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スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差 西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

回転寿司チェーン「スシロー」の店内で、客による迷惑行為の動画がSNSで拡散した問題。スシローに限らず、外食産業全体に大きな波紋を呼んでいる。

直近でも、「餃子の王将」が客の迷惑行為を踏まえて、店内のテーブルに置くギョーザのたれなどの調味料を撤去すると発表。マクドナルドにおいても、店舗で客がアクリル板をなめる動画やハンバーガーにゴキブリの死骸が混入したとするツイッターへの投稿が拡散して問題になっている。

「迷惑行為」の連鎖は、依然として止まらない状況だ。一方で、外食系企業に対する顧客、消費者の意識は変わってきており、企業側を擁護する意見が強くなってきている。さらに、企業側も過去のトラブルから学び、過去に比べればリスク対応が巧みになりつつあるようにも見える。

特に、今回の一件でスシローが取った一連の対応は、非常に適切なものであったといえる。本稿では、スシロー事件を中心に、外食・食品に関するトラブルの変化と、外食産業のリスクマネジメントについて考えてみたい。

つねにリスクにさらされてきた外食・食品業界

外食・食品業界は、消費者の日常に深く関わるものであり、特に衛生や安全面に関心を強く持たれやすい。それだけに、過去には何度も、ときに企業の存続が脅かされるほどの重大リスクに直面してきた。

重大リスクには、今回の「迷惑行為」など食品そのものに問題が発生して消費者に直接害が及びかねないものから、従業員が関係する事件や事故まで、内容はさまざまある。

かつて大手外食チェーンのハンバーガーに「ミミズの肉が使われている」という荒唐無稽な「都市伝説」がアメリカ起点で流布したが、これは1978年から始まったといわれる。

2000年以降の日本に限定して見ていくと、雪印乳業を破綻に追い込むきっかけとなった中毒事件が起きたのが2000年。船場吉兆、不二家、赤福、「白い恋人」などの食品偽装が相次いで発覚したのが2007年。

翌年の2008年にはJTフーズの冷凍食品への農薬混入問題が起きている。さらに。2013年には、アクリフーズ冷凍食品農薬混入事件が起きたが、それと並行して飲食店や小売店「バイトテロ」が相次いで発生した。コンビニの従業員がアイスクリームケースの中に入っている姿を撮影して投稿するなど、社会問題化したので記憶にある人も多いだろう。

2014年には、まるか食品のカップ焼きそば「ペヤング」の異物混入、2014年~2015年にかけてはマクドナルドにおける異物混入が大きな問題となるなど、SNS上でさまざまな「異物混入」に関する話題が拡散した。

2018年~2019年にかけては「バイトテロ」が再び活発化。

昨年2022年には、スシローがおとり広告で消費者庁から措置命令を受けたり、「大阪王将」の元従業員が衛生管理に関する告発投稿をツイッターで行うなどの問題が起きており、やはり飲食店がらみの不祥事や炎上事件が多く見られている。

実は、飲食業界の不祥事、炎上事件は、一見すると同じようなものに見えても、時代による特徴が見られる。

トレンドの転換点となっていると筆者が考えるのが、2013年、2018年である。

2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。

東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのである。

一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である。

動画共有サイトとSNSとのセットで炎上する傾向は2023年にも引き継がれているが、「迷惑系YouTuber」と新型コロナウイルス収束の影響が加わっていると見られる。

 

過去のトラブルから“リスクマネジメント”を学んだ外食業界

企業や店舗によって差はあるが、大手の飲食チェーンは、一般に従業員教育、業務のマニュアル化が進んでおり、個人経営の飲食店や家庭での料理と比べても、衛生管理は厳しい傾向がある。

異物混入などの衛生問題は、100%防止することは難しく、発生確率は低くとも、店舗数が多いと一定数は出てきてしまう。そして、大手や有名店であればあるほど、それが動画共有サイトやSNSに投稿されやすく、拡散も起きやすい。

