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辰吉丈一郎「人生において、好きなことは一つでいい。僕の取り柄はボクシングしかない」

当時、史上最速で世界王座を獲得。その後も3度の戴冠を果たしたプロボクサー、辰吉丈一郎。一時は網膜剥離により引退を勧告されたものの劇的KOで復活を果たし、今なお現役ボクサーとしてベルトを追い求め続ける。45歳になった“浪速のジョー”は、なぜ引退しないのか?ボクシングに人生のすべてを賭けた“男の美学”に迫った――

 ボクサー・辰吉丈一郎を20年間追いかけたドキュメンタリー映画『ジョーのあした-辰吉丈一郎との20年-』が公開される。ボクシング界の伝説を紡いできた男も、今や45歳。映画では、原則的に37歳とされる日本人ボクサーの“定年”をすぎても現役にこだわる辰吉丈一郎の思いが、インタビューによって引き出されていく。幾度となくぶつけられたであろう「なぜ辞めないのか?」という問いかけ。だからこそSPA!もまた、ストレートな疑問を本人にぶつけてみた。こぼれ落ちた言葉のすべてに、辰吉丈一郎印が刻まれていた。

――当時の国内最短記録の8戦目で世界王者となり、その後も伝説をつくります。ところが45歳の今も現役であり引退はしないと。世間からは「もう十分だろ」との声も届いていると思うのですが?

辰吉:まがいものというのか、ひねくれているというのか。……デビューの頃から僕は、普通が嫌やったんですよ。プロテストも普通はC級から受けるんですけどB級からだったし、具志堅さんが9戦目で世界を獲っていたからそれよりも絶対早くチャンピオンになりたかったし。そういう意味では、確かに引退に関しても普通ではないのかもしれない。でも、僕にとっては、ボクシングが生活の一部なんです。

――ボクシングを憎んだことは?

辰吉:ないです。

――ボクシングに愛されているとは思いますか?

辰吉:愛されてる? そんなドあつかましい考えはないけど、ボクシングに出合えたことは本当にありがたいと思ってる。だって、辰吉丈一郎の名を知ってもらえたのはボクシングのおかげですから。

――ではなぜ、辰吉さんは「天才」という言葉を嫌うのでしょう?

辰吉:そんな軽い言葉で片付けられたら、えげつなく努力したことを無にされますやん。例えば、世界最短記録で2階級制覇をした井上尚弥君。彼にしても天才と語られることが多いと思うけど、その陰でどんだけの努力と苦労があるか。なのに、マスコミや世間は天才のひとことで片付ける。軽い。ボクサーに失礼。だから嫌い。

――井上尚弥は辰吉さんから見ても強いですか?

辰吉:だって、高校生初のアマチュア7冠でしょ? そんなもん普通の努力じゃありえない。あのコはめちゃくちゃ強いよ! 今後どこまでのぼってくんやろというすごみすらある。田中恒成君も、井岡一翔君も、最近注目されている若手ボクサーは、みんなすごい。

――人生、好きなことだけして生きていけるんですかね? 天才と同じく軽い言葉かもしれませんが、辰吉さんは人生を好きなように生きているようにみえます。

辰吉:いや、僕もね、100%全肯定で、しんどくてつらいボクサーを続けているわけではないんで。サラリーマンの方には失礼な言い方かもしれないけど、そりゃあ僕だって、朝仕事に出かけて安定した給料をもらって家族がいて……みたいな生活をしてみたいことはしてみたいですよ。楽やもん。でも、僕の性格上、楽な人生は飽きてしまう。で、結果、こうなると(笑)。5歳から続けてるわけやから好きなのは間違いないけど、仕事としては取り柄を生かしているともいえる。僕の取り柄は、ボクシングしかないから。

――ということは、もし今の仕事に悩みを抱えている読者がいるとしたら、好きだったり、やりたいことがあるか否かが一番重要だと?

辰吉:いや、逆やと思う。今の時代、みんな、やりたいことがありすぎるんやと思う。あれやりたい、これしたい。あれも好き、これも好きって、選択肢が多すぎる気がする。例えば好きなことが3つあるとしたらそれは本当の好きじゃない。ほんまに好きやったらひとつで十分。例えば、好きな女ができました。3人おります。「ウソつけ!」ってなるやん。めっちゃ結婚したい人が2人いますと言われても、「なんでやねん!」ってなるでしょ?

※このインタビューは週刊SPA!3/1号のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

<取材・文/唐澤和也 撮影/ヤナガワゴーッ!>

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コメント: 2
  • #1

    (土曜日, 12 3月 2016 18:37)

    また、渥美ボクシングジムで、スパーリング見せて下さい。応援してます。

  • #2

    産廃番長。 (木曜日, 24 3月 2016 10:33)

    好きなことはひとつ。好きな女もひとり。当たり前の事が当たり前の様に出来ないヤツが今の世の中に多すぎるから、俺達みたいなヤツが目立ち過ぎて、厄介者扱いされる。嫌な世の中だ。