも何かを訴える
一万の民衆を
銃を手に ナイフを手に持つ子らを見た
酷い、そう、とても酷い
そんな雨が、降りそうだった
(中略)
そして語ろう。話し、考え、息づこう
山に木霊させよう。生ける全てに届くよう
海の上にも佇もう。この身が沈み始めるまでは
でもこの歌は溢れだすだろう。
俺が歌い始める前から
そして強い、そう、とても激しい
そんな雨が、降るのだろう 
                                          「 Bob Dylan作詞/作曲」
「舌を抜かれ それでも何かを訴える一万の民衆」という歌詞には、抑圧された民衆の幻視するヴィジョンが憑依したかのようなで圧倒されます。
この曲で歌われる「激しい雨」は、キューバ危機(冷戦期の1962年、キューバに旧ソ連が配備した核兵器が使用されるのでは?という憶測で世界に緊張が走った)の「核の雨」ではないか?との憶測がながれましたが、本人は否定しています。この曲は様々なアーティストにカバーされています。ニューヨークパンクの女王と言われたパティ・スミスがボブ・ディランのノーベル文学賞の授賞式でこの曲を披露しています。途中あまりの緊張で声が出なくなってそれでも最後まで歌いきり、この日一番のスタンディングオベーションで称えられました。
最後にロック史に燦然と輝く金字塔といってよい『ライク・ア・ローリング・ストーン』についての二人のミュージシャンの声を紹介します。
「彼の洞察力と才能は、全世界が内包できるところまでポップ・ソングの枠を広げました。ボップ・シンガーの新しい聞こえ方を発明しました。(中略)ロックンロールの形を永遠に変えました」━━ブルース・スプリングスティーン
ジョン・レノンと一緒にこの曲を聞いたポール・マッカートニーはこう言いました。
「永遠に終わらない曲のように思えました。
ただひたすら素晴らしかった。彼はわれわれみんなに、もうすこし遠くまで行けるんだと教えてくれました」今回の来日公演が最後にならないことを祈るばかりです。
猫なんかよんでもこない。 杉作
ある雪の夜
プロボクサーのオレは
兄がひろった猫を2匹押しつけられた。
「世界をめざすオレサマが、猫の世話かよ…」
猫は身勝手でキライだ。
だけどケガでボクシングの道を断たれたあと
オレを頼ってくれたのは
このちっぽけな猫たちだけだった。
猫好きにはたまらない漫画です。絵がふんわりしてて猫ちゃんが可愛いです。最初は嫌々飼っていた猫たちが、触れ合っていくうちに可愛くなっていく主人公の心情が描かれています。共感出来ない部分もあると思いますが、とても良い漫画だと思いました。猫のあるあるがいっぱいつまっているし、切なさもあって、心が温まる作品だと思います😊✨
集英社発刊の地図と拳 小川哲著
満州を舞台に日露戦争前夜から第二次世界大戦
までを日本、中国、ロシアの観点から描かれた
重厚な内容なのに、スラスラ頭に入って来る
令和で出会ったナンバーワンの本。
読後、歴史の旅から戻った錯覚に陥った!
【ユーモアは最強の武器である】
すべては愛から始まるからこそ難しい😅
仕事柄ユーモアがある人が得をする場面が多く、自然に振る舞える姿を羨ましく思ってきた。そういうパフォーマンスが苦手だから、今の仕事に本来は向いていないのかも。そんな思いを長年抱きつつ日々を過ごしてきた。
それ故に本書を目にした時、何らかの突破口になることを期待してしまう。学術的な分析と実践を通じて参考になる部分も数多あったが、今この瞬間に相手の意欲を高める思いを形にすることが肝であると痛感した。
スベった時の気まずさや失敗というハードルが、一歩前へ出る勇気を挫く。そんな時の注意点が最後に提示されているのは、非常にありがたい。結果を恐れず、相手への感謝と伝えたい思いを常に意識して踏み出すこと。
自分に合ったスタイルでさり気なくアプローチすることがポイントだと言われれば、肩の力を抜くことができる。既に意識している点で怪しさ全開だが、時々本書に立ち返りながら新たなコミュニケーションを模索したい。
「紙の梟 ハーシュソサエティ」
貫井徳郎
これは、人一人を殺したら死刑になる世界の物語である。私たちは厳しい社会(harsh society)に生きているのではないか?
4つの短編と1つの中編です。
『見ざる、書かざる、言わざる』
被害者のデザイナーは目と指と舌を失っていた。彼はなぜこんな酷い目に遭ったのか?
『籠の中の鳥たち』