スシローで迷惑動画が投稿されたからといって、「スシローが不衛生」ということはまったくないのだが、拡散した情報によって、消費者はバイアスがかかってしまうのだ。

 

外食・食品企業をめぐる昨今の炎上事件の多くは、企業側の問題よりも、消費者、あるいは消費者を取り巻く情報環境の変化によって起きているといえる。

最近は、YouTuberの競争激化によって、問題行為で注目を集めようとする「迷惑系YouTuber」も存在する中、迷惑行為で注目を集めようとする「一般人」も出てきたというところだろう。

新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の衛生意識は急速に高まったが、感染の収束で人々が外出するようになり、飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている。

一方で、外食・食品業界側は、過去のトラブルの経験から学び、適切なリスク対応が行えるようになっているように見える。実際、直近の10年間を見る限り、消費者の生命や健康を害するような大きな不祥事はほとんどない。

「トラブルを起こさないように最大限の注意を払う」ということが、リスクマネジメントの大前提になるが、企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている。

トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」

トラブルが発生した時の対応策として、重要なポイントは下記の3点だと筆者は考えている。

1. (過剰ともいえるほどの)徹底した対策を講じる
2. 迷惑行為に対しては、厳然たる態度を取る
3. (自社ではなく)「顧客を守る」というスタンスを表明する

まさに、今回のスシローはこのような対応を取り、リスクを最小限にとどめたといえる。

1については、2014年の「ペヤング」の異物混入事件のケースが参考になるだろう。製造元であるまるか食品は、全商品の生産と販売を停止、販売停止中には、社長自身が小売店をお詫び行脚するという対応を行っている。

また2019年の大戸屋のバイトテロ時の対応も印象深い。このとき大戸屋は、従業員の再教育と店舗の清掃を行うとして、全店一斉休業を行っている。

トラブル自体が帳消しにされるわけではないが、企業側が「やりすぎ」と思われるほどの徹底した対応を打ち出し、本気度を示すことによって、顧客に対して「変わった」「これまでと違う」という印象付けをすることが可能になる。

2の「顧客による迷惑行為」については、従来、「企業側にも非はあった(「管理が不適切だった」等)」として、穏便に済まされることも多かった。しかし今、トレンドは変わりつつある。

スシローで迷惑行為を行ったのは高校生だったが、スシロー側は当事者とその保護者の謝罪を受け入れず、民事・刑事で法的措置をとる考えを示した。これまでであれば、「未成年に対して厳しすぎる」という批判も少なからず出たであろうが、今回はそうした意見は主流とはならなかった。

コロナ禍や物価高による苦境の中で、安価で質の高いサービスを行っている飲食チェーンに対して、消費者は同情的になっているし、「支援をしたい」という意識も生まれている。そこを敏感に読み取って対処したスシローの感性は見事だったというほかない。

3については、バイトや顧客などの第三者に非がある場合、企業側があまりに強く被害者だという態度を示しすぎると、「保身では」「企業側の対応も感じが悪い」と思われてしまい、批判を浴びてしまうことがある。

そこは、先述の2の話とも絡むのだが、企業側が「顧客を守る」ために最大限に対応を行っていることも示すことで、批判を回避しやすくなる。

たとえば餃子の王将の調味料の撤去は、顧客にとっては不便なことに違いない。しかし、撤去するのは、「(お店ではなく)迷惑行為を行う客から、ほかの客を守るため」と感じられれば、印象はまったく変わってくる。そうなれば目先の不便について、顧客は「自分のため」と受容しやすくなるだろう。

今後取るべきは、多方面に配慮した「アメとムチ」戦略

上記の「3原則」に加えて、著者がスシローの対応に関して、秀逸だと思ったことがある。それが、2月10日に、迷惑行為に対して「厳正に対処する」とする一方で、当事者に関して「直接的な危害となるような言動はお控えていただくよう伏してお願い申し上げます」という文書を発表している点である。つまり、加害者をひたすらに糾弾するのではなく、一定の配慮も示しているのだ。

