生レバー刺しの復活なるか? 放射線照射で殺菌効果を確認 難点は硫黄系の甘い臭気…


 飲食店で生食用としての提供が平成24年、禁止された牛のレバー(肝臓)。安全に食べる方法として、レバー内部の殺菌方法を検証している厚生労働省研究班の報告書が来春にもまとまる見込みだ。「レバ刺し」ファンの期待は高まるが、果たして結果は-。(平沢裕子)

■塩素、高圧はNG

 牛レバーの生食提供は、5人が死亡した23年の焼き肉店の食中毒事件を契機に、24年7月に食品衛生法の規格基準で禁止された。ただし、厚生労働省は「レバー内部を殺菌でき、安全性を確保する方法が確認できれば、規制の是非を再度検討する」としている。つまり、レバー内部を殺菌できる方法があれば、再び生レバーを食べることができるようになるわけだ。

 レバ刺し禁止による食肉関連業界への経済的影響は百数十億円とも試算され、業界関係者からは1日も早い禁止解除が望まれている。こうしたことから厚労省は24年に国立医薬品食品衛生研究所などの研究者らによる研究班を設置、殺菌効果を確認する研究を行ってきた。

 殺菌方法として検討されているのは、塩素系消毒薬(次亜塩素酸ソーダ)▽高圧処理▽放射線(ガンマ線)照射-の3つの方法。このうち、塩素系消毒薬は殺菌効果にばらつきがあり、レバー内部をしっかり殺菌できないことが判明。また、高圧処理は殺菌効果は十分あるが、処理後にレバーの色が抜けたり硬くなったりする変化が見られ、生食のための殺菌方法とするのは厳しそうだ。

■においが違う

 残る放射線照射はどうか。担当した研究者は「一定の効果はあります」とする。ただし、2つの問題がある。1つは照射線量で、殺菌のために7キログレイが必要とされ、当初考えていたより高い線量でないと殺菌が難しいことだ。もう1つの問題はにおい。照射したレバーは、照射しないレバーには感じられないにおいがあり、25年度の報告書では「硫黄系の甘い臭気」と表現されている。

 照射線量の7キログレイは、米国で食肉殺菌のために許可されている上限の線量でもある。食品の規格を決める国際機関「コーデックス委員会」が定める線量の上限は原則10キログレイ(正当な必要性があればそれ以上も可)で、世界的にみれば7キログレイは実用化に問題のある線量というわけではない。ただ、線量が多いことによりレバーが変質、その結果として独特のにおいができるともいえる。

 このにおいをどう考えるかは、人によって感じ方が違うこともあり、判断が分かれるところだ。ただ、牛レバーの生食の代表的料理といえる「レバ刺し」は、ニンニクとショウガの入ったしょうゆや、たれなどで食べるもの。若干の臭気を感じるぐらいでも食べたいという人はいるのではないだろうか。

■照射施設どうする

 この研究は27年度までの事業ということもあり、最終的な報告書は来年3月ごろにまとまるとみられる。殺菌方法がみつかったのだから、「来年4月からレバ刺し解禁」といきたいところだが、そう簡単ではない。

 厚労省基準審査課は「放射線照射による殺菌法が実用化できる技術なのか、照射した食品が本当に安全に食べられるものなのかなど、さらに検討する必要がある」とする。

 厚労省が実用化のネックとする理由の一つとして、肉を照射するための施設が国内にないことがある。北海道にある日本で唯一の食品照射のための施設は、ジャガイモの芽止めを目的とするもので、線量の違いや北海道という立地を考えると、生レバーの殺菌のために使うのは難しい。

 ただ、国内には注射針や生理用品などの殺菌・滅菌のための照射施設がある。そうした施設の中には、チャンスがあれば食品への照射をしたいというところもあるといい、必ずしも新しい施設が必要なわけではなさそうだ。

 食品への照射をテーマに食の問題に取り組んでいる消費者グループ「食のコミュニケーション円卓会議」の市川まりこ代表は「放射線照射は、食品の安全を守る技術の一つとして世界で認められている。照射によってレバー内部の殺菌が可能ならば、消費者の選択肢の一つとなるよう技術を認めるべきではないか」と話している。

最終更新:12月5日(土)18時2分

産経新聞