孤絶した山間の別荘で起こった殺人。しかし、論理的に考えると犯人はこの中にいないことになる。
『レミングの群れ』
頻発するいじめ。だが、ある日いじめの首謀者の中学生が殺害される。驚くべき犯人の動機は?
『猫は忘れない』
俺はあいつを許さない。姉を殺した犯人は死をもって裁かれるべきだからだ。
『紙の梟』
ある日恋人が殺害されたことを知る。しかし、その恋人は存在しない人間だった。
いやはや、凄いものを読んでしまった❗️私的には、確実に貫井さんのベスト5に入ります。
文体としては、いつも通り読みやすく、むしろ淡々としてクールともいえる感じで、スラスラ読んでしまいますが、実は重いのです。だって、”人ひとりを殺したら死刑“って…一見シンプルなように感じそうだけど、いや、そうではない。人が人を裁く限り、歴史が知る通り、冤罪もあるし…。この作品の凄いところは、そんな法律があったら何が起きるのか?という想像力が凄いのだ。いろいろ考えさせられました。
今時のネット社会なら、さもありなん、という部分も怖いし、日本人独特の考え方という部分も、非常に分かりやすく描かれている。
そういえば、題名は忘れてしまったけど、ずいぶん昔、若い頃に読んだ、筒井康隆さんの短編で「家族を殺された人達が、自らその犯人の死刑を行う」という話があり(そういう法律になってる世界)その家族の帰り道での言葉が今でも心に残っています。
ちなみに…短編の1つ目『身ざる〜』は、私、再読でした。おそらく、どこかのアンソロジーに入ってたのではないかな?
『レミング〜』の連鎖を怖く思いながら読んでいて、ラストで思わず「うぐっ」と唸りました。やられた。『紙の梟』の弁護士のセリフだけ一部…。
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「殺人を犯したら死刑という判断は、確かにわかりやすい。目には目をという発想は、受け入れやすいですよ。でもそれは、ただの思考停止だ。(中略)考えることを放棄したら、人は人でなくなるんですよ」
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このレビューをアップするのも、ネットなわけだから、私個人の死刑制度に対しての考え方は述べません。でも、たくさんの人がこの作品を読んで、想像力を持つことが大事なんじゃないかな〜と強く思いました。傑作です‼️
「成熟スイッチ」林真理子 講談社現代新書
ご存知、大活躍の女性作家にして日大理事長をされるなど多方面にご活躍されてる著者による処世術エッセイ。
私は林真理子さんの対談や女性ファッション誌のエッセイなど読むのが好きです。どちらかいうと小説より
エッセイのほうが好きかも😅
林真理子さんの毒を吐いて正直なところが大好きです、読んでて楽しいです。
これは私の好きな日経ウーマンでインタビューされた言葉なんですが↓
「美味しいものも食べたいし、きれいになりたいからエステもいきたい!だからお金をたくさん稼ぎたい!だからみなさん(女性たち)、男の人をあてにしないで自分でお金を稼ぎましょう!」と欲望とリアルにとても率直なところも好感度あります。
文章の読みやすさもさすがです。もともと読書好きな通な人だけでなく、一般人も読みやすく入りやすいよう、敷居を低くしてくれてます。
でも、わかりやすい文章書くのってかえって難しいですよね。そんなとこに林真理子さんのサービス精神と偉大さを感じます。
いろいろ面白いんですけど、特に悪口?にあたるところなんだけど、ゲラゲラ笑えてしまう↓のが
パーティに呼ばれてもいない謎の口角上げ女(誰かの愛人)をやんわり言葉で撃退する
あたりがすごい。読んでて嫌な気分にならない悪口書けるってすごいなと思いました🤣
林さんはせっかく買ってくれた読者さんに決して損をさせないように、と決めてるそうです。
たしかに。
気軽に読みたい方、決して損はしないですよ😊
「美徳のよろめき」
三島由紀夫
発刊時の1957年、《よろめき》という流行語を生み、社会現象となった小説です。
「私、浮気をしてもよくって?」
上流階級のしつけの良い家庭に育った28歳の節子は、親の決めた男と結婚し子どももいる。節子がふと思い出すのは、結婚前に避暑地で知り合った、土屋という青年とのただ一度のキス。それが上手なキスではなかっただけに、却って印象深く、忘れられずにいた…。
土屋と逢引きをするようになってからの、官能の目覚め、旅行先の裸の朝食、妊娠と中絶、狂おしい嫉妬、鮮やかな性と生。
