カネの魔力に取りつかれた日々　詐欺を助け、1日で500万円稼いだ「道具屋」の証言【仮面の罠　断て特殊詐欺】

　だましの「仮面」を次々と変え、高齢者から現金をだまし取る特殊詐欺グループ。卑劣な犯行を助長するのは電話や名簿、銀行口座などのツールだ。それらを調達し、詐欺グループに提供する存在がいる。「道具屋」と呼ばれる。2010年代半ばまで数年間、西日本の地方都市を拠点に道具屋を担ったという男が取材に応じた。「稼ぎは多い時で年5千万円以上」―。男は首都圏の詐欺グループを相手にツールの提供や「受け子」の仲介をしていたと明かし、特殊詐欺と暴力団の関わりも証言した。（特殊詐欺取材班）   西日本のある地方都市の繁華街。取材班は10畳ほどの貸し会議室にカーテンの間仕切りを設置し、その男と向き合った。男は自らの素性について30代後半であることだけを明かし、「A」と呼ぶよう求めた。 　裏社会に詳しい人物をたどる中で浮上したA。顔を一切見せないことが取材の条件だった。特殊詐欺との関わりを尋ねると、抑揚の少ない声でこう説明した。 　「いわゆる『道具屋』をやっていました。逮捕されたことはないです」

■ヤミ金業者らからツール調達

■「本職」介して受け子も提供

　当時、Aが扱っていたのは口座や名簿といった「モノ」だけではなかったという。「人の仲介もしていました」 　首都圏の詐欺グループが地方のお年寄りたちをだます際、その地域で詐取金を回収する「受け子」が必要になることがある。そこでAは「東京のブレーン」と呼ぶ詐欺グループの幹部に対し、つながりのある暴力団関係者を紹介していたという。 　「その地方の本職（暴力団関係者）が、若い不良や借金まみれのやつをリクルートして受け子をやらせるんです。本職は売り上げ（詐取金）の一部を得る代わりに、受け子が逃げたら責任を負う」 　暴力団に雇われた受け子の扱いについてはこう証言した。「少ない報酬でも動くやつが使い捨てされるイメージだった」。また「他の道具屋のことはよく知らない」としつつ、地場の暴力団が受け子を雇う構図は各地の地方都市に共通していたとの見方も示した。

■地方での詐取金が東京の暴力団へ

　Aが道具屋として活動したのは2010年代半ばまで。今は詐欺グループ自らが交流サイト（SNS）を使い、高額な報酬をうたって受け子を募る手法が増えているとされる。 　ただAによると、特殊詐欺と暴力団の関係は受け子の確保だけではない。さらに密接だという。「東京の詐欺グループを三つくらい知っていますが、全て上に（暴力団が）ついていました。そこも利益を得ていたと思います」 　地方のお年寄りがだまし取られた金が東京の暴力団に渡る―。Aが自身の体験から知るもう一つの構図だ。「これ以上は言えない」。暴力団組織の具体名などについては口を閉ざした。 　道具屋として地方と首都圏を結び付け、詐欺組織の犯行を助長していたA。当時をこう振り返る。 　「最初は罪悪感もあったけど慣れました。お金の魔力には勝てない。人やモノの仲介をしてるだけで1日最高500万円ですよ。やめられないですよ」 　今は特殊詐欺との関わりはないという。その理由を「周囲の人がどんどん捕まった。僕もちゃんとしようと思った」と説明する。これまでに警察から何度か詐欺グループとの関わりを聴かれたが、証拠がなかったのか逮捕には至らなかったという。 　犯罪ツールを調達して利益を得ながら、詐欺グループの陰に隠れて捜査の網をかいくぐる道具屋たち。そして威力を背景にグループの頂点に居座り、資金を吸い上げる暴力団。Aが語った犯行の構図は、決して昔話ではない。 この記事は、中国新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。