< ゆっくりのススメ >青空と向日葵の会

アメリカの女性、エリザベス・トーヴァ・ベイリーさんは、

34歳のときに、という原因不明の難病を発症。...
体がだるくなり、筋肉も動かない。そして、治療の甲斐なく、
ベッドに寝たきりになってしまったのです。


突然、ベイリーさんを襲った病。なんで私にこんなことが……。
友人たちは毎日を楽しく過ごしているのに、
いまや彼女にできることは、
ただひたすら毎日ベッドで寝ているだけ。
目の前にあるのは絶望……。

そんなある日、ベイリーさんが療養している部屋に、
友人が森で見つけた1匹のカタツムリを連れてきたのです。

野生のスミレを鉢にいれて、カタツムリをスミレの葉にとまらせて。

鉢がベッドの脇に置かれると、
カタツムリはゆっくりとスミレの鉢の側面を這い降りていきます。
触角をそっとゆらしながら……。
そのゆったりとしたペースは、どこか浮世離れして見えたそうです。

カタツムリは夜行性だから、深夜に活動を始めます。
彼女はカタツムリの動きをこう描写しています。

「毎晩、目を醒したカタツムリは、
 感嘆するほど悠然とした物腰で動き始める。
 まず鉢の縁まで優雅に移動し、
 そこから前方に広がる異郷を眺めまわす。

 まるで城塞の砲塔に立つ城主のように
 悠然と周囲を見まわしながら、
 触覚を左右に動かす。
 それはあたかも遠方でかすかに聞こえる
 メロデイに反応しているかのようだった」


カタツムリの好奇心や優雅な動きに接するうちに、
その平和で孤独な世界に彼女はますます引き込まれていったのです。


「わたしの焦燥感はいつしか薄らいでいった。
 日中寝ているのはわたしだけではないのだ。
 どんなに晴朗な、仕事にうってつけの午後でも、
 カタツムリは堂々と眠っている。
 それを眺めていると、
 ああ、ここにわたしの同僚がいるという思いに癒されて、
 自分は役立たずの動物なのだという切なさもしばし薄らぐのだ」


私は生きていていいんだ……


私は生きていていいんだ……


私は生きていていいんだ……


彼女の心をギリギリのところで救ってくれたのはカタツムリでした。


「自分とは別の生き物が暮らしてる様子を見守るうちに……
 わたしにも生きる目的が生まれたのです。
 もし生きることがカタツムリにとって意味があり、
 そのカタツムリがわたしにとって意味があるのなら、
 わたしが生きることも意味があるに違いない」

こうして彼女の体は次第に回復に向かい、
カタツムリとの生活をまとめた「カタツムリが食べる音」
という本を出版しました。
この本は、ウィリアム・サローヤン国際賞を受賞し、
世界じゅうで翻訳されています。


カタツムリを、ぜひ、あなたの友人に加えてください。