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1,000億円賠償してもビクともしない、大成建設の盤石さ

 日本が誇るスーパーゼネコンの一角、大成建設(株)のとてつもない盤石さが、改めて示された――。

 大成建設をめぐっては6日、同社代表取締役会長の山内隆司氏が(一社)日本経済団体連合会(以下、経団連)の副会長候補者に内定したことが発表された。経団連の副会長としては、建設業界から初の起用。今後、2020年の東京五輪開催をはじめとした国際的なイベントが控えるなか、建設業界の経験と実績が非常に重要との考えから、白羽の矢が立った。

 また山内氏は一部報道で、建設会社の業界団体・(一社)日本建設業連合会(以下、日建連)の次期会長候補としても名前が挙がっている。なお日建連によると、山内氏の次期会長就任については、2月23日開催の理事会で内定され、4月26日開催の総会で正式決定される見通しであり、まだ正式な発表ではないとのこと。

 業界内外で存在感を見せつける大成建設ではあるが、その一方で、忘れてはならない現在進行形の課題も抱えている。

 昨年11月8日に福岡市のJR博多駅前で発生した大規模な陥没事故で、事故発生の前日に崩落の兆候と見られるデータが計測されていながら、施工業者側が市に報告せずに工事を続行していたことが判明。この問題を受けて福岡市の高島宗一郎市長は、1月24日に行った定例会見で、工事の発注者として独自に施工業者へのヒアリングを行う考えを示した。

 同事故が発生したのは、「福岡市地下鉄七隈線博多駅(仮称)建設工事」の現場。施工は、大成建設(株)を筆頭会社とする「大成・佐藤・森本・三軌・西光建設工事共同企業体(JV)」が請け負っていた。

 市によると、事故前日の午後6時頃、大成JVは掘削中のトンネル内に設置された自動的に圧力を測るセンサーで、市との請負契約上で現場点検と市への報告が義務付けられたレベル1を計測。だが、市への報告が行われることなく工事が継続されていた。その後、事故当日の午前1時半頃には掘削の停止を求めるレベル3まで達していたが、工事はそのまま続行。午前5時過ぎになって、崩落事故が発生するに至った。

 事故をめぐっては現在、国土交通省が設置した第三者委員会「福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委員会」が原因究明を進めている。1月21日に東京都内で開かれた2回目の会合後の記者会見では、事故発生の要因となった10項目の可能性を提示。3月開催の次回会合で事故原因を絞り込み、とりまとめる方針となっている。

 大成建設広報室はデータ・マックスの取材に対し、「検討委員会において、今後も引き続き審議が継続されていることから、原因などに関するご質問については回答を差し控えさせていただきます。なお、原因究明などに向けては、施工者として最大限調査協力を行ってまいる所存です」と回答。

 JV筆頭会社である大成建設の元請責任は重大だ。施工者に過失があった場合、工事における賠償責任に加え、事故現場周辺の店舗や企業への営業補償などを考えれば、どのような数字がはじき出されるかは想像もつかない。通常、JVのような企業体に過失があった場合は、受注比率によって賠償額も決定されるというが、原因の特定に至っていない時点では未定。もちろん、着工の際に保険に加入していることから、賠償額がすべて施工者の持ち出しとなるわけではないが、相応の損失が発生することは確実となる。

 大成建設広報室はこの件について、「補償については、個別訪問を開始しておりますが、詳細については回答を差し控えさせていただきます」と回答している。

 仮に多額の賠償金が大成建設負担となったとしても、同社の屋台骨は決して揺らぐものではない。それだけ強固な財務基盤を有しているからだ。

 大成建設の2016年3月期決算は、1992年3月期以来の24年ぶりとなる最高益を更新。背景には、首都圏や中京圏などで大型の再開発工事が相次いでいることがある。労務費の上昇が一段落し、原油安などの影響で資材価格が下落していることも利益の押し上げに貢献した。

 16年3月期の連結売上高は前期比2%減の1兆5,458億8,900万円だったが、営業利益は1,174億6,800万円の同67%増と、従来予想を330億円強上回った。減収でも大幅な増益を確保できたのは、手持ち工事の採算が上向いているため。工事の採算を示す完成工事総利益率は12.0%と、前の期の7.5%から4.5ポイント上昇。利益率は、他の建設大手と比較しても高い割合となっている。自己資本比率は31.3%、流動比率は119.8%と、財務面も比較的健全域にある。

 このため、仮にだが、大成建設が支払うべき賠償金が膨大な額――たとえ1,000億円規模にまで膨らむことになったとしても、一時的な影響はあるにせよ、同社の経営の根幹を揺るがすには至らないと見られる。むしろ“迷惑料”として1,000億円を支払っても、何ら罰は当たるまい。

 とはいえ、大成建設へのダメージは、賠償金の支払いだけにとどまらない。それ以上に、民間受注の際のイメージダウン、過失があった場合の指名停止など、今後の受注に影響が出るのは必至だ。まずは事故原因の究明が何よりも急がれるが、その後は賠償を含めた信頼回復に努めることが急務となる。

大成建設、建設中のビルで施工不良~役員2名が辞任

 大成建設(株)は16日、同社札幌支店が施工中の地上26階建の複合ビル「(仮称)札幌北1西5計画」(発注者:エヌ・ティ・ティ都市開発(株)」において、重大な施工不良が発生したと発表した。