パートナーのいる男女が、その関係性の外で恋に落ちるのを不倫というなら、それは、はるか昔からある。平成の終わりから令和の始まりにかけては、不倫のゴシップやスキャンダルに溢れていた。
三島が、そのあでやかな言葉によって、この作品で語っているのは、もちろん、不倫に対する善悪のジャッジではない。
三島に限らず、文学の世界では、ありとあらゆるテクを駆使して、男女の愛憎、機微が表現されます。なかでも、不倫という世間的に暗いイメージのある恋愛は、三島にとって、腕の振るいがいのあるジャンル。ものは言いよう。彼は、世間のモラルをその独自の言いようで引っ繰り返してしまう。
節子の実家は、平和な、明るい、道徳的な一族、矩(のり)を超えようともせず、欲望に煩わされもしない一族、退屈に苦しめられない心、不真面目なことに身を賭けたりしない...
(本文)
そんな偽善界の住人に対して三島いわく、
「偽善にもなかなかいいところがある
  偽善の裡に住みさえすれば
  人が美徳と呼ぶものに対して
心の渇きを覚えたりすることはなくなるのである…」
物語の冒頭からニンマリしてしまった。
節子絶賛!
節子は優雅であった。女にとって優雅であることは、立派に美の代用をなすものである。なぜなら男が憧れるのは、裏長屋の美女よりも、それほど美しくなくても、優雅な女のほうであるから。
三島由紀夫の理想の女性像なんですね。
そんな女性を、恋愛ゲームに引きずり込んだ作品。
節子と土屋は、なんとも感情移入しづらいキャラ。
だからこそ、ふたりが繰り広げる愛憎や機微を俯瞰で眺められる物語だな、と思いました。
これも、三島の《手の内》なのでしょう。
山田詠美さんの解説も面白かったです。
「蟻の菜園-アントガーデン-」
柚月裕子
『車中練炭死亡事件 結婚詐欺容疑で43歳女逮捕 複数の男性殺害に関与か』
フリーライターの由美は、この事件を記事にするため取材を始める。
福井県にある東尋坊から身を投じることを、少しでも思いとどまってもらえるようになればと【いのちの電話】を設置する。役場の終業後や日曜祝日は、担当の家に電話が繋がることになっていた。与野井が担当の日のこと。少女から電話があった。寒い日の豪雨の中、そこから動かないように伝えて、迎えに行く。与野井の家で食事と入浴をするが、妻が少女の火傷の痕を見つける。虐待を疑うが、とりあえず家に送って確認をすることにして、準備をしている間に少女はいなくなってしまう。
かろうじてわかったのは早紀という名前だけ。ひたすら「妹が心配するから帰る」ということを繰り返していた。
1週間後、また、早紀から電話がかかる。その日も豪雨で、東尋坊の電話ボックスに行くが早紀の姿はなく、捜索願いを出すが見当たらない。そこに早紀サンダルが片方だけ落ちていた。
早紀の父親はアルコール中毒で入院する。家はなく、車で寝泊まりしていた。日常茶飯事に虐待を受け、残された妹の冬香は、児童養護施設に引き取られる。早紀も冬香も戸籍がなく、小学校にも行っていなかった。この時、早紀が12歳、冬香は7歳だった。
冬香が12歳になった時、父が迎えに来て一緒に住むことになる。役所の職員も児童養護施設の管理者も、父の病気も完治して心から反省していることを繰り返す。
父と暮らし始めて、最初こそは生まれ変わったように飲酒も絶っていたが、長くは続かなかった。次第に働かなくなり、暴力。さらには性暴力にまで及ぶ。
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まだまだ個人情報保護とか、児童虐待防止法とかの整備がちゃんと出来ていない時代の話と、現代とをリンクしながら、散らばった点や、絡まった線が解けていき、そして繋がっていきます。
誰がどうすれば少女たちは救われたのか。あの時、いや、ひょっとしたらこうしといたら。一見救えたつもりになっていただけで、本人はそれを望んでいたのか。実はそうではなかったのではないか。
胸に詰まります。
ただ、ライターの由美が、この事件を書く時に『児童福祉の現場には見えない障壁があるという事実を、記事を通して訴えたい』変わらないといけないことをペンを通して伝えていくことを示したことには救われた気持ちになりました。
しあわせになったと思っても、本人にとって深い深い傷に苦しんでいること。『しんどいこと』に、本人も気づいていない時はどうしたらいいのか、ものすごく考えさせられました。
