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美女4000人に30億円貢いだ「好色資産家」の“不審すぎる遺書”〈個人の全財産を田辺市にキフする〉

〈紀州のドン・ファン死亡事件〉遺産総額約50億円のはずが…自宅の大型金庫に残されていなかった“消えたカネの行方” から続く

 美女4000人に30億円貢いだ「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏(当時77歳)。彼が不審な死を遂げ、元妻・須藤早貴氏(当時25歳/以下さっちゃん)が殺人容疑で逮捕されて2年が経つ。稀代の「好色資産家」が遺した30億円とも50億円とも言われる遺産はどのような行方を辿ったのだろうか。ここでは『 紀州のドン・ファン殺害「真犯人」の正体 ゴーストライターが見た全真相 』より一部抜粋。カネは誰の手に――。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

「社長は若くて清純そうなホステスが大好きでした」

 もちろん、財産には不動産もある。これがまた、ややこしい。

「田辺市内にいろいろ持っているのはもちろん、和歌山市内にも不動産があるようだし、もっと言えば全国の債権者から『借金のカタ』に差し押さえた不動産もある。弁護士たちは書類を必死に探して、不動産資産の全貌を掴もうとしていますが、大変な作業だと思いますよ」(会社関係者)

 私が地道に取材してわかった範囲で、田辺市内のドン・ファンの不動産をチェックしてみた。

 田辺市内の中心部、津波の被害も心配なさそうな小高い場所に建つ、鉄筋コンクリート造りの3階建てマンション。そのマンションの名称を見て、私はニヤリとしてしまった。

「マンション ピロポ」

 看板にはそう記されていた。

 アプリコの従業員たちは誰も「ピロポ」の意味を知らなかったが、ピロポとは、六本木でも一流として知られる瀬里奈グループが持っている高級クラブの名前だ。現在は銀座に移動して「銀座クラブ ピロポ」として営業している。社長の古くからの知人が言う。

「社長はピロポが大好きで、この店の若くて清純そうなホステスを何人も口説いていたんです」

確認できただけでも、田辺市内に賃貸用のピロポマンションは5棟ほどある。それらマンションだけでなく、田辺市内の重厚な日本家屋も売りに出されていた。これは貸金のカタに差し押さえたものだろう。他にも、田辺市の隣町の中古住宅には、かつて社長の会社のイメージガールだった西川(現・仁支川)峰子さんの写真入りの看板が置かれ、「売家」と書かれていた。

 もう一つ、バカにできないのが社長の「コレクション」だ。社長は無数の絵画や貴金属を集めていたことでも知られている。

「シャガールやルノワールに、藤田嗣治の絵画もある。ニセモノか本物かわからない品もありますが、寝室に飾っていたルノワールと藤田は本物でしょう。絵画と貴金属をあわせれば、総額は軽く5億円を超えるはずです」(会社関係者)

遺産は確実に30億円は超える。元妻が手にするのは…

 全国に散らばる不動産、銀行預金に株の証券、未回収の貸金に絵画と貴金属、さらに現金として手もとに置いていた2億円(現在行方不明だが)。それに加えて、会社の資産として現金と不動産がある。

 ドン・ファンの資産を、会社関係者が総括する。

「一部報道では50億円と言われていましたが、50億はないとしても30億円は確実にいくと思います。さっちゃんの法定相続分は4分の3ですから、20億円以上の遺産を手にすることになりますね」

 ところがここに来て、話がそう単純に進まない事態となっている。

 ドン・ファンの「遺言書」なるものが8月に裁判所に提出されたのだ。内容は、「全財産を郷里の田辺市に寄付する」というものだ。

 社長の遺言書が存在するということは、6月以降、いくつかの週刊誌が報じてきた。だがそれらの記事はいずれも遺言書の描写があいまいで、記者が遺言書の現物を見ていないことが明らかだった。おそらく、「遺言書がある」という情報だけを聞いて記事にしたのだろう。何者かが、意図を持ってリークしたとしか思えない。

