【【日本製紙】主力の紙・パが大幅な赤字転落、海外展開で出遅れ国内はジリ貧】

2011年春の東日本大震災で、石巻工場が壊滅的な打撃を受けたにもかかわらず、奇跡の復活を遂げた日本製紙。だが、今では業界全体の地盤沈下が進む中で、業績回復と信用回復の二つの難題に直面する。
 長らく苦境にあえいでいた製紙業界ではあったが、この夏の期間だけは少々胸をなで下ろしたことだろう。

 今年8月10日に出そろった製紙大手5社の第1四半期決算(2018年4~6月期)では、全メーカーが増収を果たしたのだ。最大手の王子ホールディングス(HD)が連結売上高3791億円(8.0%増)、2番手の日本製紙が2608億円(2.0%増)、段ボールが中心のレンゴーが1595億円(9.2%増)、大王製紙が1288億円(3.2%増)、北越コーポレーションが683億円(1.7%増)となった。

 総じて、折からの原燃料価格の高騰が一段落し、製品の値上げも進んだ。さらに、北越以外はインターネット通販の需要拡大により、段ボール関連の受注が好調で採算が大幅に改善することになった。

 ところが、四半期純利益に目を転じると、日本製紙のみが“独り負け”で、青息吐息が続く実態が浮き彫りになる。国内2強で比べると、中国や東南アジアなどの海外事業が伸びた王子HDが172億円(213%増)だったのに対し、日本製紙は65億円の赤字(前年同期は55億円の黒字)だった。

 日本製紙では、今年5月28日に発表した「第6次中期経営計画」において、主力の洋紙部門で全社の設備能力を18%削減するという大規模構造改革計画をぶち上げた。だが、業界関係者は「想定の範囲内」と受け止めたばかりか、市場関係者は「成長シナリオの想定が楽観的過ぎる」などと酷評した。

 5月の会見では、苦渋に満ちた表情を浮かべた野沢徹取締役が、「新聞用紙や印刷用紙の需要が想定以上に減った」と説明したが、過去5回の中計が全て未達に終わっている以上、前途は多難である。

 大規模構造改革計画で数百億円規模の減損損失を計上することが予定されるため、通期予想では純利益が7期ぶりに180億円の赤字(前年同期は78億円の黒字)に転落する見込みだ。

 こうした苦境の背景には、確かに想定以上の速さで国内需要が減退していることがある。業界団体の日本製紙連合会の調べでは、08年秋のリーマンショック以前には年間の総出荷量が3000万トンを超えていた紙・板紙だが、翌09年には2600万トンに急減した。その後も需要は戻らず、10年後の今も2600万トン前後で推移する。
 端的に言えば、広告需要の減少が大きく影響したのだ。例えば、新聞の購読部数が減っていることに加え、地域の自動車販売店などのカラーの折り込みチラシの数量が減っている。さらに、出版業界でも厳しい局面が続いていることから、18年は2600万トンの水準を下回ると予測されている。

● セグメントを変えて見え方は変わったが 根本的な問題が残る

 日本製紙は、非常に厳しい状況にある。まず、連結売上高が1兆0464億円もありながら、営業利益は176億円という水準だ。かねて製紙業界は、価格競争が激しいことから利益水準が低いと説明されてきたが、実際に今でもその構造は変わらない。

 例えば、17年度のセグメント別の売上高と営業利益を前期の実績と比較すると、目先の売上高は伸びていても、営業利益は紙器などの紙関連事業を除けばマイナス成長である。とりわけ、本丸である洋紙を含む紙・パルプ事業の営業利益は70%の激減なのだ。

 次に、この紙・パルプ事業だけを抜き出して経年で見れば、営業利益は坂道を転げ落ちるように凋落の一途をたどっている。

 この体たらくを、業界歴の長いある古参幹部は、日本製紙の営業姿勢に根本的な問題があると指摘する。「洋紙ではトップの日本製紙だが、自ら値下げ攻勢に出ることで、さらなる価格競争を引き起こしていた。要するに、自分の首を絞めていただけ」という。正(まさ)しく、貧すれば鈍するという展開だ。

 もっとも、日本製紙は18年度よりセグメントを変える。17年度の営業利益176億円を組み直せば、(1)紙・板紙事業(▲55億円)、(2)生活関連事業(119億円)、(3)エネルギー事業(39億円)、(4)木材・建材・土木関連事業(45億円)、(5)その他事業(28億円)と、印象がガラリと変わる。

 その流れに沿って、日本製紙は第6次中計で20年度までの計画を掲げた。競合の王子HDの海外売上高比率は31%(17年度)であり、将来的には50%を目指す。一方で、日本製紙は17%(同)。20年度に19%ならば、ほぼ国内だけで成長する前提になる。

 振り返れば、11年春の東日本大震災で洋紙の基幹拠点である石巻工場(宮城県)が浸水などで壊滅的な打撃を受けたことから、日本製紙は海外展開に出遅れたという事情がある。また、業界内で最も先行する植物由来の新素材・セルロースナノファイバーの商用化は、あと10年はかかると目されているだけに、なかなか霧は晴れない。

 今後3年間で、日本製紙が業績を好転させられず、さらに中計の未達も6回目となれば、国内市場を丸ごと失ってもおかしくない。

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コメント: 7
  • #1

    さとる (金曜日, 14 9月 2018 09:06)

    日本製紙の様な大手企業でも業績不振で先が見えないとは情けない経営陣ですね。
    個人企業でも勝ち組は、従業員には不安を抱かせない立派な経営者も多数存在するのに。

  • #2

    通りすがりの名無し (金曜日, 14 9月 2018 09:14)

    士農工商段ボールとか言われてたからなw
    製紙でも一番下等な扱いだった
    それが今や圧倒的な稼ぎ頭で花形の中の花形だからな
    世の中わからん

  • #3

    テッシュ王子 (金曜日, 14 9月 2018 09:16)

    大丈夫だ、トイレットペーパーの需要はじゅうぶんある。
    ペーパーレスと騒いでも、ケツ拭くのだけはなくならん。
    現代でもトイレットペーパーでケツ拭いてるのは全人類の3、4割程度。

  • #4

    名無し (金曜日, 14 9月 2018 09:18)

    古紙は今年になって中国の環境対応のせいで実勢価格がかなり下がってるから
    製紙会社には余計に美味しいのだよ。
    去年の古紙価格の爆上け分は全部価格転嫁に成功したのに
    その古紙が密かに下がってるもんだからこれは丸儲けだわさー。

  • #5

    馬鹿息子 (金曜日, 14 9月 2018 09:22)

    大王のカジノでとかしてた人が
    書いてたな 。
    莫大な設備投資して薄利多売で
    数年どころか数十年でやっとこさ回収
    いずれ合併不可避とか。

  • #6

    どさんこ (金曜日, 14 9月 2018 09:24)

    明治の根室工場
    JXTGの室蘭工場
    マルハの宗谷工場
    ノースデリカ(日糧)函館工場
    そして日本製紙
    北海道から工業は消えていく運命か!

  • #7

    業界 1人勝ち! (金曜日, 14 9月 2018 09:26)

    王子は紀州製紙の買収をつぶされて以降海外シフトを進めてきたので、
    他と比べると圧倒的だな。