 同ビルの鉄骨建方において、本来使用すべきものとは異なる仕様のボルトを使用するなどの精度不良が発覚したほか、各種計測記録に関して虚偽の報告を行っていたことが判明。これを受け、大成建設の以下の執行役員2名が辞任を申し入れており、同社はこれを受理した。辞任日は今月末。

寺本 剛啓氏(現・ 専務執行役員 建築総本部長兼建築本部長)
平島 信一氏(現・ 常務執行役員 札幌支店長)

(仮称)札幌北1西5計画イメージパース
(仮称)札幌北1西5計画イメージパース

 同ビルはすでに15階までの鉄骨が組み上がっているが、大成建設はこれをいったんすべて撤去し、再構築するため、竣工予定が2024年2月から26年6月末に変更された。また、今回の建て直しにともない、大幅な工事原価の増加が見込まれるが、同社は現在精査中としている。

大成建設、複合ビル建て直しで約240億円の損失

 スーパーゼネコンの大成建設(株)は、17日、施工中の「(仮称)札幌北1西5計画(発注者:エヌ・ティ・ティ都市開発(株))」で発覚した施工不良(鉄骨建方の精度不良など)にともなう建て直しで、約240億円の損失を計上すると発表した。

 これにより、同社の2023年3月期(連結)の業績予想は下方修正され、売上高は1挑6,420億円(前回予想から▲1,280億円)、経常利益は631億円(同▲369億円)、当期純利益は471億円(同▲199億円)となった。

 また、今回の業績の下方修正を受け、経営責任を明確にするために、以下の通り取締役および執行役員の報酬を23年4月から3カ月間返上する旨が、合わせた発表された。

・代表取締役社長    月例報酬の50%

・取締役(社外を除く) 月例報酬の30%

・執行役員       月例報酬の20%

 建て直しとなる「(仮称)札幌北1西5計画」は、S造・SRC造の地上26階、地下2階、塔屋1階建てで、オフィスやホテルなどが入る複合ビル。今回の建て直しを受け、竣工予定が当初の24年2月から、26年6月末頃に延期されている。

 大成建設は福岡でも、市中心部の再開発を促進する天神ビッグバンボーナスの認定を受けた「(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画(24年12月竣工予定)」や、博多コネクティッドボーナスの認定を受けた「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクト(26年1月頃竣工予定)」など、複数の大型プロジェクトに携わっている。

建替えで博多駅前の西日本シティ銀行が複合ビルへ、施工は大成

 (株)西日本シティ銀行(村上英之頭取)と福岡地所(株)(榎本一郎代表)の2社が推進する、JR博多駅・博多口前の「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクト」。

 九州・福岡の玄関口でもある、博多駅のすぐ目の前という好立地ということもあり、その動向が注目されていたが、30日、博多コネクティッドボーナス※の認定を受けたことで、その概要が発表された。

※:博多コネクティッドボーナス…容積率などの規制緩和や、国の金融支援、税制優遇などによって、耐震性の高い先進的なビルへの建替えを促す取り組み。

銀行本店から複合ビルへ

 建替え後の西日本シティ銀行本店は、本店の機能はそのままに、オフィスフロアや商業店舗を配置した複合ビルへと生まれ変わる。また、福岡市が推進する「都心の森1万本プロジェクト」や「Fukuoka Art Next」「感染症対応シティ」関連の取り組みを実施することで、博多駅周辺エリアの国際競争力の向上にも寄与していきたい考えだ。

 建物のデザインは、外装・内装ともに、デンマークを拠点に活動する国際的な建築デザイン事務所「3XN Architects(スリーエックスエヌ アーキテクツ)」が手がける。セレーション(鋸歯状)化されたタイルとガラスの外装により光の反射を抑えることで、周辺環境への配慮がなされるなど、周辺街区との調和が意識されている。

建替え後の外観イメージ(北東側)
建替え後の外観イメージ(北東側)

 敷地北東側には、地下・地上の歩行者の縦と横の移動をつなぐ大規模立体広場「コネクティッドコア」を整備。博多駅から住吉通り、はかた駅前通りへの回遊性の向上を目指す。

コネクティッドコア地上広場イメージ
コネクティッドコア地上広場イメージ

 広場には中低木を配するほか、建物の足元部分の柱や壁面も花や緑で彩ることで、歩行者目線で緑が連続する緑化空間を創出。合わせて、優れた環境配慮技術の積極的な採用により、エネルギー削減量50%以上の達成を目指す。

緑化空間イメージ
緑化空間イメージ

 オフィスフロアは博多駅前エリア最大規模となる基準階面積約1,190坪を確保。多様化するワークスタイルおよびウェルビーイングに配慮したハイグレードオフィスを提供する。

 ホールも設置。音楽家による室内楽コンサートの開催が可能であるほか、災害発生時には帰宅困難者の一時滞在施設として提供される予定。

ホールイメージ
ホールイメージ

 着工は11月頃で、竣工は2026年1月頃を予定している。設計は(株)日建設計(基本設計)、大成建設(株)一級建築士事務所(基本設計・実施設計)、施工は大成建設(株)が手がける。

■西日本シティ銀行本店本館建替え計画概要

所 在 地:福岡市博多区博多駅前3-1-1
敷地面積:約5,230m2(約1,582坪)
建築面積:約5,083m2(約1,538坪)
延床面積:約75,678m2(約22,893坪)
建築物 :S造一部RC造・SRC造
     地上14階・地下4階
     免震構造(地下3階柱頭免震)
事業主 :特定目的会社Walk
   (出資者:西日本シティ銀行・福岡地所)