 私はその遺言書の現物のコピーを入手し、フライデー9月21日発売号で写真として掲載した。左ページがそれだが、遺言書にはこう書かれている。

〈〈いごん

  個人の全財産を田辺市にキフする

  アンカーアプリコの清算をたのム

    平成25年2月8日

       野崎幸助

   〇〇〇〇殿〉〉

 他の週刊誌の記者が現物を見ていないと私が確信するのは、この遺言が、全文真っ赤な字で書かれているからだ。そんな異様な遺言書があるだろうか。他の週刊誌の記事は、文字が赤いことに一言も触れていない。現物を見ていて、そのことに触れないことはありえないだろう。

 〇〇〇〇の部分は、実際にはある人物の名前が記されている。

 その人物M氏は、たしかに社長とは30年来の知人で、アプリコの取締役にも名を連ねている。ちなみにアンカーというのは、ドン・ファンが経営していた貸金業の会社の名前だ。

この遺言状はホンモノなのだろうか

 社長の古い知人から事情を訊いた。

「M氏によると、今から5年前の2013年(平成25年)に、ドン・ファンがこの遺言書を突然郵送してきたというのです。すぐにM氏が真意を確認したら、ドン・ファンは『まだまだ死ぬつもりはないが、万が一のときには自分の財産を郷里の発展に役立ててもらいたい』と語ったそうです」

 私の知る限り、およそドン・ファンが言いそうにないセリフだ。それは置いておくとしても、なぜ死後2ヵ月以上経ってからこの遺言が出てきたのか。知人が続ける。

「M氏はとりあえず遺言書を保管していたが、そのうちその存在をすっかり忘れていたそうです。ドン・ファンが急死して、葬儀も終わってしばらくたった6月10日頃、M氏は急に遺言のことを思い出し、弁護士に相談した。そして8月3日、その弁護士がM氏の代理人として、遺言書を田辺の家庭裁判所に提出したのです」

 今後、遺言が本物なのかどうか、家庭裁判所で「検認」手続きが行われる。ただ、そこで本物だと認められても、全額が遺言どおり田辺市に寄付されることにはならない。妻のさっちゃんが「遺留分」を請求すれば、法定相続分の半分を相続することができるからだ。

 ドン・ファンの遺産が30億円とすると、もしこの遺言が本物であるなら、さっちゃんの相続分は半分の15億円になる。兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、4分の3の半分ではなく、全体の半分になるのだ。現状の相続分である22.5億円に比べると、7億円以上減額されることになる。そして前述したように、兄弟姉妹の取り分はゼロになる。

 はたして、さっちゃんと兄弟姉妹は、それを素直に受け入れるのか。

 そもそも、M氏の言っていることをすべて信じていいのか。

 筆跡は確かにドン・ファンのものに似ているが、このまますんなりとはいかないと私は思っている。

遺言状にある最も不自然な点とは――?

 まず、遺言書の出方があまりにも不自然だ。

 M氏は通夜、葬儀の間も「親父(M氏は社長のことを、社長不在のときだけ親しさを誇示するようにそう呼んでいた)は遺言を残すようなタマじゃないよ」と何度も言っていたし、M氏以外の誰一人として社長が遺言を書いていたことを知る者はいない。

 また、文字の筆跡は似ているが、文章全体から受ける印象が、ドン・ファンが書いたものとは異なる。

 社長が書く文章は一つ一つの字がバラバラで、さらに下に行くにつれ字が左に流れていくのが特徴だ。だがこの「いごん」は整然とまっすぐ字が並んでいる。

 そもそも社長を知る者で、社長が遺言を残すタイプだと言い切る者は皆無だろう。自分が死ぬことなど露ほども考えないのが、ドン・ファンの性格なのだ。しかもこの遺言書は、いちばん大事だったイブについてまったく言及していない。

 さらに、「いごん」というのは法律用語であり、一般人には馴染みがない。このように、納得できない部分が多すぎるのだ。

(吉田 隆)