最後にタイトルの「蟻の菜園」の説明もありました。
『レモンと殺人鬼』
著 くわがきあゆ  【宝島社】
『このミステリーがすごい大賞』受賞作品に相応しい、サスペンス・ミステリー。初読みの作家さんながら、物語の終盤にきて、殺人の真相に迫る犯人像が、二転三転、そして四転とする展開の妙、文章の構成力に呑み込まれた。
実は、前半から伏線が張り巡らされ、主人公・美桜の周りの怪しい人物像の配置にもミステリー要素を深めている。また、過去と現実とを巧みに使い分けて、美桜の生い立ちを追う中で、彼女のイメージを読者に植え付けた上で、最後に、そのイメージを突き崩すラストシーンも壮絶。虐げる者と虐げられる者によって成り立つ、不均衡な社会への警鐘とも感じる作品である。
派遣の大学職員だった小林美桜の妹・妃奈が刺殺体で発見された。しかし、保険外交員をしていた妃奈が、過去に保険金殺人をしていたという報道が流れ、美桜は妹の無実を晴らす為に、ジャーナリスト志望の大学生・渚と共に真相を究明し始める。
実は、美桜の家庭は、洋食店を営んでいた父親も、10年前に少年による、場当たり的な通り魔殺人によって亡くなっていた。そして、最近その犯人が少年院から出所したが、その後、行方不明になっていたのだ。
妹と父の2つの殺人事件が10年の時を経て関りが出てくる中、また、新たな殺人も発生し、後半は、衝撃的なラストに向かって、疾走していく。
小気味いい啖呵
「脳の闇」 中野信子
著者の本は初めて読んだが、
いやー、ここまで気持ちの良い
江戸前とは思わなかった。
専門の脳についての話も
もちろん面白いが、秀逸なのは、
第六章の「やっかない私」と
七章の「女であるということ」。
フレーズが切れてて、毒もあり
べらんめぇの落語を聞いてるようだ。
印象に残った文節をひく。
女の子扱いされることが大嫌いだった。
幼稚園の頃、大人になったら「およめさん」
と書いた子を心底、軽蔑していた。
どちらといえば、というかむしろ明らかに、
自分はかなり気難しい部類に属する人間で
あると思う。
(中略)
毎日が同じ繰り返しを前提としているような
閉塞的な関係は、自分には向いていない。
(中略)
気難しくしようと思ってしているのではなく、
相手に合わせるためのやる気を出すことが
不可能なのである。
「この相手に合わせることによるメリットは
コストに見合わない」と、勝手に脳が判断
するわけだが、その脳に判断されたら、
それ以上のことはできなくなってしまう。
結婚に向いている人がいる以上、
向かない人もいる。
それを多様性というのであって、
どちらかが優れているというのではない。
けれど論理的で頭がよいでもない一部の
人たちは、社会通念に頭を乗っ取られ、
こうあるべきだと他人を追い詰める快楽に
いつの間にか中毒してしまう。
そんなジャンキーたちに奪われるほど、
自分の人生は軽くないはずだと、
多くの人が開き直ることができると
いいと思うけれど。
……いいなぁ、中野、かっこいいっす。
「天使と悪魔のシネマ」
小野寺史宣
河合英道は映画館にいます。他に観客はいません。映画の場面では、ビルの建設現場から唐突に鉄骨が落ちてきて、下の通りを歩いていた男が死んでしまいます。
そこで場面が変わります。なんと、スクリーンの女優が突然、観客の英道に話しかけて来ます。
英道は死んでいました。さっき観た映画の場面は、自分がどうやって死んだかを知らせるためのものだったのです。
こんな不思議な話が10編あります。悪魔が出て来て、その都度交渉します。天使は登場しませんが、悪魔の話の中で出て来ます。
最後の章で、河合英道を死なせてしまった中津巧が出て来ます。事故を悔やんで自ら命を断とうとしているところに、悪魔が現れて言いました。明日、保育園の子どもと引率の先生が、交通事故に合うことになっています。その中の1人に巧が悔やんでいる英道の姪がいます。巧が死ぬのは、もう決まっていることですが、今ここで自殺をするより、明日その子たちを助けて死ぬことを勧めます。
********************************************
10編の内容は違いますが、残された家族が困らないように、悪魔が誘導していきます。
小野寺さんの話は、いつもやさしい印象ですが、良い話ばかりでなく、悪い人も少し出て来ます。
でも、読み終えた時には、やっぱりほんわかした気持ちにしてもらいました。
すじぼり
福澤徹三

