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トラックドライバーをタダ働きさせる「パレット回収」の闇! カネにならない物流こそ光を当てるべきだ

生産・販売活動に伴う動脈物流に対し、返品や廃棄、リサイクルに係る静脈物流が、SDGsやESG経営・投資の文脈から重視されるようになってきた。

   「動脈物流」「静脈物流」とは?

 モノを作り、あるいは販売するための物流、すなわち生産活動や販売活動に伴って発生する物流は「動脈物流」と呼ばれる。対して、返品や廃棄、リサイクルなどに伴い発生する物流は「静脈物流」と呼ばれる。

 筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)が書いた記事も含め、世に出る物流関係のニュースは、ほとんどが動脈物流に関する記事であり、静脈物流に関する記事はとても少ない。少ないのだが、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)経営・投資などの観点から、最近では静脈物流の重要性が増している。

 静脈物流がなぜ重要なのか。2回に分けて解説する。

     静脈物流が注目される理由

 人間の体内において、酸素や栄養素を体の隅々まで供給する動脈に対し、静脈は二酸化炭素や老廃物を回収し、肺、肝臓、腎臓などに送り届け、再び血液をきれいな状態に戻す役目を担う。

「物流は産業の血液」と呼ばれる。産業において、「酸素」輸送にあたる動脈物流があるように、「産業の老廃物」、すなわち返品や廃棄物を輸送する静脈物流は、健全な経済活動を行う上では欠かせない。

 こういった生産・販売活動に伴う、返品、廃棄、リサイクル、リユースなどの輸送活動が静脈物流である。

 昨今、静脈物流が注目されるのは、SDGsやESG経営・投資など、社会全体が環境意識を高めていることが背景にある。

 SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、「『誰一人取り残さない(leave no one behind)』持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標」と定義されている。掲げられた17のゴールは、必ずしも環境だけを意識したものではなく、経済、社会にもフォーカスした包括的なものとなっている。

 ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス / 管理・統治)の頭文字を取ったものである。

 ESG経営は、ESGの三要素に配慮した経営を指し、ESG投資は投資対象となる企業におけるESGの取り組み具合を投資基準として判断することを指す。

 ESG経営・投資は、財務諸表では表現しきれない、「良い企業」であるべく行っている企業努力に対し、ESGという切り口でフィルタリング、整理整頓し、評価する考え方であると言えよう。

 ただし、SDGs、ESG経営・投資といった観点で判断される、「良い企業である」という指標に対し、公式に認められた定量的評価手法やチェックシートは存在しない。存在しないから、各企業は頭をひねり、「○○のような取り組みを行えば、『社会や環境に配慮した良い企業である』と判断されるのではないだろうか?」と考えられる取り組みを手探りで行っているのが現状である。

 静脈物流も、こういった手探りの「良い企業を目指す」活動の一部に組み込まれることが多い。だからこその問題も生じている。

    静脈物流の課題とは

 動脈物流は生産や販売など、売り上げを生むための活動である。対して、静脈物流で運ばれるモノは、売り上げに直接的には貢献しないことがほとんどだ。売り上げがない、もしくはあってもごく少額であるため、利益はもちろん、輸送にかかるコストすら捻出できないケースが多い。

 これが、静脈物流における最大の課題である。

 例えば、パレットやかご台車、あるいは最近では通い箱(青果を始めとする生鮮食料品から海産物、部品などの工業製品まで幅広く使われている)と総称される使い回しが可能な輸送用の箱は、現在の物流には必須である。

 これらは配達先で貨物を卸され、あるいは開梱(かいこん)された後、再び出荷元へ戻されることになる。これが厄介なのだ。

「僕ばっかりパレット回収を押し付けられるって…。どう考えても不公平ですよね」。ある運送会社で聞いた愚痴である。

 配送をするたびにたまったパレット回収をすれば良いようなものだが、現実にはその後の配送、あるいは集荷の予定次第で、パレット回収ができないケースも少なくない。おのずと配達先には、空になったパレットがたまり、誰かがまとめて回収しに行くことになる。