実際、迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。

スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている。

SNSでは「#スシローを救いたい」のハッシュタグが拡散、著名人も擁護意見を表明したり、スシローの店舗を訪問して動画共有サイトやSNSにその様子をアップしたりする動きが巻き起こっている。

さらに。スシロー側はそれを受けて、2月13日~17日までの期間限定で「全品10%OFF」のキャンペーンを実施するという対応を行っている。

スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。

スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる。

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コメント: 6
  • #1

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 13:56)

    ハッキリ言ってしまえば、今回の件は高額の賠償請求をするよりも、中額でも良いので迅速な手続きが確立される方が今後の効果は高いでしょうね。
    結局ごく一部のバカッターが捕まるだけで、裁判で数か月、数年とかやっていると、店側も疲労が蓄積されるし、バカッターの中でも捕まる奴が馬鹿なんだと考えるような奴も出てきてしまう。

    要点を簡潔にして、「こういった迷惑行為をしたら○万円の賠償が即請求される」という事例を多く作る事で、店側にも対応の目安を付けれるようにすれば即座に和解案の金額提示もしやすくなり、対応が楽になり検挙率も上がるでしょう。

  • #2

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 13:57)

    今回のような事があっても、賢くない輩がいなくなるわけではないよね。
    むしろ「非常識で不潔な行為はするけど撮影はしない」連中が出てくるかも。
    監視カメラを設置しても、ある程度の抑止効果はあるかもしれないけど、監視カメラって「行為の疑いがあったときに誰が何をしたのか確認して、犯人を特定する」っていうものだから、賢くない輩の行為を止める(行為ができなくなる)わけじゃないからね。
    だから、もう今までのシステム自体変えるしかないのかも。

  • #3

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 13:58)

    日本は礼節の国、恥の文学。そしておくゆかしく、謙虚である。
    ……なんて神話などとうの昔に崩壊しとるよね。

    目立ちたがり、タレント気取り、そんな奴ばっかりになってきた。
    承認欲求??何でそんなもんあるの?目立って良いことなんて何もない。個人的には全く理解出来ない。

    とことん痛め付けて体に覚えさせるしかない。
    徹底的にやらんとダメ。
    大人をなめたらどうなるか、思い知らせてやれば良い。

  • #4

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 13:59)

    完全にテロを無くすには、テーブルの上には何も置かず、座席の案内の時に人数分の湯飲み、はしを渡し、醤油はすべてを個包装にして注文があったときに渡して客が残したものは全て廃棄。がりも同様。レーンの上には商品のメニューだけ流して注文された時だけ商品をお盆にのせて提供する。そこまでいや、それ以上の対応をしないとテロは無くならない。
    でもそうなるともはや回転寿司では無くなってしまう。
    一部のバカな人間のバカな行動でこんな回転寿司にならないようにだけ願いたい。

  • #5

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 14:01)

    刑事事件では軽犯罪
    しかし民事では 株価暴落で実際にスシローの時価総額が100億円以上も
    消えてしまった、その分の損害賠償がいくらで決着するか?
    決着額を公けに公表すれば類似犯罪は減るのではないだろうか?

  • #6

    名無し (土曜日, 18 2月 2023 14:02)

    犯罪は模倣性が強く、軽犯罪であるほどその傾向は強くなる。それを防ぐのは処罰による対処ではなく、伝播性を絶つ事、即ちマスコミによる過度な報道を止める事と、物理的予防、変な事が出来ないようにレイアウトを変更したりコンベアを小分け分離したり人を増やして立たせる等する他ない。
    回転寿司は成り立ちから顧客の善意が必要不可欠なので、こういう事は昔から指摘されてるし、やってる人やってるんだよ。ただ、昨今はSNSが発達して拡散される様になった事が大きく違う。
    各社の対応は然るべきものでいつかはしなければならないものであったと、指摘する専門家や著名人も多い。そもそも喋りながら皿取ってる時点でどれだけ飛沫ついてるんだろうって話でもある。