大阪市の入れ墨調査は「違法」 拒否した職員の懲戒取り消し 大阪地裁

大阪市の入れ墨調査に対する回答拒否を理由に戒告処分を受けた市交通局職員の安田匡(ただす)さん(56)が、処分の取り消しなどを求めた2件の訴訟の判決が17日、大阪地裁であった。中垣内(なかがいと)健治裁判長は入れ墨調査について「必要で正当性もあった」とする一方、市の個人情報保護条例に違反すると判断し、処分を取り消した。また、最初の提訴を理由とした配置転換も取り消し、市に110万円の賠償を命じた。

 入れ墨調査をめぐっては市が回答を拒んだ安田さんを含む6人を戒告処分とし、4人が市人事委員会に不服を申し立てている。残る1人は同地裁で係争中。

 原告側は訴訟で、調査について「憲法が保障するプライバシー権を侵害している」と主張したが、中垣内裁判長は「調査の必要性はあり、目的も正当だった」と違憲性を否定。ただ、社会的差別の原因となる恐れがある個人情報の収集を原則的に禁じた市個人情報保護条例には違反すると指摘した。

 また、市バス運転手だった安田さんに内勤を命じた配置転換について「原告の裁判を受ける権利を侵害する不当な目的があった」と違法性を認めた。

 判決などによると、市は平成24年5月、橋下徹市長の指示で、市教委所管の教員らを除く約3万3500人に記名式の調査を実施。手足や頭部など人目に触れる部位に入れ墨があるかを回答するよう義務づけた。

 安田さんは入れ墨がなかったが、「プライバシー権の侵害」を理由に回答を拒否。さらに、戒告処分を受けた後の同年10月に処分取り消しを求めて訴訟を起こした上、藤本昌信交通局長から直々に提訴の取り下げを要求されたが従わず、同年12月に運輸課での内勤を命じられた。

 藤本局長は「判決内容を精査し対応を検討したい」とのコメントを出した。

「最高裁の判断仰ぎたい」橋下氏、入れ墨調査敗訴で控訴へ

橋下徹大阪市長が主導して実施した入れ墨調査を違法とした大阪地裁の判決について、橋下市長は18日、「司法の判断は重く受け止めるが、最高裁の判断を仰ぎたい」と控訴する方針を示した。橋下市長は「多くの市民から(入れ墨について)苦情があったのも確か」と調査の必要性を改めて強調。「最高裁の判断には従う」と述べた。

 大阪地裁は17日の判決で入れ墨調査について「必要で正当性もあった」とする一方、市の個人情報保護条例に違反すると判断。入れ墨調査の回答を拒否したことを理由とする戒告処分などを取り消し、市に110万円の賠償を命じた。

<大阪市・入れ墨判決>あなたはどうみる「公務員の入れ墨」

 ◇職員への入れ墨調査、裁判所は「行き過ぎ」と判断

 プライバシー重視か市民の不安払拭(ふっしょく)か--。職員に入れ墨の有無の回答を義務付けた大阪市の調査について裁判所は行き過ぎと判断し、「橋下流」の強権的な手法に異を唱えた。ただ、入れ墨は見た人に恐怖感を与える可能性があり、大阪市には職員の入れ墨に苦情が寄せられたこともあるという。「公務員の入れ墨」を巡る議論は続きそうだ。【堀江拓哉、服部陽】

 「やってはいけない調査だと司法が判断してくれた」

 大阪市内で記者会見した原告の安田匡(ただす)さん(56)はほっとした表情を見せた。弁護団の小谷成美弁護士(大阪弁護士会)も「大きな勝利だ。市は調査で集めた個人情報を廃棄すべきだ」と訴えた。

 安田さんは1991年にバス運転手として市に採用された。体に入れ墨はなく、市が調査で回答を義務付けた人目に触れる部分にもないことは上司にも確認してもらった。ただ、橋下徹市長の手法に疑問を感じ、回答を拒んで処分を受けた。

 処分の取り消しを求めて提訴したが、その2日後に藤本昌信交通局長に呼び出され、「社長を訴える時は腹くくらなあかん」と言われ、取り下げを求められたという。そして、バスの運行管理などをする交通局運輸課に配置転換となった。当初は仕事もなく、パソコン入力やコピー取りなどの雑用係だった。

 安田さんは「定年退職まで4年余り。運転手として仲間の元に戻り、職務を全うしたい」と判決を喜んだ。

 入れ墨調査のきっかけは2012年2月末の一部の新聞報道だった。市立児童福祉施設で男性職員が入れ墨を子どもに見せながら威圧したという内容だ。

 後にこの報道は正確でないことがわかったが、市民からこの報道に基づく抗議電話が相次いだ。橋下市長はすぐに動いた。入れ墨を禁止する規則の検討を担当部局に指示し、こう報道陣に語った。

 「職員が入れ墨をしているという報告が結構ある。採用後に入れ墨をした職員もいる。普通そんな職場はない。税金で飯を食う立場になっているのに狂っている。市民から信頼されない組織になる」

 そして教職員を除く全職員約3万3500人を対象に5月1日から入れ墨調査を始めた。その結果、114人が入れ墨があると答え、99人は人目に触れる部分に入れ墨があった。114人の大半は清掃作業やごみ収集を担当する現業職だった。所属は環境局の75人が最多で、うち半数は採用後に入れ墨をしたという。

 また、市教委も教職員約1万7000人に自己申告を求めた。10人が入れ墨があると申し出て、そのうち2人は人目に触れる可能性があったという。

 ◇公務員の入れ墨 感じ方は時代や人で異なるのでは

 精神科医の香山リカさんの話 公務員の入れ墨をどう感じるかは時代や人によって異なるのではないか。昔は医師や看護師でピアスをする人がいなかったようにファッションへの意識は時代と共に変わる。もし不快に思う人がいるなら隠したらいいだけだ。公務員は良識に従って仕事しているのだから、職場ごとの自主的な対応で十分可能だ。市をあげて調査したり、入れ墨禁止をルール化したりするのでは、市民は逆に大阪市を不安に思うだろうし、不毛だ。

 ◇見える場所の入れ墨 公務員の適性には疑問

 名古屋大の大屋雄裕教授(法哲学)の話 入れ墨が反社会的勢力との関連をうかがわせる意味を持ってきたのは事実。それを知りながら、人から見える場所に入れ墨をしている人間が公務員として適性があるかは疑問だ。大阪市の調査はやむを得ないし、対象を人目に触れる可能性がある場所に限っており、プライバシーや人権に配慮したものだ。今回は裁判所に条例違反を指摘されたが、調査のための条例を作るなどして対応すれば良かった。

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    今井 斉藤 (金曜日, 19 12月 2014 15:05)

    刺青は、悪いことですか?自由でしょ?