 問題は、パレット回収に対して、歩合がつかないことである。この運送会社では、運賃の数%を歩合としてトラックドライバーに支給していたが、パレット回収には歩合がつかない。理由は運賃がもらえないからである。

もちろん、パレット回収に運賃を支払う荷主もゼロではない。だが多くの荷主は、「配達のついでにパレット回収してくださいよ」と運送会社にお願いし、運送会社側もそれを了承する。こうして、パレット回収という静脈物流が、タダ働き化(あるいは燃料代も出ないような低運賃化)するわけだ。

 燃料代や高速代をパレット回収に支出せざるをえない運送会社も災難だが、そのタダ働きを押し付けられるドライバーもかわいそうだ。こういった割に合わない仕事は、どうしても立場の弱い新人や、文句の言えないドライバーに偏りがちになる。

 SDGsやESG経営・投資の文脈で考えたとき、ワンウェイの使い捨て輸送資材ではなく、パレットや通い箱といった何度も使える輸送資材を使うのは正しい。

 だが、回収プロセスを適切に組み上げないと、無駄なコストを発生させたり、あるいは運送会社の犠牲行為を前提としたものになったりする。

     リサイクルやリユースにおける静脈物流

 

同じ容器包装ごみでも、紙パックやダンボール、アルミ缶・スチール缶は資源価値が高く有価で買い取ってもらえるが、ペットボトル、プラ包装容器、ガラスびんなどは、お金を払わないとリサイクルできない(画像:日本容器包装リサイクル協会)

 さらに悩ましいのは、廃棄やリサイクル、リユースなどに伴う輸送活動である。端的に言うと、同じごみでも、焼却処分するもの、リサイクルやリユースができるものの資源価値が高いものと低いものがあるからである。

 1997年に施行された容器包装リサイクル法では、分別収集および再商品化(リサイクル)の対象として以下を挙げている。

1.ペットボトル
2.プラスチック製容器包装
3.ガラスびん
4.紙製容器包装
5.紙パック
6.ダンボール
7.アルミ缶
8.スチール缶

このうち、資源価値が高く、買い取りをしてもらえるのは、5~8である。それ以外は、資源価値が低く、対価を払わないとリサイクルできない。

 ちなみに、(企業ではなく)個人が排出する上記ごみについては、容器メーカーや商品メーカーなどが収集およびリサイクルのためのコスト(再商品化委託料金)を供出し、それを公益財団法人日本容器包装リサイクル協会が、市区町村と再商品化事業者に再分配し、リサイクルしている。

 企業が排出する事業ごみや不用品の場合、廃棄・リサイクル・リユースにかかる費用は、原則企業自身が負担する必要がある。厄介なのは、その手配であり、采配である。

    「すべて廃棄」はNGへ

 「下手にリサイクルするよりも、すべて廃棄したほうがコストは安くつくよね」という声がある。もちろん、そういう面もあるだろう。

 製品製造に伴って生じた端材や規格外品などをリサイクルするケースでも、金属製品のメーカーでは、有価で買い取ってもらえる可能性が高いが、プラスチック製品の製造メーカーでは、逆に対価を支払わなければならない可能性が高い。

 だったらすべて廃棄した方がコストメリットはあるのだが、そうは問屋が卸さない。

・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%削減
・2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
・2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル

 これは、2022年4月1日に施行されたプラスチック資源循環促進法(通称、プラ新法)で掲げられた、6つの中間目標(マイルストーン)のうちの3つである。

 もちろん、SDGsやESG経営・投資の観点からも、安易な廃棄処分は問題となる。

 「リサイクルするために対価を支払い、さらにごみを運ぶための輸送にも運賃を支払わなければならないのか」。これが今、企業に突きつけられた現実であり、静脈物流の課題である。

 次回の記事では、この課題をクリアした静脈物流の事例を紹介しよう。

坂田良平(物流ジャーナリスト)

Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載『日本の物流現場から』(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。