 単位不足の上、就職活動にも出遅れた亮。ひょんなことから組事務所でパソコンを教えるバイトを始める。
まさか本気でヤクザになる気など無かったものの、個性溢れ人間味のある組員たちと交わるうちに居心地が良くなってしまい…。
 中途半端で生煮えな生き方に自己嫌悪を感じていた時、出会ってしまった無骨な生き様。もがきながらもモラトリアムから覚醒していく姿を描くホロ苦い青春ドロップアウト小説だった。大藪春彦賞受賞作。
🌳おおきな木
シェル・シルヴァスタイン
村上春樹 訳

あるところに、一本の木がありました。その木は、一人の少年のことが大好きでした。少年はその木のところにやって来て、色々と遊びました。時が流れ、少年は大きくなり、木はひとりぼっちになることが多くなります。ある時、ふいにやって来た少年に、【木陰で遊んだら】、と声を掛けます。でも、少年は、「もう木登りをして遊ぶ年じゃないよ」

「買い物したいからお金ちょうだい」
【(木に実ってる)りんごを持っていきなさい
   それを町でお売りなさい】

少年はりんごをすべて持っていってしまう。
木はそれで幸せになりました。

大きくなった少年はしばらくやってこない。
ある時、ふいにやって来た大人になった少年は..
長~い時が経ち
ある時、ふいにやって来た老人になった少年は..

「おおきな木」の原題は
   《The Giving Tree》
色々な媒体でおすすめ絵本として紹介されています。
さまざまな解釈ができるので、3歳くらいから楽しめるし、意外と、大人向けなのかな、とも思います。

人間って勝手だな
にしても、この少年の人生、何があったんだろう。
などなど、モヤモヤ…。

ストーリー自体はシンプルなので、訳者さんによっての微妙なニュアンスをたのしむこともできますね。

まず面白いな、と感じるのは
少年は成長していきますが、
 大きくなった少年
 大人になった少年
 老人になった少年
との表記。

いつまでたっても少年だな
という印象がめちゃ強まっていきます。

そして、原文の
《but not really》
旧版(本田錦一郎 訳)では、『だけど それは ほんとかな』
村上春樹版では、
『それで木は幸せに … なんてなれませんよね』

さらに、原文では木は《she》
日本では見えなくなってしまったシェル・シルヴァスタインの想いに直、触れたくなりました。原文も読もうと思います。
🌳🌳
「1ミリの後悔もない、はずがない」
               一木けい
 ふとした瞬間にフラッシュバックしたのは、あの頃の恋。逃げ出せない過酷な家庭環境で育った中学生の由井にとって、生きていく唯一の希望は同級生の桐原だった。誰にも言えない絶望を乗り越えられたのは、あの日々があったから。桐原、今、あなたはどうしてる…。
 苦いなぁ。読後の余韻が半端ない作品。連作短編集の1話目「西国疾走少女」は、町田そのこさんの「夜空に泳ぐチョコレートグラミー(1話目:カメルーンの青い空)」と女のためのR-18文学大賞を争ったらしい。ちなみに大賞はカメルーンで、こちらは読者賞。まぁ、一つの作品で比べたらそうだろうなぁ。どちらも連作短編集として書籍化されているが、物語のつながり結び方から、通して読むと本作の方がずしりと来る。個人的にも衝撃的だった当時の町田さんと十分に渡り合えるものをこの一木さんも持っているような気がする。
 語り手となるのは1話目だけだけれど、各話の主人公からも語られ明らかになる由井のキャラクター。強い、ぶれない、余計な事は言わない。この強さがあるなら、桐原を待ち続ける又は自ら探しに行くという選択肢があっても良かった気がするけど、本当のところは由井本人にしか分からない。だからこそのこのタイトルなんだろう。そして、由井に人を信じてもいいんだと思わせてくれた常楽親子の存在も大きい。この出会いがなかったら、由井の将来も違うものになっていただろう。その意味でもこの最終章はやっぱり素晴らしい。連作短編集だと、最終章で見事にバラバラだったパズルが埋まるという作品はあるけれど、本作は明らかに異なる。主人公はあくまでも由井なのに、ラストは本人目線では語られない。それだからこそ由井の感じたほろ苦さを読者も深く共有でき、素晴らしい余韻を残してくれるのだろう。
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